『出版機構の進化と原稿料についての総合的研究』
 課題番号 18320041 
 平成18年度〜20年度 科学研究費補助金
研究種目 基盤研究(B)
研究成果報告書
研究代表者 市古夏生
(お茶の水女子大学院 人間文化創成科学研究科教授)

               平成21年3月・お茶の水女子大学発行
               A4判・132頁、非売品


目    次


◆	はじめに …………………………………………… 市古夏生 ……   4
          
01 原稿料とは何か――その問いの意味するところ――
     …………………………………………… 菅 聡子 ………   6

02 江戸後期の出板事情 ………………………… 佐藤至子 ……  12

03 〈婦人記者〉の仕事と賃金 ………………… 藤本 恵 ……  19

04 室生犀星が描いた原稿料――出版文化の基礎的研究・その二――
     …………………………………………… 谷口幸代 ………  24

05 「文章を売ること」――昭和十年代、中野重治の原稿料――
     …………………………………………… 竹内栄美子 ……  31

06 三島由紀夫の原稿料――「会計日記」から
  戦後の作家的出発を視る―― ………………… 武内佳代 ……  38

07 大正期における岩野泡鳴の原稿料 ………… 市古夏生 ……  41

◆原稿料史年表稿――17世紀〜20世紀――
           市古夏生・菅 聡子・佐藤至子
           竹内栄美子・谷口幸代・藤本 恵
           協力 浅井 清 ………………………………  46

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(2)目的 
     
出版業者と文筆家との間に介在する関係を、時代の経済的・社会的・政治的関係を
背景に、歴史的・総合的研究をめざすものである。近世から近現代にかけて出版文
化が開花しめざましい成長を遂げるに従い、出版業者と文筆家の人間的文学的関係
は大きく変化してきた。近世では著者側からみれば、報酬の不分明な近世初期、写
本料という名目で支払われた近世の元禄期から近世中期まで、さらに潤筆料という
対価が支払われる近世後期への移行となる。また業者側からみれば、出版権のない
時期から元禄年間に大きな版権を獲得した時期への移行があった。
近代では近世社会の慣習を受けて、原稿料制度はあったが、西欧の影響下に明治2
0年前後には印税制度の萌芽をみる。新たに著作権の概念も導入され、業者の版権
との関係をめぐってトラブルが頻発した。版権、著作権、そして報酬や原稿料、印
税などの出版文化をめぐる社会的・経済的な環境が整備され、初めて文筆家は自立
し職業として成り立つことになる。
そこで本研究では、近世から近現代に至るまで、以上の諸制度と報酬との関係を軸
に関連する多大な資料を蒐集して、版権及び著作権の関わりに留意しつつ、出版者・
出版社の関係資料及び文筆家の自伝・日記・書翰などの関連資料の蒐集と検討によっ
て、近世から昭和の近現代までの報酬、原稿料、印税の変遷を捉え、原稿料及び印
税と文筆家の関係を分析し、原稿料の様相と印税制度の定着、作家の経済的自立な
どの諸課題を明らかにすることを目的とした。

(4)成果  

本研究のキーワードを原稿料(潤筆料)、印税、出版権(版権)、著作権、出版機
構に設定した。原稿料・印税を中心にして、その背景にある出版権、著作権、出版
機構関係の資料も収集して、一覧できるような基礎資料を作成し、その上で作家へ
の報酬、書物製作の問題などの分析を行うこととした。根本資料の発掘、我々が調
査に及んでいない活字資料の精査、既知の資料の確認・整理だけでもかなりの時間
が取られ、資料から採集された厖大なデータを入力した。そのデータは4350項
目程度になり、研究の基礎資料として十分に有用なものと判断されたので、本報告
書に掲載することとした。しかしながら紙数の関係ですべてを掲載することは無理
と判明し、そこで四分の一程度を公表することにした。いずれ関心のある方にすべ
てを見やすい形で提供したいと考えている。基礎資料を基にて研究分担者、協力者
に論文を執筆していただいた。
なお報告書に収載の論文は、共同研究者には1点のみをお願いしている。それ以外
の成果は他の雑誌等への公表を予定していることをお断りしておく。



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