『近世の語彙表記』
         坂梨 隆三 著

                   平成16年2月20日・・武蔵野書院発行
                   A5判,520頁,定価15000円+税

   目  次

1 近松の四つがな……………………………………………………………………   1
2 接尾語「ずくめ」の仮名遣………………………………………………………  31
3 曾根崎心中の「は」と「わ」―――その仮名遣と仮名の字体―――………  37
4 曾根崎心中の「い・ひ・ゐ」……………………………………………………  67
5 曾根崎心中の「う・ふ・む」……………………………………………………  91
6 「ふ」を「ム」とよむこと―――付、「は・ひ・へ・ほ」の場合――…… 109
7 「ふ」を「ム」とよむこと―――浄瑠璃本の場合―――…………………… 129
8 曾根崎心中の「え・へ・ゑ」…………………………………………………… 149
9 曾根崎心中の「お・ほ・を」…………………………………………………… 169
10 堀川波鼓の表記…………………………………………………………………… 191
11 浄瑠璃本の半濁音符……………………………………………………………… 211
12 かなづかいの変遷………………………………………………………………… 239
13 三馬の白圏………………………………………………………………………… 253
14 江戸期戯作の片仮名……………………………………………………………… 281
15 近世のカとクワ ―――擬声語の場合―――…………………………………… 299
16 明恵上人伝記の表記・文体……………………………………………………… 319
17 平家物語の「さぶらふ」………………………………………………………… 347
18 下学集で「日本俗」などの注記のある語二、三……………………………… 367
19 アンドンとアンドウ……………………………………………………………… 387
20 『ヅーフハルマ』の方言 一…………………………………………………… 413
21 『ヅーフハルマ』の方言 二…………………………………………………… 435
22 『ヅーフハルマ』の方言 三…………………………………………………… 459
23 ベッドとベット…………………………………………………………………… 483
24 最近の外来語のアクセント……………………………………………………… 495

  初出一覧…………………………………………………………………………… 503
  あとがき…………………………………………………………………………… 505
  索  引…………………………………………………………………………… 507

 あ と が き

 本書には、近世を中心とした表記や語彙に関するものいくつかと、そのほか、いわゆる
論文というものでもない雑多なものをいくつか収めている。
 もともと、こういったものを出すということは考えたことがなかった。出せば二度恥を
かくことになる。学生時代に国語研究室で聞いていたことばの一つに、橋本先生は簡単に
本を出そうとはされなかったということがあり、そういう方にしてそうなのかと思ったこ
となども頭の片隅にはあったような気がする。事実広く見渡してみると、出してほしいと
思うような方で、なかなか出さない方があった。しかし、本が出されればその都度、その
著者に対しては、尊敬の念を抱いてきたものである。
 もう十数年以上も前から、新たに少し書き加えて近松関係のものをまとめるようにと、
その構成・書名までをも示して勧めて下さる先生もあった。しかし、当時は、自分が本を
出すなどということは全く念頭になく、それはまた大それたことのように思われて、その
有り難い言葉をまともにきくことができなかった。旧知のある出版社からも本を出さない
かという丁重な手紙を頂いたことがある。そのころはそのような有り難い言葉も何か冗談
を言われているような気がして、とうとう返事もさしあげないままに失礼なことをしてし
まった。
 そうして一方、身の怠慢故に何やら肩身の狭い思いもしてきたものである。そして、数
年前のこと、中味はともかく、かさだけなら一冊の本にはなるかもしれないと思ったとき
に少しは気が楽になったような気がした。
 先年、集中講義に呼ばれて出かけるときに、これまで書いた抜刷等をいくつか持ってい
こうとして、それがなかなか探し出せないことがあった。そんなときに、ただ、自分自身
の備忘のためにまとめたものがあればと密かに思ったことがある。
 そうして定年を迎える頃になり、論文集のようなものを出すことを強く、上手に勧めて
くださる方があった。定年時になると気持にも揺らぎが生じるものらしい。かつてはこれ
までのものをまとめるくらいなら、新しい用例でも探した方がよいというような気持ちも
あったのである。よく言われる、研究を世に問うといったものではなく、一つの区切りに
それもいいかと思うようになった。こういうものでさえもこれからあまり書くこともない
かもしれないという気もある。
 それならば語法関係のものと表記関係のものを一冊ずつくらいにしたらどうかと思った
のであった。
 本書によっても知られるように、一応近世という枠は設けながら、この道一筋というの
ではなくて、あちらこちらと思いつく興味のままにさまよってきた。一般誌からの依頼原
稿もある。昔、そういう状態を評して、そんなやり方じゃあ何にもまとまらんのじゃない
のと言われたことがあるが、それは確かに言い得たことばなのであった。その頃、また、
何冊か著書のある人が、本は公害だよと言ったことなども思い出されたりする。
 本来なら相互の文章の整理・統一を行うべきであったが、そうなるとまた進まなくなっ
てしまう。若干の修正は行ったものの、重複箇所や用例・出典・索引の示し方等にも不調
整・不統一を多く残したまま手放すことになってしまった。
 今回いろいろとお世話頂いた武蔵野書院の磯貝浩士氏に厚くお礼申し上げる。




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