歌沢能六斎の都々逸本

菊池真一


 歌沢能六斎の都々逸本のうち、『端唄部類』と『新撰どゝ逸大成』とを翻刻紹介する。判読不能文字は「?」とした。パソコンで出ない文字は「●」とした。清濁は原本どおり。振り仮名は一部を除き省略した。
 編者歌沢能六斎(萩原乙彦)は、文政九年(1826)生れ、明治十九年(1886)没で、著作権は消滅している。関西大学図書館蔵本は、著作権の切れたものであれば、自由に翻刻してよいとのことである。
 今回翻刻するのは、次の六点である。これ以外の都々逸本については、次の機会に譲る。
  一、『端唄部類二編』(万延元年)
  二、『端唄部類四編』(元治二年)
  三、『新撰どゝ逸大成前編』(万延二年)
  四、『新撰どゝ逸大成後編』(万延二年)
  五、『新撰どゝ逸大成後集前冊』(もんく入前編)(安政七年)
  六、『度独逸大成後集之後冊』(文句入後編)(安政六年)


 以下、翻刻。

一、『端唄部類二編』(菊池所蔵本)
端唄部類 二編」(表紙)
端歌部類
松延文庫」(見返し)
哇部類二編の序
おのれ妬婦のあらひにあひてその角なすかたつむりの家をうしなひしとき
 いかにせんわが身より出たさび刀さして行ても定めなき世に
と口ずさみてさそらへの身になりしは去年(こぞ)のなつ水無月のことにしてはやひとゝせをすきぬれどもいまだはかなき夏むしのひとりさみしく日をふる折から一書肆はうた部類」(一オ)てふ書の三編嗣集を予に乞へりさばれそのふみは初編よりしておのれけみせざるものなれば文句のあやまりすくなからざるよし嚮に予があらため正しつるそでかゞみてふ書のはしにかきしるしてなじりしを今はたその集に嗣編をしももとめらるゝことのしばしばなるにぞもだしかねてうべないかつその書肆のまにまにこの編はまづ都々逸をのみ抄出しぬこゝにいたりて漫然としておもへらくそもそも」(一ウ)歌沢一流の改正おのれに帰依する時なるかな去年はその集をそしり今年はこの集をつぐわが身もまた去年の鴛鴦のごとしの羽ぬけ鳥とやつるゝがことき嗚呼定めなき世のならひにぞありける
庚申晩夏日
隆興堂主人
鰥寒翁
歌沢能六斎誌」(二オ)
目録
○いろはしり取  四十七章
○つじうら    六十四章
○文句入     九十一章
  内 義太夫
    常磐津
    冨本
    清元
    長唄
    新内
    一中
    歌沢」(二ウ)
○雑 さまさままざり也 八十五章
  前文附
  字あまり
  文句入
  言葉入
通計唄員  二百有七十七章
目録了」(三オ)
(絵)
其角が五元集に
三味せんや寝まきにつゝむ皐月雨」(三ウ)
端唄部類二編どゞ逸の部
歌沢能六斎集
○いろはしりとり
いつかほころぶ莟の花のかほにほんのりさくらいろ
ろんはないぞへさつしなさんせぬしゆへけふびの此しらは
はづかしいとていはずにゐればゑゝもじれつたいおたかひに
にくい秋風まよひの果はあなめあなめのすゝきの穂
ほれた中でもがまんはできぬよぎをかぶつてすかしの屁」(四オ)
へんなことからつい遠ざかりしらぬかほとはつみなひと
としまざかりをしらはのまゝでくろふするのも親のばち
ちゑんちかづき皆かりたをしこゝろがらからこのふぎり
りんきらしいがいはずにゐればすへがどふやらおほつかぬ
ぬしに二日もあはずにゐれば風のくさめも気にかゝる
るいがともとてあの子と君はもゝとさくらの顔とかを
をもひまはせば此身の泣(なき)もめくるいんくわの車の輪
わざとけなして又あるときは」(四ウ)むねてのろける深い中
かほりゆかしき莟の梅もやかてひらけはちる浮世
よしあしを定めがたなき身のなりゆきと水の流や浪花潟
たにんがましいおまへのしうち心おきなくしておくれ
れいのかんしやくもう是切(これきり)といふは出たらめみんな嘘
そふてふたりがくらせぬならば死んであのよでうちをもつ
つらいつとめの座しきをひいて今しやしうとで又きがね
ねんがとゞいて手いけとなれば朝ばんたのしむ床の花」(五オ)
なさけしらずが待身をしらでけふも来ぬとは何じややら
らくなやうでも多くの客のきげんとる身は気かいたむ
むりな義りづめむたいなくときいやといはれずとふしよう
うそか誠かさつはりしれぬさきでもしれまいわが底井
ゐどばたの桜あぶなしおちてはいけぬしめてかゝたさらしぬの
のんでのまるゝくせなしにしな捨てしまをうこの酒を
おし鳥と人にいはれた二人が中もひよんなことからひとりなく」(五ウ)
くやしい思も男のふじつほんにもつれたむねの綾
やかましい世間しらすがおかやきもちでなんの益ない人の邪魔
まてど来ぬ夜はついかんしやくでどくとしりつゝ茶わん酒
けさの別はいつよりつらいなぜかじれつたいきのふけふ
ふくささばきに手かげんおぼゑほれたこゝろを茶通箱(さつうばこ)
こゝろがらじやとせけんのひとにゆひさしされるもおまへゆえ」(六オ)
ゑんりよするのははしめのうちよいつか心もうち明て
てんにいやならなぜかうなつた今さらいやとはほんにまあ
あきもあかれもせぬ其中を義理でわかれる其つらさ
さらりと切たと人にはいへどかげじやみれんでしのびなき
きいて北野の梅とはおろかさても見事な花の眉
ゆふべのうつりがまださめやらて又寝うれしきけさの雪
めなみやさしき小いその浜へじれてぶつかるあだを波
身から出たさびつきはなされて」(六ウ)今は野中の破(やれ)かゞし
しみじみとつらいつとめのしんぼうするも心がらだかおまへゆゑ
ゑんと時節をまつともしらすさきは平気なかた思ひ
ひさしいものだがむしづがはしるかつておくれよさつま芋
もしひよつとかはりやせぬかとあんじてゐれどわざとじらしてうたぐらせ
せたいかためてかた気になつて酒ものまねばいろもせず
すへにかうした世間へかざる花もたがひの実意づく」(七オ)
つぢうらの部
大銭をなげてしるべしなみは白かたは黒
○○○○○○ 乾下乾上
さても目出たい子だから三番(ば)子孫長久とみみさかえ
●●●●●● 坤下坤上
死なざやむまいおまへのうは気としに不足もないくせに
●○●●●○ 震下坎上
さみだれ心をしつめなんしまてばかんろの日があたる」(七ウ)
○●●●○● 坎下艮上
親けうだいでもたのみにやならぬ主をつゑとも柱とも
●○●○○○ 乾下坎上
こへはすれども人目があればやうじひとへがまゝならぬ
○○○●○● 坎下乾上
なんぼしあんのほかとはいへど義理をしらない人でなし
●●●●○● 坎下坤上
きれる心はみじんもないがさきがふじつで此しまつ
●○●●●● 坤下坎上
ほどもきりようもいゝぶんなしでそのうへ手がたひしん抱人(ぼにん)」(八オ)
○○●○○○ 乾下巽上
やめばそれかとつひだまされてゑゝもじれつたい虫のこえ
○○○●○○ 兌下乾上
垣がかたけりや犬さいいらずひとは心のもちしだい
●●●○○○ 乾下坤上
夜なべ朝をき人あいそうをよくすりやまひ込福の神
○○○●●● 坤下乾上
わるくいふならいはしておきなあんなものには用はない
○○○○●○ 離下乾上
はれてそひ寝をまつちのお山どふぞ願ひのあらひがみ」(八ウ)
○●○○○○ 乾下離上
じれたり泣たり気をもみぬいてやつとふたりであらぜたい
●●●○●● 艮下坤上
たとへにもあるまけるが勝よかんにんぶくろ緒をしめな
●●○●●● 坤下震上
うはきうぐひす梅をばすてゝとなりあるきのもゝの花
●○○●●○ 震下兌上
三千世界にひとりのおとこうわ気をされてもすてられぬ
○●●○○● 巽下艮上
今さら心を入れかへたとて立たうき名がきへはせぬ」(九オ)
●●●●○○ 兌下坤上
わが身でわからぬ我身の心とんだはづみで此しだら
○●●●●● 坤下巽上
かげはさしても只みるばかり手にはとられぬ水の月
○●○●●○ 震下離上
人のおちめはしらないかほをするがせけんのひとのつね
○●●○●○ 離下艮上
義理をおもへばうわ気もできずさけをのんても酔もせず
○●●●●● 坤下艮上
だましたものよりうかうかのつてだまされた身がうらめしい」(九ウ)
●●●●●○ 震下坤上
いまに見なんせもうほどもなくひだりうちはでくらします
○○○●●○ 震下乾上
宜(いゝ)とおもへばためにはならずためになるのは気がすまぬ
○●●○○○ 乾下艮上
ほれたどうしで気らくなくらし小そでぐるみであさねほう
○●●●●○ 震下艮上
わたしやおまへゆゑえんどう豆じやないか胸に一はいたへはせぬ
●○○○○● 巽下兌上
かきの朝がほたよりにされてからみつくほどちから竹」(十オ)
●○●●○● 坎下坎上
ところ定めぬあのうき草はけふはあちらの岸に咲
○●○○●○ 離下離上
いのちをすてるはてんからかくご死ぬまでゑんをばきるものか
●○○○●● 艮下兌上
梅とさくらのいろ香をくらべ中をすましたいと柳
●●○○○● 巽下震上
ぬしは御店へわたしはうちでまゝごしらへしてはり仕事
○○○○●●艮下乾上
世間の口のは身うちのなげきはぢもおもはぬ義りしらず」(十ウ)
●●○○○○乾下震上
かわいけりやこそりんきもするに別れるほどならやきはせぬ
○●○●●●坤下離上
ほれたどうしで夫婦になれば家内和合でとみさかゑ
●●●○●○離下坤上
せけんしうとが口やかましくいらざるおせはをやきたがる
○○●○●○離下巽上
内のしんせうこやそふならばにようぼ大事にするがよい
○●○●○○兌下離上
たとへ気まづいしうちをしてもむねをころしてゐやしやんせ」(十一オ)
●○●○●●艮下坎上
はかない此身はのきばのむしよひと夜つられてなきあかす
●●○●○●坎下震上
こくらかつても気ながにとけは長くつなけるゑんの糸
○●●●○○兌下艮上
またもなくかといはしやんすれどなかせるおまへがむりばかり
○○●●●○震下巽上
うわ気したとて何すてよふぞほれてていしゆにした男
●○○○○○乾下兌上
月にむら雲花にはあらしとかくうき世はさはりがち」(十一ウ)
○○○○○●巽下乾上
女房だいしにするのはよいがしりにしかれちやいがおちる
●○○●●●坤下兌上
心たゞしくもちさへすれは神も仏もすてはせぬ
●●●○○●巽下坤上
気をもみ出してはからだにさはるなにも時節とあきらめな
●○○●○●坎下兌上
義理とふんどしかゝれぬものとふだんこゝろでたしなみな
●○●○○●巽下坎上
女こゝろはうつろひやすしほれたがあてにはならぬもの」(十二オ)
●○○○●○離下兌上
さとられまいぞとかくしてゐれどうかとのろけが口へ出る
○●○○○●巽下離上
糸のみだれをわたしのこゝろとくにこかれぬ此もつれ
●●○●●○震下震上
親をすごすにていしゆをすてゝ今じやきらくなたんなどり
○●●○●●艮下艮上
人にやがまんでみれんはないといふてこゝろてないてゐる
○○●○●●艮下巽上
いつまでないしよでゐられるものかはやくふうふになるがよい」(十二ウ)
●●○●○○兌下震上
くろうするのはてんからかくごいきなていしゆをもつからは
●●○○●○離下震上
いきで美男で利こうな人もかねがなくては世ははれぬ
○●○○●●艮下離上
もと木こひしくうらきをすてゝねぐらうしなふたびすゞめ
○○●●○●巽下巽上
しんのこひじもあわねばさめるましてとうざの花じやもの
●○○●○○兌下兌上
ふじの山ほどいゝたてられてゆめの間ほどもあひもせす」(十三オ)
○○●○○●坎下巽上
ふみしやわからぬ心のたけをねものかたりにして見たい
●○●●○○兌下坎上
せくなせきやるなうき世は車いのちながけりやめくりあふ
○○●●○○兌下巽上
女房されとはわしやいひはせぬさらでしあんはないかいな
●●○○●●艮下震上
人がきいたら切れたといふて情(しよう)はたがひのむねにある
●○●○●○離下坎上
とけたしごきを手に持ながらおもひ出してはひとりごと」(十三ウ)
○●○●○●坎下離上
はなればなれのすまひをすればたがひにうたがふことばかり
以上六十四卦」(十四オ)
○義太夫の部
おとゝいこいとはぢやけんなことば〔白木や〕(そりやきこゑませぬ才三さんおまへとわたしがそのなかは)けふやきのふのことかいな
めぐりあふせはしづはたおびよ〔夕ぎり〕(伊左衛門さんわしやわづらふてなとふにしぬるはづなれどせんやくとねりやくとはりやあんまでやうやうといのちつないで此とふりまだくしのはもいれぬかよ)とくにとかれぬむねのあや」(十四ウ)
かうもしたらとしあんはすれど〔いざりせんべつの段〕(つきそふわたしは女子の身ちからにおもふぬしの身は)こゝろにまかせぬ親がゝり
恋に上下のへだてはないが〔すしや〕(たとへこがれてしぬればとてくもゐにちかきおんかたに)しあんのほかの又しあん
もとゆひの切てしまへば根も葉もないが〔白木や〕(そりや聞へませぬ才三さんおまへとわたしがそのなかはきのふやけふのことかいな」(十五オ)やしきにつとめたそのうちにふつと見そめてはづかしいこひのいろはをたもとから)それをわすれて?ことば
きるにきられぬ悪ゑんなれは〔おひやノ段〕(わたしも女子のはしじやものはらもたつしりんきのしやうもまんざらしらぬじやなけれどもかわいゝとのこに気をもませわづらいでも出よふかと)どふかしなよくするがよい」(十五ウ)
人目しのんで恋ぢの関を〔梅川〕(それはうれしうござんせうさりながらわたしがとゝさんかゝさんは京の六条のじゆずやまち)こへてたふげの又くろう
心がらからうは気なぬしに〔おかさき〕(アヽコレ申もふなんにももふしませぬ顔は見ねどもいひなづけのおとこもつのがうるさゝにやしきをもどつたそのときからあまになる気でけさ衣けふいちにちに気がかはりそめちがふたるかね付のもとのしらは」(十六オ)とすみぞめに染なをしてもはがしてもおもひそめたるほんなうの)わたしでわたしの気がしれぬ
のぼりつめたる二かいのはしご〔てらこや〕(あすのよたれかそへちせんらむうゐめ見るおやこゝろつるぎと死出のやまこゑてあさきゆめみしこゝちして)いまさらめがさめあきらめた
鷹にとらるゝことゝはしらず〔廿四孝〕(こんなとのことそひふしの身はひめごぜのくはほうぞと)いぬぼねおつたが口おしい」(十六ウ)
やぶれかぶれと身は三味せんの〔あだち〕(おねがひ申奉るいまのうき身のはづかしき父うへやはゝさまのお気にそむきしむくひにて二世のつゆにもひきわかれなきつぶしたるめなしどり)くろうするはづ親のばち
○常磐津の部
親けうだいにも見かへたからは〔かつら川〕(はづかしい事いははしのふるのちぎりもあだまくら)もうどふなつてもきれはせぬ」(十七オ)
いふたひとことほぐにはならぬ〔おかめ〕(きくにおかめめはなみだぐみそりやおまへなにをいはしやんすしうげんをしたといふばかりでそれなりにあのさはきこゝろのしれぬわたしゆゑ)ほかにしあんをかしのかへ
ずつとさし込その手をおさへ〔せきの戸〕(おかほを見るよりぞつとして身にこたへ後生ぼたいもどこへやらすてゝ二人がひとつ夜着まくらならべてねたれども)此ひる日中ばからしい」(十七ウ)
花をねぐらにひと夜のゑにし〔三ツうろこ〕(そもやうきねのはじめより身のうへしらず気もしらずうは気どうしのなかかいな)朝はとりさへなみだあめ
夜の明ぬ国もあろふにはてせはしない〔一ノ谷〕(せめて名残に御顔をひと目見せてと云こへも)なさけしらずの明からす
夫婦けんくはわ其夜のうちに〔うとふ〕(なにうたかひのそのよふなさゝによふてのそらことと)」(十八オ)うつてかわつた泣ねいり
はら立まぎれに寝たふりすれば〔うとふ〕(さすがいはきにあらざればすてもおかれずたちどまり)コレ風をひくなとゆりおこす
じつにしあんのほかとは是か〔三つのあさ〕(きやくにせぬよのうれしさをうかぬかほしてかくしつまなぶられたさのものすきはきはづかしいしやないかいな)まよふわが気のきかしれぬ
じれつたいほどおもはせぶりな(いなかものじやと思ふて」(十八ウ)からにあんまりなぶつてくれめすなじたいそさまのやうな美男おとこのくせとしておなごたらしのすてことば)こちも木竹じやないわいな
袖からおちたる文とりあげて〔せきの戸〕(これ此やうにはじめからきせうせいしをとりかはしふかいおかたがありながらかくしておいて又わしに)いろよいへんじもあきれるよ
あふてうれしくわかれのつらさ〔しのぶうり〕(にせのかためとだきしめてつい手まくらの」(十九オ)そゝげがみ)あゝもじれつたい明のかね
○冨本の部
しらぬよそめにわらはゞわらへ〔かみぢ〕(ぐちなおなごにみれんな男よくあいぼれのじつくらべよいはひぞりて夜中のくぜつないてしのぎのかうがいもおれてわかれのきぬぎぬに)ぬしと朝寝がして見たい
秋のあふぎと身はすてられて〔小まち〕(うらみながらもいとしさ」(十九ウ)をふかくさのはなすゝきつゆもおきいにわすられずこれまでまいりさむらふぞや)つらい恋ぢにくろふする
ほんにおもへば二人が中は〔おきく〕(そのみづくきのふでのはのちげおしからぬこゝろのたけをかきくもりあとやさきなるふみのあや)きるにきられぬ身のつまり
すがるたもとを又ふりはらい〔夕きり〕(さりとてはかみこざはりがあらいあらいひけばやぶるゝつかめばあとにしはすめうに」(二十オ)ん)かはりはてたる人こゝろ
とふあきらめてもあきらめられぬ〔三かつ〕(あけくおもふていまするときいてとびたつうれしさに手をあはすればそのてをとり)むりなねがひも恋のよく
秋の夜風が身にしみじみと〔若木うり〕(いろをねがひのはなすすきまねけばそれとおもひぐさ草かりふへにあらねどもきみがいろねにさそはれて)すゑにまつむしねもほそく」(二十ウ)
義理にからまれ別ちやいれど(かはすことのはむつましくありしそいねのいもせがはうき世をわたる花いかだはなればなれになるとても)すゑはひとつになるわいな
たまにあふ夜の其嬉しさは〔小紫〕(ほんにしみじみうちあけていへはまたやしきそだちのこのやぼにまだやへ梅のかゞのこり)そでにあまりしはづかしさ
高いおかたにほれまいものよ」(廿一オ)(かわるまいぞやかはらじとおふせうれしくいらへさへ)ごめんあそばせひぢまくら
なれぬ世帯にたかひのやつれ〔おちよ〕(目もとしぼよるちりめんのふたゑまはりのかゝへおび)まだしちぐさかあるわいな
いけんいふのはおまへのやぼよ〔おきく〕(まことをいはゞ此さちはおやのまゝにもならぬがならひ)義理もせけんもいるものか」(廿一ウ)
○清元
にくらしいほどなぜ此ように〔明からす〕(あふた初手からかはいさが身にしみじみとほれぬいて)こゝろで心がくちになる
夜の明ぬくにがあるならふたりですんで〔おちうど〕(おもひなをしておやさとゑつれてふうふが身をしのび)つもる思ひをはらしたい
さとられまいとて気がねをすれば」(廿二オ)〔落人〕(とこやらしれるひとめをばかくせどいろか梅がはなちりてもあとは花のなか)ぬしをあんじてしやくのたね
せまいせたいにくつ付合て〔きせん〕(わたしやおまゑのまんどころいつかくはほうもいちもりとほめられたさの身のねがひ)二人なかよいおひなさま
泣て心でこかれてゐるに〔おはや〕(うわきうぐひす梅をはすてゝとなりあるきのされことに)」(廿二ウ)実のないのもほとかある
なぜか四五日たよりもないは〔ごん八〕(あひた見たさはとびたつばかりかごのとりかやうらめしや)気にもかゝるよからすなき
金がものいふうき世のならひ〔明がらす〕(きのふのはなはけふのゆめいまはわが身につまされて)ばかにされるが口おしい
まづしくなければまこともしれず〔落人〕(やほないなかのくらしにははたもおり候ちんしこと)」(廿三オ)いまはたがひのじつくらべ
かうなるからにはわたしも芸者〔小ぎく〕(しかもそのとき此うちでぬしにはじめてあいの手も)ひくにひかれぬ事(ママ)ある
むすんだゑにしがどふとかれうぞ〔お半〕(みんな女子はいつせうに男といふはたゝひとり)うきなたつのもいとやせぬ
たとへ三年あはねばとても〔二人奴〕(たかひにむねをうちあけて気もあひぼれのすいたどし)すへはめうとになるわいな」(廿三ウ)
○長唄
青柳のかぜにみだるゝこのあらひがみ〔紋二郎〕(いつかうれしきあふせもときみにやたれかつげのくし)はやくゆひたい丸まけに
むりな願ひのしほだち茶だち〔小原女〕(こひにはやせのさとそたちのきのすだれのゆかしさはたまだれかみをとりあげて)やせが目にたつむねの癪」(廿四オ)
わすれるじふんに姿をみせて〔あづま八景〕(はるかあなたのほとゝぎす)きてはまよはすつみつくり
恋にこがるゝわたしのこゝろ〔さぎむすめ〕(ゑんをむすぶのかみさんにとりあげられしうれしさも)おもふ事わけくへでぬ
心がらよりやみぢまよひ〔もゝよ車〕(もゝ夜かよへどゆふづきのかさにふるゆきつもるゆき)恋のおもにをなく千鳥」(廿四ウ)
鶯のかたことまじりをあれきかしやんせ〔あはしま〕(きみははるさめうめのはなかほりゆかきねやの戸に)ゆかしいねいろじやないかいな
あめのふる夜は寝てからさきの〔老まつ〕(いとしかはいわみんなみんな男はいつはりじやもの)まつとしらぬかほとゝぎす
なにもしらないわたしへぬしか〔花くるま〕(しのぶの山のしたもみぢうすいはいやよこひごろもむすぶゑにしは」(廿五オ)かみさんの)おしへさんしたさゞめごと
人のそしりも何はゞかろふ〔とも奴〕(とけてねた夜はゆるさんせアヽまたのうきながどふなろと)かたときあはずにゐられふか
口から出まかせ気やすめばかり〔おかね〕(こよひかたゝにおいそのもりとへんじしがらきまたせておいて)用があつたもよくできた
あはづにこがるゝ矢ばせの舟よ〔ふぢ娘〕(かたいちかひの名山に」(廿五ウ)身はうつせみのからさきやまつ夜をよそにひらのゆき)わたしやかた田のかたおもい
露のなさけにこちやぬれそめて〔諷まつ風〕(月のくぜつかほたるのりんきもつれもつれてとけかねる)みたれごゝろのもの思ひ
○新内
やつれさんしたおまへの姿〔だきがしは〕(いんぐはなものになれそめておもはぬくろう」(廿六オ)くるしみを)みんなわたしがつみのもと
かんがへりやかんがへるほどせけんへたゐし〔わかれじも〕(ふつゝりおもひきろふそとたしなんで見てもなさけなや)義理も人めもむちやになる
ひとこえはそれかあらぬかすがたは見へず〔ふぢかづら〕(なつの夜の蚊やりのあとのうたゝねにさしきさしきもしづまりて)おほろつき夜のほとゝぎす
ぬしと二人で世たいをもてば」(廿六ウ)〔尾上いだ八〕(手づからわたしがまゝたいてうちのものよこちの人あすはどふしてこふしてと)どんなくろふもいとやせぬ
かうなるからにはとうなるものか〔同〕(まつこちへおじやと床の中しばしものをもいはざりしが)コレ首にのしをばつけておく
うは気はおとこのつねじやといふて〔日高川〕(それほどいやなみづからを女房にもとふとなせいやつた)それじやあんまりふ人じやう」(廿七オ)
実もまこともつくしたはては〔だきがしは〕(そはれぬこの手を思ひきりいつしよにしんであの世にてながうそふのがたのしみぞや)無分別なるくさのつゆあだなくぜつをわらはゞわらへ〔らんてふ〕(まアしたにおいんなんしアヽいたいわへヱヽこのきちげへめさあこふとつさりとすはつたがさいこのすけ)(ママ)
あすか川ふちが瀬となるうき世の中に〔夕ぎり〕(そのぬしはかはらねどかはつたは」(廿七ウ)おれが身のうへ)たづねてくれる人もない
茶だちするのも人目をしのび〔花の井〕(すへのゑにしをまつち山せうでんさまにぐはんかけて)そふて見たさの神だのみ
とくとしりつゝあはれぬつらさ〔きくノ井〕(ふるいなじみとならしばのもゆる思ひをひやざけに)しばしわするゝうさはらし
○一中
わかれるがたがひの為じやとせうちはしても」(廿八オ)〔小はる〕(しよせんこの世はかりはげの恋にうき身をなげしまだ)いけんいはれりや直つのる
人の悪口何いとおうぞ〔小まち〕(きみゆへならば此いのちなにかおしまんおしどりの)つがひはなれずくらしたい
やぼないけんがきかれるものか〔よし原八景〕(にほのうきねの身ながらもあだにあはづのせいらんとこゝろでとめしゐつゞけに)かよい出してはやめられぬ」(廿八ウ)
義理にからまれそはれぬならば〔黒かみ〕(しよせんこの世はかりわげの恋にうき身をなげしまだかくごきはめしこゝろをばぬしになにとぞつげのくし)はやくあの世であらせたい
こゝはどこだとかこやさんにきけば〔よし原八けい〕(につほんいちの大門口)はるかに見ゆるは秋葉さんの常どうめう
まぶもなければつとめもできず〔けいせい〕(夜ことにくもるとうろうのきへぬはしんきともし火」(廿九オ)をけしてねときおひひもを)むすぶゑにしのうらざしき
にかいせかれてかなしさつらさ〔よし原八けい〕(ふけて青田にこかるゝほたるれんじまできてかやのそと)なんでこんなにまよひした
まづしいくらしを何いとおうぞ〔あさま〕(千も二千もさん千もせかいにひとりのおとこじやとたのしむ中のわかみどり)二人が中さへよけりやよい
しれつたいこへはすれどもせうしの内で」(廿九ウ)〔ゑのしま〕(すかたは見せずほとゝぎすおもはせぶりはたれやらがこひのこゝろをうつせがい)門にゐるのをしらせたい
のかずは出世のおじやまになろふ〔同〕(おもはせぶりはたれやらが恋の心をうつせ貝)からかいづらもほとにおし
ちわがつのりてくぜつの果は〔吉原八けい〕(あらしははれてひとしぐれぬれてあふ夜はねてからさきの)まつにかひなき明がらす」(三十オ)
○歌沢
ゆふべのこん夜でさぞつらかろふ〔けさの雨〕(あれねなんすかおきなんし)さほどねむけりやこぬがよい
たまたまあふのに気つよいしうち〔くぜつ〕(くぜつしておもはせぶりなそらねいり)ほれたよはみでぢらされる
青柳の風のまにまにふかれてゐれど〔恋すてふ〕(なみのよるよるいさり火のもゆる思ひのくるしさにきゆるいのちと」(三十ウ)さつさんせよをうちがはのあじろ木や)みづにくらすがもの思ひ
世間でもほめていられる身を持ながら〔ほんに思へば〕(ひとのそしりも世のぎりもおもはぬこひのみつせがは)摩でもさしたか此しまつ
ちよいとしたことのはつみで切てはみたが〔ゆきとも〕(屏風をこひのなかだちにてうとちどりのみつぶとんもと木にかへるねぐらどり)」(三十一オ)まさるうら木があるものか
むりな縁じやとしりつゝほれて〔あは雪〕(うき名をいとふ恋のなかみたれしまゝのびんつきや義理といふ字はせひもなく)気からもとめてくろうする
思ふやうにはならぬがうき世〔花になく〕(おもひはおなじあいたいのくものまがきのいさりふねながれしだいはかせしだい)ゑんとじせつをまつがよい
気やすめとむねに思へどうれしいことば」(三十一ウ)〔ひとこと〕(わすられうものかわすられぬうそにもいふたをじつにして)はやくもちたいあらぜたい
はらを立たりたゝせてみたり〔みじか夜〕(のこるくぜつのあさなをしむかひのちよきはすてをふねそのまゝけふもゐつゞけとたがひにつのる恋のじやう)ほんにたのしい気まゝ酒
からかひにはらも立ぬにおこつて見せて〔玉川〕(つもるくぜつのそのうちにとけししまたのもつ」(三十二オ)れがみ)なかせてそれから中なをり
心がらよりうき川竹の〔身はひとつ〕(ながれによどむうたかたのとけてむすぶのかりまくら)男ゆへならせひがない

はうたは古くよりつたはりし文句多くまた近年の新うたといへどもつたえきくのあやまりにて義理をなさぬもん句ありけるをこゝろづかて唄ふもの多かりさてはこゑうつくしくふしたへなりとも身かた」(三十二ウ)言をのぶるをもて聞くるしく心ある人にはわらわるべし就中「身はひとつ」ニ「きみにあふ夜のかぢまくら」云々是誤也此唄はむかし大川の三ツまたに茶屋など繁昌して在ける時に作りたる唄にてもとは文句長かりしを近年闕文してふし付まてなをしたれどその人文章のまなびなき人ゆゑにいまのごとくわからぬ唄にせりけるかゆへに即改て○「とけてむすぶのかりまくら」トせり夫「うたかた」トは水の(一字分空白)のことなりされは(一字分空白)とけるといふにかけてこゝろ」(三十三オ)とくるとしこゝろのとくるより深きゑにしを「むすぶ」トいふより○むすぶとし「かり枕」はその座のころび寝なりさて「むすぶ」トいふことばこれ則末の文句「雲のおび」トいふへかけたる文字なり文章の法あらまし斯のごとし又「わが春の」に「おきごたつ」トいふは誤なり沖の石といふべし是まつ身はつらくなみだに袖もかはかぬトいふ意なり人こそしらねかわく間もなしといふ古歌ヨリ出たる文句なり此外にあやまりを改正したる文句いと」(三十三ウ)多かり予が手集の哇本(はうたぼん)を閲してしるべきのみをさはれ近日哇改正の一書を著して蒙昧のまどひをさまし且他流のわらひを防くべし世の人わが流儀中に人なしとなさし給ひぞ
端唄入之もんくに嗣周みてとゝ逸中へ私言をしるす
編者 能六斎」(三十四オ)
○雑
人まへは理くつがましくならへて置てかげじやいつしかなかなほり
死なは死ねよと気づよくいへどもしやとあんじる胸の内
ふつふついやだと口てはいへどじつはみれんて切られぬ
右三章はみれんなる夫婦中を評せり
びんのほつれは勤じやほどに目かど立ずとかんにんしやんせ
よせばよかつたついしたことでいまさらくやしい此しだい」(三十四ウ)
じれつてへこだはつきりいひな夢にしろとかそりやならぬ
今さらみれんが何あるものかこつちに見かへたものがある
いやになりんと此せつ句まへちりんとたのめどかただより

ます花のねたましく且うからのためト藻にすむ虫のわれから望みてまだ若くさの折に結ひそめにし夫何がしにわかるゝとき
孝をたつれば人情がすたる」(三十五オ)こゝろふたつに身はひとつ

つまに別れし后(のち)いくほどもなく老たる母もみをくり果つされば生がいを寂静(じやくぢよう)にをくらばやと思ひしかど夏むしのひとり淋しい世をふるはさすがにて玉くしげふたり寝の床のうらめしきまゝに小夜衣をなん二重衣とはなしつ
さそふ水あらばいなんと悔やんだとても色香がちつてはかひがない」(三十五ウ)

楽天のからうたに一生の苦楽他人による
意地のない見さげた女といふかもしらず〔夕きり〕(よくもなければ身がたゝぬ)犬になるとも大どころ
かゝるされ言を口すさめるも年久しく先夫がつくえのほとりにはべればなりかの勧学院のすゞめ蒙求をさへづるたぐひならまし
歌沢小てふ事
今は大何がしの妻 しるす」(三十六オ)
いまだたらちねのもとに在ける頃ひそかにある人へおくる
わたしや年わかまだ親がゝりおもふお前は女房もち
芝新ばし
唄女小とく
とし頃になりてやしなはれし人のまがつみにかゝりければ見過すべうもあらで仇し花は咲しつれどもこゝろのじみをなん楽(たの)し侍る
はやく染たいわたしのねがひいつまでしら歯で置のたへ」(三十六ウ)
下谷すきや町
唄女たい
こは何ひとの懐にして在けんひとひらの紙に書ちらしてありけるをさきつとし浅草のちまたにてひらひければそのゝちさまざまの手集中に抄出したるをまたこゝにもしるし侍るはおのれがこゝろにゆかりのあればなり見る人ゆるしたまひねかし
編者 能六斎
名前のごとくしるす」(三十七オ)
○字あまり
いろができたと。あのまアとしでそれはマアめつそふも。ないいまどきの娘こどもはゆだんがならぬじや。マアないかいな
けふは末よふか。あはねばならぬはなしがあるにマア。じれつたい身はかごの鳥ヱヽものめなさけでもしかくのだ
おかしくもありわらはれもせずそれはマアなんであろふともらいのてうちんもちが屁をひつたのではマないかいな
わたしがこゝろは辻うらないでしんそん亥の卦にあたつて」(三十七ウ)まぬけな性でとにはけんこん狐でのみあひいつでもむゑきなことばかり
雪は白うて十五日のおほさまはまアるいありよ見てぎねんをしらしやんせ」(三十八オ)
内じやはなせず出合にやゆけず親のある身のじれつたさ
あどけないのがかわゆひけれどしよしんすきるもじれつたい
かうなるからにはどふなるものかいつそつれ出し旅かせぎ
あゝもしれつたい何をしてみても女房とかせぐよふな事はない
あの人のためにならぬとしつてはいれどどふもよされぬ恋のよく
二日あはねばとりこしぐろふ風のくさゝも気にかゝる
人にいけんもしかねぬぬしが人にいはれる此しまつ」(二十八ウ)
さむい夜風に身をすりよせてうれしなきにかなく千鳥
もともとうは気でかうなりながらうはきするなも能できた
ほれてゐるのをしつてはゐれどお気のどくだがおことわり
よそふと思へと又かほ見ればどふもみれんで立かへる
だいてねまつに嬉しい春のたからふねこぐ初まくら
鬼に女房がなられちやこわいいろはしないとあきらめた
うき草のところ定めぬうわ気なおまへどふもこゝろがわからない」(三十九オ)
なまじ声をばきかせておゐておもはせぶりだよほとゝきす
かみはきつても二世までかけた深いゑにしをきるものか
色になる身のゆかたもぬいですはだじばんの夏の冨士
いちにちどころかたゞ半時も顔を見なけりや気がふさぐ
なまじなま中いづもの神のむすびはなしがなさけない
こんな歎もおもへばほんに結ぶの神がうらめしい
ほれてくれずはなま中こんな気がねくろうはせまいもの
まゆは三日月はだえは雪て」(三十九ウ)たのみすくない花どころ
しらつゆやむふんべつでも草葉がたより恋のうき身のおきどころ
巻紙のへるに付てもわが身を思ふはやくねんきをあけくれに
ありと見て手にもとられぬあのかげろふはぬしのこゝろとおなじ事
芦とかりねのひとよさなりと逢てはなしがしてみたい
草の葉のつゆはわたしがなみだのしづくそれにおまへは秋のそら」(四十オ)
末はとげぬといはれた事もあればひと花さかせたい
朝の蚤とるねまきのすがた久めの仙人死ぬだろふ
なべにみゝあり徳利が口よちよくとはなしもできはせぬ
ないてゐるのを面白そうにはたで見てゐるかごのむし
恋のしよわけもしらはの娘思ひありげな手まり唄
梅の匂ひをさくらにこめてしだれ柳に咲せたい
忍びごまかけてくどいてできたるおまへばちてもあたらにヤ切はせぬ」(四十ウ)
あのふみを見たなら早く気をもませずと〔しん内〕(顔なぞ見せたがよいわいな)〔ことば〕(コウてめへのこつちやアな)〔長うた〕(きをもみぢがさしかはりのとのごにみさをたてかさもあいあいがさのすへかけて)そはざやままい此くろう
やつれすがたを見るたびごとに〔清元〕(なみだでもんでそりおとすむかふかゞみに小むらさき)〔新内〕(うつせばうつる顔とかほ)」(四十一オ)わたしゆへじやとくやみ泣
はでに見せてもこゝろはじみよ〔冨本〕(いやなきやくにもひよくごさおもふおとこのやまどりの)〔清元〕(やぼないなかのくらしにははたもおり候ちんしごと)〔うた沢〕(ほそたにかはでぬのさらし)やがてくがひをあらひはり
たまにきたのにもうねるのかえ〔うた沢〕(ふけてひとこゑなく」(四十一ウ)ほとゝぎすアレきかしやんせ是もうし)〔しん内〕(ゆふべはさぞおたのしみそりやそのはつさ)〔一中〕(たのしむなかのふかみとり)こゝろしらずかじれつたい
旅は道づれ袖ふりあふも〔うた沢〕(のぼり下りのおつゞら馬よさてもみごとなたづなぞめかよナアヱまごしゆのくせかたかごゑで)〔まご唄〕(おまへさんとならばとこまでもヨヲヽ引)」(四十二オ)〔ことば〕(ヤイうぬどふしやアがつたおんな馬ベイみやアかるとまめベイねいやアがつてはらでこのウつゝばりやかるあるきやアがれドウドウ)おつなはづみの草まくら

さみだれのある夜ひそかにかうしのさきで見ればうれしい月のかほ
船のもやいもいつとけそめておまへしだいのながれの身
わたしや春のに芽さしのわかなあをいあをいと人がいふ」(四十二ウ)
かうすりやかうしてかうなることとしりつゝかうしてかうなつた
ころんだときいておうやがてとはいへど其くせ寝てゐてしたそふだ
まへがみかきかきアヽじれつたい空にしられぬふけの雪
そはざ死ぬるとはじめにヤいつてのちにヤわかれてかさねづま
三年男をたつたといへば寝てすることにはかまやせぬ
つたふなみだにまくらのかみがぬれて二人がまたぬれる
ないてまつ夜にふけゆくかねは明のとりより猶つらい」(四十三オ)
たはむれと思ひなからもつい手まくらにぬしのこゝろを見たれがみ
朝がほの花のやうなるおまへの気まへ日ごとひごとに気がかわる
いろをしようと大きにおせは世けんしうとがやかましい
気にもかゝるよさくらの花の風にちるとはなさけない
柳々で世をおもしろう受てくらすが身のくすり
朝顔のからみ付竹引くくはなされて花がうつむきヤ露がちる」(四十三ウ)
どふもじれつたいかほ見ぬうちは用もなんだか手につかぬ
風もふかぬにみの毛がうごくのつぺらぽうのおばけがきはせぬか
色かへぬ松のみさほのしんぼうするも雪のふらずはしれもせじ
おなじながれにさて住ながら鷺はゐねむる鵜はあさる
あめはふり出す家根の薪はぬれるせなかのがきはなくわしヤこげる
やぼないけんをいひたかないが是もとしゆへぜひがない
かんくりちがひでおまへをうらみいまじやめんぼくないわいな」(四十四オ)
あかい切(きれ)かけしまだのうちはなぜかこゝろも定まらぬ
はたらきかなけりやいきでもいゝ男てもいまのむすめははなつまみ
いろけよりくいけとよくばるいやしいじんき名をとろふよりとくをとれ
佐用姫のまことなくともお染かお半ないしおきぬの実意ほど
端唄部類二編とゞ逸の部了」(四十四ウ)
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能六斎先生集
哇部類 三編
此集は戌午年間以来の新唄并にケレンの唄且大津絵其外三下り二上りのさはぎ唄ならびに新文句入のかへ唄等数百章載たり
同 四編五編 近刻
此集は初編二編に誤の侭載たる文句を改正して再出シ且新唄を加へたり
人形町通り松嶋丁
伊勢屋庄之助板」(裏見返し)



二、『端唄部類四編』(関西大学図書館蔵本)
 関西大学蔵本(H911.93/U3/2-4a)によって翻刻する。
端唄部類 四編」(表紙)
都々逸之部
松延文庫」(見返し)
みち奥の十布の管菰七重に美(み)えを。つくるとし増のはでもやう。小町の姿しばしとて。心すみだの花見の三弦(しやみ)は。波にさかれたうかれぶし。いきな二上りさん谷堀後すがたを見めぐりの。神に誓ひの羽重子(ひよく)連。そしらぬふりの雨のあし。たがしら髭やいほ崎の。森の下露そでぬれて。桜は花の薄緑。葉柴けちかき渡し守。いざこととはん武士の。世にいさましき都鳥。恋しき中のひと思案。まじめ烏の三つひとつ。友を待ちの山のはに。返る小船や家根船の。中に勝れた水調子は。どゝどゝいつの何誰(どいつ)が声かと
花のもとにて  露光誌」(一オ)
いの部  乾為天
○いろの初わけをしらない意けん通ひだしてはやめられぬ
○入相をかねて待身は軒ばの蜘の糸のもつれも気にかゝる
○いつそりん気のつのでもはやし突てやりたい人がある
○いろのいの字をふたりでおぼへ〔清元おそめ〕(なにやらそうへかいたのをそなたに見せてとふたれば恋といふ字といふたのをむすびはじめのとのごじやと)思ふ間もなくけふかぎり
○いろけづいたよアノほうづきも人めなければちぎられる」(一ウ)
○いつの間にやらアノかきつばたひらきそめたるうつくしさ
○いろになれとはそりやうそらしい〔ときはづ〕(いつたいそさまの風俗ははなにもまさるなりかたちかつらのまゆずみ青ふしてまたとあるまいおすがたで)じつにまことゝおもはれぬ
○いつかいつかと人目をかねて思ふばかりもこ半とし
○いわにせかれてながるゝ水も末にやまとまる滝つ川
○いへばどふやらさいそくらしいいはねばかへさぬかした金
○医者様が小首かたげて二にさじ投てやつれ姿を見るつらさ」(二オ)
○今ぢやひかれぬ六日のあやめのぼりつめたる恋の意地
○色の世かいをさらりと捨てこれから夫婦でともかせぎ
ろの部  天風●(かう)
○ろんはないぞへほれたがまけよどんなむりでもいわしやんせ
○ろくに咄しも聞ないうちにかうとさとるも恋のちゑ
○ろうかづたひに人めのせきをあげてあふ夜はほつといき
はの部  天山遯
○春の浮気についさそはれてさくや深山のおそざくら
○花を見すてゝアレかへるかり」(二ウ)余所へ仇ばなさかす気か
○花の色かのついさめはてゝあだな浮名がちりのこる
○はたでどの様に笑をとまゝよ〔清元山かへり〕(おやがしかろがせつかんしやうがほれたとのさがすてらりよか)〔常はづうつぼ〕(おく山のさいかちばらのなかまでもおまゑとならばどこまでも)そふて見かへす人の顔
○はなしごゑさへかすかになりて更(ふけ)行閨のきりきりす
○花はさくらと誰しもいへどぬしにます花外にない
○花をかざりて化粧はすれどみさほの鏡はくもりやせぬ」(三オ)
○はやく苦界をめで度かしくかへすがへすのないやふに
○春のよめなの摘のこされて秋は野菊の花ざかり
○はれて逢れぬ二人がうき身〔うばたま〕(にかいせかれてしのびあふ)つらい恋路も心がら
○花はもたねど山椒を見やれまことありやこそ身を結ぶ
○這ば立たてば歩行(あゆめ)と養(そだて)る親をすてゝおまゑにじやうたてる
○はつ音鳴せたおまゑをすてゝ〔常はづしづか〕(見わたせばよものこずへもほころびて梅がゑうたふ鶯の)なんでとまろうもとのえだ」(三ウ)
○はれてあふ夜はあすあることゝ思ふ間もなき仇ざくら
にの部  天地否
○にげた藪蚊のアレにくらしひ打にうたれぬアノ寝顔
○庭の小松に我身のこゝろとけて嬉しきはるの雪
○にくいしまつとふつふつすれとあへばかわゆくなるいんぐわ
○女房もちとは知てのことよほれるにかげんがなるものか
○にても似つかぬ縁ならよしなかもとあひるは直(ね)かちがふ
○にせとちかひしふたりが縁のきれた夢見てしやくとなる」(四オ)
○にごる心をうわべへ出さずぐつとすました手とりもの
○女房の角は陰茎で折れもしやうがに朱でゆふへは床のばん
ほの部  天沢履
○ほれちやゐれとも言だしにくいどふか先からいへばよい
○ほつとひといき一ぷくおくれさしてはづかし蚊屋の月
○ほれてわたしがほめるじやないが〔清元おちうと〕(こんなゑにしがとりのおしのつがひのたのしみに)なぶられたいのが身のねがひ
○ぼた餅のくせにきなこをこてこてつけて併(しか)も能見りや獅子ツぱな」(四ウ)
○ほぐにする気のせい紙じやないがやぶれかぶれも恋の意地
○程もきりやうも勝れたおまゑ外に穴でもなけりやよい
○ほどでたらして手くだでもんで〔とみ本長せい〕(あだといろとは恋むらさきのつゞやはたちはいろざかり)いろは楊枝のかけながし
○ほれたお方にまたほれられてこんな嬉しい事はない
○ほれた性根を見すかされてかやみとよわみへつけこまれ
○ほんに間のよい今宵の首尾と〔??いり〕(ゆびでちよいついて目でしらせ)はれちや逢れぬ恋のやみ」(五オ)
○程もよければ男もよくてそれで金もち女房もち
○星のあふ夜も鵲わたしなぜにわたしにそれがない
○ほしのかづほど男はあるに月と見るのはぬしばかり
○ほれて通へば田まちの犬がないてわたしに気をもたす
○ほつとため息嬉しやゆめと覚た目で見るぬしの顔
への部  天雷无妄
○へいぜいわたしが意見もしたがわかれのつらさに今のしぎ
○屁の様な願ひとわらはゞ笑へおさつで喰しやうがして見たい」(五ウ)
○平家の一門みなかにとなるわたしやりん気で鬼となる
○嘔(へど)の様な面(つら)してくそどきやう女けさもおへやで屁をたれた
○へりもふまないこい茶の中でふくささばきのくろうする
との部  天水訟
○遠くはなれてくらすも浮世まゝになるまで待しやんせ
○どふあきらめても今宵の雪はぬしの来られぬ知らせかヱ
○遠山の花と詠(ながめ)てへだてゝゐれど風のたよりも気がもめる
○泥水と何かきたなく言んすけれどきよき心は秋の月」(六オ)
○とうざからせてしんぼうさせて末にやひとつになる覚悟
○遠くはなれてゐる悲しさに浮気をされてもぜひがない
○泥にや咲ても江戸むらさきはいろにやねづよいかきつばた
○とふざからせてしんぼうさせてためて一度にたんとゝる
○どふで若いときや二度とはねへに其気でやらかす此うわ気
○鳥の鳴まで口舌はしてもわかれともない雪の朝
○鳥が鳴てももしやと出てこぼす葉末の露の玉
○どてらかゝへて質屋のうちへ」(六ウ)〔詞〕(コウばんとうさんちよつと二朱かしてくんな「ナニこれはそうはつきません「ヤアサむりでもどふぞかしてくんねへ「マアおまちなさい)〔清元おそめ〕(ばんとうはじつと品を見て「アレまたあんなむりいふてこんなどてらは二朱やつかぬ詞どうあつてもか「そでよりわきが切てゐるひどい物を持てきておまゑの心はそうしたものか)どこも焼穴こげだらけ
○遠ざかるかやそれ女郎花はてはわたしを秋の風
○とてもそはれぬ事とはしれど〔清元あけがらす〕(どふしたゑんでかのひとに)しみじみほれたが身のいんぐわ
○時とじせつと世のことわざに雨となる日も風となる」(七オ)
ちの部  天下同人
○ちわがこうじてけんくわで返し跡であんじる今朝の雪
○ちればこそいとゞ桜はめでたい物とさとりながらもつらき雨
○ちよつとごらんよアノおし鳥がこれ見よがしの夫婦づれ
○千代をむすびしアノしめかざりともにしらがの松の雪
○ぢれてかへるをはしごでとめて雪がとりもつ中なをり
○茶にする心はさらさらないがぬしは茶にする雪の水
○ぢれたふりして見返りやなぎ花が袖ひくゑもん坂」(七ウ)
○ちよいとお待よ着物をおくれ屏風のから子が見るわいな
○ちわも口ぜつもモヲいひつくししんの咄しに夜が明る
○ちよいと吸つけすいがらはたきこんなに詰つたふたりの身
○ちからづくでもいかないぬしをのせてひかせるくちぐるま
りの部  兌為沢
○りくつづくめに意見をしても曲りかゝつた恋の意地
○りんきぶかいかやきもちなのか〔とみ本松風〕(ことばとかめやむなづくし鳥がうたへはわかれがいやではなれともない中直り)ほれりや誰しもぐちが出る」(八オ)
○りん気らしいが言はねばならぬぶたれるは覚悟のまへの事
○利非はともかく女のじやうでしゞうそはずにおくものか
○りはつなりやこそ女のむねでいわの清水て袖ぬらす
○りこうなやうでも女はをんなもしやそうかとだまされる
ぬの部  沢水困
○ぬしの心は田毎の月よどこへまことがうつるやら
○ぬしのなさけで苦になるとしのくれてうれしき花の春
○ぬしにりん気の角でもはへりやいつそどうしやう道成寺」(八ウ)
○ぬしをかへしてまたねの床のうつゝともなきものあんじ
○ぬれて色ます若葉のもみち末にや浮名のたつ田川
○ぬしに逢ふ夜はよいひざくらよつもる咄しも山ざくら
○ぬしか来たかと雨戸を明りや月か笑ふかゆれる水
○ぬしのまことは枯木の花よあてにしないで待てゐる
○主は紅葉で気もちりやすいわたしや末まつ色かへぬ
○ぬるま湯をぐつとひと口くちからくちへ暑いばんだとほつといき」(九オ)
○ぬしは浮気でアノ吹ながしわたしや正気でのぼりつめ
ぬれた事からつい苦にやんでむすめ心の五月雨
○ぬしの心をこちや白ぎくよとゝかぬ苦労をつくり菊
○ぬしの心と今戸のけむりかわりやすさよ風しだい
○主とわたしはひやうたんなまづたしか鹿嶋で縁むすび
○ぬしが船ならわたしが水よ中のよいのも風しだい
るの部  沢地萃
○るいは友とて身につまされてのろけばなしに聞上手」(九ウ)
○るりやあさぎのさく朝顔も色はかわれどねはひとつ
をの部  沢山咸
○をつて見たいと心をこめてきけば主ある山ざくら
○おぼろ月夜が忍ぶにたより晴て逢れぬ中じやもの
○思ふ念力岩をもとふすそはれまいとは気のよはい
○思ひとゞいて夫婦となつてはれて月夜があるきたい
○おつなかげんて結んだ中を風がぢやまする糸柳
○おとこ啼とてこのマア苦労〔しん内らんてう〕(しやうばい事はうわのそら)」(十オ)どふか思案はあるまいか
○おなじ花でも秋さくはなはじみでまことをたてとふす
○おまゑの事ではコレこのやうにてうしはづれに苦労する
○おしい人めの関所をこしてぬしに逢夜はあらし山
○沖じやかもめとわたしをいふがすみだ川では都どり
○おいらんが小首かたげてきせるを杖にとけぬ姿は雪のさぎ
○思ひから崎じせつをまつち首尾を待身の流しぶね
○お互にしれぬが花よ世間の人にしれたそのときや身をかくす」(十ウ)
○およばぬ事とは初手からしれど折て見たさの庭の花
○おまゑふねならわたしは水よ中のよひのも風しだい
○思ふとふりにねがいもかないじつに嬉しい身のくわほう
わの部  沢火革
○わたしが花ならおまゑはさくらほんにさくらは仇なくさ
○わたしくれたけぬしやしら雪のつもる思ひで苦労する
○我がほれりや他(ひと)も如(かう)かと邪水のぐちてかた時はなるゝ事もいや
○別れのつらさにとめては見れどあとであんじるうちの首尾」(十一オ)
○わたしが思ひの十分いちも思ふてくれたら嬉しかろ
○わたしがねがひを聞てもおくれ〔ときはづ〕(おまゑとだかれてねるならばおさつや好ないしいしを誰が物したる悪(にく)らしい)恋ゆへらいせもこらえます
○わたしがまことをしらぬかなんぞほかに見当(みあて)のまとはない
○わたしが朝からばんまでおしゝをかぶり〔とみ本くらま〕(大みそかもぐわんじつももゝ引がけの旅かぐらわれとかはれる道芝に)獅子のまねして世をわたる
○わたしやくれ竹おまゑはすゞめ雨のねぐらが縁となる
○わけも内証の目つまを忍び」(十一ウ)あがるはしごのだんまつま
○わたしや出ぎらい芝居もいやよじつはじやうぎかはれ着なし
○若い男に気をもみぢばの後家の浮名がたつた川
○わかれわかれと人には見せて水に浮艸根はひとつ
○わたしが梅ならぬしやうぐひすよ〔うた沢のぐるし〕(ほうほけきやうのやくそくもじつにうれしいじやないかいな)枝にをりをり来てとまる
○我はゆたかとゆだんはならぬ花にあらしのあるならい
○わるいこゝろをさらりとやめて鬼もほとけになるならい」(十二オ)
かの部  沢風大過
○かへらねばうちは不首尾と胸にはしれどとまる心は恋のじやう
○如(か)うなるからにはどきやうをすへなかみなり野郎はふりつける
○考て見てもわからぬ夜ひる通ふ恋は思案のほかじやもの
○かへらしやんせと口ではいへどむねに嬉しきさのさの雪
○かたいわたしを浮気にさせてとうざの花とはあんまりな
○神にちかいもあいたいゆへに〔清元山かへり〕(めぐりめぐりておほやまのせきそんさまの引あはせ)あへばたがひにぐちばかり」(十二ウ)
○かつら男に此身をまかせむねを明石のうらずまゐ
○風のたよりにまかせて逢ふてうれしなみだの落葉川
○かゞ見ぶとんに誠をうつしぬしをちからにうきつとめ
○かごの小鳥にほん音をださせ今さら舌をば切れことば
○かべに耳ある世の中なればかくしあふせる事はない
○かへるつばめにくる雁がねに〔とみ本〕(ふみのたよりですましても)あわぬこゝろのやるせなさ
○かごの鳥とはまがきのおしよくわたしや小見せのきりぎりす」(十三オ)
○かむろみどりも時さへ来れば松のくらゐの八もんじ
○顔にやまよはぬ姿にやほれぬとかくさくらの花ははな
○寒苦しのいてはる花さいて末はみをもつ谷の梅
○風に木のはのちらされたのもかきあつめれば籠の中
○門の犬にも用あるたとへあいそづかしをせぬがよい
○風にもまれてたゞよいながら岸へつくかよあま小船
○雁(かり)の文さへもう返されて今はたよりもなしの花」(十三ウ)
よの部  離為火
○夜の明ぬ国も有なら二人が住でつもる咄しがして見たい
○呼かへす熊が谷(ゑ)桜はいきぢもつよい心によいのはたがしら
○宵はまたせてれんじの月のふけてさしこむ胸のしやく
○宵の口舌に夜中の手くだ雪もつもるか恋のやま
○宵に笑つて朝なくこゝろそれはしんじつほれた情
○四方に雲なく朝日はのぼる何を鳴やら鴛ふたつ
○能(よく)もわるくもおほきにお世話〔清元ごん八〕(おとこなかせしおもかげを)わちきがめがねでほれた人」(十四オ)
○よそへ引るゝ事ともしらでひとり子の日のぬしをまつ
○よくも思はぬ男だけれど人にとられちや腹がたつ
○よくよく心でりやうけんしてもきれる心は出ぬわいな
○よくなやうだが女子のぐちは〔ときわづしんおつま〕(かみかみさんへねがひをこめ一日なりとめうとになつておまへにようにたやゝうんで)川といふ字に寝て見たひ
○よくじやなけれどなる事ならば仇てまじめな人がよい
○よるとさはるとおまへのうわさ聞てうれしい胸のうち」(十四ウ)
○このそでとかるゝ帯ともしらでくける我身の糸ごゝろ
たの部  火山旅
○たとゑ咲ても浮気な風に心ちらすな廓(さと)のはな
○たもとにすがつて涙をおさへ〔うた沢〕(男心はむごらしい女心はそうじやない)わけをひとこときかしやんせ
○旅の情にちぎりし恋は星のひと夜の根なし草
○玉だれのうちぞ床しきアノ花車めぐり逢ふ日を神だのみ
○たとへねんきがますともなんの〔しん内からす〕(どうしたゑんでかのひとに)しみじみほれたが身のいんぐわ」(十五オ)
○たつはろうそくたゝぬはねんきおなじ流れの身じやけれど
○たよりない身に便りがで来て〔長うた〕(あかますゞりのふでずさみこゝにつらさをしるしけり)もとめましたよひと苦ろう
○たゝく水鶏に松ふく風よふせて妻戸にをとづるゝ
○他人の世事にはのられぬものよしんせつごかしで舌を出す
○宝ぶねして二日のまくら夢の嬉しやみなめざめ
○たがひに独り身何はゞかろふはれて女夫(めうと)になるがよい
○たがひに思ひがかさなる手先」(十五ウ)人眼ふせたる哥がるた
○たしなんで見ても何わすられう日かづ立ほど思ひだす
れの部  沢雷随
○れいのやぼめとおまへのこゞとくぜつするのも恋のよく
れんじがしらめばおへやへ気がねすそにかくるゝ長ろうか
○れんぼする身の心のうちは〔うた沢〕(ひとのそしりも世のぎりも)すてゝはかなきもぬけ鳥
○れん哥はいかいはうたと思ひ引にひかれぬ三味のこま
○れんじ明てはまつちの山に心がらすの鳴ばかり」(十六オ)
その部  沢天夬
○添寝した夜は枕のしたへそつとさしこむ窓の月
○傍へ寄る浪引袖がうら月に丸寝がはづかしい
○そもやふたりがその馴そめは〔常はづおふさ〕(ふみでくとかず人たのまずこゝろで実をうちつけに)思ひをもふてけふのしゆび
○添ふてそわれぬ中でもないが年(ねん)のながいがまち遠い
○夫よりして夜明がらすについ起されてあかぬわかれのほとゝぎす
○それとさとつて聞みゝたてりやまたも水鶏かヱヽばかな」(十六ウ)
○添寝した夜の寝巻の帯はとくにとかれぬゑんむすび
○そのまゝたがひにつひうたゝねの夢が涙のひとしあん
○そしてうらみた文までかゝせぬしにせかれた客のたね
○添にやそはれず死ぬにはしねずぎりといふ字てないてゐる
○そつとのぞひてめつまで知らせばんにおいでとこ手まねぎ
○それとさとつて小窓を明りや月は葉末のほとゝぎす
つの部  火風鼎
○つらきうきめにわしやあふみ蚊屋ぬしにつられて夜を明す」(十七オ)
○月の出ぬ間にそと忍ばんせはれちや逢れぬことがある
○月は晴ても明りがたらぬくらいわたしの胸のうち
○つもるとは嬉しの森かよ上手(うはて)の雪に船のこたつのさしむかひ
○月ははれてもおまゑのこゝろ闇の礫であてはない
○月の明りで文をばよめどあはれぬつらさは胸がやみ
○つもりつもりしこ宵のくぜつとけて嬉しきけさの雪
○つもる思ひをぬしや白雪のとけて常盤の松の色
○つきはてらてら窓からさすが」(十七ウ)どこに住やらかただより
○月にむら雲苦界もおなじひと夜のうちにも照くもる
○月雪花をば三すじの糸にのせてながめる仇文句
○月にむら雲花にはあらし思ふお方は女房もち
○露の情の色かにそみていつかあふせをきくばかり
○つもる恋路の心をあかしとけて嬉しきゆきの肌
○露の葉ごとに照りそふ月はどこへまことをうつすやら
○月もほのかに雲間をもれて晴てふたゝびぬしのかほ」(十八オ)
○露にうかれて来る蝶々も風がぢやまする世のならい
○月の下行アノむらくもは〔ときわづ将門〕(おぼろけならぬおぼろぞめ)よその見る目もかくすだろ
○つれてのかんせ深山のをくにふたりくらすをたのしみに
○月も入さの山のはがくれ身につまさるゝ鹿の声
○つきぬ名ごりにたゝぼうぜんとあとで気のつくたばこいれ
ねの部  火水未済
○ねがひとゞいてヤレうれしやと思やおまゑのまた浮気
○ねぐらさだめぬ蝶鳥さへも」(十八ウ)花の色香にや引される
○ねんの明(あく)日を待ほどならばお部屋でおまへをせかしやせぬ
○ねじめさためておへやへすわり年(ねん)のますのもおまへゆゑ
○寝てもさめてもおまへの姿恋の情かよ目に見ゆる
○ねんの明のをゆび折かぞへほつとひと息目になみだ
○念がとゞいてうれしきあふせつもるはなしの跡やさき
○寝まきひとつで側はなれずにぬしにもたれてくらしたい
○寝てはかんがへをきてはふさぎこんなつまらぬ事はない」(十九オ)
なの部  火地晋
○ないてゐずともどきやうをすへてなれし廓(くるは)をあとに見て
○なくもぢれるもふさぐもおまへ気げん直すもまたおまえ
○ないてくれるな涙で家根のもるほどそなたにはまりこみ
○なくもぢれるもふさぐもつとめこれが苦界の一チ二三ン
○なかざなるまい野に住かわづ水に逢ずにゐられうか
○なかがよいとてゆだんをするな〔とみ本おしゆん〕(すみとすゞりのこいなかをたが水さしてぬれぎぬの)とんだあくまがぢやまをする」(十九ウ)
○なみだもろいと山葵にまでもあまく見られる身のひごろ
○永い年季をかみ一まいにふうじられたる身のつらさ
○ながいねんきを口やくそくでおやもゆるさぬつまさだめ
○撫つさすりつ大事にされてうちに寝るときや柏餅
○なくになかれぬ今宵のしだら〔清元山かへり〕(おやがしかろがせつかんしよが)ほれたお方がよさりやうか
○情うる身のアノつぢ君も宿へかへればおかみさん
○ないてうれしいゆふべにかわりわらつてせつない此ざしき」(二十オ)
○ながい浮世にみじかい命けふも一日かへしやせぬ
○なまじ互にあらたまるからおかしく人の目にもつく
○内証はできても世間があれば媒人(なかうど)たのんで御こん礼
○ないて咄せばつとめとなぶりこれが笑ふてさ(ママ)なさりよか
らの部  火天大有
らくをふりすてわが心がら知らぬ他国でくろふする
○らちもないこと又いひつのりそれを手にして切(きれ)る気か
○楽なくらしものぞみはないがくがいはなれて友かせぎ」(二十ウ)
○楽なやうでもあまたの人の気づまとる身は気がもめる
○らちもないことさもぎやう山にないてじれたり笑つたり
むの部  火沢●(けい)
○むかふかゞみのたばこの煙りちよつと中をば通り雲
○結ぼれしゑにしの糸ほどふしぎはないよ今はからまる床のうち
○むすめ心のたゞひとすじに星へ手向の恋の糸
○むかしや馬道今かごの道通ひくるわの恋の道
○むすんだ侭なる枯のゝすゝきにくい夜風が身にしみる」(二十一オ)
○胸に釘打て替つた親への意見ぎりと情はつらいもの
○梅のむすめに柳のわかしゆを雛女びなのさくら色
○むかふもいやならこつちもいやよてんからむしがすかなんだ
○むねに手を置筆取直し〔とみ本こいな〕(文のたよりですましてもあはずにゐれば気にかゝり)どうすりやまことがとゞくやら
○梅にうぐひす竹にはすゞめわたしやおまへをまつばかり
○むらさきやこうこうでおしだしやよいが主によく似て覚(さめ)やすひ
○結ぼれた胸の思ひもさらりとと」(二十一ウ)けて主にあふぎの凧の糸
○梅と竹とをならべて植て千代に八千代に花の兄
○むりな願ひもわしやかけ糸のぬしをまつりの星今宵
○梅にうぐひすぬしにはわたしはなれぬ中じやとあきらめな
○梅ぼしの様な親父もその前方は花をさかせしすいのはて
うの部  火雷噬●(かう)
○うは気ものだといはりよと侭よ〔清元山がへり〕(よつ谷ではじめて逢ふた時すいたらしいとおもふたがいんぐわのゑんのいとぐるま)めぐりあふたもいんぐわどし」(二十二オ)
○うそもまこともみな覚やすひかわらないのがじつとじつ
○うそと知りつゝ気やすめ上手ふいとのります口ぐるま
○うちの苦労や気がねもわすれ世界ちがひの四ツ手かご
○薄きゑにしかひとえの花にとかく来て吹仇あらし
○うつし植たる花にもやどをかりにくるわの蝶こてふ
○浮名たつみと八まんがねもよそにとめたよ朝しぐれ
○浮て花さく水草なれど底の大根(おほね)はきれはせぬ
○うちじやもてるが遊じやもてぬ」(二十二ウ)女郎(ちやうろ)かいをばやめにした
○鶯の声も聞ねば月日もしらぬ深山住居(ずまゐ)もぬしゆゑに
○うたぐりぶかひとさげすまるゝもみんなおまへのためばかり
○ういたつとめで情はうれど心にかけがねじやうもある
○浮名たつみの小窓を明てぬしの来るのを松の風
○嬉しがらせつまたおこらせつわざはいまねぐも口がもと
○うるさすぎるとあいそがつきるりんきぶかひもほどにしな
○嬉しい中にもこわいがさん分(ぶ)ほれたお人に新まくら」(二十三オ)
○うかれさわぐは千鳥のくせよおしはつがひの浪まくら
○うそと知らずに百夜も通ふ穴のないのに気がつかず
○うそと知りつゝもしやと思ひまただまさるゝも恋の情
○うたにひとふしこ声の小いきおかほ見たさのしやうじごし
ゐの部  震為雷
○いつかあふみの山ほととぎす恋にこがれた仲の町
○いやなせりふも恋路のやみにまよふたがひのうんの月
○いつもかわらぬたがひのしうちいやみつらみも恋のじやう」(二十三ウ)
○今はたがひに人目をしのび〔清元おちうど〕(やぼないなかのくらしにはたもおりそろちんしことつねの女子と言はれてもとりみだしたるしんじつが)やかてはれたる女夫(めうと)中
○いやになりんこお部屋のこゝとひやくもせうちのくそどきやう
のの部  雷地予
○のぼりつめたをしやくりにのつてきれてくやしき凧の糸
○のろけしやんすなその口ほどは先ぢや思はぬうわきもの
○野べに飛かふ蛍しやないが〔うた沢はぎきやう〕(きみをまつむし夜毎にすだく)心がらゆへ身をこがす」(二十四オ)
○後はたがひにまことゝまこと初手は浮気が小だのしみ
○のこりをしさに跡見おくりて月をあいてにひとりごと
○軒に巣をくふつばめでさへもしん苦しのいて添とげる
○のとへ出るほととうなすおさつたべて見たいか身のねがひ
○軒をならべしアノ松かざり松と竹とに木かもめる
おの部  雷水解
○おまへいやならつんつんさんせわたしやわたしでじやうたてる
○おいものおでんてしうとゝむすめみそをつけたかやつちよるね」(二十四ウ)
○おれも男たくちではいはぬ胸にはだんだん末の事
○おつなはりからついかうなつて今じや人にも気がねする
○沖のしら帆を待品川であわやかづさのかただより
○おつなてうしで心のこまのくるつてつないた三の糸
○おまへ木性にわたしはかねよきがねするとは知れた事
○思ひさだめて切文かけどとかく涙で字がにじむ
○思ひきれとは死ねとのなぞか〔清元おそめ〕(おとこごゝろはそうしたものか)じやけんもたいていほどがある」(二十五オ)
くの部  雷風恒
○くらいいひわけはれたときいてすこしあんどの明りさす
○ぐちをいふのもおまへの為よしらずば仏てくらしたい
○くるわはなれて素足をたびにはやく世帯がして見たい
○雲の絶間をもれ出る月にさへて聞ゆる紙ぎぬた
○苦界する身にまことをいはせ〔とみ本たゞのふ〕(まことあかしのうらみなくそしてあかすがじつのじつの)うそはおまゑに先こされ
○くもりがちなる心もしらずうわのそらだよ澄(さへ)る月」(二十五ウ)
○くろふするがの高根の雪よとけぬ思ひに身をこがす
○くるわの桜も見あきてはやく見たいおまゑの寮の菊
○くめどへらない汲ねどつきぬ井戸の水性うわ気性
○呉竹の欲をはなれて操を守りほかのとのごの肌しらず
○くもに頼んてしばしがあいだ月の光りがかくしたい
○くろふするのも元よりかくご〔うた沢のほり〕(糸とる手はざちんしごと)しても何所(どこ)まで添とげる
○くもりがちなるもなかの月ははれて逢れぬ辻うらか」(二十六オ)
○くろうするのはからだにさわる〔清元きせん〕(なみたつむねをおしなでゝ)やるせなみだの茶わんざけ
やの部  雷天大壮
○山家そだちと笑はゞわらえ吉野はつせは花どころ
○やつれすがたでかうしにもたれ月の面(かほ)見りや思ひ出す
○山ほどつもりし思ひのたけを雪のあしたのむかひ酒
○ゆうゆうと月が晴ればおまへが曇るなぜに今宵はかうだろう
○やぼにしていきぢを春の淡雪ならでま夫に解(とく)るではらがたつ
○やすいやうだがかんがへ見れば」(二十六ウ)気がねするだけ高いもの
○山吹の色に迷ふて浮名はたてど当ざの花にはみがならぬ
○やがて夫婦となるみのゆかた思ひそめたもむりはない
○やみの千草に宿かるむしも月にこがれて鳴あかす
○やくやもしほに身をこがれつゝぬしをまつをの浦の茶や
○やねでさわぐもやかたにのるもどれもにたりのすゞみ船
○八重の山吹はでにはさけど末は実のない事ばかり
○やきもちらしいがいはねばならぬたとへどの様(よ)にぶたりよとも」(二十七オ)
○やよいなかばに粧ひかざり隅田や上のへ花くらべ
○やくに立うがさてたつまいがおれもおとこだ末を見ろ
まの部  雷山小過
○まわしびやうぶの鴛どりながめひとり寝るならうちへねる
○まゆ毛落したわたしの顔は青葉がくれのおそざくら
○待がつらいかまたるゝ身にもつらい吹雪の四ツ手かご
○待がつらいかまたるゝわしがうちの首尾して出るつらさ
○まこと明すにうたぐりぶかひ〔常はづげん太〕(まくらのしたへやる手さへ」(二十七ウ)つとめにはなればからしひ)これでもうたがひしやんすのか
○松の太夫(たいふ)といはるゝ身でももとはかむろのみどりから
○まゝになる様でならないからはいづもでもめでもできたのか
○まゆ毛落してざしきを引てきげんとるのもぬしばかり
○侭になる様でならぬがうき世笠来てくらしな人ごゝろ
○廻しびやうぶのたおれた縁で〔うた沢〕(ふつと見かはすかほと顔)となりどふしのおちかづき
○まゆ毛かくした雁がねびたひアレサかへ名をよびなんし」(二十八オ)
○待もうらむもおとゝい来なもつらいつとめの中にある
○まるに井の字の白井の水にあらいあげたる小むらさき
○まくら引よせまた寝の床にぬしの姿の夢うつゝ
けの部  雷沢帰妹
○けさもけさとて柱であたまあいたかつたとめになみだ
○けいせいはどこで鳴てもろうかで笑ふわしに鳴のはほんになく
○けいせいも元は素人しそうな娘うそも実も人による
○今朝もけさとてお部屋のこゞと寝ごとゝおならを気をつけろ」(二十八ウ)
○けんばんの札をけづられどきやうの音じめどふか糸道つくだろう
○けんくわしてせなか合せも夜風がしみて寒くなつたと中直り
○けいせいに誠ないとはそりやけいせいにうそいふお客の口ぐるま
ふの部  雷火豊
○ふりつけられたる夕べのしやくのはらを直して笹の雪
○ふたつない気で迷ふたものを心しらずの水の月
○ふられたばかりか雪にもふられうちじや親父がくびをふる
○ふつとこい茶の口切そめてむねのふくさがさばかれぬ」(二十九オ)
○ふらばふらんせおまゑのくせよわしがなみだの五月雨(さつきあめ)
○筆はかわいやはなれてゐても〔しん内夕ぎり〕(しらかみにかくふみのつてへんじとる手もこゝろせき)恋しゆかしのたよりきく
○ふられた跡で又照らされて狐のよめ入じやあるまいし
○ぶたれたゝかれ其手にすがり〔しん内ふぢかつら〕(わたしがつよくさからはゞすいなおまへのおこゝろがかわりやさんすであろふがの)訳をいわねばわかりやせぬ
○ふられたうらみにコレおいらんとぶつとひとつの置みやげ」(二十九ウ)
○ふたつ来たよりひとつが床し花にゆらるゝ蝶の夢
○文のうはがきや薄墨なれど中に恋事が書てある
○ふられながらもまだうぬぼれてたまにやひとりで寝るもいひ
○ふたつならべし此まくらばし渡りに船とはこゝのこと
○ふたりがゑにしはアノ輪餝(わかざり)よ丸く結んでとけはせぬ
○ふかくなるほど人目をしのぶ〔とみ本おしゆん〕(たゝずむのきはめおぼへの)たしかこゝぞとせきばらい
○ふぢと筑波が何似るものか思ひ思ひの山のなり」(三十オ)
○ふつて来るとはいゝ辻うらよとふぞぬれたい我おもひ
○夫婦親子の中よいうちはほうこ人までつとめよい
○ふざけさせるは男のせいよ女に鼻毛をのばすから
○ふぎりさへせにや世間はひろいたとへまづしくくらしても
○ふところが豊ならねば万事につけて行とゞくとはほめられぬ
この部  巽為風
○この雪によう来なましたと互につもる思ひの深さをさして見る
○子をとろ子をとろ此子が目つき赤い仕かけのゆきの肌」(三十ウ)
○氷る硯にいきふきかけてこぼす涙にしめる筆
○こたつやくらで恋路の角力アレサ人目の関がじやま
○心せかずにさめないやうに松と竹との末ながく
○格子ほそめに何のたまはくしろめが恋する雪の中
○恋の初瀬のつぼみのさくらいつか夜露にほころびる
○この世で添はれぬ悪縁ならば〔常はづおつま〕(アノ寺まちをでぬ先はわたしひとりも死ぬかくご)はすのうてなで新世帯
○これかあれかと迷ふてゐてはいつも定る事はない」(三十一オ)
○恋のしがらみせきとめかねてきれて流るゝなみだ川
○恋を信濃の木曽路の橋よあやふいところが色の味
○心さだめてあいさつしやんせ〔しん内明がらす〕(どうで死なんすかくごならさんずの川もコレ此様に二人手を取諸共に)〔常はづおはん〕(ほれたがいんぐわかんにんしていつしよに殺してくださんせと)それじや男もおよばない
○こゝろの竹やのかしからわたり二度の花見で夜を明す
○恋しゆかしいおまへのすがた寝てもさめても夢うつゝ
○心にかわりはゆめさらないが」(三十一ウ)すねて見たいが恋のよく
○小鍋立雪のあしたのゐつゞけ酒もかぶるどきやうの三ツぶとん
えの部  風地観
○江戸の夜たかは難波(なには)のそらかそわぬながらもひと夜づま
○ゑりにつくのも操のひとつつまるところはぬしのため
○酔ざめの水にすました口舌のもつれ腹のそうじのかんびよウする
ての部  風沢中孚
○蝶とちどりは兄弟なれどやんまとんぼはかたきどし
○手なべぐらしをいとはぬ気ならふたり気まゝに寝てくらそ」(三十二オ)
○手なべさげるはおろかな事よどんなひん苦もぬしのため
○手づるもとめておくりしふみが今は浮名のひやうばんき
○てつぽうの玉のおとづれ気もとびだう具ぬしのはなしはからばかり
○亭主がぢやんこで女房がどんで始終どんちやん大さわぎ
○天きや晴てもわたしのこゝろなぜかうつうつくもりがち
○手ぬぐひまふかに格子を覗き〔夕ぎり〕(あはずにいんでは此むねがすまぬ心のうちにもしばしすむはゆかりの月のかげ)」(三十二ウ)恋にうき身の小くらがり
あの部  風山漸
○青いすだれのうちからのぞく花がめにつくさくら草
○あいそが月夜が秋られやうがいま更科よくきれはせぬ
○あつくないたるわたしでさへも雪の夜道は身にしみる
○秋が来たとて苦労をしたが丸くをさまるけふの月
○淡雪と書て送りしアノ玉づさはとける心の恋のなぞ
○あれさおよしよ見られちや悪い花を折なとかいてある
○青柳の糸のもつれが」(三十三オ)さらりとのけて嬉しさふだよ月の顔
○仇なすがたのよい山ざくらどうか手いけにして見たい
○あかぬ恋路に引とめられて袖にわかれの花の露
○あアモぢれたや空とぶ鳥は〔とみ本まつ風〕(あの鳥さへも女夫(めうと)女夫の諸つばさ)ゆくにや行れずかごの鳥
○あれ見やしやんせアノ雁がねもいとしかわいのめうとづれ
○あんなすなをな柳でさへも風にかたよる意地をだす
○あきもあかれもせぬ中なれど義里といふ字てないてゐる」(三十三ウ)
○あやめかきつばた似た中なれど今は目にたつ花せうぶ
○あぢきないぞや草ばの露の風にちるとはいぢらしい
○秋の蝶さへつがひでくるふあれも旅路のめうとづれ
○紫陽花のはなによく似たおまへのこゝろかわりやすさの色ぐるひ
○あへば別れとさてしりながらかへしともなや雪の朝
○秋の夜寒を身に打よせてあわぬきぬたのむらひやうし
さの部  風天小畜
○酒がいわするこゝろのたけをうけてこぼすはなさけなや」(三十四オ)
○桜の花さへくるわに住めば夜のつとめをせにやならぬ
○五月雨の闇に迷ふも恋路のならいいつか晴間を松の月
○さん俵かぶせられたる水仙さへも寒苦しのいて花がさく
○咲た花ならちらねばならぬうらむまひぞへ小夜あらし
○酒もやめようたばこもよそうやめてやまぬが色のみち
○さきは主もちたよりは知れず行て見たいにやかごの鳥
○相模下女なら立(たて)にもふるがふるもふられぬほれぐすり
○さみせんのばちのあたりでふつつり」(三十四ウ)切れてくろふ引出す三の糸
○澄(さへ)る夜の池に浮寝のアノおし鳥がたつてにごさぬ池の水
○小夜更て月にうかれしアノほとゝきす逢たい見たいとこかれなく
○咲たとてあてにならぬはおまへの花よ草の花さへ実とはなる
○五月雨のある夜ひそかに小窓を明けりやそつと出てゐる月の顔
○さだめなき身を定るからはともにかせいて添とげる
○さだめないとは時雨のことよまたも紅葉に気をもます
○廓(さと)の意気地で今までよんでなんで浮気を出すものか」(三十五オ)
○さえりや猶さら浮気の月をわたしやたのまぬ胸のやみ
○さつしておくれよ花ならつぼみばんじいたらぬ事ばかり
○酒を嫌ふてぼたもちや喰へど恋とさくらにや下戸はない
○さいけんを取て投たす女房もりん気文なら角てもはへるたろ
きの部  風火家人
○きみとわたしはひよくの鳥よ苦ろうしながらはなれない
○聞も咄すも人目をかねてせなかあわすもすゝみ台
○切(きれ)る覚悟でかぶりはふれどいつかむすばる凧の糸」(三十五ウ)
○きりぎりすきうり切られて扨籠の鳥〔とみ本むしうり〕(ちぐさにすだくむさし野のあぶみにあらぬくつはむしいなごすゞむしこがねむし馬おいむしのやるせなやわれはおよばぬみのむしなれどちゝよとなかでこひに身をやつれはてたるきりぎりす)おやは草葉のなかでなく
○君をまつらにひれふるわたし心づくしの小夜の雪
○気ぼねくろふもあふたのしみと思へば寒さもいとやせぬ
○気にいらぬ風もあろふとおきやくにいはれふるにやふられぬ床のうち」(三十六オ)
○きりも意気ぢもみにつまされて今はたがひに忍びなき
○気やすめ聞ても嬉しく思ひ〔とみ本〕(どうで女房にもちやしやんすまいわたしばかりがほれてゐてうそのへんじを誠と思ひ)かげじやさだめし笑ふだろ
○着ものくひさきぢれては見れどきやくと言はれてうす化しやう
○きりこどうろのうわべのかざり腹も実(み)もないこゝろよし
○きりぎりす鳴や霜夜にはるなが見せもおまへゆへじやと目になみだ
○ぎりも人情もけふ此ごろは」(三十六ウ)すてゝ逢たひ事ばかり
○来てはわたしに無理いふ紅葉しかとさだめた事もなく
○木(き)の実や木のもともまれて落てぬしのなさけで拾はれる
○ぎりの一字とせけんの邪まにへだてられたる窓の月
ゆの部  風雷益
○ゆめで見めぐり来るかとまつちあへばこゝろもすみだ川
○行つもどりつ心でしあんうちの不首尾もあんじられ
○ゆきの夜も川といふ字のによう房をすてゝ行様(ゆくよ)なおまへはにほんぼう」(三十七オ)
○夢になりとも知らせんものと娘ごゝろのものあんじ
○雪をかむつて寝てゐる竹を来てはすゞめがゆりおこす
○雪はちらちら待夜はながしヱヽモぢれツたいちやわん酒
○雪のだるまとおまへの心こけるたび毎丸くなる
○雪もいとわず通ふてくれるぬしをひとりで寝かさりよか
○雪のふる夜は身にしみじみとつもる思ひにぐちばかり
○雪が降つむねぐらの木々へもどる小鳥が枝まよい
○行くれて人に宿かす主の花も」(三十七ウ)朝のわかれは袖の露
○夢の浮はし渡りにふねと思ふにかいなき此はやせ
○雪の中にも梅さへひらく人もじせつを待がよい
○行暮てこゝの二階をわしや宿とせば花は今宵の太夫職
○雪の庭ぐち誰がふみはけて二の字くづしの下駄の跡
○床しいおかたと文書そめた墨も恋路のかけすゝり
○雪が降てもぬしさへ来ればさほどつらいと思やせぬ
○雪が取もつ今宵の首尾はぬしとちんちんかものなべ」(三十八オ)
めの部  風水渙
○めぐり逢ふ日もまたあろふかとほとけだのみの身のつとめ
○あふとやくそくおよびもないが〔ときはづ角兵へ〕(ありのおもひもてんとやらどふで女房にやなられぬけれど)せめておそばでみやづかへ
○めでためでたが三ツかさなれば庭につるかめ舞あそぶ
○めくらへびじやと世のくちなはも後の手だての山かゝし
○めん鳥が時を作つておん鳥鳴かすわたしや主ゆへなきあかす
みの部  坎為水
○水ももらさぬその中々を」(三十八ウ)月の影もるまくらもと
○三日月のまゆげ落して雪解のふじの花の笑顔にまよはせる
○未練らしいか遠のきながら見るもさくらのひとけしき
○見さだめた的かなければ心のまゝになんぼ矢たけに思ふても
○水の流とわが身のうへはどこにとゝまるあてもない
○峯の吹雪にとゝかぬ恋は仇な風にもちる浮名
○見すてさんすなわしや蔦紅葉からむたよりはぬしはかり
○みれんらしいか切れたいほんのとらざのがれの口ふさぎ」(三十九オ)
○水をあけてもため直しても活(いけ)て久しきものじやない
○みれんなやうだかぼたんはぼたんほかに見かへる花はない
しの部  水沢節
○しんぼしなんせ雪間のわか菜やがて嫁菜の花がさく
○忍び足して閨の戸あけてそつとたち聞むしのこゑ
○忍ふやくそく誰(た)が水さして氷る妻戸のうらめしい
○じみな恋中誠とまこと雪のしら鷺目にやたゝぬ
○しら紙に染て朧なまいらせ候は恋のつぼみの筆のさき」(三十九ウ)
○思あんするほどしあんは出ずにたまに出るのはぐちばかり
○始じうそうしたりやうけんならば今が思案のきめどころ
○忍びあふ夜はきぬたの音もいつかみだれし月のそら
○じぶんの心がじぶんでしれぬ〔清元明からす〕(あふたしよ手からかわいさが身にしみじみとほれぬいて)もとめて苦ろふをするはいな
○じつをつくすも不実をするも心ひとつの先しだひ
○じつと抱しめ目とめを見あい〔常はづおつま〕(めいどへいそぐたびごろもうすきちぎりの八郎兵へ)」(四十オ)こゝろで鳴てもわらい顔
○じゆうになるとて我侭するなみつればかけるが世のならい
○じせつ待りよかアノ梅さへも春をまたずに花がさく
○〆る障子におもかけのこす閨にうれしき月の梅
ゑの部  地水師
○ヱヽモうらめしじやけんな人と思ひながらも切れられぬ
○ゑんはいなものおほしにめくらいつ所になつたらひとりまへ
○ヱヽモじれつたいとなりの三味よ人がふさぐにアノさわぎ
○酔ふたしやつつらつくづく見たら」(四十ウ)はくそよだれにすじだらけ
ひの部  地風昇
○ひとのながめとなる身はほんにつらひかなしいかごの鳥
○ひよんな浮気をするのも楽なゑよう過ての菜(さい)ごのみ
○びいどろのきれいな入物ぱつちりわられしろ酒こぼしたひなの前(まい)
○人目ありこそ三すじの糸でひいて聞せるわしがむね
○人がそしればわたしもそしるかげて逢たびなくばかり
○人目しのんで手折りし花も今はざしきの床ばしら」(四十一オ)
○百(ひやく)たびいふても主ある身では〔とみ本〕(くどふいふのがおまへのくせよなんぼその様にせかしやんしても)みさをたてたひこゝろざし
○日に増(まし)はんじやう家とみさかえ上下そろふてむつましや
○ひと筋にぬしを便りにわしや咲花よ外にちる気はないわいな
○人目せかれて明りをけして月に見らるゝかくし文
○ひやうぶの中をば覗いて見たらあしか四ほんでちくしやうめ
○人目ありやこそわたしのこゝろめかほてしらせるそのつらさ
○久しく逢ねばすがたも顔も」(四十一ウ)かわるものかよこゝろまで
○ひろいせかいがせまくもなろがよこに車の恋のみち
○広い世界におまへとわたしせまくたのしむ窓の月
○人もかうかと身に引くらべなみだもろいも恋の情
○人はしら糸まだしら絹の深くそまりしこむらさき
○びんのほつれをそとかきあげてやつれ姿もわたしゆへ
○人目石州芦屋の釜にしゆびを松風茶たてむし
○引よせてじつと見つめる柳の芽からほろりとこぼせしひと雫」(四十二オ)
もの部  地山謙
○もしもこのまゝ逢れぬならば〔ときはつせきのと〕(いやとよ我は恋ごろもはやぬぎすてゝうば玉のすみの衣のたらちねの後の世願ふぼだい心かしきの道でさむろふぞや)ほかのとのごの顔も見ず
○百夜通ふたさてなさけなや〔しん内明がらす〕(たとへ此身はあは雪と共にきゆるもいとはねど此世のなごり今いちど)あふてうらみが聞せたい
○もくさんがかうもはづれて先手をこされ人の助言(ぢよごん)もうつてがへ
○もつれかゝつた恋路のはりはうでやちからでいくものか」(四十二ウ)
せの部  地火明夷
○せかれた主より苦界のふちのわたしや年季の水がます
○世事もせけんももふ捨小船切れてながるゝ涙川
○せめてわたしの半ぶんほども思ふてくれたら嬉しかろ
○せうじぴつしやり出て行跡はとがなききせるをたゝきたて
○せたいかためてヤレうれしやと思やおまへのまた浮気
○先(せん)の女房を去らした跡へはいる不実じや末とげぬ
○千里ひと飛恋にはうときとらの威をかるのらぎつね」(四十三オ)
すの部  地沢臨
○炭にたとへりやおまへはかた木おこりやわたしもあつくなる
○すいなむま味はやぼにはしれぬ〔しんない〕(すいなすいほどはまりもつよく)しんそこほれてはものがない
○末の末までもつれてとけてむねの柳に恋の風
○すぐる月日をかぞへて見れば年が明たら九十九髪
○すいなおまへにたらわぬわたし末のとげやうはづはない
○すへのとげない縁ならよしなくろふする身のかいもない
○すいもあまいもせうちのうへで」(四十三ウ)そんなわからぬりんき事
○すゞり引よせ書墨いろも恋の手くだのひと趣向
○すねたそぶりも常はの松の操たゞしき春の色
○すねた梢を手くだとやらでおつにからんだ藤の花
○末を思へば夜はしづしづと心ぼそさや秋の月
○水仙の雪にをされてうつむく形(な)りもとけてやさしき花の色
○末のやみ夜はわししらねども晴して見たいはけふの月
○すまぬこゝろを初雁がねの鳴て明石のうらみ事」(四十四オ)
○すいたどふしは目もとでしれる(「これはしたりめんぼくないモウこれまではいくたびかもらいおふかおふかと口まではそろそろでけたれどいひだしかねておりましたどふそじおまへにゆめになと「しらせたいとおもふから「マアマアしろきやのばんとうさまともいわれる身があさくさのおぢぞうさまへ七日のあいだばたしまゐりをいたしまたわいなイヤ申おぢぞうさまへこれはわたしがいんぐわでござりますどふそ此こひかないますやうにたつたいちどでよござりますまたはせうせうはんぶんでもしはんぶんでもかんにんいたしまするといつしんかけてねがふたらサアサアおぢぞうさまのごりやくといふものはイヤもふとんとあらそはれぬものじやわいおまへさまがわたくしにそれほどまでしんじうたつてこんやのむこがいやじやとはコレまアうれしいぞへかたじけない「わたしがわるけりやあやまろふすねずにおこまはんこいちやのほうをむひてくださんせ「これいなアこれいなアアヽわたしやさつきにかふをあはせておがんでばかりおりますわいなア)くどくやうでは出来はせぬ
○隅田のさゝらをアレみやこ鳥ほんにあづまの春げしき
端唄部類四編どゝ逸の部了」(四十四ウ)
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はうた部類 初二三編出来
歌沢能六斎正譜 五編近刻
哇糸のしらべ 初二三編出来
隅田了古挙編 四五近著
端唄稽古本 初二三編出来
大本形歌沢正律
滑稽笑談伯 初編近刻
菊葉亭露光作 年景画
画本早学 初編二編
墨塘了古細画 三編近刻
玉蘭画通 初編二編近刻
玉蘭斎貞秀筆
元治二乙丑歳仲夏
東都人形町通松島町
松延堂 伊勢屋庄之助梓」(見返し)



三、『新撰どゝ逸大成前編』(関西大学図書館蔵本)
 関西大学図書館蔵本(和装/911.655/U4/2-1)により翻刻する。
都々逸 前篇」(表紙)
新撰どゝ逸大成前編
歌沢能六斎集
当世同寿梓」(見返し)
行水の流は絶ずして、しかももとの水にあらずと、鴨の長明かいはれしは、どゝ逸ぶしのこと也けり、五六十年以前より流行して、今に至て廃ことなく、その文句はしかも旧のもんくにあらず、日々新作の詞花言葉、意は詩歌にをとらずといへども、詞賤しきをもて同席せられず、仮令をなじ流の身なれど、全盛三分の娼妓と、小莚一枚の辻君なるべし、爾(さ)れば都鄙老少男女、どゝいつうたはざる」(口ノ一オ)通客なければ、諸家の秀作多かりけるを、こたび新古のわいだめなく、撰集して大成と号け、且加ふるにわが連中の、新作をもて補ひしはしかも旧のもんくには、あらざらましと云れん為のみ
万延二酉孟春
隆興堂主人
鰥寒翁谷峨述」(口ノ一ウ)
目録 唄員通計七百三章
○正述体(ありのまゝうた) 唄員三百四十章
おもふよしをうちつけにうたふ也たとへば
たまにあひ嬉しいちよんの間わかれたあとはつねになほますもの思ひ
○寄物述思(よそへうた) 唄員二百六十七章
ものによそへて思ひをのぶるなりたとへば
めくる因果の車のわたしひくにひかれぬ此しだら
○名所地名 唄員九十六章
ところの名によせてこゝろいきをあはす也たとへば
ぬしにわかれてそれ辛崎の夜ごとなみだの雨ばかり」(口ノ二オ)
(絵)
まれにあひ見しうきねのとこにゆめなさましぞかねのこゑ
この図は元禄十二年の印本「糸竹大全」に載る所の摸写(うつし)也右の文句当世なげぶしとあり其ふしも手もことなれども唱哥においては今のどゝいつにうつしてうたへり」(口ノ二ウ)
新撰度独逸大成全
歌沢能六斉輯
○正述体(ありのまゝうた)
孝を立れば人情がすたるこゝろふたつに身はひとつ
早く染たいわたしのねがひいつまでしら歯でおくのだへ
そんなに己(おいら)を疑るやうじやそなたのこゝろもきまるまい
髪もゆふまいけせうもせまいかたの付までむすびさげ
うたゝ寝のさめてためいき心のもつれ人にヤはなせぬ此しだら」(一オ)
末もとけない気安めならばよしておくれよ今のうち
是といふきずもあるならあきらめやうがあくまでぬけめの無いお人
ぬしの冷酒ひやりとするよきつとこれからよしなんし
たまたま逢ときヤめもとがうるむ泣にもなかれぬ人のまへ
義理をかいても斯(かう)なるからはあくまで女房にもつこゝろ
人にやいはれぬわたしの病灸もくすりも水の沫(あは)
ひとり寝る夜も枕をならへひとつはぬしとだいて寝る」(一ウ)
ほとにひかされついうち解て人にヤいはれぬ此くろう
つらい勤の辛防とげてらくなそひ寝がして見たい
そはれぬ縁じやとしりつゝ惚て死んでもそはずにヤゐられない
わたしゆへにはおまへにまでもくろうさせるがいぢらしい
わたしヤ年わかまた親がゝりおもふおまへは女房もち
逢たい見たいは山々なれどこゝろにまかせぬ親かゝり
友達にわからぬ男のつくり名かいて心でたのしむ縁むすび」(二オ)
あふは別のはしめといへど死ぬまでわかれてなる物か
今のくろうに百倍まそがそふたうへならいとやせぬ
きれたお方のお顔を見ればふさぐこゝろが恥かしい
ふとした事からついのりがきて今はかた時わすられぬ
切(きれ)るかくこて斯(かう)なるものかたとへうは気で出来たとて
しれちやならぬとかくして居れど思はずのろけが口へ出る
見まいと思へとついお互に顔見合してはしらぬかほ
逢ていはふと思ふたことも」(二ウ)いはでわかれてあとくやむ
りんきらしいと言んすけれどだれかこんなにぐちにした
もしやさうかと悪察(わるずい)まはし口うらひくのもほどにしな
わるく言れりヤともどもむりにけどられまいとて悪くいふ
ぬしをかへして又寝の夢にまくら抱しめためなみだ
内でしつけぬ此水しわざそれたおまへのこゝろがら
たまにあふても人目があればつもるはなしもなくばかり
しつてしらない顔さるゝ程こゝろくるしいものはない」(三オ)
かわいさうだよきはどい間にもめかほしのんで逢にくる
しのびあふてもはかなきあふせたばこのんでも身にヤならぬ
待もせぬ客はくれどもまつあの人は声もまたせぬじれつたさ
為を思ふていけんをするに腹をたつとはなさけない
もとを正せば他人と他人あらひだてすりヤぬしのはぢ
つまらぬ事からうたくる物のわけをよくきゝヤ恥かしい
をかしらしいと心を付て見れば目につくことばかり」(三ウ)
あんじなさんなよおまへを置て外にうはきをするものか
たまにきてさへ咄もてきず顔でわらつてむねで泣
末はとうかとあんじるやうでてんからいろになるものか
うつゝ心で柱にもたれ起てゐながらぬしの夢
せつかんもなんのいとをふ命もやつた男ゆへなら苦にはせぬ
癪を押(おさへ)し其手を押へぬしのたんきで此やまひ
ぬしのあるのに命をかけてまよひそめたが因果づく」(四オ)
恨いふのもすねるも泣もみんなおまへがさせるわざ
たよりすくない此身の上としつてゐながらにくらしい
茶だちしほだち火の物だちてやせたもみんなぬしのせへ
思ひ切とはむかしのことよ今さらいけんはやぼらしい
おもふわたしに思ぬおまへどふでうは気はやみヤせまい
人のいけんも火水の責(せめ)もなんのいとをふ恋のいぢ
腹たゝせぐちをいふのもみな実ぎからたふざの花ならかひはせぬ」(四ウ)
おもふ心のとゞいたこよひはれてうれしきひとつよぎ
あふて嬉しきわらひの種が朝はなみだのたねとなる
末はどうかとあんじるやうな浅いほれやうをするものか
はらが立ならどふなとさんせおまへにまかせた此からだ
むかふ鏡にやつれた姿誰ゆへこんなにくろうする
絵にもかゝれぬ互のまこと一所にならいでおくものか
人目多さにたまたま来ても顔見るばかりでじれつたい
女子(おなご)たらしのおまへに惚て」(五オ)今じやいへないくろうする
梶の葉うらへ書名がしらも人に見られてはづかしい
帯もとかいであふ身が嬉しそへばなんでもない女房
こんな心にしたのもおまへ今さらあきてはかわひそふ
うは気せうばい笑はれながらこゝろの錠まへあけはせぬ
鶏(とり)にわかれたむかしのからだ今じやいつまで寝てもすむ
跡の為だとかへして見ればはなしが残てまゝならぬ
うはきなおまへにまじめな私むすびちがひのあだ縁(ゑに)し」(五ウ)
なみだもろいは女の常かわざとじらすとしりながら
火ばし持てもおまへの名の字ふだんこゝろにたへぬから
遠くはなれて待身のつらさ鳥の影さへそらだのみ
今朝の夢見によろこび烏こゝろうれしきねずみ鳴
たよりない身にたよりができてもとめて苦労をするはいな
筆にいはせた心のたけをあへば何やらくちごもる
あんじるなやがてくろうをさせたもしたも寝ものがたりの種にする」(六オ)
文をやつても只かたたよりわたしや是ほどおもふのに
雨はよいもの昼さへそばへよつて居れども邪魔がない
今さら互にうは気もできヨウかたいかいなに入ぼくろ
ちよいと逢ねば心もすますあへばひかるゝうしろ髪
かくすほと猶人にもしられ浮名たつほど切はせぬ
くろうするのはてんからかくごいきな亭主をもつからは
人めしのんで逢ひきしたも今しやはなしの種になる
ほれたお方に又惚られて(ママ)」(六ウ)
ほれた性根を見すかされてかやみとよはみへつけこまれ
としより過ると笑はゝわらへわたしにヤ大事な内の人
おもふとほりに願もかなひ実に嬉しい身の果報
親兄弟にも見かへた人をあひつにとられてなるものか
格子の内からそれとはしれど人のみるめにしらぬふう
さうした浮きがある程ならばなんでこんなにぶたれよう
切もせずあふもならずの身でゐるならば神や仏をたのみヤせぬ」(七オ)
手なべ提(さげ)てもあの人ならば欲をはなれて恋のよく
かはる枕になさけはうれど心をうらぬがぬしへぎり
いたらぬわたしが心のくろううはべばかりをはでにして
はなしもきかずに又癇癪のやけじや理道もわからない
此ころはなみだもろいとわらはれぐせがついてふさぐもぬしの事
土地はもとより世間はなほもひろくさせたいこちの人
をそまきなからも辛防さんせトいふてなみだにむせかへり」(七ウ)
蚊屋を出てから又みる寝顔かうもゆかしくなるものか
二日あはねばとつこしぐろう風のくさめも気にかゝる
人のほめるを亭主にもてばうれしいながらも気がもめる
今のくろうも楽ましやんせねものがたりの種にする
きゝわけがないとわが身でしつてはゐれど思ひきられぬ恋のよく
むかしの馴染(なれそめ)からふたりしてのろけあふのもたのもしき
義りといふじにわしや別るれどすへであひましよ弓のつる」(八オ)
かあい男をかへさにヤならぬにくい鴉とあけのかね
実もまこともつくしたふたり今さらうは気をするものか
惚たがむりかよ心も顔も男にヤやさしいつまはづれ
ぬしはいゝ気なもう寝なんすかわちきのこゝろもしらないで
いひ度ことは山々あれど顔みりヤさうは口へ出ぬ
物思へとやばんしの事にやさしいからして忘られぬ
うは気せうとはしりつゝ惚てくろうするのも心がら
たらはぬくちても女子(おなこ)は女子」(八ウ)すへのくゝりははじめから
いつそ死でと思ふちヤみれどいのちありヤこそ末もある
ばかよ頑(たはけ)とそしられながらおもひきられぬ恋のやみ
わたしは変つた心もないにぬしはくぜつのいひがゝり
実もふじつとなる身のつらさをくる茶やにもきりがある
縁も時節も誠かたよりあだやうはきでそはれふか
お部屋へ気かねもおまへが大事せじもつとめもぬしのため
たよりない身でつくした実ぬしはうはきできれことば」(九オ)
親の気にいりわたしもすいたいきで律義な人はない
切た当座はがまんもいへど日数たつほどおもひ出す
軽いしよたいもおまへと二人気がねせぬのを楽しみに
わけをいふのにまア聞しやんせいやでわかれる気ではない
人にいけんもしかねぬ主が人にいはれる此しまつ
つらい峠やかなしいうき世こしてけふ日のあら世帯
わが惚りや人もかうかと邪すいをまはしぐちなやうだがはらが立」(九ウ)
気にもかゝろが互の実はたへずたよりの文のつて
鏡にむかへばやつれた姿あいそかつきよとあんじられ
聞わけがないとおまへはいはんすけれときれるかくごで惚はせぬ
遠ざかるのはこらへもせうが人のしやくりか気にかゝる
朝な夕なの神しんじんもぬしに災難ないやうに
友だちヨたのめば時節を待とじせつまつなら頼みヤせぬ
心やたけに身ははやれどもさきへとゝかぬふしあはせ」(十オ)
苦労させたりしもするからはいやだあきたといはしやせぬ
私ばかりかほうばい衆がおまへの実意をほめてゐる
惚たしやうこはおまへの癖がいつかわたしのくせになる
おまへいやならつんつんしやんせわたしやひとりで情たてる
いやならよしやがれあきたら殺せいきのあるうちヤ切はせぬ
どけう定てあいさつしやんせ酒のうへだといはしやせぬ
欝(ふさ)ぎヤめに立とぼけてゐれど胸にしんくはたへはせぬ
ほつとため息枕にもたれ」(十ウ)たがひに見合す顔と顔
斯(かう)なりヤふたりが手ごとにヤいかぬまことあかして人だのみ
何をいふにもとし若なればはなすはなしもあとや先
気づよいばかりが男の情かすこしはなさけをかけさんせ
せくなせきヤるな時節を待なおもふてそはれぬ事はない
死なばもろともかせげば共に門にたつならふうふづれ
酒はもとより上戸じやないがあはぬつらさにやけでのむ
義りと世間と人めがなけりやこんなにくろうはせまいもの」(十一オ)
その酒をとめておくれよ飲せちやいけぬしらふでいはせる事がある
よかれ悪かれいらざるおせはわたしがめがねで惚た人
事とすべなら親子の縁も切ておまへもたつやうに
かへりヤさんすかちと待なんしはなし残した事かある
やめてくだんせつきあひ遊びかよふうちにはあつくなる
床のほてりもまたさめぬのにかうもあひたくなるものか
世帯かためてやれ嬉しやと思やおまへの又うごき」(十一ウ)
そんならさうかといひたいが二日あはずにいらりうか
おくばきりきりがまんはしてもいつかをぼへし癪とやら
のつきつた事をしたならなけきもせうとかばい立して此様(こんな)しぎ
かくし立していひ訳すればけつく目にたつ詞(ことば)じり
いくらこつても思案におちぬいれざなるまい人の耳
日にち毎日あふたる罰か今ははかなや遠ざかる
さういはしやんすな全体凝性(こりせう)人がいふほどやめられぬ」(十二オ)
はたじや何とも思ひもせぬにじぶんの邪推でさとられる
涙もろいとおいひだけれどこれが笑ツてはなさりよか
近所へ来ながら逢ずに行もじつは身の為すへの為
腹じや泣てもうはべしや笑ひほんにつとめのうらをもて
わたしや全体いちづなせいか人もさうかとひかされる
しあんしかへてみる気はないかそれじや苦ろうしたかひがない
へたな異見を聞気はないか唄の文句じや身にしみる
いけん言なといひ人もあれど」(十二ウ)わるく聞れりヤなほつのる
くるしいわたしの心もくんでたまにヤやさしくしておくれ
人にはなせばわたしの恥とおまへのうわ気をひしがくし
仕うちで惚たはわたしが悪い口をきいたはおまへから
めんと対(むかつ)てむねきな異見しらをきつてもかほへでる
人のうはさも七十五日どふせいちどは言れぐさ
ほうばいづき合いびつになればあれもしやくかと気のひがみ
頼みがひないおまへの胸をどふぞたのみにして見たい」(十三オ)
口へ出さねどくろうがあればどふかをしかと人がいふ
人にヤきかないおまへのそぶりじつにわたしの目にあまる
かんがへりヤかんがへるほどくろうがまそふ愚ちになるのもむりはない
はたじやまだ気も付ずにゐるにすねにきずもちや気の弱み
せうばい冥りで嬉しい晩はつねの苦がいをとりかへす
わか身でわか身がじ由にならめぢれてくひつく夜ぎの衿
相談づくなら遠ざかろふがとひをとづれはしておくれ」(十三ウ)
合せものはなれりヤ他人とそりヤ情がないうつくしづくならいつまでも
たまたまあふのにもういろいろとかはじやなん癖つけたがる
としが違ふがつり合まいがそれはおまへの逃かう上
ほかで見たのならをかしかろふがいふにいはれぬ事がある
おまへもわたしも主あるからだどふせすへよくそはれまい
もとめた苦ろうはわたしのすいけうどんなむりでも請(うけ)てゐる
末のくゝりはしてあるけれどおまへを思へばなきわかれ」(十四オ)
あはぬ身ならばあきらめよいがなまじ顔みりやます思ひ
つとめ酒をばあんまりのむなそれがしゞうは身にさはる
遠くはなれてくらすも時代(ときよ)からだ大事にしておくれ
むしをころして言れてゐるもみんなおまへをかばふゆへ
惚たよはみをみこまれぬいてねこそげおまへにぢらされる
つとめの身ならばどふしてなりとあげてたのしむこともある
おまへにあふたびわがまゝいふもつらいつとめのうめあはせ
いしゆもいこんもない客人へ」(十四ウ)つよくあたるもおまへゆゑ
文のたよりじやいなやがしれぬみれんなやうたが顔見たい
あはぬ昔とこらへもせうがどふぞたよりはしておくれ
かくれてあがれば心のひがみせうちしてゐてぐちがでる
口じやいはれずしうちじやできずぢれてふさいて癪のたね
できぬしんぼもおまへの為とつらい苦がいのうき月日
口でいはれぬくがいのつらさをしてごらんよ胸のはり
たつたひとりのおまへを便り鬼の中でもしんぼする」(十五オ)
寝がほのやつれを見つめてゐればなみだでおまへの目をさます
せまい二階で人目は多しぬしもつらかろわたしヤなほ
つねにやさしいほうばいまでがおまへをそねんでむかふづら
くろふさせたり気をもむ本は身から出たさびぜひがない
かげで嬉しい思ひがなけりや苦がいが片ときつとまろか
年季かぞへてふさいでゐればうれしいおまへの初会口
邪けんな親だと思ふてゐたがおまへとかうなりヤ結ぶ神
人にヤいはれずわが胸ひとつ」(十五ウ)なくもぢれるもこゝろがら
のろけばなしについのりがきてかくすおまへがくちへでる
らちのあかぬが月日と年季はやくふたりがあらせたい
つうなおまへにわからぬわたしなんでつじつまあふものか
そふて苦ろうは世上のならひそはぬさきから苦ろうする
やうすきかなきヤさぞ腹が立これにはだんだんわけがある
ぬしのかん癪日ごろの気しつどふできくまいとめはせぬ
遠くはなれてゐるかなしさはうわきよされてもぜひがない」(十六オ)
嬉しい中にもこはいが三分ほれたおまへに新まくら
女房もちとはしつてのことよほれるにかげんができやうか
深くなるほど人めをしのび目も口ほどにものをいふ
眉を落してざしきをひいてきげんとるのもぬしひとり
親のいけんを何きくものかいぢはたがひの胸にある
友だちヲ力になに惚ようぞそはれにヤ尼になるかくご
末のとげない縁ならよしなくろうする身のかひもない
文は逢どもわが身はあへぬ」(十六ウ)ふみになりたや一夜(いちよ)でも
末のくろうは元よりせうちどふぞ添寝かして見たい
ぐちもいふまい悋気もせまい人のすく人もつ果ほう
かるい世帯もおまへと二人きがねせぬのをたのしみに
手なへところか喰ずにゐても切(きれ)るこゝろになりはせぬ
犬がほへてももしお前かと閨のとほそを明て見る
親は此手で切文かけといふて手ならひさせはせぬ
おまへにまかしたわたしの体煮よと焼うとすきしだい」(十六<ママ>オ)
庭の松むしなき止たびにもしやそれかと気がもめる
うしと見し夜もけふ日になつて見ればこひしい事はかり
見捨られゝばわしや墨染の袖とかくこをきめてゐる
たつた一言人づてならでいふて置たいことがある
鳥のそら音ははかりもせうがぬしの空寝ははかられぬ
恋に朽なん名はをしけれど今さらいぢでもきれられぬ
忘まいぞや引すへまでもかたいちかひのいれぼくろ
一人寝るよの其あくる間は」(十六<ママ>ウ)いかに久しきものおもひ
露の命を長くもがなとおもふもおまへがあればこそ
なまじあひ見てなほ物思ひしらぬむかしにしてほしい
人しれずおもひ染しがまうとやかうと浮名かたつては猶やめぬ
今くるといつてわたしをよもやにかけてもはや有あけとりが鳴く
風に吹るゝしら露よりも人のこゝろはちり安い
しのぶ恋ぢもつい色に出てものや思ふと人がとふ」(十八オ)
身をなげ出してもそはねばならぬ人にいはれた事もある
君が為なりヤわしや野に出てわか菜つむともいとやせぬ
人目ありヤこそ飛立むねをじつとこらへてしらぬ顔
左様しからばしかつべらしく他人ぶりよすりヤ猶かあい
をよばぬこととは思ツちヤゐれどやつはりみれんで神だのみ
賤のをだ巻又くりかへしどうぞむかしにしてほしい
足曳の山鳥の尾のながながし夜をどうしてひとりで寝つかりよう」(十八ウ)
秋の扇と身は捨られて風のたよりもなくばかり
どうせ足(たら)ないわたしだものをすてるおまへにむりはない
あるものをないといはんす心がにくいりんきするではなけれども
待たつらさをせなかでみせてしばしがまんも恋のいぢ
初はたがひにうはきで出きて今はひとりで情たてる
こちら向なと引よせられてうらみつらみもどこへやら
いつそ邪見をとほしもせずにほんにおまへは罪な人」(十九オ)
なんの玉のを絶なばたへろあはで苦ろうをするにヤまし
客にうそをばつく其罰(ばち)かまことあかせどうたぐられ
りんきせぬのが女の道とうはきしたさのゑてがつて
おためごかしも最(もう)きゝあきたいやならいやだといふがよい
逢ばあふほと猶やるせなやたまたまあふてもすんだもの
為になる客つとめるつらさぬしに枕のばんをさせ
燈心をひとすぢへらしあちらを向てぬしはねたのかいやだねへ」(十九ウ)
人のてまへはてくだと見せてじつにほれたで胸の癪
親の邪見も今では嬉しつとめなりヤこそあひもすれ
灰に書てはけす男の名火ばしのてまへも恥かしや
うはきな男がなぜ此やうにてまへで手まへの気がしれぬ
うけさせやうとていふでもないがのろけばなしもうさはらし
かはる枕のねざめのとこにヱヽもじれつたい此からだ
血をわけてもらふた親でもわしやすてる気じやあかぬ他人のぬしゆへに」(二十オ)
是が惚たといふのかしらずいとしなつかし気がもめる
わたしヤどゝ逸でまぎれもせうがぬしはお帳合おきづまり
じつも誠も皆いひつくし枕ならべて顔とかほ
あふて間もなく早東雲をにくやからすが告わたる
松もみどりを幾千代かけてすへをいわふてゐるわいな
いふて置のになぜ浅はかな口ゆへうき名がたつわいな
ぐちもみれんも沢山あれどむかふかゞみに恥てゐる
女房さらすにわたしも切ず」(二十ウ)ほかにしあんはあるまいか
筆はかあいやはなれてゐても恋しゆかしのたよりきく
思ひ出すとは忘るゝからよわたしや夜の目も忘られぬ
あふてわかれのつらいを思やあはぬつらさかましであろ
人はこり性と只一ト口にこるもこらぬもさきしたい
ふたれる覚悟のわしや結髪色であふときヤかうじやない
腹が立ても又わけきけばのろいやうたか夫もそれ
切た中とてたよりはさんせいやで別れた縁しやない」(二十一オ)
いやな座敷で笑ふのつらさないてうれしきぬしのそば
ぬしを思へばてる日もくもるひく三味せんも手につかぬ
待がつらいかまたるゝわしが内のしゆびして出るつらさ
かへらしやんせと口ではいへど立ばおどろくむねのうち
今は待身をわらはゞ笑へすへは高砂そふて見しよ
門付のしん内ぶしも身につまされてもしやとあんじるひよんな気を
わけもないことわけあるやうに言れりヤぎりにもせにヤならぬ」(二十一ウ)
似たことがもしやあるかと人情本をよんでなほますものおもひ
ぐちなわたしにさばけたおまへ柳に蔦じやと人がいふ
それみやしやんせ言ないことかさきも血道を上てゐる
人に気かねもおまへのおかげ明くれくやしいことばかり
せじとつとめに涙のゑがほなかせるおまへはむりばかり
せじもいふまい気がねもせまいおまへもうは気はやめさんせ
恋のやみじはかねてのかくごはれてあはれる身ではない」(二十二オ)
しあんするほど切てはならぬ今まで苦ろうのかひがない
数ならぬ身でも恋ぢのまことはまことほれたに上下があるものか
すまぬ顔色見てとる実は他人にしれない惚た中
あきらめましたよどうあきらめたあきらめられぬとあきらめた
今さらにぐちもいふまいなげきもせまいそはざ命がありやせまい
待宵のかねはうしみつわかれのとりにまさるつらさようきおもひ」(二十二ウ)
みじか夜のとりは恨まず長よのかねをうらむ心の客と間夫
いやであらふがまアきかしやんせつらいわかれもぬしのため
楽をふり捨くろうをもとめ人にわらはれぬしのそば
ひよんなことからついしたわけに今は他人とおもはれぬ
達引づくならすみがへしても年の明までよびとげる
金じやせかれぬそなたの気性といふてほれては数多し
ないてはなせばつとめとなぶりこれが笑てはなさりよか」(二十三オ)
うわきせうばい玉やじやないがぬしにあはずはくらされぬ
くぜつした夜は鏡の蓋をあけてふさいでまたあけて
心からとてわが土地はなれしらぬ他国でくろうする
先はうはきであらふとまゝよわたしや実意をとこまでも
わたしの心にあまいはとてもなんの他人にはなされふ
はやくやめたや通ふも呼も待もわかれもないやうに
たつた一ト夜がよみちのさはりしらざ他人でくらすだろ
夏やせと人にはいへどぬし」(二十三ウ)ゆへかうもくろうするのをたのしみに
世につれて辛苦するのはいとひもせぬがそはれないのかわしやつらゐ
そなたひとりに苦ろうはさせぬどんなはかないくらしでも
つらいかなしい峠をこしてなんでたやすく切られふ
あへばさほどにはなしもないがかほ見にやくろうでねつかれぬ
じれつたいほどなぜ此やうにほれたわたしの気かしれぬ
末にそふのはそりや縁づくよ当座あはずにゐられふか」(二十四オ)
そひとげる人もはじめはふとしたことよほれたが縁てはあるまいか
論はないそへ惚たかまけよどんなむりでもいはしやんせ
あはれぬからとて女の操たてゝ見せましよあくまでも
しがみつくほどくやしいけれどわけをいはれリヤぜひがない
三末の結句を「しかたがないんだからさトことばにてすてるなり
○寄物述思(よそへうた)
色になるみの襦袢もぬいで素肌じまんの夏の不二
ないてゐるのを面白そふに」(二十四ウ)はたで見てゐる籠の虫
鍋に耳あり徳りに口よちよくとはなしもできはせぬ
寒い夜風に身をすりよせてうれしなきにかなく千鳥
初鶯もうちきはいやよないてうれしい庭の梅
さしひきわからぬおまへのしうちながれの身なから汲かねる
秋の風ゆへ気をもみぢ葉のそめてくやしきちりごゝろ
惚たき菊を露しら萩のつれないおまへは鬼あざみ
ぬしのうは気はもみぢの時雨夜ごとぬれてもあとがない」(二十五オ)
三味せんの糸よりほそき芸者の身でもはりといきぢてきれはせぬ
そろばんのたまにあふゆへこゝろがしれぬ割て見たいはむねのうち
更て青田にこがるゝ蛍れんじまで来てかやの外
招ぐ尾花についさそはれてつゆのゑにしの草まくら
心つくして嫁菜とならば今にみもちか草の餅
うまく根松で抱しめのうちかずの子だからをろし初
みすぢ霞のひく三味せんや」(二十五ウ)さかへさかふる門のまつ
くぜつの種なし肌うち解(とけ)すかほはいつでもはしもみち
雨の雁がね枕にひゞきひとりなみだの露しぐれ
風に蚊やりの燃たつまゝにむねのほむらが猶まさる
とうした縁やらなま中染て今さら時雨にちるもみぢ
開きかゝりし寒紅梅を水あげすまして床の花
鶯きどりであつかましくも梅に来てなく鷽の声
恋のしよわけもしらはの娘おもひありげな手まり唄」(二十六オ)
思ひやりにもまことはとゞくつゆにやつるゝ草の花
君をまつ葉のかんざし投てあふみおもての畳ざん
青柳の水にうつりしあの三日月はやつるゝはつだよ病あがり
ちやんと備てはつばつしくもぬしの影まつかゞみもち
うつかりと籠を出されてした切すゞめもとのくがいがうらめしい
ぎりにからまれ心の竹を八重にくんだる籠細工
けふかあすかのかはいひ中も」(二十六ウ)渕か瀬となる世のならひ
めぐる因果の車のわたしひくにひかれぬ此しだら
雪かさくらか遠山鳥のおまへはあらしのした心
のぼりつめさすほうづもなしに糸のありたけ奴凧
羽子(はね)をつくづくあんじて見れば風にそれたも気にかゝる
恋の手ならひいつ書そめて筆にいはせるいろはもじ
葭(よし)と芦との節ある中へ深くさしこむ秋のしほ
心々のあの萍(うきくさ)の岸にさくのも水による」(二十七オ)
色の味をも最(もう)かみ分ておもひ切ます唐がらし
親のゆるさぬしのびの駒はひくにひかれぬ罰あたり
雁にことづて乙鳥(つばめ)にたよりどれも聞たやはなしたや
人が水さしてもいつかつい深草のつゆもいとはぬかよひみち
弓をはる駒矢をはなの春的へあたりもいかめしや
おもふお方の手をしめの内うれしいしゆびを松かざり
火のし片てに羽織の皺へそれといはずにあてこすり」(二十七ウ)
梅がゝのかほりゆかしきこゝろの竹にぬしのたよりを松ばかり
松にしのんで夜長の秋をあかしかねたる床のうち
はかないやうだがあの朝がほはしぼみや又さく花かある
梅の娘に柳のわかしゆ月はなことの縁むすび
としのはじめのあら玉娘だいてね松やしめかさり
雨の蛍とわたしの心ひとりこがれて夜もねぬ
野べの若草嫁菜をつめば君がよながのさいになる」(二十八オ)
葛の葉のうらみつらみはそりやあだ惚よ秋風たてぬまことどし
揚りつめたるあの奴凧いろもつのればのめをつく
夢に顔みて嬉しい間なくされてくやしき夜半の雁
鰺な目元に蓼酢のうまみわるいとしりつゝ過す酒
あげる花火と浮きな恋ぢいゝといふ間にあとがない
堤あかれば柳の雫ちよいとぬれたる縁のはし
宝舟して二日のまくら夢もうれしくみなめざめ」(二十八ウ)
あし曳の山鳥の尾のながながし夜をひとりかり寝の仇まくら
いろの穂垣の朝がほさへも何をすねてかうしろむき
ふたば葵のふたりが中は人がさかふと切はせぬ
とけぬ恋でも月日をまてばいろになるもの谷のみづ
叩く水鶏もそれかとばかりまくらひとつがじれつたい
繻子の帯ほどとけあふ中もあきりやそろそろ切かゝる
梅の匂ひを桜にこめてしだれ柳に咲せたい」(二十九オ)
明ていふのに聞入なくは命ヤすてるそ火とり虫
男心はあのあぢさゐよ日々にかはるがにくらしい
鏡出してもそのことばかりなみだおぼろの薄ぐもり
けむる蚊やりにまぎらしながらあはぬつらさになみだぐむ
水にまかせた萍(うきくさ)さへもすいたところで花がさく
笛の中だち目がほも恥ずしたふ思ひを口うつし
娘大事と人にも見せぬうちに色づく室の梅
こんな容(なり)して恥かしらしい」(二十九ウ)畳いつはい松のかげ
べにで書たる此はなし文雁のたよりをまつつらさ
水を手(た)まくら楽しいめうとすいな隅田のみやこ鳥
鴛鴦(をし)のむつみとわらはゞ笑へ人が水さす透(すき)がない
むすぶあやめも心の願ひつゆにぬれるの辻うらか
心さとれとつく追羽子(おひはね)にいつか解たるしゆすの帯
わらふ唇しら梅見せて声はうぐひすまよはせる
ぬしをまつ虫こがるゝ蛍おもへば胸の火とりむし」(三十オ)
門(かど)の鳴子の夜風にゆれてもしや来たかと胸さはぎ
しのぶ恋ぢは遠くの蛍目には見へてもまゝならぬ
つげの櫛はにかゝらぬ髪も人の口はにやうき名たつ
けむい蚊やりの辛防すればあとはすみよき夏ざしき
恋の中がき真葛にゆはれうらみうらみて秋の風
ござは青海蚊やりはもしほ船ぞこまくらのとまり船
わたしや呉竹おまへは雀雨のねぐらが縁となる
船のもやひもいつ解あふて」(三十ウ)おまへしだいのながれの身
いたら貝ない心をもつて君にあふとはあはび貝
ちよいとお待な着ものをおくれ屏風の唐子が見てゐるよ
風に木の葉のちらされたのもかきあつむれば籠の中
中口きかれてうたがはれたもはるの氷と解てゆく
さきは主持(しうもち)たよりはしれずいつて見たいにヤ籠の鳥
梅の娘に柳のわかしゆを雛めびなのさくら花
萩の下つゆ露ちりほども君にヤ命もをしみやせぬ」(三十一オ)
風にもまれてたゞよひな岸へつくるよあまを船
わかい男に気をもみぢばの後家にうき名が立田川
おのが身をあとへあとへと田うへのやうに卑下すりやにくむものはない
見捨さんすなわしや蔦もみぢからむたよりは主ばかり
辛防しなんせ雪間の若なやがて嫁菜の花がさく
うわきする筈大神宮(だいしぐ)さまも天(あま)のいは戸のあなばいり
鶺鴒にとんだよいことをしへてもらひ数の」(三十一ウ)子だから神のすへ
あかつきのちわは隣かあのほとゝぎす鳴てこかれの今朝の雨
しのび駒かけてくどいてできたるおまへばちてもあたらにヤ切はせぬ
朝がほのからみつく竹ひきはなされて花がうつむきヤつゆがちる
まき紙のへるにつけてもわが身を思ふはやく年季を明くれよ
あれ程いふたになぜまア遅いまつ葉かんざし畳ざん」(三十二オ)
あはぬうらみにぬらした袖をとけて寝た夜は又ぬらす
何かしあんで気をもみ裏のゑりにさしこむかほの雪
かごの鳥をばほんねを出させどふすりや今さら切ことば
ふつつりと廊下で切たる此うはざうりたてるたてぬもさきしだい
うかれくるはのあの里雀すぐな竹にはとまりがち
待にかひなきあのほとゝぎす雲井へだゝる声ばかり
千々にくだけし白滝なればすへにあふせはあるものを」(三十二ウ)
玉のことばを錦にをりてつゝれあげたる恋ころも
思ふ念力ぜひ今一度筆のいのち毛つゞくだけ
はれてあはれぬ今宵のしまつにくい雲めが又しても
くよくよあんじて身はうつせみの心もぬけのからごろも
もつれかゝりし此黒髪をといてむすぶもをりがある
さんさ桜に梅がゝこめて芽ぶきやなぎに咲せたい
五月雨のくされ縁じやとあきらめさんせ菖ぶかたなできれもせず」(三十三オ)
三国一やの白酒娘雪のはだへにふじびたゐ
しんぼしなんせあの梅の木も雪の中からはながさく
泣てうつむきヤかんざしよりもおつるなみだの玉あられ
恋のまがきにしのぶは蔦よひとめかねては青々と
雪のはだへに桜の目もと月にいくらとうはさする
梅も柳もみなそれそれに恋のいきぢのあだくらべ
春の野に思ひすぎ菜はおまへのうわきあんじ心のつくづくし」(三十三ウ)
うぐひすに負ぬ音色がたまさかあれば谷の中へもはなの兄
まてば甘露とそりや甘口なまたれるほどなら気はもまぬ
医者さまが小首かたむけ二のさぢ投てやつれ姿を見るつらさ
まてば海路の日和もあろがゑでに帆どよくのせてみな
泣てたもるな途方にくれる月は雲間のほとゝぎす
たはむれと思ひながらもつい手(た)まくらにぬしのこゝろをみだれがみ」(三十四オ)
揚てきがねばお客が凧かつとめもいとめも付てある
吹ばとぶよな玉やの身でもあはぬつらさのもの思ひ
深いちぎりをかはらぬ願人はうき名を辰巳風
遠ざかるのは末さく花よ日々にさくのはちりやすい
泣てまつ夜にふけゆく鐘は明のとりよりなほつらい
文もやるまい返事もせまいあはれぬつらさをます鏡
油でかためた聖天さまをあらいがみとは誰がいふた
さきの折たるわしや三ツ目錐」(三十四ウ)きばかりもんでもとふりやせぬ
秋がきたかよ気はもみちばのしかとれふけんせにヤならぬ
しら鷺が小くびかたむけ二のあしふんでやつれすがたの水かゞみ
紫ヤこうとでおしではよいがぬしによく似てさめやすい
わたしの心は萱ぶきやねよかはらないのとさつしやんせ
石龍(とかげ)くらふかあのほとゝぎす人は見かけによらぬもの
三味せんの糸につながるげいしやの身でもひいちやくやしい此恋ぢ」(三十五オ)
おまへ今来てもう帰るのかあさぎ染かよあいたりぬ
とも綱はなせば身はうつろ舟誰とて楫とる人もない
帯にヤみじかし襷にヤ長しながしみしかしまゝならぬ
鬼を欺くせうきでさへもこゐに見とれてゐるわいな
日のくれ方にはおまへの方を見てはなみだにくれの鐘
門の柳のなびくを見てもこゝろごゝろで気にかゝる
源氏の巻でも桐壺はいやよわたしや末つむ花がよい
事をこはさゞまとまるまいと」(三十五ウ)ならばやなぎにすましたい
三は切てもわしや二世のゑんかはらしやんすなあくまでも
わすれ草とて三味せんとればうたのもんくで又ふさぐ
春のよめなのつみ残されて秋は野ぎくの花がさく
とげの中にも花さく茨(ばら)よしらずに手を出しやけがをする
あやめかきつと似た中なれと今は目にたつ花せうぶ
定めなきとは時雨のことよまたも紅葉に気をもませ
禿(かむろ)みどりも時さへくれば松かくらゐの八もんじ」(又三十五オ)
あんなすなほな柳でさへも風にかたよるいちを出す
おまへ木性(きしやう)にわたしは金(かね)よきがねするとはしれたこと
あぢきないぞへ草葉の露の風にちるとはいぢらしい
ぬしの心と今戸のけむりかわり安さよ風したい
うかれ騒は千鳥のくせよをしはつかひの浪まくら
春の草さへ秋にはかれるさがの庵の果をみな
垣にまとへる朝がほさへもとかく出世はうしろ向
秋のてふさへつがひて狂ふ」(又三十五ウ)あれも旅ぢのめうとづれ
文のたよりをまつ雁よりもかへる乙鳥(つばめ)がいぢらしい
八重の山吹はでには咲ど末は実のない事ばかり
ぬしが舟ならわたしは水よ中のよいのも風しだい
宜(よう)こそき菊といはれふはづをしらぎくがほとは情ない
天の川竹ながれのうき身一夜妻とは誰がいふた
あはぬ恨も心のたけも明て氷室のとけ安い
雲にせかれて姿も見せずないて夜明のほとゝぎす」(三十六オ)
つもる恨をいつゆふ顔とあふてはなせばすまの浦
ねても覚ても其かげろふはおもひきりつぼ尼となる
人めばかりは五月の闇にはれてあふ夜を松の風
じみなはなしについ夜がふけてなみだの雨かほとゝぎす
喧嘩じかけはかねてのせうちわたしや柳でとりあはず
五月雨に袖もかはかぬくぜつの中へ空でねをなくほとゝぎす
けさに別れし遠藤武者もすみのころもで世をしのぶ」(三十六ウ)
鬼のやうなる梶原さんもはだみはなさぬ梅の枝
ことづてを口にくはへて出てくるつばめ返事もたせてかへる雁
朝がほの花のやうなるおまへの気まへ日こと日ごとに気がかはる
君をまつ虫夜はしんしんとなさけしらすのかね叩
まねく尾花にふとたまされてつゆのなさけの草まくら
美しく咲たアノ花よくおみなへし秋かきたとてちりかゝる」(三十七オ)
客がきゞくと小菊に書てやればむかひのかむろ菊
今はそら解くろうはすれどすへはむすばるかいの口
松のくらゐといはるゝ身でももとはかむろのみどりから
ありとみて手にとられぬあの湯巻(かげろふ)はぬしのこゝろとをなじこと
ないしよの仕きせも厭はぬならば脱でこよひの貸小袖
かさゝぎのはしたない身もわたりをつけてどうぞこよひはしゆびしたい
霞むのもせの春駒よりも」(三十七ウ)ぬしにあふ夜はなほいさむ
猪(しゝ)にたかれて寝る萩よりも客とねるのはなほつらい
寿老人ではわしやなけれどもしかとはなしがして見たい
蝿(はい)にまはさる燈心よりもかるいおまへのそら返じ
矢猛心(やたけごゝろ)に気もはり弓のひゐちやくやしい此こひぢ
庭の雪間のあの梅さへも寒苦しのいで花がさく
縁のはし姫とはいふものゝぬしが綱なら手が切る
心の底井をあかしていへど水にながしてぬしはきく」(三十八オ)
さわらびの握りつぶしにつみとがもない山のゑがほをはるの風
ひとすじとばかりおもひしあの朝顔もいつかかき根にわかれざき
直なわたしに横笛ふいてどこおしや其よな音(ね)を出(いだ)す
加茂のお祭わたしのことかあをひあをひと人がいふ
野べの若菜と摘すてられて土におもひの根を残す
室の梅がえわしや欺(だま)されてさいたと思へばくちをしい
女郎花さく此野の中へ」(三十八ウ)誰がぬいだかふぢばかま
船のかゞりとわたしの胸はみづにこかれて燃てゐる
まゝになるなら野にさく小てふ草にねるにもめうと連
思ふ木立へからんだからははなりヤせぬぞへ蔦かづら
ぬしを松風身にしみじみとふけてさみしいかねの声
ぬしとくらさばわしや八重葎茂らん宿もいとやせぬ
ぬしは礒べのあのみほづくしさそふめなみが数多い
心あかしのけしきはよいがぽんとたしぬくはやて風」(三十九オ)
神の榊とおまへのうはき先へたつので気がもめる
峯のもみぢのからくれなゐに秋がきたとは気にかゝる
うすツ闇(くら)いとまがきのそばへよつてゆふがほ覗きこむ
ぬしに入(イリ)あげ身はうつせみの今ではもぬけのからごろも
風もすきやの帷子ごしに夏もすゞしき雪の肌
やくやもしほの身もこがれつゝぬしをまつ尾のうらざ敷
沖の石かやわたしの袖はかはくひまさへなくなみだ
きりぎりすなくや霜夜の」(三十九ウ)さみしいとこをどうして今ころかへされふ
芦のかりねの一トよさなりとあふてはなしかして見たい
竹のはしらを何いとをふぞ山のおくにも鹿はすむ
岩にせかるゝあの滝川のわれてもすへに又ひとつ
雲井はるかに帆の影みへてをきつしら波たつかもめ
ちきり捨てもなほあをあをとつゆをいのちの草の花
めぐりあひて見しや夫(それ)ともわからぬうちにぬしははづして雲がくれ」(四十オ)
衛士のたく火とわたしの胸はひるはきへても夜はもゆる
ついした事にもことはの嵐顔にもみちをちらすのか
ぬしの心と門田のいなばいつしか秋風ふいてゐる
枕ひきよせかけしや袖のぬれてうれしい床のうみ
下戸のお酒に外山の霞たゝずとやつぱりのむがよい
かぢをたへたるわしや捨小舟ゆくへもしらずにこがれゐる
をのゝ篠原しのぶとすれどわれを忘れちヤ口ばしる
忘らるゝ身はしかたもないが」(四十ウ)それじや誓のかみよごし
しのぶもじ摺そりヤ誰ゆへみだれてすゞしいあらひ髪
雲のかよひぢ風ふきとぢよをとめのすがたがおがみたい
いやな針なりヤ何しられふ蜂やあんまじやあるまいし
つたふ涙に枕のもんのつたもいろづく秋のくれ
前髪かきかきアレじれつたい空にしられぬふけのゆき
せじでとまつた大根の花の小てふ二心とはたいそふな
小田のかりほにふく苫よりもあらばおまへのすてことば」(四十一オ)
かたい契は千万代もつるの口ばしかめの甲
鼠よくきけあのおとなしは庭の千草のきりぎりす
紅葉ふみわけあのなく鹿も秋といふ字がかなしいか
かさゝぎの渡すはしさへふつつりたへてこぬのはあきたかちらすのか
夏山につまにあこがれなく鹿よりも松のほぐしが身をこがす
春のはじめと泣ずにわかれあとでほろりと梅のつゆ
かへるかへるも屏風の中で」(四十一ウ)やはりはなれぬてふつがひ
なみだふきふき其袖合せぐはんをかけぢの神だのみ
顔みせさんせや日にいく度もやさしいこゝろにいりかはり
小ぎく重てかくはなし文もてくるつがひもかむろ菊
秋のあふぎと身はなるとてもついやちよつとで喜齢扇
かねのなる木はあのおみなへし花も黄いろに咲みだれ
眉は三日月はだへは雪でたのみすくない花ごゝろ
たとへとのよな風ふくとてもよそへなびくな糸柳」(四十二オ)
なかざなるまい野にすむ蛙水にあはずにいられふか
五月雨のある夜ひそかにこうしのさきでみればうれしい月のかほ
白つゆや無分別でも草葉がたより恋のうき身のおきところ
草の葉のつゆはわたしがなみだの雫それにおまへは秋のそら
庭の松ぬしも梢にあのあふき凧切てぶらぶら気にかゝる
とも綱のきれた此身は」(四十二ウ)棚なし小舟かぢのとり人もなみのうへ
○名所地名
須磨ぬ心に夜を明し潟かよふ千とりの声ばかり
つもる恨を庵崎とすれどあへばこゝろもすみだ川
首尾を松ちのはなしも更て跡は嬉しの森のかげ
心すみたに気もうく鴎花を見めぐり春げしき
きりぎりす千草はなれてわしやかごの内客にかはれて夜をあかす」(四十三オ)
人にヤいはれぬ岩間の椛(もみぢ)すへはうき名のたつた川
撞てくりやるな浮草がねよまつちといふ名もあるわいな
岩にせかれて樋にとめられておもひあづまのすみだ川
ぬしに別てそれ辛崎の夜ごとなみだの雨ばかり
朝はひてうの田へ水かけて夜は潮来へ舟わたし
人目せきやでまゝにはならぬぬしは秋葉のうすもみち
末はめうとに業平ばしようれしの森やしゆびの松
ぬしは秋葉とわしやしら髭よ」(四十三ウ)おもひまつ崎わたしぶね
思ひ庵崎時せつを待乳首尾を松身のながし船
露のひぬ間の朝がほならでこすにこされぬ大井川
うき名たつたの椛(もみぢ)じやないが染てちるとはなさけない
恋の綾瀬をしんくにするな今に中よくすみだ川
伽羅をたかせた二人が昔今は嵯峨ので夕蚊やり
女きんぜい高野の山に誰がうへたるおみなへし
嘘でかためた此よし原を又来てうそでさはかせる」(四十四オ)
冨士と筑波か何似るものかおもひおもひの山のなり
花はよしのと風雅にいへどいきなさくらは仲の町
いかに秋風たつ田といへどかほにもみぢはにくらしい
思ひこがれし身はうじはしの中をへだてゝとぶほたる
こよひみめぐり嬉しの森よどうぞあしたもしゆびの松
霞ひき舟もう木ね川にとんだのろけを請ぢ道
どんとはなした鉄炮ずよりあたるなかずの船のそこ
抱て根ぎしや玉姫いなり」(四十四ウ)深い中田と人がいふ
人めしのぶの丘とは嘘よ四季のけしきに名が高い
水は二タすぢ三すぢをのせてすたと綾せのゆさん舟
江のしま参りが弁天さまの貝でさいくのみやけもの
秋の夜風の身にしみじみと猪牙じや寒かろ隅た川
ふけよ川風気もうき舟のすだれあぐれば筑波山
すまの浦なみ又たちかへり来てはまよはすはまちどり
あまの小船のろかいを推てすまやあかしのわび住居」(四十五オ)
宇治の川ぎり夜は明はなれぜゞのあじろがみへわたる
天のはし立いくのゝ道の遠いたびちをふみのつて
わたしやおまへに気かありま山今さらいなとは言しやせぬ
末の松山なみこすとてもかはりやせぬぞへわがこゝろ
峯のもみぢにあかるい道ををぐら山とは誰がいふた
こよひ忍んであふ坂山を人にしられてなるものか
難波潟みしかき芦のふしの間なりとどうしてあはすに過されふ」(四十五ウ)
岸による波小舟にゆられ夢のかよひちさんや堀
神代もきかないおまへのうはきわたしや小はらかたつ田川
立別てはいなはの山のまつと聞てはまたかへる
みなの川ではわしやなけれども恋ぞつもりてふちとなる
堀をめあてに漕出しゆくと人にヤつげなよ此小船
赤い前たれみことな茶つみよいうち山たと人はいふ
箱根八里は馬てもこすか人の関ぢはこしにくい」(四十六オ)
うしろ見するは門松ばかり五万てもひきヤせぬ郭(さと)のいぢ
朝のかへりはすゞかじやないが馬がものいふた衣もん坂
商売のいとのみすしはよしのゝ川かおかほ見ながらまゝならぬ
あづま訛といはんすけれどまねて見たかる江戸の癖
前篇了

歌沢能六斉著
度独逸節用集 近刻
この書はどゝいつのはじまりを正し且其文句地色売色しんぞとしまの心いきを」(四十六ウ)分ち及び妓楼(じよろうや)舟中料理茶屋あるひは祝言元服はらをびたんじやうわたまし見せびらき其外目出たき席上にてうたふべき文句それそれにわかちのせたり又席によりて忌べき禁句のことばをつぶさにしるしつ
梅暮里連中校合

江戸人形町通
品川屋久助板」(裏見返し)



四、『新撰どゝ逸大成後編』(関西大学図書館蔵本)
 関西大学図書館蔵本(H/911.91/U2/2-1)により翻刻する。
新撰どゝ逸大成」(表紙)
新撰どゝ逸大成後編
哥沢能六斉集
当世同寿梓」(見返し)

どゝいつは何所のどいつが唄ひ初けんとある人がものに書しは諂(へつらひ)なき詞といへども其みなもとを能もあさらぬ只これ当座の即興のみ余かねて愚考あり幵(そ)はこの前編の巻末に標目を記したる節用集に書つけてんつまるところはどゝ千年万年(いつまでも)はやりもてゆく小哥といふべし
万延二年酉春日
隆興堂主人
鰥寒翁述」(口ノ一オ)
この図ならびにもんくのかきいれも前編の巻首に載たる「糸竹大全」のつゞきなりあるひは「大ぬき」といふ
涙ながらに見る玉づさはもじもさだかに見へわかず
(絵)」(口ノ一ウ)
目録 唄員通計六百十三章
○雪月花 唄員百五十八章
三景によそへておもひをのぶるなり但し月ゆき花と題をわかちのしたり
○雑体(くさぐさぶり)唄員四百十章
何にと片よらぬさまざまのもんくをまぜてのしたり俗にいふばれくてうのうたもこのうちに入る
○問答 唄員四十五章
もんくにてとひ文句にてこたへる也男女のしるしわけをなし且しりとりあり」(五十三オ)
新撰度独逸大成後篇
歌沢能六斉輯
○雪月花
月の部
○月はかたむく夜はしんしんとこゝろ細さよ明のかね
○及びないとはそりや気がよわいしづがふせ屋も月はさす
○朝のわかれがないものならばなんのきらはふ明の月
○まだ宵とおもふ間もなくもう明の空雲のいづこに月やどる
○待ど来ぬ夜はかたぶくまでの」(五十三ウ)月のからすや明のかね
○わたしや芒の野にすむ兎こひしなつかし夜はの月
○雲のたへ間をもれ出る月にさへてきこゆる紙ぎぬた
○ぬしをかへしてれんじを見れば小田の有あけまだのこる
○ぬしは田ごとのうはきな月よどこへまことをてらすやら
○不破の関屋にさす月よりもかくすこひぢはもれやすい
○風のうす雲あの月かげを見せつかくしつ気をもます
○それと見る間にあのはつ蛍月のひかりでついなくす」(五十四オ)
○月のうさぎのはねてはゐれどどこかかあいゝとこがある
○水の月かげ手にとるやうにみへてなほさら気がもめる
○げこも上戸も気にあふやうに丸くいきあふけふの月
○邪魔な雲さへさつぱり晴てまるくふたりで床の内
○月はさへても心の雲がはれぬおもひで上の空
○くもりがちなる最中の月よはれてあはれぬ辻うらか
○一ト日あはねば持病の癪がふけてさしこむ窓の月
○月にむら雲わたしにヤおまへ」(五十四ウ)邪魔としりつゝ切られぬ
○月を友とてなく虫の音は萩の下つゆぬれたどし
○かやのすき間をもる月かげにみだれすがたのはづかしき
○月もいるさの山のはがくれ身につまさるゝ鹿のこへ
○心しらない月夜のからすだましに鳴とはどうよくな
○月がさすともしらないれんしにくや中よきひよく蓙(ござ)
○月もはればれ嬉しい世帯(しよたい)くろうしたのもかたり草
○果のはてまで見わたすやうにはれてうれしき月の海」(五十五オ)
○三日月のくしをいたゞく柳のかみをすいな夜風かうごかせる
○月夜がらすにヤ目は覚さねど闇のからすにものあんじ
○お月さまさへ嫁いりなさる三五でだんごのこがでけた
○月はすめども心はすまぬたよりながれのうきね鳥
○夫婦げんくはは三日の月よひと夜ひと夜に丸くなる
○月はかたむく夜はほのぼのとゑゝもじれつたい鶏(とり)の声
○雪の部
○雪のはだへになびきし竹の」(五十五ウ)とけて身がるなわがおもひ
○花に百度(もゝたび)来る客よりも雪の初会がたのもしい
○つもるはなしは世けんもしんと日本ばしにも夜るの雪
○じみな恋中まことゝまこと雪の白鷺目にやたらぬ
○雪はきへてもはなしはつもるひるになつてもかへされふか
○しらむれんじにあれちらちらとながさゞなるめへさとの雪
○田子の浦舟こぎでゝみなよふじのたかねの雪げしき
○うきにたへぬか此雪風に初はななみだでひく車」(五十六オ)
○有明の月とみるまでよしのゝさとにけさはしら雪ふりつもる
○庭のあらしにふる雪ならでつもるわたしのものおもひ
○雪のうちなるあの紅梅ももんくしのいで春をまつ
○山も田はたもみないちやうに雪の夜明のぎん世界
○雪のあしたのあの明がらすかわいかわいとこかれなき
○雪の中でも梅さへひらく人もじせつをまつがよい
○白の節句の八朔よりも今のすまひが銀せかい」(五十六ウ)
○降雪をふむもをしいがふまずば人かとふてくれまい此けしき
○花のけしきもふりつむ雪もこゝろごゝろの目のながめ
○毒くはゞさらにゑんりよもないしよもあげて雪のあしたのふくと汁
○ふりつもる雪の夜道をすたすたかよひとけて寝るのをたのしみに
○しんのはなしに夜もついふけてうれしい雪になりいした
○ことばとがめてせ中とせ中雪のさむさが中なほり」(五十七オ)
○色の手かげんこたつでおぼへ雪もうれしき新まくら
○女房かたぎで花こそ咲ぬじみなみさほは雪の松
○しらぬ旅寝もおまへとならば夜みち雪みち苦にはせぬ
○ちよいとなりとも顔さへみれば雪の夜道も苦にヤならぬ
○麦のわか葉もたびたび雪におされなければ身はもたぬ
○花の部
○花がちるとはおまへのせじよじつはふたりでさしむかひ
○ちる花をさためなき世と哥にもよめど咲ざ」(五十七ウ)なるまいはるの風
○ちればこそ花はよけいになほをしまるれくろうするのは色の花
○末もとげなん当座の花にむすぶ出雲の人じらし
○酒くさいさゆで薬をうれしい手からしやくもさがりし花見ぶね
○恋といきぢとたとへていはゞ梅のにほひに花のつや
○花におくつゆをさゝの霰こぼれやすさはきらすいり
○花のいろかのうつるをみてもあんじらるゝよ人ごゝろ」(五十八オ)
○ゆくも帰もさくらをかざししるもしらぬも酒(さゝ)きげん
○花の姿はふり捨たれどどこかむかしの香がのこる
○ならの桜はいろかもよいが八重といふ字がきにくはぬ
○ぬしに見せばやぬれにぞぬれし雨のよあけの花のつや
○とほざかる花すへつむ花よ日々にさく花ちりやすい
○花のゑんでもそはねばならぬどうせしじうはちるからだ
○傘(からかさ)のほねにからんでふる春雨はやがてはなちるさとがよひ」(五十八ウ)
○冬は枯木といはれてゐても今に花さく春はある
○花のこずへと見る間も夏のやがて青葉になるだろふ
○ぬしある花てもかうなるからは一枝をらずにおくものか
○花の色うつりヤせぬかとなほこひしさがましてながれのうき思ひ
○十二一重と咲たる花もちれば百夜を思ひ出す
○顔にヤまよはぬ姿にやほれぬとかくさくらの花は花
○花にくぜつのあらしのはてはおちてかさなる中なほり」(五十九オ)
○たまたま来たのにあわれぬときは花もしぐれてちるおもひ
○花もみもあるしんみのりんきそひ寝してからことばぜめ
○てふよ花よとそだてし子でもつきだしヤお客のせはになる
○花のゑがほでみさほの松の色もかはらぬぬしのそば
○あんじがほさへ花にもまさるあだがくろふをさせるたね
○花も紅葉もモウあきらめたぬしのたよりを松ばかり
○すなほに咄すをおまへはじれてよこにくるまのむりばかり
○春の霞もみすじをひくは」(五十九ウ)花にうかれるこゝろいき
○なごりをしげに見送(みをくる)かほへつゆかなみだか朝ざくら
○土手のさくらをまた夜桜と酒がのり気(ぎ)のさんや堀
○末はとけぬといはれた事もあればひと花さかせたい
○さくら山ぶききりしまつゝじしんぞとしまの花ぞろひ
○梅にさくらに柳はおろかぬしに見かへる花はない
○花は咲ども梢の枝で手折れもせず見るばかり
○降てくれるな桜に夜さめいろのさめるが気にかゝる」(六十オ)
○さそふ水あらばいなんとそりや萍(うきくさ)のもちまへうはきな花ごゝろ
○花はつぎ穂のてぎはもあればむりな縁でもそひとげる
○どふせはなれぬおまへとわたし桜さめとは聞もいや
○花のつゆすふてふてふさへもおまへに似たのかきが多い
○人の花とてとるまいものかとられたおまへのぶはたらき
○今はかれ木の枝にもしやんせこゝろ根がありやはなもさく
○咲たものならちらずにおくれ」(六十ウ)ちればさくらもちりあくた
○せうちして人にをらせるあの八重ざくら義りほどせつないものはない
○はでな色香に咲たる花はよるのあらしに散安い
○花もさかせずつぼみの枝を折たわたしのつみつくり
○どふでわたしはぶいきなうまれ花のあたりのあすなろふ
○道のない山のさくらはいつふみわけて人が来るやらゑんしだい
○花にあらしはうき世のならひどふでちらずにすみはせぬ」(六十一オ)
○山吹の花にをされぬくるはのさくらふるもぬるゝもはるの雨
○かねは上野か浅草寺もひとめへだての花の雲
○雨のさくらについぬれあふてこゝろおく山あかしあひ
○しみじみいのちも何をしかろふすいたゑがほのさくら色
○嬉しいうちにも又はづかしきおぼここゝろの初ざくら
○おひき合せか観音さまかむすぶゑにしの糸ざくら
○軒の小雨に羽織のそでがぬれてほころぶ山ざくら」(六十一ウ)
○じみでよけれど名が気にかゝるあさぎざくらの色がはり
○花をこよひのあるじとたのみくれてかり寝の木下影(こしたかげ)
○思ふとほりに願ひもかなひぬれてうれしき花の露
○おまへに別りヤわたしはすぐとすみ染ざくらになるわいな
○迷ひましたよぼんぶじやものを楊貴妃ざくらのあだすがた
○うかれがらすがあれまいまいと花の木かげに誰かまつ
○花の戸に巻て立たるそのさむしろをちよいとしき寝の仮まくら」(六十二オ)
○すねつすねられ根もないくぜつかたみかはりに夕ざくら
○思ひがけないゑにしのはしを花がとりもつ雨やどり
○義理づめいけんでみれんもいへずとかく浮世は花にかぜ
○冬のうちから花さく春を待てたのしむ庭さくら
○思ひおもふてせつかく咲た花にあらしがにくらしい
○娘大事と人にも見せぬうちにひらきし初ざくら
○根のない花でも咲せにヤならぬすへは野となれ山となれ
○花にかならずむべ山かぜよ」(六十二ウ)月にやむら雲世のならひ
○わが身わすれてあとさきしらず樽をまくらに花の下
○大宮人ではわしやなけれどもさくらかざして山あるき
○ほんに立派でつい見とれるよ花はさくら木人は武士
○ぬれぬ先こそつゆをもいとへもうあくまでも花の雨
○かれ木にも花を咲せる餅ばなみれはわしもじせつを待ませう
○むらさきの江戸の花かよすゐどの水でそだつてごぶでもひくものか」(六十三オ)
○もうおかへりかと袖ひきとめておまへが立ては花がちる
○こちら向(むけ)とやうしろもゆかしむかしずさみの花のかほ
○ひとへさくらのうすきはいやよかさねかさねて八重ざくら
○手折てくれよといはないばかり垣ごしにさく花のゑだ
○どふせはなれぬおまへとわたしさくらさめとは聞もいや
○さくらへだてゝふと見るすがたこひしけりやこそ見ちがはぬ
○恋といきぢとたとへていはゞ梅のにほひに花のつや
○よしのざくらの只ひとひらは(ママ)」(六十三ウ)
花はよけれどありや木が高いとてもわたしの手じやおれぬ
○花の色うつりにけらしおまへのこゝろ身のいたづらもほどがある
○邪魔かあるので思ひもつのる月はおぼろに花に風
○雑体(くさぐさぶり/ざうのぶ)
○雨は降だす屋根の薪ヤぬれるせなかでがきヤ泣く飯ヤこげる
○すてる神ありやたすけるかみがなまじあるゆへ気がもめる
○人の噂も七十五日くやしかうわさをされてみや」(六十四オ)
○まかせぬ此身をかんにんさんせ実もふじつになるつらさ
○親もとへわたるまこともあてにはならぬ末にや手ぎれをとらふため
○廊下で禿(かむろ)かこよりで百度ぬしをあんじて神だのみ
○人もかうかと身にひきくらべやぼなりんきのちわ喧嘩
○女房ざかりをしらはの嶋田にあふきがねの板がしら
○けいせいにまことないとはむかしのたとへお客にまことがありもせず
○さらべおけ人にきがねが」(六十四ウ)なにいるものか立たうき名がきへはせぬ
○こぼれ松葉にうはきな小てふつがひはなれぬ中をみて
○しのびがへしをそなたにもたせゆめでありしか明がらす
○道ならぬ事としりつゝはて気がもめるむりなねがひのかみだのみ
○遠くはなれてくらすも時代(ときよ)まゝになるまでまたしやんせ
○まはし屏風のおしどりヲながめひとり寝るならうちへねる
○麦魚(めだか)もおよげばとんぼも飛に雨だれほどでもながれの身」(六十五オ)
○程のよさそな気のよさそふなそれじやたしかにいろがある
○うそもつかんせうわきもさんせこゝろがらからなかしやんせ
○むかふかゞみにやつれた顔をうつしごゝろのくやみなき
○長いくろうでけふびの世帯気のみじかいのも事による
○気があへばいはずかたらずめかほでしれるくどくやうではできはせぬ
○むねきな一座もおまへの連とおもやことづてせじもいふ
○秋の野の花の千草におくつゆ見てもわしが」(六十五ウ)なみだとおもはんせ
○かなくぎの折のやうでもゆかりの文はまもりぶくろへいれておく
○月にむら雲花には風か邪魔をするのもちはのたね
○めぐりあふ事もあろふと月日をすごし長い年季をうかうかと
○酒のとがだといはんすけれどさけがぬしをばのみやせまい
○義理やせけんとそりやいひのがれ実はいやだとことわりか
○たまのごげんにはや明わたるくがいしらずのむちや烏」(六十六オ)
○泣いたとてせかれたものがどふなるものか泣ずとじせつをまつがよい
○たいたとてこげたおまんまがどふなるものかくはずとほしいにするがよい
○あへばいつでも踏だりけたりしまだのけまりじやあるまひし
○内の女房はさゞゑのように尻もかしらも角だらけ
○ぬす人をとらへてみればわが子のたとへとひつめだてすりや身のつまり
○福寿草ひらいて見れば見事なたとへ床の」(六十六ウ)おきもの目のながめ
○むすび玉ほどいてみればながくなるたとへこくらかつては手にあまる
○さらべおけ人のうはさも七十五日この土地ばかり日はてらぬ
○色とうはきをおもにゝこづけうまも合くちうわのそら
○かごの鳥をばしたゝかだまし外へ巣をかけしらぬかほ
○かあいさうだよあの子もこり性ゐけんするのも安(やす)大じ
○人のしやくりで切(きれ)るはよしなやつこだこではあるまいし」(六十七オ)
○きれたきれたと口ではいへど水にうき草根はたへぬ
○あつい御心(ごしん)もまたごゐけん(ママ)きられましたか切(きれ)られぬ
○種まかぬ岩に松さへはへるしやないか思てそはれぬ事はない
○滝の水岩にせかれていちどはきれる末はながれてまたひとつ
○めでためでたが三ツかさなりて庭につるかめまひあそぶ
○まゝの川とてどこにもないがながれわたりのすてことば
○蛇の目からかさだてにはさゝぬ」(六十七オ)すひつけ莨の雨あられ
○高砂の松もふうふでもろしらがまでそふを手本にするがよい
○なづ菜七草たゝいたあとでひとつたゝいた下女が尻
○ゑふて忘りよとふさいだときにのめばのむほど青くなり
○黒いづきんで目ばかり出してはしごおりればあけがらす
○匂ひ袋もしやうのですましけちなやよひのだいり雛
○いふことを菊の酒ならくすりとなりてこひの病ひもなほるだろ」(六十八オ)
○ねがひの糸なら翌日(あす)にもござれとしにひとよでせわしない
○ふきぬきにこいはあれどもぶく馬具かざりほんにたんごのいろけなし
○ゑはう棚から福神たちたち(ママ)もよだがたれませうひめはじめ
○いなりさんよりわたしの方がすてきなごりしよと思はんせ
○ほとゝぎすほとゝぎすとてつい夜が明たぬしをまつよも其通り
○すいに身が入いつくるたびもしめりがちなるうめの雨
○うちは片手に目にもつ涙(ママ)」(六十八ウ)
○足とあしとがついなこどしてほんにこたつは恋の山
○客はせじもの女郎はてうりうそとてくだのはちあはせ
○ぬしのたよりと辻浦こんぶひらくそのまをまちかねる
○飯(まゝ)もたきますつとめの身でも山がらでさへ水をくむ
○おれもつらあてとは思へどもみかへる女がどうもねへ
○ぬしは今ごろ駒かたあたりとじよ汁なんどでむかへ酒
○月のかささして用事もない文なれどわをかけて書きヤ長くなる」(六十九オ)
○雨はしよぼしよぼかうしのかげにとてもぬれたる袖ながら
○実があるならしちぐさかしなかみもきせうもこちやいらぬ
○七ツでうられて十五で恋をおぼへてわたしも此くらう
○いろけないのは欠(あくび)の涙てうど椿のちるやうに
○梅の匂ひを霞にこめて空にひとはけ丁子びき
○雨のぬれごと浮気なとりよ月になじみのほとゝぎす
○たらぬがちこそ猶楽みじやうまいたんぼのすり火打
○ふけてかすかなあのさよ砧」(六十九ウ)おつとおもひのしづのわざ
○なる程だうりとうけたはよいがあとのけれとののがれ口
○じようがないあけはなしとはなさけのだうり戸をたてものもあるものを
○くちも恋ぢのひとつのだうぐさつぱりすぎたも情がない
○女房がかはゆくなる様(よ)になればをんなが惚ぬで身がもてる
○ほんにめでたやむかしのくろう女(め)てふおてふのゆめにして
○もゝしきや古きぬのこをかさねぎしても冬の夜風は身にあまる」(七十オ)
○おこつた顔してついわらひだしはてはなき出すふかい中
○月にむら雲花には風よ酒の座しきはきざだじやれ
○きざといやみへころもをかけてけちと邪すいのつけ合せ
○よけてとほせばいゝきになつてかたで風きりこひとろい(ことばすて)
○けちでみへツぽで出過てばかでおまけにときどきしやくをいふ
○親へかうかう世間へぎりもたてゝほとよくあひにきな
○じつとこらへて辛防すればほしも七日のしゆびがある
○酒は米の水とはいふものゝ」(七十ウ)むりな盃ヤどくになる
○酒はうれひの箒といへどはいては塵より猶むさい
○泪こぼして辛防すればのちはすみよくなる蚊やり
○からの智恵者といはるゝ身さへ股をくゞつた事もある
○色の黒いはそりやもちまへよからすは口ゆへにくまるゝ
○悪くも有(あら)うがいらざるおせわすけば蓼さへむしがつく
○言て見ようと口まじや出れとおよばぬ事だと又だまる
○夏は来にけりみな白たへのゆかり着て出る茶や女」(七十一オ)
○秋の草木のしほむをみてもなみだこぼすか泣上戸
○銭はなくなる女郎にやふられわが身ひとつにあきれがほ
○酒のさかなはまづとりあへず秋のもみぢのにしき梅
○のめどもつきない此泉川こひしかもなべやきざかな
○冬の薄着のさむいにつけて人のくさめも耳につく
○どれにしようか格子の先で霜のしらぎく目がうつる
○利上利上にしがらみかけてなかれもあへない質ばかり
○うたへうたへの声高さごに」(七十一ウ)枝もさかへる松づくし
○よたか切見せむかしはものををもはぬむくひの此よこね
○色よ酒よと身のいたづらにあはれなすがたも心がら
○酔ふたまぎれに投た茶わんくだけて今さらものおもひ
○あけりや暮るとさてしりながらかねやからすがうらめしい
○とても此世の思ひでならばじんきよと食傷がして見たい
○夜着やふとんもあはれと思へわたしやひとりで床のばん
○夢でなりともあはしておくれゆめじや浮名は立はせぬ」(七十二オ)
○銭のないときやいつでもおなじわたしや毎日秋のゆふ
○いくよいくよになく声きけばちどりと思へど気がわるい
○枕はづして嶋田の髪をみだしたあげくは気がおもひ
○山の秋風夜はしんしんとふけて身にしむとほ砧
○あぢきなき世とあきらめなからたれしもおかねはほしいもの
○ちり取かた手に箒をもつてほれたやつらをはきよする
○としはとつても若むらさきの色になりてがまだ多い
あふひまつりの噂を湯屋で」(七十二ウ)はなししながらくらべうま
○とてもするなら絵合せよりもぬしとふたりで貝あはせ
○あすは又あす朝かほとなよその日その日をかけながし
○うゆる玉苗早乙女笠は田ことの月よりなほ多い
○のぼる朝日になく鶯のはつねうれしい窓の梅
○のべる蒲団に枕もふたつたれと寝るのか気がもめる
○ふぢのうら葉は手も届かふがむすめしらはじやつまゝれぬ
○なまをいはずときざをはよしなどふせ女がほれはせぬ」(七十三オ)
○かしはぎの枝にがさつく枯ツぱよりもぬしのこゞとがそうぞしい
○どふせうき世は夢まぼろしとさとりヨひらいてくさの庵
○雨にやどかる軒端の下もぬれる他生の縁むすび
○せどへ作つてお芋をぬいて星へたむけのひごすいき
○棚の鼠のいたづら男あたり近所を喰ちらす
○わたしや祭のうしではないが人のはやしにのせられる
○雲はまかうがおまへのやうにくだは誰でもまかれまい」(七十三ウ)
○ぬらりくらりと日向の蛇じやからいうき世はわたられぬ
○酉のまちもつた熊手についひつかゝりけふもぶらりと日をくらす
○田畑つくつて田舎のすまひほねはをれても気が安い
○竹田あふみをたのんて来ても恋のからくりやむづかしい
○恋の初荷を車てをくりいろのとんやといはれたい
○しんの夜中にふと目をさましきけばとなりの小なべ立
○ほかの草木のしをれて後に松のみさほのよくしれる」(七十四オ)
○雪の寒苦をしのいで今は花の兄きのわらひがほ
○ほどやどけうにや迷はぬけれど実をつくせば闇も月
○乗合の舟をまつ内ぬしやどちらへと詞かけたがゑんとなり
○初夢にぬれて嬉しきアレ床の海だからふねかよふくの神
○せじでまろめてくぜつでだましいまのはやりの鉄炮玉
○小づまとる手で糸針もつてかんにん袋をぬへばいゝ
○酒も肴も只そのまゝに(ママ)」(七十四ウ)
○まとまらぬはづさ出雲で氏神さまがひとりこせうをするやうす
○人の文見るにつけてもかうしたことのありしむかしを思ひだし
○似てもにつかぬはなしはいやよ鴨とあひるは直(ね)がちがふ
○ぬしがあるから世間がもめる七両二分出しや己(おれ)がもの
○うそとしらずに百(もゝ)よもかよふあなのないのにきがつかず
○かつがれる事としりつゝつい真にうけてあとじやなぶられわらわれる」(七十五オ)
○銭がなくなりやどちにもなるよかけた日なしを切かへる
○おもひ定て切文(きれぶみ)かけばとかくなみだで字がにじむ
○玉のこしにものる気でゐれど今にむかひの手間がとれ
○ぬしとわたしはひやうたん鯰たしかかしまでゑんむすび
○鐘のくやうに何つくものかかわい男の目をさます
○かねてふたりが死ぬのはせうちけふは友びき目がわるい
○うそと遊女とつねにはいへどこれはまことよ○(まる)じるし
○きせうせいしは屑やへうつて(ママ)」(七十五ウ)
○くろうするのはからだに障るつねの持薬にへいき散
○文をやるにもかく手はもたずまさかこん蒻(にやく)玉も投られず
○立てさはぐなやきもちほどはさきでおもはぬうはきもの
○わるじやれさんすな強飯(こはめし)ヤいやよやきばがへりが五六人
○わたしや出ぎらひ芝居もいやよじつは常ぎかはれぎなし
○つれて逃たは薪屋の娘親がかたぎでわからねへ
○此ごろはやうすがちがふとじろりと見られ胸へうたるゝ五寸くぎ」(七十六オ)
○ゐぬを見こんで逢にきた己(おれ)にだんなののろけもよしてくれ
○かわいそふだよけふ此頃ははたで見る目もいぢらしい
○礼義いふうちやまだたのしみよ今じやたがひにやけばかり
○むりな願をむすぶの神へすへのおれいはふたりづれ
○ぶたれながらも其手にすがりじやけんも時によるわいな
○この頃アあきれて涙もでないすへにやわたしも共なんぎ
○あいさつしだいで義りある人をよしておまへに情たてる
○切てしまへば根も葉もないが」(七十六ウ)それじやくろうしたかひがない
○ゆふべわかれて間もなく初会いやな座しきのせじわらひ
○ゑゝもいやだよじん助らしいあんな人にも出にヤならぬ
○しちおたふくめとかん癪おこしうてばりもひもわかるかへ
○ひよつといふかと大網きせてこわい手くだのせめ道具
○わたしひとりで血道をあげておまへは平気でまぜてゐる
○やさしいやうでも他人はこわいひとつつまづきヤむかふづら
○いちかはちかをいふのはよいがそれじやおまへを困らせる」(七十七オ)
○せけんなかよくおまへも立て丸くをさめるさばきやく
○ぐちはおよしよとつちかどうと論はないぞへ五分と五分
○やさしいやうでも隔た中はどこかことばに針がある
○いふにおちずにかたるに落ていつかとらるゝことばじち
○さかねじにいひくろめてもよはみがあればせうちしてゐてまけてゐる
○たのみない身はついのり安いこはい他人の口ぐるま
○みれんをかくして逢ずにゐればはたじやさめたと焚付る」(七十七ウ)
行平さんでも世に捨られてしほくみふたりがみやづかへ
○若葉かくれになく時鳥月がないたか雲の中
○しらでいはずによそごとらしくつらいゐけんのとほまはし
○世間さはがせ手がらにヤならぬなみかぜ立ずにはなしあひ
○さアおかへりよと羽をりをきせてかへしやかへるか義りしらず
○ことばで迷はせしうちてまるめ手だまにとられてはじかれる
○たのもしい人をたづねてはなして見たらひろいせかいへ出るであろ」(七十八オ)
○さすがやり手もなみだを流しかむろが寝言に親の事
○たつは蝋そくたゝぬは年きをなじ流れのすへながら
○あへばいつでも気安めばかりしんのはなしをしやしやんせ
○よせばよいのにもう今ごろは人のしらないくろうする
○まゝになるよでならずにゐるはこいつはいづもにもめがある
○斯(かう)してこうすりやこうなる事としりつゝこうしてこうなつた
○ほれたほれぬはまた初手のうちこうなりやなんだかわからない
○家業だいじに身を大切に」(七十八ウ)しんぼしてくれ今しばし
○かせぎ女房とせけんでいふになにがふそくでぶたしやんす
○どふせやけだよかうなるからは親も主人もむかふづら
○日にましおかずのまづいにつけてもとの主人を思ひだす
○連はいそぐしはなしはのこるをくるろうかのせわしない
○西も東も南も北もいつもごぶしでおめでたい
○うらや初会はつれしゆがたより今じやつれ衆が邪魔になる
○金と紫ヤお江戸が出きるむらさきヤいらない金ほしや」(七十九オ)
○さいはい手にもち纒(まとひ)のまねをしてはお部やでしかられる
○ぼうは誰が子だ名はさゝねどもちやんに其まゝいきうつし
○秋の唐なすうまいといふがさつま芋にはかなやせぬ
○ぬしの心は焚(たき)そこないのめしよしんがあるよで水くさい
○をりるはしごのまん中ごろでしんぼさんせと目になみだ
○親のいけんもきかないわたしなんで他人のそらいけん
○おもふ拙者におもはぬきでんおもはせうとは拙者りふじん
○あやまりましたよもう是からは」(七十九ウ)おとこねこでもだきはせぬ
○やいたお芋にふかしたお芋どちらのおならがくさいやら
○おまへそのよにもとまでいれて中でをれたらどふなさる
○火鉢ひきよせ灰かきならしかたいもちでもあればよい
○さきは大ぜいみかたはひとりたのむおまへはふたごゝろ
○おまへを麁末にする気はないがやりてがわたしにこはいけん
○あゝもじれつたい何をしてみてもかゝアとかせぐよなことはない
○あちらたてればこちらがたゝぬ両方たてれば身がたゝぬ」(八十オ)
○内はかんどう二階はせかれなんでいふめがでるものか
○百度まいりを小舟ですればさしであはれぬ事ばかり
○あだも是ぎりもう惚じまひひとののろけを聞もいや
○お店(たな)ものでも出番の衆でもやぼとゆだんがなるものか
○いきな人でもふじつがあればすへはあいそのつきるもの
○春のはつ日のゆたかにさして呑ばめでたいとそのさけ
○せけばやむかとおへやの小ごとおちやをひくにはましであろ
○泣ばまことゝお客のこけが」(八十ウ)いろのしをくりしまい札
○けいせいも元は素人ひそうのむすめうそもま事も人による
○いへばとふやら催促らしくいはねばかへさぬかりた物
○ひとのねがひとわたしはちがふ思ひ切たい身のねがひ
○はへば立たてばあゆめとそだてた親はおまへゆへでもすてられぬ
○恋に上下のへだてがないといふは不義りのかつてづく
○せじもぜうづもモウいひあきたお酌するのもしやくの種」(八十一オ)
○胸に手をあてしあんをすればあだな人ほどじつはない
○子を思ふ親となる身のあすをもしらずけふは夜ざくら月見酒
○たつを引とめマアきかしやんせ市にもちつき松のうち
○送る茶やでもむねきなしかたあのこによばれてなるものか
○しんの夜中にふと目をさましとなりざしきのもらひなき
○ほつとため息びんかきあげてかねがほしさの此つとめ
○あなたこなたのお他力さまでこよひまはしがみツつある」(八十一ウ)
弓のつるほどせいはらもんではりに来てから此しだら
○はづれた縁とて神さまたちがいつもで麁そうをしのんだろ
○人形くびとてわらふはおかしたれしも男のいゝがいゝ
○にやけた男はいやみだなどゝいふはをよばぬまけをしみ
○惜みやせねともわたしの亭主どふも人にはかしにくい
○しよたいじみてもどこやら知れる親のゆるさぬふうふとは
○雨あられ雪や氷とへだてゝあれどおつればおなじ谷の水」(八十二オ)
○達磨だいしじやわしやなけれどもおあしのないので埒あかぬ
○あかぬわかれも銭金づくさにくいかあひもさとのつち
○をや寝なんすかくすぐりいすとたぬきを狐がゆりをこす
○こすにこされぬもん日とものびばかもなければ身がたゝぬ
○をしのつよいが当時は徳かねとりヲしてからいろになる
○なるはいやなり思ふはならず目でもねむつてさせやうか
○こがれ死だら此くるしみはしらぬほとけとなるであろ
○夜具もしかけもみな入上(いりあげ)て」(八十二ウ)ぬしゆへ年きとつみがます
○おへやのいけんもてづめの仕置切ねばほどけぬしばり縄
○実をつくすもふじつをするもこゝろひとつのさきしだい
○ほどもよければ男もよくてそれでかねもち女房もち
○したしき中にも礼義がだいじもとは他人のことだもの
○夫婦親子の中よい家は奉公人までつとめよい
○むかふがいやならこつちもいやよてんからむしがすかなんだ
○たがひにひとり身何はゞかろふはれてめうとになるがよい」(八十三オ)
○ひよんなうはきをするのも楽なゑようすぎてのさいごのみ
○中がよいとてゆたんをするととんだ悪魔か水をさす
○たのむと言れりヤ捨てもおけぬどふかしうちをつけてやる
○酒はのめどもつゝしみ深く義りをかゝねば身がもてる
○だまされてねこそげむしとられたうへにつき出されるとはくちをしい
○今まであたまが押れてゐたがこれから世に出て楽をする
○いやな辛防する気にならばこんな貧苦をしはせまい」(八十三ウ)
金利の上りで小いきなくらしふうふ小おんな朝寝して
○のどへ出るほど唐なすおさつたべて見たいが身のねかひ
○色のせかいをさらりとやめて是からふうふでともかせぎ
○ねとるたくみの胸わる女人のなげきもしらぬかほ
○うるさ過るとあいそがつきるりんきぶかいもほどにしな
○何かにつけて邪まするやつは河豚(てつぽ)にあたつて死ねばよい
○女房がいやでうはきをしたのじやないがきれていやならよすがよい」(八十四オ)
家のはん昌よしあしともに女房ひとりのむねにある
○門の犬にも用あるたとへあいそづかしをせぬがよし
○自由になるとてわがまゝするなみつればかける世のならひ
○神やほとけをしんじんしやんせねがひのかなはぬ事はない
○不義りさへせにヤせけんは広いたとへまづしくくらしても
○なまじ互にあらたまるからをかしく人の目にもつく
○かん癪もちでもこつちの仕よう馬のたづなに舟のかぢ
○親はふせうちわたしにヤすいた」(八十四ウ)いきな人ならなまけもの
○ふところがゆたかならねば万事につけてゆきとゞくとはほめられぬ
○しらぬ旅ぢにくろうをしても人にひと鬼はないものだ
○酔たしやツつらつくづくみれば歯くそよだれに筋だらけ
○角をはやした女房の手にはいつか文がらもつてゐる
○朝の蚤とるねまきの姿粂の仙人死ぬだろふ
○友だちのていしゆに惚てはすまないけれどしあんのほかならぎりもかく」(八十五オ)
蜑の色事鮑のまくら帯もとかいでせわがない
○すゞみヤ付たりおまへの顔が見たいばかりのほたるがり
○ちよいとお待なきものをお呉屏風のからこが見てゐるよ
○鼻毛よまれてあげくのはてにところてんほどつきだされ
○蟻の思ひは天とはいへどふたりがねがひの遅い事
○人をおもふてふと飛のけばにくやせうじに猫のかげ
○ちはが過たかあからむまぶちあとで嬉しい汗をふく
○あはぬ此夜はアレほとゝぎす」(八十五ウ)ないて冷つくまくらがみ
○先のうわきに二のあしふめばむねにこたへる事ばかり
○つるのふうふの嶋台すへてせけんはれてのながまくら
○色は男のはたらきじやとはあんまり気まゝな申ぶん
○女房にげいしやの勤をさせてやきもちやくのも程にしな
○やきもちいふのが気にさはるならうはきをちつとおたしなみ
○じつとこらへてへだてた枕灯とりむしからはだと肌
○御祓(みそぎ)まいりに手を引あふてふたりが邪魔をばはらひたい」(八十六オ)
貧にくらすは覚期(かくご)のうへよ今はたがひにじつくらべ
○涕(はな)ツたらしとわらはゞわらへだれより女房はじつがある
○人のめはしにかゝつた中をしらばつくれるもほどがある
○今となりてはお墓へかいた赤い信女がはづかしい
○梅にからまる源太の凧もゑんかありヤこそひつかゝる
○実がありヤこそ角をもはやせやくは女房のあたりまへ
○梅のさかりにすかしのおならてうどかほりがいゝかげん
○足がものいふ互のこゝろ」(八十六ウ)こたつに柱がなけりヤよい
○枕ならべて寝たときよりもかけののろけがきかせたい
○ばかにのばすな女房に鼻毛凧のいとめじやあるまいし
○ひとりものならどふでもなろが義りある女房がかせになる
○もとからいやならふざけちやゐない何とか言てくれてもよさそふな
○女房もちとて惚まいものかさがしてのりこむ下ごゝろ
○惚たをせうちで気やすめらしくをつにあやなす人じらし
○どふでかれ是いはるゝならば義りを立るにヤ及ばない」(八十七オ)
○背中あはせにくぜつの果をてんじやうの鼠で中なほり
○思ひきらふといふではないがおまへのこゝろが水くさい
○女房の実意もみな水の沫(あは)それほどあのこがかわいゝか
○いはずはしらぬが仏でゐるをなましはなして此うらみ
○だんだんおまへのしんじつ聞ばやいたもいまさら恥かしい
○としがちかをが女房があろがほどのよい人たれもすく
○しらぬわたしをなぜ惚させる来たのがおまへのあやまりさ
○花の兄イといはれた梅だ」(八十七オ)人にけぢめをとるものか
○女房に質屋くどかせむり借させてなまけてゐるのもほどにしな
○身にはおひへをまとつてゐてもこたつに着てゐる綾にしき
○いろのあるのを初手からしればかうしたわけにはならぬもの
○うわきと言れりヤ一言(いちごん)もないがおまへに見かへる初手のいろ
○屏風ひとへのわり床なればしんのはなしはのこりがち
○折角のごしんせつだがまづおことはりさんみやうさがしたやめにをし」(八十八オ)
○娘のいろだとまだ気がつかすりこうな人だと親がいふ
○男だいじにするほど親をたいじにしたなら誉られふ
○ひよはいからだで●(かせぎ)がたらず貧苦させるがいぢらしい
○およばねついてもわけありどしはわたす羽子(はご)までしほらしい
○胸のむらくもさらりとはれて二人しつぽりぬれたどし
○なさけなくなく恋しい今宵夜着をさかさにきて寝やう
○奴々とあだなのわたしぬしにふられちヤ身がたゝぬ
○女房にかくしてゐるその色を」(八十八ウ)あらけ出されちややけになる
○悪法かくのも男のためよすまぬせうちのわるだくみ
○といきつくづくあんしてみればどふですへにはわかれもの
○気安め真うけに鼻毛をのばしかはりのでけたもしらないで
○ほれた女房のある其人になんでこんなにほれたろう
○迚もあへねば転寝宵寝ゆめであふのをたのしみに
○なんぼ惚たを見透(すか)されてもばかにされては腹がたつ
○惚てゐるのをしつてはゐれどお気のどくだがおことはり」(八十九オ)
松にたち鶴さくらに幕ようめにさへづる匂ひ鳥
○ほどもよければ男もよいがしみつたれにはこまります
○呑ぬせうちでいつぱいついだ酒はすけたい下ごゝろ
○しんの涙でぬらした袖をぢん助だますに又ぬらす
○すへ膳のはしをとらぬはお腹(はら)がよいかたゞしや女房がこわいのか
○やつかいものだよ狆猫婆(ばゝア)口を出すのがこうるさい
○朝がほやあした咲のをひねつておいてぬしの」(八十九ウ)ぬしの(ママ)寝起の花にする
○松にさへつるあの鶯は茶人のなかまか風(ふう)ちがひ
○くよくよと思ふちヤゐれどこゝろの鬼めが身を責る
○買気(かふき)で女郎がかはれるものかかはれるこゝろでかふがよい
○恋はくせものしあんの外といふは浮気のゑてがつて
○わり床のぢがねばなしをふと聞つけてわが身にひきべつもらひなき
○世の中をなんのへちまとおもふてゐれどぶらりとしてはくらされぬ」(九十オ)
○愛想もつかさす手切もとらず兄やいもとでわかれたい
○おてんば娘と人には見せてないしんじみる人がある
○たよりない身で此河竹のすへの流れをくむわいな
○義りづめいけんであい切ませうとくちとこゝろのうらおもて
○炭をつぎつぎ火ばしを筆にあつい男のかしらもじ
○枕はづして涎をたらし寝ごといひいひ屁をたれた
○しのびあふにも此道ばかりやとしに似あはぬちゑがでる
○流れの身じやとて蝋そく気どり」(九十ウ)そんなにこぼす事もない
○ほども男もしうちもよいが金のないのが玉に疵
○今の娘は佐用姫ならで石よりかたい金になる
○風のつよさに切ても見たが又もむすんであげる凧
○こしてあげよと手を引よせて酒もたばこも口うつし
○酒がこうじてふとした坐興命やるほどほれはせぬ
○明の鐘つく坊(ぼ)さまの憎さ茗荷しこたまくはせたい
○鬼も十七ばん茶も烹花(にばな)どつかいろかのあるものだ」(九十一オ)
○義りと情のふたすぢ道はゆけばゆくほどしんの闇
○よこに車を押とほしても女房にもらはで置ものか
○縁が切ても心がのこり暮て見に行はつのぼり
○親のゆるさぬ夫婦の縁も実がありやこそ添とげる
○金でかはれる苦がいの身でもほれりや素人(しろと)も同じこと
○山家そだちの芋堀こぞも金をもたせりヤ旦那さま
○人の惚るも何にくかろふ初手はわたしも惚た人
○いつもの癖じやとせうちはしても」(九十一ウ)腹がたつゆへ茶わん酒
○せけんはれての夫婦となりてお礼まいりにふたり連
○ほれたほの字は仏のほの字死んでもぬしはわすれない
○「いやになるぜ」(ことばステ)わらかしやがるといはれた義りかおまへじやめんぴもかいてある
○是はおあいだわらかしやがるよとうによかつたのがあるそふだ
  ○いやになるぜ○おあいだ○よかつたノたぐひはたうじのつう言也
○あどけないのはかあいゝけれと初心すぎるもじれつたい
○ほんになまなかいづもの神がむすひばなしがなさけない」(九十二オ)
○ふとしたことからつい気が迷ひ人のしらない此くろう
○義りとせけんがしみじみつらいあへばあはれる中ながら
○いふも古いがあれじれつたい憎いからすがなくわいな
○不実する気はみじんもないが先のこゝろが水くさい
○ぎりで切てもかはせたきせうすへはたがひのむねにある
○つとめする身とさげすむ人にいろとなさけがあるものか
○男ばかりに気まゝをさせてほんに女子(おなご)をかたおとし
○ぐつと抱しめ顔さしよせて」(九十二ウ)千代といふ口すいたどし
○ぬしのかんしやく日頃のくせよそふてわたしがなほします
○ぬしの遅いにわしや待かねてとがなき楊枝をかみ砕く
○問答 ことば印 ○男□女
○おまへゆへこんな苦ろふをするとはいへどほれたおいらのこゝろがら
□ほんにわたしも惚ずにゐたらぬしにくろうはさせぬもの
○くるたびくるたび只めそめそとなくはおどすかあまへるか」(九十三オ)
□たまたまくるくせ邪けんのことばすへをあんしてなくわいな
○せじや気安めいはねへおれだほかにうはきもせぬおれだ
□よくもいはれたうはきはせぬとことしばかりも五六人
○あれは一座のつきあひあそびうらもかへさぬかひはなし
□ついちやゐはせずなんだかかだかわからないのでおちつかぬ
○わからないとて捨おくきならよほどてめへもごしやうらく
□もうあやまつたこちらをむきなうしろあはせでうそ寒い」(九十三ウ)
□いとしかあいの思ひをこめてぬしへあげます此ちよこを
○いとしかあいの思ひはをなじいたゞきますぞへ此猪口(ちよこ)を
○まゝになるなら鏡になつてぬしのおかほがうつしたい
□おもふ事うつる鏡が世にあるならばぬしに見せたいむねのうち
○峯のさくらは美しけれどわたしや麓で見たばかり
□峯のさくらもついした風でふもとのおかたの袖にちる」(九十四オ)
○塩のあずきの大ふくもちをくさしながらもむしがすく
□かぼちや冶郎とおもツちやゐれとおつにうまみのあるおとこ
○鰒のやうだとわるくはいへどだいて寝て見りヤあつたかい
□なんのかゞしと安くはしてもなくちヤかなはぬ田の守り
おなじく尻とり
○さらべおけけふとつまりてその気やすめを聞ておちつくどぢじやない
□いたらぬわたしが心のくがいうはべばかりをはでにして
○手ふりあみがさ是此ざまに」(九十四ウ)したがてがらかきれことば
□はなしもきかずに又かんしやくのやけじや理道がわかりやせぬ
○ぬけつくゞりつ其いひわけで今までばかした口のさき
□きゝいれのないはいちづなおまへのきせうそれほどくやしきヤどふなりと
○とくとしあんをして見たあげくやぶれかぶれはたれゆへぞ
□そうしたうはきが有ほどならばなんでこんなにぶたれやう
○うしろゆびさゝれるしまつもおのれがふじつなんぼつとめのならひでも」(九十五オ)
□もつれかゝりし此くろかみをといてむすぶもをりがある
○るいは友とてほうばいまでもぐるでつきだすしたごゝろ
□ろうかで切(きれ)たる此うはざうりたてゝみせるか女郎のいぢ
○ちりにまじはる泥水とせいすむもすまぬもあるものか
□かはる枕になさけはうれどはらまじやうらぬがぬしへぎり
○りくつばるのもやぼとはしれどこけにされたとおもやこそ
□そくらかはれて又ぐちらしくいぢめちらすもまゝにしな
○ながれの身じやゆへ又よそほかへ」(九十五ウ)なびきヤせぬかとあんじられ
□れきれきのゑりにつくならきをもむものかつゞれなりともぬしのつま
○まゝにしやがれ其気やすめもこれまでたびたびきゝあきた
□たにんがましい何きやすめをおまへにたゐしていふものか
○かゝあきどりかその口上をすへのすへまでわすれるな
□なんぼわちきが流れの身でもいつたことばを水にヤせぬ
○万事わたしにまかせて置な亀の甲よりとしの功」(九十六オ)
□おまかせ申スがおまへの気しつ鶴の脛ではじれつたい
○やぼな己でも木竹じやなしさ松葉のめうとにさせてやる
□それで嬉しい世間へはれて子をう実梅(みうめ)のいく千代も
以上
○本編楮員(かみかず)余に嵩みたれば看るに煩はしき故に文句入の部は別冊にして又前後に分てり都鄙の通士前後を合せ需て懐にするときは争何(いか)なる席に莅(のぞ)むといへども心いき自在なり」(九十六ウ)かならす他(よそ)に見すごすべき普通の集にはあらざらまじ
隆興堂主人
歌沢能六斉誌

歌沢能六斉編集
流行哇輯目録

哇松廼声 初編 かへうた付掌中本
仝    二編 仝
仝    三編 仝
仝    四編 仝
右三編四編は戊午年間以来春夏までの新うた加入」(九十七オ)
哇袖鏡 横本全一冊
あらゆる新古のはうたをあつめ且戊午のとし出たる新唄のこらす載たり

度独逸節用集 同
前編に出したり
新撰度独逸大成
もんく入前編」(九十七ウ)
同   後編
義太夫
常盤津
冨本
清元
長唄

新内
歌沢
雑 うたひ ことば こはいろ はやりうた等さまざま入
この分前後にもらさずのしたり
右の外絵入葉本類数多御座候間御求御覧可被下候様偏ニ奉希上候
東都人形町
板元  品川屋久助」(裏見返し)



五、『新撰どゝ逸大成前集』(菊池蔵本)
〔文句入〕都々一節用大成」(表紙・題簽)
新撰どゝ逸大成 前集
もんく入前編
哥沢能六斉輯
当世堂梓」(見返し)
この集はもとより文句の新古に拘らず作意の能人情に通じたるを数千万章ゑらび成してひとつのとぢぶみに●(な)さまく計りつ既に大成と号しかども尓(さ)では紙数いたく嵩みてすき人の玩ぶにも寔に不便なるのみならず書肆(ふみや)が胸にも一物ありとぞよりて前後集をかくのごとく前後四冊に分てどもみな是一時の手輯にして殊に倉卒の筆記なればなほ」(口ノ一オ)漏脱もすくなからず幵(そ)は拾遺編にあらはして亦前後冊と●(な)さんのみ
安政七庚申のとし花月のなかば沙量(げこ)なればこそ甘口なあべ川町に仮ずまひして与次郎気どりに飯ごしらへしつ猿にもをとる梅星爺の
鰥寒翁まじめにしるす」(口ノ一ウ)
  目録
義太夫   唄員十有七章
常盤津   唄員四十四章
冨本    唄員三十章
清元    唄員四十八章
長唄    唄員三十五章
一中    唄員九章
 通計一百八十三章」(口ノ二オ)
天明九年出板の洒落本「自惚鏡」〔振鷺亭作〕の巻中に(金)ヱヽちくしようめ(八)〔ほうかむりをしながら〕(唄)わたしやかさのしようでさすきじやけれどおまへげたのしようではきたがる云々とあるは今のねんねこぶしか蓋ねんねこさいさいはどゝ一のひなびたる節といふべし
(絵省略)
こは右の自惚鏡に載る所の縮図なり」(口ノ二ウ)
度独逸大成後集前冊
       歌沢能六斉輯
  ○文句入の部
   義太夫
男につくのがおなごの道よ〔しち店ノ段〕(とゞろかす胸も板ゑんそろそろとしのびいでたる娘気は恋路のやみのくらまぎれ)不孝といはりよがなんのその
のぼりつめたる二階のはしご〔てらこやノ段〕(あすの夜たれかそへぢせんらむうゐめ見るおや心つるぎと死出の山こへてあさきゆめみしこゝちして」(一オ))いまさら目がさめあきらめた
こゝろがらから浮気なぬしに〔をかざきノ段〕(アヽコレ申シもふ何にも申シませぬ顔は見ねども云なづけの男持のがうるさゝにやしきをもどつた其時から尼になる気でけさ衣けふ一チ日に気がかはり染ちがふたるかね付の元のしら歯とすみ染にそめ直してもはがしてもおもひそめたぼんなうの)わたしでわたしの気がしれぬ
人めしのんで恋ぢの関を〔新口むらノ段〕(それはうれしうござんせうさりながらわたしがとゝさん」(一ウ)かゝさんは京の六条じゆずや町)こへてたふげの又くろう
きるに切れぬ悪ゑんなれば〔おびやノだん〕(わたしも女子のはしじやもの腹もたつしりんきのしやうもまんざらしらぬじやなけれどもかわいゝとのごに気をもませわづらひでも出よふかと)どふかしなよくするがよい
もとゆひの切てしまへば根も葉もないが〔白木やノ段〕(そりや聞へませぬ才三さんおまへとわたしが其中は」(二オ)きのふやけふの事かいなやしきにつとめたその内にふつと見そめてはづかしい恋のいろはをたもとから)きけばきゝばら腹がたつ
およばぬ恋路としりつゝほれて〔すしやノ段〕(たとへこがれてしぬればとて雲井にちちかきおん方にすしやのむすめがほれらりよか)とはいへ女房のあるおかた
秋の夜風の身にしみじみと〔いざりせんべつノ段〕(つきそふわたしは女子の身ちからにおもふぬしのみは腰ひざぬけて足なへ」(二ウ)となりやつれたるふうふがるろう)たれをまつむし音もほそく
蹴のかふむのかぶつならぶちな〔せんだいはぎ〕(なんともないとじうめんづくりなみだはいづれとおさなきにほめられたさが一ツぱいに)おまへにまかせた此からだ
やぶれかぶれと身は三味せんの〔あだち三ノ切〕(おねがひ申奉る今のうき身のはづかしき父うへや母さまのお気にそむきしむくひにて二世のつまにもひきわかれなきつぶし」(三オ)たる目なしどり)くろうするはづ親のばち
すまふとりをば男にもてば〔いな川〕(江戸長さき国々へゆかしやんすりや其後のるすはなほさら女気のひとりくよくよものあんじ夫にけがのないやうにといのる神さん仏さん妙見さまへせうじんももどらしやんして顔見るまで)かた時こゝろはやすまらぬ
おもひ切とはむかしのことよ〔ほり川〕(そりやきこへませぬ伝べゑさんおことばむりとはおも」(三ウ)はねどそも逢かゝるはじめよりすへのすへまで云かはし互にむねをあかしあひなんのゑんりよも内証のせはしられてもおんにきぬほんのめうとゝおもふもの)おもひきられる義りかいな
おもひつめたる気はひとすじに〔あさがほ〕(またも都をまよひ出いつかはめぐり逢坂の関ぢをあとに近江路やみの尾張さへさだめなく恋し恋しに目をなきつぶしもののあいろも水鳥の陸にさまよふかなしさは)」(四オ)ぬしにどふしてあはれよふ
そんなつれない云わけばかり〔しちみせ〕(おそめは顔をふりあげてそりや曲がないどふよくなたかいもひくいも姫ごぜのはだふれるのはたゞひとりおやけうだいもふりすてゝとのごにつくが世のおしへ)女ていきん見やさんせ
女ごゝろのたゞ一トすじに〔のざき村ノ段〕(あんまり逢たさなつかしさにくわんおんさまをかこつけてあひに北やらみなみやら)きて見りやつれない事ばかり」(四ウ)
人のいけんも火水のせめも〔ことぜめノ段〕(さらばといふ間もないほどにせはしないわかれぢはむかしのきぬぎぬ引かへてもめんもめんとおちぶれし)かうなりやなほさら切られぬ
おまへの浮気をしりつゝ惚て〔かみぢ〕(なかしやんせなかしやんせそのなくなみだがしゞみ川へ流れて小はるさんくんでのむわいな)りんきするのもぬしのため
  ○常磐津
ほれた性根をついうちあけて〔かつら川〕(はづかしい事岩はしのよる」(五オ)のちぎりもあだまくら)もうどうあつても切はせぬ
にくらしいほどやさしきゑがほ〔同〕(なんにもいわずふりそでのたもとかざしてかほのぞき)これがほれずにゐられふか
ほどがいゝからうわきがこはい〔いなか娘〕(こちも木竹じやなけれども仇なゑにしがむすばりよものか)しんじつなさけを見たうへで
あまへたれるもわがまゝいふも〔かつら川〕(ちいさい時からおまへにだかれ手ならひせいといはしやんしておてほんかいてもらふ」(五ウ)たがいろのいろはのおつしやうさん)おまへのほかにありはせぬ
ほどがいゝからついまはりぎも〔?〕(いつかとけゆく女気やたがひにあかすしんじつの心に錠をかみわけて)きつと浮きをおしでない
したふねがひもさきへはしれず〔五人ばやし〕(ぐちなくりことあどなさにくひさき紙のゑんむすび)むすめごゝろにやむりもない
恋の風ひきやアこゝろもせまく〔せきのと〕(おもひにたへかねひとふでとかきそめしより明くれの)」(六オ)文のたよりをちからぐさ
月のすみだのゆふべにぬしを〔たきやしや〕(見そめてそめてはづかしの森のしたつゆおもひはむねに)とけぬくろうが癪となる
わけをいふても気ばかり引て〔うとう〕(千づかもあだに朽よとはあまりにつらきこゝろざし)どうしたら思ひがはらされふ
くぜつしながらとけるも早く〔まさかど〕(をびかくさるゝたはむれもにくうはあらぬうつりがに)かへしやさみしい床のうち」(六ウ)
あきがきたのかおまへの邪見〔どんつく〕(なまじかうせぬはじめならおもひきる瀬もあろふのに)わたしやしみじみかなしいよ
口へ出さねど男のくろう〔いな川〕(おしてははれぬもつれがみびんのほつれをなでつける櫛のむねよりつまのむね)ないて見てゐるときでない
かむろだちにてはねつく娘〔忠のぶ〕(ひとごにふたご身はよをしのぶいつかむかしのさゝめごと)どこのとのごにそふであろ」(七オ)
袖からおちたる文とりあげて〔せきのと〕(これ此やうにはじめからきせうせいしをとりかはしふかいおかたがありながらかへしておいてまたわしに)いろよいへんじはあきれるよ
ほどもきりやうも勝(すぐれ)たおまへ〔同〕(いつたいそ様のふうぞくは花にもまさるなりかたちかつらのまゆずみあをふしてまたとあるまいおすがたをおくげさんがたおやしきさんおふくの中で見そめたが)人のほれぬがわからない」(七ウ)
わかれのつらさにかみかきあげて〔しのぶうり〕(二世のかためとだきしめてつい手(た)まくらのそゝけがみ)あゝもじれつたい明のかね
七ころび八をき山ぢををぼつかなくも〔むねきよ〕(やがて小はだの山こえて馬はあれどもかちはだし君を思へばゆへぞとよあるくものには花もみぢはなのてぐるま手をひきて)またもふゞきに袖ぬらす
ふとしたゑにしがかさなりあふて」(八オ)〔大江山〕(二世を三世とみだれ合その夜はわかれて矢ぶみに日ぶみまたのごげんに夜いくさせんとしらし屏風をこだてにかまへいまやいまやとまちかけたり)かたときあはねば気にかゝる
ぢれつたいほどおもはせぶりな〔?〕(いなかものじやと思ふてからにあんまりなぶつてくれめすなじたいそさまのやうな美男をとこのくせとして女子たらしのすてことば)こちも木竹じやないわいな」(八ウ)
かぞへられたるものゝふさへも〔一人かげきよ〕(ねびくわんを出しにして夜ごと日ごとのかちまふて雨にもゆきのぬれ事はちつとせんぞへ申わけたらぬくぜつのしのこしを今宵はぜひにござんなれ)なりもしどなき雪の朝
ぐちがかさなりまた目もうるみ〔はん七〕(はるの雨またちらすのもはるの雨そらはれやらぬむねの戸をあけなば人の口のはにかゝるもままよまゝならぬ今のおもひをもしほぐさかく」(九オ)とやぬれし身のはては)むねにもちこすよひの雨
実にしあんのほかとは是か〔みつのあき〕(きやくにせぬよのうれしさをうかぬかほして隠しづまなぶられたさのものずきはきはづかしいじやないかいな)まようこゝろはわれしらず
ふけて夜風の川おとほそく〔おはん〕(御いけどをりもかげすごきやなぎのばゝをよこにみていそげばなごりをしこうちつまにもわかれかねの音も涙ふくみて雨ぞふる)」(九ウ)あやにからまるいとやなぎ
うつりやすきは世の人ごゝろ〔みつのあさ〕(うきよは夢のやるせなくちよきは矢をいるしほどきもてうどよいころ首尾の松ふねじやさむかろきてゆかしやんせわしがきがへの此小袖)わしのこゝろもさつさんせ
きぬぎぬにのこるたがひのくぜつのもつれ〔小いと〕(よふそんな事いまさらにいわれた事かなんじやいなぢたい二人リは云なづけうきにわかれてかなしさは)」(十オ)とけぬおもひのむねのあや
いふた一トことほぐにはならぬ〔おかめ〕(きくにおかめはなみだぐみそりやおまへなにをいわしやんすしうげんをしたといふばかりでそれなりにあのさはぎ心のしれぬわたしゆへ)ほかにしあんをおしのかへ
なんでもつゝめば包もしようが〔おそめ〕(おもひをつゝむふろしきもかたにはかろきてふてふのそでにひらひらたもとにひらりひらぐけをびも解かゝりこゝろもとけたかゝへ」(十ウ)をび)人目ばかりはつゝまれぬ
しづのをだ巻くりことながら〔忠のぶ〕(むかしをいまになすよしもがなたにのうぐひすはつねのつゞみしらべあやなすねにつれておくればせなる忠のぶが)こひのしらべのもつれ糸
三味せんの糸のもつれてどうなるものか〔梅川〕(かほつれづれとうちまもりそれそのよふにいわんすほどこの梅がはが身のつらさほれた女子のせう」(十一オ)がにはあだなつとめをじつにして)いまは人目をしのびごま
たとへどのよな水さすみても〔水うり〕(おいてくれこゝがなだいのあづまつ子気もはゞびろなひぢりめんはだか百くわんしよふともはつがつをなら見のがさず)わしがこゝろはにごりやせぬ
うたゝ寐してさへしびれるものを〔げん太〕(あすなぶられふもまゝにしてこゝろでやぼなとこいそぎしごきもわきへなげしまだまくらの下へ」(十一ウ)やる手さへ)さぞやお手ゝがいたかろふ
手なべさげるもうきよのならひ〔おはな〕(とかくうきよはなアいろとさけ二道かけしあき人のあめにもゆきにも打になひあたりはづれぬ上かんやかたにはもちのこしつよくちぎりかさなるいろ上戸ゑひざめしらぬ下戸のとく)やきもちどころじやないわいな
なまじ初手からやさしくなくは〔あはしま〕(はでやうわきのなかでさへしんじつしんの二世三世」(十二オ)やくそくかたき女房気はうれしかろふじやないかいな)いまのくろうはぜひがない
ゑんもゆきあふ二人リが中は〔おふさ〕(むぎの青葉に風あれてきのふのまゝのびんつきはのちの人めと立よりてあいたてなさのつげのくしさしもならはぬかちはだし二人リつれたもいんぐはどし)こゝろひとすじおなじみち
つもる恋路のたふげをこして〔夕ぎり〕(ふゆあみ笠のあかばりてかみこの火うちひざのさらかさふきしのぐしのぶ草」(十二ウ)しのぶとすれどいにしへの花はあらしのおとがひにけふのさむさをくひしばるはみだしつばもかみかびてこじりつまりし師走の日)越すにこされぬとしの関
あきずあかれずそひ遂たさに〔白ふぢ〕(おやのかたみのでんぱたやきみなほうらつにさんしてもいとしと思ふこゝろから三とせ此かたこなさんおぼへてござんせういけんがましいことゝてはついにいちどもいわぬのは)いとしおかたとおもやこそ」(十三オ)
ぐちと枕をひよくにならべ〔三かつ〕(アレまたやつぱりそんなこといふてなかせて下さんすなこれがせけんにありふれたいろやうはきじやあるまいししよてはしられずしらぬどしわやくなゑんを神さんがひよんなおせわの其のちにつきぬゑにしを松のもん)いろとこひとのかげひなた
むりなことじやがこりや是ぎりよ〔にいな〕(そりやなにをいわしやんす今さらあによいもうとゝいふにいわれぬこい中はおもひ玉子のしんたきにかけたね」(十三ウ)がひのいくひろか日にましふかくなるたけは)あだな浮名のたゝぬやう
まだいろにそまぬまゝなるしら歯の娘〔宗清〕(たづねきそぢのたびまくらはやうお顔のみやこをばかすみとともにたち出ていつかあふみやみのはてもどふしなのなるあさましや恋のたふげもうすゐとは)かほにほんのりちるもみぢ
おためごかしにたゞうかうかと〔小まん〕(わたしはにはにたちばな」(十四オ)の香にせゝられてほとゝぎすあじなおふせを松のゑのつま戸をそつとあけかけておくのしゆびをば待合の夕だち風にむなさはぎ)それがこうして癪となる
せうちしながらつい待わびて〔おつま〕(かねもろともにしのびいではる風さむく身にしむもつれなやにくやその人をやつきりきりきりきりしまつゝじくれなゐのはなとみへしもあいの夢うき世のゆめとさめ鞘の)」(十四ウ)ひと夜あはねば気をまはし
たとへ此世はあきらめやうが〔一のたに〕(此世のゑんこそうすくとも来世ではすへながふそいとげてたべわがつまと顔にあて身にそへて思ひのかぎりこへかぎりなく音はすまのうらちどりなみだにひたす袖袂)二世のしやうこがわしや見たい
すへをわたしは待かねがふち〔八百万〕(五百ざき恋しすみだ川二ツならべし枕ばし其しゆびの松まつち山そふてみのわとあけくれに日本」(十五オ)づゝみの神さんへむりなねがひも恋のちゑあさぢが原じやないかいな)はやく中よくめうと石
しらぬわたしをなぜ惚させる〔しのぶうり〕(すぎにし梅の花見月めみへはじめと手をついてふつと見あはすかほとかほ)来たのがおまへのあやまりさ
  ○富本
いろじやいろじやとわけしらいとの〔あさま〕(そめて悔しきなれごろもありしながらのひとつまへ」(十五ウ)こづまそろへてしどけなく)ひざにもたれて愚痴ばかり
じつと抱しめ顔見合せて〔にいな〕(ぬれていろますからさきのまつ夜はつらき床のうち)下になる手のいたいほど
たかいおかたに惚まいものよ〔まつ風〕(かはるまいぞやかわらじとあふせうれしきいらへさへ)ごめんあそばせひぢまくら
いけんいふのはおまへのやぼよ〔おきく〕(まことをいはゞこのみちは」(十六オ)親のまゝにもならぬがならひ)義理もせけんもいるものか
たまに来てさへそのすねことば〔忠のぶ〕(宵に寝よとはきぬぎぬにせかれまいとの恋の欲)花にしらむがじれつたい
どんなうはきをしよふもしれぬ〔まつ風〕(とのごの心はあすか川ふちが瀬となりてりふりしれぬたとへ事)一日あはねば胸さはぎ
おもふにまかせぬ山ぶきいろよ〔むしうり〕(われはおよばぬみのむしなれば父よとなかで」(十六ウ)恋に身をやつれはてたるきりぎりす)きつと思案をせにやならぬ
深くなりやふかくなるほどまゝにはならぬ〔かぐらじゝ〕(くどふいふのがおまへのくせかなんぼそのよにせかしやんしてもあふにあはれぬあだ中をどふがなしゆびをこしらへて)むりなあふせがなほたのし
したゑだのまゝなるはなはこゝろになくて〔お七〕(あいといふのも人めのむねにくよくよきをくばり」(十七オ)そこかこゝかとこゝろでははいまつわるゝふじの花こひにゆるしのいろならん)とゞかぬこずゑにくろうする
見られ見らるゝ互のやつれ〔?〕(目もとしぼよるちりめんのふたへまはりのかゝへ帯ついのかたみとなりふりもわかばにくらきなつこだちむぎふくかぜもおつてかと行なやみてはたちどまり)袖もつゆけき旅ごろも
中をせいたるあのよしの川〔ひなどり〕(ほんにそれよくちでいわ」(十七ウ)れぬこゝろのたけかねてしたゝめおくやまのしかのまきふでふうじぶみこひし小いしにくゝりそへ女のねんのつうぜよと)おもひこめたるいもせ山
二世も三世もそのさきの世も〔まつ風〕(かはるまいぞやかはらじとおふせうれしくいらへさへどふいふてよかろふやらおもひなをせばかこつ身をいのれどさらに神さんも)せうちでむすんだ縁と縁
そでのうつりがさて忘られぬ」(十八オ)〔白ふじ〕(いかうへこそでかけ香もつとめの内のかざりやくいきぢたてごとさみせんのいとしとのごに打つけて)いふにいはれぬむねのうち
たまさかあふ夜はしみじみ嬉し〔小むらさき〕(ほんにしみじみうちあけていはねばすまずいへばまたやしきそだちのこのやぼにまだゆゑうめのかゞのこり)そでにあまりしはづかしさ
なんぼ此身があまじやといふて〔松かぜ〕(わらはゞわらへちつともそつともだいじないハヽ」(十八ウ)ヱヽだいじないものをぬれてそひねの恋ごろもそも此ほどのおん情)おもひきられる義理かいな
こがれこがれてくらせばとても(かはすことのはむつましくありしそひ寝のいもせがはうきよをわたる花いかだはなればなれになるとても)すへはひとつになるはいな
ねがひかなひて気もおちついて〔うすゆき〕(こゝろせかれてたびだちに日のよしあしもないごろもうらなきこひのま」(十九オ)ことゝいつか女夫とならさかや)はやくもちたやしんぜたい
おもや思ふほどまゝにはならぬ〔むしうり〕(すいなうき世のなんなんなかをやぼにくらしてまちまちのとくゐをまはるかげどう籠(ろ)なれもこひぢに身をやつしごと)野べになくむし身をこがす
女ごゝろのたゞ一トすじに〔おなつ〕(むりなくぜつにわしやひかされてねがひかけたるあさくさはゑんがあさいときにかゝり硯」(十九ウ)ひきよせかくふみもなみだにうすきすみだ川)くろうするのも親のばち
わけもしら藤はひまつはりて〔おしゆん〕(もとこのこひはわたしからしかけぶんこのうちあけていふたりやおまへもがてんしてねやのすまふの初(にい)まくら)しめてうれしくからむ蔓
まゝにあふみはかた田のうらよ〔にいな〕(うきが中にもたのしみは初会にほれてうらみわびほさぬそでだにあるものをかたいやく」(二十オ)そく石山のそのつきだしのはじめから)あはづにつもりしひらの雪
あきの夜かぜが身にしみじみと〔黒木うり〕(いろをねがひのはなすゝきまねけばそれとおもひぐさくさかり笛にあらねどもきみがいろ音にさそはれて妻こふしかのよるとだに)すへをまつ虫ねもほそく
どふあきらめてもあきらめられぬ〔三かつ〕(あけくれおもふていまするときいてとびたつうれしさに手をあは」(二十ウ)すればその手をとりおもふことまゝならぬうきよなれ)むりなねがひもこひのよく
すがるたもとをまたふりはらひ〔伊左衛門〕(さりとては紙子ざはりがあらいあらいひけばやぶるゝつかめばあとにしはすらう人むかしはやりがむかひに出るいまはようようなぎなたのそうりをぬいであみがさの中のざしきにとふりける)かはりはてたる人ごゝろ
しらぬよそめにわらはゞわらへ」(二十一オ)〔かみぢ〕(ぐちなおなごにみれんなおとこよくあいぼれのじつくらべよいはひぞりて夜中のくぜつないてしのぎのかうがいもをれてわかれのきぬぎぬに)ぬしとあさねがして見たい
あきのあふぎと身は捨られて〔小まち〕(うらみながらもいとしさを深くさのはなすゝきつゆもおきいにわすられずこれまでまはりさむらふぞや)つらい恋ぢにくらうする
ほんにおもへばおまへとわたしや」(二十一ウ)〔おきく幸介〕(そのみづぐきのふでのいのちげをしからぬこゝろのたけをかきくもりあとやさきなるふみのあや)きるにきられぬ身のつまり
つらいくがいももう一二ねん〔高尾〕(じつととめきのうつりがもなつかしうはないかいなつらいくがいは夢のうちねんがあいてのたのしみは)いまのくろうをはなしぐさ
まよふ恋路に手をひきあふて〔うめ川〕(いたはる身さへゆきかぜにこゝへる手さきふところへあたゝめられつあたゝ」(二十二オ)めつ石はらみちをあしびきのやまとじさしてゆくそらや木々のこずへも紅葉して)ともに落葉とふたり連
見るもねたましそれそのすがた〔くらまじゝ〕(たれとねてきたみだれがみどこのいはとのむつごとをきかまほしやとよりそへばもとよりきやうきのうろうろと)なさけしらずめにくらしや
  ○清元
いろをあらためなかうど入て」(二十二ウ)〔くはいらいし〕(蓬らいの島はめでたいしまでのこがね升にて米はかるしやのはかるしやのはかましやのはかまよの)ト今じやまじめなふうふ中
七ツ七ツにやかへさにヤならぬ〔まち人〕(ついてくりやるな八まんがねよかはひおとこといちやつきはむまいなか町じやないかいな)おたなものかやぜひもない
これもやくそく惚たがむりか〔おはん〕(はじめてこわいはづかしいあとでうれしい枕して)ねがほ見つめて肌とはだ」(二十三オ)
梅にうぐひす中よきゑにし〔くはいらいし〕(媒(なこど)をいれてしうげんも四海なみ風をだやかに)家内そろふてむつましき
ないて心でこがれてゐるに〔おはや〕(うわきうぐひす梅をばすてゝとなりあるきのされごとに)実のないのもほどがある
にくらしいほどなぜ此やうに〔明がらす〕(あふた初手からかわいさの身にしみじみとほれぬいて)こゝろでこゝろがぐちになる」(二十三ウ)
いやにからすが鳴てもくろう〔ごん八〕(あいた見たさはとびたつばかりかごの鳥かやうらめしや)たよりきくまで癪の種
異見いはれりやいはれるほどに〔明がらす〕(どふした縁でかの人にあふたしよてからかはいさの身にしみじみと惚ぬいて)おもひきられぬ恋のいぢ
金がものいふうき世のならひ〔同〕(きのふの花はけふの夢いまはわが身につまされて)ばかにされるが口おしい
ぶちつたゝきつせつかんせうが」(二十四オ)〔同〕(すいた男にわしや命でもなんのおしかろぞつゆの身のきへば恨もなきものを)これぎりあはずにゐられふか
明のからすもかわいて鳴ば〔おちうど〕(とまりとまりのはたごやでほんの旅寝の仮まくらうれしい中じやないかいな)はなれがたなき肌とはだ
ふじゆがちゆへまこともしれる〔同〕(やぼないなかのくらしにははたも織候ちんしごと常の女子といはれてもとりみだしたるしんじつが)」(二十四ウ)ふうふたがひにともかせぎ
こゝろ関屋にひとめをしのび〔おそめ〕(つぼみの花のふり袖も内をしのんでよふよふとこゝでたがひのやくそくは心もほんにすみ田川)みやこどりさへめうとづれ
実もまこともつくしたあとは〔おはん〕(あすまたぬ身の何かせんてうめい寺ともたのまれぬよはうし嶋のうきよぞとはかなきことをかこつにぞ)なみだばかりで声もでず」(二十五オ)
かうなるからにはわたしもげいしや〔小きく〕(しかもそのとき此うちではじめてあひの手も)ひくにひかれぬ意気ぢづく
肌と肌とをひつたりよせて〔同〕(しめてむすぶのゑんならでとけぬおもひとみゑのをび)まはす手くびは襟とゑり
なみだもろきは女のこゝろ〔ごん八〕(けぶるやなぎのたばこぼんたがひに引あいかほそむけ身をそむけたる風見草)」(二十五ウ)わざとすねるとしりながら
梅にやどかるうぐひすならで〔同〕(すいなゆかりとわれながらわがつま琴にかきならすおもひのたけの尺八も)ひとよぎりとは気にかゝる
しのを束(たば)ねてつくよな雨に〔おそめ〕(うちをしのんでようようとこゝでたがひのくそくは心もほんにすみだ川人目づゝみの川ぎしをたどりたどりて)きて見りやさほどのこともない
かはりやせぬぞへ若葉のみどり」(二十六オ)〔小しゝう〕(松のくらいを見かへりの柳さくらの仲の町いつしか花もちりてつとんと見せずがゝきの風かほるすだれかゝげてほとゝぎすなくやさつきのあやめ草)ぬれるたびたびいろをます
うれしさをふりの袂につゝめどあまる〔三ばさう〕(初にそいねのにいまくらかはすことばもなんとゆてどうしてよいの口と口たがひに手さへとりかねの声がとりもちやうやうと明ゆくそらを月にして)」(二十六ウ)くもと雨との床のうち
こひしさがつもりつもりしわがむねのうち〔?のふじ〕(まち人はゆかしきいろのかほよばな見るに心もふかみぐさぬれておもひはゆきの夜も)とけてうれしきとこのうち
土手を見めぐりあれ都鳥〔梅のはる〕(きみにあふ夜はたれしらひげのもりこへてまつちの山といほざきの其かねがふちかねごともたのしい中じやないかいなおもしろや)」(二十七オ)めうと中よくすみだ川
けふのあつさとゆふすゞみ舟〔おさん〕(ゑんのはしまであひそめてほかのおきやくはなんのそのあきの七くさならねどもはなのいろかとそやされて)みづにあはずにゐられふか
なじみかさねていとしさまさり〔おはん〕(ほんに思へばきのふけふちいさいときからおまへにだかれ手ならひせいといはしやんしてお手ほんかいてもろふたる)いろにいのちをちらしがき」(二十七ウ)
しのびしのびてきた山しぐれ〔やよひの花〕(ふられてかへるばんもありそれでおやどのしゆびもよくとかくうき世はまゝにはならぬ)ぬれてしつぼり夜の雨
むすんだゑにしがどうとかれふか〔おはん〕(みんな女子はいつしやうに男といふはたゞひとり二人とはだをふれるのはどんなほんにもとしどしのくさぞうしにもないことをよふ見て聞ていたづらな)うき名たつのもいとやせぬ
しのびあひしはまだきのふけふ」(二十八オ)〔おかる〕(こんなゑにしがからかみのおしのつがひのたのしみにとまりどまりのはたごやでほんのたび寝の仮まくらうれしい中じやないかいな)かけしちかひは二世三世
どんなき菊かしら菊なれど〔おまつり〕(初の一座のつれの内おもしろそふな口合にすいたがいんぐはすかれたも心に二ツはないわいなそのときあいつが口ぐせに)おもひそめ井のいろふかく
三すじよすじに世はわたれども〔月雪花〕(ゆき見に船と朝またき」(二十八ウ)うかれがらすにおこされてねむい所をきめうとはせじとつとめにゆがへりのあしだもけがにころばずやむぎなげいしやと立とふす)こゝろひとすじ思ひつめ
はつの恋風身にしみわたり〔小さん〕(まだかたあげの三とせ跡ふねのうちなるおなさけをわするゝひまもなまなかにませたやうでもどこやらにおさな心のあどもなふ)あけくれこがれてゐるわいな(二十九オ)
川竹の身にも立たるくがいのまこと〔よしはらすゞめ〕(ねんがあくのをまちかねてやつぱりしたばとよばれたく男ゆへならたのしみにくがいする身を立るとはぎり一ツぺんのあだつきはけつく心のもめるたね)すこしはふびんとおもはんせ
思ひつめたる気はひとすじに〔喜せん〕(わたしやおまへの政所いつかくはほうも一もりとほめられたさの身のねがひ)」(二十九ウ)千代のすへまでともじらが
恋にや貴賤の別へだてなく〔せんどう〕(ゑそ松まへのおかたでもまたはあづまのわつちらでも心にふたつはないわいなこれもひとへにみなさまのおかげで小いろも土地がらで)あだなうき名がまたうれし
三味せんの糸もみだれて只ひとすじに〔京のさみだれ〕(じたいわたしは深川へげい子になりしはじめから店のおかたの出ばんにもよばれて一度二けんぢや」(三十オ)屋しかもそのときこのうちでぬしにはじめてあいの手も)こゝろのこまのくるひぞめ
およばぬ恋とはしりつゝ惚て〔袖がうら〕(こひのいろはをたもとからそでへたのんでいゝかはし二世も三世もさきの世かけてちかひし中じやないかいな)おもひきられぬ身のいんぐわ
いさみはだかは男のきをひ〔さしうり〕(はでなはつぴのはづくろひしまのもゝ引はいてくりややぶかならねど」(三十ウ)さし売と見けなされてもしやちほこをにらんで生れ玉川をぎゆつとうぶゆのあづまつ子)うでにやいのちのいれぼくろ
はるさめにぬれてかはかぬわがこひごろも〔安な〕(ぬしはわすれてござんせうしかも去年さくらどきうへて初日の初会からあふての後は一日もたよりきかねばきもすまずうつらうつらと夜をあかし)そらも心もくもりがち」(三十一オ)
むりなねがひもかなふてほんに〔山がへり〕(四ツ谷ではじめてあふたときすいたらしいと思ふたがいんぐはなゑんのいと車めぐりめぐりて大山もせきそんさまのひきあはせ)うれしかろふじやないかいな
いまはたがひに手いけのはなの〔くはいらいし〕(それとお七はうしろから見るめかはゆき水仙の初にねじめのうれしさに恋といふ字の書そめを湯しまにかけしふでつ花)咲もそろひしいろざかり」(三十一ウ)
むらくもをもれていでたるあの月さへも〔玉うさぎ〕(ういたなみとよさんやの小ぶねこがれこがれてかよはんせこいつはおもしろおれさまとしやれるしたよりぶつぶつのうのうこれはもなきつゝら)千ひろのそこまでうつるかげ
じつにつれない人目のせきや〔江戸ざくら〕(恋のかなめはあふよのしゆびよそつと二かいの九ばしごすいがらの火で顔を見るはかないが恋ぞうじやいな)わかれかねの音あけがらす」(三十二オ)
ながれわたりの世は気さんじや〔雨乞小町〕(女たいふと夕立のはれまいとふてとり出す身は三味せんのかはゆらし月待日まちだいまちや其町々をかどづけも)あだな世わたりばち当り
よくよくな深いゑにしかおまへの事は〔おそめ〕(ちいさいときからなまなかに手ならひまでも一ツとこ何やらさうしへかいたのをそなたに見せてとふたれば恋といふ字といふたのを)わするゝときはないわいな」(三十二ウ)
男ごゝろにあき風たちて〔やす秀〕(あだにくらしいなんじやいなおきよ所のくらまぎればんにやいのとみゝに口むべ山風のあらしほどぞつと身にしむうれしさも)いまは野ずへのかれ尾花
たとへ一チねんあはねばとても〔二人奴〕(そもや二人が中々は心でこがれまち明しあふて嬉しきもどりかご互ひに胸をうち明てきも合ぼれのすいたどしかはるまいぞと云しでのかみがみさんへちかひにかけ)」(三十三オ)すへはめうとゝなるわいな
しつぽりと降夜うれしき此さみだれに〔四季さんば〕(きみがゆかりのいろ見ぐさうつろふみづにかきつばたいけのみぎわにつるかめのゑにしうれしきおどりばな)ぬれていろますあやめぐさ
松と竹とのよろづ代かけて〔栄のはる〕(むすぶゑにしのいもとせも命ながかけもろしらがまでかはらぬ中とむつまし月のだて小そで)恵方まいりもめうとづれ」(三十三ウ)
  ○長唄
ふみじやたがひにたりない用事〔あたか〕(笛になりたやしのぶよのふへはおもひの口うつし)あふたらはなしもあとやさき
初手の気やすめまうけにうけて〔江のしま〕(こちは姫貝ひとすぢに女ごゝろはさうじやないわいな)当座の花とはあんまりな
ひとめはゞかり時たまさかに〔まつ風〕(あふた其ときやついころびねの帯もとかいでそれなりに二人がすそへ」(三十四オ)かりぎぬをかけてぞたのむ睦言に)かはひがらすのなくまでも
いとしらしいと思ふたよりも〔かむろ〕(こひのたねまきそめしよりいろといふことばはいづれ此さとにまことこもりしひとくるはまるいせかいやすいのよに)ぐちにうらんだ神仏
青柳の風にみだるゝあのあらひがみ〔汐くみ〕(いつかうれしきあふせもときみにやたれかつげのくし)(ママ)」(三十四ウ)
気づよいおまへに心のたけを〔正札付〕(やぼなちからはおくの間のうはきらしさのしんきぶし女子のぐちなしんじつがとゞかぬことかまつよはもふとんかさねてしきたへの枕の土ひやうけせうがみ)ゆふてしまだのもつれがみ
のぼりつめたるわたしが心〔あたか〕(しのゝめはやくあけゆけばあさぢいろづくあらち山けいのうみみや居ひさしき神ぐきやまつのきのめやまなをゆくさ」(三十五オ)きに見へたるは)こひのとふげをこへかねる
むりなねがひのしほだち茶断〔小原女〕(こひにはやせの里そだちのきのすだれのゆかしさは玉たれがみをとりあげてたれに見せうとてゆふげせう)みんなぬしへのしんぢうだて
きてはちらちらすがたを見せて〔あづま八景〕(はるかあなたのほとゝぎすはつねかけたか羽ごろもの松はてん女のたはむれを三保にたとへてするがの名あるだいのよせ」(三十五ウ)いのいや高く見おろすきしのいかだもり)みづにくらせばあきらめる
こひにこがるゝわたしのこゝろ〔さぎむすめ〕(ゑんをむすぶの神さんにとりあげられしうれしさもあまるいろかのはづかしやすまのうらべで汐くむよりもきみの心はとりにくいさりとはじつにまことゝおもはんせ)ちつとはさつして見たがよい
そらもおぼろに月かげさして〔まひ扇〕(梅がへはるのこゝろや花のかを見せつ見られつ」(三十六オ)その日より千代もおふせのひめにまつ三度もくどうかへすがきおもひのおくじやないかいな)まつに来ぬ夜のじれつたさ
こひのやみぢにふみまよふ身は〔もゝよ車〕(百夜かよへどゆふづきのかさにふるゆきつもるゆき恋のおもにとうちかたけなみだのつらゝとけやらぬきみのこゝろはうきよ川)よるべなきまであこがれる
見やしやんせあれ鶯のかたことまじり」(三十六ウ)〔あはしま〕(きみははるさく梅の花かほりゆかしきねやの戸にはて恋じやもの小六小六小ろくついたる竹の杖もとは尺八なかはふへ)ゆかしいねいろじやないかいな
ついちやゐられずヱヽじれつたや〔けいせい道成寺〕(まぶの男はつらにくやだいてねたときやわれならで外の女郎にやあはぬといふてだましくさつたがくやしうてならぬ)つとめの身なればまゝならぬ
いろのいろはをかきそめてより〔京がのこ〕(恋の手ならひつい見な」(三十七オ)らひてたれに見せふとてべにかねつきよぞみんなぬしへのしんぢうだてヲヽうれしうれし)かたときわするゝひまもない
わかれりリヤあふ日を又まちかねて〔よし原すゞめ〕(ふみのたよりになアこよひごんすとそのうはさいつのもん日もぬしさんのやぼなことじやひよく紋はなれぬ中じやとしよんがへ)そはざやむまい此くろう
千代もかはらぬいろふかみどり〔老まつ〕(まつの太夫のうちかけは」(三十七ウ)つたのもやうにふぢいろのいとしかわいもみんなみんな男はいつはりじやものすねて見せてもそのまゝよそへあるよひそかにつき合の)まつとしらぬがさよあらし
しらぬわたしにおまへの指南〔花ぐるま〕(はつこひの人めはづかし花もみぢしのぶの山のしたもみぢうすいはいやよこひごろもむすぶゑにしは神さんの)おしえさんしたさゝめごと
いろといふ字をおぼへてからに」(三十八オ)〔とも奴二上り〕(おはもじならさるかたへほのじとれの字のなぞかけてほどかせたさの三ゑのおびとけてねた夜はゆるさんせアヽまゝようきながどふなろと)かたときあはずにゐられふか
まよふわたしに気やすめばかり〔おかね〕(こよひかたゝにおいそのもりとへんじしがらきまたせておいてまだなことじやと心でわらひうそをつくまのあだにくらしい)みんな男はつみつくり
かたいかためも年にはませて」(三十八ウ)〔外記さる〕(これはなにはにうき名もたかきかわらばしとや油やの一人むすめにお染とて年も二八の恋ざかり内のこがいのひさ松としのびしのびにあぶらを)しめてむすびしゑんのつな
わたしやかた田のかたおもひにて〔ふぢ娘〕(おとこ心のにくいのはほかの女子に神かけてあはずと三井のかねごともかたいちかいの石山に身はうつせみのから崎やまつ夜をよそにひらのゆき)あはづにこがるゝ矢はせぶね」(三十九オ)
よくもそろふたふたりがゑにし〔した出しさんば〕(さてこんれいの吉日はゑんをさだんの日をゑらみをくるにもつはなになにやろなるりの手ばこにさんごのくしけたまをのべたるながもちにかずもてうどのいさぎよく)千代をことぶくまつと竹
あはぬ日はふみのたよりが心のやるせ〔門けいせい〕(かけてもほんにかはるとはいふてもおくれなつくづくとおもやつとめのうれしいゑにしこゝよりほかでぬしにいつ」(三十九ウ)あはれぬなかにかきかはすうゑうゑ様のちわぶみも)ふでの手まへも恥かしや
かはしたきせうはありやなんのため〔高砂たん前〕(たとへ万里はへだつともしたふ心はそりやいわんすなあさなゆふなに空ふく風もおちばころもの袖ひきまとふおもふとのごはつれなの身にし)わたしばかりはかはりやせぬ
おとこ心はつれないものよ〔はま松風〕(うらみがほにもなんにもいはずみぶのたゞ見はきをはるみちのつらきうきみに」(四十オ)おほ江のちさとたとへどなたが水さそうとも)おもひきられりやほれはせぬ
あだし枕はつとめのならひ〔しう着じゝ〕(あさなゆふなにうつすかゞみのよい金性とわしは水性でおまへとふかいそれをうたがふことかいなさらりと柳にやらしやんせ)すゑをたのむはぬしひとり
つもるはなしは又なくたねよ〔二人わん久〕(ほさぬなみだのしつぽりと身にしみじみとかはゆさのそれがこうじたものぐるひとてもぬれたる」(四十ウ)やみなりやこそおやのいけんもわざくれと)いまはふたりが身のつまり
むりなしゆびして人めをしのび〔汐くみ〕(あふたそのときやついころび寝のをびもとかいでそれなりに二人がすそへかりぎぬをかけてぞたのむ睦言に)こゝろもとけてはだと肌
ふゑやたいこで其日をおくり〔越後じゝ〕(うき世をわたる風雅ものうたふもまふもはやすのも一人たび寝のくさまくらおらが女房を」(四十一オ)ほめるじやないがまゝもたいたり水しごと)くれるまもなくよひまつり
もしやさうかと顔さしのぞき〔あさづま〕(そりやいわいてもすまふぞへすまぬくぜつのいひがゝりせなか合せの床の山こちらむかせて引よせてつめつて見てもこぐ船のあだしあだなみうはきづら)しやくがとりもつ中なほり
かわい男はなぜまゝならぬ〔鬼?拍子まひ〕(そういわんすりやおまへひとりがしんじつでわしが」(四十一ウ)こゝろにあるとあらゆる神かけてかはるこゝろはないものをおまへはうそとおもわんすそれでもわしやなをかわひ)しぬほどほれたが身のいんぐわ
つゆのなさけにこちやぬれそめて〔諷まつ風〕(月のくぜつかほたるのりんきもつれもつれてとけかぬるきみがひと夜のなさけはつらやけつくおもひのますかゞみ今ははづかしみだれがみ)みだれ心にものおもひ
ひとり寝にうつらうつらと」(四十二オ)みじか夜ふかし〔きく慈童〕(恋のいのちははつほとゝぎす月のかげさへそらなつかしき二度のあふせはしぐれのもみち見れば其まゝかほに火がたかいもひくいもいろのみち)なかぬむしさへ身をこがす
きみのためとて身はやつせども〔くはんじん帳〕(人のなさけのさかづきをかけて心をとゞむとかや今はむかしのかたりぐさあらはづかしのわが心一度まみへし女さへまよひの道の関こへて今またこゝにこ」(四十二ウ)へかぬる)むねとせきとをあけかねる
  ○都一中ぶし
おまへばかりが男じやないと〔あさま〕(千も二千も三千もせかいにひとりのおとこじやとたのしむ中のわかみどり)いふて心でないてゐる
雲間がくれの三日月ならで〔ゑのしま〕(すがたは見せずほとゝぎすおもはせぶりは誰やらが恋のこゝろをうつせ貝)」(四十三オ)ひとりくよくよものおもひ
のかずは出世のお邪魔になろう〔同〕(おもはせぶりはたれやらが恋のこゝろをうつせ貝)からかひづらもほどにをし
ちわがつのりてくぜつの果の〔よし原八景〕(あらしははれてひとしぐれぬれてあふ夜は寝てから崎の)まつたかひなきあけがらす
にかいせかれてかなしさつらさ〔同〕(ふけて青田にこがるゝほたるれんじまで来て蚊屋の外)」(四十三ウ)なんでこんなに迷ひした
泣てわかれて又やくそくを〔けいせい〕(夜ごとにくもるとうろうのきへぬはしんきともし火をけして寝たときをびひもを)むすぶゑにしのうらざしき
ばかよたはけとそしられながら〔よし原八景〕(いろのもなかのすがた見もてる月なみのもん日とてやくそくかたき石山や鳰のうき寝の身ながらもあだに粟津のせいらんとこゝろでとめしゐつゞけに)」(四十四オ)かよひ出してはやめられぬ
とても女夫になられぬならば〔黒かみ〕(所詮この世はかりわげの恋にうき身をなげしまだかくごきはめし心をばぬしになにとぞつげのくし)はやくあの世であらぜたい
こゝはどこだとかご屋さんに聞ば〔よし原八景〕(日本一の大門口)はるかに見ゆるは秋葉さんの常とう明
どゝ逸大成文句入前編了」(四十四ウ)
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歌沢能六斉輯
新古葉唄集  中本
  初へん 二へん 三へん
近年の新唄ならびにかへ唄のあだ文句を多く載たり
度独逸大成
  拾遺前へん 同後篇
文句入とも前後の前後合して四冊の外に猶おちたるを拾ひ集めし也すべて六冊の横本に載る所の文句凡一万余章の大集なり
東都人形町通
   品川屋久助板」(裏見返し)



六、『度独逸大成後集之後冊』(東京都立中央図書館特別文庫東京誌料)
 東京都立中央図書館特別文庫東京誌料本(東/5644/132)によって翻刻する。翻刻にあたっては、東京都立中央図書館(館長・松田芳和)の許可を得た。パソコンで出ない文字は「●」とした。判読不能文字は「?」とした。
度独逸大成」(表紙)
古歌にあはれけに憂時つるゝ友もかな人の情は世にありしほとと聞へしは実に人情を穿てるかな僕(やつかれ)近頃薄情(うたて)き妬婦の暴行(あらひ)に遇て禍鬼(まかつみ)一身にかゝりけれは術(すべ)なく旧き栖(すみか)をうしなひ名も相応(ふさはし)き甘口の安倍川街に萍流(さすらひ)つゝいとつきつきしき埴生」(口ノ一オ)の小家(こや)に独(ひとり)侘しく日を経るにぞ嚮(さき)に浅草なる広小路にともかくもして在ける頃は日ことに訪(と)ひ来(き)し人々さへひとりとして見かへらず就中そのころ東川てふ人あり其友の作なりとて見せられけるとゝいつ「をなし流にさて住ながら鷺は居?る鵜」(口ノ一ウ)は●(あさ)る」よく人界におよぼしたる譬喩の秀作といふべし是(こ)は前集よそへ唄の部に出すへかりしを縡(こと)に紛れて漏しつれば愚痴のあまりに書つけしははしがきならで恥かきならまし
安政六己未のとし」(口ノ二オ)
霜月の寒風にかじけて一句あり
妻子より今はたのみの炭団かな
隆興堂主人(りうかうだうのあるじ)
鰥寒翁(くはんかんなう)
歌沢能六斉 誌」(口ノ二ウ)
目録
○新内入     唄員七十五章
○雑 はざり也  仝二十三章
   ○上るり入り ○哥沢入 ○ことば入
   ○馬子うた  ○うたひ ○はうた
   ○すちやらか ○こはいろ
   ○せんさよう  くどき
   ○そらふし  ○ちよほくれ
   ○からくり口上
○歌沢入     仝五十三章
前編遺漏
○名所地名    仝十二章
○新吉原八景   仝八章
○東海道五十三駅 仝五十七章
  通計 一百七十一章」(口ノ三オ)
(絵)
この図は天明元年の印本絃曲砕弁当(けんきよくすいへんたう)といふ哇(はうた)の草紙に載る所の摸(うつし)なり哥沢入の文句に因(ちなみ)て出せり」(口ノ三ウ)
度独逸大成後集之後冊
歌沢能六斉輯
文句入の部
○新内ぶし
やほなことだが見そめた姿〔くはんこう〕(娥々たる玉顔に香粉をよそをふ希(こひねかは)くは軽羅(れいら)と成て細腰に着(つかん))トマアどうぞ思ひがはらしたい
貞女たてたり気がねをしたり〔白藤けんだ〕(いとしとおもふてこゝろから三とせ此かたこなさん覚へがござんせういけんがま」(一オ)しい事とてはついに一度もいはぬのはひよつとこゝろにさはりなばあひそがつきたらどうせうと)人にやこけだといはれたり
つらいうきよのなりゆきじやとて〔明からす〕(身はいましめのつたかづらふりつむ雪にとぢられて)いつそしんだかましだろふ
あはぬむかしが日にますおもひ〔つな五郎〕(いふは今さらすぎしあさはつの一坐のつれのうちおまへのなりふりめいさつが)」(一ウ)こひしゆかしで此くらう
人はあはぬとさめるといふが〔音羽のたき〕(いとし男にまた相の手よかはるまくらのおかしさはしよてはたがひに客であひそれから後は色であひ今はしんみのめうと合あきもあかれもせぬ中を)わしはあはぬとなをつのる
ぬしとふたりでせたいをもてば〔いだ八〕(手づからわたしがまゝたいてうちのものよこちの人あすはどふしてこふしてと)」(二オ)こんなくらうもいとやせぬ
川竹のうきふししげきをいとひはせねど〔こひころも〕(ゆふべはさぞおたのしみそりやそのはづさ深川の小さんとやらいふけつかうなお女郎さんわしやとふからしつてゐるぞへホンニあつかましいドレかほを見て上イせう)夜ごとあはぬをうらみごと
はでやうはきはそりやもとの事〔つな五郎〕(あけくれこひしゆかしいの心がつうじておまめなおかほふしぎな所で悲」(二ウ)しいおすがたを見まするといだきつく)しんのはなしもつもる雪
まつのわか木にあひをひかけて〔ふじかづら〕(はなさそふ蝶はかすみの野辺をまつわかげの松は花を待人は情のよすがらにふたつまくらのはなをまつほんに浮よはまゝならぬ)ふたりゆくすへもろしらが
とかく男をうはきといへど〔らんてう〕(ひよつとおくのきやくがいきなやつでそなたのきがかはろうかと)」(三オ)きやくにもしやとあんじられ
たうざまかせに切るといへど〔同〕(おみつさんへぎり立て此世でそはれぬそのかはりみらいはわたしめうと)口とこゝろはうらおもて
あいたみたさはとびたつおもひ〔仇くらへ〕(ねまきのまゝにわかくさは床をぬけ出明べやにしのびよりていの?のすがた見るよりすがりつき)人目いらふかまたくらう
忠義ゆへとて心はふかく」(三ウ)〔?谷〕(人の見るのもはづかしと御くびをかきいたきくもりしこゑをはり上て)これそなさけのいちの谷
きすい気まゝもていしゆとおもや〔らんてう〕(おまへのそふしたかんしやくはつねの事とはいひながら)けられなからもわしや嬉し
人の男をわがものがほに〔三かつ〕(おそのといふていゝなづけのにようほがある)いろのよくでもふにんじよう
人目しのんでしゆひするつらさ〔つな五郎〕(かくれいかよふよることに」(四オ)しゆびしてあふたかへすよは)かうもくらうなゑんかいな
どふした縁やらかうあくまでも(なにのいんくはにそのやうなきづよいおとこかわしやかあいゝ)こゝろで心がわからない
おやけうたいから親類までも〔わかれしも〕(たのみもきれてゆくたこのおちつくさきもなきくらし)ぬしたゞひとりがつゑはしら
たづねまはりし其かひありて〔あはしま〕(さぞいひたいことがござん」(四ウ)せうわしもきゝたいことはやまやま)めくりあはしま神むすび
おなじ女にうまれてきても〔らんてう〕(わたしが身をうつて其かねを又こなさんにみな入上(いりあけ)られマアうれしかろふかよかろふか)こひもうすいもゑんしだい
ぎりにうはべは切とはいへど〔同〕(もうしおみやさんなるほどおもひきりやせうだんだんのおはなしをきいて)かはしたきせうは胸の中」(五オ)
つとめする身と女房のこころ〔同〕(せたいかためてやれうれしやと思ふは一日もないそりやたれゆへじやみなこなさんゆへ)うはきされるになをくらう
くろうかけるとわしやしりなから〔たきがしは〕(いんぐはなものになれそめて思はぬくろうくるしみをかけるもみんなわたしがわざ)一日(ひとひ)あはずにゐられふか
いろにヤ姿もつくろふものを〔あはしま〕(きのふにかはるありさまはこひしき人にあは」(五ウ)しまのすかたとなりて)ゑんもうすきの恋ころも
女房かつのりやゑこぢでなほまたかよふ〔らんてう〕(女房のつのかはへたら見せものにして大かねまうけそれしやまたおこられやすはへ)とかくりんきもときかある
うきみやつして此いろのみち〔はつもん日〕(升酒屋の小七とてやしきかよひのやさ手代正月中はやくそくの)心よしはら大もん日
せまい心は女のつねよ」(六オ)〔恋ころも〕(わたしかおもふにはんぶんでもおまへのこゝろにあるならば)かうした歎きはありヤせまい
おさな心にまこともあれど〔明からす〕(わたしはさむうはなけれとも時さんがあのやうにたゝかれさんしたのかおまへはさそくやしうござりませう)とかくうき世は不人情
きるをいとふはゑにしの糸よ〔同〕(とびたつばかりおもへども身はいましめのつたかづら)」(六ウ)ながい年季をさるつなき
男ばかりに気まゝをさせて〔らんてう〕(みせへいづもの神さんもかたひゐきなるゑんむすび)ほんに女はなさけない
毒としりつゝあはれぬつらさ〔きくの井〕(ふかいなしみとならしばのもゆるおもひをひやざけに)しばしわするゝうさはらし
つらいくかいのうきめの中を〔同〕(おもひもふかき川竹のながれよるへもさだめなき)」(七オ)ぬしにあふのをたのしみに
死なざやむまいたがひの迷ひ〔ふぢかづら〕(コレはやきぬけふまではいろいろとしゆびしてはきたれどもこよひがそなたも見をさめといふかほつくづくうちまもり)なみだばかりで声もでぬ
まことむすびしわがこひころも〔はつもん日〕(外のつとめはいやましに思ひをふかくそめこみしはだぎのもんにしんじつの)いだきあふたるひよくもん」(七ウ)
まてど来ぬ夜は人しらぬ火や〔ふちかつら〕(なつのよのかやりのあとのうたゝ寝にざしきくもしづまりて)もゆる思ひは胸の中
死んたらさぞかし歎もせうに〔恋ごろも〕(とかくにようぼにはさせぬたつてさうしたいといはゞ子をひとりないと思へはすむととつてもつかぬつゝやう)口のきゝ様(よ)もなきの種
たかひに莞爾(につこり)うれしいゑがほ〔うた入〕(まつこちへおじやとこのうちしばしもの」(八オ)をもいはざりしが)猫の水のみ鼠なき
家業つくとて舌さへかろく〔同〕(一ぱいきげんのちよき介がきさくにまかせへらへらと)のせて引こむくちぐるま
茶だちするのも人目をしのび〔はなの井〕(すへのゑにしをまつち山せうでんさまにぐはんかけてたばこを三とせたちまちや月まち日まちだいまちや田町にごさるほかいんさんのまもりお札もいろいろと)」(八ウ)そふて見たさの神だのみ
うちにゐる間もめさきに見へて〔はなの井〕(こゝろもうてふてんまやののきに立よりうかゞへば)かほは見へねどはなしごゑ
ぬしとくらしてあの小なべだて〔いだ八〕(たとひわたしがうけだされ御しんぞさんのかみさんのと)栄曜にのぞみはありはせぬ
かさぬとは八重なでしこの名はやさしいが〔きぬ川〕(アイそのつとめするものはてうどいわ井半」(九オ)四郎のやうじやとうはさでござんす)実がうらみの種となる
ふみのたよりにとびたつ思ひ〔いだ八〕(しやんとひとこしなでがくののどのとれたるゑもんざか五十けんみちいそいそと)いそぐ心はさきにゐる
つなもおよばぬゑにしのいとは〔つな五郎〕(その心をきくからはちつともはやくつれてのきそひとげずしてとらへられかばねをこずへにさらすとも)」(九ウ)はなれかたなに切はせぬ
人はまことゝたゞひとすじに〔日高川〕(きよひめくはつとせきのほしさてこそ)こがれこかるゝ日高川
ぬしを思へばつるきの山も〔すかはら無けん〕(御ていのためにすてる命むけんのかねをついてひるのぢこくにつツはつてもかまはぬく)おにのちこくもいとやせぬ
たとへうはきかあろふとまゝよ〔同〕(しんからほれぬいたとのこじやと思ふてくらすこのみじやもの)」(十オ)親をすてゝも退はせぬ
としはちがへどかはらぬいろに〔かつら川〕(むすぶをびやののきのはやこよひかぎりに月そひしつまになごりもおしこふし)うき名ながすやかつら川
ついしたことから切たるのちに〔ふたへがさ〕(いづれのかたみとちぎりおかましおとづれのしばしとたへてなきあかす)すぎしちぎりを思ひだす
かはらぬしるしと引よせられて〔明からす〕(うれしうござんすかた」(十オ)じけないといだきしむれば)たかひに冷たきかほと顔
金をつくしてかよひし中も〔同〕(いつまでかふしているとてもかぎりなきふたりが中)こゝろつくして身のつまり
まこと見るよりついのりかきて〔恋ごろも〕(そなたをにようぼうにもたいではいきてゐてもなにたのしみ)いけんいふやつア気がしれぬ
あすか川ふちか瀬となるうき世の中に」(十一オ)〔ゆふぎり〕(そのぬしはかはらねどかはつたはおれが身のうへ)たづねてくれる人もない
今はすまひもなくなくをくる〔つな五郎〕(うきかんどうにあいなれしかのはなさきをたづねんと身はうらなひのうらおもて)ゑんも月日のなさけなや
あふかあはぬかみのうへしらず〔同〕(おのれにあふてこのうらみいはふいはふとひとすじにおもひついたるをんやうし)すへをあんじる人ごゝろ」(十一ウ)
しみる思ひはあの人ばかり〔同〕(はなさきは心にそまぬ男にうけだされ浅くさへんにかこわれて)人にヤうはきといはれても
みへもかざらではだかと裸〔たきかしは〕(夜ごと日ごとのかはいさはしだいにつもるふじのゆき)とけてたはひも夏げしき
かんしやくは心やすだてそりヤうれしいが〔つな五郎〕(おまへにしんぜた此からだうちうたるゝはいとはねど今いわんしたが」(十二オ)しんじつなら)うわきツされては腹がたつ
たとへ此身はくらかへしても〔三条かはら〕(身をきりうりにしても此なんきをすくわんとしあんをきはめ)ぬしにしんせた此からた
なさけしらかの天窓ふり立て〔あけからす〕(あまりしげしげかよはれてはおやがくわないかんどううけ)おためこかしのこはいけん
二世も三世もむすびしゑにし〔同〕(かねてふたりがとりかはすきせうせいしもみん」(十二ウ)なあだどふでしなんすかくごならさんづの川も此やうにふたり手をとりもろともに)たとひぢごくのそこまでも
はつにあふたることはのはなも〔あたくらへ〕(おまへのまねことがくせになりわらはれぐさのつゆならでひろはゝきへんこゝろねを)今しやみとなりしけり草
ひと夜つまとはながれの呼名〔しら石はなし〕(いやなきやくでこざんすとわるくいふのもほむるのもにへなきしん」(十三オ)ぞうのこせうらく)よいもわるいも縁による
つくすまことの情のはては〔たきかしは〕(そはれぬこのよを思ひきり一しよにしんであのよにてながうそふのがたのしみぞや)無分別なるくさのつゆ
とほいくにから仏のちかひ〔あはのなると〕(ちゝはゝのめぐみもふかきこかはでら)めぐりあはせるたのもしさ
あだなくぜつをわらはゞわらへ〔らんてう〕(まアしたにおいんなんしアヽいたいわへヱヽこの」(十三ウ)きちげへめさあこふどつさりとすはつたかさいごのすけ)ほれたとふしはつねの事
ともに思ひは日ましにつのる〔ふたへきぬ〕(あふたそのよのおもしろさしよてはうはきてあひほれのゆびにたがひの名をほり合)いろもこくなる腕のすみ
かほいろかわるいと人にいはるゝつらさ〔はつもん日〕(せきせかれあはれぬやうになりしよりよるひるわかすくよくよと)」(十四オ)ないとくらせしもの思ひ
きづよいがなんぼ男のつねじやといふて〔日高川〕(それほどいやなみつからを女房にもとふとなせいやつた)それじやあんまり不人情
ぬしにわかれて何たのしみに〔たきかしは〕(そのしんちうのまことをはしつてはまりし恋のふち)しづむかくこにきはめしか
このあしをふむはみれんとわらふてあらふ〔夕きり〕(いつそあはすにかへろう」(十四ウ)かあはずにいんではこのむねが)すまぬ心にたちもどる
子を思ふおやほどおやを思へといへと〔しろ木や〕(おもふにわかれおもはすもよびかはされしおやのうち)なさけあるのかなさけない
わたしの心がまたしれないか〔あだまくら〕(そのうらみはみなもつともながらこふいふもそなたの身を思ての事)そんないひわけ聞はせぬ」(十五オ)
あまい親じやとわらひもせうか〔三かつ〕(せめて一日ふうふにして此世のねんがはらしてやりたさ)わしも若気で出来た子た
かんがへりヤかんがへるほど世間へたゐし〔わかれ〕(ふつゝりおもひきろふぞとたしなんでみてもなさけなや)?りひとめもむちやになる
やつれさんしたおまへの姿〔たきがしは〕(いんぐはなものになれそめて思はぬくろうくるしみをかけるも」(十五ウ)みんなわたしがわざ)身を粉にくだいて恩がへし
○雑の部
やつれすがたを見るたびごとに〔清元ごん八〕(なみだでもんでそりおとすむかふかゞみに山むらさき)〔しん内いな川〕(うつせばうつるかほとかほ)わたしゆへじやとくやみ泣
いつもながらのむりとはしれど〔義太夫おしゆん〕(そりやきこへませぬ伝べゑさん)〔常はづおはん〕(ちいさいときからおまへ」(十六オ)にだかれ〔清元おその〕(手ならひまでもひとつとこなにやらさうしへかいたのを)(歌丸さんのふでのあや)〔義太夫廿四かう〕(めいぐはのちからもあるならばかわいとたつたひとことの)さりとはつれないきれことば
はでに見せても心はじみよ〔義太夫あさま〕(いやなきやくにもひよくござおもふおとこはやまどりの)〔清元おちうど〕(やぼないなかのくらしにははたもをり候ちん仕事)」(十六ウ)〔うた沢〕(ほそたに川でぬのさらし)やがてくがいをあらひはり
ちよつとこうしで鶯宿梅は〔ことば〕(ヲヤ次郎さんじやアありまへんかヱヽちよつとまがきへまはつてくんなましヨ「コウおしらん此ごろはてへぶこざりんじやアねへかおじやまになるからおとといこよふ詞「なんさますとへ人ぢらしなマアいろいろはなしがありんすからサアヱヽぢれつてへヨヲ……)いつもはつねのぬしのこゑ
たびは道づれそでふりあふも」(十七オ)〔うた沢〕(のぼり下りのおつゞら馬よさてもみごとなたづなぞめかよナアヱまごしゆのくせかたかごへでおまへさんとならばどこまでもヲヲ……引)〔ことは〕(ヤイうぬどふしやアがつたのだおんなうまベイ見やアがるどまめベイねらやアがつてはらでへこのふつらばりやがるあるきやアがれドウドウドウ)ゑんはいなかでめくりあひ
松にからみしあの蔦かづら〔うたひ〕(たかさごやたかさごやこのうら)〔常はづ三ツのあさ〕(ふねじやアヱヽさむかろ」(十七ウ)きてゆかしやんせ)〔哥沢〕(さりとはきみじかないまをひしめて行わいな)なまきをさくよなうき別
いなかそだちのやぼうぐひすも〔スチヤラカ〕(これでもおくににゐるときはおいねおいねとそだてられそれからはるばるお江戸へ出てへつゝいがしへとしよたいもちかまや堀からむをとりふうふなかよくまゝとなるすちやらかぽくぽく)こゑにかはりはないわいな
みやぎのゝ萩を(ママ)」(十八オ)〔こはいろ〕(ころもさつきのくらきよにかたきをうつたはそかきやうたいこれはきやうだいこれは姉妹)めくりくるはの女郎花
つゑにはなれた身はめなしどり「あんまはりイー引〔犬〕(わんわん)「そばイウ…にうめんしつほくヱヽ〔あんま〕(そばやさんなんどきだね)〔そばや〕(もふ七ツをうちやした)〔あんま〕(それしやアもふよあけがちかいネ)〔犬〕(わんわんわんわん)〔あんま〕(ヱヽちくせうめよくほへやア」(十八ウ)かる)ないてあかしの神だのみ
まゝごとであそぶうちついとけあふて〔さく??〕(おめこヱヽおめこヱヽほつちり毛がはへだいじのところをちよいとなでゝ)おほこ心にぬしのつま
なれぬかまどもおまへのためと〔せつきやう〕(よいにゑました麦めしもしたぢがのふてはたへられぬトロントロントロン)たらぬながらもきはたらき
女房もちでもしあんのほかよ〔くどき〕(はるははなさくあを山」(十九オ)へんにすゞきもんどゝいふさむらいのつまや子どものあるそのなかでけふもあすもと女郎かいばかり)すいも恋ぢじやぐちになる
ぐちをいやんなどふなるとても〔こはいろ〕(とはれてなんのなにがしとなのるような町人でもござりませぬしかし生れはあづまじに身はすみなれしすみだ川江戸でうはさの花川戸所に古きばんづいの長兵衛とてけちなやろうサ)」(十九ウ)おれも男だそひとける
とふせおよはぬ主(しゆう)とはいへと〔そゝりぶし〕(これ久松よくよく主がけらいに手をさけてヲ引たのまにやならぬ事があるまはろまはろ)恋に上下があるものか
いやなお客のついしやうよりも〔せつきやう〕(御いたはしや安寿ひめおとゝつち王もろ共につれなき人にかひとられひるはしほくみたきゞとり)〔ことば〕(これつち王わしはどふでもよいけれど年はもゆかぬそなたまで)」(二十オ)ぬしのくろうがわしや嬉し
気さんじなやうに見ゆれど心のうちに〔ちよほくれ〕(やれやれみなさん聞てもくんねへわつちも生(うまれ)とふとい身なれといろのいのじ見やう見まねにかねやおぜゝをちよいとちよんがれやれやれそこだぞ)いふにいはれぬものあんじ
おぼこすかたのあのいろわかしゆ〔ちよほくれ〕(さればとうざいはゞかりながら因州たち出ごん八さまが花のお江戸へまはらんものと東かい道へ」(二十ウ)とさしかゝるしまだかなやのやどひき女こんはさんのすがたに見とれ)めかほでしらせる恋のひ?
はれてそはれぬあくゑんならは〔馬士うた〕(おまへさんどならばどこまでもよいイヽヱヽハイハイあんたこんちきしようめよるもひるも豆ばかりくひたかりやアがるは)このとちはかりは日はてらぬ
義理てしはしはわかるゝとても〔こはいろ〕(われをたれとか思ふらん関八しうにかくれなき犬かひ玄八のぶみちが」(二十一オ)うつ手に向ふ上からはたとへくもきりかすみのなか)たづねて一トをはなしたい
しやうじひとへも百里のさきも〔からくり口上〕(あいの金からやみをそよとあけてひさでチヨイトついて目でしらせヤわたしはほんこうへゆくわいな)あはぬその夜はおなじこと
ほれられたのかおまへのふせう〔はうた〕(どうませう?へうぶのかげでいたしませう何う)ねむかろうとも中なほり
酒かいはするおまへのくせか」(二十一ウ)〔上るり〕(まはらぬ舌でしよくだいやどんぶり火はしでなむさんばうさうにたちまち泣上戸「このどんぶりのわれたのを見るにつけても娘がこともし十二ではしかもかろくはやり風さへひきもせずつゐ十三で此よふにとしやりあげたるためなみだ)わらひ上戸にならしやんせ
きげんなほしてマア寝やしやんせ〔上るり〕(さよふけて)〔ことば〕(そばイ引にうめんそばイそばイ引)」(二十二オ)〔上るり〕(八ツか)○ボヲン〔ことば〕(あんまア)〔犬〕(○ワンワンワンワン)〔同〕(そばやさんなんどきだネ)〔上るり〕(七ツか)○こけつかう(あけむつの)かねがかたきの世のならひ
○歌沢
人目おほけりやものかずいはず〔羽をり〕(どふでもけふはゆかんすかといひつゝたつてれんじまど)あけていはれぬむねのうち
今はどふいふ心でゐるか」(二十二ウ)〔一ト声かへうた〕(はなしのやうすにかくふみを)とゞけておくれよたよりやどん(ことばすて)
なくかわらふかあの鶯は〔はつね〕(人のこゝろもしら梅のかごとかましくうれしなきヱヽじれつたい)どふすりやあはれる事だらふ
思ひつかれてついとろとろと〔花せうぶ〕(いとゞいろますむらさきの)さめてくやしき宵の夢
雨ふり風間いとはでかよひ〔小町〕(九十九夜さてこさんせかおふせにおよばぬそりや」(二十三オ)そうでなうてかいな)今はたがひに身のつまり
世間でもほめてゐられる身を持ながら〔ほんに思へば〕(人のそしりも世のきりも思はぬ恋のうつせ川)魔でもさしたか此しまつ
からかひに腹も立ぬにおこつて見せて〔玉川〕(つもるくぜつの其うちにとけししまだのもつれがみ)なかせてそれから中なほり
心がらからうき川竹の」(二十三ウ)〔身はひとつ〕(ながれによどむうたかたのとけてむすぶの仮まくら)男ゆへならぜひがない
五月人形ならへて見ても〔きんとき〕(ふじのすそのゝかりくらやよしつね弁けいわたなべの綱からの大将あやまらせ神功皇后武(たつの)うちのしん)ぬしにみかへる顔はない
青柳の風のまにまにふかれてゐれど〔恋すてふ〕(なみのよるよるいざり火のもゆるおもひのくるし」(二十四オ)にきゆるいのちとさつさんせ世をうぢ川のあじろ木や)水にくらすがもの思ひ
人目つくろひこよひの首尾の〔むらさき〕(まつにこぬ夜はふでのさきうらみかさねしいのち毛もすゞりの海にはまるほど深いあさいは客とまぶ)気ばかりもましてじれつたいよう引(ことばずて)
じつとよりそひ顔見あはして〔かねはより〕(此手がしめた唐じゆすのいつしかとけてゆく」(二十四ウ)らしい)ふかくなるほどぐちになる
わかつまばしとはゆかりのよひ名〔花のくもり〕(中をそよそよふくはる風にうき寝さそふやさゝなみのこゝはかもめもみやこ鳥)今におの字をつけてやる
たまさかにむりなしゆひして人めをしのひ〔ふけてある〕(たがひに見かはすかほとかほめにもつなみだそでぬれて)わかれりや思ひがなほまさる
中かよすきてちはからくせつ」(二十五オ)〔うちかのこ〕(いろもかもあるすいたどしすいなうき世にやぼらしい)すねずとこちらを向しやんせ
みれんらしいが寒うてならぬ〔一中くつし〕(よつでのたれをおうしても又もなきゆく明からすゑりに風しむゑもん坂)見かへるやなぎもふねまねき
くぜつつのればうたかひぶかい(げいしやせうばいはじめからとくしんづくてこうなつて今ではじみな女房きを)」(二十五ウ)こゝろのそこまでしりながら
かうもあひたくなせなるものか〔なのは〕(かあいといふことをたがはじめけんほかのざしきはうはのそらもとさままいるとしめすこゝろのあどなさようへうへさまのちはぶみも)すこしはなれりや筆のあと
どふせかたぎにやはだへがあはぬ〔かまくら〕(本町二丁目のナアヽヨヲヽヨヲヽ本町二丁目の糸屋のむすめあねは廿一いもとははたちいもとほしさにナアヽヨヲヽヨヲヽいせへ」(二十六オ)なゝたひくまのへさんど)女ながらもかいばをり
うわ気ヲされてもわしや捨られぬ〔書おくる〕(だいてねよとのかねごとも岩にせかれてちる浪の雪かみそれかみそれかゆきか)つもる思ひは恋のつね
?やく?とは思へともし又さうかと思ひ〔こひしこひし〕(むねにさしこむ窓の月いまやくるかと待身はしらで)かはつてゐたなら何とせう
とんな事されても」(二十六ウ)わかれぬ覚悟でゐれば〔わか浦〕(天のはし立きれどのもんじゆ文珠さんはよけれどもきれるといふ字が)気にかゝるとは浅はかな
腹を立たりたゝせて見たり〔みしかよ〕(のこるくぜつの朝なほしむかひのちよきはすてをふねそのまゝけふも居つゝけとたがひにつのる恋の情)ほんにたのしいきまゝ酒
うくひすのひとりきけんに朝寝を起し」(二十七オ)〔はる風〕(梅がかほれば君を待心のたけのうれしさにはつ音の夢を身にそへて)むねにうかんでねずみなき
思ひすごせば気ばかりもめて〔目はな〕(ねぬ目にかいたあすのふみはなけらしいと心にとふていつて長者になる気になつて)あへは男の口くるま
むかし古風なよし原かよひ〔浅くとも〕(とんでゆきゞのあみがさをのぞいてさた」(二十七ウ)かぬれつはめ)ねくらかそふか仲の町
まてば待ほとしんしんふけて〔かれの〕(こゝろかさへる夜はほの月田面にうつる人かけに)もしやそれかとのひあかり
朝やりにちよいと気つけと一ツはいつけて〔けさの雨〕(又ゐつゝけになかの日をみしかうくらすとこのかみをひきさき眉毛をかくし申こちの人ヱわたしかかへ名はなんとせうアレ寝なん」(二十八オ)すか起なんし)ひとりねるとは実かない
やつれ姿のわか影見ても〔はききけう〕(月のすへに草の露君をまつむし夜ことにすたくふけゆくかねに雁のこゑ)人にヤいはれぬため涙
おたかひにほれりや思ひもふか草ならて〔わかもの〕(いもかりゆけは冬の夜の川風さむく千鳥なくまつ身はつらき沖の石)かはくひまなき袖の露」(二十八ウ)
をつなくせつでたかひにとけす〔むつとして〕(くもりしむねをはるさめの又はれてゆく月のかけ)さしてもつれたわけじやない
むりなくぜつはからかひづらか〔一ト声〕(いつしかしらむみしか夜にまだねもやらぬたまくらに男ごゝろはむごたらしい女子ころはさうじやないかた時あはねはくよくよと)くちな思ひであいてゐる
そで萩の垣にからまるあの朝がほも」(二十九オ)〔朝かほ〕(つゆの命のはかなさはほんにゐるやらゐないやらひとめ見るにも恋のやみ)こひのやつれもこゝろから
とても来まいと思ふちやゐれど〔おきてうつ〕(蚊帳のひろさに只ひとりかをやく火より胸の火の)もつてなみたのわくばかり
ほれたおかたにいひよられても〔たつた川〕(またうら若きむすめ気のどふいふてよかろやらしんきまくらのそらねいり)」(二十九ウ)きのかほばせさくらいろ
気さんじないなかずまひは人目もとほく〔いろけない〕(田うへもどりに袖つまひかれこよひあをふと目づかひにまねく相図の小むろぶし)いろのうき世じやあるまいか
きゝわけがないとわが身でしつてはゐれど〔思ひをば〕(毛ほど思はぬぬしさんになほますかゞみにくもらぬといふたがむりじやないかいな)思ひきられぬ恋のよく」(三十オ)
思ふやうにはならぬがうきよ〔花になく〕(おもひはおなじあいたいの雲のまがきのいざりぶねながれしたいは風しだい)ゑんと時せつをまつがよい
茶だちしほたち願をかけて〔あふたひ〕(せん里の道もなんのそのいとはでかよふとらの門(かど))すへのゑにしをたのしみに
気やすめとむねに思へどうれしいことば〔一トこと〕(わすらり(ママ)ぬものかわしられぬかそふもいふ」(三十ウ)たをじつにして)はやくもちたいあらぜたい
まだ嫁とならぬふたりが此身のうへを〔うきな〕(むねでのろけてしらぬかほうはきするさへならぬとはほんにうるさい人の口)せけんしうとがやかましい
しのぶ恋ぢはさてはかなさよ〔其ふし〕(こんどあふのがいのちがけなみだでよごすおしろいの)かほをかくしてむりな酒
むりな縁じやとしりつゝ惚て」(三十一オ)〔あれ雪〕(うき名をいとふ恋の中みだれしまゝのびんつきや義理といふ字は是非もなく)気からもとめてくろうする
たまに来てそけないおまへ〔さみだれ〕(ふけて一トこゑなくほととぎすアレきかしやんせ是もうし)もう寝なんすのかじれつたい
梅も柳もみなそれそれに〔天の戸〕(おもひのたけをいふふしもすぐなこゝろのひとすじや)恋のいきぢのあだくらべ」(三十一ウ)
女ごゝろはたゞ一トすじに〔ゆかり色〕(ぬれていろよし雨のふぢそのあださきも君ゆへとすがたつくろふ水かゞみ)あかれまいとの身たしなみ
どふもあはすにヤ一ト夜もこせぬ〔?から〕(恋といふ字にひかされてひとり雪のよしのんできたに)さきしやきほどの顔もせず
まつ人はたまにまたないおきやくはしげく〔しかのからさき〕(夜こと夜ごとにとまりがらすがむれくるをあをあを」(三十二オ)とうれしなみだのかはく間もなく)又もわかれのためなみだ
しつに思へはわけない事を〔竹すゞめ〕(さてとまらぬは色の道わたしばかりがじようたてゝおもふおかたのつれなさよ)思ひすこしてくろうする
おまへと一生くらされるなら〔其ふし〕(深山のおくのわびずまひぬひはりし事糸ぐるまほそたに川の布ざらし)柴かる手わざもいとやせぬ」(三十二ウ)
わけもない事に?をすげたがひにすねて〔くぜつして〕(おくのざしきのつめひきがつい中だちてそれなりにみだるゝかみのつげのくし)もはやわかれの鳥がなく
ちよいとした気まづいはつみでゆては見たが〔ゆきと雨〕(屏風を恋の中だちにてふとちどりのみつぶとんもと木にかへるねぐらどり)まさるうら木があるものか
雪のはだへのとけぬが花よ」(三十三オ)(おもひのたけをふりつもるそつと身もよもあられふものか)おほこ心のはづかしく
前編遺漏
○名所地名
よひよひに夜つゆあてゝもまがきにヤならぬ松のはちうへ仲の町
住よしの松にきもせで恋わすれ草それでうき名は高とうろ
どてのもみぢに目黒の菫」(三十三ウ)ま事なしとは誰がいふた
咲ものこらす又ちりもせすけふか飛鳥の花ざかり
忍ばずにはれてともねが下谷といふはをごつた上のじやないかいな
夜が昼より明るい郭(くるは)みそかの月でも出してみしよ
手とりと手とりは亀戸の祭りうそとうそとをかへがへに
銭塚にせにのわいたる浅草寺にいまもわきたつ人くんじゆ
おたがひに和歌の浦でもこゝろはじみに」(三十四オ)さかり松葉のめうとづれ
うきな高縄ふたりが中をどこのやつ山ふれあるき
かたい約そく石山なれどかげじやわたしを秋の月
逢も見もせざこがれもせまいなまじあふみの水かゞみ

新吉原八景
大門の夜雨
をくる別の大門口はこひのやみぢの袖の雨
中町晴嵐
竹むらの軒に?らでもうそふきさうな」(三十四ウ)ひよりあかりの荒い風
揚屋夕照
豆腐のもみちは今ではないか夕日こかるゝ揚や町
夜郭秋月(よるのくるはのあきのつき)
月もやどかれ花咲みだれつゆも玉やのそらまがき
田頬(ぼの)落雁
雁の玉章(たまづさ)おとすな禿しのぶふたりが中たん甫(ぼ)
封疆(どての)暮雪
日は暮ながらも出茶やのあんとしはし忘な土手の雪
道哲晩鐘
これもつとめかよし原道か」(三十五オ)どこのお寺のかねのこへ
今戸帰帆
内でも大かたさぞまつばがしいまどのり出す朝がへり
東海道五十三駅(つぎ)
日本はし鑓はふれふれさていさましいてんきあがりのお江戸だち
恋のみなとや品川あそび日々におもひはますもと屋
大森をこして今またさて大もりなめしのながいに万年屋
こひかてきたよかな川宿にのぼりつめたるたきのはし」(三十五ウ)
足のぐあいもよい程がやとまはる金沢しようめうし
かまくらすましてはやゑの嶋よしやれてかはゆひ貝づくし
けびぞうといはゞいはんせあのさかひ木て〔詞〕(ぼたもち四五十くふたうちおつれさんはさきへおたち)〔上るり〕(きもとつかはとよし田じゝすゑのふでによるのふじ)みちは石だかはかどらず
あとにおくれし足よはつれのくるましばしと遊行寺
朝はこさむい花みつ橋でくさめ三ツ四ツ七ツたち
こゝろなき身は鴫立沢に」(三十六オ)しらぬ飛脚か大礒ぎ
小田原の外良(ういらう)くゝんだその口よりもはやくまはるよわしが気は
箱根七湯にまはつてみたが恋の病にヤきゝはせぬ
三嶋ごよみを見るような文はいづれ日からのたのみ状
千本のあれは松原この治(ち)のむかし(さるほどにこゝにまたたかをのもんがく上人は六代ごぜんのいのちごひ馬をとばせてひとはしり)茶さへのまずにかけて来た」(三十六ウ)
けふもぬらくら又ながやすみまつはうなぎでかしはばら
思ひだしたよよし原宿でてうのなじみのふじびたゐ
田子の浦うち出でみればテモしろたへにじゆよばんそろへてふじまうで
さつたたふげは嫁りにヤいむがゆきのしろむくふじの山
興津女郎のあのしつこさに江戸の女をしてみたい
名さへきたない江尻の宿は馬のおならとうしのくそ
ぎりにからまん心の竹をやへにくんだるかございく」(三十七オ)
一丁町すぐに出てきてまりこの宿でちよいととろゝで腹直し
蔦のほそ道なにくらかろふ恋のやみぢにくらへては
あつま屋のしそのつけもの此藤枝のいろのゆかりの小紫
川こしにすへをかけたる嶋田の女郎おなじはちすのれんだいに
馬でもこされぬあの大井川神のようごかやすくこし
しげつた所がアリヤむけん山(いかにならひじらうとめ」(三十七ウ)じやとてもいやな客にもあはねばならぬ)金がほしさや三四百
わちは命もかけ川なれどぬしはふたみちふたせ川
袋井にいれた鼠はにがしてやんな殺すもどふやらかわいばし
天龍川でもとめればとまるとゞめかねたるなみだ川
遠州はま松赤いようでくろいほねはすみぬりひめぢうみ
鳶は舞坂てんきもしづか名のみあらゐのわたし舟」(三十八オ)
雲のなみまにはまなの橋のあとはかすみの一文字
さきはなんにもしらすかなれどかはゆひめもとのしほみ坂
よし田ぼくちもまた一里半ちよつと一ぷく火打坂
よし田とほれば二階からまねぐしかもあのこのふりのよさ
腰をかけまで今たてました御油るされませすゞ通
げにも赤坂いなかの女郎みんなけだしはひぢりめん
これもゆかりの藤川なれどむかしの男のさたはこい
岡崎女郎衆はよいかはしらす」(三十八ウ)
ときも八ツはしはるばるきぬるつまらん古跡もよいころに
女にはいつもかうかう養老しぼり買てなじみへとゞけさせ
鯛屋にとまつて子はするかやでよんでどゝいつ宮のしやれ
七里ねむつてはや横まくら夢の間につく桑名ふね
四日市しやもひとりはねすにひるもひなかをのみくらし
よほどいなかに又なりましたかたい豆腐の名薬し
庄のないのはこゝらの宿よむだもいはすにずいとねり」(三十九オ)
??ぬれぬれ亀山あたり泥にも尾をひくやれわらし
関の地蔵のふんとしならば〔てたらめ上るり〕(いもがむすびししたひもをかへる日迄はとくまいと万葉ぶりのばかりちぎ)ふろにゐるときアなんとせう
あけぼのゝはながかうばしめくらのこひじ水にあふのかつちやまの
をたの水口つまよぶかはづかはひかはひとなきわたる
石部金吉おとこにもちなとてもあたではきがもめる
草津ても鯛といへとも」(三十九ウ)もう此へんはせたのしゞみにあふみぶな
ひはの海よりこちやさみせんの川らぬねしめかいつもすき
大津絵のげほうあたまをあの大こくが〔新内〕(のぼりつめたる二かいのはしごおやにさかろふこのみのうへ)アレサ七福神には親はない
たゞ今京都へ三条の橋ながのみやこぢさはりなく
度独逸大成文句入後編了」(四十オ)
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歌沢能六斉編集
哇(はうた)松の声
五編 六編 七編
はうたは古くよりつたはりし文句多く又近年の新唄といへども伝聞の誤且三写の錯ありて文句の義理をなさぬものありけるにそを心づかでうとふもの多かりさては声うつくしく節たへなりとも片ことをのぶるときは其人がらをしはかられて恥かしからずや通士よく是を思へ」(四十ウ)