都々逸資料翻刻

菊池真一

 菊池所蔵の都々逸本を翻刻紹介する。

凡例
一、濁音は適宜付け加えた。
一、特別な場合以外、振り仮名は省略した。
一、作者名は ( )に包んだ。
一、都々逸の中に挿入された詩句・文句・歌謡等は〔 〕に包んだ。
一、片仮名の意識のない「ハ」「ミ」は「は」「み」とした。
一、判読不能文字には ? を充てた。
一、配列は年代順とした。ただし、年代を確定できず、「幕末刊」「明治刊」とのみある複数の作品の順序は適当なものであり、意味がない。詳細は不明である。


1 絵本どゝいつ惣まくり(嘉永二年刊か。)
※大阪大学小野文庫蔵本の保護表紙の見返しに次の如く墨書あり。「此書都々逸ノ起源ヲ知ル珍本也嘉永二己酉年の出板とす」(忍頂寺蔵書章=印記)
※蓬左文庫・国学院高校にも同本を蔵する。菊池蔵本は二丁目・六丁目が欠けているが、これらによって補った。
嘉永
絵本どゞいつ総まくり」(表紙)
絵本どゝいつ惣まくり
蓬壺謫僊
索々老人閲」(見返し)
ドドイツといへる小唄。江戸にて唱初(うたひそめ)しは纔四五十年の往昔(むかし)にして其もあながち流行るとにもあらず。然程に同様(おなじさま)の小唄にて曲節(ふしはかせ)も趣も異にして。ヨシコノ節といへるなん。二十年余をちつかたは。世にもてはやして謡はぬ人なく「澳の暗いのに白帆が見えるあれは紀伊国蜜柑船。チヨウチヨ静にさしこめコリヤ又ヨシコノ。などうたひはやしけらし。其を一盛にして。復もとのドヾイツ節ぞ。一統(おしなべ)て行れ。当時(むかし)の墨譜(ふしはかせ)とは漸(やう/\)に変ぬれども。年を経て廃(すた)らず。流行ともなく平常(つね)になりて。此一小令(ひとふし)を欠く則(とき)は。梅に香(にほひ)のなき如く。仮令花巻でも蕎麦を喰に薬味を添ぬこゝちにて酒を喫(の)むとも座は浮まじ。或は二上り三下り。字余りなんどゝ調子はもとより。唱歌も日々に新しく。垣の蕣(あさがほ)花咲(さき)改(かへ)て。夜肆(よみせ)の早鮓好(すい)な郎君(おかた)は。自己(みづから)作りみづから唱(うた)ひ。心利たる歌娼(うたひめ)は。即座の続結句(しりとり)心意気。其人情を極るに至りては。堅い老父(おやぢ)や番頭の眼に。涙を流させ無反(むそり)の刀。さすがに猛き武士(ものゝふ)も。心を慰め投打する。夫婦反目(げんくわ)の絶交(なかたがひ)。丸く和睦(なほ)」(一オ)
(絵)
これは某尼の手して筆ずさみしたるどゝいつこうた集にいで今も人よくうたへり寛政の末にかける本にて今古園の蔵本也
「あふてまもなくはやしのゝめをにくやからすがつげわたる
「じつもまこともみないひつくしまくらならべてかほとかほ
「わたしやどゝいつでまぎれもせうがぬしはおちやうあひおきづまり」(一ウ)
(絵)
二百年のむかし/\投ぶしを賞翫せし事今のどゝいつにいとよく似たり紫一本の下巻にも見えたり其ふしも手も甚(いた)く異(たが)へど唱哥においてはどゝいつにうつして今も???うたへり」(二オ)
すは此哥也。此歌根元(はじめ)は知らざれども。古く尾張の厚田の傀儡(くゞつ)。ドヾイツと皆謡へる。乱(しまひ)のはやしにドヾイツドイドイ。浮世はサク/\と折返し。囃しし事を僕(われ)稚き。小耳に挟て忘れねど。今は絶て更にいはず。然ども唱歌は今昔鄙も都も一斉(ひとし)くして。東都にも古来人の知る「宮の厚田の明神さんへ遠ざかれとはいのりやせぬ。」厚田に古く歌ひしは。此歌既に一ツの証故。今猶宮駅(みや)に歌ふ所。吾嬬(あづま)風(ぶり)とは似て非なれども。其元たる事聴けば知られぬ。或人の説に。ドヾイツは婀娜にもうたへば。品よくも唄はるとか。百度云より一唄にて。思ひを述る小唄ゆゑ。百々一なりとは一時の戯筆。唯ドヾイツは囃詞(はやし)にて。何の事やら知べからず。抑(そも/\)こゝに輯(あつめ)たるは。癡情に通じ世に洒落たる人達の新作にて。又漫口(でたらめ)も多ければ。荒涼なるも少からねど。色をも香をも汁次の。醤油のよいのに薬味の薫(かをり)。梅に鶯声清く。是を酒宴に歌ひなば。達摩も払子を投節の。絶たる後はドヾイツ計。あだな小唄はあらざるべし
索々老人記」(二ウ)
立卯科括純々殷通哥
正述心緒(ありのまゝうた)心に思ふよしをつくろひかぎりなくうたふ
これがほれたといふのかしらずいとしなつかしきがもめる(三田 大物)
寄物陳思(よせうた)譬喩(たとへうた)此科(うち)に摂(をさ)む
まゆはみかづきはだへはゆきでたのみずくないはなごゝろ(南馬道 松新)
雑(くさ/\のうた)四季の歌も此科(うち)に入る
まゝの川とてどこにもないがながれわたりのすてことば(中ノ丁 竹住)
雑体(くさ/\のふりのうた)浄瑠璃長歌おとしばなし入り字あまりの??
をとゝひこひとはじやけんなことば〔そりやきこへません才三さんおまへとわしがその中は〕げにやきのふのことかいな(浅草 卍庵)」(三オ)
東都名所 八首
日本橋
橋はにほんでお鎗のかずはいつも四五本たえはせぬ(青柳 辰)
高縄
うき名たかなはふたりが中をどこのやつやまふれあるき(青柳 栄)
飛鳥山
さきものこらずまたちりもせずけふかあすかの花ざかり(青柳 亀)
浅草寺
ぜにつかにぜにのわいたるあさくさでらに今もわきたつひとくんじゆ(青柳 庄)」(三ウ)
亀井戸
手とりとてとりは亀戸のまつりうそとうそとをかへ/\に(青柳 徳)
新吉原
よるがひるよりあかるいくるわみそかの月でもだしてみしよ(青柳 よし)
隅田川
すみだ川こぐあのやね船の〔ふけよ川かぜあがれよすだれ〕うちぞゆかしきことのおと(青柳 辰惟)
上野
しのばずにはれてともねが下谷といふはおごつた上野ぢやないかいな(青柳 長)」(四オ)
うらしまのひざにすがつておとひめは〔これがせけんにありふれたいろやうはきぢやあるまいしあふてうれしきへにいれのふたりが中ぢやないかいな〕うれしなみだの玉手ばこ(伝馬町 赤岩)
土手のもみぢに目ぐろのすみれまことなしとはくちびろい(深川 平清)
いきとはりならあの淀河の〔(初)よどや初五郎ともいはれたものもかはればかはるみのなりゆき(ばんとう)もうし初五郎さまいつぞやしちいれなされましたふらうふしのあの薬すいもう今月で八月ぎりおすておきなすつては(初)ひとでにわたしてならぬあのしな(ばんとう)といふてうけだすかねのごつがふ(初)せめてすこしはかねとゝのへおれも男だりあげして〕水のながれをとめてみしよ(大丸床 応笑)」(四ウ)
うたがはしやんすはすりこぎこんじやう〔めぐり/\て大山もせきそんさまのひきあはせ〕かたいやくそくわすれてか(サガミ 山源)
めぐりあふせはしづはたおびよ〔いざゑもんさんわしやわづらふてなとうにもしぬるはづなれどねりやくとせんやくとはりやあんまでやう/\と命つないでこのとほりまだくしのはもいれぬかみ〕とくにとかれぬわがおもひ(歌川 国道)
蛇の目のからかさだてにはさらぬ吸つけたばこのあめあられ(八代目 三升)」(五オ)
五節供の寿はをかしみを尊び
なづな七くさはやしたあとでひとつたゝいた下女がしり(中山現十郎)
にほひぶくろも樟脳ですましけちなかよひのだいりびな
ゑふてわすりよとふさいだときにのめばのむほどあをくなり(あはや おつた)
かねのなる木はあのおみなへしはなもきいろにさきみだれ(常磐津静太夫)
ちをわけてもらふたおやでもわしやすてるきぢやあかのたにんのぬしゆゑに」(五ウ)
五色は色気のあるこそよけれ
ふきぬきにこひはあれどもぶぐばくかざりほんにたんごのいろけなし(フキヤ丁 万久)
ねがひのいとならあすにもござれとしにひとよでせわしない(柳ばし 新上総や)
いふことをきくのさけならくすりとなりてこひのやまひもなほるだろ(むさしや お?)
じみなこひならまことゝまことせきのしらさぎめにたらぬ(清元 延津賀)
くろいづきんでめばかりだしてはしごおりればあけがらす(今戸大七)」(六オ)
東海道五十三駅(つぎ)
日本ばしやりはふれ/\さていさましいてんきあがりのお江戸だち(四日市 鯛看板)
正月
ゑほうだなからふくじんたちもよどがたりましよひめはじめ
二月
いなりさんよりわたしのはうがすてきな凝性(こりしよ)とおもはんせ(鶴沢唐市)
三月
酒くさいさゆでくすりをうれしい手からしやくもさがりしはなみぶね(国芳)
恋のみなとや品川」(六ウ)あそび日に/\おもひは増もとや(新ばし 初音屋)
大森をこして今またさて大もりなめしのなだいは万年や(リヤウリ 卯之助)
四月
ほとゝぎす/\とてついよがあけたぬしをまつよもそのとほり
五月
すいにみがいりいつくるたびもしめりがちなるうめのあめ(鶴彦 おひめ)
六月
うちはかたてに目にもつなみだいまゝでかやりをたいてゐた(楽丸)」(七オ)
こひができたよかな川じゆくにのぼりつめたるたきのはし(九返舎 一昇)
あしのぐあいもよい程ケ谷とまはるかなざはしようみやうじ(源氏 茶漬)
かまくらすましてはや江のしまよしやれてかはゆいかひづくし(両国 朱場 おしげ)
七月
あきのあふぎとみはなるとてもついやちよつとで喜嶺扇
八月
かはるまくらのねざめのとこにねぐらさだめぬかりのこゑ(中村翫雀)
九月
小菊かさねてかくはなしぶみもてくるつかひもかぶろ菊」(七ウ)
げびざうといはゞいはんせあのさかひぎで〔きもとつかはと吉田ばしすみゑのふでによるのふじ〕みちは石だかはかどらず(馬喰丁 かりまめや)
あとにおくれしあしよわづれのくるましばしとゆぎやうでら(並木 清瀬)
十月
あしとあしとがついなこどしてほんにこたつはこひのやま
十一月
顔みせさんせや日にいくたびもやさしい心にいりかはり
十二月
かれ木にも花をさかするもちばなみればわしもじせつをまちませう(鶴彦 おいね)」(八オ)
朝はこざむいはなみぢばしでくさめ三ツ四ツ七ツだち
心なき身はしぎたつさはもしらぬひきやくが大礒ぎ(秀ノ山)
小田原の外良(ういらう)つんだるそのくちよりもはやくまはるよわしが気は(清元 菊寿太夫)
○正述心緒(ありのまゝ)▲寄物陳思(よそへうた)とりまぜ
ありのまゝばかりさきへいだせば画やうひとしくなるゆへこのふたつのふりはひとつにしてしるす
○うけさせやうとていふでもないがのろけばなしもうさはらし(荻江佐吉)
▲住吉のまつにきもせでこひわすれぐさそれでうきなは高どうろ(扇面亭)」(八ウ)
箱根七湯もめぐつてみたがこひのやまひにやきゝはせぬ(市川新車)
三嶋ごよみをみるよなふみはいづれひがらのたのみ状(よし原 竹村)
○うはきなをとこがなぜこのやうにてまへでてまへのきがしれぬ
▲きやくはせじもの女郎はてどりうそとてくだのはちあはせ
▲ぬしのたよりとつぢうらこんぶひらくそのまをまちかねる(久喜楼 元にし)」(九オ)
沼津
千ぼんのあれはまつばら文治のむかし〔さるほどにこゝにまた高をのもんがく上人は六代ごぜんのいのちごひ馬をとばせてひとはしり〕ちやさへのまずにかけてきた(牛島登山)

けふもぬらくらまたながやすみまづいうなぎでかしはばら(荒馬)
▲なみだふき/\そのそであはせぐわんをかけぢの神だのみ
▲かへる/\もびやうぶのなかでやはりはなれぬてふつがひ
▲灰にかいてはけすをとこの名ひばしのてまへもはづかしや(松川 おふぢ)」(九ウ)
おもひだしたよ吉原宿で丁のなじみのふじびたい(千住 鮒屋)
蒲原
たごのうらうちいでゝみればテモしろたへにじゆばんそろへてふじまゐり(新宿 辰近江)
由井
さつたたふげはよめりにやいむがゆきのしろむくふじの山(スヂカヒ 仲川屋)
▲庭の松ぬしもこずゑにあのあふぎだこきれてぶら/\きにかゝる
▲春のはじめとなかずにわかれあとでほろりと梅の露(山谷 八百?)」(十オ)
沖津女郎のあのしつこさに江戸の女がしてみたい(揚屋町 魚滝)
名さへきたない江尻のしゆくは馬のおならと牛のくそ(高縄 万清)
▲こひといきぢとたとへでいはゞうめのにほひと花のつや(中ノ丁 おのせ)
○おこつたかほしてつひわらひだしはてはなきだすふかいなか(ナミヤ 其廓)
▲つたふなみだにまくらのもんがつたもいろづく秋のくれ(姿 桜人)」(十ウ)
府中
ぎりにからまれ心のたけをやへにくんだる籠細工(辰巳大野や おりよ)
二丁町すぐに出てきて鞠子のしゆくでチヨイととろゝのはらなをし(中橋 環菊)
人のてまへは手くだと見せてじつにほれたでむねのしやく(柳橋 竹屋おきち)
○おやのじやけんもいまではうれしつとめなりやこそあひもされ(都 民中)」(十一オ)
岡部
つたのほそみちなにくらからうこひのやまぢにくらべては(今戸 玉秋)
あづまやのしそのつけものこの藤枝のいろのゆかりのこむらさき(??丁 八百栄)
▲よひ/\によつゆあてゝもまがきにやおかぬ松のはちうゑ仲の丁(尾張屋 山花)
▲まへがみかき/\アヽじれつたいそらにしられぬふけのゆき(小べにや 清川)」(十一ウ)
嶋田
かはごしにすゑをかけたる嶋田のぢようろおなじはちすのれんだいに(並木田舎茶漬)
金谷
うまでもこされぬあの大井川神のおかごかやすくこし(宮戸川 おてつ)
まゝもたきますつとめの身でもやまがらでさへも水をくむ
▲ゆきはきへてもはなしはつもるひるになつてもかへされよか
○しらむれんじにあれちら/\とながさザなるめへさとのゆき(四日市 明勝)」(十二オ)
西坂
しげつたところがアリヤむけんざん〔いかにならひぢやつとめぢやとてもいやなきやくにもあはねばならぬ〕金がほしさや三四百(重石)
みちはいのちも掛川なれどぬしはふたみちふたせ川
○とうしんをひとすぢへらしあちらをむけてぬしはねたのかいやだねへ
○ためになる客つとめるつらさぬしにまくらのばんをさせ
▲しやうちしながらつひまちかねてまはしざしきできをまはし
○おれもつらあてとはおもへどもみかへる女がどうもねへ」(十二ウ)
袋井にいれたねずみはにがしてやんなころすもどうやらかはひばし(青山 福富)
見附
天龍川でもとめればとまるとゞめかねたるなみだ川(小柳)
○ぬしは今ごろこまがたあたりどぢよじるなんぞでむかへざけ
▲あめはしよぼ/\かうしのかげにとてもぬれたるそでながら
○あへばあふほどなほやるせなやたま/\あふてもすんだもの
▲しやうばいのいとのみすぢがよしのゝかはかおかほみながらまゝならぬ(中ノ丁 中松)
▲さみせんのいとにつなげるげいしやのみでもひいちやくやしいのこのこひぢ」(十三オ)
遠州浜松
赤いよでくろいほねはすみぬりひめぢ紙(竹本 美代太夫)
鳶も舞坂てんきもしづか名のみあらゐのわたしぶね(猿若町 升八)
○おためごかしももうきゝあきたいやならいやだといふがよい
○きやくにうそをばつくそのばちかまことあかせとうたぐられ
○りんきせぬのが女のみちとうはきしたさのえてかつて(千代鶴 おきく)
○いつそじやけんをとほしもせずにほんにおまへはつみなひと」(十三ウ)
荒井
くものなみまにはまなのはしのあとはかすみのいちもんじ(山谷堀 浜栄)
さきはなんにも白須賀なれどかはゆいめもとのしほみざか(根岸 長次)
○じつがあるならしちぐさかしなかみもきしやうもこちやいらぬ
○七ツでうられて十五でこひをおぼへてわたしもこのくらう
○こちらむきなとひきよせられてうらみつらみもどこへやら(豊倉 おむら)
○はつはたがひにうはきでできていまはひとりでじやうをたて(尾張屋 真袖)
○まつたつらさをせなかでみせてしばしがまんもこひのいぢ(武蔵野 おみん)」(十四オ)
よし田ぼくちもまだ一里半ちよつと一ぷく火打坂(つる音)
吉田とほれば二かいからまねくしかもあの子のふりのよさ(松江)
雑歌(くさ/\のうた)
恋情(こひのじやう)をよまぬをいふたゞししぜんとやさしくいろけをふくむをよしとす
梅のにほひをかすみにこめてそらにひとはけ丁子びき(甲子楼 歌之助)
なつ山につまにあこがれなくしかよりも松のほぐしがみをこがす(久喜楼 雲井)
あめのぬれごとうはきな鳥よつきになじみのほとゝぎす(久喜楼 誰袖)」(十四ウ)
こしをかけまでいまたてました御油るされませすぐどほり(仲伊)
げにも赤坂ゐなかのぢよろもみんなけだしはひぢりめん(扇要)
せじでとまつた大根葉のてふ二心とはたいそうな(中村鶴蔵)
花におくつゆをざゝのあられこぼれやすいがきかす煎(いり)(広小路 菊千)
いろけないのはあくびのなみだちやうどつばきのちるやうに(福蝶)」(十五オ)
これもゆかりの藤川なれどむかしをとこのさたはない(竹田くみ太夫)
岡崎女郎衆はよいかはしらずごよう/\でおちつかぬ(ハシバ 川口)
あさのかへりはすゞかぢやないが馬がものいふたえもんざか
ふけてかすかなあのさよぎぬたをつとおもひのしづがわざ(丸亀 おと?)
たらぬがちこそなほたのしみぢやうまいたんぼのすりびうち」(十五ウ)
知立
ときも八ツはしはる/\きぬるつまらん古跡もよいころに(不二?)
鳴海
女にはいつも孝行養老しぼりかつてなじみへとゞけさせ(三分亭)
雑体(くさ/\のふりのうた)
浄瑠璃入二首
それでもをしいようはきはさせぬ〔ふみでくどかずひとたのまずこゝろのじつをうちつけに〕一文いらずにできたこひ(両国 長しま)
ゐなかから出ておとはやがおばけのしばゐ〔はじめてこわいはづかしいあとでうれしいまくらして〕丁のおぢよろのみつぶとん」(十六オ)
鯛やにとまつて子はするがやでよんでどゝいつ宮のしやれ(駐春亭)
七里ねむつてはやよこまくらゆめのまにつく桑名ぶね(つる 清六)
一月のかささしてよるしもないふみなれどわをかけてかきやアながくなる
二なるほどだうりとかけたはよいがあとのけれどののられぐち(木母亭 うゑきや)
三ぐちもこひぢのひとつのだうぐきつぱりすぎたもじやうがない(あたけ松)」(十六ウ)
四日市やもひとりはねずにひるもひながをのみくらし(小玉太夫)
よほどゐなかにまたなりましたかたいとうふの石薬師(品川 長門屋)
四じやうがないあけはなしとはなさけの駄売戸をたてたのもあるものを(てりふり丁 東花堂)
五あるものをないといはんすこゝろがにくいりんきするではなけれども(氏仲)」(十七オ)
庄野
しやうのないのはこゝらのしやくよむだもいはずにずいとほり(つる 勝七)
あめにぬれ/\亀山あたりどろに尾をひくやれわらぢ(竹梶太夫)
問答
七首」(十七ウ)
関のぢざうのふんどしならで〔(でたらめ上るり)いもがむすびししたひもをかへる日はとくまいと万葉ぶりのばかりちぎ〕ふろをいるときやアなんとせう(鼠笑)
男「くるたび/\たゞめそ/\となくはおどすかあまへるか(里笑)
女「たま/\くるくせじやけんのことばすゑをあんじてなくわいな(七里)
男「せじやきやすめいはねへおれだほかにうはきもせぬおれだ(里笑)
女「よくもいはれたうはきはせぬとことしばかりも五六人(七里)
男「あれは一度のつきあひあそびうらもかへさぬかひはなし(里笑)
女「ついちやゐはせずなんだかかだかわからないのでおちつかぬ(七里)
男「わからないとてすておくきならよほどてめへもごしやうらく(里笑)
女「もうあやまつたこちらをむきなうしろあはせでうそさむい(七里)」(十八オ)
あけぼのゝはながかうばしめくらのこひぢみづにあふのか土山の(中村うた)
をだの水口つまよぶかはづかはい/\となきわたる(延小政)
余興 新吉原八景
大門夜雨(おほもんのよるのあめ)
おくるわかれの大門口はこひのやみぢの袖のあめ(久喜楼 滝川)
中町晴嵐(なかのちやうのせいらん)
竹むらののきにとらでもうそふきさうなひよりあがりのあらいかぜ(ワキ橋 大)」(十八ウ)
石部金吉をとこにもちなとてもあだではきがもめる(留場 菊松)
草津ても鯛といへどももうこのへんはせたのしゞみにあふみぶな(八百善)
揚屋夕照(あげやゆふてる)
豆腐のもみぢはいまではないが夕日こがるゝ揚屋町(小団次)
夜廓秋月(よみせのあきのつき)
月もやどかれはなさきみだれつゆも玉やのそうまがき(中くし 三玉や 幸次)」(十九オ)
湖水
びはの海よりこちやさみせんの川らぬねじめがいつもすき(紀伊国や 亀洲)
大津絵のげはうあたまをあの大こくが〔(しんない)のぼりつめたる二かいのはしごおやにさからふこのみのうへ〕アレサ七ふくじんにはおやはない(油丁 すし甚)
田頬落雁(たんぼのらくがん)
かりの玉づさおとすなかぶろしのぶふたりがなかたんぼ(山谷堀 若竹)
封疆暮雪(どてのぼせつ)
日はくれながらも出茶やのあんどしばしわすれる土手のゆき(慶寿太夫)」(十九ウ)
たゞ今今日とへ三条のはしながの都路さはりなく(三笑)
道哲晩鐘(だうてつのばんしやう)
これもつとめかよしはらみちにどてのお寺のかねのこゑ(千代作)
今戸帰帆(いまどのきはん)
内でも大かたさぞまつばがしいまどのりだすあさがへり(杉酒)」(二十オ)
右の八景は寛保元年(ことしまで百六年になる)吉原細見『鴛の思ひ羽』の巻首に出せるところ也此外に享保九年(ことしまで百二十三年)俳書『露月々並』にもよし原八景の発句あれどもこれとは大に違(たがへ)りなほ外にも見たれども今その書名(ほんのな)をわすれたりと清声(しやう/\)翁いへり
女房がかはゆくなる様になればをんながほれぬで身をもてる(山谷堀 八文字屋)
ほんにめでたやむかしのくらう男蝶女蝶のゆめにして(江戸の水 三馬)
かたいちぎりは千万代も鶴のくちばし亀の甲(三笑)」(二十ウ)



2 よしこの(嘉永四年。柏原屋義兵衛等版)
※菊池蔵別本『よしこの万題集 弐編』と同じもの。本書は外題がない。
よしこの
長谷川貞信」(表紙)
楊柳園粂児選」(見返し)
自序
当唱歌の濫觴は慶長の昔其山翁の作を初として貞享元禄の比三都にもてはやし星霜数百年の今にいたり此道に」(一オ)心垢琢輩(うきみをやつすもの)すくなからざれば四時の名吟悟道をすゝめ則体(さくれい)大きなる?は虚空より広くちいさき?(とき)は芥子の中にも所有て風雅に導き」(一ウ)恋慕の思ひを頌(のぶる)といへども色好の為ならず心を禁め身を脩る一徳を得ものなり
 嘉永四辛亥孟春」(二オ)
(絵)」(二ウ)
(絵)」(三オ)
   袖かゞみ  三下り
秋はあはれとたがをしへけんなさけもあまるおもひごとむすぶゑにしの身にしみ/\とこがれよるべの露にぬれ色をますほの花すゝき宵にはうつすそでかゞみ
     松島検校 調
     楊柳園  作」(三ウ)
冨士もなすびもさめては夢よおもふうつゝは外にある(京 巻丸)
かほのもみぢはもふ恋風にやがて落葉の下ごゝろ(桃人)
更る程なほ恋しさ増りまたぬ夜とては無けれど(平政)」(四オ)
首尾を待身かアノ蔦かづら軒をつたふてとがめられ(児一)
かよふ足元矢をゐるごとし心はり弓ぬしをまと(河内喜来)
ちらばひとつと紅葉にまとひともに色もつ蔦かづら(京里馨)」(四ウ)
風の手くだにツイのせられて梅も柳に香をとめる(鯉昇)
しのび歩行をする梅が香も風の手引にさそはれて(六雀)
フツト見染た迷ひのたねが人の口まで花が咲(枝蝶)」(五オ)
なんのもつれに糸巻なげてとけぬ辛気に気がもつれ(アヤ夢丸)
露もかひなく雫ときえてやどりかねたるかれ柳(一思)
風がもつれのつばきを付て今は柳のすぢもたつ(十成)」(五ウ)
葛城の神じやなけねどかへらにやならぬ愚知も岩はし夜が明る(京流守)
よい首尾をしめしまいらせ気は急ぎつゝ送る文さへはしり書(なのは)
首尾をいそいで書玉章に筆もつまづくこゝろぜき(桃人)」(六オ)
つゝむ色香のいつしかもれてゑがほ見らるゝそのゝ梅(林馬)
人にとはれてする言わけもくらき恋路のさぐり足(金槌)
千草結びにうき名が立て人にことわるときほどき(なのは)」(六ウ)
花を雪じやと思ふてなりとかへしとむない春の雁(江辺)
色気咲りを見のがす花よゆびもさゝれぬいばら垣(逸外)
花もすげなく生れたならば垣もへだてもいるものか(玉之)」(七オ)
ふかい浅いの流もそれとせぶみしらずに登る鮎(一思)
心ぼそさの一筋竹といふてそなたは釣にかけ(児丸)
なげだしていつか思ひを岩はな桜色に出たるこゝろばへ(都来)」(七ウ)
ひとめ見るより飛立おもひ籠の鳥かやまゝならぬ(青一)
いつ迄もちらぬ心と盛の花も濡が重なりやかはる色(淀紫好)
風にすねたる尾花が袖も露の涙がおきあまる(笹人)」(八オ)
梅に鶯とまるは常よそれにも迷ひの枝が有(京巻丸)
おそれわれましたもくやしい事で夢に見てさへまゝならぬ(十成)
花の間は来て囀りてちればちよつともきなこ鳥(イクセ小蝶)」(八ウ)
身と鞘としかと錆付この恋口は力づくでははなれまい(安楽)
風のたよりにのぼりし鯉もだしにしられてふくれづら(定丸)
水のさしてが有つぢうらかはぜてくろふになる行燈(一思)」(九オ)
あはぬ夜とあきらめいたのによき辻占を聞て思はず罪つくる(喜寿)
はれぬ心も浅間が嶽か恨みいはふの気がもゆる(莨花)
あつゐなさけが身にそひぶしの伽もうれしき竹婦人(亀寿)」(九ウ)
思ひおもはれ気は業平ののぞく井筒もふかいなか(山猫)
うしろ姿をへだたる霧よ朝じめりする我たもと(五橋)
寒い世帯の身に秋が来て膝になみだの落し水(白燕)」(十オ)
忍ぶ切戸にこだはる梅よすいといはるゝ身ではない(花人)
恋に引れて鳴子も今はそれとひそかに忍ぶ音(青一)
世間しらずと言葉のはしに見さげられたる谷の花(都来)」(十ウ)
つゝむひ汗の互ひにもれて人がうき名を夕すゞみ(松寿)
濡合た深いきのふも浅瀬のけふと変る流のうわき水(露月)
五月雨のくもりがちなる思ひもはれて今は涼しき夏の月(不粋)」(十一オ)
手いれする身ははやませたつる色香ふくみしおぼこ菊(なのは)
庭の籬に身をよりそへてうちの様子を菊ばたけ(トコヤ 花流)
今宵あはずはいつ逢坂と思や関こむ胸の癪(下手丸)」(十一ウ)
弾(ひく)に引れぬ手事となりて胸の調子も定まらぬ(かなめ)
なんのへちまといはんすけれど水になろかと身がやせる(逸外)
親骨のいけんこたへて誠の地紙要なぞして末広う(松寿)」(十二オ)
なまぜ聞ずば迷もせまい宵に一声ほとゝぎす(不粋)
なまぜ思案のともし火けして虫といひたい時もある(京人丸)
どんな苦労もいとひはせぬと胸を合したかざり鯛(児丸)」(十二ウ)
指につば付毛をなで上ていらやようなる筆仕事(桃人)
いやなあられはつれなくはねて雪とそひ寐の園の竹(江辺)
とけぬ思ひの雪には庭の松もすがたがやつれだす(松明)」(十三オ)
筆は箒になる迄文をやれど枕はちりの山(母雀)
はらふ桜につもりし塵もかゝる此身にます苦労(ヨド 紫好)
秋の花かと黄菊がまはり主を見るめの猿まなこ(古木)」(十三ウ)
へんな雲から気はかゝり舟もしや早てがあろふかと(逸外)
つらや流のうきねもよそへかよふ千鳥にますおもひ(白燕)
君に思ひをかけはしなれどわたりかねたる丸木橋(我丈)」(十四オ)
露も草葉に思ひをかけたかひも嵐が吹ちらす(柳糸)
松はつれなきアノ心ねとすねた柳のおよびごし(鯉昇)
まとひ付たる朝がほさへも無気に引分られもせず(恐悦)」(十四ウ)
抱て引よせほどよく組はほんに子どもの背なの紐(児門)
まねく薄をそれとはしらず雲にかくれて越る月(青一)
遂た逢瀬の寐耳に聞ばほんに水鶏も鳥の声(昭尚)」(十五オ)
ヲヤ散た桐の一葉に月影さしてかほもはづかしひざまくら(ヘラ八)
立聞の下が三尺へるともよしなたとへならくへ落るとも(児門)
おぼこ菊さへはやませ垣にいつか赤らむ花の顔(逸外)」(十五ウ)
しぬのいきるの碁詰になるもこいし/\のつもりがら(ナゴヤ 花流)
やぼなお客と小陰で笑ひ虎をあざむく古きつね(重一)
心尽して打込からは苦労するのもたがひせん(児一)」(十六オ)
かぎり有身のかぎりをしらでまてばあだしの鐘の声(笑長)
主のつれない心は忘れ明行空がうらめしい(芦友)
ねむる海棠に情をしらぬやぼな胡蝶がゆりおこす(児一)」(十六ウ)
逢て別るゝ事こそつらやあはぬつらさの事忘れ(?一)
今朝の別れに気は残り蚊の昼も小隅で忍びなき(京 鼠口)
花はちれども実はなるものといへどあきらめわしやつかぬ(林馬)」(十七オ)
秋が来てさへかはらぬ色を君にみせたい常盤草(逸外)
千代もかはらぬ色みすかしてとかくそふかや松と月(鯉昇)
しのぶ恋路の関とはしらずにくや啼やむ虫の声(林馬)」(十七ウ)
おもひ有明しら菊さへもめには露もつ花の色(桃人)
どこへとりつく思案もなしにぬけて出て咲ふぢの花(京 梅月)
名残をしげに此きぬぎぬを横に寐てゐる暁の雲(一思)」(十八オ)
  追加
天のうきはし世わたる為と恋にか?ぎの道がつく(楊柳園)」(十八ウ)
嘉永四孟春
書肆  大阪  播磨屋喜助
        伊予屋善兵衛
    心斎橋唐物町
        柏原屋義兵衛」(裏見返し)



3 よしこの玉吟集(嘉永五年刊。伊予屋善兵衛等板)
※関西大学に同じものがある。
よしこの玉吟集」(表紙)
楊柳園大人選
浮礼唱歌玉吟集
校合 浮世社」(見返し)
和歌三尊神永代奉額集題随意寄計六千余吟之内玉撰一百章模写」(一オ)
(絵)」(一ウ)
(絵)貞信」(二オ)
わすれ草 三下り
すみのゑや松もひときはたつ翠いとゞ思ひはますかゞみやどらばうきもわすれ草こゝろ/\の枝ぶりに誠明して添月がおとりまさりをゑらみけり
在原勾当 調
楊柳園 作」(二ウ)
秀逸 華のゑがほに迷ひし故歟しのぶ影なる昼の月(一思)
(第二ナシ)
第三 囲ふこゝろもかこはるゝ身もともに笑顔の冬牡丹(亀寿)
第四 雲のゆだんを手早くぬけて松にまことをあかす月(都来)
第五 花をへだての霞も今は深いこゝろがたちかはる(白燕)」(三オ)
第六 山も落葉にやつれし色をともに苦をする時雨雲(柳糸)
第七 たつた一声あと欝口(こもりく)の啼て迷はすほとゝぎす(遊糸)
第八 月もまことを柳にそへど風の手づめに気がせける(貴翠)
第九 いつか苦労を忘るゝ隙がないもくらうがたらぬゆへ(五橋)」(三ウ)
第十 秋の果かとはや先ぐりの時雨もようほす雲の色(一思)
松も悋気かみどりをのばし花を下めにみたるふり(梅陰)
わづか一夜の気休めさへもたんのさせたる春の雨(万丸)
雨の降夜も雪ふる夜さもぬれに通ふた池の鴨(仝)」(四オ)
おなじうちはの林にゐても風ですれ合岸の松(万丸)
たらぬ口舌のこのきぬ/\もあまるなさけが有ゆへに(五橋)
色をさましちやならぬと花の雨をへだてにたつ霞(一思)
花の雫にぬれてか今朝は鳥も重げな羽づくろひ(仝)」(四ウ)
松にふられた霰と見へてきつく軒端の戸に当る(林馬)
蓮の葉に置しら露さへもころびやすいが玉の疵(一思)
二十 匂ふまことはたゞ一りんも花にかはらぬ梅はむめ(京 浅風)
松にそふ雪ねたむと見へて朝日呼出す暁(あけ)がらす(桃人)」(五オ)
春に逢瀬をこがれし梅の花もゑがほで身繕ひ(児門)
思ひつめたる釣人(つりて)のうけにとかく邪魔する水馬(みづすまし)(都来)
あちらこちらと木が多い故色でもつるゝ藤の花(万丸)
辛気待夜の約束違ひ明る空よりふさぐ胸(桃人)」(五ウ)
水としばらく離た魚は横に寝てゝも身はくるし(五橋)
松も梢の葉がりをされて忍ぶ月さへあらはれる(白?)
角芽立たる柳の枝をむすび合した春の風(児門)
うつりごゝろか松竹梅を当り次第にやどる月(一思)」(六オ)
三十 ほんに生海鼠(なまこ)も見付(みつき)にやよらぬそゝなかす程かたく成(都来)
見かへられじと朧な月に松のみどりも延あがる(桃人)
人めたゝねど陰から花に当りつけたる松の風(万丸)
風にせぶられ青筋たてりやあだな柳もすごくなる(都来)」(六ウ)
筆のさや焚て待夜の蚊遣にはつとたつた憂名がはづかしい(林馬)
何歟おもひの残りを愚痴なかくれ鳴する昼の虫(仝)
せめて最一度添夜もあろと月にみれんのはなれ雲(都来)
曲り道にも程よくそふてなびくすがたや花薄(梅枝)」(七オ)
たへぬおもひを只一筋に深く落こむ滝の水(浮気)
花はぞつこんいやがる風にのぼりつめたる凧(いか)も有(菊詠)
四十 しばし枕のたよりをもとめ折て色もつ芦の雪(白燕)
とまる鳥さへはねかへされてじつと添たる雪と竹(花流)」(七ウ)
逢ばうらみもつい言兼てもろき涙に先こされ(逸外)
いやと飛たちおもはぬ声にそつと逃出す壁の蜘(都来)
なびく意(こゝろ)のあの青柳をそれてうつりし水の月(玉光)
横に吹来る秋風つよく伏てしほれる女郎花(六●〈「確」の右側〉)」(八オ)
こゝろ有げに飛来る蝶も風の悋気にそらすふり(亀寿)
逢ば根も葉もない恨おば人がとや斯花咲す(逸外)
ちらぬ内こそ互ひの色とともに濡たる露と萩(青一)
鳥渡さしたる柳もまぜてのびる枝葉の芽だつ筆(一思)」(八ウ)
五十 虫もころさぬ気で殺生な兎角まよはす命とり(桃人)
お気にめさんかお傍へよれど御手もかゝらん客きせる(万丸)
どんな憂名が流りやうと侭よ水の出ばなと成からは(莨花)
主に先がけしられて置て何を水鶏が口たゝく(一思)」(九オ)
すねた枝ほど思ひを懸て色にそふたる梅の月(露蝶)
実にうれしく其言の葉が露の命の置所(六●〈「確」の右側〉)
へんな毛虫に引わけられて花のうてなを下り蜘(児門)
鶏(とり)や鐘の音うらまぬ朝は主に恨の数がある(綾丸)
とてもなびかぬ操のかたい松にや嵐も声あげた(六●〈「確」の右側〉)
いまだとけぬか気強い雪と恨む思ひにもゆる草(亀寿)
人の見かけは丸葉の柳風につれなくふる姿(莨花)
思ひがけなく引うすさへも今はわかれて庭の石(万丸)」(十オ)
もはやわかれと散出す雲に欠る思ひの暁の月(都来)
嫌(きらふ)てゐりやこそ逃てる物にくゝり付たるちんの鈴(万丸)
箱にいれてもこの若竹のほんに茶せんは虫が付(京 旭)
せきにせかれてあの淀み水ひよんなとこからきれて出る(江戸 麦汁)」(十ウ)
焼(やけ)じやどやけじやかう成からは人にかくせぬ畳疵(万丸)
種がほしゐと気も朝顔の花をかこふてつくる罪(亀寿)
つがふ言葉に花かんざしの蝶も狂ふや寝やの内(柳)
雪やあられとこつたる色に添ぬ心のまはり風(一思)」(十一オ)
主を待夜は降雪さへもおとがきこへて身に積る(梅雅)
すむにすまれず夕立雨で水も思ひがまして来る(露蝶)
竹に義里有あの鶯も梅の色香につい迷ふ(梅枝)
いやな嵐の透かんがへて露に紐とく花ごゝろ(逸外)」(十一ウ)
胸も引さく思ひのちからあれど言葉もちぎられず(梅園)
広い世界を只一筋に恋の闇路に迷ふとは(京 旭)
風の手引でつい深入の色香慕ふや谷の梅(菊詠)
花に其気がないとも侭よ咲を頼にする手いれ(青一)」(十二オ)
松は一図な堅意地ものをしらでなびけとゆする風(亀寿)
かねやちからは無ふてもよいがしかしわたしを捨ぬ様(京 宗丸)
たまに逢ともかわりはせぬと啼てきかした時鳥(淀 紫好)
親の袖まで濡(ぬるゝ)もしらずうかと踏こむ恋の渕(柳翠)」(十二ウ)
色けづいたる身のとりなしもほんにませたよ鉢の梅(都来)
魚と水との心でゐてもにくや氷の関が出来(万丸)
かたい中おば弐つにするときけば歯がゆい砥石挽(ひき)(仝)
意(こゝろ)づよいと雪持笹もとけぬつらさにしほれゐる(酔月)」(十三オ)
もはや時分と木の芽の色もそはせ噂や桜鯛(菊詠)
行末はかゝる憂目の有ともしらず風にほだされのぼる凧(いか)(梅園)
竹を見すてゝしばしが程は稲に雀も気をかへる(五橋)
にくやよそから濁が出来て澄だ流をあへあゑず(一思)」(十三ウ)
元の白地になれとは無りな辛苦尽して染た中(五橋)
風に柳もなびいていつかもつれ心の苦をふやす(弄撰)
人にやそれとは明してとへずくらき恋路の迷ひ道(五橋)
高ふとまりしあの羽子(はね)さへも今は思ひの風に落(柳糸)」(十四オ)
おもひ過してやつるゝ萩にちから添たる朝の露(都来)
あたりかけてもまだかたそふな花に風めが跡ずさり(菊詠)
やがて月添身の嬉しさと花もつくろふ夕景色(都来)
うれしがらせの程よい風にころぶ霰もかるはづみ(白燕)」(十四ウ)
おもひ積ればかう成筈よ軒の氷柱も同じ事(梅園)
わかれせり付烏にかへて霧はしばしの夜を残す(白燕)
うき名流るゝ其水上はつらや涙の一雫(桃人)
今朝のくもりの晴間におくれ霞がくれに出る朝日(花流)」(十五オ)
追加 月のこゝろはかはらぬけれどそふも添ぬも松による(粂児)
貞信筆」(十五ウ)
嘉永五壬子凉月発兌
花洛 三条通寺町 丸屋善兵衛
浪華 新町魚之棚 丁子屋嘉輔
   心才橋通唐物町 柏原屋儀兵衛
   仝北久宝寺町 敦賀屋彦七
   堺筋通清水町 伊予屋善兵衛」(裏見返し)



4 よしこの京のはな 五編(嘉永五年刊)
よしこの京のはな 五編」(表紙)
(絵)」(見返し)
(絵)
嘉永壬子春 春翠画」(一オ)
当子のとしの大新板世の中よし此第五篇春は子の日の松ならで子しめ奇麗に曳出すいとしとのごところひ子や夏はひる子のお友達秋の子ざめの長き夜も子になく虫の我からと冬は火燵に子ん入れてあたり文句や流行を子りに練たる此集冊」(一ウ)唄節(ふし)は各々御持まへ意気な手みやげお年玉色能仕立てお子打(ねうち)迄たつぷり並べし新作ぞろひ追々山々御評判ソコデ作者も板元も鼠鳴して希ふ而巳
瑞綿堂のあるじ
組士敬述」(二オ)
ゆびで釣よせ髪ではつなぎきつて切らさぬ智恵のそこ
鶏や烏もあきれてならぬけふもゐつゞけあすも居る
苦労するのもあふたのしみの種と思へば苦にならぬ
私しや心のはかりをおろし風の替つたぬしをまつ
くやしまぎれに引裂団扇骨になるまでつきまとふ」(二ウ)
迷ひおさめの最う惚仕舞どんな美人も目にやつかぬ
義理も人情も最う此比はすてゝあひたい事ばかり
恋といふ字をたとへていはゞ梅の匂ひと花のつや
切れて仕まへばみれんもないがあんなま事な人はない
来てはちら/\思はせぶりににくやとまらぬ秋の蝶」(三オ)
いやな辻占待夜の耳にごんとひゞきし鐘の声
辛抱しやうより仕やうはないといふて寐顔に愛をする
首尾を内から目元でしらしや鼻でうなづく文づかひ
留めりやとま?て互に袖をぬらす別れのひと時雨
煙草呑さへついうか/\とぬしのまねして笑はれる」(三ウ)
解てはじめてあふよはなまぜ氷ふむほど身はふるう
心細引たのみにおもうぬしは?縄みづくさい
これも恋路か価もやみの契りはかなしとめ女
胸の火妨(ひぶせ)の札さへこけにいのる愛宕の恋の山
こぼしながらも面にみせぬ恋のうらみの滝なみだ」(四オ)
祈るしるしか火の物だちにむねのほむらも消てあふ
夫は御むりじや聞へませぬといふて小声のともばなし
しのぶ小庭の燈籠けしてまようはじめの恋の闇
うまい中ぢやと岳やき餅に胸を焦すもばからしい
なくも笑ふも最う行越(ゆきこし)てけふの命は茶わん酒」(四ウ)
論語よみでも恋路のみちはろんごしらずになるわひな
釘の折れでも打つけ書の文できか?て添うて見しよ
花のさくころぬしをばかへししんの朝がほふさいでる
生る死ぬるのいづれの海へをとしはてるやなみだ川
うから/\と一ぱいはんめなんとしやうがは入れずとも」(五オ)
むりにきげんをよし此ぶしに唄ふ唱哥(しやうが)のあてこすり
なつのよど舟あなかしましや何と喰らわんかの多さ
ぬしとわたしと火燵の足のなかですいつきや蛸かいな
恋の病のくすりは一度こん夜合して貰ひたい
かくしおゝせた年さへしれてお乳母ごかしのらく勤め」(五ウ)
心早瀬のどきつくまぎれいつかあぶるゝわがうき名
跡の難儀を構はぬおまへ命くれろも聞あきた
かゝりやつながるゑん寺の鐘のなるも無常をつげるのか
苦労するがの半紙はいやよどこを引ても裂やすい
軒の氷柱もひとよのわかれ出る朝日に露しづく」(六オ)
起請書く時や小ゆびが硯腕を出したら針が筆
臍の下家へ白銀黄金なんぼ入てもいれたらぬ
土用干すりや小袖の衿に付た女郎の文の殻
末は斯うぢやと小豆の身投恋の目?のおまじない
今年しや代が能(よう)て青麦菜種野辺も染わけ蝶の紋」(六ウ)
義理や世間をおもふてゐたらいつか果しがないわひな
意気な粋とのあえ交(まぜ)鯰あまい中にもけんがある
梅にうぐひすまぐろにねぶる心さへ合やそひとげる
豆やしらみを切売なんすぬしの商売手拭屋
まづい心よ団子のゆびをそつと一ぱい喰(くは)そと?」(七オ)
啼で飼るゝ鳥さへあるを人情しらずのやぼ烏
針の穴さへ忌夜は今の明た所も通されぬ
雪の小腕に針もてつけし鳥の足跡ふたつみつ
実でかため?あふよも舌の二枚よりてもいはぬ嘘
手にも提やうと思ふた人に切れて祭にかづく鍋」(七ウ)
長いものには巻れておひて雉子は平気で羽を叩き
さそふ水ありやどこへもなびくわたしや出雲の情はづれ
いつそ死(しの)かと鰒喰てねてもつがひ放れぬ蝶の夢
夜着のすそ野へ足踏出して不二のお山にのぼるゆめ
ま事こもりし枕の継目かよふ夜風のつらにくさ」(八オ)
まちし日数をあふ夜にたしてはなれとむないぬしのそば
おためごかしに時節をまてか後の百より今五十
こらへ袋の口さへ裂て恨み心の鬼となる
見れどみあか?お前を思やなんのその?の花紅葉
うしろ合せに寐たまも嬉し同じ背縫のひよく紋」(八ウ)
くろうする身は骨迄ふとる早ふめうとになると鯛
しのぶ小道に尾を踏付て猫の口よ?たつうきな
斧に老木をくだいてからむ紐は財布の蔦かづら
くやしまぎれに喰さへ文もあけになつたる口の紅
人目堤のきれ口よりも水かさまされる泪川」(九オ)
ぬしとこうして此侭こうり遠いあの世へ参りたい
はれなお客と空賞(そらほめ)されてお茶やごやしの色のよく
水の出花へにえ湯をさゝれ夫ぢやなを更あつうなる
それは邪推ぢやかふ成からは神のわざでもきれやせぬ
汗にしめりし寐ござもけさは別れ泪にぬれまさる」(九ウ)
たとへひとへに咲替りてもちるをのべてよ八重桜
心次第で尼にもなるとおもやけさ迄にくうなる
尻に帆かけて舟底まくらこよいひとよは楫のをと
なまけ男と御縁があつてなまけられぬよあら世帯
鼠鳴して折角あふたぬしは猫の眼きがかはる」(十オ)
はだか人形もなかせばなくを生てきづよいぬしがはら
力づくではいかないぬしを七日やらずのなみだ雨
人の花には中々させぬはやふやうすを菊煙草
けふで幾夜か打ぬきやいと末のためぢやと思やこそ
あさいやうでもけく泥水は深うなるほどしれぬ底」(十ウ)
なにをぐど/\此期に及び泣てはてしがつくものか
明らめましたか臍(ほぞ)落せねばどふぞあはして今いちど
人を招きし薄も枯れりや雪や霜にも踏れうち
押手上手のおまへができて私しや覚えた胸の癪
年季中ぢやとこらへてみてもあまりせかるりや腹が立」(十一オ)
むねのほのうを頭にともしうしや丑満たゞひとり
ろくぢや行まひお前のやうに人をだますも程がある
あいつばかりが男ぢやないと思ひながらもおそわれぬ
恥も世間も一度にすてゝ二度のつとめも主のため
人情しらずめ八坂の塔も祈りや元へとかへるもの」(十一ウ)
両手合して息ふきかけて作り上たる雪ぼとけ
神のみくじも当にはならぬ吉も凶となるけふのしぎ
色のめばえの私しら二人むかし樫木(かたぎ)の強(こは)異見
私しや気随じやかん癪持じやそれもお前がさせるわざ
是じや地がねも出さねばならぬ客も客なら茶やも茶屋」(十二オ)
すいも甘いもしりつゝしぶい事をいふのが手がらかへ
命あるゆへ苦労もすると思ひながらも死ぬはいや
なんぼ歳暮のたらわぬ身でもつかい物にはされはせぬ
恋の習ひとしりつゝひとりまつにこんくわい物凄し
にくい仕方じや年礼帳に君と我名を墨黒に」(十二ウ)
たとへ一夜で気が替るともぬしに今宵はおほ晦日
うそになみだが何こぼされうむりをいふのも程がある
備後おもての人目のおほさいつかあふみの畳算
へだてられたる人目の垣に今は日かげのゆりの花
ぬしも私も木性でそへぬ松の女夫(めうと)もあるものを」(十三オ)
猪牙はゆらるゝ四ツ手はすれるといふてやめには気がならぬ
広い世界にゑん慮は入らぬ人もする事わしもする
御無理いふのは神様(かみさん)ばかりぬしにかゝるとほとけさん
はだ身はなれず添るゝやうにむりな願ひをうけ守(まもり)
胸はどき/\どう筋横へあはゞどうしてかうし先」(十三ウ)
水鶏ばかりかおまへの門は私しや毎晩叩きます
芝居見てくりや弁慶さんも子迄あるのにきがつよひ
あれは留守ゐぢやなんどゝ与所(よそ)でぬかしくさつた旦那どの
あつい御異見ふろ吹大根しかしおなかゞ張わいな
こちのとなりの箱入娘虫がついたかこがみえる」(十四オ)
どふで柄もりの相合傘よやぶれかぶれじやなくまでも
十日恵比須の日がらの事はよひか/\と叩く背な
窓を明ればぐわらりとかはるけふは元日きのふとは
笑ふ本とは誰が名を付た私しや見る度きがもれる
やめよと思へどツイ占がすきに成たもおまへから」(十四ウ)
好な延三(ゑんざ)の声色つかふて門(かど)を通(と)ふるも好な人
申にくいが誰がやしなうへなさぬ中とてあんまりな
私しやいなりにひとりねさせてどこへ毎晩穴まわり
お茶が呑たきや祇園へゆきな若い顔みてこうせん湯
しかも尋ねてわざ/\木辻たれもくるわへ通ふなら」(十五オ)
私しやたべたいおはもじながらたつた一筋肥後ずいき
たとへ一夜で気は替るともぬしに今宵はあふ晦日
嬉しゆかしき寐てつめられた跡はむらさき菫草
花を見すてゝかへるもあれど雁は鳥るいわたしや人
どうで愛相のつかされ小口せめてこん夜は思ふほど」(十五ウ)
すきをかんがへあんばいよしと思ふてゐて見りや味そ付た
不埒/\となに是しきの色は仕うちよ流の身
荷なや折れそな棒鱈女夫(めうと)なれどきらいな人はなひ
梅は開くとそのまゝ風にのせてかをりを配りもの
紐を解間も夢かとばかりおくる文箱の蝶むすび」(十六オ)
反古にやされまい熊野の牛王罪は目のまへ承知かへ
寐間へきて見りや毎(いつ)でも狸あまり初心で化されぬ
若菜摘手のぬくみがまはり解る野川の薄ごをり
恋の手引の文書(ふみかく)筆もすゑは坊主で果がつく
水にやゆすられ柳にやうたれ岸にゐつかぬ小鮎ざこ」(十六ウ)
花にはるかぜ魚には南風(ようず)私しやおまへの秋のかぜ
文の車のをし手がちがひ上(あげ)も下(をろ)しもできぬしぎ
夏もお小袖足ばつかりが綿の入たるふと花緒
泣てもらいに鶯さへも籠で朝/\通ふもの
鐘が鳴ても吸付(すいつき)どふし蛭の地獄もいとやせぬ」(十七オ)
捨て置なよくさみがつけば糠をたのみのはるの茎
まゝになるなら胡蝶となつてぬしの夢見に通ひたい
与所(よそ)へ染てもいつかなそまぬ恋の山眉ぬしひとり
眉は化粧の上絵とおもや顔の小紋もまゝのかは
さびた此身を荒砥にかゝり切れぬ地がねの恥さらし」(十七ウ)
洗ひ上たる柳の髪に鋏あてるな沢の蟹
かゆい所へ手をとゞかせてしらみ絞に紅のいと
三味にせずとも女三の宮は生た猫でも引たもふ
どふかこうかで思案をしても胸のいれるかふんづまり
人が捨てもよめぬが徳よ釘とめゝづでかよふ文」(十八オ)
石と石とでちよん/\いはせねまの用意火の廻り
出口あたりで声かんばらせ爰で去状いまわたせ
芝居こんにやくいも南京の外にまひとつ御推もじ
あまりあわてゝ引ずり出しにゐたらへいこう門ちがい
内へ去(いぬ)にもいなれぬ髪になりもほら/\ほつれ髪」(十八ウ)
筆に言はせてゆき届かせてよふたその夜は物いはず
うどんそばやにふと目を覚しどふぞ夜明ものびるやう
入らぬおせゝの中言いひめあふて顔みりやわかる事
亥とし可愛は最ふ過ました今年や子どうし千話ぐるい
すつとひとつでそむけた顔もおつな匂ひの中直り」(十九オ)
画(ゑ)〈以下不明〉
金をひらうた夢とく覚てきせるさがすや枕もと
夜るの衣をかへしてねて?蚤の多さに夢???
おもひきれとの文殊の智恵もかして貰へどわしや切れぬ
〈不明〉」(十九ウ)



5 (よしこの玉撰集)(嘉永六年刊。伊予屋善兵衛等五書肆板。)
※本書は外題を逸しているが、関西大学に同じものがあるので、『よしこの玉撰集』と判定できる。
浮礼哥(うかれうた)は恋路の情を種とすれども其窪に耽らずして悟をきはむる執行といへば器用さと稽古と好と三ツのう?」(見返し)すきこそ道の上手なる古語をそへてすゝめるも当唱哥弘通の撰者
楊柳園粂児述」(一オ)
(絵)」(一ウ)
(絵)」(二オ)
千代の契の本てうし常盤なるみどりもちよの初見草かはらぬ色のこゝろばへしめて子の日となりふりに」(二ウ)思ひをうつすより添の情にまかすうれしさをむすぶちぎりや小松引
在原勾当 調
楊柳園 作」(三オ)
深い情の根引にすれど松はさほどに思ふまい(梅園)
あだなねびきになるともしらずまつはすなほに身を任す(玉光)」(三ウ)
たまの子の日に引残された松もそぶりが悪い故(美翠)
なまぜ常盤の色さへなくばまつもねのひの苦はしらぬ(双蝶)
むかし子の日の苦労を思や今は気楽な古木松(翠香)」(四オ)
しばし盛の朝顔故とさはり次第にまとひつく(一思)
抜て出たがる気はあさがほの」(四ウ)聞ば隣で咲うはさ(亀寿)
ぬけつ潜(くゞ)りつ咲朝顔は垣の外面(そとも)に芽をくばる(児門)
みだれ咲なるあの蕣は露の情も薄いやう(仝)
ほんに勤の身はあさがほぞその日/\の花がさく(程芽)」(五オ)
月に捨られ気も細/\とやつれ果たる枯尾花(柳糸)
見かへられたかあの月影にうつす姿も枯尾花(梅雅)
ゑゝもすげない夜寒の月と根き果たるかれを花(蝶連)
もはや月には添れぬ色とうき世捨たる」(五ウ)枯尾花(梅丸)
月もそふたる昔を思や捨て置れぬ枯尾花(南英)」(六オ)
とかく邪見な風ゆへ波も船に思はぬ苦労かけ(児門)
事と品との流によらばついて沈まん錠綱(万丸)
いれぬうち」(六ウ)こそ気をせくけれど入りや落つく湊船(仝)
きつとたよりになる木と見込つなぎとめたる舟の綱(一思)
つらい鳴門で苦労をしたるかひも渚の捨小舟(柳糸)」(七オ)
いやか応かのまだ返事せぬうちは花やら嵐やら(大和 山助)
あだな咄しについすべり込親にあかさぬ疵をつけ(木公)
肩の縫上おろさぬうちにかくし所をふくろはし(河内 喜来)
きゑたあの灯が結ぶの神かたゞしやくらうの」(七ウ)させ初(ぞめ)歟(京 染守)
くらい処へ引入ながら他言するなと五重さす(笑雀)」(八オ)
意ひとつが定にならぬあだし心はもたねども(西坡)
言てさゑ塞ぐ思ひの重るものがいはでつゝしむ身のつらさ(花人)」(八ウ)
親も時節もたゞもどかしくあだに忘れて竪(たつ)月日(桃人)
とこふ思案で柱にもたれ起てゐながら主の夢(蔦丸)
恋のやみ路の夜が明兼てうかと踏れぬ迷ひ道(桃人)」(九オ)
かはり易さのうき世は夢とうつゝ定て無分別(白慈)
色は思案の外道筋とそれて迷ひの路に出る(梅陰)
恋の細道せかれてゐればふとい心が出るわいな(鶴助)
死なばともにとおもふが無理か生てゐてさへ迷ふもの(菊詠)
初手にや嬉しい情も」(九ウ)今はほんに苦労の仇がたき(莨花)」(十オ)
こゝろ」(十ウ)強いと尻ひねられてぴんとはねたる杜秤(ちぎ)の棹(五橋)
おめにかゝれば不足を言れ合ぬ秤に狂ふ身は(京 豊丸)
きめるあのめを忍びし恋のおも荷一ぱい掛たちぎ(松寿)
かはら無との心を鎮(しづ)に恋の重荷をさげくらべ(五橋)
かるい身じや故釣合ませぬなぞとひん/\はねるやつ(一思)」(十一オ)
金がほしさに惚たと言ばいやな命もやろといふ(京 旭)
ひかす/\は三味線ばかり調子合すも馬鹿らしい(五橋)
お茶挽た夜さは主(あるじ)がにへくりかへしほんに身もよもあられ釜(井筒)
はおり商売して居る」(十一ウ)けれど胸にくゝりは付てある(児一)
尽す誠も三十日の月と気障なたとへがくもらせる(茶々丸)」(十二オ)
へんな風から別れた蝶がみれんらしくも元の草(逸外)
蝶の気侭に思ひが増とひとつくる/\もゆる草(仝)
あちらこちらで馴染が出来てとゞめ」(十二ウ)兼たる春のてふ(万丸)
咲た菜の花こがるゝ蝶も尻のすはらぬ浮気もの(林馬)
夢に成ともてふ/\の様に主と荘子てくらしたい(梅雅)」(十三オ)
待し苦労もたゞ一声とおもやくやしい郭公(半水)
まつた程には思はぬ故かわかれつれない子規(京 宗丸)
あだな声聞きや一座の前もうはの空なるほとゝぎす(眠人)」(十三ウ)
しらぬむかしを思へば愚痴に迷ひつめたる時鳥(児丸)
昼もおもはぬことなけれどもまして夜に啼杜鵑(綾丸)」(十四オ)
もはや秋かといふ間もなくて草のたもとに露を持(児丸)
草葉たよりに身をおく露もわづか」(十四ウ)一夜の憂思ひ(青一)
おもひ/\により添中を風がそはさぬ草の露(白慈)
うつり易さの一夜の露も草にや誠の身を任す(仝)
思ひ置露草葉にやどり朝日さすまで濡つゞけ(京 梅化)」(十五オ)
ひよむな嵐にゆりつめられて積り兼たる竹の雪(林馬)
しをりそふだが又はねかへし知らぬ振する雪の竹(梅雅)
じつとこらへて受てはゐれどをりにやすねたるゆきの竹(五橋)」(十五ウ)
横にこかされもふ得心と雪の手づめに成た竹(梅英)
雪の情を受たはよいが竹も苦労の見えた振(笑雀)」(十六オ)
追加
へんなとこからもつれが出来て風も柳をいぢるやら(楊柳園)」(十六ウ)
嘉永六癸丑開春発行
花洛 三条通寺町 丸屋善兵衛
浪華 新町魚之棚 丁子屋嘉輔
   心才橋唐物町 柏原屋儀兵衛
   仝北久宝寺町 敦賀屋彦七
   堺筋通清水町 伊予屋善兵衛」(裏見返し)



6 よし此花比 六編(安政二年刊。伊予屋善兵衛等六書肆板。)
※関西大学に同じものを蔵す。
よし此花比六編」(表紙)
楊柳園大人選」(見返し)

梅は諸木に先だつて花を愛し実を賞する事たぐひなき浪花の名物うかれ唱哥のはなくらべ曠くあつまる植込に今をはるべと作やおくれぬ花実兼備の薫をきかす
楊柳園
安政二年初空月」(一オ)
(絵)」(一ウ)
(絵)」(二オ)
梅は古木のしやれたる振で花を咲せるきが若い(梅陰)
迚もはなれてよふゐぬくせに水とさからふのぼり鮎(寿光)
月に縁ある芋の葉たのみいつか思をとげた露(児門)
そつと透間をしのびしゆへに明て入たる夏の風(花流)」(二ウ)
いろ/\に言て慰(なぐさみ)しあいた跡で雪をあくたとはき捨る(笑雀)
松に馴染の鶴さへ折にや沼ゑおりては肌よごす(南英)
弓矢神かけつがひし中もそれはせぬかと気がひける(桃人)
風が程よく取もつ梅に枝をかはしてゐる柳(玉光)」(三オ)
染り付たるあくおばきらひ色を梅酢(ばいす)にうつす紅(万丸)
しばしあふ坂関して置も人にしられた口ふさぎ(五橋)
初手は堅(かたい)がつい寄そふてひたと解合雑煮餅(林馬)
軒にぶら/\つられて待もたよりしたさの飛脚札(梅思)」(三ウ)
ほどは雲井にへだつる迚もおもひかはらぬ松と月(青一)
過たなさけのうれしい事を今に忘ぬ雨やどり(都来)
ちらばひとつと誓ひしこゝろむめの梢にのこる雪(京 東舟)
あはぬつらさを打夜のきぬた主の寝耳にはいる迄(雪馬)」(四オ)
きれぬとこからなまくらものとさびた刃物に名を付る(笑雀)
可愛あまりがつけ込すぎて風も柳をほうばらす(白燕)
色も香も有なさけの梅に縁をむすびしけそう文(一思)
常にかはつてあのさゝ蟹をすくは待夜のゑて勝手(小蝶)」(四ウ)
積るおもひにうは気を止て雪も氷とかたく成(翫雪)
神にちかひし駒犬さへも顔を見ながらまゝならぬ(都来)
濡たおぼへが無とはいへぬもはやかくせぬ紙のしゆみ(逸外)
名残おしめどまた逢首尾と月にわかるゝ暁の雲(柳糸)」(五オ)
もやす下地の焚付よせてあたり障(さはり)にきをつけ木(花流)
せまい暮しもいとひはせぬと咲を急だ室の梅(枝雪)
思がけない嬉しさよりも跡で苦をますほとゝぎす(草弘)
いやと首ふる張子の虎にがてんさしたる風も有(備前 光猿)」(五ウ)
うき名たつたの河瀬をくゞりまたもせかるゝちり紅葉(莨花)
たまに逢夜はなつかし草を露をむすんで枝かはす(綾丸)
はれた夕日が添よるゆへにまよふ色なる雲の峯(笑雀)
ぬめたものじやとおもふてゐたがするに手の入とゝろ汁(玉嵐)」(六オ)
駕(かご)にほど能言葉をのせてあすの約束してわかれ(柳糸)
ちよつと朝日が当て見ればすぐに解たるはつ氷(林光)
末を思てこらへる気でもすかぬ灸(やいと)の肌ざわり(都来)
松もまかれた此身の色と登りつめたる蔦もみぢ(白燕)」(六ウ)
にくや売もの薮うぐひすがきずを付たる鉢のむめ(万丸)
ほそい清水も辛苦をつくしや世間広さの海へ出る(静柳)
文のたよりもたへまとなれば愚知に心をねり供養(児一)
草のたもとにすがりし虫をひよんな野風がふりはなす(厄 文雅)」(七オ)
どこで下駄おばかりたと問ばなに歟詞(ことば)がつけまづく(河内 喜来)
月に逢せの黄としら菊が色をあらそふ夜の影(逸外)
いつもかはらずなさけの露がころび寐にくる苔むしろ(笑長)
わすれ草でもすひ付られたとかく味おば思だす(桜民)」(七ウ)
白い黒いの筋道たゝばしぬに及ばぬ石も有(露蝶)
栄曜あまつてかこひの梅もいつか浮気の花が咲(亀寿)
ゆだんする間にはやにはとりがさはり落した鳳仙花(都来)
いぬのさるのとあだ口にさへいはぬ互の中がよい(菊詠)」(八オ)
丸いものゆへあへまはされていつかいらつく金平糖(成雪)
風が手ざしをした梅が枝に啼てふくれる花見鳥(春翠)
おもひそめ筆歩(あゆみ)にまよふふみもならはぬ恋の道(河内 菊丸)
主のこゝろにあき来たならばもろき此身は草の露(夢丸)」(八ウ)
つもる口舌もまだむらぎへの雪に朝日のさすつらさ(馬笑)
いつもまとひし蔦よりたまにそふてうれしき松の月(二王)
きれと覚悟を極たからは五部もうごかぬ鯉の意地(幾丸)
花にすげなくふる春雨に濡て色けをます柳(梅園)」(九オ)
すねて見せるは柳の愛と風もこゝろにかける枝(貴翠)
お茶もひかずとわたしは数寄な客によばれる四畳半(万丸)
花を咲する冬枯するも松をたよりの藤かづら(一思)
ふかい主あるあの梅さへもおりにや雀がそゝなかす(卯木)」(九ウ)
ちよつと当(あたり)が付てはあれど味でしてとるあはし柿(山雀)
親の指図を身勝手いふてすいた色する小紋帳(大和 亀齢)
月がうは気でそふとて水も底をあかさぬさゝにごり(春翠)
角を落したきのふを忘れまたも火串にまよふ鹿(逸外)」(十オ)
夢に一部のうれしさよりもあふて百部の無里がよい(児門)
おしき筆ならとめずに置てこゝろ有たけきかまほし(池田 甘足)
梅も一夜のしつぽり雨にぬれて色香の口ほどき(一思)
稲になるこが付さへせねば鳥も苦労はせぬものを(花雪)」(十ウ)
おもふ梢をまばらに見せてにくや霞がまよはせる(梅園)
水にすむ月やなぎは恨みすねてちる葉が邪魔をする(桃人)
茶瓶あたまでうは気をするとやくはん声して白目むく(林馬)
時節なりやこそ羽蟻も今は抜て出て来てさしたがる(半水)」(十一オ)
浮つしづみつ身は河竹のぬれを重るかいつぶり(春光)
ともす灯までもけさして置て明り立ての無里が出る(笑雀)
露のなさけが程よひゆへかすこし見れんに残る菊(露蝶)
いやと薄が寝たふりするをゆすり起してゐるあらし(恋子)」(十一ウ)
きつて接続くほをしたとて梅のふかい色香が退はせぬ(梅升)
今をさかりのむくげをみればあんじこさるゝ人ごゝろ(人形)
こはいものじやとおもふてゐたにいつか味づく鰒の汁(星雪)
秋と聞てはもふこらへかね昼も啼出す虫の声(半水)」(十二オ)
うたふ文句を身に引くらべ跡が出にくい田植哥(都来)
うは気鶯寝ぐらの梅をちらす羽風のあだごゝろ(亀子)
松にからめど恥しそふにとかくうつ向藤の花(勝友)
初たい面からあのお方ならのしを付たる命まで(霞棧)」(十二ウ)
露とこつそり寝てゐた草をにくや雀がまたしやべる(逸外)
ほんにすかないへだての雲でやどり定ぬ月の影(児門)
濡がますほどしほれてみせて真の色もつ雨の竹(淀 紫好)
いつそ意(こゝろ)の封じめ切て文もやらずにいふて見よ(玉水)」(十三オ)
花の色香に迷すむめはすねた振まで愛になる(一思)
つば付て穴へ当がいそれからぐつと入て出すのは紙鉄炮(児門)
ほそい煙を立てはゐれど主に愛もつ継きせる(大和 漁舟)
待たうらみをかず/\いへどかよふ思の十部一(逸外)」(十三ウ)
かるい身じや故そはれぬものとしあん定てちつた露(?彦)
はねてかへしたあの雪笹もほんに直なるこゝろばへ(五橋)
男なら一夜ねまじとおもふが無りか草も色づく春の山(林馬)
鬼のこぬ間にせんだくとやら忍ぶ逢瀬にぬれる中(六●<「確」の右側>)」(十四オ)
見上たる月に二ツはわしやなけれどもひとり見るのはひよんなもの(伏見 梨蝶)
よそで巣を組燕をうらみめに露ふくんでふる柳(一思)
いやな風めがおだてるゆへににげて這入た窓の雪(林夢)
色もうまみも薄(うすい)としつて初といふのですく新酒(竹雪)」(十四ウ)
はなれ/\の羽おりの紐もむすぶゑにしがあらばこそ(喜好)
座敷住ゐの牡丹に蝶が人めしのんであひにくる(児門)
気性立ぬく身はあく迄とかれた茨もはりづよい(梅陰)
陰で咲した梅香ぎ付てにくや噂をしだす風(笑雀)」(十五オ)
深(ふかい)ところの奥ゆかしさを見せて迷す谷のむめ(翠香)
月がうは気な事するゆへに影であらそふ松と梅(林馬)
追加
すゑは其身のあだともしらで風に匂をうつす梅(粂児)」(十五ウ)
花洛 三条寺町 丸屋善兵衛
   二条東洞院 田中屋治輔
浪花 新町魚之棚 丁子屋嘉輔
   心斎橋通北久宝寺町 敦賀屋彦七
   同本町 河内屋和輔
   堺筋通清水町 伊予屋善兵衛」(裏見返し)



7 浪花の梅 初編(安政四年刊。河内屋平七板。)
※奥付広告には「よしこの浪華の梅」とある。
浪花の梅」(表紙)
(絵)」(見返し)
(絵)」(序オ)

浪華流行のよし此ぶしは粋の水上よりながれ恋のみなとにとゞまり三筋の糸に音色を発し送りむかひの小女郎まで専ら諷ひはやすこと実(げ)にいろのうきよといひつべし
巳春
文廼家誌」(序ウ)
〈欠丁アルカ〉
心ならぬと又とり出してしがむ反古(ほうぐ)のぬれもんく
人を一ぱい乗せたる上で登す夜舟の引思案
ならふ事なら夜明ぬ国で主と二人でくらしたい
逢へぬつらさに硯りを寄て筆と紙とがうき相手
とゞき兼たる此ふりつるべ急(せけ)ばせく程かむりふる」(四オ)
逢ふた嬉しさ何から先きへいわぬ内から夜るの雨
種がないゆへあの撫し子の朝な夕なの気の便り
無理をいふたり言訳したり世事を放れた詞かづ
いやな雲じやと時雨も晴ていつか寄そふ月と松
一寸わさびの口きゝそめてつくり合した嶋の鯛」(四ウ)
嵯峨へ参つた戻りに寐はんそれはお釈迦もしらぬかゝ
露の情けに色気が出来てどれに契ろと初茄子
恋の重荷をかせぎし汗が目からかくほろりと一しづく
割れた中をば世話焼ついで又とはなれぬ中直り
とけてしもたと思ふているに今に残りし谷のゆき」(五オ)
春の色もつ柳もけふは眉を作りて水かゞみ
まこと明してとけ合ふ中もうれし仮寐の旅まくら
同じそい寐の袖する逢てともに濡たる萩の露
今はさかりの若木のさくら折て水上仕て見たい
もはや野山も色付染りや文のつかいに渡る雁」(五ウ)
花にそい寐をゆり起されて風が手切となる小蝶
たばこ烟りについまぎらしてしばし苦労のわすれ草
一夜寐たので早馴なじみ女房気どりで鮎(さば)のすし
花も笑ふているのもしらずにくや見捨てかへる雁
ぼんといはれて小言もいへず傍にいられぬはぜた炭」(六オ)
谷のかけはしいといはせぬが渡り兼たる恋のはし
肌に残た此うつり香は露の思いの形見草
あつい異見に身を焦されてみづに苦労のやき豆腐
けふも辛気なちら/\来てはいつかとまらぬ秋の蝶
いとめ切られてかふなるからはやぶれかぶれのかゝり凧(いか)」(六ウ)
とけてやつるゝ身としりながら暫し笑顔や六つの花
郭公より鶯よりも外にきゝたい声が有る
私しが思ひは此川霧にながれ次第の捨小船
恋のいろはをつい書ならいほんにいとしいいの字から
内の手がたは桜で出たが仇な所で客あそび」(七オ)
つぼみ心に筆取そめてすきな一字をかきつばた
さへつおさへつさす盃は酒もさかりかさくら色
ひよんな夜嵐にツイ誘れて心ならずもちる桜
恋の峯よりつい落こちの人の軒端に二人づれ
おちる涙を茶碗に継(つい)で私しや化粧の水にする」(七ウ)
文にあだなる文句は入らぬ実の一字があればよい
つもる計りで果しが無ふていつかとけない冨士の雪
庭の若竹ぬれ色まして躍りよろこぶ朝すゞめ
ほんに結ぶの神無月よ晴る間のない袖しぐれ
恋のかけはしどこからできた義理と情の間だから」(八オ)
すこし色付きやゆだんがならぬしぶい柿にも虫がつく
露もつれなく雫と消て咲ぬ内からはなれ菊
つもる咄しは棚へも上げじ枕おろしてちり払ふ
夕ぐれに何か嬉しいアノ紅筆もあすは思ひの花咲す
露の恵みをそゞろに受て雨に色もつ若かいで」(八ウ)
宵にふる雪あしたは解る寐やの口舌はとけかねる
君に逢ふと前だれがけで門に切籠は釣られいろ
しのぶ足音悟りて虫も来たと相図に啼やめる
私(わ)しの身ながら分らぬ筈よ主にあづけて有る命
引す/\は当にはならぬ言いた私しは御所車」(九オ)
元のおこりは一夜の事でふかくほれたる琵琶の海
一ト夜二タ夜と情がちりて果は身になる桜んぼ
しかと縫合ふ互ひの胸に思ふ返事をもどし針
思いがけない此よい首尾に膝の猫まで咽(のど)鳴らす
庭をながめて二人が思案葉毎/\の露の玉」(九ウ)
人目すきやに首尾待合のそつとしのびのあしや釜
ふかく積りし思ひの胸をとける時せつを松の雪
思いがけない野分に吹れほんに此身は秋の月
胸のおぼろと今宵は晴て梅に嬉しく添た月
態と其場はそしらぬ顔で跡で気をもむ事も有る」(十オ)
鹿の妻乞無利とはいへぬ肌もさむしや秋の風
うそじや/\ともふよしなされ嘘の中から出た真こと
箱に入ても三五のうさぎ月の影見りや抜て出る
人目しのんで袖から袖へそつとかはした品玉や
思案している心もしらず世間咄しもおゝしんき」(十ウ)
思い込では跡先わすれ恋のいきぢが初がつを
夢に一部の嬉しさよりも逢ふて百部の無利がよい
今のせかいはみな山吹の色に迷ふて行戻り
花か雪かと思ふも暫し松にそふのは尉(ぜう)と姥
翌(あす)はあしたの風吹嘸といふも人目の捨ことば」(十一オ)
文はつかいにうち走らせど主の返事は船がゝり
障子へだてゝいるとも知らず梅に来て啼く鳥も有る
見へつかへれつ雨夜の蛍濡の増程身をこがす
否(いや)な手水のしぶきが懸りやぬつと角出す垣牛(かたつむり)
上手するのは勤のならい客に腹うり花も売り」(十一ウ)
主の心の浅瀬もけふの月に底まで見へすいた
私(わ)しの思いは只一トすじに主とみゝずに通す針
出雲から吹く縁にしの風にたかいひくいの論は無い
たつた一枝あの花ほしや手折かゝれば手に茨ら
すぐな心のあの若竹を折にや雀が来てまぜる」(十二オ)
私しは三味せん胴でも成るが主のねじめを上げしやんせ
楽をふり捨夫とはしらず不足引出す鳥おどし
まへが堅いと思ふていたがいつか乱るゝ下手将棋
軒の菖蒲も一夜のことで宵と違ふて色がます
三都めづらば男もいきな洗らいあげたるすみ田川」(十二ウ)
ぬれがきかぬか馴(はね)かへされてころび落たる蓮(れん)の露
寄かゝる主を柱と此爪弾は親の目顔をしのび駒
おぼろ月夜の気をしりながらうかとはまりし水溜り
鏡台に主と私の紋抱合てうつるかゞみは主ばかり
思ふ当りに人目が無くば私しやりんきが仕てみたい」(十三オ)
月は晴ても心の曇り逢ふた其夜は村しぐれ
思いあまれど唯一ト言もいわぬつらさが色に出る
思ふばかりで心に恥てくらす月日の仇ざくら
きげん直して咲ては居れどなにかうつとし花ぐもり
当り見廻し人目を忍び家根で首尾するちはの猫」(十三ウ)
思ふうつゝが夜る昼さめず酒で寐た夜も夢に見る
暁きの鐘に恨みも烏にぐちもいらぬ気らくな独り物
いふに言れず仕方もならず染てみたさや床の色
二人りしつぼり床りの月を外(ほか)へもらさぬ忍び駒
来るか/\と待妖(ばけ)ものに客は二階でろくろ首」(十四オ)
ほんに色々せけんのうはさそしり咲するはつ桜
年んの明たる傘さへも二度の勤に骨を折る
客を目当に差掛笠の中に思ひのうる苦がい
日かげ苦しと角ふり立て日なかうらんだ垣牛(かたつむり)
並らぶ枕に移りし顔を主と思ふて一人り言」(十四ウ)
人が丸ふて気も長けれど折にや言葉に角が立
とかく寄添ふりんきの雲を風がさばいた月の顔
両の手の指の数程年季をもつて女房約束笑(おか)しかろ
私しやきせるよにしたばこ入どこへ行のも二人りづれ
泣も笑ふも勤のかざり実とふじつの裏おもて」(十五オ)
宵に雨もちやあの花びらもすねてかたむく朝牡丹
すぐなものとて由断がならぬ壁をのり越す今年竹
花も有のに恋しら露か草の葉うらに宿る月
待につられて恨みのかづは枕ばかりがしつて居る
しかと約束かたびらなれど思ふやうにはならざらし」(十五ウ)
うそのかず/\十分のせて味(うま)くころばす口車
私しやお前に任した身じやと風の自由になるすゝき
時もきらわず心が迷ふ聞て嬉しき三味の音
今に縁さへまだ薄羽織誰も着(きせ)さす人が無い
どふぞ一筆文かきつばた首尾の八つはし渡りたい」(十六オ)
とがめられじと一樹のかげによれば葉越に照す月
かねが敵きの里うぐいすのまゝになりたい籠の鳥
一人り思いの苦労が増して今じや苦労を二人りまへ
夜半に咄しをつもらせ置て朝にころんで草の露
見ても見ぬふりそしらぬ顔で粋を通したおぼろ月」(十六ウ)
となり同士でふと馴なじみ今は手を引花もどり
しのぶ恋じは髷紐かけていふにいわれぬけし坊主
今も来そふで気色(きしよく)が替り外へ逃たる夕だち雲
金子(かね)は無(なく)なるみれんは残る先のしんせつうすくなる
暑さ忘れりやいつしかぎりも捨てゝ退れたすゞみ床」(十七オ)
宵にや互いに晴たる胸を又もくもらす明のかね
よそで浮名が立横島も遂て嬉しふあい弁慶
色に染らぬ気は紅葉ばの空に浮名の立田川
垣にまといし朝顔さへも其日/\の華の色
しのび帰しのあの竹にさへ昔し慕ふて来る雀」(十七ウ)
どふぞ今宵と呼出す手段わざと憎ふに書手紙
徳利と主の心が分らぬ故に有か無いかとふつて見る
いやとかむりを風鈴なれどなるもならぬも風次第
さくら/\と浮れていれどつらや勤めに夜を更(ふか)す
渡りかけてはあやふく思ふ藤の橋より縁のはし」(十八オ)
若(もし)や主かと我足音に心引るゝ恋のやみ
招く尾花をすげなく見捨どこへ気をせく秋の月
夜で通へば目に立浪か人が浮名を夕千どり
雛を仕まいの仕丁と官女あだな雑候寐も箱の内
ちらと見返す目元にはつと心かたむく紅葉傘」(十八ウ)
誉て居るのにこちらも向ずすねたながらに咲く椿
折を待ども能い風吹でふられがちなる藤の花
横にこかして能気になつて樽を枕に華のゑん
かげでとやこふ角生(はや)しても先へとゞかぬかたつむり
腕の守りにかへした命神のたゝりに立浮名」(十九オ)
花の梢ゑに霞がかゝり鳥も寐ぐらに迷ふやら
烟る蚊やりにまぎらす涙傍にとぶ蚊ももらい啼
玉の越路へ乗行(かちゆく)かりはうぢは無ふても北の方
我と我手に家ふり捨て雨に苦労をなめくじら
かゝるむらくも邪魔さへせねば月の心も替りやせん」(十九ウ)
人に言訳する度び/\に胸のいたさの此小指
筆に心の有たけ言わし主の墨付といにやる
お声きくより飛立計り私しや雲雀で上の空
ほんにいつわりヲヤばからしい又も今宵は寐ずの番
内へ這(はい)らず露には濡れて恨み夕顔へだて垣き」(二十オ)
恋は曲もの燈火消して跡はとろ/\チヨンの幕
其手くわんと抱付ながら尻へ手をやるすもふ取
あつき思いを立寄影に吹て嬉しき土用東風(ごち)
主の浮気ももふ止さんせ年に不足が有りはせん
糸を引たる色じやと見へてあちらこちらに蜘の恋」(二十ウ)
角も無くなりや歯も抜てくる今はしん身の爪ばかり
早ふにごりし渕瀬をはなれ川といふ字で寐て見たい
同じ吉野の深山に育ち私しやながれに浮いかだ
ふつと迷ふた目元の汐にふかくしづみし恋の渕
岩にこだわる紅葉でさへも滝のしぶきで色がます」(廿一オ)
ふつと心に思ひの種も今はしんきな癪の種
最早小鳥が柳の枝に別れついたる朝の風
端し書にかへす/\も思いが増てぐちの心をむすび文
思ふ湊へおさまるふねは阿波の鳴戸の苦ものがれ
しんを堅めてわき道ふらず貞女かゞみな鉢の梅」(廿一ウ)
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大坂心斎橋通?本町北へ入
書林 河内屋平七」(裏見返し)



8 桜どゝ逸 初へん(安政四年刊。)
桜どゝ逸
初へん
光盛舎さく丸画
梅暮里唄種編
歌沢小蝶正律」(表紙)
新もんくさくら度独逸
初編
歌沢能六斎閲
梅暮里歌種編
花林堂寿梓」(見返し)
桜都々一序
花の雲鐘は上野か浅草の観音薩●〈土+垂〉(かんのんさま)の傍に。千本の桜を植たるは。百歳あまりの昔となりし。享保の比の事となん。其は白雪の消て迹なくなりぬるを。今茲(ことし)何某等(なにがしら)が相はかりて。再おもひ興しつゝ。??まで植たれど。遊びの幅は広ごりて。群来る人のこれは/\とばかり花の吉野は素足(はだし)。こゝは手にとる壮観(みもの)の場(には)。土ふみならす草履の埃も。雲となり雨となる。巫山にあらぬ夢見草。現にかへる明ぼの草。名もこと/\にしるしたる。遊君(きみ)が容貌(すがた)も如是(かく)こそと。想像(おもひやら)れてなつかしく。所謂(かの)菩薩(ほとけ)も愛(めで)たまひて。我よの中にあらんかぎりはとや誓ふらん。」(序オ)粤に能六斎といふ人あり。名はそれながら此?(このわたり)に。家居を隣(ちか)く卜(しめ)たれば。案じは速く机に凭(より)て。書さすものは何ぞと聞くに。詩歌は仮令ば陽春白雪。謡哥(こうた)は有如(たとへ)ば下里巴人(かりはじん)。雅(みやび)を捨て俗(さとび)を取るは。多数(あまた)の人を和するが故に。如斯(かく)唱哥をば湊(あつ)むるとぞ。こいつア目さきの明たる所為(わざ)にて。詞(ことば)の花も桜木に。ほりだしをする糶書(せどり)の活が香(にほひ)を導(さそ)ふ風にひとしく。自他平等に売んとして。序文は予(われ)に只顧(ただ)たのむと。合掌向仏するが如し。則(そこで)もつて而作是言(このことをなし)。頓(すみやか)に?(あたへ)たれば。恭敬(くぎやう)礼拝して持ゆきぬ。
安政四年丁巳春
書●〈ニンベン+會〉(ふるほんや)無物老人戯述」(序ウ)
滝川
玉楼内若紫
かねは上野か浅くさでらもひとめへだての花の雲(てる)
玉楼内若柳
雨のさくらにつゐぬれあふてこゝろおく山あかしあひ」(一オ)
清藤
玉楼内若菜
しみ/\いのちも何をかしろふすいたゑがほのさくら色(ふぢ)
玉楼内玉葛
ほれてくれずはなまなかこんな気がねくろふはせぬものを(瓠友)」(一ウ)
若竹
玉楼内花柳
うれしいうちにも又はづかしいおぼこごゝろの初ざくら
玉楼内漢蘆
けふは来るかとまつちの山よむかふは秋葉でちるもみぢ(わか)」(二オ)
吉田屋
玉楼内橘
おひき合せの観のんさまがむすぶゑにしの糸ざくら
玉楼内若妙
おまへじや気をもみ女房にや気がね是じやいのちもつゞく??」(二ウ)
かしはや
歌沢上音
軒の小雨にはをりのそでがぬれてほころぶ山ざくら(芳盛)
大黒屋内八重咲
さむい夜風に身をすりよせてうれしなきにかなくち??(こう)」(三オ)
中いせや
桜屋内花の戸
じみでよけれど名が気にかゝる浅ぎざくらの色がわり(たま)
歌沢ふさ
一日(ひとひ)どころかたゞ半ときもかほを見なりじやゐられない(うた女)」(三ウ)
京や
桜川新孝
花をこよひのあ?じとたの?暮てかり寐の木下影
??や内大淀
わり床のぢがねばなしをふときゝつけてわが身にひきべつもらひなき(はま)」(四オ)
梅川
歌沢連一夕
おもふとほりにねがひもかなひぬれてうれしき花の露(せい)
谷本内小菊
うたゝ寐のさめてためいきこゝろのもつれ人にやはなせぬ此しだら(琴我)」(四ウ)
かしく
天の?三
おまへにわかれりやわたしはすぐとすみ染ざくらになるわいな
松葉や内白妙
炭をつぎ/\火ばしを筆にあつい男のかしらもじ(唄種)(はな)」(五オ)
柳屋
下谷鶴吉
まよひましたよぼんぶじやものを楊貴妃ざくらのあだすがた(きん)
海老や内大井
だいてねまつにうれしい春のたから舟こぐ初まくら(よし春)」(五ウ)
ふく本
歌沢連語楽
うかれがらすがあれまい/\と花のこかげにたれかまつ
和泉や内泉州
おもふまいぞやおもふたとてもどふでとゞかぬ恋じやもの(みつ)」(六オ)
うへ田や
はなし紋太郎
すねつすねられ根もないくぜつかたみがわりに夕ざくら(きせ)
歌沢喜代八
こがれ/\てたま/\あへばかほにもみぢの花がさく」(六ウ)
いせ嘉
山梨東?
思ひがけないゑにしのはしを花がとりもつ雨やどり
大黒屋内夢之助
蛇に女房がなられちやこわいいろはしないとあきらめた(たか)」(七オ)
すへ広
歌沢連常二
義理づめいけんでみれんもいへずとかく浮世は花にかぜ(さだ)
大口内桜木
とめちやおきたしかへさにやならず末をあんじりや身のつまり(東?)」(七ウ)
和泉や
歌沢平虎
冬のうちから花さく春を待てたのしむ庭ざくら(かね)
歌沢みち
あどけないのがかわゆひけれど初心すぎるもじれつたい(たき女)」(八オ)
竹伊
梅暮里玉我
思ひおもふてせつかく咲た花にあらしがにくらしい(なる)
海老や内誰袖
人とおもふてふと飛のけばにくやしやうじに猫のかげ(?しづ)」(八ウ)
ことぶき
歌沢連左栄
むすめ大事と人にも見せぬうちにひらきし初ざくら
角蔦や内蔦葛
人のていしゆをうわ気でとつて見れば女房がにくゝなる(大徳)(きん)」(九オ)
繁川
歌沢連大吉
根のない花でも咲せにやならぬ末は野となれ山となれ(しげ)
相模や内玉章
実は心でおもひもせぬをほれた/\と口のさき」(九ウ)
田中
橋場金彦
花にかならずむべ山かぜよ月にやむら雲世のならひ(ちよ)
さの槌ない敷島
ほんになま中いづもの神のむすびはなしが情ない」(十オ)
高し野
歌沢連長十
酒くさいさゆで薬をうれしい手からしやくもさがりし花見舟(国芳)(かね)
さの槌ない黛
ふとした事からつひ気がかよひ人のしらない此くらう」(十ウ)
松すゞき
歌沢連村彦
わが身わすれてあとさきしらず樽をまくらに花の下(もと)
さの槌内杣人
ちゑもない子にはたからちゑをつけてとう/\色にする(せい)」(十一オ)
上嶋屋
歌沢連川吉
さそふ水あらばいなんとそりや萍(うきくさ)のもちまへうわきな花ごゝろ(梅彦事小てふ)
さの槌内小桜
あとのためだとかへして見ればはなしがのこつてじれつたい(きん)」(十一ウ)
ゑびや
安倍川丁乙姫
大宮人ではわしやなけれどもさくらかざして山あるき
さの槌ない汀井
人の口はにもうのせられてふたりが中によしの川(はな)」(十二オ)
亀玉庵
さの槌内小町
花のつゆすふてふ/\さへもおまへに似たのか気がおほい(ちよ女)」(十二ウ)
宮戸川
歌沢連兼吉
ほんに立派でつい見とれるよ花はさくら木人はぶし
尾張や内かしく
どふしてこんなに迷たことかわたしでわたしの気がしれぬ(てつ)」(十三オ)
出雲屋
歌沢連平次
花の戸まいで立たるそのさむしろをちよいとしきねのかりまくら(はな)
政田や内小藤
いやな酒ならわたしがすける一ト口のんでおよこしよ」(十三ウ)
伊勢喜
歌沢連豊吉
ぬれぬさきこそつゆをもいとへもうあく迄も花の雨
三浦や内いづみ
ぬしのくらうをきくたびごとにむねをいた屋のそでしぐれ(たか)」(十四オ)
ほしの
高輪松彦
人の花とてとるまいものかとられたおまへのぶはたらき(せん)
いづみや内豊之介
わたしやとし若まだ親がゝり思ふおまへは女房もち」(十四ウ)
よし村
宇治うた
なごりをしげに見かへるかほへつゆがなみだか朝ざくら
山口内??木
わつて見せたいこゝろの竹の笛はおもひを口うつし(かね)」(十五オ)
金田屋
歌沢亀鳳
花はつぎほの手ぎはもあればむりなゑんでもそひとげる(きよ)
大惣内哥川
ぎりとせけんがしみ/\つらいあへばあはれる中ながら」(十五ウ)
いろは
菅野くに
末はとげぬといはれたこともあればひと花さかせたい
?川雪成
いふも古いがあれじれつたいにくいからすがなくわいな(とよ)」(十六オ)
はつ音
宇治紫歌
花は咲どもこずゑの枝でたをられもせず見たばかり(せい)
湊や内水松
ふじつする気はみじんもないがさたの心が水くさい」(十六ウ)
歌川
岡本内花?
かれ木にも花をさかするもちばなみればわしもじせつをまちませう(鶴彦いね女)
??内都
すまぬ心でこのあしふむも思ひきられるゑんの糸(たつ)」(十七オ)
華屋
松田や内明石
ほどもよければ男もよいが出しぎたないのにやおそれます(つる)
むさしや内長尾
もうおかへりかと袖ひきとめておまへが立てば花がちる」(十七ウ)
いせ本
久喜万字内名山
咲たものならちらずにおくれちればさくらもちりあくた

氷ならねどおまへの心とけてなほますもの思ひ(きん)」(十八オ)
よし野
中万字内初紫
こちらむけとやうしろもゆかしむかしずさみの花のかほ
同 絵合
かほは見れども人目があ??はなしされぬがじれつたい」(十八ウ)
福しま
尾張や内満袖
ひとゑざくらのうすきはいやよかさね/\て八重ざくら
同 尾倉喜
おやけうだいにみはなされたもたつたひとりの男ゆへ(しほ)」(十九オ)
会席御料理 新昇亭
稲本内香川
同 小稲
たをりてくれよといはないばかり垣?しにさく花のゑだ」(十九ウ)
隅田川
姿ゑび内姿袖
花にをく露をざゝのあられこぼれやすいがためなみだ
同 七里
なべにみゝあり徳利に口よちよくとはなしもできはせぬ(静里)」(二十オ)
山本
岡本内巻岡
どうせはなれぬおまへとわたし桜さめとはきくもいや(ふく)
同 瓜生野
ぎりできれてもかわせたきせ?末をたがひのむねとむね」(二十ウ)
すゞ木
同 京山
むらさきの江戸の花かよすゐどの水でそだつて五ぶでもひくものか
同 豊岡
つとめする身とさげすむ人に色となさけがあるものか」(廿一オ)
嶌村
梅暮里鴬我
すまぬこととはてんからかくご欲にやしみ/\ねて見たい(はる)
岡田や内万山
花の木の間にあれたれやらがたれを待のか柳ごし(よね女)」(廿一ウ)
浮はし
同 花の戸
さくらへだてゝふと見るすがた恋しけりやこそ見ちがはぬ
同 八つはし
男ばかりに気まゝをさせてほんに女をかたおとし」(廿二オ)
さがら
かなや内豊浦
恋といきぢとたとへていはゞ梅のにほひに花のつや
丸熊内小ぎく
ぐつとだきしめかほさしよせて千代といふ口すひたどし」(廿二ウ)
武蔵や
叶や内和国
よしのざくらのたゞひとひらはじやうがうすひとやえざくら(妻恋魯文)
中大黒内花?
もてた日もなくそのたびごとにちらすこがねのはなもない(かね)」(廿三オ)
喜久本
越前や内瀬山
おにも十七ばん茶もにばなどつかいろかのあるものだ(紫文)(よし)
さの倉内松の尾
ぬしのかんしやく日頃のくせよそうてわたしがなをします」(廿三ウ)
千本
津国や内花柳
ふつてくれるなさくらに夜雨いろのさめるがきにかゝる(??よね)
福本内本春
ぬしのみへぬをわしやまちかねてとがなきやうじをかみつぶす(下谷さく丸)(もと)」(廿四オ)
菊屋
丸亀内八千代
はなはよけれどありや木がたかいとてもわたしの手じやおれぬ(いそ)
小紅や内千本
いろになるみのじゆばんもぬいですはだじまんのなつのふじ(亀?)」(廿四ウ)
花やしき
和泉や内七?
はなのいろはうつりにけらしおまへのこゝろみのいたづらもほどがある(玉や文魚)
久喜卍内高窓」(廿五オ)
つたや
久喜卍内唐土
じやまがあるのりでおもひもつのるつきはおぼろにはなにかぜ
同 艶粧
光盛舎さく丸画
梅暮里唄種輯
歌沢小蝶女正律」(廿五ウ)



9 なげ扇源氏よしこの(安政七年刊。錦昇堂板。)
なげ扇源氏よしこの」(表紙)
世志幸能源氏五十四帖」(見返し)
〈欠丁あるか〉
頓作俳優度々一序
はやりうたてふものは。流行の極早き事。駟も及ばざるに此度々一ばかりは。馬士唄甚九にも対すべく長にはやりもて行大江戸は更なり何処の津々浦々までも一円に広がりて遊楽の酒席には必ず興を添て皆頓作せざる事なしされば此一冊も彼俳優輩が遊戯の余りに成れる物とて予に序せよと乞はる一校する暇もなければ速に筆を採て其せめをふさぐといふ
百文舎外笑〈これは他本の序文ならん〉」(二オ)
御所車かへ哥
神風やいせと浪花のよしとあしぬけとおふせの巻ひらき明てうれしき申のとしひらくはじめのはつ哥のまたとけかぬるよしこのゝうちに思ひの深草やもゝ重もかさぬ恋のうた君はしらねど三ツ十ヲ計りぬいて定めしよもおかし
花評 鳥渡亭主人」(二ウ)
桐壺
??だうわべはきりつぼなれどじつにきるならきりわせん
帚木
ほふきゞのあるかなきかの身であるなれど人にはかれりやはらがたつ
空蝉
ないてかへらぬわがみのしよわけせみのもぬけやこいのあだ」(三オ)
夕がほ
花の夕顔うつしてみたや月の鏡のすがたみに
若むらさき
ちぎるこゝろはわか紫のむすびそめたるはつもとい
末つむ花
すへをとげよと末つむ花のそでにふれるも身の果報」(三ウ)
紅葉の賀
ほんにもみじのがをれがするはそめしこずへを吹あらし
花の宴
わがみわすれてあとさきしらず樽をまくらに花のえん

恋のふちせのゆくすへかけてふたばあおひと成がよい」(四オ)
さかき
まかす身なればどふでもなされさらにさかきはないわいな
花ちる里
いろにまよふて花ちる里をたづねてはなくほとゝぎす
須磨
やどりさだめずたゞうか/\となみのまくらのすまの月」(四ウ)
あかし
まつにしづんでみじかいよわをあかしかねたるとこのうち
みをつくし
なにはしらねどついあだなみにおもひそめてはみをつくし
よもぎふ
ひいてみなされ竹ではあれどふかきよもぎがこゝろねを」(五オ)
せきや
あふてわかれとなげきの中のせきやいかなるせきならん
絵合
せめてすがたのうつしゑなりと心まかせにあわせたい
松かぜ
おもひ直してくらしはすれどまつにそらふくあきのかぜ」(五ウ)
薄雲
くれのうすぐもおもひのそでにいろはまがへてちのなみだ
朝がほ
さかりなれどもあのあさがほは朝のわかれのあだがたき
おとめ
雲のゑをかくおとめの袖はきざなためしの恋衣」(六オ)
玉かづら
人にしらせずうき名も立ずそふがこひじの玉かづら
はつね
ながいつとめをこのはるからはひいて目出たふはつねの日
こてふ
こへてゆきたやこてふになりとたかひへだての中がきを」(六ウ)
ほたる
なくになかれずみをのみこがすさわのほたるやこひのそで
とこなつ
うづらごろものとこなつかしくながいよすがをなきくらす
篝火
身より出てはたちそふわいなこいのけぶりがかゞりびに」(七オ)
野分
ひとりふすやに野わきのかぜがふいてつれなふ戸にあたる
みゆき
ふかくつもりしゆきさへすへはとけてうきなの花がさく
藤ばかま
おもひやりにもまことはとゞくつゆにやつるゝふじばかま」(七ウ)
真木柱
うき世つとめにくわたへねども身にはにしきをまきはしら
梅がえ
はなのねぐらの梅がへなればよそのうぐひす来てとまる
藤のうら葉
藤の????うらみ?しらずとけてうれし?はなの色」(八オ)
わか葉
ほんにわかなのみをつみてしるうゑなお方にやそいにくひ
同下
わびるこいじは人目をつゝむ野べのわかなはゆきの下
柏木
もへぬけぶりにこがるゝおもひこの手がしはのうらおもて」(八ウ)
横笛
かぜのふきよるこのよこぶへにこいのうたぐちしらべたい
鈴むし
草のやどりになくすゞむしは枕とけいになるわいな
夕霧
わたしや夕ぎりたつてもゐてもこゝろそらなるこいのやま」(九オ)
御法
かりのこの世もあの世もまゝよそへどみのりのおくのまき
まぼろし
せめてあいたやゆめまぼろしにとふざかるのはぜひがない
にほふ宮
ゑんをむすぶの神ではないがにほふみやゐのいとざくら」(九ウ)
紅梅
とわぬ日はなきあのうぐひすのそのゝこそめの梅の花
竹川
たよりないみでこの竹川のすへのながれをくむわいな
橋姫
こいのわたりのはしひめなれば文のつかいをわたしたい」(十オ)
椎がもと
人のたのみはおふ木のかげとたちもよらずとしいがもと
揚巻
長きちぎりのあげまきなればしかとむすんでおくがよい
早蕨
こいのなさけやゆかりのいろはみねのさわらびもへいづる」(十ウ)
やどり木
ほれたそぶりをあくまでするにまつのやどり木きがつかぬ
あづまや
四本ばしらのあづまやなれどわびるこいにはとりがなく
うき舟
行衛さだめぬうきふねなれどはよふいかりがおろしたい」(十一オ)
かげろふ
はれてあはれぬ身はかげろふのいつもめさきにみへながら
手ならい
こいの手ならいぶんこにむすぶ帯のもやうはほふぐぞめ
夢のうきはし
かけておきたやのきからのきへゆめのうき世にこいのはし」(十一ウ)
是より五拾四帖外編
あま夜
まつにとやかくおもひがまさるましてあまよのつれ/\に
若草
きしのわかくさねよげにみゆるたれがまくらをかわすやら
柳ば
ゑだはしげらくねをおろしたやいまはふけたの?????」(十二オ)
ほまれ
松のときわのみさほを立てひとのてほんにみのほまれ
芝ふね
もゆるおもひのしばぶねなればこゐのふちせをわたしたい
琴の音
うたやねいろのなぞをばかけてすかぬこゝろをつくしごと」(十二ウ)
かをり
そでのかをりがまよいのはじめなにがゑんやらしれはせん
紅井
すそにくれないけだすをやめよこづまからげてあらぜたい
名の夜
ふけてゆくほどおもてわまさるつらや名のよのかねのこへ」(十三オ)
賤がや
しづがおだまきおまへのことをきれぬよふにとくりかやす
なか川
おもひあふたるこの中川にこいのわたしはないかいな
さゝ浪
岩をくだいておもいのふ?へよせてかへらぬさゝらなみ」(十三ウ)
むら雨
おもいがけないこのむらさめはせまいこゝろもくもりから
ことのは
ことばぐさのやさしいでばなついにまよいのたねとなる
のきば
しらぬ人にもうそはづかしくのきばづたいのあさもどり」(十四オ)
かごの鳥
へだてられてはとびたつおもひなくになかれぬかごのとり
すみれ
かみをなをしてよめなになりてふたりなかよふすだれぐさ
から猫
てんじよはれたるこいとはこれかやねのまどからねこのちわ」(十四ウ)
ぎてふうち
こひにしづんできをまぎらしにきてふうちやらなげあふぎ
葵の上
くさのたもとのなみだと見へてふたばあをいの上の露
山のは
山のはの月はるかにてらせしのぶこゐじの道しるべ」(十五オ)
やよひ
うわきざかりややよいのはなに人のこゝろもそらになに
夕月
きかぬふりしてすましていれど人がとやこふ夕月夜
はるかぜ
恋のはるかぜくもゐはおろかふいてとゞまるはてしなし」(十五ウ)
秋かぜ
ぬしの心になびかぬくさはなふてわたしをあきのかぜ
おぼろ夜
あいにきさらぎそのよのかをはほんにはなよりおぼろ月
藤かづら
おもひつめてはたゞひとすじにまつをちからのふじかづら」(十六オ)
桃園
千代のちぎりやそのみちとせのゑんをむすびにもゝのその
玉はゞき
かくしあふのがこひじのなさけまゝにあふよは玉はゞき
園原
はぎやすゝきはみなそのはらになびきあふたるおみなへし」(十六ウ)
かざし
てがらしだいにたかねのはなをたをれざくらはかざしぐさ
朝つゆ
くさのたもとのこのあさつゆはよいにこぼせしけしやうみづ
伏家
ふかほにつもりていちやのゆきにしづがふせやもぎんせかい」(十七オ)
ひよく
ひよくれんりのてまへもあるにものみゆさんにらくだづれ
もしを
こいのけむりをはるかにたてゝ今は身をやくもしをぐさ
御車
いらぬことついきをまわしほんにこゝろは御所車」(十七ウ)
なぎさ
たもとぬらしてなぎさのちどりあわぬよすがをみづになく
手枕
夢のたよりのせめてはあれなまつにはかなきあだまくら
ゆかり
文のへんじをかくまにひらくいろのゆかりのかきつばた」(十八オ)
三番叟
こいのさんばそだいじをふんですへのよろこびまつがよい
よそをい
たまもあざむくみのよそをいはなじみながらもめざまじい
一ツ家
わしをのなかのひとつやにしてふみのつてさへまゝならぬ」(十八ウ)
石橋
女ごゝろのあさはかなれどじつのしんみはふかみぐさ
雷坪
けふのなるかみうたがひはらしくもるけもないもとのそら
羽衣
せめてねたまをわすれてみたやいつもはごろもきにかゝる」(十九オ)
〈十九ウは判読不能〉
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安政七年庚申孟春新刻
錦昇堂 てりふり町ゑびすやはん」(裏見返し)



10 張交都々逸(安政頃刊か。)
張交都々逸」(表紙)
口叙
作者「モシ娼妓達(みなさん)へすこし宛は当り万寿(ます)かへ野僕(わたし)はゑぐつたつもりだが
娼妓「どうむ/\きくり/\といたしんしてほんとうにこうなんざますよと紫哥(しか)いふ
御ぞんじの うかれ坊(やゝのな坊主)」(一オ)
じやけんな親だとうらんでゐたが御ま衛とこふなりや結ぶ神
年季をかぞへてふさいで居れば嬉しい御ま衛の初会口
かげでうれしい思ひがなけりや苦がひがかたときつとまろか」(一ウ)
〈第二丁目欠〉
かほもやせるしすがたもやつれ定義くめてかたみがせまかろふ
御新造さんより小ゆびといはれしよたいのくろふがしてみたい
しよたいもつにはまへだれたすき似合ましたかうしろおび」(三オ)
あれさおまちよそうゆくものかさきも手ごわなくわせもの
御まへのこり性はたのみにやならぬ花も弥生のさくらさめ」(三ウ)
いかしたりころしたりで御まへの事をどふか聞ふとことばぜめ
ことをこわさゞまとまるまいとならば柳にすましたい」(四オ)
たつたひとりのおまへをたより鬼の中でもしんぼする
くちでいわれぬくがいのつらさおして御らんよむねのはり
日のてらぬ所はないぞへ気のとりよふでわるくつまづきやくらくなる」(四ウ)
できぬしんぼうもおまへのためとつらいくがいのうき月日
こゝろのひがみかをじけがついてねこがないてもとむねつく
つらがにくいよアノしやアつくめ丹治郎気どりがなをきざだ」(五オ)
源氏のまきでも桐つぼはいやよわたしやすへつむはながよい
ひよつといふかと大網をきせてこわい手くだのせめ道具」(五ウ)
かつがれることゝしりつゝつひまにうけてあとじやなぶられとらわれる
口じやいはれずしうちじやできずぢれてふさいでしやくのたね」(六オ)
手まへの身のためゑんあるまでは遠くはなれてしんぼうしやう
かくれてあがれば心のひがみしやうちしてゐてぐちがでる
あわぬむかしとからへもしやうがどうぞたよりはしておくれ」(六ウ)
文のたよりじやいなやがしれぬみれんなよふだがかほ見たや
いしゆもいこんもない客人へつらくあたるもおまへゆへ
おまへにあふたびわが侭いふもつらひつとめのうめあわせ」(七オ)
つとめの身ならばどふしてなりとあげてたのしむこともある
ほれたよわみを見こまれぬいてねこそげ御まへにぢらされる」(七ウ)
けどりやせぬかとすね気でおじけあらたまるほどさとられる
むしをころしていわれているもみんな御まへをかばふゆへ」(八オ)
遠くはなれてくらすも時代からだ大事にしておくれ
つとめ酒をばあんまりのむなそれがしゞうは身にさわる
なじみ深川恋路の中町おたび弁天あつい町」(八ウ)
吉原(あつち)にゐたよりまた気もはれて八まん様へ朝まいり
本宅へかへり花さく見へにもどふぞ御まへおみやげにひきうつり
あいはせぬかよ佐賀町のかしが今度世に出てかへり花」(九オ)
逢れぬ身ならばあきらめよいがなまじかほ見りやます思ひ
すへのくゝりはしてあるけれど御まへをかばへばなきわかれ」(九ウ)
もとめたくろふはわたしのすいきやうどんなむりでもうけてゐる
おまへもわたしもぬしあるからだどふせすべよくはそわれない」(十オ)
このごろはよふすがちがふとぢろりと見られむねへうたるゝ五寸釘
わたしひとりで血道をあげておまへは平気でまぜてゐる
しやうちしてゐてこふなるものをいけんされゝばはらがたつ」(十ウ)
年がちがふがつり合まいがそれはおまへのにげ口上
かわで見たならおかしかろふがいふにいわれぬ事がある
たま/\来たのにあわれぬ時ははなもしぐれてちるおもひ」(十一オ)
たま/\逢ふのにもういろ/\とかわじやなんくせつけたがる
やさしいよふでも他人はこわいひとつつまづきやむかふづら」(十一ウ)
いちかばちかをいふのはよいがそれじや御まへをこまらせる
あわせものはなれりやたにんだそりや情がないうつくしづくならいつまでも」(十二オ)
あひがしげけりやせけんをかねるといつてあわずにやいられない
そうだんずくならとふざかろふがとひおとづれはしておくれ
わが身でわが身がじゆうにならぬぢれてくひつく夜着のゑり」(十二ウ)
せけんなりよくおまへもたてゝ丸くおさめるさばきやく
手ばなしたよふにしてゐるわたしがつらさわつて見せたいむねの内
ぐちはおよしよどつちがどふと論はないぞへ五ぶと五ぶ」(十三オ)
しやうばいめうりでうれしいばんはつねのくがひをとりかへす
はたじやなんとも思ひもせぬにすねにきづもちや気のよわみ」(十三ウ)
ほうばいづきあひいびつになればあれもしやくかと気のひがみ
たのみがいないおまへのむねをどふぞたのみにして見たい」(十四オ)
人のうわさも七十五日どふせ一度はいわれぐさ
仕うちでほれたはわたしがわるい口を聞たいおまへから
めんとむかつてむねきないけんしらをきつてもかほへでる」(十四ウ)
今日びはこよふとおいひだけれどきゝにゆくのもよしわるし
やさしいよふでもへだてた中はどこの言葉に針がある
針のむしろにしんぼうせうが御まへの心を定めたい」(十五オ)
すへのたよりに当ざのたのみどちらきれるもやすだいし
さかにぢていゝくろめてもよわみがあればしやうちしてゐてまけている」(十五ウ)
いふにおちずにかたるにおちていつかとらるゝことばじち
口へださねどくろふがあればどふかをしかと人がいふ」(十六オ)
なんでもない事尾に尾をつけてだれかしやくた人があろ
人にやきかない御まへのそぶりじつにわたしの目にあまる
人にはなせばわたしのまぢと御まへの浮気をひしがくし」(十六ウ)
くるしいわたしの心もくんでたまにややさしくしておくれ
いけんをおいゝとすゝめるけれどわるく聞れりやなをつのる
下手ないけんを聞気はないがうたの文句じや身にしみる」(十七オ)
しあんしかへて見る気はないかそれじやくろふしたかひがない
たのみない身はついのり安いこわい他人の口ぐるま」(十七ウ)
そめいろになんの心もつかずにいればはたでくろふをそめさせる
みれんをかくしてあわずにいればはたじやだめだとたきつける」(十八オ)
伽羅をたかせたふたりがむかし今は嵯峨野でゆふ蚊やり
なり平さんでも世にすてられてしほくみ二人りがみめづかへ」(十八ウ)
若菜がくれに山ほとゝぎす月がないたか雲の中
どふかなるよで思わせぶりな雲がかくしたほとゝぎす
わたしはぜんたいいちづなせいか人もそふかとひかされる」(十九オ)
はらじやないてもうわべじやわらひほんにつとめのうらおもて
きんじよへ来ながらあはずにゆくもじつはみのためすへのため」(十九ウ)
なみだもろいとおいひでないよこれがわらつてはなさりよか
しらでいわずによそごとらしくつらいいけんととふまわし」(二十オ)
花もみも有しん身のりんきそひ寐してから言葉ぜめ
はたじやなんとも思ひもせぬにじぶんのじやすいでさとられる
せけんさわがせ手がらにやならぬなみ風たてずにはなしあい」(二十ウ)
どふしたらすへをとげよと気が気がぢれていつかしめりしまくらがみ
つらからむたゞひとすじにつらけりやこんなよもやのくろふはせまいもの
サア御かへりよとはをりを着せてかへしやかへるか義理しらず」(廿一オ)
ことばでまよわせしうちでまるめ手だまにとられてはじかれる
かんがへりやかんがへるほどくろふがまそふぐちになるのもむりわない」(廿一ウ)



11 とゝいつ図会
※二書の合冊。前半は万延元年刊本。後半は文久二年刊本。
※前半は、大阪大学小野文庫蔵『東都一節文句集』、三康図書館蔵『一つぶゑりどゝ一合』と同類のものである。大阪大学小野文庫蔵『東都一節文句集』は、為永春水選五十点の部、仮名垣魯文大人撰五十点の部、松亭金水大人撰五十点の部の三部から成り、最後に三人の作を掲げて終わっている。三康図書館蔵『一つぶゑりどゝ一合』は、これに加えて鳩墻桃叟撰五十点之部、柳亭光彦撰二十五点より七十点まで(の部)がある。菊池蔵本『とゝいつ図会』前半は、乱丁・欠丁があるものの、小野文庫になく三康図書館蔵本にある本文を補う本文を有している。(鳩墻桃叟撰五十点之部、柳亭光彦撰二十五点より七十点まで(の部)の前に、「梅素亭玄魚撰  五十点部」のあったことが知られる。)以下、菊池蔵本を基本とし、三者を勘案した本文を掲げる。
とゝいつ図会」(表紙)
四海波静に万歳唱ふは.流行節の東都一に.三筋のいとながく繁茂しける.茲に.懇友花玉園のすゝめにまかせ.四方の君達の.秀作を乞ひ集.月遊気(ゆき)はなのながめをして三光師のゑらみにかけ.さくら木に宇都せしは.四季の徒然に.はた.酒筵のすれびとを.もてなさむにはと.したすら趣向して侍りぬ
催主 霞柳園梅春誌」(一オ)
為永春水選  五十点の部
ぢれて帰るを階子(はしご)でとめて雪がとりもつ中直り(羽衣連 加津美)
ゆきの達磨とおまへのこゝろとけるたびごと丸くなる(小名木川 新気)
つもる思ひをぬしや白雪のとける常盤をまつの色(三味線ボリ 済々)
ふるい白雪つもるはくぜつとけてうれしき胸のうち(永代島 長谷虎)」(一ウ)
千話がこうじて喧嘩でかえしあとであんじるけさの雪(鶴福女)
積るとは嬉しの森かよ上は手のゆきのふねのこたつのさし向ひ(下谷 笑太楼)
どうあきらめても今宵の雪はぬしの来られぬしらせかい(芝カナスギ 秋江)
格子細目に何のたまはくしろめが恋する雪の中(青梅連 雨川)
かえりやしやんせと口にはいへどむねにうれしきけさの雪(糠九斎 鼠米)」(二オ)
子をとろ/\どの子が目つき赤いしかけの雪の肌(横山丁 菊亀)
君をまつらにひれふるわたしこゝろづくしの小夜の雪(玉の琴 京安)
ふりつけられたる夕部(いふべ)の癪のはらを直して笠の雪(江戸川 柿安)
ぬしの心と田毎の月はうつり安きに気がもめる(済々)
ふたつない気と迷ふたものをこゝろ知らずの水の月(かつしか 楽桃)」(二ウ)
やつれすがたで格子にもたれ月の顔見りや癪のたね(駒込 初歌)
月は晴てもあかりがたゝぬくらゐわたしの胸のうち(永代じま 長谷虎)
宵はまたせてれんじの月のふけてさしこむ胸の癪(本郷 よし/\)
およばぬことばが階子をかけて月と添寝がして見たい(芦月)
やう/\と月が晴ればおまへがくもるなぜにこよひはこゝだろう(馬クロ丁 従駒)」(三オ)
月の出ぬ間にそと忍ばんせはれちや逢れぬことがある(青梅連 清丸)
添寝した夜は枕のしたへそつとさしこむ窓の月(紫連 梅春)
ほつとひと息一ぷくおくれさして恥かし●(かや)の月(横山連 菊亀)
愛想が月よが秋られやうがいま更科よくきれはせぬ(桃ぞの アツ丸)
遠山の花と詠めて隔て居れど風のたよりも気がもめる(三味線ボリ あか厂夫)」(三ウ)
折て見たいと心をこめてきけばぬしある家ざくら(トキハ丁 松月)
花の色香のついさめはてゝあだな浮名が散り残る(遊霞連 花遊)
ぬしの誠は枯木に花とあてにしないで待つてゐる(馬喰丁 従駒)
折夜桜にはなかいらぎの鞘とさやとの色くらべ(青梅連 梅八)
うつし植たる花にも宿をうりにくるわのふたつ蝶(仝 雨川)」(四オ)
ぬしの情で苦になるとしのくれてうれしき花の春(仝 梅の戸)
三日月の眉毛落して雪解(ゆきげ)のふじよはなの笑がほに迷われる(かつしか 紫菫)
花を見すてゝアレ帰る厂よそへあだ花さかす気歟(桜山園 初山)
みれんらしいが遠退(とをのき)ながら見るもさくらのひと気色(小網三 宮新)
ひと筋にぬしを便にわしや咲花よ外にちる気はないわいな(清花)」(四ウ)
番外十客之部(八十五点より五十五点まで)但通り句一章
月のあかりに文をばよめど逢れぬつらさは胸がやみ(紫連 はと垣)
わたしが茨(ばら)ならおまへはさくらほんに桜はあだな草(よし/\)
雪の夜も川といふ字の女房すててゝかよふおまへは二本坊(青梅ゝ 梅の戸)
あつくなつたるわたしでさへも雪の夜道は身にしみる(松のや 孝介)」(五オ)
月のれんじに鳫がねびたいぬしを待乳のかねがなる(羽衣連 加津美)
秋が来たとて苦労はしたが丸くおさまるけふの月(青梅ゝ 梅の戸)
山ほどつもりし思ひの丈(たけ)を雪のあしたのむかひ文(六ケンボリ 元蝶)
さめぬ一重のわしや山桜八重に咲く気はさらにない(青梅ゝ 一ツ無)
はるのうは気につい誘はれてさくや深山の遅ざくら(翁屋 三橋)」(五ウ)
三才の部
人九十ゝ
泥水となにかきたなくいわんすけれど清きこゝろは秋の月(翁屋 三橋)
地九十五ゝ
じみな恋中まことゝ誠雪のしら鷺眼にやたゝぬ(銚子場 熊吉)
点百点
こしらへた祭り花さえさすがにはるのいろも薫りもよしの紙(東海道 楳八)」(六オ)
仮名垣魯文大人撰  五十点の部
積る思ひをぬしやしら雪のとける常盤を松のいろ(三味線ボリ 済々)
山ほどつもりし思ひのたけを雪のあしたの迎ひ文(六けんボリ 元蝶)
間夫を帰した足跡だをはやくかくして暮の雪(青梅連 梅の戸)
居つゞけにしぶい仕こなし土瓶へ雪をいれた濃ちやのすいたどし(桜花園 初山)」(六ウ)
君をまつらにひれふるわたしおもひ津くしの小夜の雪(玉の琴 糸安)
義理の一字と世間の邪魔にへだてられたる窓の月(春水? 里水)
人目多けりや見る文さへもふけて小窓の月明り(ふか川 正々)
行暮て爰の二階をわしややどゝせば花はこよひの太夫職(三谷ボリ よね女)
神や仏に願かけ茶屋もぬしと隅田に世をさくら(美重坊)」(七オ)
花はさくらと誰しも言へどぬしにます花外にない(八笑連 佐二郎)
咲た花ならちらねばならぬうらむまゐぞへ小夜あらし(小アミ 梅中)
売れくるわにさくらでさへも夜るの勤をせにやならぬ(下谷 出たら女)
玉だれのうちぞゆかしきあのはな車めぐりあふ日を神だのみ(提灯)
人目忍びて手折しはなも今じや座敷の床ばしら(江戸川 柿安)」(七ウ)
うすきゑにしか一重の花にとかく来てふく仇あらし(本郷 都ぼけ)
かたいわたしをうは気にさせて当座の花とはあんまりな(青梅連 清丸)
さめぬ一重の深山のさくら八重にさく気は更にない(仝 一ツ無)
此雪によふ来なましたとたがひにつもるおもひの深さをさしてみる(東海道 笠堂)
番外十客之部」(八オ)
泡ゆきと書て送りしあの玉づさはとける心の恋のなぞ(神田 清花)
お月様さへまるいはひと夜角どのとれぬも無理はない(?西? 三源)
傍へよる波引く袖がうら月に丸寝が恥かしい(青梅ゝ 家満)
うつし植たる花にも宿をかりにくるわの蝶こてう(仝 雨川)」(八ウ)
花に嵐かあらしにはなか散るもちらぬもさきしだい(かつしか 紫菫)
あれさおよしよ見られちやわるい花を折なと書てある(東両国歌源 花仙)
まゆ毛落したわたしのかほは青葉がくれの遅ざくら(本郷 つね丸)
積るとは嬉しの森かよ上は手の雪に舟の巨燵のさし向ひ(下谷 笑太楼)」(九オ)
宵はまたせてれんじの月のふけてさしこむ胸のしやく(本郷 よし/\)
山家育ちとわらはゞ笑らへよしの初瀬は花どころ(深川 はと垣)
添寝した夜は枕の下へそつとさしこむ窓の月(紫連 梅春)
三才の部」(九ウ)
人九十点
じみな恋中誠とまこと雪のしら鷺眼にやたゝぬ(銚子バ 熊吉)
地九十五ゝ
青柳の糸のもつれがさらりととけてうれしいそうだよ月のかほ(江戸川 真々世)
点百ゝ
遠山の花とながめて隔て居れど風の便りに気がもめる(三味線堀 あか厂夫)」(十オ)
松亭金水大人撰  五十点の部
月夜がらすとわたしのこゝろぬしにうかれて夜を明す(出来内)
わたしや呉竹ぬしや白雪のつもる思ひで苦労する(あか厂夫)
折て見たいとこゝろをこめてきけば主ある山ざくら(トキハ丁 松月)
月はさへても心はくもるしめりがちなるもの思ひ(翁や 三橋)」(十ウ)
つもり/\し今宵のくぜつとけて嬉しきけさの雪(駒込 稲舟)
仇な姿のよいやまざくらどふか手いけにして見たい(本郷 梅治)
雲の絶間を洩れ出る月にさえて聞ゆる紙ぎぬた(桜川舎 雪幸)
恋のはつ瀬の莟のさくらいつか夜露に綻びる(さくら田 三丸)
朧月夜がしのぶにたよりはれてあはれぬ中じやもの(赤さか かつら子)」(十一オ)
宵の口舌に今朝ほの/\とむらさきのこる雪の肌(本郷 よし/\)
山家そだちと笑わばわらへ吉野初瀬は花所(万年橋 はと垣)
かつら男に此身をまかせ胸をあかしのうら住居(ずまゐ)(さくら田 竹園)
あつくなつたるわたしでさへも雪の夜道は身にしみる(松のや 孝介)
たとへ咲てもうは気な風にこゝろちらすな廓(さと)の花(八笑連 阿波太郎)」(十一ウ)
雪の庭口誰がふみわけて二の字崩しの下駄のあと(さくら田 しげ治)
ぬしの情で苦になるとしのあけて嬉しき花のはる(青梅ゝ 梅の戸)
おもひとゞいて女夫(めうと)となつてはれて月夜をあるきたい(唐人)
雪もいとわずかよふてくれるぬしをひとりで寝かさりよか(芝金杉 秋江)
花に嵐のたとへはきけどそふて見たいが恋のよく(梅の戸)」(十二オ)
人目にせかれて灯(あかり)をけして月に見らるゝ隠し文(小アミ 宮新)
親の為なら雪ふみわけて藪の竹の子ほりに行(紫連 喜久丸)
神や仏に願かけ茶屋もぬしと隅田に世をさくら(美重坊)
月はてら/\窓からさすがどこに住やらかた便り(花露)
眉毛落したわたしがかほは青葉がくれのおそ桜(常丸)」(十二ウ)
おふ/\といへど敲くや此雪の門おきな/\と恋しがる(青梅ゝ 梅八)
さくら花さへくるわにすめばよるの勤めをせにやならぬ(出たら女)
ちればこそいとゞ桜はめでたいものとさとりながらもつらき雨(清吉)
待がつらいかまたるゝ身にもつらい雪吹(ふゞき)の四ツ手駕(かご)(常磐丁 彫長)
雪のふる夜は身にしみ/\とつもるおもひに愚痴ばかり(為永 春光)」(十三オ)
雪が降つむ塒の樹々えもどる小鳥が枝まよひ(宮新)
千代を結びしアノ注連飾ともにしら髪と松の雪(○玉)
淡雪と書て送しアノ玉章はとける心とさつさんせ(神田 清花)
あかぬ恋じに引とめられてそでに別れの花の露(新よし原 加棟木)
番外十客之部」(十三ウ)
ぬしのまことは枯木の花よあてにしないで待つはいな(従駒)
月のあかりで文をばよめであはれぬつらさは胸が闇(はと垣)
かたいわたしをうはきにさせて当座の花とはあんまりな(清丸)
ぬしの心と田ごとの月はうつり安きに気がもめる(済々)
ぢれて帰るを階子(はしご)でとめて雪がとりもつ中直り(可津み)」(十四オ)
さん俵かぶせられたる水仙さえも寒苦しのいで花がさく(小名木川 つね)
秋が来たかやけふこの頃はほんにあふせも玉うさぎ(千鳥庵 三仲女)
花に嵐は浮世のならいどふでちらずにすみはせぬ(熊吉)
千話がかふじて喧嘩でかへしあとであんじるけさの雪(鶴福女)
月にむら雲苦界もおなじ一夜のうちにもてりくもり(深川 日本坊)」(十四ウ)
三才之部
人九十点
雪はちら/\待夜はながしヱヽモぢれつたいと茶わんざけ(本新 若紫)
地九十五点
しのび逢ふ夜はきぬたの音もいつか乱れし月の雲(三谷堀 国女)
天百点
呼返す熊谷桜は意気ぢもつよきこゝの二階の旗がしら(羽衣連 嘉津美)」(十五オ)
○三撰通り句の歌
闇の千草に宿かるむしも月にこがれてなきあかす(小網丁 角伝)
じみな恋なか誠とまことゆきのしらさぎ目にやたゝぬ(銚子場 熊吉)
雪を冠(かむ)つて寝て居る竹を来てはすゞめかゆり起す(永代島 長谷虎)
おゐらんが小首かたげてきせるをつえにとけぬ姿は雪の鷺(深川 春?)」(十五ウ)
花をかざりて化粧はすれどみさをの鏡はくもらせぬ(紫連後見 はと垣)
ぢれた振りよして見返り柳花が袖ひく衣もんざか(集補 山泉)
水も漏さぬ其中/\を月のかげもる枕もと(花王園 桃叟)
宵のくぜつに夜ながの手管雪もつれるか鳥籠(とこ)のやま(催主霞柳亭 梅春)」(十六オ)
月雪花をば三すじの糸にのせてながめる仇文句(為永 春水)
白紙に染る朧な参らせ候は恋のつぼみの筆の先(仮名垣 魯文)
ねぐら定めぬ蝶鳥さへも花のいろ香にやひかされる(松亭 金水)
庚申秋
応需 東琳書画」(十六ウ)
〈これから後は別本カ〉
神楽催馬楽の往昔より曲節かるものは都(すべ)て七言を発語(いひいだす)ものと伝へしに彼琴後翁がいろはにほへとの歌を註せられし中にも七言をもていひ出るは今様の謡ものなるべしとかゝれたり然れば近き世の小歌も真?沈でと七字(なゝつのかな)をもていひ出すべきを当世(いま)は春雨の五字(ごもじ)に作られしは俄哥の様にしていとつたなきわざになん覚ゆそを三弦(さみせん)の手附に」(一オ)た??咽でやりかへる上手振りされども作者の用心はまゝよ三度を手本として都々一ぶしをつくらばやと教る力もあらがねの土もて造る素焼の木偶の彩(いろどり)せねば艶もなく大きにお世話の仰も合点まだ革足袋の五十には踏込ねども老婆心?指(しやくし)にかゝつて
やつてかへりよと応需はしがきを
梅素亭玄魚誌」(一ウ)
梅素亭玄魚撰  五十点部
おもひ積りし高嶺の雪もとけてうれしき春の水(左慶)
蓮のひと筋かう骨折れどたえておかほもみづ葵(三ミセンボリ 餅好)
花の兄さん色香をすてゝ粋な実をもつ時もある(さくらだ 竹丸)
頓て夫婦(めうと)となるみのゆかた思ひ染たもむ???い(柳バシ 菊女)」(二オ)
あつくなつたをうわべえ出さずじつとこらゆる定斎売(小ナキ川 津虎)
わかれ/\と人には見せて水に浮草根はひとつ(松のや 孝人)
こゝろせかずにさめないやうに松と竹との末ながく(ふか川 かつ金)
秋の夜風の身にしみ/\と猪牙じや寒かろ天の川(本郷 雪幸)
雪にや枯木と見へても頓て花をさかせるはるもある(下谷 権政女)」(二ウ)
あんまりつらさにうつかりひよんと門へ出てみりやあきの暮(ふか川 千之)
初子/\と野引にひかれくるわのかり寐をまつの雪(もり本 青キ)
羽折着せわた背中をたゝききいた黄菊のもんどころ(カンダ 時成)
鳫の文さへもう帰りくされていまは便りもなしの花(武 ?ケ野 山幸)
ぬしに近江は美濃たのしみよ寐もの語りはかやの中(司馬 巴馬)」(三オ)
五月雨の闇に迷ふも恋路の習ひいつかはれ間をまつの月(水道ばし あさ寐)
桃や桜にや誰しもかよふわたしや野山で松ばかり(音平)
酒を嫌ふて牡丹餅ちや喰へど恋とさくらにや下戸はない(ときわ丁 ??次)
蒲団抱しめ身をふるはしてなみだのみこむ二日灸(?しんみち 文女)
はりにいつてもわたしじやゆかぬ窓や障子の穴じやない(羽衣連 かつみ)」(三ウ)
炭にたとへりやおまへは樫木おこりやわたしもあつくなる(寿扇斎)
文にやくわしく書てはあれどチリンコたのめばかただより(小ナキ川 出来内)
撫つさすりつ大事にされりや内に寐るときや柏もち(?レン 梅春)
山家育ちの藪うぐひすも廓(さと)へかわれりや歌をよむ(仝 花船)
すゑは女夫(めうと)とわしやまつ虫よきうりきつての身の願ひ(カ子ゝ 迷立)」(四オ)
気ぼねくらうも逢ふ楽しみもおもへば寒さもいとやせぬ(東両国 岩吉)
ぬしに淡路の夜はむり酒にかよふ廊下を千鳥あし(芝将ゲンバシ 巴藤)
さつしておくれよ花ならつぼみ万事いたらぬことばかり(カンダ 小藤)
もしやぬしかと月さすまどをあけりやかぼちやの影法師(ホン郷 都?気)
内の女房はさぞやきなべよはしもへだてぬさし向ひ(青梅ゝ 梅八)」(四ウ)
待も恨むもおとゝひ来なもつらひつとめの中にある(楽成)
月と柳の影おくいけにあそぶおし鳥りや鞠の沓(青梅ゝ 雨川)
眉毛かくした鳫がねびたいアレサかへ名をよびなんし(本郷 自然丸)
〆る障子におもかげのこすねやにうれしき月の梅(トキハ丁 花幽)
賤が伏家にさす月よりもしのぶ恋路はもれやすい(下谷 権政女)」(五オ)
今じやひかれぬ六日のあやめのぼりつめたる恋の意地(竹丁 綾女)
夕がほのはなの白きに七難かくすしづが伏家のやつれがき(水道バシ 一丸)
時せつまたりやうかアノ梅さへも春を待たずに花をもつ(???川 茂みち)
さえりや猶更うはきの月をわたしや頼まぬ胸のやみ(玉川 十次)
木の実(みや)木のもともまれて落てぬしの情でひろわれる(品川 袖丸)」(五ウ)
見てはわるいとかくせしふみをかほに紅葉のちらし書(神田 清花)
どふでおよばぬ深山のもみぢおもひそめたる木がしれぬ(ハマ丁 屋の)
ぬしの心になびかぬくさはなふてわたしを秋のかぜ(青梅ゝ 小梅?)
鏡蒲団にまことをうつしぬしをちからにうきつとめ(清元 寿磨太夫)
月につらるゝ身としら露ののぼりつめたる草の先(根津 起照)」(六オ)
軒に巣をくむ乙鳥でさえも辛苦しのゐでそへとげる(松寿斎)
ぬしの心は井づゝのさくらうつりやすゐに気がもめる(岩井 小志津)
つらひかなしい半季のうちを辛抱する気にや花がさく(シバ 巴馬)
覚悟きめても邪見な軒えつられるよはみの荵ぐさ(柳ばし こん助)
すゐな枝葉にかり寐のまくらしどけないのが蝶の癖(横山三 菊亀)」(六ウ)
うき名たつ浪恋地のやみにまよふつらさを啼千鳥(小ナキ川 不二の家)
●珠各前文略
番外十客之部  五十五点より八十五点迄
おもひわび介気計りもめどほんに逢瀬も玉つばき(?洲楼 好雅)
しのぶ約束誰が水さして氷る妻戸のうらめしや(羽衣連 栄扇)
ぬしの来るのをくよ/\待てばまたぬれんじに時鳥(本郷 しゞめ)
すねた梢を手管とやらでおつにからまる藤の花(小網丁 花見吉)
どうで届かぬわたしがこゝろ風の尾花のかたまねぎ(三味線ボリ あか厂夫)
たがひの思ひがかさなる手先人眼けせたる歌がるた(根津 角松)」()
つらいうきめにわしや近江●(がや)ぬしにつられて夜を明す(武谷ケ? 万事馬)
お気に障ろがかういふたらと案んじこほらす筆の先(二つ目 つばめ)
余所へひかるゝ事ともしらでひとり子の日のぬしを待つ(赤坂 かつら子)
雲に頼んで暫しがあいだ月のひかりをかくしたい(平の丁 ちう/\)」()
再考
三光の部
九十点
ふつと濃茶の口切そめて胸の帛紗がさばかれぬ(三味線堀 出たら女)
九十五点
おもひ次たす巨燵の火さへ痩て来る程まつつらさ(花憐堂 弾鳴)
百点
廓の桜も見あきてはやく見たいおまへの寮の菊(四ツ谷 菖蒲の屋 夢足)」()
鳩墻桃叟撰  五十点之部
どふで届かぬわたしがこゝろかぜの尾花のうたまねき(三味センボリ あか厂夫)
秋の夜寒を身にうちよせてあわぬきぬたのむら拍子(竹木)
ぬしに逢ふたらどふ庵崎とはなの顔見りやすみだ川(小ナキ川 田女)
しのぶ恋路もいつしか洩てぱつとうき名の立田姫(玉屋内 美なめ)」()
露の情につゐほだされて月も宿かるくさまくら(神田 はま女)
鏡ぶとんをまことをうつしふしをちからにうきづとめ(清元 寿磨太夫)
くやし泪と雨夜のほたるわすれかねては身をこがす(蜑の家 おか女)
花にゆふべは寐たれどあけのかねにわかるゝ八重霞(小アミ三 二兵)
切れる覚悟でかぶりはふれどいつかむすばる凧の糸(小アミ みよし)」()
ふたりがゑにしはアノ輪飾りよ丸くむすんでとけはせぬ(小アミ ?世吉)
雪が降てもぬしさへ来ればさほどつらゐとおもやせぬ(そり本 児もと)
寒苦凌ゐではる花さゐてすへは実をもつ谷の梅(芝カナ杉 秋江)
月に誠がうつらふならばぬしに見せたゐ胸のうち(バクロ丁 従駒)
こたつやぐらで恋路の角力あしと人眼の関が邪魔(藤?り)」()
紫陽花のはなに能似たお前のこゝろ替り安さの色ぐるひ(六けんぼり 元蝶)
ぬしは秋風わしや気をもみぢ色にやもえたつ胸の内(イヽグラ 三友)
ふらばふらんせおまへの癖よわしが泪の皐月雨(遠藤)
はれて逢れぬ二人りが中をむすぶの神かや朧月(柳園 喜彦)」()
おなじ花でも秋さくはなはじみでまことを立とをす(清元 徳造)
すゐたお前とわしや早乙女の二畝もさんせも替りやせぬ(外カンダ 寿喜)
つらきうきめにわしやあふみがやぬしにつられて夜を明す(万子?)
ふられた計りか雪にもふられうちじや親父が首をふる(青梅 家満)
来てはわたしに無理いふ紅葉鹿とさだめたこともなく(ヲトワ 里江)」()
余所へ引かるゝ事共しらでひとり子の日のぬしをまつ(赤サカ かつら子)
ふつと濃茶のくちきりそめてむねのふくさがさばかれぬ(三味センボリ 出たら女)
ぬしに近江の美濃たのしみよ寐ものがたりは●(かや)の中(うち)(シバ 巴馬)
人眼石洲芦屋の釜に首尾をまつ風茶立虫(松寿斎)
夏草の腐縁かよ姿を替て沢のほたるが身をこがす(さくら田 文字竹)」()
月と柳の影おく池にあそぶおし鳥りや鞠の沓(青梅ゝ 雨川)
賤が伏家にさす月よりもしのぶ恋路はもれやすい(下谷 権政女)
?華文略
番外之歌(五十五点より八十五点まで)
つらい悲しい年季のうちを辛抱する気にや花が咲(羽衣連 巴馬)
撫つさすりつ大事にされてうちに寐るときや柏餅(紫連 梅春)」()
結ぼれた胸の思ひもさらりととけてぬしに扇の凧のいと(シバ 巴藤)
底の冷たいこゝろとしらで迷ひましたよ雪の肌(下谷 芝扇)
炭にたとへりやお前はかたぎおこりやわたしもあつくなる(青扇斎)
わたしの眼当は那須野々扇ぬしをはづしてなるものか(トキハ丁 彫長)」()
浮名辰巳と八幡がねも余所にとめたよ朝しぐれ(かつしか 楽桃)
引よせて●(じつ)と見つめる柳の芽からぱらりと落せしひと雫(青梅ゝ 静女)
浮て花さへ水草なれどそこのあふ根はきれはせぬ(小あみ 角伝)
遊びながらに此しん生姜のびるわたしの茗荷竹(青梅ゝ 梅八)」()
三光之部
○九十点
気骨苦労も逢ふ楽しみとおもへばさむさもいとやせぬ(東両国 岩吉)
○九十点
今じやひかれぬ六日のあやめのぼりつめたる恋の意地(東ばし 綾女)
○百点
木の実や木のもともまれておちてぬしの情にひろはれる(品川 袖丸)
柳亭光彦撰  二十五点より七十点まで
秋の来たのかおまゑのそぶりうはの空なる月のいろ(三味センボリ 餅好)
梅にうぐひす竹にはすゞめわたしやおまゑをまつ計り(小ナギ川 出来内)
秋の夜寒を身に打よせてあわぬきぬたのむら拍子(三味線ボリ 竹木)
雪がとりもつ今宵の首尾はぬしとちん/\鴨の鍋(水道橋 糸安)」()
ぬしのこゝろは井筒のさくらうつり安いに気がもめる(岩井 小志津)
それと悟つて小耳をたてりやまたも水鶏がヱヽ馬鹿な(水道橋 春笑)
水のながれとわたしが恋は海の月かえ果がない(小ナキ川 もみぢ)
逢れぬ事かとまた呑酒に来ない知らせかつもる雪(村雨)
逢へば別れとさて知りながらかえしともなや雪の朝(三谷ボリ よね女)」()
はなはもたねど山椒をおみなまことなりやこそ実を結ぶ(小ナキ川 まさ)
のぼりつめたをしやくりにのつてきれてくやしき凧の糸(糸竹)
浮て花さく水草なれど底のあふ根はきれはせぬ(角伝)
逃した薮蚊のアレ憎らしい打にうたれぬあの寐顔(平の丁 三原)
切れる覚悟でかぶりはふれどいつかむすばる凧のいと(みよし)」()
娘ごゝろのたゞひとすじに星へ手向の恋のいと(本郷 三眉)
さとの桜も見倦てはやく見たいおまへの寮の菊(四ツ谷 夢足)
しのぶ約束誰が水さして氷る妻戸のうらめしい(芝神明丁 栄扇)
かゞみ蒲団に誠をうつしぬしをちからにうきつとめ(清元 寿磨太夫)
鴬の声もきかねば月日も知れぬ深山住居(ずまゐ)もぬしゆへに(よし原 嵐雅)」()
おつなかげんでむすんだ中をかぜが邪魔するいと柳(モリ本 とん馬)
ぬしが来たかと雨戸を明けりや月がわらふかゆれなみづ(小ナギ川 ??)
月は晴てもおまへの心やみの礫であてはない(下谷 鶴福女)
心せかずにさめなひやうに松と竹とのすへながく(深川 かつ金)
かやにふく浪まくらの舟にのるもすゞしき床の海(ヲトハ 里江)」()
茶にする心はさら/\なゐがぬしはちやにする雪の水(?丸子)
番外十客之部  七十五点より八十五点迄
すねた梢を手くだとやらでおつにからんだ藤の花(小あみ 花見吉)
旅のなさけに契りし恋は星野ひと夜の根なし草(紫レン 梅春)」()
聞も咄すも人眼をかねて背中あわせのすゞみ台(青梅ゝ 梅の戸)
頓て夫婦となるみの浴衣おもひそめたもむりはない(柳ばし 菊女)
しのび足して閨の戸あけてそつとたちぎく虫の声(横山三 小松兼)
主に近江は美濃たのしみよ寐もの語はかやのうち(司馬 ともへ)」()
露の情の色香にそみていつか逢瀬を菊の花(三味センボリ 餅々)
氷る硯にゐきふきかけてこぼす泪にしめる筆(二つ目 あきら女)
五月雨の闇に迷ふもいつか恋路のならいはれ間を松の月(水道ばし 朝寐)
こたつ櫓で恋路の角力アレサ人目の関が邪魔(シバ 藤暮里)」()
三光之部
九十点
色気づゐたよあのほうづきも人目なければちぎられる(御舟蔵前 ゆたか)
九十五点
ぬれて色ますわか葉のもみぢすえにやうき名のたつた川(小アミ 梅中)
百点
露の葉ごとに照りそふ月はどこへ誠をうつすやら(二つ目 つばめ)」()
紫連補助之部
硝子(びいどろ)の中におよぎし金魚でさえもぬしにつられて気がもめる(菊の屋 秋月)
山吹の色に迷ふてうき名はたてど当座の花には実がならぬ(香琳舎 春?)
青いすだれのうちからのぞく花がめにつくさくら草(春道 楽成)
風の便りに任せて逢ふてうれし泪の落葉川(江左? 花船)」()
泥にや咲ても江戸紫はいろに根づよひかきつばた(山泉舎 彫長)
ぬしに逢ふのはよい緋ざくらよつもるはなしも山ざくら(後見 蓬斎 東琳)
玉章のあつまりたるを見て
余所の恋路と浮気な花をよせてながめて気をはらす(催主 梅の家 梅春)」()

はなし声さえかすかになりて更行閨にきり/\す(東都 柳亭 光彦)
二タツ来たよりひとつがゆかし花にゆらるゝ蝶の夢(鳩垣?叟)
はたからおまへの噂をきけば逢ふたはじめをおもひ出す(梅素亭 玄魚)
東琳書画」()

〈以下、後半〉
花のくも鐘はうへのか浅草か。趣向つくえにのしかゝり。これをかうしてあゝしてと。むねのやりくりもくさんも。つかひはたしたすりこぎの。筆ならなくにはや料を。むさぼらんとて急げども。元来(もと)が遅筆のそのうへに。まだ書つけぬしどゆへ。案(おもひ)のほかに日も延れば。道駄先生まだかいのと。伊勢庄(はんもと)さんのさいそくに。やつと書上(あげ)たるどゝいつぶし。草や上野の花ならで。ぽつぽにかねを入相や。これでこゝろもすみだ川。とうかれだしたる都々一ぶし。其ため稿料さやう
文久戌の終春 松島庵主人記」(一オ)
い いつか/\とひとめをかねておもふばかりもこはんとし
ろ ろうつかづたひに人めのせきをあげてあふよはほつといき」(一ウ)
は はやくくがひをめでたくかしくかへす/\のないやうに
に にくひしまとぶつ/\すれどあへばかはゆくなるいんぐわ」(二オ)
ほ ほどもきりやうもすぐれたおまへほかにあなでもなけりやよい
へ へいぜいわたしがいけんもしたがわかれのつらさにいまのしぎ
と とふにやおちいでかたるにおちるなんでこんなにのろかろう」(二ウ)
ち ちよひとおまちよきものをおくれびやうぶのかゝ子が見るわいな
り りひはともかくおんなのじやうでしじうそはずにおくものか」(三オ)
ぬ ぬるまゆをぐいとひと口くちからくちへあつひばんだとほつといき
る るいはともとて身につまされてのろけばなしにきゝ上手
を をもひからさきじせつをまつちしゆびをまつみのながしぶね」(三ウ)
わ わたしが思ひの十ぶんいちも思ふてくれたらうれしかろ
か かごのとりとはまがきのおしよくわたしやこみせのきり/\す」(四オ)
よ よく/\こゝろでりやうけんしてもきれるこゝろはでぬわいな
た たにんのせじにはのられぬものよしんせつごかしでしたをだす
れ れんじがしらめばおへやへきがねすそにかくるるながろうか」(四ウ)
そ それよりしてよあけがらすにつひおこされてあかぬわかれのほとゝぎす
つ つきぬゑんかよ恋しきひとにめぐりあふたる高やさん」(五オ)
ね ねぐらいづこぞのずゑの雁よ月もてらすにふたりづれ
な ないてうれしいゆふべのかわりわらつてせつないこのざしき
ら らちもないことさもぎやうさんにないてじれたりわらつたり」(五ウ)
む むすんだまゝなるかれのゝすすきにくひよかぜがみにしみる
う うたぐりぶかひとさげすまるゝもみんなおまへのためばかり」(六オ)
ゐ ゐつゞけもたまのことだとひとよがふたよつもる思ひがみのつまり
の のちはたがひに心とこゝろしよてはうはきが小だのしみ
お おつなはりからついかふなつて今じやひとにもきがねする」(六ウ)
く くらひいゝわけはれたときいてすこしあんどの明りさす
や やくやもしほにみをこがれつゝぬしをまつをのうらの茶や
ま まゝになるよでならぬがうきよかさきてくらしなひとごゝろ」(七オ)
け けんばんのふだをけづられどきやうのねじめどふかいとみちつくだろう
ふ ふられながらもまだうぬぼれてたまにやひとりでねるもいゝ
こ こゝろにかわりはゆめさらないがすねてみたひが恋のよく」(七ウ)
え 江どのよたかはなにはのそうかそはぬながらもひとよづま
て てづるもとめておくりしふみがいまはうきなのひやうばんき
あ あげる花火とうわきな恋じによりましたよあとがなひ」(八オ)
さ さとのいきぢでいまゝでよんでなんでうはきをだすものか
き きくたびにもしやぬしかとかうしにすがりきけばすけんのそゝりぶし
ゆ ゆきつもどりつこゝろでしあんうちのふしゆびもあんじられ」(八ウ)
め めはしきかしてそのばをはづしたれしも恋路はおなじこと
み みれんらしいがきれたはほんのとふざのがれのくちふさぎ
し しあんするほどしあんはでずにたまにでるのはぐちばかり」(九オ)
ゑ ゑいざめの水にすましたくぜつのもつれはらのさうじのかんびやうする
ひ ひろひせかいに三つのめいしよふじにまつしますみだがは
も もつれかゝつた恋路のいきぢうでやちからでいくものか」(九ウ)
せ せめてひとよはふじのゆきつもるおもひをうちとける
す すへのすへまでもつれてとけてむねのやなぎに恋のかぜ
京 けふといふけふはれてのめうとありの思ひもてんしやにち」(十オ)
おだわらぢやうちんぢゝいがさげてよつめのもんとはぢんばりか
そのさけをとめちやいけなひのましておくれよはしておかねをみんなとる(すりよし作)」(十ウ)
やまがたもいまはとばりでどくたいひじみみ〔(清おちうど)はたもおりそろちんしごとつねのおなごといわれても〕おまゑゆへならいとやせぬ」(十一オ)
うめにうぐひすたけにはすゞめなぜにわたしはまつばかり
人がそしればわたしもそしるかげであふたびなくばかり
ゆめのうきはしわたらばふねと思ふにかいなきこのはや瀬」(十一ウ)
こゝろかよへどひとめのせきにめがをばかりのぢれつたさ
ひとめありやこそみすじのいとでひいてきかせるわしがむね(さくらもち大黒屋内かね)」(十二オ)
びいどろのきれいないれものぱつちりわられしろざけながしたひなのまへ
ヱヽもぢれつたいとなりのしやみよひとはふさぐにあのさわぎ」(十二ウ)
はやくなりたひわたしのねがひいつまでしらはでおくのだへ
思ひあまれどいひだしかねてかほにもみぢのあいらしさ(ふく本やきく川さく)」(十三オ)
てぬぐひのぬげぬほどわがうちをばかぶりこもつかぶりもしやれたもの
おたがひにしれぬがはなよせけんのひとにしれりやたがひにみをかくす(本ていさく)」(十三ウ)
〈以下欠。途中に欠ある如し。〉



12風流雑詩よしこの 初編(文久四年刊。近江屋卯兵衛等六書肆板。)
風流雑詩よしこの
初編」(表紙)

或る朋友と連れあふて東山の畔にはなを尋んと東北(あちこち)ち蹂躙(ふみめぐ)り花の都の春のいろ価千金と賞美しつ流石鴨東の賑しく一歩は高く一歩は低く足も滄浪に酔る客片手につぼみの花を取り開けるはるに傍(そひ)かゝり陌頭楊柳枝已に春風にふかれ抔と●(うた)ひ行を見ながら」(序一オ)おもわず青楼に登り一酌(ひとくみ)傾けんとせしに朋友懐ろより小冊(ふみ)を取いだし近頃唐詩(からうた)を交し唱歌(よしこの)を作りなん願くば足下(きみ)序を加へ給へと彼冊子(ふみ)を手にとり数句を●(ぎん)じ曰く夫れ詩は性情を頌(の)べ花鳥風月を詠じ或は慷慨宿志を述るものにあらずやしかるに軽薄らしき俚諺に比するとも雲泥の違ひといふべきなりされども古人の詩にも閨」(序一ウ)中の情を穿ち良夫を思ふ切なるを頌ぶ唱歌(よしこの)も此情に於ては同理なりたゞ淫奔のみなず聊か貞操(みさを)の意気をのべ彼(かの)少女の悟道の一端(はし)ともならんか朋友曰善哉(よいかな)/\と酒を酌(くみ)ながら青楼のはなしを書記し序となしぬ
于時文久四子の春
超碌斎撰并書」(序二オ)
(絵)」(序二ウ)
いまは都でくろふをすると〔挙頭望山月低頭思故郷〕かぜのたよりにしらせたい(重樹)
わけを聞ねばさぞはらがたと〔落花両是催花雨一様檐声前後情〕わけをきかんせ誰れがため(晩香)」(一オ)
淡じしまかよふ千鳥がものいふならば〔隴山鸚鵡能言語為報家人数寄書〕主しにことづてきかせたい(環山)
やけじやどやけじやこうなるからは〔越山併得能州景任他家郷懐遠征〕たとひいづくのはてまでも(仝)」(一ウ)
人をたすける身をもちながら〔巫山一片朦朧月早聴天龍五夜鐘〕にくやよあけのかねをつく(芳翠)」(二オ)
ひざにもたれてかをうちながめ〔力抜山化兮気蓋世時不利兮騅不逝騅不逝兮可奈何虞兮虞兮奈若何〕といふてたがいに目になみだ(晩香)
恋でやむのをおやたちやしらず」(二ウ)〔気出病気多用時不来兮●不利●不利兮可奈何愚兮愚兮奈難儀何〕くすりのめとはきよくがない(環山)
ぐつとだきしめかをうちながめ〔古来容光人所羨况復今日遥相見〕うつくしいのがわしのつみ(仝)」(三オ)
硯ひきよせすみすりつけて〔雲乎山兮呉歟越〕どうかきやたよりがとゞくやら(仝)」(三ウ)
つとめすれどもかねにはほれぬ〔不許千金購妾身妾身可許有情人〕じつとなさけの人がぬし(重樹)
いつかふたりがせけんをはれて〔荊釵早晩為君婦語尽当年旧苦辛〕いまのくろうがはなしたい(仝)」(四オ)
こがれ/\て逢ふ夜はしばし〔夢中夜々曽相見相見翻疑是夢中〕のこるあしたのものあんじ(晩香)
月ひ立のもさてはやいもの〔日々川辺見水流傷春未已復悲秋〕くらふしたにのもひとむかし(仝)」(四ウ)
主しにみさを立たるいきぢ〔十有九年金鉄腸海風持節卜帝陽縦死不飲匈奴水囓雪喋々拝漢王〕たとゑぶたりよがころさりよが(仝)」(五オ)
けいせいにまことなしとはそりや誰がいふた〔世間結交用黄金黄金不多交不深〕じつもなさけもかねしだい(環山)
主しの旅でをいはふたさけも〔勧君更尽三杯酒西出楊関無故人〕るすとおもへばきがふさぐ(仝)」(五ウ)
ぬしのうわきがこゝろにかゝる〔陌頭楊柳枝已被春風吹妾心将断絶君懐何得知〕ヱヽマじれつたいどうしよね(重樹)」(六オ)
二世も三世もさきのよかけて〔得成比日何辞死願作鴛鴦子羨仙比目鴛鴦真可羨〕ふたりこうしてくらしたい(重樹)
〔蜀魄千年尚怨誰声々啼血向花枝〕あふよまつまのまどの月(晩香)」(六ウ)
月とあざむきあるひはゆきと〔扶桑第一梅今夜為君開欲知花真偽三更踏月来〕見せてかをれる梅の花(仝)
世じのよい人またなにごとも〔剛毅木訥近仁者〕じよさいない人じつがない(環山)」(七オ)
とこはなの人が手をつくきうくつよりも〔誤被載得文王帰一竿風月与心違〕さとで??くにさくがよい(環山)
梅のにほひかさくらのはなか〔停車坐愛楓林晩霜葉紅於二月花〕いろにおとらぬこのもみぢ(仝)」(七ウ)
はやくいこくをうちたいらげて〔長安一片月万戸擣衣声秋風吹不尽総是玉関情何日平胡虜良人罷遠征〕主しがみやこに月をまつ(仝)」(八オ)
身とさやをしかとしめつけさげをくとりて〔倶邀侠客芙蓉剣共宿娼家桃李蹊〕しのぶこひ口ふちかしら(環山)」(八ウ)
主しにまかせたわたしがいのち〔仗剣行千里微躯敢一言会為大梁客不員信陵恩〕もしもちがへばしぬかくご(重樹)
はかまはかして羽おりをきせて〔欲別牽郎衣郎今到何処〕どうぞみちよりせぬやうに(環山)」(九オ)
二どのつとめも子ゆへのやみよ〔雪圧笠檐風捲袂吼々索乳若為情〕すゑでおつとの名を立てよ(環山)
主しをおもへばてる日もくもる〔三更枕上両行涙半思君半恨君〕はれる月よもやみとなる(豊房)」(九ウ)
野でも山でもわしやいとやせぬ〔願作軽羅著細腰願為明鏡分嬌面与君相向転相親与君双棲共一身〕よくもくらふもぬししだい(重樹)」(十ウ)
月はかくるゝよあけのけしき〔月落烏啼霜満天江楓漁火対愁眠(ブンゴ)いまなるかねはアリヤ山でらのよなかのかねハテナ姑蘇城外寒山寺夜半鐘声到客船〕ゆめでありしかあけがらす(環山)」(十ウ)
思ひすごしてゆびをばくつて〔年々歳々花相似歳々年々人不同〕のちのしあんをさきにする(仝)」(十一オ)
こゝろならずもわがとちはなれ〔縦横計不就慷慨志猶存仗策謁天子駆出関門〕しらぬたこくでくろふする(環山)
二本さしたるさむらいさんも〔更把玉鞭雲外指断?春色在江南〕いろに目のない事もある(仝)」(十一ウ)
それはもふそれはもふ/\それはもふ〔身是三千第一名内家叢裡独分明〕それはもふ/\すきな人(晩香)
思ひだしやにこ/\ゆふべのこんや〔翡翠屠蘇鸚鵡杯羅儒宝帯為君解〕ねてもさめてもわすられぬ(環山)」(十二オ)
ゆめになりともまいどみたい〔娥眉山月半林秋〕ふじのしたいに月のまゆ(環山)」(十二ウ)
こうしてこうしてこうなるからは〔娥々玉顔紅粉粧花際徘徊双●蝶池辺顧歩両鴛鴦〕あとはいわいでもしれた事(仝)
かぜがふかうが夕だちがしよが〔縦??夜風吹去只在蘆花浅水辺〕ぬしに逢ふまでのきのした」(十三オ)
ふとしたことからかんしやくざけに〔一杯一杯又一杯両人対酌山家開吾酔欲眠君且去明朝有意抱琴来〕またもいねとはどうよくな(環山)
おまへあるゆゑおちよぼにままでも〔傷心楼上客〕いらぬきがねに日を?す(不羨)」(十三ウ)
遠ざかりや遠ざかるほどあいたいものを〔一日不見必三秋〕日々にうとしと誰がいふた(環山)」(十四オ)
わしをひかせたおまゑのきしやう〔一擲千金総是擔家無四壁不知貧〕こうなりや手鍋??ろふでも(環山)
宵????てあさねをすごし〔春眠不覚暁処々聞啼鳥〕いやな鐘さへきゝわすれ」(十四ウ)
二編三編追板仕候
書林
京四条通冨小路西江入
 大文字屋久七
同四条通?田小路東江入
 鶴屋万助
大坂心斎橋馬喰町角
 河内屋茂兵衛
江戸芝神明前
 岡田屋?七
尾張名古屋
 永楽屋藤四郎
京醒ケ井通五条上ル
 近江屋卯兵衛」(裏見返し)



13 (よしこの恋の栞)(慶応元年刊。四書肆板。)

恋の栞今二編に及び粋子腸を練て人情の玉を吐く其艶のよろしきを拾ひて爰にあぐる好人ころばして糸竹に唄ふときは猫も鼠の珍客を忘れ狸も枕をあげて」(見返し)
耳を澄す夜鷹そばも風鈴の音をとめて格子にきく又短かくして其意の通ふ事是なんとしか云
慶応元
乙丑の夏
北楼舎
文呉」(一オ)
(絵)」(一ウ)
(絵)」(二オ)
太平館若本撰

高ひも低ひも登りて見れば峯はひとつの恋の山(都 柳哥)

うつり安さのその月にまたかわり安さの影法師(花友)
大尾
先のわからぬ苦労をしては跡へもどらぬ日を送る(都 道生)」(二ウ)
薄ひ情の氷を踏で深くはまりし恋の渕(楠若)
思案する手がまた胸先で苦労させたるぬしの夢(玉兎)
好たよく目かはてどちらから見ても美し雪の松(一暁)
逢はにや直らぬわたしの病ひ癪の薬にほしい人(都 短丸)」(三オ)
月をまつ身にすか屁をかましそれたべかこのほとゝぎす(花若)
今は人眼も世間も義理も捨てかゝりしわが命(都 旭侯)
逢へば迷ひの薄雲はれてこゝろ涼しひ夏の月(梅叟)
教外別伝(きやうぐはいべつでん)手管の外に勤はなれて惚た人(ミノ 因果)」(三ウ)
ほたろ集めてよむよな文に今は机も闇と成る(器水)
はな毛のばしてうか/\行ば穴(け)つ毛抜れて眼が覚た(花酔)
適(たま)に首尾して逢ふ夜の空に〔(夕霧廓文章)(哥)澄はゆかりの月の影(詞)アイツノ心底あの様に有ふとは(哥)おもわぬ人にせきとめられて〕けふも出てこぬほとゝぎす(鈍?)
筆のまわらぬ文から逢へば廻り過たる口車(玉蘭)」(四オ)
忍ぶ恋路のその抜け道は義理と人目の関破り(都 松蔭)
誠云ても嘘じやといへばさきの誠も嘘であろ(梅叟)
世帯持たら朝寐が宵寐胸のかわりに飯こがす(鹿子)
浮気者じやと互にいふてきれぬ互のうわ気もの(在遠州 舟甫)」(四ウ)
嘘をついたりうわ気をしたり恋の旅路のごまの灰(花岩)
畳ざんして待夜の閨は月と癪とのさし向ひ(鈍斎)
言はじ悋気とかんにん袋ぬふも心の針仕事(永楽や 照まつ)
異見するその世間の人に〔傾国傾城漢武帝/為雲為雨楚襄王〕是が一々聞せたい(花友)」(五オ)
てれん手管にてんてらてんと成てよだれの綱わたり(因果)
ゑひもせずけふ相改てもとのいの字に逢もどり(都 丸川)
身上り上手に遣りくり上手とふど命がたゞに成(尾白)
うわの空なる月見てさとりやたのまれぬ世の人ごゝろ(梅叟)」(五ウ)
好た人ならかならず末の為にならぬと聞異見(新桔梗屋 千代松)
心尽しの文見るさへも人眼ゆるさぬ文字が関(器水)
好た惚たのうわ気の花は遠ざかる間に余所へ散る(道生)
好に添ふたらもふそのうへは寐てゝおししがして見たい(梅叟)」(六オ)
医者の手にさへ合ざる病ひ〔(小簾戸)癪に嬉しき男のちからじつと手に手をなんにもいわず〕直す御方が起す人(道生)
おなじからざるあまたの人に咲は勤の里の花(玉兎)
かわひさ余りて百倍まさるにくひ男にやる命(新桔梗屋 君勇)
一夜ながれのうは気な水は渕となりても瀬とかわる(花友)」(六ウ)
好な御方に逢ふ夜はなぜか宵のこゝろでふけるやら(梅叟)
きれぬあく縁因果と/\死なにややむまい此苦労(因果)
どゞのつまりはお金のさたとなりて節季は地獄行(丸考)
苦界はなれて世間も晴て〔(新内伊?)手づから移し?飯焚てコリヤ内のものこちの人翌はどふしてこふしてと〕はよふいひたひいはれたい(因果)」(七オ)
花は桜と世上のうわさ人はぬしより外にない(因果)
大事の/\命も今は捨にやとゞかぬ我が誠(都 短丸)
ゆびを折のし命につけて逢日添日をまつ長さ(青娥)
首尾は上々嬉しく逢て日本一つによせる閨(玉茶)」(七ウ)
愚痴なせりふに風波かわり〔(浅妻)〕楫のとり様がないわいな(楠若)
明ていわれぬ心のうちは愚知にかたまるぬれ扇(長門ヤ 千枝)
鼬親父に道きりしられすか屁たれ/\あと戻り(花若)
たより聞ふとまつ身のつらさ待す身にしれほとゝぎす(新桔梗屋 染松)」(八オ)
爪づく石から火の出るよふな苦労して居る恋の闇(花友)
一度見て好二度見て迷ひ三度見てから癪をしる(松蔭)
折べからずと花ものいへば散べからずといふて行(丸考)
ひいた霞みの眉根にほれて糸の有たけ登る凧(いか)(昔庵)」(八ウ)
互にこゝろのしれたる別れとめぬ我身のその苦労(可祐)
思案の外かよ両手をくんで見てもあきらめられぬ恋(晴花)
起請誓紙にからだを任しや人の異見はみな反古(ほうぐ)(花楽)
北海舎文呉撰」(九オ)
秀逸
好に逢ふてはなぜ長き夜が宵のこゝろで明るだろ(梅叟)

約束した日もまたのべ紙で泪ふくよなつらいわけ(仝)

思ひきる気の出ぬ思案からおもひ切たる我命(丸考)
身にもしみ/\聞淋しさは先に?たつ風の音(器水)」(九ウ)
けふは待たんせかなしひ時にいく度かへした朝もある(花友)
おなじからざる数多の客に咲は勤の花かいな(玉兎)
そでない人じやと振ても見たが尽されてしる先の実(青娥)
夢も結ばずむすんだ帯もとかでほどけぬ胸の中(因果)」(十オ)
夢の浮世にゆめ見て居ても好は夢にも侭ならぬ(花友)
人の噂にかた腹いたきもしやそれなら癪の種(因果)
腹のたつよな文遣たならおこつてなりとも来るであろ(永楽屋 色葉)
てきとざこ寐の計略はづれ泪落武者朝もどり(花若)」(十ウ)
なんにもしらはの身は先任せいろは染人(そめて)のはらにある(花月)
こわひ浮名が高入道と化た夢見て汗をかく(都 うつゝ)
うつり安さの月影見ればひづみ安井くさのくせがある(花友)
否(いや)にすかるゝよりましかいなきらわれた身に好な人(道生)」(十一オ)
やるかたなけねば只眼のさきへへばり付たるぬしの顔(松陰)
恋にや雲井の位もすべり草の露にもやどる月(尾白)
たしなんで居ても/\好は我からたつ浮名(道生)
うつむくもありあをむくもありなくか笑か百合の花(花月)」(十一ウ)
うしや窓とふ月より外に舎(やど)るものなき我袂(器水)
訳の分つたわけよりふつと訳のわからぬ訳となり(道生)
桂男と聞くくや留主の夜半閨へもらさぬ月の蔭(梅叟)
いやな客にもまた義理があり好をすかれぬ勤の身(道生)」(十二オ)
来なんすお前の深切あらば約束して待事はない(梅月)
医者もさすりも玉げる計り〔癪にうれしき男のちからじつと手に手を〕なんにもいわずなほす人(道生)
かわる浮世につれてやかわる人のこゝろのきのふけふ(楠若)
勤の中にも通ふて見れば実もまんざらないでなし(梅叟)」(十二ウ)
道は一すじとは思へども恋は思案の横田川(花友)
逢へばうらみを数とり丈のたつた一つがいひにくひ(九考)
むりと申さぬ其うたがひは侭ならぬもの勤の身(新桔梗屋 満まつ)
今は愛相も月去りながら雲を掴んだほとゝぎす(都 英洲)」(十三オ)
便りなき身は夜を更してもねむけうしなふ時鳥(永楽屋 梅?)
なれて程よくなる眉刷毛はやつれ過ても捨にくひ(永楽屋 添路)
いやといふたはこちや好きくのうら口にや世間の義理もあり(可石)
思ふ程なほつれなくするは男ごゝろの常かいな(うつゝ)」(十三ウ)
忍ぶ垣根によき辻占は男結びのわらびなわ(可石)
我をうらみてあきらめたなら先に不足はとんとない(翠雨)
嘘も真事も今はがための花の匂ひのよしの椀(梅叟)
あれも浮気かおのれの陰に退(のか)ふそぶりの水の蝶(花友)」(十四オ)
ちよんと二人が合ふ相図とはしらず拍子木余所に打(都 旭侯)
けふやきのふとたつ日はあれど添ふといふ日はいつであろ(新桔梗屋 君勇)
私しの命は天にも地にも一人よりない人のもの(花友)
祈る神にもつれなき人の罪は如何と案じられ(きよし)」(十四ウ)
迷ふ胡蝶の行先見れば花に仇なる色はなし(器水)
かんにん仕なんしいふたはほんの立し浮名の口ふさぎ(永楽ヤ 以呂波)
待が花じやとおもふて居ても早ふ添たふなるわいな(松陰)
后(のち)のこゝろにくらべて見れば合見んむかしがましかいな(横スカ 江豊)」(十五オ)
花評
一樹園楠若

真の情のこゝろの花に含む泪の露を置く(調松)

けふを楽しみ苦しむあすの苦げんしらでや月よ花(都 柳哥)

千辛万苦をする其中にのぞむ願ひは只ひとつ(鈍斎)」(十五ウ)
縁を結ぶの神なし月は日毎泪の時雨空(花友)
好じやわいなといふたる跡の詞残りをつゝむ袖(梅叟)
花は二八に色香をまして月は三五よみち渡る(調松)
雲井はるかに聞厂がねの文もうれしき初便り(花友)」(十六オ)
逢へば気が張り涙もむねにかくす苦労に余る愚知(永楽や 濃婦)
花評
竹露軒尾白

恋は曲者いやおふなしにやぶるたがひのこらへ錠(調松)

おのがこゝろにうたがひはれにや先の真事も嘘に聞(道生)」(十六ウ)

いふはいわぬよ弥増るとは誠ごゝろのとゞきあひ(丸彦)
一から十まで弁へさんす人にあるある真事(花友)
初手に二ノ足踏さへすればこんな苦労はせまいもの(丸考)
閨の障子に影うつり香の東風(こち)と答へてかほる梅(新桔梗ヤ 染松)」(十七オ)
閨月こそ浮世にいらぬ勤する身の年の外(梅月)
追加
誠ごゝろが天までとゞき月をなかせる郭公(わか本)
済ぬこゝろをまた取なをし我をたらしてする勤(北梅舎)」(十七ウ)
花評追加
憂に絶ざるなみだの雨に晴れぬ皐月の胸の闇(美山亭 楠若)
待日の長さにしほれし花も露の便りに色をます(尾白)
追加
会主 竹林社
濃ひも薄ひもみな其人のこゝろ/\に染る色(浮世庵 丸考)
人の迷ひの雲皆はれて嬉し月見の小盃盛(こさかもり)(不老軒 花友)
ほんのお客で勤る気なら笑ふていくも済わいな(春草庵 梅叟)
書林追加
翌日(あす)と首尾して涼しい便り待も流れの御祓(みそぎ)川(蝶鳥館 花世)
さめて心に思ひが残り夜着に未練の夢ごゝろ(琴調舎 糸人)」(十八ウ)
よしこの
恋の栞
五編迄追々出板売出し申候
竹林社蔵
江戸 山城屋佐兵衛
大坂 河田屋和輔
京  田中屋治兵衛
尾陽 永楽屋?」(裏見返し)



14 梅廼栞 二篇五(慶応二年刊。河内屋佐助等二書肆板。)
梅廼栞 二篇五」(表紙)
(絵)
木津川口之紅葉
約束のやうにしぐれのやどりかな
半水」(見返し)
(絵)」(一オ)
当座かるのは承知でほれてあわぬふそくの無理を言ふ(花雪)
誠聞ひても逢ねばじつとおもひなほせぬむねのうち(恋糸)
聞のがいやなら浮気をやめて言しておくれな愚ちな事(冨士丸)」(一ウ)
うらみごとさへ笑がほにまぜて言ふももしやゆと気の案じ(松樹)
今がむかしのはなしとなつてそばで月日がおくりたい(里?)
おもひほそりし此手まくらが幾つくたびしびれて待たやら(野?)」(二オ)
宵にや他人のおまへに今朝はわかれとむなひ気になつた(夢三幸)
余所で寐さんす夜はお前よりうちでわたしは夜をふかす(冨士丸)
わたしを女房と極めておゐてそして浮気もさんすなら(夢三幸)」(二ウ)
苦労がふへたで夜も寐安ひよ他人で居たまの来苦労さ(七化)
おもひだしてはまた癪のたねじやとて忘れてくらされず(梅窓)
ほれた気性が可愛くなつて罪なおとこにたてる実(花雪)」(三オ)
にくひよ憎なひそのしんせつが命よきらひとすきに言ふ(野暮)
折にや言んせ嘸つらかろと気づよゐおまへの口からも(糸調)
先がきれたと筆投すてゝあどけなひ気であんじ立(東雲)」(三ウ)
かくすおまへの気がしれてから誠らしひが気にかゝる(千代一)
おまへの浮気をとめたひ計りツイ言すぎもするわひな(?照)
言ふておくれなアレまたそんなお人ちがひの気やすめは(哥目)」(四オ)
やさしふさんすりや又うれしさに泣よをんなの愚ちとして(朝鳥)
三日なりとも気をいれかえておまへにさせたひ此苦ろう(哥楽)
人のりんきで身はやせねども実あるふたりを見るにつけ(無名)」(四ウ)
いはぬふくが騅よと見通しつけてそしてうらむよこゝろでは(黒人)
男に勝気はさら/\なひがしかしまけぬよ実意には(七化)
別るゝかぎりがあるかとおもやあふて居ながら身につかぬ(無名)」(五オ)
せめてけふだけ鐘きゝすてゝ去ばこふして居さんすりや(古游)
苦にした鐘には苦がなひ様になつて苦がまたひとつふへ(夢三幸)
言ひ当られたるそのひと言でまた無理ざけを呑つらさ(草ろ)」(五ウ)
わたしが命は進上します主の浮気をためにして(南 素梅)
実意なおまへに言れた事はうそほどうれしふおもはれる(東游)
今宵計りがあふ身でなひとすて言いふのも未れんやら(花雪)」(六オ)
いやであろとも斯ふるあめに寝て居にやさんせよ晴る迄(文箱)
逢たはじめが鐘きゝはじめうらみはじめが苦のはじめ(桃玉)
また陰でなくなみだの仕いれ逢て笑がほをつくる間に(済々)」(六ウ)
わすれたふても忘られなひよどふすりや忘れよとおもふ程(耕)
しびれるほど迄この手枕をさせてもたらぬよわたしには(古游)
其ばのがれにして去なさんす気からできたよこの苦ろう(黒人)」(七オ)
言ふても/\言ひたらぬはづ聞ひても/\きゝたらぬ(松枝)
あふたびもらさず言ふ真実を主や聞ずてに仕やさんす(花雪)
鐘やからすを恨ぬやうにあかしてくらすは?(いつ)じやゝら(南 素梅)」(七ウ)
こがるゝ計りで逢たらなひで苦ろうの仕すごしするわいな(無名)
適(たま)の夕部に無理言ひすぎて今朝はわかれに泣ばかり(梅窓)
すげなひそぶりがおまへの傍でけがにも出けうかほれた身で(玉司)」(八オ)
隠して居られずツイ余所事にうれし余りをいふわいな(??)
たんのうさゝれたその気休で猶かしあんじ?ぬしの胸(白燕)
起しや去(いぬ)るし寐させて置ずまよふしばしにあけのかね(梅陰)」(八ウ)
逢たいゐん果が度重なつていたらぬ苦ろうに巡り合(花雪)
夢にゆめ見る程ほれぬいてさめても/\覚やらぬ(桃玉)
止たさ一ぱい去さにやならずいく度寐がほをのぞひても(紫光)」(九オ)
こんなよゐ首尾よい言ふ折と口まで出てさへひとことが(無名)
去(いな)しにくひといふ素振よりあひに来た身の去(いに)にくさ(夢三幸)
可愛がらるゝをとこでなくば可愛がらりよと気はもまぬ(黒人)」(九ウ)
おとこ自まんでゐる人にほれ苦ろうじまんで居にやならぬ(松樹)
言ふはいふたが又あんじ立するよまた逢ふその夜迄(藤一)
逢度(あふたび)たましひ抜るゝからはやせるようはさを聞く度に(都鳥)」(十オ)
たれゆへ痩たと問るゝつらさそれを苦にしてなほやせる(夢三幸)
虫もころさぬやさしひ顔でをなごころして居やさんす(都鳥)
明て言れぬこの夏やせをあけていひたい人は来ず(空丸)」(十ウ)
好たわたしのむしころしたらいつそおまへのつみもへろ(??)
一度はおまへも泣して見たいわたしほどにはなかずとも(東雲)
起て去(いな)んせモフあしもとがあかくなつたらけつまづく(七化)」(十一オ)
他人が聞ては他愛もなひがほれたふたりの実ばなし(東游)
またの首尾とてモフ去(いな)んせと其あきらめはなんとして(枝雪)
嘘に聞へりやうそにも聞てしばし聞気になりやさんせ(松樹)」(十一ウ)
しんからほれたと人にも言へずましておまへにや猶いへず(花雪)
逢としつたら此苦労くはせまひましてやおまへもその気なら(枝雪)
常に似合ぬすなをな返事また出し抜に仕らりよかと(涌々)」(十二オ)
すねて寐た夜は背中も腹にかはりやすひよすいた中(枝雪)
人眼ですげなふ言んすことゝしつて居ながら気にかゝる(古游)
わたしのこゝろは言ふ迄もなひおまへのこゝろがかはらねば(黒人)」(十二ウ)
つんとすね言いふたもぬしのどんなこゝろとしりたさに(鹿丸)
おまへを見る様に浮気はせぬよ似たはめぬとゝ言ひながら(玉司)
命まかすとあかしたほかにわたしの誠はなひわいな(可翠)」(十三オ)
降つゞひたるなみだのあめはぬしの浮気がやまぬから(歌楽)
今宵はとめずとかへしもすると言ひつゝはなしを引のばす(雪彦)
モフくやんでも抜くくさしやならぬそへにや死ぬ気よ夕部から(浮照)」(十三ウ)
口まで出たれど言やいひ負るモフ言ひませぬようらみ言(千代一)
あふた日数にや私や入りくられぬ顔見たばかりで去しては(涌々)
きつく言れりやたゞなくばかり言ひたいうらみはあるとても(蛇水)」(十四オ)
どふか浮気が薄らぎかけりや遠座かつたよわたしには(可香)
今迄すげなひおまへの癪がなほつて今さら苦をふやす(素一)
別にかうしてまたどふと言ふ人じやなけれどむしがすく(素洞)」(十四ウ)
わるひ附木のたきつけりんき気がもゆるほどはらが立(玩水)
花や雪にもます楽しみは月の眉毛をとつてから(貴笑)
余所の事までツイおもひやりするよおまへがでけてから(哥楽)」(十五オ)
口ぜつで夜あかしするとも逢ばこがれ待したかゐがある(枝雪)
遠座からねば世けんがすまずとほざかつては気がすまず(花結)
なくも笑ふも人眼をかねて蕩気(のろけ)あふたるむねのうち(七化)」(十五ウ)
こんな文よりせめてはいち度逢てなかて下さんせ(雛?)
こんなに首尾よふ逢れる物にどふして夕部はあんなゆめ(古游)
機げんよゐのは疵もつあしのうらかとわたしは案じられ(涌々)」(十六オ)
逢ぬむかしとおもふて見てもあひたいこゝろは退はせぬ(東雲)
東西/\わたしのぬしはうわ気ものじやと思はんせ(無名)
念のおし処(どこ)しからんしてもいはにやしばらく逢ぬとは(雛?)」(十六ウ)
蚊帳まで釣せて其まじめ顔まだ去(い)たいかへかうしても(涌々)
いつも気づよふ言んすくせにさう●(やさ)しひのは変る気か(古游)
おして尋ねりや其すて言葉おまへが嘘をば言ひかけて(琴玉)」(十七オ)
顔見たときには素直なぬしがなぜまよはすよ逢ぬ間は(無名)
ほれたよく目がもしつぶれたら顔見るたび/\泣かぬもの(涌々)
余所の蕩気(のろけ)のお余りもろていたゞくわたしは恋こじき(七化)」(十七ウ)
まことごゝろの届ひた今宵逢ぬおまへにあふたゆめ(東雲)
有あけ消す頃モフ起さんせとめ立してまたあへぬやら(白燕)
またいぢらんすか無ひ事までも言にやよゐ気でいつ迄も(喜楽)」(十八オ)
追可
迷ひきつたのほれ切たのと常にものかづ言ひもせで(素遊)」(十八ウ)
慶応二寅初夏
浪花
今橋弐丁目
 堺屋彦三郎
心斎橋通北久宝寺町南
 河内屋佐助」(裏見返し)



15 とゝ一ぶし心の花実等(幕末刊か。)
とゝ一ぶし心の花実 上」(一オ)
▲とふざあわねばすがたもかほもかわるものかへこゝろまで
▲いまにもわからぬなまみのからだじせつまてとはきがしれぬ
▲たま/\しゆびしてあふみじやないかはらたちがほせずきげんよく
▲思ひきろふと日にやいくたびかおもやつのつてなをもます」(一ウ)
▲たとへあわずとかほ見ぬとてもなんでいまさらきれられふか
▲こぼれまつばのあやかりものよかれておちてもみやうとづれ
▲たつたひとばんあのはりやいにあわざたにんでくらすもの
▲人もほめるしわたしのきでもすいたらしいとめにみへる」(二オ)
▲きれでみやがれたゞおくものかこわくないよふにばけて出る
▲いかにいづもがとりこみじやとてむすびちがいのことばかり
▲あふたゆめみてふとめをさましどちらむいてもよぎのそで
▲ぶたれながらもそのてにすがりなぜかじやけんなきにほれた」(二ウ)
▲すてゝみやがれたゞおくものかくさをわけてもたづねだす
▲ひとにとわれてたゞうつむいてなんしいおふと目になみだ
▲ほつとためいきこゝろのたづなゆるすまもなくこのしまつ
▲つとめするみはおきのるふねよらくなよふでもくがまさる」(三オ)
▲あい見ての後の心にわしやくらぶればうわきなこゝろはもたれない
▲つきにむらくも花にはあらしまゝにならぬがよのならゐ
▲まぎらそふとのむりざけすごしすかぬおきやくについあたる
▲けいせいにまことないならしろとに成てほれて見せたいぬしひとり」(三ウ)
度々一ぶしこひの歌袋 下
八丁ボリ 松坂やはん」(一オ)
▲ふとしたことからふたりのこゝろいまはたにんとおもわれぬ
▲一しやうつれそふ女房じやとてもきれりやたがいにあだかたき
▲しあんにふさげばついかんざしがおちたをそのまゝたゝみざん
▲ふじもかすみのおひしめかけてよるはほどけるかひのくち」(一ウ)
こゑじまんうかれどゝいつ 上
文光堂」(一オ)
▲はるさめにそよとめがさめきくつめびきで。おもはずぬらすがまくらがみ
▲おやのゆるさぬさみせんまくら。ほんにばちでもあたるだろ
▲おためごかしできれたといわせ。とふざかろうかにくらしい
▲すへはなみだとせうちでほれてたべざなるまいこのわさび」(一ウ)
▲ないてまちあふてなみだのかわかぬうちに。またもなかせるあけがらす
▲しやくがさしこむもうきゝましたわかればなしはむだなこと
▲ほれてくろうはせうちでするにいけんするとはきがしれぬ
▲みちならぬことはよそうとおもふちやいたが。すいたがいんぐはでぜひがない」(二オ)
▲くるたびにくろうかけるはめんぼくないと。いふてあわずにやいられない
▲ねたかほをあなのあくほどみるあんどうも。なみだでぬれるかくらくなる
▲ぜうのありたけしておくからは。うそにもうはきはさせられぬ
▲わたしがうすぎはさむくはないがしらふじやおまへはつらかろう」(二ウ)
こゑじまんうかれどゝ一 下」(一オ)
▲たつた今かへしたあとからあいたくなりて。とがなきようじをかみつぶし
▲井戸よりもふかい心をぬしやくみあげて。ちやにすりやわたしもあつくなる
▲のめばたまにはわすれもせうが。しらふなわたしにひまはない
▲やけばやくほどつのるとしれど。見ていてうわきはさせられぬ」(一ウ)
▲人のこゝろはかはらぬものときまればじせつをまちもする
▲あるないでくろうたつぷりさせたりないで。うわきでなかせりやゆたのしみか
▲きげんでとらせる気はないけれどあへばあまへてみたくなる
▲とうざかつたらしんだとおもへいきのあるうちやこすにやいぬ」(二オ)
▲わたしが心をぬしやしらぎくで〔(しん内)あんまりきづよいおとこ山ひやであらふがせうちうしてこゝろなをしてくださんせ(ことば)いよ/\としまやうまいぞ(ことば)おや/\十六や十七をとしまやとははてそのわけは〕まへのおくらからしろざけだすて是ないかいな引(四丁之内おはり)」(二ウ)
上品一撰どゝいつ 下
八丁ボリ 松坂やはん」(一オ)
▲つきあいと人をかこつけよくそのかほでいひわけされるにはらがたつ
▲よざくらにうかれたしよかいときのうたぐりはゆきのふるよがあんじられ
▲よそへあがるをせくのじやないがしらぬがほとけでくちおしい
▲うしろすがたをもしへとよんでかほがちがつてきのどくさ」(一ウ)
▲まことはしんぼうひとつといふがあわずにしんぼはできはせぬ
▲あきらめるいぢが有なら何此やふにばかなおんなといわれない
▲もときにまさりしうらきといふがもとのおかたにやかへられぬ
▲あれがわかれとしれたらほんにはなしのこしはせまいもの」(二オ)
▲たま/\しゆびしてあふみはほんにはなすはなしもあとやさき
▲とてもそわれぬあくゑんならばせめておそばでこまづかへ
▲おまへばかりをおとこのよふにまもるわたしの二ほんぼう
▲むねじやともあれ人めのせきへあきらめましたといふつらさ」(二ウ)
とゝ一ぶし心の花実」(一オ)
▲これほどおもふてもしそわれずはつちにおもひのねをのこす
▲いやであろふがこゝきゝわけてたらわぬわたしもたつよふに
▲ほかへいきたいおまいのくせはつきやいだといやすむのかへ
▲ほれていれやこそないことまでもおもひすごしてあんじられ」(一ウ)
▲あいたさ見たさはとびたつばかりかごのとりかへなさけない
▲ぬしのこゝろとたごとのつきよどこへまことがうつるやら
▲たつたひとつのきのもちようでせけんせまくはたれがした
▲ふかいなかぞへこふまでされておもいきられぬきがしれぬ」(二オ)
▲いうてくようかいわずにおこかさきのようすを見てのこと
▲おまへおもへばよのめもねずにとわづがたりでなきねいり
▲さけはのんでもおとなしければわたしのほれたもむりはない
▲あいたさこらへているみのつらさつのりやじびやうのしやくのたね」(二ウ)
しん板色里たのしみどゝいつ」(一オ)
ほれていれどもしらをばきれどいつかのろさがあらわれる
いまさらきれては人めにすまぬこれをさつしてくださんせ
あだな事したそのいゝわけにぎりと名がつきやすむかいな
やがて見さんせおまへのそばでまへだれたすきにはりし事」(一ウ)
むねに手をあてつまらぬものとおもひながらもきれられぬ
たらちねをかいてだいじなお前をすてゝほかにうわきがなろふかへ
そばにいてさへ恋しいものをましてはなれてくらすもの
わたしやながれのつきゆきはなよふりつてらしついろにそむ」(二オ)
さけがいわせしむだとはしらずまことあかしてはづかしや
なまじなまなか過しの御げんなをもおもひがますわひな
ういもつらいもこゝろにこめて人にかたらぬわがこゝろ
どふでこぬきとおもふていれどもしやとすて文やつて見る」(二ウ)
さきにおもわぬ恋じにまよひほんに身でみがばからしい
ひとをたのめばせけんへしれるいつそうちあけはなそふか
ぐちなおんなじやはてやかましいおれもおとこじやむねにある
アヽもふくやしやねんきがなくばしよふもよふもあらふのに」(三オ)
ぬしのねがほをつく/\ながめこふもかわゆくなるものか
たつたいちどの御げんにまよひうわさするのもむねのうち
いちどや二どではさんみやふさがしとてもくるならすゑながふ
あだにさんすなせけんの人がうわきものじやといふわひな」(三ウ)
新板おつこちどゝいつ 上
八丁ボリかじ町 松吉板」(一オ)
▲ぬしはふかくさこいぢのさとでせう/\なりともねてみたい
▲あんどんのともしあぶらもなたねの花よむかしをわすれずとびこむあのこてう
▲ゆふぐれにいぶすかやりがわしやないならばおつるなみだでうきなたつ」(一ウ)
▲とかげくうかやあのほとゝぎすひともみかけによらぬもの
▲かたやまこかげのわしややぶうぐひすよおまへはしるまいないている
▲ひとめしのんであらかなしさはむねでこがれてしらぬかほ」(二オ)
▲いやであろふがこゝきゝわけてしんぼしてくれいましばし
▲しのぶこいじとよるふるゆきはひとめしらずにふかくなる
▲いちねんといへばひとくちまつ身につらさいつかねんきのかしくぞへ」(二ウ)
おつこちどゝいつ 下」(一オ)
▲いさむなかにもひとりで???なぜといわれてにがわらひ
▲ひとのはなとてながめてゐたらいまのくろふはせまいもの
▲いまはかれきでつないでおいていまにさきたやふぢのはな」(一ウ)
新板十二月都々一 上」(一オ)
▲あだなむすめにうはきなとしま〔(常磐津)はるははねつく手まりうた。ひとごにふたご身はよをしのぶ。いつかむかしのさゝめ事。なんのわすれふやくそくを。九ツ此子〕さきの世までもかはりやせぬ
▲初午のきつね女郎しゆについばかされて〔(常)かよひなれたるしゆじやかのゝルつゆふみしたくじゆんそくは。ふたへばなをのまほわたか。大もんぐちをしのび入あいづのしはぶき二つ三つこれきたぞやきたはいのふと〕おこしうりではあるまいし」(一ウ)
▲やなぎしまだの。みやうけんさまへ〔(常)手をひきあふてこのみちを。めうほうれんげけふはまた。あのよをいそぐめうとづれ。ゆめのうきよの恋かぜに。ちりゆくはなやむねわかの〕しぐれざくらの。なみだあめ
▲ふか川へしほがさしみであの初がつほ〔(富本)かしのさうばはきなかでも。まけぬ江戸つ子。李すいどの水にあらひあげたるいけたごの。いきでいでもの見世さきへ〕ふねがつき夜でぬしのかげ」(二オ)
▲四つにだきしめ手あしをからみ〔(常)かはづと見たてしやう/\が。またのときけばこわけれど。いろにはうちわもあげづめの。ひげが行?にたつがごときのせきもりがひつかけた。酒のしるしにあらね共。谷風/\。小の川/\〕しやうぶ五月の家根にさす
▲あけりやおとゝしわかれたひとに〔(清元)めぐり/\て大やまの。きせそんさまのひきあはせ。おもへばほんに。なむめうてうらいと〕ふかいゑんではないかいな」(二ウ)
浄るり十二月よし此 下」(一オ)
▲いろがみときけばまよふがうき世のならひ〔(新内)かつてなこどのぐわんにぐんわ。だいしさんのおみくじも〕とる手にすがりてかへしやせぬ
▲十五夜のつきのあかりですがたを見れば〔(新内)おとわはかほ見てうれしやら引またかなしさがましたやら〕はれてあはれこひのやみ
▲きくづきのはなのよし」(一ウ)わら。にわかのときに〔(新)なかのてうで見かけたの。あげやまちへはいらんしたの。どこの二かいでこゑがする〕うはきもたいがいほどがある
▲ゑびすかうおめでたいよりおかほが見たゐ〔(新)どこにどうした。ゐるとてもかはるわたしじや。ないわいな〕それにじやけんなことばかり」(二オ)
▲とりのまちならくまでにかけて〔(新)わしややりはせぬ。はなしはせぬ。ころしておいてゆかんせと〕のろけげんかをして見たい
▲としのくれより日のくれるのを〔(新)まつ身になればはてしなく。もはや見へそなものじやがと。のびあがるうちとふらんす(詞)ヱヽモぢれつてへよ〕よぶはたけやのわたしぶね」(二ウ)



16 新板はうたどゝいつ
姫君
恋の哥とは古風なしやれよ今はどゝいつ心いき
傾城
しんにつらさをしんばうするもぬしのためだとさつさんせ
歌妓
うは気と見せてもこゝろのうらはかたい約束わすりやせぬ」(一オ)
かどの松竹ほの/\あけて春はきたそだ初がらす
ひとごにふたごはねつくむすめどこのとのごにそふだらう」(一ウ)
十二ひとへのきうくつよりもはだか人形でぬしのそば
色は黒いが三月ひらめなぜか世間の人がすく
隣ざしきのたいこの声が狸ねいりの耳につく」(二オ)
声はすれどもすがたはみへずぬし雨夜のほとゝぎす
見けなされても若葉の楓にしきよ着かざるあきとなる
真菰にまじりし沢辺のしやうぶ色にやまがへど香でしれる」(二ウ)
心でこゝろのおみこしよすへて人の囃子にのるものか
人にとはれりや夏まけしたといふてこゝろでないてゐる
誠とまことでむすんだちまきなんでそらどけするものか」(三オ)
雨のふる日もさみしいけれど月のゆふべはなほふさぐ
君のこゝろにあき風たてばわたしや黒髪きり/\す
ねぐらせかずとよい首尾つげな星の六日の夕がらす」(三ウ)
色はよけれど水性(うはき)でそめた秋のもみぢはちりやすい
つゝみかくせど葉月の尾花いつか穂にでゝ人がしる
りうのひげからちよいと出たきのこ憎らしいほど鉢びらき」(四オ)
れんじあければまだふるみぞれながさゞなるまいけふもまた
なんのおかめとけなして見ても持た熊手でひつかゝる
河豚はくひたしおあしはほしゝこゝろ迷はす茶やのかど」(四ウ)
ゐなかそだちでつくりはせねど霜の山茶花しほらしい
銭はなけれど女に不自由なくてことしも大三十日
雪の下草うもれてゐてもやがて芽をだす春をまつ」(五オ)
かたいちかひを諸神にかけてみろく十年かはりやせぬ
人と違いてわたしは喰気いろじや命はつながれぬ
君のこゝろは風見のからすその日/\のふりにむく」(五ウ)
ほどもきりやうもすぐれたわたし人のほれぬがわからない
しあんなかばに大きなくさめまたもうわきをするさうだ
おもひ染井のこゝろのたけをいふてへんじを菊の花」(六オ)
ふとしたはなしの鉄砲洲からうそをつくだの名が高い
ふけてあふときや音なし川よつもるはなしはあすか川」(六ウ)
泣てわかれた眼ぶちのはれを親にかくして紅(もみ)のきれ
酒のうへのといひわけすれどやつぱりうはきをしなの坂
しのばずのいけない人だと人めじやいへどゆるしておくれとひとりごと」(七オ)
畳ざんおいてまつとはむかふじやしらずどこをそゝつてゐるだらう
ところてん突てやらうと思ふちやゐれど酢でもくはれぬさきのやつ
おれがあたまの大きいせいか頭/\と人がいふ」(七ウ)
松にからんだあの蔦かづらどうせ始終はともだをれ
醴(あまざけ)のあまい口ではきかないおのれまたもにえゆをのますのか
かゞみよふたとりにつこりわらひ帯ができるかこのほくろ」(八オ)
三味せんのひけをとるなと貰つた金のばちがあたつてこのしだら
いつか女夫(めをと)になりひら橋よかたいちかひの中の郷
ふみつけにするが半紙としれてはゐれどもんでやぶるもちゑがない」(八ウ)
ふとした綾瀬がないしよへもつれぬしをせきやのかうしさき
土手のさくらに秋葉のもみぢ所帯もつならむかふ酒
いつも春だとおもふはこけよ人のこゝろにや秋もたつ」(九オ)
人をまつ夜は時さへしらずあけてくやしい月のかげ
月もさくらもわるくはないが雪のはだへがなほかわい
秋の月さへおぼろにかすむ人にやしらさぬ目のなみだ」(九ウ)
うは気なおまへは塩やのけぶりどちらへなびくも風しだい
恋しいおまへを今みちのくであふくま川とは夢らしい
出合がしらにあたまとあたまあいたかつたと目になみだ」(十オ)
さきであきたらわたしもいやだといへ見かへる人がない
おもひそめたはもみぢのいろよ風にふかれてちりたがる
客がたぬきに女郎がきつねそばでげいしやが猫をひく」(十ウ)
かどをたゝくをそれかと見ればにくや水鶏の嘴(はし)のおと
おもひそめ川水ふかくともあはずにどうしてかへらりよか
風はふかねどこゝろの波にかぢのとりよがわからない」(十一オ)
眉毛かくしてかゞみにむかひぬしの女房にやふけるだろ
うはきなおまへは岩間の清水かつてしだいにむすばせる
おもふこゝろは滝つせなれど人めせかれておとはせぬ」(十一ウ)
ちよつと光つたいなづまにくやよべどへんじもうはの空
いのちをすてるもなにをしからう夏の虫でもおなじ事
顔でしらせて目もとでさとりばんにあふとは胸とむね」(十二オ)
心ぞく/\うれしの森よきつとこよひは首尾の松
末の松山なみこすとてもかはるまいぞやむねと胸
ういた心とわしやしら波にのつて悔しいすて小舟」(十二ウ)
つもるおもひの心の雪にあしあとつけたる人もない
春のあわ雪さくらにとめてとけておまへと寐て見たい
泣をよわいと傍輩衆にいけんされても猶なみだ」(十三オ)
ぬしを真乳(まつち)のもしあふたなら何といほ崎気がもめる
ひまがあるならちよろ/\ときなよさゝのあひてに雀どの
まゝになるなら虱になつてぬしのはだみをはなれまい」(十三ウ)
是ほど書てもこゝろのうちがわからないのかじれつたい
しんのはなしがあるとてよべどあへばさしたる事もない
人をぢらしてうれしいさうでわらつてゐるのがにくらしい」(十四オ)
心からとはあきらめられぬほれさせられたがうらめしい
かわいらしいといはれた草もちつて尾花のつくも髪
人をおもいれまたしておいてどうしてくれるよ夜があけた」(十四ウ)
人にやそしつて心でほめてかげでのろけてしらぬ顔
長い夜すがらまち明石がたこゝろ須磨ねばうらまるゝ
臥竜梅ほどねぢれたおまへわたしやすなほな柳しま」(十五オ)
東西南北見にくる人は春夏秋冬花の園
いもせ山ならうれしいけれどどうでもよし野の川はいや
かたい石浜そのゆくそこを瓦けぶりにするものか」(十五ウ)



17 浮世都ゞいつ 初へん・二へん・三編(幕末刊か。吉田屋小吉板。梅暮里唄種校。)
浮世都ゞいつ 初へん
馬喰町三丁目 吉田屋小吉板」(一オ)
羽子をつく/\あんじて見れば風にそれたも気にかゝる(梅ボリ鶯我)
のぼりつめますほうずもなしに糸のありたけ奴凧(浅クサ 唄女とめ)」(一ウ)
花の兄イといはるゝ梅だ人にけぢめをとるものか(都雄二)
ゆきかさくらかとほ山どりのおまへはあらしのしたごゝろ(梅ボリ喜三)」(二オ)
腹がたつならわたしのからだこゝろまかせにしやしやんせ(梅ボリとく女)
めぐるいんぐわの車のわたしひくにひかれぬこのしだら(梅ボリ玉我)」(二ウ)
お客をとる気はしみ/\ないがうつりかはりにこまるゆへ(梅ボリ喜作)
女房にしちやくどかせむりがりさせてなまけてゐるのもほどにしな(梅ボリ語笑楽)」(三オ)
かういふわけだとうちあけたならおまへのおせわになさんせう(梅ボリとく女)
ぬしのあるのにいのちをかけてまよひそめたがいんぐわづく(仝)」(三ウ)
湯やのかへりで見かはすゑがほしみ/\しんぼができはせぬ(浅クサ唄女 そめ)
しやくをおさへしその手をおさへぬしのたんきでこのやまひ(おなじく ちよ)」(四オ)
西行のふろしきならねどわたしのからだ一生しよつてゐるがいゝ(梅ボリうた女)
せつかんもなんのいとをふいのちもやつた男ゆへなら苦にはせぬ(浅クサ 唄女はん)」(四ウ)
浮世どゝ逸 二へん
馬喰町三丁目
吉田屋小吉板」(一オ)
見まいとおもへどついおたがいにかほ見あはしてはしらぬかほ(梅ボリ小てふ)
くぜつの種なしはだうちとけずかほはいつでもはつもみぢ(仝)」(一ウ)
うつゝこゝろではしらにもたれおきてゐながらぬしの夢(梅ボリ語笑楽)
けふかあすかのかはいゝ中も淵が瀬となる世のならひ(梅ボリ常二)」(二オ)
身にはおひへをまとつてゐてもこゝろに着てゐるあやにしき(梅ボリとく女)
いろのあるのを初手からしればかうしたわけにはならぬもの(梅ボリ横利)」(二ウ)
なれないま男ていしのかほに泥のつくはづころぶゆへ(サクラ川新孝)
うはきといはれりや一言もないがおまへに見かほる初手のいろ(梅ボリとく女)」(三オ)
女房かたぎではなこそさかねじみなみさほは雪の松(梅ボリ唄たね)
屏風ひとへのわか床なればしんのはなしはのこりがち(浅草大工徳)」(三ウ)
しらぬたびねもおまへとならば夜みち雪みち苦にはせぬ(梅ボリ小きく)
娘のいろだとまだ気もつかずりこうな人だと親がいふ(梅ボリ横利)」(四オ)
はなもさかせずつぼみの枝をおつたわたしのつみつくり(梅ボリ玉我)
見とめもつかないはかないわたしいやになつたらよしにしな(梅ボリ東嶂)」(四ウ)
うき世都々いつ 三編
馬喰町三丁目
吉田屋小吉板」(一オ)
男にのまれちやいくじがないとおもへどほれたがぶはたらき(梅ボリ鶯我)
風に蚊やりがもえたつまゝにむねのほむらがなほまさる(梅ボリ瓠友)」(一ウ)
たまに来てさへはなしもできずかほでわらつて胸でなく(梅ボリとく女)
すへはどうかとあんじるやうでてんからいろになるものか(仝)」(二オ)
男大事にするほど親を大事にしたならほろられう(梅ボリ横利)
ひよわいからだでかせぎがたらず貧苦させるがいぢらしい(梅屋斧)」(二ウ)
あんじなさんなおまへをおいてほかにうはきをするものか(梅ボリ金松)
やかましい親の目がほをきわどい間にもぬけて来るのがかはいそう(梅ボリたき女)」(三オ)
はしごかけてもとゞかぬねがひかゝアたばねがして見たい
義理にからまれこゝろの竹をやゑにくんだるかございく」(三ウ)
ひゞは手にきれ板の間ずれがかゝとにできるもあら世帯(梅ボリたき女)
朝はひでうの田へ水かけて夜るは潮来へ舟わたし(梅ボリ喜作)」(四オ)
おかしらしいとこゝろをつけて見れば目につく事ばかり(梅ボリ小てふ)
梅暮里唄種校合
哇並踊拳指南 浅草広小路日音院地内奥
          梅暮里」(四ウ)



18 いろはしりとりどゞいつ 初へん・三へん(幕末刊か。吉田屋小吉板。)
※同類のものに、@関西大学蔵『伊呂波四十八文字しり取文句都々いつぶし 上』(八丁堀松坂屋板)A蓬左文庫蔵『いろはしりとりよし此』がある。@は上巻のみ、Aは上中下三巻揃いである。@は本文は文字のみ。Aは菊池蔵本(18)に似せた挿絵(一部異なる)を掲げる。多分、@が初めにあり、18がそれに挿絵をつけて出版し、Aはそれに似せた版を刊行したものと思われる。
※菊池蔵18本と同じものが大阪大学小野文庫にあり、小野文庫は初へん・二編・三べんの三冊揃いである。
※似たようなものに、菊池蔵『東都一流与志好野ふし』(次項19に掲出)がある。
いろはしりとりどゞいつ 初へん
松丘画
馬喰町三丁目
吉田屋小吉板」(一オ)
い いつかふたりがめうとにならば手なべさげてもうれしかろ
ろ ろうかづたいのしのびのこひぢもはやしれたらまゝのかは」(一ウ)
は はだかにんぎやうなるわしが身もみんなおまへがかわいさに
に にくやからすでモウきぬ/\とじつとひきよせかほとかほ
ほ ほんにおまへもやきもちぶかいおぼへもないといひならべ」(二オ)
へ へんなうはさをわしやきくたびにおもひすぐしてぬしのこと
と とほざかるのはすへさくはなよしんぼさんせやちとのうち
ち ちわがこうじてせなかとせなか」(二ウ)あけのからすがなかなほり
り りんきせまいとたしなみながらなぜか心がやすまらぬ
ぬ ぬしのこゑかとまただまされて出てはみんなにわらはれる」(三オ)
る るすをめがけて来るまを」(三ウ)とこもすこしはきがねをするものを
を をもひおもはれかうなるからはぎりもせけんもまゝのかわ
わ わたしやこれほどおもふてゐるにこうもじやけんにするものか
か かみやほとけにねがひがとゞきけふのごげんのうれしさよ」(四オ)
よ よひにしのばせやう/\のことであふてかへしてほつとした
た たとへ野のすへ山おくまでも手にてもひかれてふたりづれ」(四ウ)
いろはしりとり都々一 三へん
松丘画
馬喰町三丁目
吉田屋小吉版」(一オ)
こ こひし/\とおもふてゐたにゆめじやないかやぬしのこえ
え えんのつなかやたよりがありてぬしのところへふみのつて」(一ウ)
て ていしゆきどりのぬしよりほかにうはきどころかなんのまあ
あ あいのおさへとのむさけよりもふたりねざけのおもしろさ
さ さいたさくらも乱れりやちるよしんぼさんせやちらぬさき」(二オ)
き きづよいおかたとうよみつなきつおつるなみだのそでのつゆ
ゆ ゆふべあふたにまたかほ見たくふみにおもひをふうじこめ」(二ウ)
め めがほしのんでうきなをたててまよふ二人がこひのやみ
み みへもかざりもなくほれぬいてぬしのうはさをいひくらし
し 忍びあふよはみじかふてならぬにくや夜明のかねのこゑ」(三オ)
ゑ ゑきもないことさきくゞりをしてぬしをあんじてものおもひ
ひ ひとめしのぶははじめのうちよいまじや人めもよのぎりも」(三ウ)
も もとはたがひのこゝろやすだてよすねずとこちらをむかしやんせ
せ せなかあはせてけんくわもすれどこちらむいたら明がらす」(四オ)
す すゑのやくそくなが/\しいもまつにかひあるきのふけふ
京 けふはめでたくいもせもまなびかはらしやんすなかはるまい」(四ウ)



19 東都一流与志好野ぶし(幕末刊か。亀村卯一。)
※これは尻取都々逸である。
東都一流与志好野ぶし
亀村卯一」(表紙)
いつかふたりがめうとにならばてなべさげてもうれしかろ
ろくにおかほもしらないわたしおつなごゑんでぬしのそば
はだかでくらすはもとよりしようちみんなおまへをかわいさに
にくいしうちも人めのせきにそれをいふのはぬしのやぼ」(一オ)
ほんにおまへはやきもちぶかひおぼへもないこといゝならべ
へんなうはさをきくたびごとにおもひすごしてぬしのこと
とうざかるのはすへさく花よしんぼしやんせちつとのうち
ちはがかふじてせなかとせなかあけのからすがなかなをり」(一ウ)
りんきせまいとたしなみながらなぜかこゝろがやすまらぬ
ぬしのこゑかとまただまされてでゝはみんなにわらはれる
るすをめがけてそとくるまぶをしのぶこゝろのうれしがを
をもへおもはれかうなるからはぎりもせけんもまゝのかわ」(二オ)
わたしやこれほどおもふてゐるにこふもじやけんになるものか
かみやほとけにねがへがとゞきけふのごげんのうれしさよ
よいにしのばせよう/\のことであふてかへしてほつとした
たとへのゝすへ山おくまでも手をとりかはして女夫づれ」(二ウ)
れへのやぼめをだましてかへしおまへにそひねはつみなうそ
そうたゆめみてついおこされてあとがみたさにはらがたつ
つきにむらくもはなにはかぜよぬしにあふよのあけのかね
ねてはかんがへおきてはふさぎあはねきやおもひがますわいな」(三オ)
ないてわかれてついそれなりにひとりぬる夜のあだまくら
らくなせかひにくがいなつとめしばしわすりうとやけでのむ
むねにしあんはさだめてあれどぐちがかうじてものおもう
うはきなおまへについほれこんでわたしやあわびのかたおもゐ」(三ウ)
ゐかにわたしがつとめのみでもこふもうたがふものかいの
のやまこへてもおまへとふたりそふとおもふているものお
おもひつめたるふたりのなかはわすれまへぞやすへながく
くるか/\とまつみのつらさあへばまじめではづかしや」(四オ)
やがてふうふとおもふてゐれどむねのけむりがあさまやま
まゝにならぬがうきよといへどあまりしんきとちやはんざけ
けさもゆふべもおまへのうはさあんじすごしてものおもふ
ふかくなるほどおもひがますよはやくゆきたやぬしのとこ」(四ウ)
こいし/\とおもふていたがゆめじやないかへぬしのこえ
えんのつなかやたよりがありてぬしのところへふみしたて
ていしゆきどりのぬしより外にうわきどころかなんのまあ
あいのおさへとのむさけよりもふたり手さげのおもしろさ」(五オ)
さいたさくらもみだれりやちるよしんぼしやんせやちらぬさき
きがねつくしてしんきのくろうおつるなみだのそばにつゆ
ゆふべあふたにまたかほみたしふみにおもひをふうじこめ
めがをしのんでうきなをたてゝまよふふたりがこいのやみ」(五ウ)
みへもかざりもなくほれぬいてぬしのことばをまちくらし
しのびあふよはみじかふてならぬにくやよあけのかねのこゑ
ゑきもないことさきぐりをしてぬしをあんじてものおもひ
ひとめしのぶははじめのうちよいまじや人めも世のぎりも」(六オ)
もとはたがひのこゝろやすだてよすねづとこちらをむかしやんせ
せなかなぶられわしやつとめのみこよいもひとりでなきあかす
すいたおまへと江戸おふざかでせたいもちたいきのふ京
京とめでたくいもせのまなびかわらしやんすなかわるまい」(六ウ)



20 新版いろはうた四十八文字上文句あんだそれよしこのぶし(幕末刊か。)
新版いろはうた
四十八文字
上文句
あんだそれよしこのぶし
八町堀七軒丁
しんみち
角伝板」(一オ)
▲いのちかけてもそはねばならぬひとにいわれた事がある
▲ろんはないぞへおまゑのうわさしてはわたしはなぶられる
▲はらのたつまゝすねては見れどあとであやまるほれたなか
▲にくひながらもぢやうづをゆふもみんなおまへの身のためよ」(一ウ)
▲ほれてほれられてあいぼれとやらしぬとわかれがなけりやよひ
▲へたなしうちといわんすけれどそこがしよしんのあとやさき
▲とめてわるいとしりつゝけふもとめてきかねばほれたぢやう
▲ちゑのない子にわる知へつけてわしをじらして嬉しがる」(二オ)
▲りんきするよにいわんすけれどいわねばわたしが身のつまり
▲ぬしをしのばせのきばにたゝせうちのしまつできがもめる
▲るすをつけこみしのんでくるはうまひやうでも身にならぬ
▲をやをふりすてこきやうをはなれぬしをしとふてきたものを」(二ウ)
新板いろは哥
四十八文字
あんだそれよしこのふし
角伝板」(三オ)
▲わしがわるくばあやまるほどにすねずとこちらをむかしやんせ
▲かわらしやんすなおまへのこゝろうわきされてはわしやたらぬ
▲よこくずまひもおまゑがたよりそれにじやけんな事ばかり
▲たてひきづくならなまづめもはなすほれりや五本のゆびもきる」(三ウ)
▲れいのかんしやくおまへの気しつしりつゝいうのがわしがむり
▲そつとしのばせ二かひへあげて玉にあふ夜のみじかさよ
▲つよひ事をばゆうては見れどぢきにあやまるほれたなか
▲ねんのあくのをゆびおりかぞへはやくいきたやぬしのそば」(四オ)
▲なまじなま中あわぬがましよあへばみれんでおもひだす
▲らんきものじやといわんすけれどわたしやぬしゆへきもちがう
▲むすびあふたるふたりが中をさくはきじんじやおやぢやない
▲うそじや/\といわんすけれどうそもつのればぢつになる」(四ウ)
新版いろはうた
あんだそれよしこの
中上
八町堀七軒丁
角伝板」(五オ)
▲ゐやなつとめもおまへがたよりたまにやなさけもかけさんせ
▲のりむをとめたがわたしがむりかのめばおまへはしだらなし
▲おもふおまゑをひとりでねかしいやな御客をわしやつとめ
▲くぜつするまにつゐよがあけたわたしゑかゑしちやきがすまぬ」(五ウ)
▲やめてくんなよつきやひ酒をつのりやわたしが身のつまり
▲まゝにならぬをしやうちでほれてまゝにしやうとはぬしのむり
▲けさもけさとてない所へよばれとてもよぶにはいのちがけ
▲ふでを手にもちまきがみだしてぬしの名をかきわらはれる」(六オ)
▲こゝろさだめてわたしはよべどぬしがうわきで気がもめる
▲えてにほをあげおまへのうわきわしをおもわばやめなんせ
▲てれんてくだでとめたむかし今は女房よこちのひと
▲あいそづかしはわたしはきらゐならばすべよくわかれたや」(六ウ)
四十八文字中下
▲くぜつとぎれてもふひけすぎよかみもみだれて
手まくらでやつれはてたよすや/\とねひりし女のかほつく/\とうちながめ引かわひやくろうをさせたやら
角伝」(七オ)
▲さつしてくだんせわたしがこゝろぬしをたよりにこのつとめ
▲きしやうせゐしはほぐにもなろが四本半にはたれがした
▲ゆふべわかれてかゑして見たがこよひあわねば気がすまぬ
▲めもとはなもとこの子の顔を見れば見るほどおもひだす」(七ウ)



21 心いきどゝいつ続しん文句(幕末刊か。吉田屋小吉板。)
心いきどゝいつ続しん文句 上
仙女香 取次
馬喰町三丁目
吉田屋小吉板」(一オ)
▲ひとにやうはきとおもはれながらむねにくらうがたへはせぬ
▲うきよのぎりにわしやからまれていとしいおまへにはらたゝせ
▲だまれおんなめそのくちぐるまうまくのせてももふのらぬ」(一ウ)
▲なぜにそのやうにはらたてさんすうたがひぶかいもほどがある
▲まゝにならぬがうきよのならひ〔(しん内)ないてうれしい日もあれば〕わらふてつらい夜半もある
▲なみだにはげしおしろいなをし」(二オ)いやなきやくしゆにつとめぶり
▲こひにこゝろもむすぼれあふて〔(しん内)ほどけもやらずうつとりと〕ねむればおまへをゆめに見る
▲きつね女郎にわしやばかされてはだかでしんしやうはからぼうず」(二ウ)
どゝいつ新文句 下」(三オ)
▲つらひくがいになみだのあめのはれぬはつとめのうきくらう
▲きつねおんなにばかされぬうちいなむらかゝしの気をやすめ
▲はらをタンクずとまあまたしやんせ〔(しん内)おまへのそふしたかんしやくは」(三ウ)いつものくせとはいひながら〕あんまりじやけんなこゝろいき
▲ぬしをそのやうなはかないなかにしたのはわたしとなみだぐみ
▲わたしもぬしゆへねんきをいれて身あがりくらかへうきくらう」(四オ)
▲かほも手あしもないしやう迄もやつれはてたよぬしゆへに
▲はなにあらしもまたくるはるのさかりのじせつをまたしやんせ
▲まてばかんろのひよりがあか?むねのくもりもはれしつき」(四ウ)



22 しんない心いきどゞいつ等(幕末刊か。吉田屋小吉板。)
しんない心いきどゞいつ 上
馬喰町三丁目
吉田屋小吉板」(一オ)
▲女ごゝろのわしやひとすじに〔(しん内 いだ八)すいたがいんぐわつかのまもそばはなるゝがいやまして〕どうまあかへしてやりやりよふか
▲けさはかへつてまたきなんせと〔(しん内 あはしま)いふたは二人りがいつまでもかいとふしたいこゝろゆへ〕といふてわたしをのせるきか」(一ウ)
▲かほではらたてこゝろでないて〔(しん内 明がらす)あんまりむごいなさけなやこよいはなれてこなさんの〕またあふしあんがあるかいな
▲おまへがしんでもてらへはやらぬ〔(しん内)なかしやんせ/\そのなくなみだはふか川へながれて小さんがくんでのみや〕わたしやこにしてさけでのむ」(二オ)
▲なにをくよ/\さけでものみな〔(しん内 明がらす)どふなるものぞながらへてわがなきあとで一ぺんのゑかうをたのむさらばやと〕いふをとりつきしのびなき
▲ほんにおもへばおまへとわたしや〔(しん内 つな五郎)いふはいまさらすぎしあきはつの一座のつれのうちおまへのなりふりあいさつが〕すいたがふたりの身のつまり」(二ウ)
しんないあだもんくどゝいつ 下」(三オ)
▲おまへをおもふてくりことながら〔(しん内 らん長)おやにそひねのゆめにさへ見もしりもせぬ人なかへうられくるわのうきつとめ〕たよりにおもふはぬしばかり
▲どふしたふかいあくゑんじややら〔(しん内 明がらす)そなたもともにといゝたいがいとしそなたを手にかけて〕どふしてわかれていかりやうか」(三ウ)
▲あふた初会にすいたがいんぐわ〔(しん内 つな五郎)のぼりつめたる二かいのはしごおやにさかろふこの身のうへ〕みんなそなたがあるゆへに
▲せけんかねたるわたしがくろう〔(しん内 らん長)おまへのそうしたかんしやくはいつものくせとはいゝながら〕すこしはめをかけてくださんせ」(四オ)
▲おまへをあんじて神様へしほだち茶だち〔(しん内 あわしま)わづか四月か五ツ月にきつうやつれさんしたのに〕わづらふてもくだんすなア
▲はりもいきじもみなくみわけて〔(しん内 いた八)おとこの身でさへいゝにくいにこうしたつとめのそのなかで〕みんなそなたのくめんづく」(四ウ)
まどの梅みさをどゝいつ 上
馬喰町三丁目
吉田屋小吉」(一オ)
▲むめもやなぎもみなそれ/\にこひのいきぢのあだくらべ
▲じつもふじつとなるみのつらさおくるちや屋もぎりがある
▲たつをひきとめマアきかしやんせいちにもちつきまつのうち」(一ウ)
▲おくるちや屋でもむねきなしかたあのこによばれてなるものか
▲はるのかすみも三すぢをひくははなにうかれるこゝろいき
▲なごりおしげにみおくるかほつゆかなみだかあさざくら」(二オ)
▲ふるゆきもふむもおしひかふまずは人がとふてくれまひこのけしき
▲花のけしきもふりつむゆきもこゝろ/\のめのながめ
▲どてのさくらをまたよざくらとさけがのりきのさんやぼり」(二ウ)
〔東都〕めいじん かきぬきもん句
〔新版〕都々いつ こゝろいき ふし
若連
満留吉」(三オ)
▲はるさめにそよと目がさめきくつめびきでおもはずぬらすはまくらがみ
▲おためごかしできれたといわせとふざかろうかにくらしい
▲しよてのあさぎもあいかさなりてこくなりやしつこくなるわいな
▲ういたはなしをしちやいるけれどむねにくがありやわらはれぬ」(三ウ)
▲人のこゝろはかわらぬものときまればじせつをまちもする
▲恋もむぢやうにかわらぬうちとさとりすぐしてこのしだら
▲きれておまへはしゆつせをせうがたれをたよりにわしはする
▲のめばたまにはわすれもせうがしらふなわたしにひまはない」(四オ)
▲やりくりがつきやわたしをまたぶちたゝき〔(コトバ)コウ吉やかぶでかゝあをいじめるのかそんなことはゆめにしておいらのうたをきくがいゝよ(そゝり)いまなるかねは三井のかねこゝろはやばせとおもへどもねつからさきがいし山であはづにぬれるが夜るのあめ(言)ヲヤ権さんそりやアあふみ八けいだの そうよ おいらがうちは七けいだからけんくはができる そりやア又なぜだよ〕ぜゞがないからこのしだら」(四ウ)
まどのむめみさをどゝいつ 下」(五オ)
▲このごろはなみだもろひとわらはせぐせがつゐてふさぐもぬしのこと
▲きゝわけがなひと我みでしつてはゐれどおもひきられぬこひのよく
▲はるのにおもひすぎなばおまへのうはきあんじこゝろのつく/\し」(五ウ)
▲とちはもとよりせけんはなをもひろくさせたひこちの人
▲おそまきながらもしんぼうさんせトいふてなみだにむせかへり
▲ゆきのはだへにさくらのめもと月にいくらとうはさする」(六オ)
▲つたかづらからみつくほどおもふてゐれどぬしのこゝろにはちもみぢ
▲ひきしほにこへもかすかなアノはまちどりとふくなるみのうみになく
▲いちのゑんぎのはまゆみおかめはずむてまりのみやげもの」(六ウ)



23 〔新撰〕都といつ図会(幕末刊か。)
〔新撰〕都といつ図会 全
景年画」(表紙)
どゝいつつえ」(見返し)
米さは丁
 長?屋 三うらや さがみや ふくよしや はりまや
柳ばし
 升田や 飯むらや 中むらや ?たさの よし川 かめや 西かめや 山だや ふじもと 長門や たんばや ひの屋 かづさや いづや さがみや 崎たまや 三よしや まるや ゑんたうや 中松屋
はし向
 ふぢ岡や きりや
尾上丁
 いせ本 あさだ屋 ?州や 川越や
こまとめばし
 みなとや いせや
一ツ目
 すゞめや 中田や
年景画」(一オ)
柳ばしげい者之部
小ゑつ ひん介 一勝 ひで八 ほの ?のぼ みつ いし した吉 まん吉 はまじ 梅吉 小なつ 氏くわ 栄吉 その みわ のぶ吉 かつじ だい ひさ ふく介 小かね 小しげ 小いと しゆん ふさ八 かる こま ふしく きん八 小すみ もと ふみ やゑ吉 ふちゞ そめ 小つる 小いち ふぢ代 さだ かよ れん かつ のぶ人 つる 友吉 きくじ うた 小ふぢ たま 三八 まさ吉 小さん みね吉 小ふき きよ 小でん ?う さん 松吉 かん吉 ぬい あぐり こと 小とく かめ いく 小きん せん吉 つる吉 きと きんじ いな 小きく はしん すみ もん かね吉 いま なか たま とり 三子吉 ?き ち代 くら 小てる きん やま」(一ウ)りき 小かた よし ふじ 小ろく とり 小てつ まつ しか さい吉 しづ 小なつ かめ吉 ふき 小てふ こう 三代
同子供の部
やつこ 升吉 かめ八 小とら 小ゑい とめ吉 はな介 しま八 こし せん みき たけじ くめ こな吉 小人 小なる てふ 小かつ べん吉 こよし 小よし し? てつ きん ふき 小はな 小とよ 小つた もゝ太郎 小介 まき しほ ちか こん 小きみ ?じ 一八 うた蔵 てる
松井丁尾上丁げい者之部
小つな かめ よし こしん らま きん さだ 小ぎく とそ つた さだ あさ たま 小あさ 小いと たか こう くめ吉 つね ふさ 小いね ふで吉 ひやく 小かつ 小てる こま吉 せん 小てふ さく ちか 小?き 小とめ 小つな もしん かね」(二オ)
なんぼわたしがおたふくじやとていづもでむすんだゑんぢやもの
おまへあを梅わしやあをまつばうらの木ごやでしのびだけ」(二ウ)
おまへまさむねわしやさびがたなさきじやきれてもわしやきれぬ
われら此ちにようじはないがきでん見たさにまかりこす」(三オ)
しかりやさんすな花ならつぼみばんじいたらぬことばかり
ぎりやせけんや人目をかねちやとてもいろごだできやせぬ」(三ウ)
ならいことばもやなぎにうけてくらすお人がたのもしや
こゝろほそ糸みすじのつとめせめておまへがちからづな」(四オ)
見すかされるがくやしひけれどほれたいんぐわでされられぬ
おまへの心はあさだのさくらわちきやあくまでこいもみぢ」(四ウ)
月にむらくも花にはかぜよわたしやなぎさのすてをぶね
ねみだれのかみをなをしたゆあがりすがたあめにほころぶさくらばな」(五オ)
それといはずにこゝろと心おやのゆるしのときをまつ
くろうさんすなふたりがなかをしらぬふりするすいなおや」(五ウ)
ぬしのうはきないけんもつきてそでになみだのあめがふる
いけだいたみのおにころしより女ころしのすゐなとの」(六オ)
よなかすぎてもたゞうか/\とこゝろがゝりな今のうた
うそもまこともくがいのならひはやくおの字になにしたい」(六ウ)
ふねじやあぶないお馬じやこわいゆきもかへりもよつ手かご
ことしや十六さゝぎのとしでおまめぽつちりおけがはへ」(七オ)
むしもころさぬかをつきなれどおとこごろしと人がいふ
りんきするのじやわしやなけれどもぬしの心がさだまらぬ」(七ウ)
心たよりはつぢうらおまめひけ四つすぎからくるはまぶ
ほんにおまへの御ていしゆなれどほれるにかげんがなろうかへ」(八オ)
まつはつらいとたとへにいへどじれつふさぎつひとり酒
ちかいたてたるふたりがなかをきれろといふのはおやのむり」(八ウ)
せけんしらずのたらはぬわたしぬしのうわきもむりはない
あぢさゐのかわりやすいは男のならひとてもひらかぬわしがむね」(九オ)
しんぼさんせといふたはうそよおちかいうちにといふがちゑ
はじめじやうだんなかたびきれて今じやせたいの小なべだて」(九ウ)
りやうけんさだめてしんぼうさんせゆきのなかでもむめはさく
すいもあまひもよくくみわけてゐながらおまへのこのうはき」(十オ)
きをもまさんすなよいうきしづみ山もふゆがれはなざかり
まいにちあふてもままだあいたりぬひと月そはずはしぬであろ」(十ウ)
とてもはれてはあはれぬふたり月の出ぬまにしのばんせ
ふみをかくにも人目のせきにかほどこゝろをつくしごと」(十一オ)
きみをまつむし身はきり/\すよすがらこがるゝひとりむし
あとはのとなれ山さかこへてどふしてかへさりよゆきのあさ」(十一ウ)
人にやいはれず心のうちであけくれこがれてなくばかり
かたときあはずにゐられぬけふし酒でおさへるよい/\のむねのはり」(十二オ)
じやけんなおまへがなぜいとしかろうるさがられりやなをつのる
すゝき尾ばなについまねがれてこゝまで見にきた月のかを」(十二ウ)
ふいをうたれしきり見世女郎衆客にぜんくなきからでつぽ
ほそくながくてうはべがきやしやでしんのふといはきろうそく」(十三オ)
あめはしん/\おまへーの事を思ひなやみて目になみだ
わるいさけだよくげしゆのなまへくらゐすぎたるこまりもの」(十三ウ)
おさん権介こうかの出あいくさい中だとかぎつける
とうじのお米とせかれた客はあけちやわるいよしかられる」(十四オ)
まぶにするならいなせはよしなあげりやしかけがとんでゆく
ねんきがあけたらおんばさんのいふにやだんなかみさんへちやむくれ」(十四ウ)
ずんとすましたすいものよりもわたしやおまへのそばがよい
したい/\とわかごけさまがおやのついぜんてらまゐり」(十五オ)
おなかぽてれんもうこり/\とだんごたつたるお月さま
おやもさせたい妹もしやうちむすめしたがるやどさがり」(十五ウ)
いくかいくかとしめつけられていくよ/\ときつねつき
しよしきの高いので世はふうりんよかねがなければなりはせん」(十六オ)
げいしやの色目はあてにはならぬいつもちか目で客をはめ
ふうふでたへるがそりやほたてがい口あく赤がいほらのかい」(十六ウ)
もらひ娘をおやぢがくどきやかゝアりんきでふくれづら
女郎にやきらはれかへりにやふられうちじや女房におこられる」(十七オ)
いさりかつ五郎くるまにのせてひけよはつ花はこね山
ゆやのさん介おつこちやおさん三とさんとでむつまじく」(十七ウ)
かをでしらせてめもとでさとるばんにおいでとむねとむね
しんにつらさをしんぼうするもぬしのためだとさつしやんせ」(十八オ)
すいたお客はさま/\あれどなかにじんすけへちやむくれ
酒はやめてもうはきはやまぬ是がやんだらいのちがけ」(十八ウ)
むりなねがひをかみ/\さんへいろとおかねのできるやうに
けんじゆつつかひの娘をくどきやしないであたまをどやされる」(十九オ)
わかい女をよこにとねかしぐひとさしこむしやくのはり
さがみ女をくどいてみればいやとかぶりをたてにふる」(十九ウ)
りんきらしいがよくきかしやんせひとつは身のためぬしのため
そはれまいとはそりやきのよはひいわにたつやもあるならひ」(二十オ)
???のうしが作れる新作の端唄を讃して
身をしのぐ柳の原も夏の雨
柳連ン
小勝女」(二十ウ)



24 風流粋の一筋(幕末刊か。河内屋新助等四書肆板。)
※一オの序文には「頓作俳優度々一」とある。百文舎外笑序。菊池蔵『頓作俳優度々一』によれば弘化三年序。一オの序文と二ウの三首のみ、菊池蔵『頓作俳優度々一』と菊池蔵別本『風流粋の一筋』と同じ。ただし、別本『風流粋の一筋』同様、『頓作俳優度々一』にある作者名は削除している。
※欠丁あり。
※菊池蔵『新吉原流行頓痴度止逸』(弘化二年序)からの盗作が目立つ。
風流粋の一筋」(表紙)
程よしこの」(見返し)
頓作俳優度々一序
はやりうたてふものは。流行の極早き事。駟も及ばざるに此度々一ばかりは。馬士唄甚九にも対(つひ)すべく長(とこしなへ)にはやりもて行大江戸は更なり何処の津々浦々までも一円に広がりて遊楽の酒席には必ず興を添て皆頓作せざる事なしされば此一冊も彼俳優輩が遊戯の余りに成れる物とて予に序せよと乞はる一校する暇もなければ速に筆を採て其せめをふさぐといふ
百文舎外笑」(一オ)
(絵)」(一ウ)
(絵)」(二オ)
はなにもゝたびくるきやくよりもゆきのしよくわいがたのもしひ
ぐちなわたしにさばけたおまへ柳につたじやと人がいふ
ぎりをせけんのそりやいひのがれじつはいやだとことはりか」(二ウ)
こんはないぞへ惚たがまけよ〔(しん内)四谷ではじめてあふた時すいたらしいと思ふたがいんぐわなゑんの糸車〕どんなむりでもいわしやんせ
義理と人目とせけんがなけりや〔(浄るり かつら川)わたしもおなごのはしじやもの大事のとのごと人のは?はらもたつしりんきのしやうもまんざらしらぬじやなけれども〕ぬしをおもふてしやくのたね」(四オ)
雪のふるのもいとわぬおまへ〔(ぶんご 源太)其時かげすへおもふやういろにはなまじつれはじやまひとりさきがけ高名せんとかごにものらず〕小きたものあはずにかへされふか
おまへおへばいらざる人に〔(浄るり とらふぐ七ツ目)水のでばなにちやのはながそつとさしだすついしやうも〕ぬしのたよりのしてほしさ」(四ウ)
きうにこいとてよこしたふみでちうをとばせたかひがない
かごのとりでもじせつをまてばそらに羽をのすこともある
わしが心はこけらのやねよかわらないのでまことがみへる」(六ウ)
ぬしの身のうへよしあるうわさきかぬふりしてあとをきく
八千八声あのほとゝぎす空をながめてなきあかす
ゆめみわるいとたづねたふみもなみだにしみてまくらがみ」(六ウ)
おまへばかりにくらうはさせぬままかりちがへばひきまゆげ
くちはほどよくきやすめいへど口とこゝろはうらおもて
ほんにかりたくそわ/\すればしんのはなしが身にならぬ」(七オ)
ふたり手をとりアレにげ水のにげかくれてもそふこゝろ
あしのとほいはせけんのてまへこゝろはなれぬぬしのそば
またもかりたくもふとりはてたわしがつとめるうちはいや」(七ウ)
こゝろひかれてひとあしづゝもゆけばくるはがちかくなる
あんなのはらもかうたてそろひきりをた???とてもなし
こゝのせうじにひきてのあるはまたかりたくじやあるまいし」(九オ)
ほれた中にもついあきかぜがたつとしほれるおもひ事
あふはうれしいわかれのはじめあふもわかれもなけりやよい
ふかいゑんとて此つゝ井づゝふたりの中をくんでこそしれ」(九ウ)
ぐちとしりつゝ甚介いへばいひわけするもやはりぐち
夕日まばゆき土手八丁もなんのくもなきひとまたぎ
すだのかわかぜはださむければつがひはなれぬうきねどり」(十オ)
ちよきのけんさき北へとむいててつもこがねもすひよせる
今宵あわふと三まひがたはたましいちうをとびゆくこゝろ
君に大門にたび/\くゞれにんげんわづかに五十けん」(十ウ)
ふしんいやだよきがおちつかぬつちやかんなのおとばかり
ひとりぬる夜のあらかべいやよとてもおまへはこまへと思ふ
すぐにゆくのをしばしととめておまへがたてばはながちる」(十一オ)
ようがあるとてわざ/\よんでのろいやうだがかうしてゐたい
しやうじあけたてしづかにしやれいまだしきゐのみぞなれぬ
つらいつとめはふすまの引手おほくの人の手にかゝる」(十一ウ)
水にうくとりほかめでみればあしのはたらくやうでもないに
またのつとめもいとひはせぬがきのおほひのがくらうのたねよ
恋の病でからだはやつれたへぬ思ひの日にふとる」(十二オ)
さけといろとでおもしろさうにみえて心にらくはない
物をおもふてはしらにもたれおきてゐながらぬしのゆめ
二百五十にちやゆめの間にたつてちゞまるやうなかぜがふく」(十二ウ)
いふはいはぬにまさるといふがいつてはらさんむねのうち
人のほれたをそねむじやないがほどのいゝのがきずにたま
うはきらしいがついした事とわけをはなせばくずがでる」(十三オ)
むりな事とはこゝろにしれどくちじやなんでもこじつける
そへのあるうちやかざりもしやうがほれてしまへばもとはぐち
はしら立するいろはにほへとちりぬるはなも月のよは」(十三ウ)
こんなやさしい男の手でもしやくをおすのはおまへにかぎる
故郷はなれて他人の中もおまへひとりがちからぐさ
末は女夫(めうと)と口ではいへどうわきやまねばあてにはならぬ」(十四オ)
わかしゆがほでもかげまにやならぬしりのつまりが気にもなる
すいをとうしてねたふりしてもたぬきねいりはゆだんがならぬ
かごのとりとてきうくつなれどたかとびをするときもある」(十四ウ)
かはすまくらはかずあるなかよ心中たてるはたゞひとり
なさけうつてもいのちはうらぬきやくとまぶとはうらおもて
ねてもさめてもさめてもねてもぬしのうわきのことばかり」(十五オ)
女たらしのきやすめいやよほどのよいのはゆだんがならぬ
大工しやかんをていしゆにすればかわい男がごみだらけ
ぢよさいなけれど女にやのろいそれでいちばいきがもめる」(十五ウ)
ある時の座興にどゝいつといふものを
浪の枕のアレかはせみは岸の小魚の命とり
出たらめへでもどゝいつうたへわるひところがきやうになる」(十六オ)
ういたことばについのせられてこがれくるわにかしをつく
うまのかりたくまつぴらごめんなんでもはねたことがない
まつはつらいとせけんにいへどしゆびといふ名も松にある」(十六ウ)
投扇曲芳此源氏出版 魁春亭貞芳画
〔今時晴?〕芳此壱万集初編より十編迄近刻 加嶋屋清助近江屋善兵衛
????ばろく町角
河内屋茂兵衛
柏原屋儀兵衛
綿屋喜兵衛
河内屋新助 合刻」(裏見返し)



25 どゝ一づえ 二編(幕末刊か。)
※菊池蔵『風流粋の一筋』(藤屋九兵衛版)及び菊池蔵『風流粋の一筋』(次項26に掲出)に同一都々逸がかなり見られる。本書からの盗用か。
どゝ一づえ
二編」(表紙)
とゝいつ図画 〔二篇〕」(見返し)
東都一図会二編の序
花に鳴鳥水にすむ蛙いづれか歌を唄はざらん古今集より古今の世態三十一文字も流行唄も心の誠を明しがた人麿さんの秀逸にもまけぬ小唄の思ひのたけ海山里を隔たる遠い所へ」(一オ)行届く文句は詩倭哥に変らぬ情を備へたれど唯言の葉の俚しゆゑ賤き様に謗るもあれど人の心の奥底を察て捨がたき露の下秋の草葉の虫の音も錦を染なす楓葉(もみぢば)も皆それ/\の旨趣(おもむき)あり嬉しき事を憂事と思ひ/\の」(一ウ)世事情態斯るおろかな言種(ことぐさ)も人の風俗(ふり)見て我ふりを直す一助とならざらめや月雪花の詠にも人は憐を知を以て頼母しくも尊くも思はるゝものならんと云」(二オ)
(絵)」(二ウ)
(絵)
鶯も音いろや恥ん爪音に梅が枝うたふ春のきむすめ(春蝶)
英泉画」(三オ)
(絵)
遊戯の通客(ひと/\)百々一の新文句を作る」(三ウ)
(絵)
英泉酔画」(四オ)
新玉の春のけしきのめでたひながめ〔(上るり)大々神楽門礼者(トツチリトン)なかに娘は手まりつくてまりの唄も心いきとゞく羽子の子追はねに縁の糸目の凧(いかのぼり)〕鶴といふ字や岩に亀」(寿亀)」(四ウ)
百度参りを小舟ですればさしであはれぬ事ばかり(神久)
あだも是限(これぎり)モウ惚仕舞他人(ひと)の恍惚(のろけ)を聞も否(いや)(蝶作)
油でかためた聖天さまをあらゐがみとは誰がいふた」(五オ)
逢は別れのはじめといへど〔(上るり)昨日の渕は今日の瀬とかはりやすさよ人心〕くやしひながらもきれられぬ(米太夫)
花の笑顔で操の松の色もかはらずぬしの側
横しまながらも此所(こゝ)聞わけていたらぬ私も立様(たつやう)に(シンチ 留治)」(五ウ)
あふが誠かあはぬが実か末を遂よと遠ざかる(シンチ 政吉)
遠ざかるのはこらへもせうが他人のしやくりが気にかゝる(シンチ 谷蘭)
気にもかゝろが互の実は絶ずたよりの文のつて(園吉)」(六オ)
案じ顔さへ花にもまさる婀娜が苦労をさせる種(シホ丁 喜勢)
かゞみに向へばやつれたすがたあひそがつきよと案じ顔(シンチ 園吉)
文も遣るまひ返事もせまひあはれぬつらさをますかゞみ」(六ウ)
しんの夜中にふと目をさまし聞ばとなりの小鍋立(春里)
あきらめられうかこりしよなわたし〔(上るり)あふは別れのはじめとはきくもうるさゐ世のたとへ〕命かけてもそひとげる(シンチ 政吉)
お店者でも出番の衆でもやぼと由断がなるものか(浪花 梅雅)」(七オ)
恋の綾瀬を辛苦にするな今に中よくすみだ川(梶川 蝶花)
つらゐ峠やかなしひ浮瀬越てけふ日の新世帯(亀吉)
お店者だか店さらしだかすれて紋日もしらぬ顔(常八)」(七ウ)
他人に異見も仕かねぬぬしが人に云れる此始末(うつしゑ 登山)
泣て待夜にふけ行鐘は明の鶏より猶つらさ(浦源)
わが惚りや他人も斯かと邪推をまはし愚痴な様だがはらがたつ(ナコヤ 寿?女)
遠ざかるのは末咲花よ日々に咲のはちりやすひ(トミマツ 百代)」(八オ)
酔ばつもりし恨もいへどさめて嬉しひ梅の雪(柳水)
愚痴もいふまひりんきもせまひ他人の好人持果報(ヨコヤマ ふみ女)
わけを云のにマア聞しやんせ否でわかれる気ではなひ(トヲリヨコ丁 大夢)
お前ゆへには憂身をやつし〔(上るり)アノ川端の祖師さんへ日に千遍のおだひもくとなへてむりなおねがひを〕かけて結んだ縁の糸」(八ウ)
深ひ契りをかはらぬ願ひ他人は浮名をたつみ風(桜川 三孝)
吹ばとぶよな玉やの身でもあはぬつらさのもの思ひ(鱗蝶)
軽ひ世帯もお前と二人気がねせぬのを楽しみに(サンヤ 春里)」(九オ)
聴解(きゝわけ)がなひとお前は云んすけれど離別(きれる)覚悟で惚はせぬ(神久)
他人に心配(きがね)もいらざる艶言(せじ)も〔(上るり)流れわたりの芸者の身ゆふべ過ごした拳酒の〕ほれて勤たわけぢやなひ」(九ウ)
酒が云するお前の癖か〔(上るり)まはらぬ舌で燭台や丼火箸でなむさんばうそふに忽泣上戸「この丼の割たのを見るに付ても娘が事今年十二で麻疹も軽くはやり風さへ引もせずつゐ十三で此よふにとしやくり上たる溜涙〕笑ひ上戸にならしやんせ(蝶花)」(十オ)
内に待気もおまへの顔を〔(上るり)三保のあたりであらふかと聴て後から御ひゐき請ておかげ参りは皆さまへお礼にちよつと旅がけの連になるみの染浴衣〕きて見りや今更帰られぬ」(十ウ)
好風(いき)な人でも不実があればすへは愛相の尽るもと(春泉)
あげて心配(きかぬ)はお客が凧か揚代(つとめ)もいとめを付てゐる(大万)
切た当座はがまんもいへど日数たつほど思ひ出す(清元延花)」(十一オ)
なひてたもるな途方に暮る月は雲間の時鳥(清元延伸)
春の初日の豊にさして呑はめでたひとその酒(桜川善孝)」(十一ウ)
きげん直してマア寐やしやんせ〔(上るり)小夜ふウけヱて○蕎麦イ引にうめんそばイそばイ引(上るり)八アツウかフボヲン○按摩アワン/\/\/\そばやさん何時だね(上るり)七アツウウ○鳥の羽音きものゝそでにてパタ/\/\/\○こつけつかう(上るり)あけむらツウの〕かねがかたきの世のならひ」(十二オ)
花も若葉も月日がたてばやがてわたしに秋の風(園吉)
庭の雪間のあの梅さへも寒苦をしのひで花が咲(米太夫)
花も紅葉もモウあきらめたぬしの便りを松ばかり(さくら川新孝)」(十五ウ)
せけばやむかとお部家(へや)の叱言(こゞと)おちやをひくにはましであろ
親の気入(きにいり)私も惚る好風(いき)で律義な人はなひ
泣ば誠とお客のこけがいろの仕送り仕舞札」(十三オ)
たよりなひ身で尽したまことぬしは浮薄(うわき)できれ言葉(仲丁 小浜)
二の足をふんで居るのに異見をされりやまたもみれんできれられぬ
待ば海路の日和もあろが得手に帆どよく乗せ見な(仲丁 和十)」(十三ウ)
医者さまが小首をかたげて二の匕(さぢ)を投てやつれ姿を見るつらさ(生田可庵)
契情(けいせい)も元は素人秘蔵の娘うそも誠も人に依(延津賀)
いへばどふやら催促らしく言ねば返さぬかりたもの」(十四オ)
変るまひとの互のまこと〔(上るり)欲な事ぢやが極楽の蓮とやらの新世帯〕うまれかはろがそひとげる(駒助)
待ば甘露とそりやあま口な待れる程なら気はもたぬ
鶯にまけぬ音色がたまさかあれば谷の中へも花の兄(トキハヅ 春開)」(十四ウ)
きけば気になるお前の噂〔(一中ぶし)所詮此世はかり髷の恋にうき身をなげしまだ〕かみも乱れてもの思ひ(蝶?園 芦水)
お部やへ気がねもお前が大事艶言(せじ)も勤もぬしの為(芦水)」(十五オ)
松に並びしあの山桜〔(上るり)ちればこそ身にふりつもる花ふゞき〕峯に嵐や恋のじやま
冨士とつくばのながめをそへて土手の桜を都鳥(芦水)
他(ひと)の願ひと私はちがふ思ひ切度(たひ)身のねがひ」(十五ウ)
はへば立たてば歩めと育た親はお前ゆへでも捨られぬ
縁も時節も実(まこと)が便りあだや浮気でそはれふか(若老)
恋に上下の隔がなひといふは不義理の勝手づく」(十六オ)
艶言(せじ)も調花(じやうず)もモウ言倦たお酌をするのも癪の種(小三 東山)
胸に手をあて思案をすれば婀娜な人ほど実はなひ
子を思ふ親となる身のあすをもしらず今日は夜桜月見酒(カンカハ 蝶花)」(十六ウ)
月に村雲私にやお前邪魔と知りつゝ切られぬ
花にあらしは浮世のたとへ〔(一中ぶし)せかれて逢れぬ様になりあはれあふせの首尾あらば〕つらゐ辛苦をしのがんせ」(十七オ)
実も不実となる身のつらさ送る茶にも義理がある(秀吉連中)
私はかはつた心もなひにぬしは口舌の言がゝり
すなをに咄すをお前はじれて横に車の無理ばかり」(十七ウ)
送る茶屋でもむね気な仕方あの娘(こ)に呼れてなるものか(米太夫)
たつを引とめマア聞しやんせ市に餅つき松の内(登山)」(十八オ)
春の霞もみすじをひくは花にうかれる心いき(シンチ 谷菊)
しんの夜中にふと目を覚しとなり座しきの貰ひなき
名ごりおしげに見送る顔へ露か涙か朝ざくら(延津賀)」(十八ウ)
土手の桜をまた夜ざくらと酒が乗気の山谷堀(春すみ門人 仙吉)
降雪をふむも惜ひがふまずは人が問てくれまひ此けしき(丁平 善光)
花のけしきも降つむ雪も心々の目の詠め」(十九オ)
この頃は涙もろひとわらはれ癖がつゐてふさぐもぬしの事(米太夫連中)
春の野に思ひすぎ菜はおまへのうわき案じ心のつく/\し
きゝわけがなひと我身で知つては居れど思ひきられぬ恋のよく」(十九ウ)
実に思へばわけなひ事を〔ぐちな女子にみれんな男よくあひぼれの実くらべ〕思ひ過して苦労する(蝶作)
みよしを突出しさらばの胸にぐつとさし込しやくのむし
土地はもとより世間は猶も広くさせ度こちの人」(二十オ)
梅も柳も皆夫々に恋の意気地のあだくらべ
雪のはだへに桜の目もと月にいくらと噂する(寿亀)
おそまきながらも辛防さんせト云て涙にむせかへり」(二十ウ)
貴(たか)ひお方にほれまひものよ〔(上るり)かわるまひぞやかはらじとおふせうれしく返答(いらへ)さへ〕ごめんあそばせひぢまくら(舟辰)
無理な願ひもやう/\叶ひ〔(上るり)しのぶまがきがはし渡し〕あふて嬉しひ花の顔(蝶作)」(二十一オ)
蔦かづらからみつく程思ふて居れどぬしの心にはぢもみぢ(小三 東山)
気づよふ帰した背後(あと)見送りて〔(上るり)かわる心のつれなさをさぞやうらみてふがひなひ女子心と思はんしよが〕みんなおまへのためじやぞへ(蝶作)」(二十一ウ)
かはらなひとは田舎の住居埜でも山でもいとやせぬ(シンチ 政吉)
今戸焼の様な姿で自惚らしひかはらなひとはよく云た(知十)
衿に顔入何にも云ず泣て男の胸に釘(春旭)」(二十二オ)
行が帰りか帰りが行か蟹と廓の仲の丁
何卒(どうぞ)と思ふたはじめをわすれ悋気するのも恋のよく
引汐に声もかすかなアノ浜千鳥遠くなるみの海になく(芦水)」(二十二ウ)
千代に八千代の寿こめて結ぶ妹背の門の松(サクラ川 善孝)
お前を案じてふさがる胸が明(あき)の方とはよしわるし(千代吉)
明て嬉しい初日の陰に花の笑顔や福寿草(サクラ川 新孝)」(二十三オ)
年の内に春のまふけのアノしめかざりめでた/\を松と竹(万亀)
市の縁起の破魔弓おかめはづむ手まりのみやげもの(千歳庵)」(二十三ウ)



26 風流粋の一筋(幕末刊か。)
風流粋の一筋」(表紙)
風流粋の一すぢ」(見返し)
風流粋の一筋
花になく鴬水に栖蛙までいづれか諷(うた)を唄ざらむ古今集より古今の人情三十一文字も流行歌(はやりうた)も意(こゝろ)はおなじ世事情態思ひをのべ情をあらはす場に至りては更に差別(かはりめ)有べからずなどゝ無理こじ附も出たらめに筆に任したとつちり頓作三弦(しやみ)の竹駒乗のくる東調子の俚唄(さとびうた)も追々編をかさね/\御評判記を希(こひねがひ)奉るのみ」(一オ)
(絵)
世の中はたゞよし/\と」(一ウ)
(絵)
よしこのをどゝいつ/\もうたふたのしさ」(二オ)
青柳の水にうつるかあの三日月はやせるはづだよやみあがり
花にてふ/\わしやきがもめるきてはちか/\まよはせる
二世さんせきしようせいしは貰ふたけれど此世が二せではあるまいか」(二ウ)
送る茶屋でもむね気な仕方あの妓に呼れてなるものか
たつを引とめマア聞しやんせ市に餅つき松の内」(三オ)
春の霞もみすじをひくは花にうられる心いき
しんの夜中にふと目を覚しとなり座しきの貰ひなき
名ごりおしげに見送る顔へ露に涙か朝ざくら」(三ウ)
契情(けいせい)も元へ素人秘蔵の娘うそも誠も人に依
医者さまが小首をかたげて二の匕を投てやつれ姿を見るつらさ
いへばどふやら催促らしく言ねば返さぬかりたもの」(四オ)
変るまひとの互のまこと〔(上るり)欲な事ぢやが極楽の蓮とやらの新世帯〕うまれかはろがそひとげる
待ば甘露とそりやあま口な待れる程なら気はもまぬ
鶯にまけぬ音色がたまさかあれば谷の中へも花の兄」(四ウ)
かはらなひとは田舎の住居埜でも山でもいとやせぬ
今戸焼の様な姿で自惚らしひかはらなひとはよく云た
衿に顔入何にも云ず泣て男の胸に釘」(五オ)
行が帰りか帰りが行か蟹と廓の仲の丁
何卒(どうぞ)と思ふたはじめをわすれ悋気するのも恋のよく
引汐に声もかすかなアノ浜千鳥遠くなるみの海になく」(五ウ)
はへば立たてば歩めと育た親はお前ゆへでも捨られぬ
縁も時節も実(まこと)が便りあだや浮気でそはれふか
恋に上下の隔がなひといふは不義理の勝手づく」(六オ)
艶言(せじ)も調花(じやうず)もモウ言倦たお酌をするのも癪の種
胸に手をあて思案をすれば婀娜な人ほど実はなひ
子を思ふ親となる身のあすをもしらず今日は夜桜月見酒」(六ウ)
実に思へばわけなひ事を〔ぐちな女子にみれんな男よくあひぼれのじつくらべ〕思ひ過して苦労する
みよしを突出しさらばの胸にぐつとさし込しやくのむし
土地はもとより世間は猶も広くさせ度こちの人」(七オ)
梅も柳も皆夫々に恋の意気地のあだくらべ
雪のはだへに桜のめもと月にいくらと噂する
おそまきながらも辛防さんせト云て涙にむせかへり」(七ウ)
貴(たか)ひお方にほれまひものよ〔(上るり)かわるまひぞやかはらじとおふせうれしく返答(いらへ)さへ〕ごめんあそばせひぢまくら
無理な願ひもやう/\叶ひ〔(上るり)しのぶまがきがはし渡し〕あふて嬉しひ花の顔」(八オ)
蔦かづらからみつく程思ふて居れどぬしの心にはぢもみぢ
気づよふ帰した背後(あと)見送りて〔(上るり)かわる心のつれなさをさぞやうらみてふがひなひ女子心と思はんしよが〕みんなおまへのためじやぞへ」(八ウ)
月に村雲私にやお前邪魔と知りつゝ切られぬ
花にあらしは浮世のたとへ〔(中ぶし)せかれて逢れぬ様になりあはれあふせの首尾あらば〕つらゐ辛苦をしのがんせ」(九オ)
実も不実となる身のつらさ送る茶にも義理がある
私はかはつた心もなひにぬしは口舌の言がゝり
すなをに咄すをお前はじれて横に車の無理ばかり」(九ウ)
せけばやむかとお部家(へや)の叱言(こゞと)おちやをひくにはましであろ
親の気入(きにいり)私も惚る好風(いき)で律義な人はなひ
泣ば誠とお客のこけがいろの仕送り仕舞札」(十オ)
たよりなひ身で尽したまことぬしは浮薄(うわき)できれ言葉
二の足をふんで居るのに異見をされりやまたもみれんできれられぬ
待ば海路の日和もあろが得手に帆どよく乗せて見な」(十ウ)
きけば気になるお前の噂〔(一中ぶし)所詮此世はかり髷の恋にうき身をなげしまだ〕かみも乱れてもの思ひ
お部やへ気がねもお前が大事艶言(せじ)も勤もぬしの為」(十一オ)
松に並びしあの山桜〔(上るり)ちればこそ身にふりつもる花ふゞき〕峯の嵐や恋のじやま
冨士とつくばのながめをそへて土手の桜を都鳥
他(ひと)の願ひと私はちがふ思ひ切度(たひ)身のねがひ」(十一ウ)
深ひ契りをかはらぬ願ひ他人(ひと)は浮名をたつみ風
吹ばとぶよな玉やの身でもあはぬつらさのもの思ひ
軽ひ世帯もお前と二人気がねせぬのを楽しみに」(十二オ)
聴解(きゝわけ)がなひとお前は云んすけれど離別(きれる)覚悟で惚はせぬ
他人に心配(きがね)もいらざる艶言(せじ)も〔(上るり)流れわたりの芸者の身ゆふべ過ごした拳酒の〕ほれて勤たわけぢやなひ」(十二ウ)
酒が云するお前の癖か〔(上るり)まはらぬ舌で燭台や丼火箸でなむさんばうそふに忽泣上戸「この丼の割たのを見るに付ても娘が事今年十二で麻疹も軽くはやり風さへ引もせずつゐ十三で此よふにとしやくり上たる溜涙〕笑ひ上戸にならしやんせ」(十三オ)
内に待気もおまへの顔を〔(上るり)三保のあたりであらふかと聴て後から御ひゐき請ておかげ参りは皆さまへお礼にちよつと旅がけの連になるみの染浴衣〕きて見りや今更帰られぬ」(十三ウ)
きげん直してマア寐やしやんせ〔(上るり)小夜ふウけヱて○蕎麦イ引にうめんそばイそばイ引(上るり)八アツウかフボヲン○按摩アワン/\/\/\そばやさん何時だね(上るり)七アツウウ○鳥の羽音きものゝそでにてパタ/\/\/\○こつけつかう(上るり)あけむらツウの〕かねがかたきの世のならひ」(十四オ)
花も若葉も月日がたてばやがてわたしに秋の風
庭の雪間のあの梅さへも寒苦をしのひで花が咲
花も紅葉もモウあきらめたぬしの便りを松ばかり」(十四ウ)
百度参りを小舟ですればさしであはれぬ事ばかり
あだも是限(これぎり)モウ惚仕舞他人(ひと)の恍惚(のろけ)を聞も否(いや)
油でかためた聖天さまをあらゐがみとは誰がいふた」(十五オ)
逢は別れのはじめといへど〔(上るり)昨日の渕は今日の瀬とかはりやすさよ人心〕くやしひながらもきれられぬ
花の笑顔で操の松の色もかはらずぬしの側
横しまながらも此所(こゝ)聞わけていたらぬ私も立様(たつやう)に」(十五ウ)
あふが誠かあはぬが実か末を遂よと遠ざかる
遠ざかるのはこらへもせうが他人のしやくりが気にかゝる
気にもかゝろが互の実は絶ずたよりの文のつて」(十六オ)
この頃は涙もろひとわらはれぐせがつゐてふさぐもぬしの事
春の野に思ひすぎ菜はおまへのうわき案じ心のつく/\し
きゝわけがなひと我身で知つては居れど思ひきられぬこひのよく」(十六ウ)



27 源氏這込とゝ一(幕末刊か。)
※下段に春画、上段に都々逸と川柳。川柳は省略する。
源氏這込とゝ一附川柳点
春情見立源氏」(表紙)

打なびき春くる風の色なれや

なつとこはざしきまばらに明ぼのや人はあやめと心うつりが

秋たけぬいかなる色とふく風にやがててりそふかほのもみぢ葉

色うづむかさねの雪のはだへぞととしのこなたに??を梅がえ」(見返し)
桐壺
桐のやきゑや茶壷をならべいきな年増の土手の茶や」(一オ)
夕顔
ゆうことがあればあるよにわけみちよつけてたてゝやり升ぬしのかほ」(一ウ)
若紫
若いおかたの新染ゆかた井の字がすりの小むらさき」(二オ)
末摘花
すへはとげぬよあのつみつくりどうせとうざの花じやもの」(二ウ)
紅葉賀
紅(べに)の花でも葉はあをいぞへきやくのなかにもわけがある」(三オ)
花之宴
花見がへりにみそめたおかたゑんがあるならまくらばし」(三ウ)

あへばたがひにふりくつばかりしんぼするにもかいがない」(四オ)

さかりまばゆきさくらのしたにうたをまくらにねるきらく」(四ウ)
花散里
花にあらしでさくらはちるがつもるおもひはちらぬ里」(五オ)
須磨
すいたすかぬはくるまのはりよ今はまじめで針仕事」(五ウ)
明石
あかいけだしに身はうき船よぬしのごげんを松の下」(六オ)
澪標
みほの松かげきよみが関よわたしやこゝろをつくし琴」(六ウ)
蓬生
よもすがらねるめもあわぬれんぼのやみにぎりという字がなけりやよい」(七オ)
関屋
せきにせかれて身はやぶれ笠かよひくるはもやめさんせ」(七ウ)
絵合
ゑんはいなもの合せたものよこうなりや榎木もきゝわせぬ」(八オ)
松風
ゑんはいなものもうまちわせぬ風のたよりをまつばかり」(八ウ)
薄雲
うすひけしやうでこいきなとしまおそくもくどいて見るがよい」(九オ)
朝顔
あさのゆきつもり/\てこいじのとこにぬしがかほ見りやきもはれる」(九ウ)
乙女
おとづれのなかを苦にやみたゞぼうぜんとなくめかくしてゐるつらさ」(十オ)
玉葛
たまにくるきやくかれ木にゑだよぬしにわたしは蔦かづら」(十ウ)
初音
初卯もどりにすだれをかろしねじめゆかしき船の内」(十一オ)
胡蝶
恋にそまらぬそがとのばらははゝのかたみのてふちどり」(十一ウ)

ほたるあつめて書をよむやうにたそやあんどんで文をよむ」(十二オ)
常夏
床の間の風もすゞしきあのかごのうちきみを松むしなつのとこ」(十二ウ)
篝火
かゞり火のもゆるおもひにわたしをだまし今じやちぎりもあさまだけ」(十三オ)
野分
のろいよふだがまたわけきけばふかいちぎりのなかじやもの」(十三ウ)
御幸
みすをからげてあれおみなんしつもるおもひのけさのゆき」(十四オ)
蘭(ふぢばかま)
ふぢの茶ゑんにおやしきさんがはいたはかまのたなつちり」(十四ウ)
巻柱
まき紙のやせるほどなほくろうがましておまへひとりがつへはしら」(十五オ)
梅ケ枝
梅に鶯なくのをまつがひなのゑがほは桃の枝」(十五ウ)
藤裏葉
花はちらしてつれにははぐれいとゞさびしき里のかね」(十六オ)
若菜上
わかいむすめにとしより客はこれもくがひのゑんかいな」(十六ウ)
若菜下
わかい手代に年へたおんばこれはとうざの花かいな」(十七オ)
柏木
かしはもちでもおきやくのやうにすいたすかぬはみそとあん」(十七ウ)
横笛
横ぶへのくるはやはぎのにはとうろふにむかしゆかしきしらべ琴」(十八オ)
鈴虫
すゞがなるころにあがりしあの客人はふられがちだよあぶらむし」(十八ウ)
夕霧
ゆう顔をつくるかこいのざしきの中にさけのしたくかきり火鉢」(十九オ)
御法
みれんらしいがあいつのほうへのりかへられてははらがたつ」(十九ウ)

まぼろしかゆめのしらねどおまへのすがためにはちらつくけさのゆき」(二十オ)
匂宮
にほふあぶらをこて/\つけてやぼなすがたのみやづかへ」(二十ウ)
紅梅
紅白とさいてめにたつ梅がへよりもわたしやひとへの桃の花」(二十一オ)
竹川
竹にすゞめの大じんきやくをふつたみさほで川のなか」(二十一ウ)
橋姫
はしたない身にひかやりもふけほんにめかけは玉のこし」(二十二オ)
椎本
しいられた酒にこゝろをはらして見てもぬしがこぬ夜はしやくのもと」(二十二ウ)
総角
あげられぬ客にくろうとこのまきがみはふみをかくたびにくがやせ」(二十三オ)
早蕨
はやくいろづくつみ草むすめおびをしめたよこのわらび」(二十三ウ)
宿り木
やくにたゝぬのとりへがないとこゞときくのもおまへゆへ」(二十四オ)
四阿
あづまそだちの男はにくいやぼなわたしにくろふさせ」(二十四ウ)
浮舟
うきが中にもおまへがたよりわたしやなぎさのうつろぶね」(二十五オ)
蜻蛉
かげがさすからうわきをやめなきざなやろうのこゑがする」(二十五ウ)
手習
手もちぶさたにこうしにもたれ恋のつけぶみかきならひ」(二十六オ)
夢浮橋
ゆめのうき世とあきらめさんせたとへひとよもゑんのはし」(二十六ウ)



28 よしこの恋のみなと 初編(幕末刊か。河内屋藤兵衛等三書肆板。)
※『都々逸恋の美南本』と同類。『都々逸恋の美南本』は、前文に続き次の各項目等を含むが、
  百人一首小倉都々一
  源氏都々一五十四でう
  七夕の都々いつ
  十二支の都々いつ
  江戸名所
本書は、
  源氏都々一五十四でう
  七夕の都々いつ
のみである。
よしこの恋のみなと 初編
五雲亭貞秀画」(表紙)
去年の伊予ぶしは今年古び今歳の大津絵来年は廃るその流行の徙るが中に都々一のどゝ何処までも壁にされぬを附こんで近来はやる贅沢菓子五分の団子三分の大福餅に売るを羨み此方も一番当気に成ずつと上媚て百人首紫女が源氏の真似ごともお公家さん方お屋敷さんどんな高貴のお口にも協ふ積りで品張と根が踏張ぬものなれば是ではいかぬとお?捨(みすて)なく一口やつて御覧じろそれは女の惚ること妙であり升請合升と梓元諸共伏てまうす
吾妻雄兎子誌」(一オ)
ずつと往昔(むかし)の来湖(いたこ)ぶし
○いたこ出嶋の真菰の中であやめ咲とはしほらしい」(一ウ)
中往昔のよしこの
○私しやどうでもかうでもあきらめられられられないによつて讃岐の金ぴらさんへちよいとまたぐわんかきよか
今の都々一
○まゝよ三度笠よこたにかぶり旅は道づれ世はなさけ
応需
梅の本鴬斎画」(二オ)
三味せんは唐土にては簫といふ笛に合せてひくなり琉球国の人もつともこれを能すと三才図会に見えたり異国にてはみな蛇の皮にてはる棹胴いづれも花櫚木(くわりん)あるひは鉄刀木(たがやさん)紫檀をもつてせいすものを上とし桑の木にてせいすを中とし●(かし)の木を下とす其皮は猫を用ゆ故に三味線を猫ともいふ八乳にて張を上狗子(いのころ)皮にて張を下となす撥は象牙水牛●(かし)の木を用ゆ
○都々一うたひ方并三味線の心得
唄ひやすくして亦うたひ難きものはとゞ一也そのふしさま/\にして極らず」(二ウ)芸者のどゝいつはいかにもうはてうしにかるく浮たるさまをうたひはなし家はとめどもなく引のばし折々声を鼻へぬかすやうにしてそのうちに勿体なるところあり湯屋のどゝ一往来のとゞ一はたゞいかつきのみにて三筋の糸にかゝはらず大部屋はつひ着のどゝ一はなげぶしと混さつなすかんにて高く唄ひ出すありりよにて低くうたひだすあり亦は平かに「まゝよさんど笠横たにかぶり」トまで唄ひ「たびは」ト此処を一てうしはり上「道づれ世は情け」ト亦平らかに唄ふふしありしりを細く長くひき或ひは打きつたるやうにとめるなど時々の流行と土地どころの風ありて一やうには言難けれど都て重くやうだいにうたふよりも軽くあつさりと云まはす方をよしとす三味せんは大一座などには撥かず多く賑やかに弾を常とすれど引過の床の上にさしむかひの爪弾や雨の夕部のつれ/\に忍びごまの水でうしなどしんねこの楽し」(三オ)みは撥かず少なく「まゝよチンさんど笠チントンなど相間々々へ程よくうちこみ手のこまぬ方いきに聞ゆ一声二ふしといへど惣じて唄ひまはしが肝心也ふしおもしろければ声悪きもあだめきて聞ゆよく/\たんれんすべし
むかしは三十一文字の哥を唄つて今のとゞ一のごとくそゝりあるき思ふ人あれば心いきを唄ひふつかけあり気をひいて見るあり亦先よりも返哥をうたひ終(つひ)情合(いろごと)の出来るありと今の世にては三十一文字の哥は月花のもてあそびものにして唄ふものたえてなければ其ふしだに伝らず思ふ今のとゞ一は和哥を唄ふのなごりならんか然れば此とゞ一をもて」(三ウ)端唄のだい一さわぎの骨ちやうとなす酒の座敷の人中にも思ひをのべ心をしらせ千尋の文の奥書にも一寸一筆書ことあり先一座のうちにおのれが好たる人ありて夫が心はいかにやと気を引て見んとならば「モシあなたいたゞきますので御座いますがふしつけながら上ますと盃をさし少し思ひいれありて
いとし可愛の思ひをこめてぬしへあげますこの千代子を
まゝになるなら鏡になつてぬしのお顔がうつしたい
峯のさくらは美しけれどわたしや麓で見たばかり
およばぬことゝは思つちやゐれど矢張みれんで神だのみ
などうたふときは先にてもその心を察すべし偖すぐに返しあるはもはや出来たるなり亦かへし無とも心あるは夫より後ばんじあいしらいの違ふものなり返しは哥ならば返哥なり
 前のいとし可愛のかへし
いとし可愛の思ひはおなじいたゞきますぞへこの千代子を
 同まゝになるならのかへし
思ふ事のうつる鏡が世にあるならばぬしに見せたいむねのうち
 同峯のさくらのかへし
峯のさくらもつひした風でふもとのお方のそでにちる
かねて情合(わけ)あるどし大一座のうちにありて数多の人に知れぬやうに思ひをはこび心をかよはすは忍びあふ夜のむつごとよりけつく楽しみ深きものなり然れど目顔やしうちで見すればたちまち人もこゝろを付悟らるゝこと有なれば只余所ごとになぞらへてそれとはなしに唄ふべし
左様しからばしかつべらしく他人ふりよすりや猶かあい
人目ありやこそ飛立むねをじつとこらえてしらぬ顔
箱根八里は馬でもこすが人めの関路はこしにくい
互にかへしはうたふべからず返しを唄へばわけあることをけどらるゝ也またはたからは悪くいふやうに聞えて実はのろける都々一あり是は返しを唄ひてもはたよりは夫と気のつかぬもの也
塩の小豆の大ふくもちをくさしながらもむしがすく
 ○同かへし
かぼちや野郎と思ちやゐれどおつにうまみのある男
鰒のやうだとわるくはいへどだいて寐て見りやあつたかい
 ○同かへし
なんの案山子と安くはしてもなくちやかなはぬ田の守り
わが友だちの思ふ人ありてその人の心を引て見んと唄ふ文句をそばにて察し取持こゝろのどゝ一
 ○気を引て見る方
言て見やうと口まぢや出れどおよばぬことだとまた無言(だまる)
 ○とりもつ方
及びないとはそりや気が弱い賤がふせやも月はさす
一座のうちに悪ふざけして人をこまらせ気にあたるしやくなど言ちらし悪くしわきくせに大ふうなどならべ立憎しと思ふものあることありもし夫らのものへ当こすりて唄はんとならば
鼠よくきけあのおとなしい庭の千草のきり/\す
月にむら雲花には風よ酒の座敷はきざ下洒落(だじやれ)
気障といやみへころもを掛てけちと邪すいのつけ合せ
除て通せば?気になつてかたで風きり糞(こひ)とろい
○こひとろいといふとこはさみせんにかまはずこひとりのこはいろにて一てうしはり上ていふなり
吝嗇でみえつぱりで出過てばかりでおまけにとき/\しやくをいふ
女郎などにはまりあつく成たる人と一座してその人に余所ながら異見をなさんと思はゞ
親へ孝行世間へぎりもたてゝ程よくあひにきな
じつとこらへて辛抱すれば星も七日のしゆびがある
大酒する人に異見する文句
酒は米の水とはいふものゝむりな盃きや毒になる
酒は憂ひのはうきといへどはいては塵よりなほむさい
うちが六ケ敷(むつかしい)からかけださうの此処の店(たな)をよしてよそへ奉公にゆかふと思ふなど思案けつせずまどひゐる人にそれとなく異見する文句
泪こぼして辛ぼうすれば後は寐やすくなる蚊遣
からの智恵じやといはるゝ身さへ股をくゞた事もある
一座のうちの人此方におつこちある事を知りそのおつこちのことを此方へあてつけむしやうに悪くいふことなどあるものなり其時あつくなつて言わけをなさんと思ふものなれどじつとこらえて一向にとりあはず悪くいふ人を都々一にてそしりかへす文句
色の黒いはそりやもちまへよからすは口ゆゑにくまるゝ
わるくも有うがいらざるお世話好ば蓼さへむしがつく
遠ざかりたる人と大一座の裡にて出あひ怨みを言んとすれど人目あれば協ずてもし左様の時は「ヲヤあなた誠にお久しぶりでおめにかゝりましたさだめし何地らにかお面白いことでも御座いませうなど前に少しきつかけありて
どうせたらない私しだものを捨るお前に無理はない
秋のあふぎと身は捨られて風のたよりもなくばかり
賤のをだまき亦くりかへしどうぞむかしにしてほしい」(七オ)
源氏都々一 五十四でう 桐壺
塵とりよ片手にはゝきぎよもつて惚たやつらを掃よせる(はゝきぎ)
ぬしにいりあげ身は空蝉の今ではもぬけのからころも(空蝉)
薄つくらいとまがきのそばへよつて夕顔のぞきこむ(夕顔)」(七ウ)
年はとつてもわかむらさきのいろになりてがまだ多い(若紫)
とほざかる花すへつむはなよ日々にさくはなちりやすい(末摘花)
峯のもみぢのからくれないに秋がきたとは気にかゝる(紅葉賀)
花のえんでもそはねばならぬどうせしゞうはちるからだ(花のえん)」(八オ)
あふひまつりの噂を湯屋ではなししながらくらべ馬(葵)
神のさかきとお前のうはきさきへたつので気がもめる(榊)
からかさの骨にからんでふる春雨はやがてはなちるさとがよひ(花ちる里)
すまのうら波またたちかへり来てはまよはすうらちどり(須磨)」(八ウ)
心あかしのけしきはよいがぽんとだしぬくはやて風(明石)
ぬしは磯辺のあのみをづくしさそふ女なみがかずおほい(澪標)
主とくらさばわしや蓬生のわびたすまゐもして見たい(よもぎふ)
不破のせきやにさす月よりもかくす恋ぢはもれやすい(関屋)」(九オ)
とてもするならゑあはせよりもぬしとふたりで貝あはせ(絵あはせ)
ぬしを松風身にしみじみとふけてさみしい鐘のこゑ(まつ風)
かぜの薄雲あの月かげを見せつかくしつ気をもます(薄雲)
翌日(あす)はまたあす朝顔見なよその日/\をかけながし(朝顔)」(九ウ)
うゆる玉苗早乙女がさは田毎の月よりなほおほい(乙女)
思ふこだちへからんだからははなりやせぬぞへ玉かづら(玉葛)
のぼる朝日になくうぐひすの初音嬉しいまどのうめ(初音)
まゝになるなら野にすむ胡てふくさに寐るにもめをとづれ(胡蝶)」(十オ)
それと見るまにあの初ほたる月の光りでついなくす(蛍)
のべるとこなつ枕もふたつたれと寐るのか気がもめる(常夏)
船のかゞり火とわたしのむねは水にこがれてもえてゐる(篝火)
となり座敷のあのはないきは野分風よりなほあらい(野分)」(十ウ)
ぐつと湯まきの御簾(ぎよれん)をまくりみゆきのあるのをまちかねる(行幸)
女郎花さくこの野のなかへだれがぬいたかふじばかま(蘭)
むかふはち巻かたはだぬいで酒がくだをばまきばしら(巻ばしら)
むろの梅がえわしやだまされてさいたと思へばくちをしい(梅が枝)」(十一オ)
ふぢのうら葉は手もとゞかうがむすめ白歯じやつままれぬ(藤のうら葉)
野べのわか菜とつみすてられてつちに思ひの根をのこす(若菜上)
わたしや春のに芽ざしのわか菜あをい/\と人がいふ(若菜下)
かしはぎの枝にがさつく枯ツ葉よりもぬしのこゞとがそうぞしい(柏木)」(十一ウ)
直なわたしに横笛ふいてどこおしやそのよな音をいだす(横笛)
庭のまつむし鳴やむたびにもしやそれかと気がもめる(松蟲)
なまを夕霧気障をばよしなどうせ女がほれやせぬ(夕霧)
お前にまかした私しのみのり烹よと焼うとすきしだい(御法)」(十二オ)
どうせ浮世は夢まぼろしとさとりよひらいてくさのいほ(幻)
遠道よして来てねれたはよいが匂ふ宮でははなつまみ(匂ふ宮)
雪のうちなるあの紅梅もかんくをしのいではるをまつ(紅梅)
こゝろの竹川あかしていへど水にながしてぬしはきく(竹川)」(十二ウ)
えんのはしひめとはいふものゝぬしが綱なら手がきれる(橋姫)
苔のしみづやそよ吹風に夏もすゞしいしいが本(椎が本)
みすをあげまきはゞかりながら色のことならきゝに来な(総角)
早蕨の握りこぶしにつみとがもない山の笑がほをはるの風(早蕨)」(十三オ)
雨にやどり木一河の水をくむも他生のえんむすび(寄木)
ふたりが恋路はあのあづま屋のあたりかまはぬかけはらひ(東屋)
吹よ川風気もうき船のすだれまくれば筑波山(うき船)
ありと見て手にもとられぬあのかげらうはぬしのこゝろとおなじこと(蜻蛉)」(十三ウ)
親はこの手できれぶみよかけといふて手ならひさせはせぬ(手習)
夢のうきはし渡りをつけりやあぶない恋でも気がつよい(夢の浮はし)
七夕の都々いつ
年に一度はそりや表むきかげであふ夜もあるだらう
ないしよのしきせも厭はぬならばぬいで今宵のかしこそで」(十四オ)
かさゝぎのはしたない身も渡りをつけてどうぞ今宵は首尾したい
背戸へ作つたお芋をぬいて星にたむけのひごずいき
秋の夜風の身にしみ/\と猪牙じや寒かろ天の川
星へねがひの糸みちよあけてどうぞむすんでもらひたい」(十四ウ)
(広告)
書林
京都三条通寺町   丸屋善兵衛
大阪心斎橋博労町南 河内屋茂兵衛
同心斎橋筋本町南  河内屋藤兵衛」(裏見返し)



29 新板葉歌の仮宅 二編(安政三年刊か。当世堂板。)
新板葉歌の仮宅
当世堂
二編」(表紙)
石山と言どもなんのかたからぬ手本初めは紫の式部が作りしむらさきにゆかりある源氏名の君はくるはの花ぞかしいづれおとらぬ恋の開山手くだの御神ふりての名人諸芸の立人ありてにぎわふ恋の山うつかり登る大江戸の浄留り葉唄の天狗どもむじつをつくしてうなれ共浮れ女なんまよふべきうはべはしらず口車乗つて一夜の仮枕又も今度の約束と跡引上戸となるとも知らず日にちたがはず仮宅へ心もそゞろ浮立足でのそぐと気は辰のとし春  石川亭反等述」(見返し)
露は尾花
忠とぎりとにつまされて熊谷はあつもりうてばとてアトついぜんに出家してふじつもじついもあらわれる(熊ケ谷にて 吉田勘之助作)」(一オ)
ゑゝもじれつたや夜明とおもや月夜がらすの人じらし(哥沢連 亀沢丁 遠安作)
たまのくぜつについ寐すごしてぐいとさしこむ朝日がけ(本材木丁五つるが 石卯の作)」(一ウ)
あれさおいらんもしへきかさんせとふくきこゆるほとゝぎす(さるわか丁二丁め 道具方 重太作)
主とせたいがかわいゝばかりやめて居るぞへ茶わんざけ(歌沢芝連 亀ざは丁 ??)」(二オ)
田毎程月のもる家にわしや?とても主とくらさばいとやせぬ(忍連安羅町 今啓作)
主の声かとみみそばだてゝきけばあんまがじやまなこい(大鋸丁 板工 元吉作)」(二ウ)
すいた酒ならのむなじやないが長家あるきはやめてくれ(松川丁常磐津 鶴はま作)
あれさうはきなあのとんび凧人のしやくりにのぼりつめ(日本ばし西川岸丁 常磐津 粂太夫作)」(三オ)
客とり女?とてちらりとよいにのぞいたばかりで明のかね(ひもの丁ろ組 長谷川わか女作)
わたしがわる口やせけんの人に浮気な笑いをさせぬため(銀座弓丁 大庄内金太女作)」(三ウ)
およしといふのにおまへもほんによつぽどおすきな将碁(せうぎ)さし(はうた連 星清作)
年季まされて住かへするもみんな主ゆへのしんじゆだて(はうた連 美き女作)」(四オ)
ほかにこいろがあろうと思やわたしやくろふがますわいな(本所亀沢丁彫竹内 いと女作)
あじなとこからさほさすゆへにすんだ川さへにごり水(四日市久菊連 卯藤作)」(四ウ)
ひよんなうわさに立聞すればいつか浮名が人の口(川四田丁 清元栄吉女作)
松もみどりのその初より〔(常わづ ときはのまつ)ときはの松とちぎりしも今はあだなるかねごとも〕くろうくげんで太夫職(東れん 家根徳作)」(五オ)
きやうはいかなる
はるは花咲アノ花川戸いきなかりたくにぎやかにかよふきやくしゆは山のしゆくほどをつくりて二かいまでほんにあがると聖天町(通町東連帳元 十五才 福田庄三作)」(五ウ)
よどの車
はるのはじめのあのかりたくゑ人めづゝみのほうかむりちよいと格子にたつぞいなアすいつけたばこがうかれ草(二見連 石川亭 友とふ作)」(六オ)
まゝよすてをけほふばい衆に〔(常はづ 源大)あすなぶらりやうとまゝにして??ほな床いそぎ〕しごきほどいてはだとはだ(二見連 通町 反等作)
きのふ初会で今日居つゞけをさせたもわたしがほれたゆへ(れいがんじま みなと丁 印安作)」(六ウ)
皸(あかぎれ)のきれて居るのも客にはかくすみへとかざりのつとめの身(四ツ谷大?丁 印和作)
置て立ものにつまづくせはしい師走しらぬふりよする里そだち(榑正丁 はんぎやりき女作)」(七オ)
びく/\さんすな主人のまいをしくじりやわたしがたてすごし(石見銀連 浜田町 彫建作)
花もひらけよつぼみでゐると人の心がまよふぞゑ(中ばしれん ?亀作)」(七ウ)
むりになみだをこぼすとしらず馬鹿なやろふだだまされる(十二組 ?作)
ばかにさりやうとも今日(きやうび)でこそは〔(常わづ新小いな)深川たけの身はむらすゞめはなれぬ中と〕ちぎりそめたもかりのゑん(本所みどり丁 ひしやいち女作)」(八オ)
たなのだるま
おたび弁天松井町で入江ときわ町本所深がは中町山の宿にアノ花川戸に聖天町(神田連藤八原常作)

嵐市川に坂東森田と尾上松本で沢村川原さき岩井中村で大当り(赤坂ふり付市川鯉十郎作)」(八ウ)
露はお花
御客はなじみはないという若者衆はおなじみがあるといふなにないといふあるといふかむろがわらうのであらわれた(元大工町 いわくにや 十一才よの女作)」(九オ)
たとへどのよふな商売しても〔(常はづ しのぶうり)恋には身をもやつせというた/\よふいうたそのことの葉でしのぶにまかせかちやはだしで人めのせきを〕しのんでなりとも友かせぎ(二見連 田町一丁目 ?作)
こいのじまんはさらりとやめてとゝ一ツは文句ととりまはし(青山茶の字連 百二作)」(九ウ)
ゆうぐれ
入相の空をさかりの花川戸月に見事なまちゝ山入くる客衆は山のしゆくアレ角田川かよふ船舟頭衆も一きはいさむぞヱ(本町三丁目 ときわづ連 小妻の政作)」(十オ)
大津画ぶし
江戸で名高いは義太夫で大隅常磐津文字太夫富本で豊前に清元は延寿太夫にはなしかしん生でこふしやく北梅に豊後路が当時のはやり物はいかい西馬に川柳五代目画かきは豊岡国芳広重はかたでは哥沢大丸ごふく見世河東越中錦絵ほり竹つるが芳村市川団十郎(二見連 板とふ?作)」(十ウ)
すちやらか
おつと世直し代理くが直る地しんで大江戸をゆりなをす名倉でけが人直します大工左官の手間が直る御上御せいじなをります人々じん気が直ります仮たくけいきが直りますあがりし御客は朝直しそれから御床へ直り升むすこの/\がおき直る大きなおでつき直す声も小ごへに直り升(石川亭反等作)」(十一オ)
すちやらか
一ト夜明たる新玉の春を向ゑて人々の秋葉木母寺牛の御前ぐいと三めぐり花の山何れも江戸の花川戸と日くれてあがる山の宿呑升くい升うたひます御酒がつもりてお床入今度の地しんにとりもせず夜中の地震をはじめ升それからくぜつをきいていれば三ツ四ツつゞけて聖天町
集者
石川亭反等校」(十一ウ)



30 〔江戸の花〕はうたの大よせ(幕末刊か。)
〔江戸の花〕はうたの大よせ
てうし附
かへうた」(表紙)
常磐津 富本
清元  志ん内
一中  河東
長唄  上方唄
義太夫 うかれぶし
右は追々出板仕候間
御求の程奉願上候席亭
大入に付ひのべ」(見返し)
恋の辻うら
葉うた
惣まくり
かへうた
てうしつき
初へん」(一オ)
もとうた
はるさめにしつぽりぬれてうぐひすの羽かぜににほふ梅が香の花にたはむれしほらしや小とりでさへもひとすじにねぐらさだめるきはひとつわたしやうぐひすぬしは梅やがて身まゝ木まゝになるならばサア鴬宿梅じやないかいなサアサなんでもよいわいな」(一ウ)
もとうた
あだなゑがほについほれこんでつまこうきじのほろゝにもちひろのふみをかりがねのことづてたのむつばめのたよりうそならほんにかほとり見てとはがひのはだにいだきしめそれなりそこへとまりやまうれしいしゆびじやないかいな」(二オ)
あだなゑがほ
ういたすがたについほれやすくおしえのはいろにまよひきてなみのうね/\うきねどりそひふすかもめのめうとづれとうりし夜半をあたゝめられてあたゝめかへすぬくめどりよすがらうれしなくちどりこがるゝはづじやないかないア」(二ウ)
八まんがね
きぬ/\にぬしをかへしてひとりねのおりもあやにくとりかげにまたも思ひをますかゞみくぜつしたよのかみじやとてまたなぶらりやうはづかしやさしてもおちるつげのくし
ゆきは巴にふりしきり屏風をこいのなかだちにてうとちどりの三つぶとんもときにかへるねぐら鳥また口青いじやないかいな」(三オ)
ほれたがむりかへ
いつのよにかよひつめては内からせかれあわぬふしゆびにとうざかる男のくせじやあろけれどほれたがむりかへ
ほれたがむりかへ
ひめゆりのつゆをいとひ?こゝろもしらで一日あはねばさみだれのかわかぬそでもぬしゆへにぬれたがむりかへ」(三ウ)
ふけてあふよ
ふけてあふよのきぐろうは人めをかねてかうしさきたがひにみかはすかほとかほめにもつなみだはながみでヱヽいじわるな火の用心はなすはなしもあとやさき
きやりくずし
かむろきて見ろあさまのやうだけさもねせうべんがヤンレゆげがたつヱへんなにほひでヤンレくさくなるヤンレよいやさ引
きやりくづし
かむろ買て見ろおさつのまるあげいものけむりがヤンレすじだらけぼんへころがしくうとでるへブイ/\やんれよいやさア」(四オ)
川竹
ものゝふのやたけにはやるときむねもさすがこひぢはすてかねて花にこてふのゆめのまもわすれぬかたきのあだまくらあふてうらみをはらそゞへ

石にたつやもあるものとすけなりがいつかかたきにあふいそのとらとあふよもなか/\にわすれぬおもひに日をおくるほんにしばしのゆめかいな」(四ウ)
はるさめ
さみだれにびつしよりぬれてふじのすそはだぎもついのてふちどりあたを根がたのしのび足子こゝろでさへ一トすじにねらふ工どうのあだまくらつもるうらみははれやらでやみで仮場こやにてかたきうちサア大藤内じやアないかいなサアサなんでもよいわいな」(五オ)
辻占まつば
つぢうらや松ばかんざしたゝみざんこいといふじにひかされてひとりやみのよしのんできたにはらがたつかやわしじやとてまたす心はないわいな

はるなつととなりあるきのときをまちまつをかりねのふじのはなそらもあをばにあさむかひゆかりの色のうすいのかつらひわかれじやないかいな

梅が香やとめてかほりのぬしゆかしかほもこうばいうぐひすのいつかねいろをたのしみにはつこゑぞつとまどのうちいきなせかいじやアないかいな」(五ウ)
かわるまいとのたがいのじつは〔(清元)それにそのよなどふよくな若水くさいすねことばつらいつとめのそのうちになさけはうれど心までうらぬわたしがくがいのま事〕たへずにたよりも文の伝」(六オ)
葉哥
おきて見つねてみつまてどたよりなくかやのひろさにたゞひとりかをたく火よりもむねの火のもゆるおもひをさつしやんせ(喜代八)」(六ウ)
しのびかいした両手をかけて〔(清元)春雨のねむればそよとおこされてみだれそめにし浦里はどふしたへんでかの人にあふた初手からかはいさが身にしみ/\とほれぬいて〕夢かうつゝか明がらす(一ノはし 井筒亭)」(七オ)
しやうじ一重も三十里先も〔(からくりお七)合の金から紙そよとあけひざでチヨイトついて目でしらせわたしやほんごふへゆくわいな〕あわぬその夜はおなじ事(八丁ボリ せつ?)」(七ウ)
筆も硯もないしようへとられ〔(常磐津 せきの戸)思ひにたへかね一ふでと〕よふじよかみ/\紅でかく(川内楼 千蝶)」(八オ)
葉歌
和歌の浦にも名所がござる一に権げん二にたまつ嶌三にさがり松四に塩がまよあまの橋だてきれとの文殊もんじゆさんはよけれども切るといふじが気にかゝるサツサなんとしよかどしよかいな」(八ウ)
しのをたばねて突よな雨に〔(喜代元 おそめ)うちをしのんでよふ/\と爰でたがいの約束は心もほんに隅田川人目堤の川岸をたどり/\て〕来て見りやさ程の事もない(さくら家)」(九オ)
明のからすと鐘つく坊様にめやうがを喰せて〔(夕ぎり)明のかねにくてならぬはトツケツコ鳥の声やねで烏がいちわるななくじやなけれどアレサ??はけへすんじやねへよきぬ/\のいなせ友なや〕けさのさむさにかいさりよか」(九ウ)
葉うた
おまへと一所にくらすなら深山のおくのわびずまい芝?手わざ糸車ほそ谷川でぬのさらすぬいはり仕事いとやせぬ(海上亭)」(十オ)
つゝみかくせど葉月の尾花〔(義太夫 廿四孝)いかにお顔がにればとて恋しと思ふ勝より様そも見まがふてあられふる世にも人にも忍ぶなる御身の上とは云ながらつれ添ふわたしに何へんりよついこふ/\と御身の上明して得心させてたべ〕いつかほにでゝあらわれる」(十ウ)
しらぬわたしをなぜほれさせた〔(常磐ず しのぶ売)すぎにし梅の花見月目見へはじめと手をついてふつと見合すかほとかほ〕来たのがおまえのあやまりさ」(十一オ)
たゝみをたゝいてこれきけ女〔(コハイロ 名古や山三)ヱヽおのれはなアくるはに有ては着けいせい一夜ながれのうかれ女にま事あるとはおもわぬが女郎の言ば取にたらねど夫と是とはわけちがふ屋敷つとめの其時よりなじみかさねそちが身は恋路なれ共武士のいぢおのれに心かけしより家をわすれ身をわすれ人のそしりもいとはづに千しん万苦も我あやまりさは去ながらこれまでに身ひんな我へ立とふす心に思はぬかんざしやはでないしやうが面ぼくないと言たことばをわすれはせまいはらわたまでがけいせいになりさがつたかコレ桂木名古や山三はめん日をかいたいやしやめまおふめヱヽおのれはナア〕顔が立ぬと男なき」(十一ウ・十二オ)
(十二ウ欠)
なりも器量も五分でもすかぬ〔(清元 北州)霞の衣ゑもん坂ゑもんつくろふ初買のたもとゆたかに大門の花の江戸町京町や背中あはせの松かざり〕桂男の春あそび(正寿)」(十三オ)
ほれたどふしで世たいをすれば〔(清元 やす名)りんきもせねばおとなしうアラうつゝなの妹背中〕すえはめ出たく友しら賀(小寿)」(十三ウ)
はれてそわれぬ悪ゑんならば〔(一中)小町ごぜんをおいまいらせいづことさしてしらたまかなにぞと人のとわんには露とこたへてきへなまし〕此とちばかりが日はてらぬ」(十四オ)
ほれてかよふのかへ哥
明のからすがカア/\きぬ/\つくるこよいもあを又のごげんを待わびてマイニチわしやぬさんのうはさ咄でモヲ日をくらすヱヽやへやもしをで身をこがす」(十四ウ)
よそに待身の有とはしらづ〔(きよもと ごん八)あいたみたさは飛立ばかりかごの鳥かやうらめしや〕こがれているみをさつしやんせ」(十五オ)
思ひこがれてしみ/\けふは〔(しん内 仇くらべ)ねまきのまゝに若くさはとこをぬけ出あきべやにしのびよりて伊藤くの介が姿見るより〕あいたかつたとすがりつき」(十五ウ)
たゝかれよふがぶたりやふが〔(義太夫 先代萩)なんともないと十めんつくり泪は出れどおさな気にほれられたさがいつぱいに〕おまへにまかせた此からだ」(十六オ)
一日あはねばたゞ夫のみが〔(新内 綱五郎)明くれ恋しゆかしいのこゝろがつうじておまめなお顔〕あへば咄しもちよいと出ぬ」(十六ウ)
あふた初手から身にしみ/\と〔(清元 小ぎく)一座の中で水ぎはのたつたひとりが目にたつて〕こらへ情なくなつかしや」(十七オ)
上方哥 越の戸
浮草はしあんのほかのさそふ水恋が浮世か浮世が恋か一寸と聞たい松の風とへどこたへも山時鳥月やはものをやるせなきしゆへに嬉しき男の力じやと手に手をなんにもいわづ二人してつるかやのひも」(十七ウ)
親兄弟でもたよりにやならぬ〔清元 傀儡師)見る目かはゆき水せんの初にねじめのうれしさに恋といふじの書初はゆしまにかけし筆つばな〕ちからに思ふはぬしばかり」(十八オ)
去年の月見にあいみしまんま〔(しん内 あは嶋)毎日文をもたせてたづぬれどもほんにいぬやらいないやら人のうはさでよしあしを聞につけても気ぐろふがむねにつかへて此よふに〕酒もとふらぬ初なすび(しんほり本清)」(十八ウ)



31 俚歌美津の詠(幕末刊か。)
俚歌美津の詠」(表紙)

????俚鄙哥(よしこの)は普天下の雅粋名誉の秀吟をもらさず月雪花に咲せ三花亭の主人三つの??して桜木にのぼせ春風とともに四方に薫らせんとするものは
開祖 大学館わか本」(見返し)
(絵)」(口絵オ)
(絵)」(口絵ウ)
岩戸びらきと見る初日影注連(しめ)をみそらに春霞(?花亭 清友)
誠一すじ思たゑんのつながきれたら命づく(?井づゝ 玉鶴)」(一オ)
逢て今宵に嬉しくとける髪を朝からゆかでまつ(弓の家 弦人)
うわ気と知らずについなれそめし今は悔しいひよくもん(土佐 土勝舎 三人)」(一ウ)
いろもかほりもまた初桜咲ぬさきから待胡蝶(真花)
右と左の情や義理に前と後にある苦労(之角)
風にちらざるこゝろの内の花は月下の門に咲(梅遊)」(二オ)
たつた一夜さ逢たい事に幾夜さ首尾して苦労する(近枝)
逢ふて咄しのつもらぬ先にとけてかゝりし春の雪(嶌原 かめや 若浦)
又も遣られず逢にも行ずうわさ七十五日まつ(豊丸)」(二ウ)
帰すけふしのつらさを思やまちしきけふがましてあろ(?哥)
恩と義理との両輪にかゝりめぐりくるまをまつ月日(清雅)
あだに咲たる当座のはなは時節まつ間にさめる色(うかれ)」(三オ)
逢文(あいじやう)だしても姿がしれぬ〔(はうた)ムツトして帰れば門の青柳にくもりしむねも春雨のまたはれてくる月のかげ〕くらひ仕打の道すがら(春風舎 柳歌)
雪と咄しのつもりし人を月を見てまつはなに待(東明庵 木雪)」(三ウ)
わけを知る人又さらぬ人誉る人やらわらふ人(杜鶴)
初手は誠と思ふた人が見こみちがひのうわきもの(祇玉や 床栄)
たつた一声きくうれしさが耳に月夜のほとゝぎす(弦人)」(四オ)
猫の眼を見て時分はよしと鼠鳴して逢ひに行(つるき)
手まり拍子にトン/\/\とまるくおさまる御代の春(梅枝)
嘘はありの眼誠はなしと二つ名の有うわ気もの(我笑)」(四ウ)
風にいく度散てもツイニ蝶はのぞみの花と寐る(太玉)
胸につゝぱる尺取むしでさして遣りたい其鼻毛(芦江)
好な御方の其まねすると否おふおかたににらまれる(柳原)」(五オ)
地獄ばかりと思ひのほかにどこもかしこもかねのさた(サカ 金桂舎 ??)
先の底意をしるそれまではうかと渡りのつかぬ川(祇 井上や 梅勇)」(五ウ)
谷の戸を出て啼鴬を山も笑ひし花の春(嵐之)
嘘と知りつゝ誠にかけてさぐるこゝろがにくらしい(ナニハ うかれ)
此世で添われにや又先の世へうまれ変て添わひな(祇 玉や とみ松)」(六オ)
つのる互の意気ぢと義りにまたも出たがる無分別(近枝)
落た手段の二階のはしごおためごかしに帰さるゝ(梅遊)
恥をかこふがいけんを聞が否になるまで好な人(真花)」(六ウ)
いやなざこ寐の中かきまはしわるひ洒落する手長海老(峩川)
夏やせ性かと問いくたる人にこたへかねては出る涙(祇 近江や 哥松)
逢ぬ姿を照せし月に合ぬ顔さへ泣ばかり(柳哥)」(七オ)
出戻りくろふた逢状のうらを見れば封じがべかこする(ナニハ 春亭 梅雅)
すきがきらひと風なみかわりうらと表に鳴千鳥(三友舎 我笑)」(七ウ)
来ると妻戸に月〆出して閨を恋路の閨にする(伯州 露丸)
嘘じや/\といふその人になんの誠が有ものか(祇 みうらや ちか)
見れば頗る其別品が聞ばうわ気のへちやもくれ(為士)」(八オ)
誠ごゝろの底いわつゝじそれと知たる人にさく(土佐 井筒)
四十雀所か五十雀すぎておどるつとめの雀鬢(梅?)
惚たお方がそこらに一ト人あとはのこらずすきな人(一?)」(八ウ)
わしも否(いや)ならお前も否でいや/\できれぬ中(高ツキ 乱糸)
長ひ夜でさへ短ふおもふよふな逢瀬がして見たい(祇 若松や 菊尾)
波にせかれて居るうき寐鳥行衛さだめぬ流れの身(此花)」(九オ)
耳と眼鼻を今朝よろこばす啼しうぐひすかほる梅(??居 豊丸)
変る狂言霞の幕があくと野山の春げしき(初霞園 喜水)」(九ウ)
わしがお前に惚たとかけてねんととき升ほとゝぎす(高ツキ 二八)
雲の上までのぼりし恋の山のふもとにさく桜(真花)
蝶も知るまひケンケラ草の花はのろけの里に咲(梅遊)」(十オ)
花のいろはもわからぬ先にもはやちりぬる噂する(弓のや)
互に笑顔で逢嬉しさにかへてかなしい別れする(近枝)
身揚りして逢夜はポント町で好と月見の気侭庵(?哥)」(十ウ)
舌の鑓先言葉をひねりうまく突ぬくさとの嘘(嵐之)
わづか人間五十の命百も承知でする苦労(杜鶴)
花がちら/\散かと見ればにくや胡蝶の二枚もの(うかれ)」(十一オ)
恥の上ぬりした白粉も今朝はまくらにはげる嘘(玉竹庵 峩川)
去年別れて嬉しや今年一夜へだてゝ逢ふた夢(嶋ばら うめや 若浦)」(十一ウ)
一寸咄しも如件仍而御かへり後のため(弦人)
命かぎりに苦労をしても啼ぬからすに声はなひ(我笑)
人の口からふと遠ざかり今は夢にも逢ぬ人(小栄)」(十二オ)
まつにたよりの影かと見ればにくや籬をのぞく月(為士)
義りの座敷に又好(すき)が来て団子呑めかめする場合(喜水)
ぬしの程よく生れた罪がわしに当りて癪と成(高ツキ 碗八)」(十二ウ)
月と花とて楽しむ中へ陰から水さす雪解川(ナニハ 桜雅)
蝶は立たり又とまつたり花に寄たり露に添(友尾)
生れながらの直なる竹をにくや曲たる雪の肌(寿若)」(十三オ)
月と待夜のわが影にさへ逢ぬわかれの明の鐘(?遊庵 一力)
今にうき名とはや立かへて見せる世帯の細煙り(??軒 杜鶴)」(十三ウ)
長の月日を氷室の里に苦労して逢雪と花(高ツキ 乱糸)
噂聞ては眼に涙だぐみ思ひ出しては愚痴と成(弓のや)
義理も世間も二布(ふとん)もはづし閨に遠慮も夏の月(高ツキ 二八)」(十四オ)
耳をさらへた其かんざしで入て待たる宵丁子(高ツキ 碗八)
横にきれたるその口のはに立るうき名の根なし言(祇 京や きく松)
かたのつかへる咄しを聞てまたも気をもむ按摩買(寿若)」(十四ウ)
人を迷わす其塩の眼がいざと言ふたらべかこする(喜遊)
色は思案の外から知れる嘘は言葉のはしで知る(為士)
座摩や高津の夢をばみればとなり座敷に橋づくし(祇 いづゝや 八重路)」(十五オ)
かくす雲間にへだてが合て丸く移らぬ水の月(新?? 太玉)
八重に咲てもうつろひ安ひなさけ一重の花のゑん(廓の家 梅枝)」(十五ウ)
深ふなる程恋路の闇へ迷ひこんだら我こゝろ(ナニハ うかれ)
嘘と誠を一荷にになひ義りと情の屁をたれる(近枝)
それと思ひをかけたる謎が解てほしさの繻子帯(真花)」(十六オ)
はじめ十ヲ八おつぎがなんこ〔酒曰宜七宜二宜三宜九而后可以薦吾即〕四の五のいわさぬさつまけん(三花亭清友)」(十六ウ)



32 新板流行都々一(幕末刊か。)
新板流行都々一」(表紙)
流行不易
江戸ツ子ぶし」(見返し)
光陰箭の如く走り。人老て弓のごとく腰肩の。むかしに替る唱歌のさま。心はさらにかわらねど。よしこのといひ。都々一と。いふ一節を三弦(さみせん)の。調糸のかわりお手が鳴。酒の座敷の賑やかさ。丼鉢が浮出して。鼻を抓だチヤルメルに。唐人踊の即席衣装。羽織のうらを返す客。とめてこつそり真猫は。忍びの駒の爪弾に。恋の深みへ朝の雪。身あがりさせる仇文句。度々居続(どゝいつゞけ)と題せしは。ま事に野暮な江戸ツ子にて
?のしづ丸述」(一オ)
筆にいはせる虚言(うそ)でもあろが返す書(かき)にも親の無事(千社参りの 田キサ)」(一ウ)
四角なおまへにほれたもゑんよ丸くせたいがして見たい
内じやもてるが遊びじやもてぬ女郎買をばやめにした
およそ世間にせつないものはほれた三字に義理の二字」(二オ)
来てはちら/\おもはせぶりめ今日もとまらぬ秋の蝶
わたし計にくろふをさせて末に手切もよく出来た
爪びきの心意気からふとした縁で今は人目をしのび駒」(二ウ)
角田川清く流るゝ心はひとつにごすはお前のむねひとつ
抱〆て余念ないのにあの明烏かくもわかれが近くなる
お部屋へかくしてゑんどふ豆くへばまめがむねきでおとがする」(三オ)
せうちしながらつひまちかねてまわし座敷で気をまわし
雪はちら/\夜はしん/\と男泪にもらひ乳
七才(なゝつ)で売れて十五で恋を覚てわたしもこのくろふ」(三ウ)
ながひ生月(いけづき)みじかひ錦横にひろいはみたて山
立はろうそくたらぬは年季同じ流の末ながら
世帯かためてそれからしやとおもやおまへのまたうはき」(四オ)
おつにからんだあげ足ばかりへちまのつるではあるまひし
??をあけたその夜はうらみが三つからす時ふだ明のかね
安いよふだがかんがへ見ればきがねするだけたがひもの」(四ウ)
きれる心はみぢんもないが無理がくぜつのいゝがゝり
ふさぐやさきへ来たよといわれ心せけどもしらぬ顔
更てかすかなあの小夜砧夫おもひのしづがわざ」(五オ)
きれてみれんでいふではないがあんなぢつあるひとはない
なぜとめさんした命はいらぬ主にそはれざ命がけ
帰る/\も屏風の中でやはりはなれぬてうつがひ」(五ウ)
切てしまふとがんがけすれどあいそづかしのおりがない
時鳥/\とてつひ夜があけた主を待夜も其通り
異見されゝばたゞうつ向てきひて居ながらおもひだす」(六オ)
ぶてばそなたはじやけんといふがのろけてそなたをさすりやろか
泪ふき/\其袖袷ぐわんをかけぢめ神だのみ
りんきせぬのは女の道とうは気したさの得手かつて」(六ウ)
実と真事で咲たるはなは仇なあらしじやはりわせぬ
今は年季が永いといふが月日の立のわはやひもの
煙草のむさへついうか/\と主のまねしてわらはるゝ」(七オ)
こちの黄菊をさきや白ぎくよとゞかぬ苦ろうを作りきく
便りや有かと聞れる度に捨られましたといふつらさ
屏風の中をば退(のぞ)ひて見たら足が四本でちくせふめ」(七ウ)
ためになる客つとめるつらさぬしに枕のばんをさせ
嬉しまぎれにつひほだされて跡で気を増物をもひ
是じやならぬと身で身のいけんすれどかた時忘られぬ」(八オ)
客にうそをばつくそのばちで真事あかせどうたぐられ
血を分て貰ふた親でもわしやすてる気よあかの他人の主故に
翌(あす)は又あすの風ふく朝顔わ見な其日/\のかけながし」(八ウ)
義理も人情も今日この頃はすてゝあひたひ事ばかり
まよひおさめのもふほれじまひどんなおんなも目につかぬ
お楽(たのしみ)じやとほうばい衆があすの気がねもしらずして」(九オ)
おためごかしももふきゝあきたいやならいやだといふがよい
初はたがひに浮気で出来て今はひとりでぢやうを立
硯たのんで筆にていはせわすれまひぞや紙のおん」(九ウ)
客は世事もの女郎は手とりうそと手くだのはちあはせ
なまじ初手からやさしくなくば今のくらうはせまいもの
恋といきじとたとへていわば梅のにほひと花のつや」(十オ)
たまにあふ客すへつむ花よ日々にさく花ちりやすい
女房もたねば親へのふこう持ばそなたへ義理たゝず
人の手前は手くだと見せてじつにほれたでむねのしやく」(十ウ)
五月雨やある夜ひそかに恋路のやみに主の御げんを松の月
かはる枕の寐覚のとこに寐ぐらさだめぬ鳫の声
おれもつらあてとは思へどもみかへる女がどふもない」(十一オ)
こぼれ松葉をうら見るやふな愚痴なこゝろにたれがした
浪に浮草流の身でも少しや実もなる花も咲
灰に書てはけす男の名火ばしの手前もはづかしや」(十一ウ)



33 新撰はうた都々いつ 初へん(幕末刊か。美音堂板。)
新撰はうた都々いつ 初へん
美音堂梓」(表紙)
しんせむはうたどゝいつ 初へん」(見返し)
右のとふりにたしかにほれてかくのごとくにくろふする
うわきするなとしんせつらしくいふたおまへはぬかにくぎ」(一オ)
ゆふべへだてしかすみがけさははれてあさひににほふ梅
水ももらさぬなか見ておくれほかへうつらぬおけの月」(一ウ)
さみせんの糸よりほそき芸者の身でもはりといきぢできれはせぬ
人は鳥渡見てちよつとぼれするがわたしはよく見てよくほれる」(二オ)
なげたまくらにつみとがないがなげにや手まくらさせられぬ
二世も三世もそあふたいわぬこの世でそいさいすればよい」(二ウ)
すがたみせずにひとこへきかし心にくさふほとゝぎす
じつとなさけのたねさへまけばはなれまいとの花がさく」(三オ)
はる雨かへうた
ゆきのよにしつぽりぬるゝすいたどしこゝろのうちをうちあけてはなしあふたるむつましやわたしがこゝろはひとすじにほれたいきぢをたてとふすぬしもそのきでしんぼしてやがてみまゝきまゝになるならばサアうれしいなかじやないかいなササじせつをまつわいな」(三ウ)
あすはしらねどきのふはむかしけふはいのちにかゑてあふ
逢たこよひのふたりがならはあたひ千金???まし」(四オ)
夢のよふながゆだんはならぬまくらともなるたばこぼん
うそのうき世のまことの人にめぐりあふまでするくろふ」(四ウ)
ゆめもむすばぬはなしのうちになさけしらずのあけがらす
とかく浮世はまゝにはならぬほどのよい人じつがない」(五ウ)
うば玉のこ?のくろかみみだれてとけていふにいわれぬこのもつれ
くもりがちなる心のやみをはれてあふ夜の月をまつ」(五ウ)
ねがほにみとれてまくらにすがりほれてもよいかとひとりごと
二世や三世じやまだそいたらぬ千代も八千代もよろづ代も」(六オ)
いきな男にうわきななぞをかけてといたるしゆすのおび
月もあだにてまことにうつるぬしのまことはいづくへか」(六ウ)
一声はそれかあらのかすがたは見へぬおぼろ月夜のほとゝぎす
ちよとかげさすのきばのすゞめねのみなくでしてくれる」(七オ)
身でもなしかわでもないよありやたゞのきやく七わにやなれどもすじじやない
おもふおかたとなつふく風はそつといれたやわがねやゑ」(七ウ)
わけもないことぶつたりけたりしまだのけまりじやあるまゑし
かくしとふしてけふこのごろはのろけたいのがむねのうち」(八オ)
花にやどりし月かげよりもとけてねるよの雪のはだ
花のゑがほにさす月のまゆゆきのはだゑに三つぶとん」(八ウ)
小町おもへばてるひもくもるしいのせう/\がなみだあめ九十九よさでござんせうおふせにおよばずそりやそふでのふてかいなごしよくるまにみすをかけたかへこちやそとわにこしかけたゑゝゑゝはゝじゑ」(九オ)
たまがはのみづにさらせしゆきのはだつもるくぜつのそのうちにとけししまだのもつれがみおもひださづにわすれずにまたくるはるをまつぞへ」(九ウ)



34 ひと粒撰哇揃(幕末刊か。)
ひと粒撰哇揃
了古画」(表紙)
さきじやたよりにするふみなれどひとのめがほにたゝぬやう
たよりするにもふみかくこともならぬひとめのもじのせき」(九オ)
うわきらしいがまあきかしやんせ〔あいみしときはすぎしはるじしゆのさくらもはなざかりほんに思へばきよみづのくわんおんさまのおなかうどたがひにくめつましく〕おもひいだすもうさはらし」(九ウ)
ひとのそしりもないしよのてまへ〔(常はづ 関のと)まがきのうちよりこてまねきふはときせたるうちかけのすそへかくれてながろうかどくじやの口をのがれしこゝち〕ぬしにあふよのやるせなさ」(十オ)
たとへしうとがおにでもじやでも〔(常はづ げんだ)たでくふむしもすき/\とやらことしやかぼちやのあたりどしなぞとやつたもきはづかしいつきだされぬうちこツちから〕ほれたいきぢですわりこむ」(十ウ)
めぐる日に?るにちかひとておいきのうわもとかやぎてそろしほらしやかほりゆかしとまちわびいれてさゝやぎたてるうぐひすのきてはあさねとおこしけりさりとてはきみじかないまおびしめてゆくわいなさつてもゆめとはひとさんじや」(十一オ)
めぐる日にはるがきたとてなにきがうかふくろふのねんがあきはせぬむごらしやかほにいださぬそのせつなさはたくさんさうに思われて日がな一日やるせなしさりとはきみじかないまさけかいにゆくわいなおそいとそれからはかはれます」(十一ウ)
はうた
かきならすうたのもんくのみにつれてこゝろそゞろにさみだれのすがたはみへぬほとゝぎすないてくらすと思ひをつげよとりもものかはかわゆらしはてしないのをさツさんせ」(十二オ)
同かへうた
うかれくるはなのさかりをくよ/\とおもひこがるゝみながらもひとめをしのぶはかなさはあらしにちらでかのとりのちらしはせぬかとむなさはぎさけでしのがにやぜひがない」(十二ウ)
かきおくるふみもしどなきかながはでだいてねよとのおきこへていせにせかるゝちるなみのゆきかみぞれか/\ゆきがとけてなみじの二ツもじつまをこひしとしたふてくらすヱ」(十三オ)
同かへうた
まちわびしねやもつれなきしのびなきたよりなきみのぜひもなやあわでこのよにあるならばゆきときへたきこゝろぞとこひにくちなんはてまでも思ふがむりかへ」(十三ウ)
同かへうた
あきくればもみぢいろづくよじやものをおもひおもひのひとごゝろあふはわかれのもとかぞとおもひあきらめさりとてもヱヽもこゝろのまゝならぬこひのくせじやと思わんせ」(十四オ)
ちわがつのりてくぜつのはてのまつたかひなきあけがらす
すねてかたよたふとんのはづれほれたはうからきげんとる」(十四ウ)
すねてあはせたせなかとせなかほれたよはみはあいたがひ
いろじや/\とわけしらいとのひざにもたれてぐちばかり」(十五オ)
はてのはてまでみわたすやうにはれてうれしきつきのうみ
かりにことづてつばめにたよりどれもきゝたやはなしたや」(十五ウ)



35 唐詩流行どゝ一(明治三年以降刊か。)
※菊池蔵『五色染詩入紋句 三編』(明治三年刊。伊勢屋庄之助板)と同内容。
さるわか街」(見返し)
紺屋は所謂水物ながら日限をいとはず天日で乾ば自然と上りも宜とはいへど雨天つゞきに急仕事炭火であぶらば斑が出来形のはげさへ悪しとかや今この五色染てふは唯早染を旨として例の炭火で焙が如き急ぎ物故校合の下染さへも見ざるから注文書とはちがひもあらんが上仕事にて直すの間もなく唯●が侭に仕立へまはしぬ
翻蝶舎主人記」(一オ)
(絵)」(一ウ)
(絵)
いく丸画」(二オ)
なるもならぬもおまへのうでよ〔成陰結実君自取若問傍人那得知〕とりもちなんぞがいるものか」(二ウ)
なみだふき/\ねがほをのぞき〔(こはいろ)このまアやつれさんしたことはいのう 合方「きのふのふちはけふのせと(こはいろ)いかにかはるがならひぢやとておもひいだせばこぞのはる(義太夫)もゝのせつくやにはかのとき仲の町へ出てゐても(ひとよあくれば)花のさかりはうめやしき(せきの戸)今はそれにはひきかへて(女調)よふ/\かくしてよんだのにそんなにねられちやアわたしやうまらないよ(カネ)ゴン引(女)ヲヤあのかねは(小いな)やつか(先代はぎ)七ツ八ツからかなやまへ〕とむねつきだすあけのかね」(三オ)
ぐにつかぬことだけれどもふだんがふだん〔(くぜつして)くぜつしておもはせぶりなそらねいり(とみ本あさま)せなかそむけて物いはぬ(一中ぶし吉原八景)あらしははれてひとしぐれ(りんきらしいが)しからしやんすなわしぢやとて〕なんのいひたいことはない」(三ウ)
青葉がくれになくほとゝぎす〔風吹枯木晴天雨月照平砂夏夜霜〕月がないたかくもの中」(四オ)
きやくをねかしてざしきをぬけて〔冷然夜遂深白露沾人袂〕とりのなくまでなきあかす」(四ウ)
梅のはやしのかほりをたづね〔(わがもの)恋のおもにをかたにかけ(きよ元おかる)ほんのたびねのかり(うばたま)まくらことばぢや(冨本なるかみ)なかぬ日とては一日へんしもないはいな(めぐる日)さゝなきかけるうぐひすの〕こゑをたよりに四畳半」(五オ)
卯月なかばにはこねのゆばで〔(?)山ほとゝぎすてつぺんかけて(はなし)ヱヽかうはつねきける/\だぜあをばがくれにほとゝぎすとはコイツハうけやしたトキニめづらしいものがゆへきているぜ「だれだ「ナニ義太夫のさみせんよ「せい八かせんざへもんか「イヽヤひきてぢやアねへふとざほよ「ナニ三みせんかはてなだうぐのたうぢとはめうだ「さうよあんまりふしぎだからきゝやした「なんといつたへ〕さほがいたんでこまります」(五ウ)
ときはあはせの身がるのころに〔独騎善馬●鐙穏初着単衣支体軽〕わたしや身おもでうきくらう」(六オ)
ふたりくらさばみやまのすまい〔古木寒鳥啼空山啼夜猿〕しばかるてわざもいとやせぬ」(六ウ)
ぐちもじやすいもほれたがわるい〔(一中くらべぼたん)あめのよゆきやかぜのよもかよひくらべにまけまじと(とみ本長生)むすぶゑにしのいもとせもいのちながかけもろしらが(けさのあめ)アレねなんすかおきなんし(清元ごん八)なさけはうれど心までうらぬわたしがくがいのまこと(げん太)まくらの下へやる手さへ〕つとめにはなればからしい」(七オ)
ゑにもかゝれぬたそがれげしき〔(夕ぐれ)ながめ見あかぬすみだ川月にふぜいをまつち山ほかけたふねが見ゆるぞへ〕さくらまばゆきなかの町」(七ウ)
てがらがましくいふではないが〔人生感意気功名誰復論〕みんなおまへのためぢやもの」(八オ)
こゝにかうしてのがれてゐるも〔今我遊冥冥弋者何所慕〕ふぎりふせぎとおんなよけ」(八ウ)
たよりぐらいはできそなものと〔(はぎきゝやう)ふけゆくかねにかりのこゑ(清元落人)まだはださむきはるかぜに(ひとこゑ)つきがないたかほとゝぎす〕かこちなみだにぐちばかり」(九オ)
とりとめたこともないのにゑにゑをすげて〔(むつとして)かへればかどのあをやぎにくもりしむねをはるさめに(けさのあめ)またゐつゞけになが日をみぢかふくらすとこのうち〕これにやおほかたわけがあろ」(九ウ)
こまがたあたりとたか尾はいへど〔秋風吹不尽総是玉関情〕ぬしはいまごろもどツたか」(十オ)
くるわぬけでゝたま玉川に〔長安一片月万戸擣衣声〕やつときぬたのあきさびし」(十ウ)
ふつと名ざしでしよくわいのざしき〔(清元 おはん)その江のしまへゆきの下アノいしべやでてうどマアかたいおまへにあいやどはべんてんさんのひきあはせ〕又のあふせをたゝみざん」(十一オ)
くるわぜんせいものいふ花を〔(芝翫けいせい)こひといふもじのすがたをはんじものとけておもひのたねとなる(一中くらべぼたん)かゝるこひぢもおぼつかなむねにうかべるあだことをおもふまもなくゆくみづのふかあみがさやからかさをひらくうの花ころもがへ(こはいろ)くらべぼたんのふうぞくは「したやうへのゝ山かつら「にしにふじがね「きたにつくば「おもひくらべ?「だてこそで(富本長せい)あだといろとをこひむらさきのつゞやはたちはいろざかり(めぐる日)かほはゆかしとまちわびかねて〕ねこしてうゑしなかの町」(十一ウ)
国へゆかずと一ト花さかせ〔君言不得意帰臥南山陸〕人を見かへす気になりな」(十二オ)
おがむてさきもせんじゆにみゆる〔一群嬌鳥共啼花啼花戯蝶千門側〕くわんおんさつたのおかいちやう」(十二ウ)
きをもむまいとはおもふてゐれど〔(かつら川)うはさにもきだてがよふてなりふりまでも(山がへり)すいたらしいと思ふたがいんぐわなゑんのいとぐるま(おきてみつ)かやのひろさにたゞひとり〕うはきがつのればきがかはる」(十三オ)
ふとんしきたへまくらのびやうぶ〔(とみ本すまふ)きみにおほぜきあふよをたより人目せきわきいとふてもふたりが中へ小むすびのやくそくかたきいはたおび〕もゝ手をつくしてこひずまふ」(十三ウ)
いちどあふたらいのちもいらぬ〔得成比目何辞死願作鴛鴦不羨仙〕たなばたさんでもわしにやまし」(十四オ)
ふるゆきをふむもおしいがふまずばひとが〔銀河沙漲三千界梅嶺花開一万株〕とふてくれまいこのけしき」(十四ウ)
人がほめればついきがまはり〔(はぎきゝやう)きみを松むしよごとにすだく(うそとまこと)だまされぬきでだまされて(清元)もしやとおもふこけみれん(わかのうら)もんじゆさんはよけれどもきれるといふじがきにかゝる〕見すてらりよかとあんじられ」(十五オ)
つとめする身でまことをあかし〔(とみ本???)水ももらさぬあまの川それもおよばぬねこ?ながら(かは竹)なかにたつとりすご/\とわかれのつらさにそでしぼる〕そはざやむまいこのくらう
やくやもしほもたのみにやならぬ〔(ひとこゑ)いつしかしらむみぢかよにまだねもやらぬたまくらに(清元おちうど)かはい/\のめうとづれ〕からすにざこねをおこされる」(十五ウ)
つきをともとてなくむしのねは〔沙頭雨染班々草面風駈瑟々波〕はぎの下つゆぬれたどし」(十六オ)
あかぬわかれのなきがほのぞき〔落花不語空辞樹流水無心自入池〕けしやうせよとはむごいおや」(十六ウ)
ふさぎやどこまでほうづがないと〔(本てうし)たなのだるまさんをちよいとおろし(せきの戸)しばをたづねてかいやりすてゝ(角べゑ)たびぢやなけれど道づれになるとはなしにあとやさき〕しあんするほどりにおちる」(十七オ)
おまへのいふことわしやまにうけて〔(ことば)そのやさしいことばにまよつて(ひとこと)ひとことがとことにむかふうれしさに(ことば)どうしてこれが「わすらりよものかわすられぬ(ことば)つみがねへ「うそにもほれたをじつにして〕すゑのくゝりをむねの内」(十七ウ)
となりざしきはちん/\かもで〔比目鴛鴦真可羨双去双来君不見〕こちの女郎はなぜこない」(十八オ)
ぬひの〈以下不明〉〔南陌北堂連北里五劇三条控三市〕かぶのぼさつもかくばかり」(十八ウ)



36 男女こゝろいき辻うらどゞ逸(安政二年刊か。皿倫堂板。)
※大阪大学小野文庫蔵・大阪府立中之島図書館・上田市立図書館花月文庫蔵・東京都立中央図東京誌料蔵の『男女こゝろいき辻うらどゞ逸』には、安政二年の序文がついている。
男女こゝろいき辻うらどゝ逸 全
谷峩著
国郷画」(表紙)
梅暮里谷峩著
歌川国郷画
〔新文句〕辻占度独逸 全
東都 皿倫堂寿梓」(見返し)
凡例
此占の見やうは「思ふことひとつかなへば又二ツ三ツ四ツいつも六ツのうらなひ」このうたを三べんとなへ四文銭を六ツ両手に入れてよくふりたてつゝ何事によらず思ふことを心に念じて件の銭を投ならべ見るべし形を白とし波を黒とし本文の陰陽にひき合せて文句の善悪よりおもふことの善悪を知るなり善き唄に当らば何ごともいそぎてよし成就するなり悪き哇ならば何ごともひかへめにするがよし多くは望みごと協はず待人来らず仮令ば男女とも色に成たいと思ふ時善き文句ならば平ツたくうちつけにいひ寄べし悪き文句ならば媒を●むとも詮なしその他これに准ず亦六十四卦の変易あり●は後編に著す」(二オ)さて鳥目をむさくろしとおぼす方は碁の陽石を六ツ片面黒漆にて塗らせ用ゐ給ふべし
   梅暮里谷峩再記
○男女こゝろいき
○縁談の事
○望みの事
○待人の事
○身の上の事
○当時の事
○行末の事
都て自他の吉凶禍福心中の実不実を知る事
畢」(二ウ)
乾下乾上
○○○○○○
鶺鴒にとんだよいことおしえてもらひ数の子宝神の末(三オ)
坤下坤上
●●●●●●
うわ気するはづ太神宮さまも天の岩戸の穴ばいり(三ウ)
震下坎上
●○●●●○
辛抱しなんせ雪間のわか●やがて嫁●の花が咲く(四オ)
坎下艮上
○●●●○●
見すてさんすなわしや蔦紅葉からむたよりはぬしばかり(四ウ)
乾下坎上
●○●○○○
露の干ぬ間の朝がほならで越すにこされぬ大井川(五オ)
坎下乾上
○○○●○●
親兄弟にも見かへた人をあいつにとられてなるものか(五ウ)
坎下坤上
●●●●○●
実をつくすもふじつをするもこゝろひとつの相手しだい(六オ)
坤下坎上
●○●●●●
程も可ければ男も美くてそれで金満家女房もち(六ウ)
乾下巽上
○○●○○○
月も入さの山の端がくれ身につまさるゝ鹿のこゑ(七オ)
兌下乾上
○○○●○○
したしき中にも礼義がだいじもとは他人のことだもの(七ウ)
乾下坤上
●●●○○○
夫婦おや子の中よい家は奉公人までつとめよい(八オ)
坤下乾上
○○○●●●
むかふも否なら此方もいやよ最初からむしが好なんだ(八ウ)
離下乾上
○○○○●○
たがひに独身何にはゞからふはれて女夫に成がよい(九オ)
乾下離上
○●○○○○
おもふとをりに願ひもかなひ実にうれしい身の果報(九ウ)
艮下坤上
●●●○●●
己が身をあとへ/\と田うへのやうに卑下すりや憎むものはない(十オ)
坤下震上
●●○●●●
ひよんな浮気をするのも楽な栄曜すぎての菜ごのみ(十ウ)
震下兌上
●○○●●○
老人(としより)すぎるとわらはゞ笑へわたしにヤ大事なうちの人(十一オ)
巽下艮上
○●●○○●
若い男に気をもみぢ葉の後家に浮名がたつ田川(十一ウ)
兌下坤上
●●●●○○
中がよいとてゆだんをするととんだ悪魔が水をさす(十二オ)
坤下巽上
○○●●●●
花は咲ども梢の枝で手折られもせず見るばかり(十二ウ)
震下離上
○●○●●○
たのむといはれりや捨てもをけぬどふかしうちをつけてやる(十三オ)
離下艮上
○●●○●○
酒はのめどもつゝしみ深く義理をかゝねば身がもてる(十三ウ)
坤下艮上
○●●●●●
欺されて根こそげむしりとられたうへに突出されるとは口おしい(十四オ)
震下坤上
●●●●●○
今まで首をおされてゐたが是から世に出て楽をする(十四ウ)
震下乾上
○○○●●○
いやな辛抱する気にならばこんな貧苦を仕はせまい(十五オ)
乾下艮上
○●●○○○
金利の上りで小いきなくらし夫婦小をんな朝寝して(十五ウ)
震下艮上
○●●●●○
咽へ出るほどとうなすおさつたべて見たいが身のねがひ(十六オ)
巽下兌上
●○○○○●
役に立うがさてたつまいが武士に二言があるものか(十六ウ)
坎下坎上
●○●●○●
風にもまれてたゞよひながら岸へつくかよあま小舟(十七オ)
離下離上
○●○○●○
萩の下露つゆちりほどもきみに命はをしみやせぬ(十七ウ)
艮下兌上
●○○○●●
梅のむすめは柳のわかしゆ陽雛陰雛のさくら色(十八オ)
巽下震上
●●○○○●
色のせかいをさらりと捨て是から夫婦でともかせぎ(十八ウ)
艮下乾上
○○○○●●
ねとるたくみの胸わる女人のなげきもしらぬかほ(十九オ)
乾下震上
●●○○○○
うるさすぎると愛想がつきるりんきぶかいもほどにしな(十九ウ)
坤下離上
○●○●●●
日にまし繁昌家とみさかえ上下そろふてむつましや(二十オ)
離下坤上
●●●○●○
何かにつけて邪魔をするやつは河豚(てつぽ)にあたツて死ねばよい(二十ウ)
離下巽上
○○●○●○
家のはんじやうよしあしともに女房ひとりの胸にある(廿一オ)
兌下離上
○●○●○○
門の犬にも用あるたとへ愛想づかしをせぬがよし(廿一ウ)
艮下坎上
●○●○●●
先は主持たよりもしれずいつて見みたいにや籠の鳥(廿二オ)
坎下震上
●●○●○●
中口きかれてうたがはれたも春の氷ととけてゆく(廿二ウ)
兌下艮上
○●●●○○
ほれた性根を見透されてかやみとよわみへつけこまれ(廿三オ)
震下巽上
○○●●●○
ほれたお方にまたほれられてこんな嬉しい事はない(廿三ウ)
乾下兌上
●○○○○○
じゆうになるとて我まゝするな満ればかける世のならひ(廿四オ)
巽下乾上
○○○○○●
ふざけさせるは男のせいよ女に鼻毛のばすから(廿四ウ)
坤下兌上
●○○●●●
神や仏をしん/\しやんせねがひのかなはぬ事はない(廿五オ)
巽下坤上
●●●○○●
賢い子ならばその母おやもさぞやさぞ/\さぞ利口(廿五ウ)
坎下兌上
●○○●○●
不義理さへせにや世間は広いたとへまづしくくらしても(廿六オ)
巽下坎上
●○●○○●
汲どへらないくまねど増ぬ井戸の水性うわき性(廿六ウ)
離下兌上
●○○○●○
なまじ互にあらたまるからおかしく他のめにもつく(廿七オ)
巽下離上
○●○○○●
鍋のいとこ煮ごた/\すれど妾ばらでも種は子(たね)(廿七ウ)
震下震上
●●○●●○
かんしやくもちでもこツちの仕やう馬の手綱に舟の楫(廿八オ)
艮下艮上
○●●○●●
ひとめ忍んであひ引したも今じやはなしのたねになる(廿八ウ)
艮下巽上
○○●○●●
ないしよはできても世間があれば媒(なこど)をたてゝ御婚礼(廿九オ)
兌下震上
●●○●○○
親はふせうちわたしにやすいた意気な人ならなまけもの(廿九ウ)
離下震上
●●○○●○
ふところが豊ならねば万事につけてゆきとゞくとは讃られぬ(三十オ)
艮下離上
○●○○●●
しらぬ旅ぢにくろうをしても人にひと鬼はないものだ(三十ウ)
巽下巽上
○○●●○●
夫たいせつ親にも孝行するが女のあたりまへ(三十一オ)
兌下兌上
●○○●○○
うれしがらせつ又おこらせつわざはひまねくも口がもと(三十一ウ)
坎下巽上
○○●○○●
風に木の葉のちらされたのもかきあつめれば籠の中(三十二オ)
兌下坎上
●○●●○○
呉竹の欲をはなれて操節(みさほ)をまもり他のとのごの肌しらず(三十二ウ)
兌下巽上
○○●●○○
きりこ燈籠のうわべの飾腹も実もないこゝろよし(三十三オ)
艮下震上
●●○○●●
こみ入た綾があつてはちよいとはとけぬさゝいな邪魔ならわけはない(三十三ウ)
離下坎上
●○●○●○
酔たしやツ面つく/\見れば歯くそよだれに筋だらけ」(三十四オ)
坎下離上
○●○●○●
妖(ばか)し上手に水性狐どふか末まで化とげる
梅暮里谷峩著
歌川国郷画」(三十四ウ)



37 新撰入別品辻占都々一(幕末刊か。)
※算木図・卦名・判断文の次に都々逸を掲げる。翻刻にあたり、算木図と判断文は省略する。
新撰入別品辻占都々一」(表紙)
沢天夬
うたぐりぶかいといはんすけれどほれりや心がなほまよふ」(十一オ)
離為火
かなくぎのをれのやうでもゆかりのふみはまもりぶくろへいれておく」(十一ウ)
火山旅
あふはわかれのはじめとしれどいまさらかなしいこのわかれ」(十二オ)
火風鼎
おきやくつとめてかへしたあとでぬしとふたりでこなべたて」(十二ウ)
火地晋
ぬしを思へばてる日もくもるひくさみせんも手にやつかぬ」(十三オ)
火天大有
一両がはな火まもなきかぎやのふねよほめるあいだにきへてゆく」(十三ウ)
火沢●
どふせまかせぬつとめのからだじつもふじつになるつらさ」(十四オ)
火雷噬●
あだなさくらのちりゆくのちにまつのみさほはよくしれる」(十四ウ)
震為雷
まつがつらひかまたるゝわしがうちのしゆびしてでるつらさ」(十五オ)
雷地予
そひとげる人もはじめはふとしたことよほれたがえんではあるまいか」(十五ウ)
雷水解
滝の水いはにせかれていちどはきれるすゑはながれてまたひとつ」(十六オ)
雷風恒
たとへどのやうなかぜふくとてもよそへなびくないとやなぎ」(十六ウ)
雷天大壮
よわいからだでげいしやのつとめしんぼしてくれもうすこし」(十七オ)
雷山小過
しらつゆやむふんべつでもくさばがたより恋のうき身のおきどころ」(十七ウ)
ないてわかれしあのほとゝぎすつきのかほみりやおもひだす
をもひだすたびなみだのたねよをもひださずにわすれずに」(十八オ)
つきにむらくもはなにはあらしわしにやあいつがじやまをする
をもひおもふたこゝろがとゞきはれたこよひのつきのかげ」(十八ウ)



38 (辻占都々逸)(明治五年刊か。)
※表紙欠だが、明治五年刊『辻占都々逸』(松延堂板)と同内容。
あのまち合のつじでとるのはぬしの占」(二オ)
つるべとられたあさがほよりも露のひぬ間にもらひなき」(二ウ)
乾為天
たつとき人にはよし平人はわろし万事つゝしむべしねがひ事叶がたしたび立凶まち人きたらず
のぼりつめたる五階のはしご人のゐけんもうはのそら」(三オ)
天風后
女一人男五人にましはるかたち万事とりしまりなしねがひ事かなひがたしまち人おそくとも来る
てきは大ぜいみかたはひとりわたしや女できがもめる」(三ウ)
天山逐(ママ)
万事すゝんで利なししりぞひてときをまつべしねがひ事月をこへて叶ふまち人おそくきたる
あきもあかれもせぬなかなれど義理といふ字でなきわかれ」(四オ)
天地否
はじめあしくとものちにはすこしよし○ねがひごとさわりありてはかどらず○まち人はとちうにとゝまりておそし
しやうじひとへも人目のせきにものもいはれぬ身のつらさ」(四ウ)
天沢履
こほりをふむごとくなるあやふきことあれどもさはりなし吉ねがひ事いそいではわるしまち人きたる
部屋ややりての目がほを忍びあげてうれしいとこのうち」(五オ)
天雷无妄
すこしおどろく事あれどもさはりなし○ねがひ事人をたのみてよし○こんれいは吉まちびときたれどもおそし
むかふかゞみにやつれたかほをうつし心でくやみなき」(五ウ)
天水訟
万事あらそひくぜつありてしんぱいありつゝしむべしねがひ事てまどるまちびとおそくきたる
いへばどふやらぐちらしけれどいはにやうはきがなほつのる」(六オ)
天火同人
もの事あきらかにしてよしつゝみかくしてはあしくねがひ事かなふ○えんだんよしまち人すみやかにきたる
人をたのんでわたりをつけてせけんはれての女夫中」(六ウ)
兌為沢
よろこびあれどもとり〆りなくをだはらひやうぎなりねがひ事なるやうでならずまちびとたよりあり
わけもないことわけあるやうにいはれりやぎりにもせにならぬ」(七オ)
沢水困
しんぱいくらうおほく物にくるしむかたちなりねがひ事てまどるまち人きたるべし
ぬしの心はいまひき汐でふちも瀬となるあすか川」(七ウ)
沢地華
にきやかにてはな/\しきていなり見るところはよけれども内にくらうあり○ねがひごと不叶○まち人きたる
ほどもきりやうもよしのゝさくらこれは/\といふばかり」(八オ)
沢山咸
引よりよきことのつげ有万事吉にむかふかたちねがひ事人にしたがひてよしまち人てまどる
ねんがとゞひてこよひのあふせこれでわかれがなけりやよい」(八ウ)
沢火革
万事あらたになるかたちふるきさつてよしねがひ事ことをかへてよしまち人きたる
まつもかれ葉をみなかりこんでしんきしんめがよいはいな」(九オ)
沢風大過
女につきあらそひくぜつごとありつゝしむべしねがひごとかなひがたしまち人きたらず
ぬしはうはきな田毎の月よどこへまことをてらすやら」(九ウ)
沢雷随
目上の引立あるかたちなれば人にしたがひてよしねがひごとかなふえんだん吉まち人すみやかにきたる
ふたりくらさば深山のすまゐしばかる手わざいとやせぬ」(十オ)
火水未済
わたりにふねなきかたちにしてこゝろさらにさだまらずねがひ事てまどるまちびときたらず
月はかたむくよはほの/\とまたぬひとこゑほとゝぎす」(十ウ)
沢天夬
しあんくふうさだまらざるかたちなり○ねがひ事こゝろまよひてらちあかずまち人おそし
うたぐりぶかいといけんをすれどほれりや心がなほまよふ」(十一オ)
離為火
わかれ又あふ事をつかさどる小事に用ひて吉火事に凶ねがひ事あらたなるをよしとすまちびとおそくともきたる
かなくぎのをれのやうでもゆかりのふみはまもりぶくろへいれておく」(十一ウ)
火山旅
とりのすをやかれしごとくぢうしよにつきくらうありねがひ事叶ひがたしまちびときたる
あふはわかれのはじめとしれどいまさらかなしいこのわかれ」(十二オ)
火風鼎
物事あらたにさだめたるかたちなり吉○ねがひ事かなふこんれいたびだちわたましよしまち人おそし
おきやくつとめてかへしたあとでぬしとふたりでこなべだて」(十二ウ)
火地晋
ものごとさかんなるかたち也万事すゝんでよしねがひ事すみやかなるに吉まち人きたる
ぬしを思へばてる日もくもるひくさみせんも手にやつかぬ」(十三オ)
火天大有
万事さかんなるやうなれ共さらによろしからずねがひ事てまどるなりまち人きたる
一両がはな火まもなきかぎやのふねよほめるあいだにきへてゆく」(十三ウ)
火沢●
万事こゝろ/\なるかたち也人の心そむいてこととゝのはずねがひ事さはりあり不叶まち人きたらず
どふせまかせぬつとめのからだじつもふじつになるつらさ」(十四オ)
火雷噬●
くちにてものをあぢはふごとしぜんあくをかみわけてよしねがひ事かなへどもおそしまち人きたる
あだなさくらのちりゆくのちにまつのみさほはよくしれる」(十四ウ)
震為雷
万事ざわ/\としてこゝろやすからずうごくかたちありねがひ事くらうして後すこしくかなふ○まち人きたる
まつがつらひかまたるゝわしがうちのしゆびしてでるつらさ」(十五オ)
雷地予
あらかじめものごととゝなふかたちなり○ねがひことかなへどもおそし○こんれい吉まち人きたれどもおそし
そひとげる人もはじめはふとしたことよほれたがえんではあるまいか」(十五ウ)
雷水解
くらうしんぱいしりぞきおひ/\よきかたにむかふ也ねがひごとおそくかなふまちびときたれどもおそし
滝の水いはにせかれていちどはきれるすゑはながれてまたひとつ」(十六オ)
雷風恒
あらたなることにはあししふるきをまもりてよしねがひごとかなへどもおそしまちびとてまどる
たとへどのやうなかぜふくとてもよそへなびくないとやなぎ」(十六ウ)
雷沢帰妹
女のことにくぜつごとありものごとつゝしみてよしねがひ事ほねををりてかなふ○まち人きたらず
ぶたれるかくごのわしやむすびがみいろであふときやかうぢやない」(十八オ)
雷火豊
ほかにはゆたかに見ゆれどうちにくらうありねがひ事あしくまち人きたれどもおそし
ちればこそ花はよけいになほをしまるゝくらうするのは色の花」(十八ウ)



39 都々一川竹大津絵いよぶし大よせ
※都々逸のみ翻刻。
むつましく狂ふ小蝶もかりねのゆめをしばしむすぶのくさまくら
人の心とわたしはちがふこらすあきすにすへながく
一ト夜あはねばなほ深くさの少将なりとも顔見たや」
ひにち毎日あふたがましか今ははなれてとほざかる
たつた一夜がよみ路のさはりしらざ他人でくらすだろ
いろであふぎもすゑひろつけてこひのぢがみをみゑいどふ」
じつがあるなら質ぐさかしな指も気せりもわしやいらぬ
あいそづかしをいはれてかへりほへてくれるは犬ばかり
そんならそうよといゝたいけれど廿日あはづにいられうか」
昨日まで氷付たるあの青柳も解てなびけりはるの風
異見するのもおまへのためよ末を思ふておたしなみ
呑でくらすが其日のとくよ下戸の立たる蔵もなし」



40 よしこの京の花 四編(幕末刊か。丸屋善兵衛等七書肆板。
よしこの京の花 四編」(表紙)
(絵)」(見返し)
(絵)
春翠画」(一オ)
京の花咲そめてよりいま中秋の此篇まで匂ひ香ふかき言の葉をうつすゑまひの人情世態色を競へる愛敬はこぼるゝばかり朝の露玉わつらねしよしこの唱哥(ふし)」(一ウ)四季をり/\のわたい゛めなくつどひ三すじの糸による歌屑ならぬ古今の流行あく事しらぬひと巻はふだん桜のたぐひならめや
?のはづき
浅風のいほぬししるす」(二オ)
梅の下つゆ硯にうけてそでにたまれの文をかく(杉園)
ひゞにおもひはましらの遊び手とて引たがわすられぬ(古池)
心ゆかしにいまひとことの花のゑがほにかへりざき(竹窓)
色は思あんの外からできてこれじやいあんをせにやならぬ(古池)
おもひかへして心の異けんしても命のかるはづみ(葷若)」(二ウ)
袖とそでとへ手はとふせどもぬれのかはきしゑもん竿(東流)
石にたつ矢に文まきそへてぬしにおもひがとうしたい(古池)
あけていはねばわたしがたゝず咄しやぬしへのぎりがかけ(宗丸)
むりなねがひが叶ふていまはよくのかぎりにそう思案(古池)
ぎりもうきよも我身もすてゝなぜかおまへがすてられぬ(葷若)」(三オ)
枕ならべてまだわかくさのもえぎふとんのつまごもり(杉園)
ほんにあのやうに惚られたならさぞやつらかろうれしかろ(呑口)
うそはつみじやとしつてはできぬしかしぬしへはするまこと(宗丸)
心そゞろに神さんたのみむめをたつたりすはつたり(古池)
見ても見ぬふりいはぬがひみついやなせりふはきゝつんぼ(里蝶)」(三ウ)
腹が立なら踏(ふみ)なと蹴なとあいそづかしもせまる義理(袖彦)
眉をかくしてもしこちの人女房もつとはいつのこと(浮気)
ふではとれども文句はできずどうぞあはれぬ事かいな(古池)
すてられましたよこゝはなさんせすてたわたしになにみれん(菊石)
嬉しう忍んでかなしうむすぶつらや人にもいはた帯(一毛)」(四オ)
すいなおまへの顔みるたびにけつくわたしはぐちになる(古池)
つらやせけんに二人のうきなたつた一度のあふせから(仝)
はぢし姿を推量あれとまねきかねたる枯尾花(紅金)
ぎりとせけんがよにないならばおもふ浮気がして見たい(組士)
待宵の月は冴ても私が胸はなぜにぬしゆへはれぬやら(宗丸)」(四ウ)
よりをかけたはくどかれたときいまはしほれる此たもと(古池)
ぬしの心はふた葉のあふひ風がかはつてとうざかる(雅丸)
夢になりともねらひをつけて心ひきたやあづさ弓(入川)
つとめすれども衿にはつかぬいつもすがほじや見てくんな(一毛)
意気な横島実意のうらとふたつあはせてこひ衣(春慶)」(五オ)
神や仏や医者ではゆかぬやまひ直すはぬしのさじ(杉園)
噂とり/\むかうでとへば女子たらしの口上手(拍寿)
萩の音づれ空ふくかぜに聞てざはつくむねの内(東流)
実かま事かま事がじつかじつはま事がするうはき(宗丸)
わしもつらあてとは思へども見かへる男がなひわひな(組士)」(五ウ)
仇にや折らさぬさくらと此身酒のきげんでよしなんし(杉園)
しんとふけゆく鐘の音かぞへまてど便りもなきあかし(錦子)
むりな首尾して一寸あひにきたアレサはなしはあとにして(花彦)
紙のはしをば渡ろとまゝよ文でおもひのとゞくまで(杉園)
りんきするのをいくらもためてあふて一度にいふわひな(宗丸)」(六オ)
あきがきたやら小夜更てからかへろ/\がきにかゝる(青柳)
あつい御異見見わすれはおかぬしたがこちらも忘られぬ(古池)
七曲(なゝわだ)のたまのあふせもせかるゝ中にあかき糸ひく蟻もがな(杉園)
ぬしといふ字はまだ気がうすいいつか申とかへて見しよ
あはぬつらさによな/\泣て蚊ほどやせたるみのつらさ(古池)」(六ウ)
笑はれるのもむりではないよ泣てくらした跡じやもの(雅丸)
月見かことに内をば出たがぬしにあふ間はかゝれ雲(花彦)
ま事あかさず人うたがうてどう言やかうじやとむり計(傘亀)
あはぬつらさに呑玉子酒きみといふ名の嬉しさに(花彦)
すまぬ心はかげみのわたしぬしのゆかりは腹の月(袖彦)」(七オ)
おつな所へふきつけられて今ぢやくがいのうきしづみ(宗丸)
ひく手あまたのおまへじや物を少しやりんきもせにやならぬ(東祐)
癪を押にもかひなきちからほそいゆびわもふとうなる(葷若)
恋の山道人目のせきをこえて嬉しいぬしのそば(花彦)
人にやかうぢやとまだいわ田帯乳迄くろうになるわひな(古池)」(七ウ)
登りつめてはわしやゆびさゝれひよんなゑにしをつなぎ凧(いか)(仝)
すいたおかたのそのひとことがしやくの納るくすりうけ(袖彦)
筆の命毛きれなばきれよもはやながらへいぬ文句(蘭若)
そうてかうして是から先は可あいみどり子ひとつまつ(袖彦)
われた茶碗もかけさへあへば水もはなしももらしやせぬ(蘭若)」(八オ)
いちど見そめて二世迄かけてさんど笠きてしのぶ夜(青柳)
私しや地車ツイ気がまはりほんにしんからやせがくる(古池)
瀬ぶみしながらツイ深はまりうかみかねたるこひのふち(花彦)
時の氏神あいさつもたれよもや反古には成やせまひ(拍寿)
西へ/\とよふねにかよひまるのはだかのけふの月(一毛)」(八ウ)
きるに切られぬこの悪ゑんはたとへ正宗小鍛冶でも(古池)
水の月手にはとれぬと明らめゐれどぬれてみたさのこひのよく(組士)
あふ夜嬉しきなみだのしぐれならぶ枕の山めぐり(浮気)
格子へだてゝあふ身はしんきまゝになるのはおてばかり(一笑)
まゝになるならおまへと二人浮世かまはずくらしたい(雅遊)」(九オ)
しのぶ垣根によひ辻占よ男むすびのわらび縄(東流)
われた盃をしうはなひがなかに大事のぬしの紋(月)
忍ぶおもひにもつるゝ胸はとくにとかれぬみだれがみ(美芳)
さけのくせとはおもへどほんにぬしの短気がしやくの種(杉園)
帛紗(ふくさ)さばきにすごみをつけてあとは濃茶の四畳半(月)」(九ウ)
侭ならぬ恋は一重の障子が七重八重にきをもむ胸の内(花彦)
りんきせぬのが女の道と浮気したさの下ごゝろ(組士)
かねてあふ夜としる笹がにの蜘のいとしひぬしをまつ(蘭若)
あかぬ別れのたもとの露はぬしのかたみとつゝむかほ(仝)
すえのつまらぬ事とはしれど思ひきられぬゑんの糸(傘亀)」(十オ)
衿や小褄にこれくけ込で与所のおかたのほれぬやう(拍寿)
まゝにならぬと思ふてゐたがまゝに成てもまゝならぬ(錦子)
嘘をつくまと言はんすけれどぬしと二人でひとつ鍋(東流)
縁はふじ身と付まとわれてきるも切られぬ根が深い(袖彦)
独寐と人にとはれて目に持泪すまぬおかたがあるわひな(傘亀)」(十ウ)
こがれ/\し此むねの火を消すは水よりぬしの顔(竹忠)
末のはなしはまづまたしやんせ今の仕打があんじられ(蘭若)
野辺の若草つみすてられてたとへ切れても根はのこる(花彦)
つもるおもひを枕によたりぬしにあふ迄ひとり言(春慶)
ひらきかねたる日かげのさくらあだな霞が邪魔をする(傘亀)」(十一オ)
口説れて否(いな)にあらねどわしや稲舟の楫もまくらもとほきゑん(杉園)
ぬしは駒形駒とめいよどうぞ今宵は首尾の松(宗丸)
つらや日脚をはかりてまてどぬしはけふしもこんてんぎ(古池)
雪の梅見にツイ一枝とひらくかをりをまつ朝日(北忠)
もしやそれかと掛香のうつりうらみおもてみこひ衣(一毛)」(十一ウ)
ほどのよひので一倍苦労よそへ出すのが案じられ(錦子)
あこやこゝらで水責火責つらい辛抱もかげの舞(呑口)
髪もゑにしも皆一ときにふつゝり切たる義理づくめ(古池)
心かたいと出す座禅豆いやじや九年もまつものか(拍寿)
首尾を邪魔する長尻咄しはらを立たるしゆろ箒(蘭若)」(十二オ)
名残をしげに袖ひきとめてものをいふさへなみだ声(宗丸)
あいつばかりは偽るはずはないとやつぱりのろけてる(仝)
水ももらさぬおまへとわたしなぜかこんなに汗が出る(古池)
あつい御異見わすれはおかぬしたがこちらも忘られぬ(仝)
人目ばかりのきれ口上ももしやほんかとあんじられ(宗丸)」(十二ウ)
あへばわかれるつらさをおもやほんにこの世は苦のせかい(宗丸)
跡へひかるゝ柳のいとにわかれ出口のあさぼらけ(袖彦)
まちし花さへあらしの吹ばもとのつぼみが恋しうなる(東流)
おつな所へふきつけられて今ぢや苦界の浮しづみ(宗丸)
ひくてあまたのおまへじや物をすこしやりんきもせにやならぬ(東祐)」(十五オ)
いつがいつ迄とめてもおけずけさはかへして跡はさけ(古池)
うしや卯か/\まかしたこのみうまくねとられはらがたつ(一笑)
泣たむかしはゆびきり/\す今は身まゝにつゞれさす(古池)
なまぜ添はさぬしんくもこして愛相づかしのかるはづみ(袖彦)
すまぬ思ひもつきあふ今宵心あかしてはれたきり(仝)」(十五ウ)
月ははるれど心のやみはむねのかゞみの打くもり(坂丸)
人にとはれておもはず泪ぬしのかたみの腕まくり(浮気)
酒がいはする座興が実かもちと心が汲にくひ(袖彦)
与所でぬれ事しくさるにくさ内は火のふるこの世帯(古池)
つとめ仕上て女夫(めうと)になつてしんに嬉しいお正月(宗丸)」(十六オ)
すきなお客に呼ばれてくれば息のきれそな段階子(だんばしご)(古池)
ほんにしんきな聞えぬ人に書て心をよますふみ(蘭若)
うきを仮寐にふとみし夢がさめて苦労の種となる(仝)
その日/\の風ふくかたへなびく花街(くるわ)のやなぎ腰(里島)
あかし兼てはふさがる胸をしらですました月の顔(仝)」(十六ウ)
まめな顔見て今宵の咄しちぎりかさねる后(のち)の月(菊丸)
月日へだてゝ私(わし)やあはずともかよふ心がかげにそふ(蘭若)
しらぬ茶やから名ざしをしられ思ひがけなふぬしにあふ(宗丸)
よしや惚ても口ではいはぬわしがそぶりをさとらんせ(一笑)
きれて仕まへば世間が広いぬしに似たよな人がない(拍寿)」(十七オ)
部屋に居る内やおまへの事をうはさ仕出して笑はれる(滝女)
見たが因果ぢや徳利に口よ壁に耳ある此りんき(拍寿)
うらみ書ふで硯のうみの深い心がしらせたひ(蘭若)
秋の月かとまつよはつらひせたの長文かただより(呑口)
思ひこがれてつひうたゝ寐の夢に嬉しきみだれ髪(一笑)」(十七ウ)
おもひちがひの生漬をとこたらぬこの身の毒となる(拍寿)
ぢれつたい程あのぬさんのほどのよひのがきにかゝる(滝女)
忍ぶ雨戸の敷居のみぞに音をしめらすなみだ川(蘭若)
箒客ぢやといはれてゐれどなかにひとりはたてゝおく(呑口)
一度ごげんとわざ/\きたのあへば万度の思ひする(菊丸)」(十八オ)
むねはどき/\まだ初恋におもひ切たる封じぶみ(古池)
しのぶ月夜をわしや軒づたひはれてあはれぬ村しぐれ(入川)
アヽモじれつたや思ふはならずまづひお客のにえぶとり(拍寿)
口にや立派に切れるといふは袖にかくせし刺刀(かみそり)か(古池)
むりに呑ではまぎらす酒のさめりやしほれてとつおいつ(袖彦)」(十八ウ)
ぬしの心は都々一もん句いきな所に実をもつ(宗丸)
しんきまぎらしたばこを呑ばうわきけぶりもきにかゝる(花彦)
胸にたく火は衛士よりつらやひるも燃たつこひのやみ(菊丸)
ふきし恋風口舌となりて実とま事の底たゝく(拍寿)
唐(から)も日本も恋路はひとつひろい世界にぬしひとり(呑口)」(十九オ)
はれてあはれぬ二人がなかを月日も推してくもがくれ(一笑)
嬉しまぎれについほだされてさめてはづかし跡の愚痴(組士)
心ほどなる敷居の水もわしがおもひの大ゐ川(東流)
わざと手紙に身のさゐなんと人のうはさをちらし書(古池)
口説上手のなみだに落てつらやおなかの袖しぐれ(袖彦)」(十九ウ)
意気地たてぬくきづよき鯉もはねるつらさの生づくり(一毛)
起請誓紙もたびかさなれば今じや此世にさゐはらい(宗丸)
今のお客はべんぢやら八部さてといふたら尻からげ(呑口)
夢のむつごとあしたの露にとこのぬれ文恋の橋(春慶)
ぬしは住の江わしや高砂よかよはしやんすをまつわひな(美芳)」(廿オ)
胸はこがれて人目をつゝみあらたまるほどさとられる(東祐)
通はしやんすを恩にはきれどまつ身こがるゝほどにやない(美芳)
世がら直りて穂にほがさけばふたり頬にほが寐てす?る(菊丸)
ほどのよいのがつい抱ついてしばしなきゐる松の蝉(君馬)
もとは糸からこの様になりて今はたがひにしのび駒(蝶呂軒)」(廿ウ)
古池主人判
義理と世間の往生づくめ墨にそめてもしぼる袖(浅風)
退状(のきでう)を書けば泪がほろりとこぼれ切るといふ字が又にじむ(月)
起請書間の行燈のかげに命がけなるむしもとぶ(浅風)
文のかず/\思はぬうそを書も世わたる紙のはし(蘭芳)
嘘をつくまといはんすけれどぬしとふたりで鍋ひとつ(東流)」(廿一オ)
浮気主人判
胸にせまりし思案もいまははらの上にて取なをす(菊石)
夢の中から世界を見れば人目しのばぬ途地はない(仝)
あれが来す文紙子に仕立川にたつ迄通ふノダ(古池)
とける/\と眼を細くしてジツトなぶらす洗ひ髪(一毛)
腹がふくれてしんるいふくれそこで男がむなぶくれ(古池)」(廿一ウ)
(広告)
浪華書林
敦賀屋彦七
河内屋和助
伊予屋善兵衛
河内屋源七郎
柏原屋儀兵衛
皇都書林
平野屋茂兵衛
丸屋善兵衛



41 サワリよし此 弐編(幕末刊か。松栄堂板。)
サワリよし此 弐編」(表紙)
(絵)
貞信筆」(見返し)
(絵)」(序オ)
むかふの旦州は。どふもサハリのイヽ人ダ夫に連レ小指もとんだイヽサハリレ横街の姉さも隣のお娘(いと)もイヽサハリレほんにサハリと云事はレよい事そふなと心得てレ幸ひ好無一口浄るり壱本鎗(さわりもんく)を?(ゑり)出しレ前後によし此さしはさみ先に初篇をいだせしにレほんにサハリがよいかしてレ追々弐篇の御注文(ごさいそく)レサハリと?/\有難くレサハリ三百篇迄引続出板(うり)いだし度。沢山御求之程希ものは
梓元 松栄堂主人」(序ウ)
今さらあきらめなにつくものか〔(おしゆん伝兵衛ほり川の段)そりや聞へませぬ伝兵へさん。おことばむりとは。おもはねど。そもあひかゝるはじめより。末がすへまで云かはし。たがひに胸を明しあひ。何のゑんりよも内しようの。せわしられてもおんにきぬ。ほんの女夫(めうと)とおもふもの。大事の/\おつとのなんぎ。命のきはにふりすてゝ。女の道が立ものか。不孝ともあく人とも。おもひあきらめコレヤシ。」(一オ)一所に死なして下さんせと。かくせし剃刀とり直す。〕かくごは初手からきめた事
にくやうたんせサアたゝかんせ〔(あこや琴責の段)四相をさとる御方とは。常々うはさに聞たれど。何の子細らしひ。四相の五相の。小ぞでに留る伽羅じやまでと仇口に云ながせしが。けふのがゝおれた。つとめの身の心をくんで。かたじけないおつしやりやう。なん/\のせい文で。景清」(一ウ)殿のゆくへ。知つてさへいるならば。お心にほだされ。ついほんと云てのけふが。何をいふても知らぬがしんじつ。それとてもうたがひはれずば。ハテいつ迄も。責られふわいな。責らるゝがつとめのかはり。お前がたも精出して。お責なさるが身のおつとめ。つとめといふじに二ツはない。アヽ浮世ではあるぞいなと。〕どふでまかした身じや物を
こゝろみだれを又ときあげて」(二オ)〔(猪名川内の段)コレ待しやんせ。ソレ髪がきつう乱けて有ぞへ。人中へ見ぐるしひ。ゆうて上ふと。取出すくし箱。イヤ/\ゆうてゐたらひまが入。ついなで付ておゐてたも。ヲヽおまへもこんな髪して。ゆかしやんした事はないが。いつその事何もかも。云て聞して下さんせぬか。ヤいへとは何を。サイナおまへのこゝろのナ。それもつれがみ。なでつけておこふより。いつそさつぱりと。いはしやんせぬかと。いふ事じやわいナ。」(二ウ)イヤ/\いふまい/\何ぼわしにいへといやつても。高が女の手わざ。いふたらおくれが出よふつい。撫付ておいてたもと傍になをれば女房も。おしてはいはぬもつれ髪。びんのほつれをなで付る。くしの背(むね)より夫の胸。うつして見たきかゞみ立。うつせばうつる顔とかほ。申シ猪名川どの。いろもあをざめそしてまア。目のうちもうるんで。どふやら気色のわるさふな。かほつき〕いふて見たさのこゝろゐき」(三オ)
にくひうわさをツイきくたび?〔(松下住家の段)おしからぬ身を捨もせず。石碑いとなむ其中に。ふしぎにもしんじつの。とゝさまに。廻りあひ。此家へ来りし其日もさらず。お前にあふはつきせぬゑんと。うれしさよりはかなしさの。なほあまりある因ぐわな此身。しんじつの親にさへ。つれそふ夫は。武智十兵へ光秀と。いはれぬやうになりはてしもみなお前の悪しんゆへ。何にもしらぬ重次郎まで。ともに」(三ウ)悪名かふむるのみか。ゆくへなふなつたるは。親のあく事をうとみはて。討死でもなしつるか。可愛のものやいぢらしやと。夫をうらみ子をしたひ。声をも立ずふししづむ。〕はらがたつほど恋しなる
義理となさけに身はからまされ〔(玉藻の前の三段目)叶ぬところと胸をすへ。イヤのふ御上使。ものゝふはものゝあはれをしるといふ。自らが一ツのねがひは。コレこのすご六」(四オ)ばん。二人のいのちを天道の。さしづにまかせ。負たる方の首を討ば。せめてはそれを定業と。あきらめらるゝ事もある。どふぞ此ぎを御れうけん。コレ慈ひぢや。なさけぢや。聞わけてと。義理とおんあひ二すじに。つたふなみだは雨やさめ。身にふりかゝるかつら姫。はゝのなさけの有がたき。御ぢひといふも口ごもる。ふりのたもとにしら雨の。はれまはさらに見へざりき。〕なひてゐるよりほかはなひ」(四ウ)
やつれた此身のいとひもなしに〔(奥州安達原 三の切)たゞさへくもる雪ぞらに心の闇のくれちかく。一間に直す白梅も。無道をいそぐ冬のかぜ身にこたゆるは血すじのゑん。ふびんやお袖はとぼ/\と。親の大事と聞つらさ娘お君に手をひかれ。親は子を杖子は親を。はしらんとすれど雪みちに。ちからなく/\たどりきて。垣の外もに。アヽうれしや。たれも見とがめはせなんだか。イヽヱ門口に」(五オ)さむらい衆が。いねふつてゐやしやつた間に。ヲヽかしこい子じや。●杖(けんしよ)さまは此はるからぬしの御やしきにはござらず此みやさまの御所にと聞て。どふやらかふやら。こゝまで来る事はきたけれど御かん当の父うへ母さま。ことに浅ましい此なりで。誰がとりついで。くれる者も有たい。お目にかゝつて御なんぎの。やうすがどふぞ聞たいとさぐればさはる小柴がき。ムヽこゝはおにわさきのしほり門。戸をたゝく」(五ウ)にもたゝかれぬ。不孝のむくひ此かき??がくろがねの門よりたかふ心からなくこへさへもはゞかりて。すどにくいつきなきゐたり〕おもひこがれたこのしだら
だましにきたのじやだまされさんせ〔(摂州合邦辻 下の巻)ハテわるい合てん。きつねたぬきか。ゆうれいなればまだしも。もしまおとこの娘なら高安殿へぎりの云わけ。いぜんは刀をさしたやく。親の手」(六オ)にかけ。殺さにやならぬ。それがいやさにとめるのじやと泣ねど親のぢひ心を。きく子にやつまはうちと外。かほと顔とはへだゝれど。こゝろのへだてなきよりの。しん身のまことぞあはれなる。娘はなみだおしぬぐひ。門の戸口に口をよせとゝさまの御はら立。おにくしみは御もつとも。これにはだん/\云わけあれど人めをしのぶ此身のうへマアこゝあけて下さんせと〕わたしがほん性見るまでは」(六ウ)
ひとめしのぶもこゝろのうちに〔(円覚寺の段)あまたの家来をかしこにのこしおめるいろなく打通り。管れい細川政元が使しや。とりつきせよと。にべもなき。ことばに今さらへんたうも。あらたまつたるはづかしさ。こはさ嬉しさもみ手に笑がほ。ヲヽ我夫(つま)ではなひ。御使しやさま。これはマア御くろう千万に。よふ顔見せて下さんしたとあいそにさしだすたばこぼん。御使しやさんにも此あいだは。定めて御一」(七オ)人御寐(ぎよし)なつて。さぞおさみしう。ホヽヽニほんにマア。ヱヽこしもとともし気のつかぬ太切な御使者の御やく目。おつとめなさるゝその時は此お小袖ではないものを。わしがちつとのあいだ。やしきにいぬと。ヲヽそふして小袖のしつけもそのまゝヲドレ/\とつてあげませう。ヤア使しやの前ともはゞからず。立さはひでひろう千ばん〕かくすまことがあればこそ
つゝみかくせし中さへもれて」(七ウ)〔(狐(こ)わかれの段)はづかしやあさましや。とし月つゝみしかひもなく。おのれとほんしやうあらはして。つま子のゑんをこれ切に。わかれねばならぬ品になる。父御にかくといひたいが。たがひに顔をあはせては。身のうへかたるもおもてぶせ。御身ねみゝによくおぼへ。父御にかくとつたへてたべ。我は人間ならず。六年ゐぜん信田にて。悪右衛門にかりいだされ。死ぬ命を。保名どのにたすけられ。ふたゝび花さくらん」(八オ)ぎくの千年ちかききつねぞや。あまつさへわれゆへに。数か所の疵をうけたまひ。生(しやう)がゐせんとしたまひと。命のおんをほうぜんと。くづのは姫のすがたとへんじ。疵をかいほう自がゐをとゞめ。いたわりつきそふその内に。むすぶいもせの愛ぢやく心。夫婦のかたらひなせしより。夫の大事さ大せつさ。ぐちなれちく生ざんがいが人げんよりは百ばいのことにおこともふけしより。右とひだりにつまと子と。だいて寐る」(八ウ)夜のむつごとも〕いつそはづかしこのすがた
この雪ぞらを見かけてほんに〔(中将姫雪責の段)あらいたはしの中将姫。七日七夜の泣あかし。あくる八日の朝の雪。われをせめ苦の種となる。身もひへかへるそのうへに。す足に雪のこふりみち。つるぎをふむがごとくにて。よどめばゆくと打たて。こづへの雪がひとつもり。背に打かゝればどふとふと。起ればたゝく」(九オ)われ竹に。手あしもしびれ身もちゞみ。命もいきもたへ/\にて。ゆるさせたまへ母さまと。こへもおしまずなきたまふ。〕しのびあふ夜のせつなさは
わかれかなしくツイそのまゝに〔(志渡寺の段)あと見おくつて菅の谷は。しばししほれてゐたりしが。身はらわけねどそだつれば。それほどまで可愛ものか。そなたの其しんせつが。とゞかいでなんとせう。長じやの」(九ウ)さゝげし万どうより。わづかひん女の一燈が。百ばいましたる未来のたむけ。くさばのかげの兄さまが。さぞよろこんでござんせう。うれしふござるかたじけない。こゝからおがんでゐるぞやと。ふしおがむ手につゆなみだ。〕なくもなかれぬこのしだら
たま/\あふたにそのまじめがほ〔(八百屋のこん立 八百やの段)申シ半兵へさま。なぜそのやうに。すまぬ顔してゐやさんす。但し」(十オ)はわたしがもどつたのが。なんぞ心にかゝるかへ。ヱヽしんき。なんじやいな。今こそこゝろが落ついたけれど。在所へかごでいなされた時は。ひよつとこのまゝ此世では。そはれぬゑんかとなきあかし。おまへのかほ見るそれまでは。本にやるせがなかつたに。今といふいまかゝさんの。御きげんなほつたうへからは。かうしんさんに呵(しか)られても。そふしてどふしてかふしてと。こちやたのしんでゐるわいなと。母のことばを」(十ウ)しんじつに。よろこぶかほのうらおもて。いづれあはれのたねならん。〕にくひよ此苦もしらずして
かわるすがたもみなぬしゆへと〔(朝顔日記 宿やの段)むざんなるかな秋月の。娘深雪は身につもる。なげきのかづのかさなりて。ねぐらうしなふ目なし鳥。杖はしらともたのみてし。浅かはもろく朝つゆときへのこりたる身ひとつを。さすがに捨も」(十一オ)ゑんさきの。飛石さぐる足もとも。あやうき木その丸木ばし。わたりぐるしき風ぜいにて。やう/\ざして手をつかへ。召ましたは。此やおざしきでござりますか。つたないしらべもおわらいぐさ。おはもじさまやとゑしやくする。かほも深雪がなれのはて。ふびんのものやとせぐりくる。なみだのみこみひかへゐる。岩代はそれともしらず。ヤア見ぐるしいそのざまで。我々が目どふりへうせたは。聞およ」(十一ウ)んだ朝がほめな。ヱヽきり/\立てうせおろふ。アイヤ/\岩代氏。そふもぎどうにおほせられな。此方によびよせたればこそ。おもひがけのふ。アイヤおもひかけのふきたものを。しかるは武士のなさけにあらず。コリヤ/\。おんな。大義ながらその朝がほの哥。サヽはやくうたふてきかせいと〕うらみながらもなみだぐむ
わたしのしんじつマアきかさんせ〔(熊谷陣屋の段)」(十二オ)アヽおろか/\。此度の〈破損につき数文字判読不能〉敵と目ざすは〈破損につき数文字判読不能〉れにしたがふ平〈破損につき数文字判読不能〉あつもりはさておき誰かれとしのぎをけづるに。用しやがならふか。イヤナニ藤のおんかた。せん場のぎはぜひなしと。御あきらめ下さるべし。其日の軍のあらましと。あつ盛卿を討たるしだい。物がたらんと座をかまへ。〕うわきはいふさへ人による」(十二ウ)



42 袖みやげ 弐編(慶応元年刊か。丸屋善兵衛等八書肆板。)
袖みやげ 弐編」(表紙)
(絵)
西川祐春画」(見返し)
(絵)」(一オ)
袖土産二編序
新玉の霞の衣のどやかにひらき初たる袖みやげかほり移して二重去年も文家の丹情にかぐに色よき着こなしてまたも裁始(タチソメ)縫初(ヌイソメ)て好気(イキ)な仕立の一巻は都の花とも見そな」(一ウ)して酔な好漢子(トノタチ)仇芸子のたもとになして愛たまへ袖になして愛したまへと梅花の露を硯におとして書肆(ふみや)にかはりて栗毛(ふで)をはしらすにこそ
丑弥生日
狂蝶亭花升」(二オ)
わたしや捨られ世を猿沢の浪のうねめにうつる月(キヱン)
筆にいはせるこゝろのたけも胸を焼画のふみぶくろ(宗丸)
胸にふり来る思ひのしぐれはるゝところは壁どなり(田ケ彦)
恋の苦労を師走のかゝりいつがふたりの春じややら(雪暁)
たとへ泥田の芹にもさんせ心あらへば根がしろい(実助)」(二ウ)
あまの刈藻にすむ虫でさへ逢にやうらみて鳴ものを(宗丸)
初の恋路のわしや三番叟あはぬはんまの踏どうし(久天)
命あづけりやお主がからだ彫てくんなと腕まくり(丁雅)
尼になつたらもつれし髪が丸ふすむかと目になみだ(奥野)
縁も薄刃の青ものざいくせんどむかれてよその花(田分)」(三オ)
里の猟師もたびかさなつてはまり込だる恋の罠(丁雅)
からだ二ツをひとつによせて縫ふて置たや縁のいと(呉山)
いつか此地をめでたくかしくいやな里じやと詠めたい(鳥夢)
神子をめとりし社守の口舌はらみたまへも床のうへ(一毛)
親にきせたる身の代ごろも私しや錦をまとふても(キヱン)」(三ウ)
口はりつぱに思ひはきれぬまがる刃金のうら表(多分)
重いからだを身に引うけて抜にぬかれぬ腕まくら(仝)
何とよめたかきつそうかへてきせる突折ふみのうへ(一二丸)
晴てうれしい神代のまねびつきぬちぎりのひとつ鍋(実助)
扇落しの鳥渡たわむれが縁のはしひめ箱まくら(一毛)」(四オ)
やぶれ穴より咄しがもれて継をあてがふひとの口(多分)
にくいお方とこちらをむかせしばし互ひの羽がいじめ(実助)
後のせうことくれたる守り神にちからをかるこゝろ(宗丸)
文は来たれど候へどもでまたもしんきで候かしく(奥野)
罪なおひとに橋姫様に茶々を入さす気のつよさ(仝)」(四ウ)
尋ねあたりし嬉しい矢さき愚痴を引出すあづさゆみ(入川)
しどけなりふり巨燵の出端はうしろぐらさの体たらく(袖彦)
胸のけむりも最吹出さふ口があいたる田ばこいれ(竹雄)
かたし/\の枕のちりは払ふ夜すがもないじやくり(一二丸)
せかれ/\て若(もし)恋死なばわたしや蛇籠に成わいな(キヱン)」(五オ)
虎の尾を踏手形をたくみたれにあふとて来る物か(久天)
笠の下から紐しめあふて厚い情のひごずいき(入川)
おして言出すわが身の恥も恋の手づめの跡やさき(山川)
墨の誓紙は反古にもなろが針でかいたる此かいな(田ケ彦)
今宵初瀬の山ほどうれしどふもいはれぬ口ごもり(キヱン)」(五ウ)
しかと心にしめ縄はりて神に誓ひをかけてまつ(多分)
酔てきげんのよい酒ならばおそい戻りも何のその(黒岩)
梅の花でも油断はならぬ実がとゞけばつくしまで(鳥夢)
すねと去(いな)して別てふさぎ泣て頼んであひもどる(田ケ彦)
人の末路に道理がついて母に噺すもかへぞせう(東壺)」(六オ)
はつと驚き寐汗をかいてうれしいわいなも口のうち(宗丸)
ぬしにまかした此身は風呂で人がすれても腹がたつ(一二丸)
ひとり寐よとの足突出してこなひ四角はつらぬかや(黒岩)
ひぢを枕にあふ夜のとこにふたつ笑窪の入るふとん(キヱン)
屋敷女中はやはらにかけてむごや私しを片はづし(仝)」(六ウ)
筆はかわいやふたりの中の便り聞たりきかせたり(歌雀)
すねて見たればすねかへされて今はこゝろで手を合せ(呉山)
いやな秋風たつともいはず古巣残して居ぬつばめ(梅?)
今宵あふむと聞ことの葉をかへす/\もこゝろまち(実助)
逢ふたはづみで恨みも忘れ別れ時分におもひ出す(丁雅)」(七オ)
扨もしんきな身は浮舟よおもふ岸へもよるべない(実助)
ぐつと引よせ顔つく/\とうつくしいのがわしの罪(梅雅)
文を運ばす袖からそでに恋の手づまは隠しある(袖彦)
待たお方に嬉しいおもひなぜに歯の根が震ふやら(宗丸)
首にかけたる鏡はてれど胸は闇路のねがひ事(一二丸)」(七ウ)
すねて背中は合して居れど透(すき)のかぜさへとふしやせぬ(仝)
小首かたげて承知はすれど実にわちきも廻り年(袖彦)
心せく侭急ひで明りやなぜに此戸がきしむやら(宗丸)
文の行かふあの壁あるをあだに左官が来てふさぐ(丁雅)
叶へ玉はれ北野の燈明あふと返事も辻占か(雪暁)」(八オ)
待せ明した夜の埋火はたれがおもひにやせるやら(一二丸)
結び目でさへ男はつよい結び目でさへ根は女子(一二丸)
そんな思案の有とはしらずうらむ此身の罰あたり(田か彦)
浮世咄にわしや弦かけておもふ矢先へあて言葉(住丸)
呼に往たのでアノ影ぼうしきゑて猶更もゆる胸(一二丸)」(八ウ)
猫の目の様なおまへのこゝろかはり安いにこまります(鳥夢)
直にそだつたわたしのこゝろまげるおまへの雪の竹(一遊)
しばし退くのがお為とならば末のまことを取かはす(実助)
人の事かと立よりきけばみんなおまへとわしが事(歌雀)
三味を枕に一夜をあかしひくにひかれぬ親のばち(鳥夢)」(九オ)
親の目きゝが違ふたる新身さやへおさめぬいひ名付(一毛)
笄が若や角にも見よかと気兼髪も両手にいわぬふし(仝)
雪の懐とび出す思あん風の手づめのむせ田葉粉(山吹)
帰し兼てはとらへし袖につらやこぼるゝ朝のつゆ(宗丸)
跡へ引るゝこゝろとしらず酒にしたさのはしりかご(呉山)」(九ウ)
ぬしは瓢箪わたしはなまづぬらりくらりで世をわたる(仝)
こがれくる身をアレ茶にさんすわたしや土瓶の口をしい(古池)
まゝにならぬか浮世の習ひといふぎりから此やまい(袖彦)
ふつと心におもふた事がわれとわがでに身をせむる(呑口)
草の葉末の露ではなひがもろく見えてもなぜ落ぬ(古池)」(十オ)
私しや大はら苦にやせぬけれどおまやめつきりやせの里(古池)
つもるはなしを車に乗せて曳てゆきたいぬしのそば(宗丸)
おもふ心は沖ゆく舟よぬしにこがれてみづの上(仝)
暗い事しておくりし月日あかできれるもそのむくい(古池)
ぬしの袂を片手にとらへ涙ふこふもひだり褄」(十ウ)
およそ世界にせつないものはほれた三字にぎりの二字
わけもなひのに沢あるやうに笑はれうともわしや知らぬ(宗丸)
ぬしとふたりで根岸の里にすんで毎ばんさゝの雪(仝)
ぬしに実意が有馬の湯ぢやと聞ておさまる胸のしやく(一毛)
ま事あかさず人うたがふてどう言やかうじやとむりばかり(傘亀)」(十一オ)
わしのきらいな雷さんがこんな嬉しいわけにさす(一笑)
ゆびを切ても跡からおもやもとは手とてゞできたなか(古池)
蝶もとびかふあのせはしさは花に紋日のなたねばた(拍寿)
どふぞ泊つて今宵はぬしととけたはなしを床でする(宗丸)
泣てくらして目渕(まぶち)がふくれ胸のおもひははれやせぬ(古池)」(十一ウ)
踏ば鳴やむあの虫の音に忍びかねたる庭の草(二見)
はやす片手に顔打ながめおもふところへ投粽(〆助)
勤する身は接木の枝よかりの契りに花がさく(戸孝)
辛抱さへすりや曲らぬ針に魚もかゝるじやないわいな(千里)
隠す程人にしれたる私しが心明すおまへがなぜ知れぬ(梅里)」(十二オ)
言ばりん気といはれるつらき利たからしのきかぬふり(菊若)
わしが思ひはいづくの花よ侭におられぬ枝の針(篠栄)
恋はさめざやたゞぬけ/\と嘘をつき出すさび刀(錦車)
私しや出雲で嬉しい縁をむすび合たが此苦労(夢中)
つもる思ひもつい今の間にとけてうれしい春の雪(秀丸)」(十二ウ)
かゝる綱なき身は捨小舟よしとあしとに包れる(かほる)
立て箒がきゝ間違ふて去(いな)しともない間夫が去ぬ(千里)
ふいと貰ふた此かんざしをさしてよいやら悪いやら(夢中)
恋といふ字を砕て見れば糸し糸しと言心(公川)
神に祈るも私しが麁相ひよんな御くじに物案じ(玉枝)」(十三オ)
逢ば手軽にぬがせた羽織なぜに此様に着せにくい(玉らん)
油ながせし待夜のふみになぜに此戸がきしむやら(方丸)
神に頼ん言葉もつきて数珠のくり様が習ひたい(玉枝)
今朝のわかれが誠のわかれ逢ふた夕べが嘘らしい(さくら)
主のいや気を得心させて野暮な私しの顔が立(宗丸)」(十三ウ)
嘘とおもへどのろけた返事背中たゝかれそれもソレ(一夕)
長い返事の有とはしらず暫し待間の物おもひ(宗丸)
去ぬる家さへおまへになくばこんなわかれはせぬわいな(千里)
雪に閉られ私しのからだまゝに出られぬ冬の梅(梅枝)
らくや此世へ生れたものを誰が苦労をさすのやら(戸孝)」(十四オ)
花を雪じやと思ふてなりと去(いな)しとむない春の雁(人丸)
思案極めて大きなくさめ又もそしるか風邪ひくか(コロリン)
私しや浮舟流れの道でこがれよるべの君をまつ(梅女)
とんと筆には心がそまぬいつそ当たいまろめ紙(玉枝)
なぜに男へつくまの鍋をゆるす神さへうらめしい(一夕)」(十四ウ)
軒のしのぶが青/\するを釣ておくとはにくらしい(梅女)
友綱が切てしまへば身は沖の舟たれもかぢとる人がない(房女)
苦海はなれて汗水しぼりまゝになる身の染浴衣(桃園)
琴に合ふたる尺八さへもひと夜ぎりとは気にかゝる(夢中)
ぬしがくせとる私しが姿浮気ばかりはうつしやせん(公川)」(十五オ)
よもや/\と思ふもぬしをのかぬこゝろの未練より(菊若)
つもる恨みを神にも隠し釘はおもひの胸にうつ(君丸)
捨た盃そと目でしろし思ひざしとてぬしの前(瓢百)
斯(かう)成(なつ)ちや退(のく)に退れぬ退れはせまいいふて女房にもてぬわけ(梅里)
人の見ぬ間は女房気取もしへ私しの名をかへて(宗丸)」(十五ウ)
にくむまいぞよあの明がらす又のあふ瀬の暮つげる(君丸)
朝のむつごと早つき崩す情しらずのあねのこゑ(二見)
縁は異な物引袖持に後家とやもめの煙草入(小町)
せんどこがれて身はとき舟よかぢの取様も今はない(かほる)
野暮なお客を首尾して待せ主の顔見て目に涙(桃園)」(十六オ)
思ふお方と乗合舟よいつかつもりし苫の雪(〆助)
有はいやなり思ふはならずならぬ願ひが有わいな(菊若)
いやで願ひを懸たる人をしらぬ仏にきかせたい(君丸)
いつも居ながら見る山ざくらけさの霞がにくらしい(二見)
鼠啼して行燈けして猫の声色聞にや来ぬ(方丸)」(十六ウ)
胸の煙をふき出す思案とふて煙管の身の詰り(菊若)
主の心が薄茶になればわしの濃茶も水の泡(さくら)
くらい処から世間へばつと赤い浮名のたつ花火(入川)
ぬしと私しは花火の色よばつと立たるあの浮名(好丸)
扇開ひてはなしをすれば嘘を月見と夕すゞみ(瓢百)」(十七オ)
爪は別もの勝手にお切り指にや私しの用がある(さくら)
腹はたてどもわしや胸さすり背中合せの泣寐いり(二見)
堅い莟みの誰が水あげて人のうわさに花がちる(一夕)
背中合してすねてはゐれどきかせとむないあけの鐘(久遊)
月はさゆれど心ははれぬ影じやわたしを秋の空(一夕)」(十七ウ)
けちな晩だよ女にや振れ乗たかごにも又ふられ(二見)
表むきでは切たといへどかげでつながる蓮の糸(梅女)
ぬしと私しは出雲の神よ男むすびもかたひ中(仝)
あひたかつたとつめつた跡をなでゝにつこり笑ひがほ(コロリン)
逢にや分らぬ返事の中に申残すと書てある(菊若)」(十八オ)
どうかゆかりの咄しの小口逢て心もすみれ草(菊君)
まゝになるなら虱に成て私しや喰て/\放しやせん(コロリン)
おもひこぬたる此水仙は花は切ても根は残す(湖帆)
みんなねがけて蛙の様にこゝろ飛つく柳ごし(一夕)
逢てきて逢ぬ顔して柱に持れ花がよいとはてれ隠し(虎勇)」(十八ウ)
思ひ廻せば身は朝がほのほんにつれない花のゑん(戸孝)
雪の達磨と若衆の恋は何れ尻からとけかゝる(二見)
日毎顔見る釣瓶の女夫(めをと)まゝになる水汲(くむ)計り(桃園)
私しや御庭へ引寄られてまゝに咲れぬ鉢の梅(梅枝)
今迄は忍駒にて裏やでくらしつゐに表へ本調子(瓢百)」(十九オ)
なんぼ花でも風ふきや散(ちれ)どぬしと私しは咲つゞけ(秀丸)
思ひ乱るゝ此碁になつて白の黒のとあるものか(さくら)
あちら向たるすね木の松よどうも取つく枝もない(仝)
遠ざかる程名残の涙こぼす雨夜を帰る雁(宗丸)
智恵の釣瓶が浅はか故に深ひこゝろにとゞきかね(久遊)」(十九ウ)
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浪華書林
敦賀屋彦七
河内屋和助
伊予屋善兵衛
河内屋源七郎
柏原屋儀兵衛
京都書林
平野屋茂兵衛
柏屋四郎兵衛
丸屋善兵衛」(裏見返し)



43 
四 『よし此はなそろへ 初編』(幕末刊か。本屋安兵衛板。)
※菊池蔵別本『よし此はなそろへ 初編』と同じものだが、版元が異なる。
よし此はなそろへ 初編
半水撰
貞信画」(表紙)
(絵)」(見返し)
(絵)
貞信画」(序オ)
初編之序
浮礼唄は。恋の情を種として。万の千話の花となれりけるより。色好みの作人多く。夕部に逢んことをかこちて。煙管片手に作意を案じ。旦の別れを穿ちては。袖を絞るおもひをなせり。錦木の数を尽し。千束の文の限りなき。かづ/\の中を撰出して。恋人に桟を渡すことゝなしぬ
  一荷堂狂夫 恋々山人誌」(序ウ)
おとこ猫でもきろふているよ貞女立たいこゝろから
人の気付き来ぬ通路付ておころもちではあるまいし
隠しかくしたおまへの事も鼠なきからさとられた
声もあわれに啼鹿よりもまつよだまつてないている
余所の浮気を早尻笑ひするよおんなの猿智恵で」(一オ)
お客にそろ/\尾が見へかけて尾のない狐がにげ仕度
ぼんと音信きくその上でやぶれかぶれの手負猪々
かへろ/\といふ鹿の毛よ今に首尾する筆となる
我身わすれて人をばうらみ人がわれなら斯なかろ
濡たで色けが増たと見へてそぶりかへたる雨のたけ」(一ウ)
仇にくまれちやそりや遣り水もよそへ流れが附安い
まかせがゐなき野分の風とおもやすゝきも苦が絶ぬ
はれていたとて身に露程はぬれに義理ある草の色
野にはすめどもアノなでし子は露のなみだのおとしみづ
濃茶挽茶と汲分かねてうつす茶碗も楽でない」(二オ)
じつと切戸に伺ふ月もうかと向ふへうつすかげ
縁の糸目はしれない物よあんな人にもあんなこと
ゑんを切さぬ水がらくりももとは手くだの仕わけから
別れする身の心をしらずにくや雀のあさきげん
訳はいわぬよいわないわけは主に覚へがあるわいな」(二ウ)
好た同士がしみ/\ぬれて聞もうれしひ夜るの雨
ぽんといふたもアリヤ皆人目すゐて身上りする花火
浮気同士の口絶でしらけ南無三突出す明のかね
アレサいやだよ桜にあらし添て苦ろうをさすわいな
心ならねばこゝろにこゝろゆるしやせぬぞへ心から」(三オ)
余所の可愛人からそんなにくひ仕うちをさすにくさ
逢ぬその夜は月夜も闇よあへば闇でもはるゝ胸
出てる間のにごりも引て底をあかしたながれみづ
つくすしん実うつゝになつてわが身こがせる夏のむし
見付られじと引さく文のはしの当名が切にくひ」(三ウ)
まことつくしたそのかゐ有てくらしやうれしひ主の傍
おもひ過せばなにかに付て愚ちが悋きの種となる
夢に見てさへ嬉しくおもやあふた其よはどふあろう
又しても又迷ふたふりがあつて人にもまよはせる
かなしい中にも又楽しみがかへつて苦労の種となる」(四オ)
ほんに嬉しき夢見しあとはもとのつらさにかへる床
仇になるほど苦をさす主がなぜにこれほど可愛かろ
ほんに是から咲朝顔の花を見捨てかへるぬし
蝙蝠羽織で日のくれがたに軒を通るも当があろ
あふて嬉しい此四ツ足は親にや畜生といはれても」(四ウ)
うき名高砂幾千代迄もみさを立ぬく松ののろ
人目忍び緒ツイ悟られてぱつと浮名の龍がしら
露と縁にしを結んだ草もひよんなあらしでくろうする
隠す程なを浮名が高ふなつて悟れぬ身のせつぱ
見付られては浮名のはしとそつとうらはへしのぶ露」(五オ)
今朝はにつこり笑顔をふくみ深い色もつ紅の花
何はともあれ今宵の首尾とあへばあしたを又あんじ
起証せいしも今では反古切た小ゆびが馬からしい
ぬれるつもりのある其夜さは月も傘きてしのぶ影
風がそは付やツイ落されて木のはまくらのそのゝ梅」(五ウ)
露の一夜で咲たるはなにぬれて出かける蝶も有
松に馴染の月さへそはにや露も苦ろうはせぬ物に
たま/\にあふてうれしく思もはれて月のかほ見る入梅の雨
風のわるさを誠にうけて雪とわかれを仕たる竹
便り百歩のうれしさよりもあふて一歩の無理がよゐ」(六オ)
起りや面かげ目にちら/\と寐ては夢見る恋やつれ
うたがはれたる村雲はれてうれしなきする蝉のこゑ
花の実意を見ながら蝶がかきの外からうはきする
人目いたふかこのそりかげで花を咲せる雪のした
投る翁を程よふのせて蝶もころりと横に寐る」(六ウ)
鳴かならぬかアノ小つゞみは手ぎはこなしの上手下手
主がわしほど実あるならばこうもくろうはせぬ物を
しのぶそのよのやくそく事もあけていわれぬつま戸ぐち
雨やあらしのもめさへなくばしかと実を持やぶ椿
出世じまんの張抜鯉も風にくろうをするはゐな」(七オ)
泣てうれしひ夜はたまさかであはず恨の夜がおゝゐ
どふか水上でけたと見へて床に色よき花しやうぶ
風の悪性に吹落さりよが二ばはなれぬ青松葉
初手の手管も忘れて今はなぜに此苦がしたいやら
あふたその夜の身にしみ/\と粋な夜風に神風よ」(七ウ)
はれたやうでもまたもやついて心くもらす入梅の雨
梅も実持となりや鶯もいつかくるいがやむわいな
今朝のわかれと恨にかへておそいかへりをあんじたい
川をへだてゝふつたる雪もとけりやひとつに成はいな
濡が重りやしほれた振でしんのいろけをもつ柳」(八オ)
いふもはづかし身はかづならずじやとて思ひは猶されず
ふかふなる程くろうの種と水にきをもむ簗の杭
花にやつれなひアノ春雨にぬれて色増庭のこけ
人目しのんでよい首尾なれど又も邪まする蛍の火
水になるとは明らめながら目さきうれしひ今朝の雪」(八ウ)
風がりんきでわかれし蝶もこゝろのこりかもとの草
あはぬつらさの涙の露をあふよことばの花におく
落て木のはのざこねをにくみ風もりんきでそゝのかす
うき身やつして蛍も恋にや人をむやみにそ引だす
あへぬ其夜に月夜も闇となつてしんきな胸のうち」(九オ)
うその種から咲たる花にやうかとこゝろもおけぬ露
草も夜ごとに濡重りてしんの色もつつゆのうち
どこへ宿りも定めぬ月が水におもひの気をうつす
咲ばあらしを苦にするくせに咲ぬさくらを待わびる
逃る手元を程よく抜て忍ぶ闇路へとぶほたる」(九ウ)
こがれいる身はあふ其よ迄忘りやせぬぞへ見た夢も
うれしはつ夢主よりほかにいふてきかせる人がなひ
いわぬ心が月日にましてあふたその夜もしんき勝
かねはつき出すとけぬは霜よ口ぜつしらけた朝戻り
主にあふよと雪見の朝はつもるおもひにきがせける」(十オ)
義理でへだてのある水引はかたふ結んだいろといろ
落た所から木のはの色をとめて氷がうごかさぬ
色け捨てもアノしほ鯛にそふたいわしの果ほう者
主に三あかし四め五になろと一め二めはそらす羽ね
年はかはれどかわらぬやうとおもひざしした鶴のはね」(十ウ)
主の眼もとの汐路に引れわたしや深みへはまるまで
尻の居らぬこの金まらはおさへつけても寐ない筈
乗たはなしにしん実ほれたなぞとホイ駕頼むこし
はれて添日にや人眼も有が鏡もちさへ薄げしやう
当ざ計りで通はぬ風にやのぼしがゐなく落る凧」(十一オ)
ほれたからだよ口ぐるまとはしりつゝ乗ぞめしてみたい
花の浮気に蝶さへなんの尻のすはろう筈はなひ
うはべばかりに色見せかけてしんに実のないかざりゑび
はるにあふてもまた初若な色の諸わけもない二ば
すげのふ返して跡では一人義理となさけにせまる胸」(十一ウ)
明てさつぱり気は変るともまことかはらぬ好た同士
ちよつと人目は切たと見せてこゝろつながるはつがすみ
日ごと顔見にや済ないけれどましてうれしひはつ日の出
礼義立はるこゝろのまゝにうれしあふよを松の内
あふた所でかたぬげなぞとそんなさむしい気はもたぬ」(十二オ)
うそも誠もみな打明て主の手くだにまかれこむ
胸迄合してそふかけ鯛がにらみあふとは気がしれん
春の氷は身うすいからよ手だしするきも無わいな
好た揚先日はおなじことこゝろふたつに身はひとつ
ながいくろうも只一夜さに捨てうれしく向ふはる」(十二ウ)
りんきするのもほれ過たからほどを忘れて愚ち計り
あふた夢なら覚ては又も逢ぬしんきが猶まさる
つきがわるいの色黒じやのとわたしや米やじや無はいな
いやでも別れぬ人さへあるになぜにわかれにやならぬとは
月の明りがいとにくらしふなるも心のくもりから」(十三オ)
いとしかあいがこの身に余りおもひやりさへ夢になる
人の目につきや此身の仇とかげで茗荷も花さかす
いつそあはれにや今さらこんなくろうしもせずさしもせず
書た去状もいつしかわすれよつてくだんの逢もどり
浅いわたしよこゝろで深ふおしむいのちじやないわいな」(十三ウ)
仕ている者より見ている人が泣たり笑たりする芝居
味にほれたら雨だれ落もこいし小石があらはれる
ひねらるゝ手先握てひねつて返す千草結で迷ふ胸
結ぶゑにしを頼みし神に今さら切とは言りやうか
すこしなりとも便があらばこゝろうれしひ夏の風」(十四オ)
嘘で丸めたつとめもけさは実にかへさにやならぬ訳
にくやお前の嘘八百が四百四病の癪になる
狂いだしてはアノ猫でさへ内に寐る夜はないわいな
のくの退ぬのこのくるしさはみだれごゝろの狐つき
あらぎも取れた私や熊の皮尻に引れて日を送る」(十四ウ)
土気放れりやくろうを覚松の蝉さへ啼どふし
おもふ心を壁にも耳があらば言ずにしらせたい
うらみいふたり又言れたりするも互ひの楽しみか
たまに首尾すりやこの短夜でしばし待間もやるせなひ
花や色香のうはきを捨て今は苦ろうな種あぶら」(十五オ)
ひよんな手くだにみは乗られて退にのかれぬ網の鳥
あわぬ其よはすげない蚊もともになくから寐付れぬ
忍ぶ相づを待くらすみはながいおもひよ夏のよも
ほんに今では土気もはなれ身抜しられた蝉のから
命あつての物だねじやとてすきなおまへにかへられぬ」(十五ウ)
結ぶ思ひの参らせ候になぜかかしくをはねるやら
文でわたしの思ひがとゞきやあはぬうらみはないわいな
仇な朝がほ根もない竹にからみ付きはどふあろう
忍びあふ夜に情といのちかへて別るゝ深いなか
隠し所のないこのふみはいつそひつじにくわしたい」(十六オ)
おもひこんだる男にそへりやらくだと浮名に立とても
侭にならない身は首かせのきるも切なひつなぎざる
恋に狂ふた心の駒も千里へだてのひとはしり
悪性男と張子のとらはうなづく計りで舌をだす
主はこぬはづ文かく筆の毛さへかへろとないた鹿」(十六ウ)
(広告)
万本類大坂道頓堀日本橋南詰東江入
〔絵草紙おろし所〕
  本屋安兵衛板」(裏見返し)



44 佐和理(幕末刊か。)
佐和理」(表紙)
(絵)」(見返し)
(絵)」(口絵オ)
(絵)」(口絵ウ)
わすれとふてもたゞわすられず〔(一ノ谷)目のさきにちらつくやうで起てもねても忘られずおもひ余つてそ様のかほ〕こらへ性質くのなきせがれめが」(一オ)
無理な首尾してこよひの逢瀬〔(三代記)せつかくかほ見たかひものふモフ別るゝとは曲もない親に背てこがれたとのご〕なんとこのまゝかへさりやう」(一ウ)
ぬしにみれんな気がひかされて〔(朝がほ)うたひ升るで厶り升とこがなく妻の有ぞともしらぬ目くらのさぐり手に恋ゆへ心つくし琴〕なるかならぬはすへのこと」(二オ)
他よりなひやらにくらしいやら〔(陣家)きのふ又かはるくもゐの空定めなき世の中をいかゞ過行なふらんみらいのまよひこれひとつ〕あんじすごしてけふの癪」(二ウ)
およびなき身ときくほどなをも〔(すしや)おんなのつひ心からかわいらしいとしらしいと思ひ初たがこゐのもと〕わすれかねたるうきくろう」(三オ)
いんぐわ定めてそふたる中よ〔(てら子や)女房戸浪も身をかためおつとも元より一生けんめいサアじつけんせよ見分といふ一ことも命がけ〕とげて見せまひすへまでも」(三ウ)
色といろとがほどよくあへば〔(忠二)じつと見かはすかほと顔たがひの胸へ恋人と物も得いわず赤面は梅と桜の花ずもふ〕おとり増りはなひわいな」(四オ)
うれし余りにことばも出ず〔(廿四四)跡は互ひに抱きつきつゐぬれそめの濡衣も心どきつく折からに〕かくやつきだすあけのかね」(四ウ)
さとりながらもこゝろのうちで〔(帯や)わたしもおなごのはしじやもの大事の男を人の花腹も立ふりんきの仕様もまんざら知らぬでなけれども〕いわぬほどなる物あんじ」(五オ)
あつかましひがこゝきゝわけて〔(二度目)せめてはおそばのおみやづかへおこし元やらお伽やらほんの私が心一ぱゐ〕ちつとはくんでも下さんせ」(五ウ)
みだれて今さらまたひとくろう〔(質家)かくしていたがこんな身でどふ嫁入がなるもので一所にころしてたもひのと〕つゝみかねたるそでたもと」(六オ)
おとこ心のアレあく性な〔(安達四)アヽおもひ廻せば女子ほどあぢきないものはなひとうちしほれしがアヽ愚知/\〕愚知と知りつゝまよふぐち」(六ウ)
口絶なかばにツト身をおこし〔(新口むら)此よの別れにたつたひと目あふてしんぜて下さんせと奥のせうじを明るを引とめ〕にくや見すてゝいぬ気かへ」(七オ)
おもふ身侭にならぬが恋と〔(かゞ七)つねにかはりし顔色をさとられまじと癪にまぎらし〕ヱヽモしんきなことばかり」(七ウ)
はれてそふたらきがねも義理も〔(安達三)おまへさへが点なりやたれがこんのうちでもないきゝわけて下さんせと〕おもひつめてはなみだぐみ」(八オ)
すねて見せてはヱヽにくらしひ〔(玉もノ三)そむけたるかほにつゆしぐれ乞目とふりし姉よりも妹が心のうれしさかなしさ〕なんのわすれてよひものか」(八ウ)
すゐたいんぐわにやはや打明て〔(??内)さばけた女房の洗がみどふいふてよかろやらわが身にうけて心のほつれ〕はやうとかしてくださんせ」(九オ)
ぬしはともあれわしやうつゝにも〔(??)けふ一日にきがかはりそめちがふたるかねつけを元のしらはと墨染にそめ直してもはがしても〕立るまことはかわりやせん」(九ウ)
おもひはらしてわたしがこゝろ〔(八陣)かはひことじやとおぼしめし未来は夫婦になるやうにお執(とり)なし頼み升ると〕いふもなみだのくもりごゑ」(十オ)
こゝろがらなりやなにいとやせぬ〔(上かんや)いまは野もせの草のうへあやどんすのしとねとも錦の夜のものとては〕うれしそなたのひざまくら」(十ウ)
よしやあかはじかくともまゝよ〔(太十)小田のかはずのなく音をばとゞめて敵にさとられじとさし足ぬき足うかがひより〕どふぞ首尾よくしとげたひ」(十一オ)
きれて仕もふてもまたいとしうて〔(三日太平記)マア/\待て下さんせわたしはさられた身のかへなればにらまれても呵られても〕とかく見れんはことばかり」(十一ウ)
はづかしひのをはやわすれだし〔(忠三)サアそのしゆびついてにちちよこ/\と手をとればハテさてはづんだマアまちやいのふ〕アレナせわしいあけがらす」(十二オ)
おもひあまりてまた立もどり〔(妹せ御てん)といふてこれがどふいなりやうヱヽどうせうぞと心も空のぼる木だはしながろうか〕うつゝながらのまよひみち」(十二オ)
かならずほかへはもらさぬやうに〔(伊か六)こよひのことはこのばぎりおとしよられしおまへに迄くろうをかけし不孝のつみ〕どふぞこらへて下さんせ」(十三オ)
いつそ逢はねばあきらめさんせ〔(?六)暇乞が仕たかうけれどそなたにみれんなきもでやうかと思ふての事ではある〕義理ゆへわかれるこの始末」(十三ウ)
つらやたがひにひと目をつゝみ〔(竹中)このうきことを見まいためつくしたことも仇事になりはてたなかかなしやと〕なさけづくからいまのあと」(十四オ)
わたしゆへからいまでのなん義〔(千代御てん)ゑようゑい花は上もなき何くらからぬおん身にておもひがけなき御しんぼう〕もしやあいそをつかさりよか」(十四ウ)
いやなおとことらくするよりも〔(いせも三)内裏上ろうになるもいややつぱりお前のそばにいたい〕すゐて手なべをさげるまで」(十五オ)
ぎりも人目もわきまへなくて〔(鳴戸)ヲヽ道りじや可愛やいじらしやとわれをわすれていだきつき〕なぜにこれほどすいたやら」(十五ウ)
あまりのろけてツイ千話ごとが〔(忠九)むつまじいとてあぢやらにもりんきばししてさらるゝな〕ひよんなくぜつのはしとなる」(十六オ)
今はたがひにこうなるからは〔(ほり川)このよにのこつているきはあるまいいづくいかなるくにのはて山のおくにも身をしのび〕すへをとげたひわがおもひ」(十六ウ)



45 (題不明)(幕末刊か。本屋安兵衛等五書肆板。)
(絵)」(見返し)
(絵)」(序オ)
粋の水上底深ふしてくむ事あたはずされど世界/\よく流れ渡りてその味ひを知るべきはよし此の一ふしならんや元より色町は言はずとも街(ちまた)を行かふ諸人の月にうかれ雪の夜もころぶをわすれて唄ひ行き君と手と手を」(序ウ)ひきあかぬ名も色めきし里の色尚も言葉の茂るを待んと涼しき窓のもとに筆をとるものは
万里軒花廓
画林鐘」(一オ)
文に心をこめたらせめてまくら紙などそひねせん(花暁)
北といふのにみむきもせずに知らぬ顔する古磁石(玉垣)
主を待夜にかき立られて首を延した行燈の火(宗丸)
すがたすゞしき滝島帯とむすぶ手先に横をうつ(亀卜)
けふはお帰りとめては須磨ぬまこと明石た恋の関(花廓)」(一ウ)
洗ひあげてももつるゝからはしんにほどけぬ心がら(卯金太)
けふの細布わしや夜と共にあわぬ思ひにせまるむね(宗丸)
ほねを折てもかみだのみでもどふも侭にはなら???(梅里)
有合の嘘も手くだも皆売切て跡は品よく帰すいと(??)
義理にせまつて切たといへどふみと心があひに来る(??)」(二オ)
憎や浮気のしやれ書文ははんじながらも読ぬ腹(心の本)
ゑがほおほふた袖ふりすてゝけさはなみだの別れ??(りく女)
義理にせまつて出た三下りはふでにみれんの残しふみ(真砂)
鶴もなびゝて来るのもむりか仇にすねたる松のくせ(花廓)
降よ/\といふ辻うらでわたしやひとりで濡す袖(花粧)」(二ウ)
憎い蝶じや臥戸をいでゝ追ふも我身のしんきから(星丸)
いやなお客に地獄の沙汰をまかすわたしが身のつらさ(九十九)
今宵逢ふせとふけ行鐘をまちし其まに明のかね(梅花)
身うけされたら又しづもふとおもふ心ははなし亀(花廓)
鬼と??れしあざみでさへも生けりや見直す床の内(三七ト)」(三オ)
まこと有ゆへ愚痴をば言ふとおもやりんきも憎まれぬ(?口)
島田娘も瀬戸山ぶきの色にやしつぽりぬれ染飯(卯金太)
人眼あるゆへ名は呼つぎのまつに嬉しき月の影(久天)
春の嵐が又冷かへり姿やつれし糸ざくら(柳)
一夜なさけのやどり木さへもともにしぐれてぬるゝ色(りせ女)」(三ウ)
いやと立のを無理言ふ夕べさゝでおとしたこのほたる(里冬)
清水見る様ナわたしの心すこしおまへも汲しやんせ(紫光)
まちし苦労もたゞ一声でわかれつれなきほとゝぎす(花粧)
苦労させじと苦労を仕たが苦労せなけりやそはりやせぬ(里冬)
あかして/\いやみを言ふてあんじさすのが楽しみか(一枝)」(四オ)
異見しられて畳にゆびでしらぬわいなと書ちや泪(な)き(米土)
花や紅葉は時節でかはるわたしや替らぬ松のいろ(花廓)
夜毎/\に通うへばついにうき名辰巳の祇園町(花粧)
かまはしやんすな野ぎくの様に手入れせいでも花はさく(柳)
ほんに朝顔ゆだんがなろか垣のそとにもかくれ咲き(梅花)」(四ウ)
心五月雨主にはふられはれてあわれる時はない(花粧)
しかとむすんだこの腹帯はぬしの心の駒つなぎ(ろ竹)
深い浅いの海とも知らでだます狐が先ばしり(小島)
筆のいのち毛わしやつゞくだけ文をはしらす矢の使(花暁)
ぐつと抱しめ顔うち詠めぬしは御客じやないわいな(一枝)」(五オ)
晴ぬ胸をば明さぬうちに鶏や烏がなくわいな(花廓)
ぬしの濡文ヱヽはらの立つちぎれ/\の様まいる(梅花)
のろけ過してうぬ惚ごとを言ふたわたしの気がしれぬ(遊右)
思ふ恋しい此竹みつできれといふてもきれはせぬ(荒蝶)
かゞみかゝりし白糸染やなんととけましやう此もつれ(花?)」(五ウ)
せんと恨みて逢たる夜さは鐘やからすを又うらむ(花粧)
逢が誠かあわぬ(ママ)じつかすへをとげよとする苦労(九十九)
隠しなんすな是その時の下駄の跡なる雪の中(二葉)
おぼこそだちの野梅でさへも東風(こち)が誘へば咲わいな(かしく)
花は日かげで咲せばさくよ人目へだつるはるがすみ(星丸)」(六オ)
酔が覚たらよふ見ておくれ灸(やいと)すへてもきへぬ文字(花の本)
笑顔しながらわりなく人形ぬしも是みてさとらんせ(里冬)
闇を恨んだむくひと今は嘘を月夜の陰となる(花粧)
主の羽おりを行燈にきせて二人りしてきく鹿のこゑ(卯金太)
事をわけてのおまいの頼みきらにやならずは当座丈(一枝)」(六ウ)
はらも立田の紅筆文はこゝろもみぢのちらし書き(梅里)
すいた男とあの錆はさみ切といふても切れはせぬ(冬花)
烏啼せしこの梅月夜すいといわれる所作でない(花の本)
すいた男にそふてもみたしぢやとて貞女が破られず(花粧)
洗ひ立すりやその飛汁(とばしり)がかゝり合せの人もあろ(真砂)」(七オ)
鳥も寝ぐらを尋ねて行よまたもふさがる物おもひ(花廓)
しかと結だやなぎの枝をにくやあらしの解ほどき(遊丸)
わしを思ふて苦労をしやるそちの実意が身に余る(花晩)
くやしながらも言訳すれどぬしは聞へぬ無理計(一枝)
てれん手妻の品玉よりもぬしを迷はすたねが有(亀卜)」(七ウ)
人に口ひもとけるとみせてぬしのはだ身に付く財布(真砂)
石にたつ矢の願ひもとげにややけじや命のきり一葉(りせ女)
末の苦労を思へばほんにむねにせまつて出る涙(山鳥)
ふみで届かすこゝろの実は筆の先にもある命(宗丸)
ぬしに嘘つくこゝろがなけりやわしの誠がたつであろ(冨鶴)」(八オ)
忍び逢ふ夜のともし火けしてくらう仕升るぬし故に(ろ竹)
跡を付込むこの駒下駄のふるひ/\に付たみち(亀卜)
夢に見るときやはづさぬ枕逢ふてはづして恥かしい(紫光)
垣にもたれて風さへいとふやつれ姿のかれを花(花廓)
袖をつかまへほろりと涙なぜにおまへは人がすく(梅里)」(八ウ)
垣をへだてしアノ朝がほ?つるをのばしてむすび合(花廓)
泣てゐる身を添乳にしられおまへ寝さしに来ぬわいな(亀若)
手と手からんでこふ寝てからは恋のしあんの外はない(梅枝)
りんきしたのは私がわるひじやとて此様な首尾じや物(一枝)
恋のいろはを誰が書初てなませ苦労を習ひ出す(かしく)」(九オ)
枕壱つと人目に見せて二人りねる時やお手枕(亀?)
すねてたがひにふり向あふて残る寒さはにくうない(三七ト)
日蔭ながらもこつそり露でぬれて咲たる谷の百合(かしく)
恋のへだてに立きる障子明けちやいられぬみの半紙(花暁)
右を左りへひだりを右へまとひ付たるやぶの蔦(志信)」(九ウ)
ぬしの手練の口でつぽうでうたれながらにするしんく(山鳥)
義理にせまれば椿の花よかたいこゝろも落安い(三うら ?尾)
年がくすりじや辛抱さんせ末じや浮気も直るぬし(入川)
ぬしに逢ふ夜は戸に紙はりてとふ?で旭のもれぬやう(卯金太)
たれと定めずよせてはかへす夜毎日ごとの浪まくら(宗丸)」(十オ)
わしがりんきはひたひに角?ぬしのりんきはまたに角(冨鶴)
立て見せたりこかして見たりこゝろ一ぱいのぼり竿(花粧)
からい時節にあまひとみられ無心いわれてにくい顔(花?)
千代の常盤の色見すまして松に添ふたる藤かづら(京 むめ)
しだれ桜にや手は届けども人の花には眼も付ぬ(井上 黒鶴)」(十ウ)
まれに逢ふたる其明日は白ひ雪さへ横に見る(梅里)
実なわたしに嘘つくやうなたれが心にするじややら(若 冨鶴)
酒やたばこでまぎらす様な浅いこゝろじやないわいな(三うら ?尾)
実と/\を明してみれば嘘のうき世のうら表(亀卜)
ぬれておまへは又晴なんす月に一声ほとゝぎす(冬花)」(十一オ)
主の手がみはみむろの紅葉すへの思ひは立田川(柳)
泥にそだつたわしや杜若筆でおもひを咲す花(花粧)
へだつ恋じは壬生狂言よ仕かたばかりで物いわず(荒蝶)
ふつと思はずさしめが利て又も時節に出る柳(花廓)
祈るいの字といとしのいの字同じ恋路のかながしら(東遊)」(十一ウ)
ならび咲たるあの杜若根ではだき合ふ深い中(里冬)
思ひ爪びき忍びしこまの糸も乱れてたゝぬ??(花暁)
いやな客じやと辻占みれば庭の蛙がふれとなく(花粧)
わたしや私の苦労にほれてひとり苦労のます思ひ(花廓)
坂に車をわしや押こゝちほんに油断のならぬ主(花暁)」(十二オ)
客と寝る夜は笑ふて明し間夫とねる夜は泣明し(亀柳)
二人り嬉しい相合傘でもらぬやうなが濡がきく(花廓)
さゝを仕舞へば??いに支度おまちわたしの用がある(荒光)
深山そだちのつゝじも今はみあげられたる八日花(花廓)
口舌しらけりやしばしの程はないて寝ころぶひじ枕(九十九)」(十二ウ)
落る涙を団(うちは)でかくしけむとおますとまぎらかす(久馬)
種がほしいと気も朝顔の花をかこふてつくるのみ(一枝)
どふぞ逢瀬と飛立蛍朝はたがひに露にぬれ(花粧)
深い瀬ぶみをわたしにさせてぬしの心は飛鳥川(ろ竹)
軒に迷ふて呼出す声につれて品よふ行乙鳥(志信)」(十三オ)
恋のおもひにもつるゝ?は解にとかれぬ乱れ髪(卯金太)
祇園参りと首尾して逢も所がらとてすいな神(直丸)
引てゆかんせ私しのこゝろ廻るおまへの口車(花粧)
首尾の松をば嬉しふこへてこゝろ角田のうかれ舟(花暁)
這入あし音わしや恥かしいつまになるみのゆかたがけ(柳)」(十三ウ)
そでにせまいと心の起証ゑり??ゝでとけてある(米土)
一寸すさめ程よくうけて笑ひがほする園の梅(かしく)
逢ぬむかしがましぞといふはとまるつらさの捨言葉(?好)
ぬしの障子の影法師より先へわたしの気が移る(亀卜)
おもひ過した事かはしらで今は迷ひに中だるみ(遊丸)」(十四オ)
粋なお前にわしや落栗よまゝになるならしておくれ(荒光)
人のそしりも世の義理?きもすてゝおまへに身を任す(井ヅヽ ?松)
見かけかたそにおろした錠もあじな?めがそびき出す(荒蝶)
思ひかづらき心にはしをかけて待夜のほとゝぎす(梅里)
すねた枝でも程よく東風が吹けばにつこり笑ふむめ(かしく)」(十四ウ)
月夜がらすにふと目を覚しまたも嬉しひ床のうち(三うら 房鶴)
高ふとまりし梢の蝉をたれがやかましなかすやら(ろ竹)
浅い川じやとうか/\わたりあしをとられし石車(卯金太)
退状(のきじやう)片手につく/\涙ひらく声よりふさぐ胸(花廓)
三は切れてもわしや二世かけてかわりやせぬぞへあく迄も(近 竹松)」(十五オ)
一寸一ふし有弐尺さしなれどくるひはないわいな(??)
松にかひなき今宵の月は晴にやあはれぬさつき闇(花枝)
ひとつ蓮(はちす)に置露さへも中を引さくあきのかぜ(宗丸)
泣てしづみて沈てないて声をわけたる小田蛙(花枝)
あらひ世帯がみに??/\てうはき所じやないわいな(三うら 房鶴)」(十五ウ)
ぜひに今宵と松吹風に走るこの葉が耳につく(梅里)
言はにや私をうたがいさんす言へばおまへに苦をかける(円口)
死ぬもしきるも私がからだみんなおまへのさじかげん(亀卜)
あさい心のつとめの身でもすいた男がふかうさす(近 竹松)
むねにせまつた涙はつねよ真のなみだははらのうち(花枝)」(十六オ)
ぬしも覚悟をして来ておくれわしも思案を極てまつ(宗丸)
先はさまでの思案はないが思ひ過してする苦労(東遊)
引にひかれずうごかぬ中は積だ重荷の恋ぐるま(花暁)
親の言葉はそむきもならずじやとて此侭きれもせず(花粧)
凡世界にたでくふむしがなくてこのみがたつものか」(十六ウ)
こゝろ有丈ケ書たるうへは仇な封じのふみ袋(かしく)
月は朧と思ふもつらし闇も人めもいとやせぬ(米士)
夕し御げんは夕しの事よ逢ぬけふ??暮かねる(荒光)
ぬしはめくらか聾かほんにまこと見へぬか聞へぬか(亀卜)
かみもはら/\あのかゝり凧(いか)ほねもくだけるうき思ひ(柳)」(十七オ)
机ひかへてまじめな時のぬしのお顔が見とざんす(花暁)
ぬしは来ぬからわしや松の月ある夜ひそかに??首尾(政菊)
ぬしの手管であやつり人形糸のきれそで便りない(于?)
苦労したがひ漸々見へて今じや嬉しい袖の花(花廓)」(十七ウ)
(広告)
京都
井筒屋和助
本屋吉兵衛
大津屋久七
大坂
石川屋和助
本屋安兵衛」(裏見返し)



46 端唄世思此 初編(幕末刊か。)
※大阪府立中之島図書館・大阪大学忍頂寺文庫に同じものがある。
端唄世思此 初編
柳園?雲作
信天翁貞信画図
梓元 浪華〈以下不明〉」(表紙)
色の色たるを知り。恋の恋たるを暁(さと)り。不溺(おぼれず)沈(ふけ)らずして。悲しききぬ/\の朝を恨まず。朝戻の笑顔と共に。予が朝寐の枕をおどろかすは。同穴の風游(あすひす)る。指柳園の主なりかし。懐中(ふところ)より。紅筆をもて物したる。宵のさわぎの浮れ歌に。端唄のかづ/\。結び込だる即案即興。作意に其情を尽せしを。爰に集めて小冊となし。是また千話のなかだちともならば。偏者の幸ひなりかしと云
浪花 一荷堂主人誌」(見返し)
どこに抜めのなひ主さんよ〔(ほうらい)のしのつけたひどこやらを。所がらとてよろこんぶ。アノもち花のやなぎさへ。それはる風がふくわいな〕ほんに浮気がなけりやよひ
うたがゐながらも明していえず〔(まさづき)おもひをつゝむあけぼのに。心のなどをかけて見る。こぬ夜はひとりおもひ寝の。こがるゝ胸のふくわかし〕かげで恨んで居るばかり」(一オ)
はじめてあふた心がしれて〔(まつづくし)なさけ有間のまつがえに。口説ばなびく相生の松。またいろ/\とやくそくの〕首尾をまつ夜の気ぜわしさ
宵の口説がまだとけかねて〔(ゆき)をしのをとりの物おもひ羽の。氷るふすまのなく音もさぞな。さなきだに。こゝろも遠き夜半の鐘〕きけばわけたることながら」(一ウ)
きこへぬおまへで気も休らぬ〔(こすの戸)とへどこたへず山ほとゝぎす。月夜はものをやる瀬なき。しやくにうれしきおとこのちから〕またもさしこむ胸のうち
主を寝とられ此まゝおこか〔(かなは)ゐんぐはゝめぐりあふたり。今さらさこそくやしかるらめ。扨こりや。おもひしれ。ことさらうらめしや。仇し男を取てゆかんと。ふしたる枕にたちより見れば〕」(二オ)おまへもうらみの無じやなし
せかれて逢ないけふこの頃は〔(ゆかりの月)すまぬこゝろの中にもしばし。すむはゆかりの月のかげ。忍びてうつすまどのうち。広いせかゐに住ながら〕せまふしたのも心から
のこるおもひのうつり香さへも〔(そでがうろ)ちれどかほりはなほ残る。たもとに伽羅のけぶり草。きつくおしめど其かゐも」(二ウ)なきたまごろも。ほんにマア〕にくやあらしがふきちらす
気ならぬおもひに又迷だし〔(ひとつくづや)延(のべ)のへだてをかんざしに。むすんで見たり辻うらを。むりに合たたゝみざん。〕たれも待身はこうかゐな
おまへの実意は誠にならぬ〔(ねやのあふぎ)ねやのあふぎはナイ。みんなゑそらごと。あわぬつらさにこがるゝよりも逢てわかるゝことこそつらや。秋の」(三オ)あふぎとすてられて〕ほんに苦労もあだとなる
かわしたことばにいつはりなくば〔(五大力)ゑんとじせつのすへを待。なんとせう。たがゐのこゝろうちとけて。うはべはとけぬ五大力。さはさりながら。かわる色なきおん風情〕たとへあわずに居るとても
人の手まへでなんにも言ず〔(よどの川せ)さいたさかづきおさへてすけりや。えふて伏見の」(三ウ)くだまき綱に。こふした所は千両松〕座しきはづして忍びあひ
あまるおまへのその廻り気よ〔(かよふかみ)しり眼づかゐを余所にして。まかせぬ首尾を。わけあるやうに。愚ちなせりふも恋の実。すへは野となれやま水の。神にゑにしをまかせなん〕つみなひわたしは去れても
にくやわたしを身持にさして」(四オ)〔(ならの大ぶつ)出けたその子がおたふくならばどせうぞいな。おたふくどせうぞいな。どこぞ長者の門口へ。サア/\すてとけほつとけ〕とは又じやけんな言はなし
こぬと極(きめ)てもまだ待こゝろ〔(そでのつゆ)つらさに秋の夜ぞながきあだにとひくる月はうらめし。月はうらめしあけがたの。まくらにさそふまつむしの〕いとゞさみしきねやのうち」(四ウ)
たよりとおもふたお前はうはき〔(きゞす)人のよめなといつかさて。こがれこがるゝ苦がゐのふねの。よるべだめぬ身はかげろうの〕はかなひわたしとさとらんせ
ちらと見つけて置たもしらず〔(山うば)宵はいづくにかくれてぬけて。かねのなるとき今きた顔で。ようしるとおもわんせ。にくゐ仕かたと思へども顔見りやいとし。」(五オ)ほんにうき世がまゝならば〕そんな言わけ立はせぬ
宵の口絶のなみだの袖が〔(一仲ぶし)かわく間もなき土手のつゆ。四ツ手のたれをおろしても。またもなきゆく明がらす〕おもへばせつないわかれする
あふた上にも又あいとうて〔(夕ぐれに)夕ぐれにながめ。見あかぬすみだ川。月にふぜゐはまつち山ほあげた舟が」(五ウ)見ゆるぞへ〕人の手まへもあるわいな
なにをいふにも苦がいのつらさ〔(わがものと)恋のおも荷をかたにかけ。妹がりゆけば冬の道川かぜさむみ千どりなく。まつ身はつらきおきの石〕はれて逢ぬ身のつらさ
初手からさうでもなかつたお前〔(夕だちや)さゝがこうじてきたねけん。ほんにぜんせな事じやヱ〕うは気するのが手がらかえ」(六オ)
またぬお客は夜ごとにかよひ〔(夕立のかへ歌)そゝる見せさきこうしさき。くるかこないかのたゝみざん。ほんにしんきなことじやヱ〕にくひおまへはお遠々(とゞほ)し
年のあくのを指折かぞへ〔(四きのはる)ひとごにふたご見わたすかたへむつまじふ。ふきのしうとめ。嫁なをつれて〕やがて身まゝになるならば
あふた其よが恋しくなつて」(六ウ)〔(くろかみ)とけて寝た夜の枕こそ。ひとりぬるよの仇まくら。そではかたしくつまじやといふて〕おもひかへても寝らりやせぬ
そふてゐてさへ気ならぬお前〔(すりばち)ひよくれんりと契りしなかも。けぶりをたつる賤の女の。こゝろごゝろにあわぬ日もあふ日もよるはひとり寐の〕こゝろやすまるひまはなひ」(七オ)
かほが見たさに此ふみ便り〔もとさままいると。しめすこゝろのあどなさよ。うへ/\さまの千話ぶみも。べつにかはらぬさま参る〕あて名書さへきがとがめ
つとめ上手にツイ乗られて〔(ひなぶり)日がらのやくそくしてきたなヱ。たかいもひくいもいろのみちなヱ〕かよひつめたよこのころは
あきれはてたよお前の悪性」(七ウ)〔(つゆのてう)きのふの渕はけふの瀬と。かわりやすさよ人ごゝろ。今はこの身にあいそもこそも。月夜のそらや鳥がねを〕きくもしんきなことばかり
ふけて二人がふと眼を覚し〔(あしかり)あしふくやどのしめやかに。かたり明してかわひとは。うそかまことか。そのことのはに〕そう聞や怨みもないわいな」(八オ)
待ぼけされたよヱヽ腹の立〔(なつはほたる)短かき夜半をくよ/\と。なきあかしたるほとゝぎす。あふげばかほにばら/\と〕くやし泪のやるせなさ
先のこゝろかはや知れぬいて〔(京四き)おもひぞつもるまる山に。今朝も来て見るゆきみ酒ヱヽ。そしてやぐらのさしむかゐ〕こふなりや私も世帯気に」(八ウ)
こがれ待身のおもひがとゞき〔(一夜あくれば)はつ音ひとこへうぐひすの。ほうほけけふのやくそくも。実にうれしぢやないかいな〕あわれる便りに鼠なき
切にやならぬと成ぎりづめに〔(川たけ)つがゐはなれぬをし鳥の。中にたつ月すご/\と。わかれのつらさに袖しぼる〕人眼にかくして呑むなみだ」(九オ)
とけぬ口説に果しがなうて〔(一こえに)いつしかしらむみじか夜に。まだ寝もやらぬ手まくらに〕おどろかしたよ明のかね
能事(よいこと)づくめのおまへがはなし〔(梅のはる)よろずよし原さんや堀。たからぶねこぐはつがいによゐはつ夢をみつぶとん。弁てんさまをそひぶしの。花のにしきのかざり夜具〕まことらしひがうそらしひ」(九ウ)
おや子中さへうとまれるほど〔(ほれてかよへば)ほれてかよへば。なにこわかろう。今宵も逢(あを)と。やみの夜みちをくよ/\と。先やさほどにも。おもやせないにこちやのぼりつめ〕ぞつこんおまへにのろけこみ
月夜がらすを夜明の様に〔(土手をとふるは)いゝやちがふたしぶ蛇の目。あい/\がさのしつぽりと。アレはるさめがふるはいな。ぬれかゝる。さりとは」(十オ)気みじかな〕かへしやせぬぞへいつまでも
わたしがおもひの其十部一〔(???)あのや君さまは。いつのいつからあひもせで。おきのふねほどこがりやせぬ。宵は見もせで。夜なかにやあわぬ〕うは気なおまへの心では
こんな悪性としらずに私しや〔(しほくみ)きをもみぢがさしらはりの。との子にみさほ」(十ウ)立がたや。あい/\がさのすへかけて〕苦ろうせうとはしらなんだ
はやひものだよ去年に成よ〔(老まつ)しんの始皇の御かりのとき。天にわかにかきくもり。大雨しきりにふりしかば。みかど雨をしのがんと。小松の木かげによりたまふ〕そのときやうつゝで惚た中
そへぬ縁じやと明らめながら」(十一オ)〔(あけがらすしん内)どふしたゑんでかの人に。逢た初手からかわいさが。身にしみ/\と惚ぬいて。こらへ性なきなつかしサ〕のがれぬいんぐわにからみつく
無理をいふたもすねてもみたり〔(らんてう)つまらぬことを言つのり。口ぜつはあすもかへされぬ。しかたとしれどこちもまた。とかで苦をやむうれしさが〕すゐた同士の千話のたね」(十一ウ)
ふつとあふたが迷ひのもとで〔(はをりきせても)羽おりきせてもかみ下着ても。なにが粋じやと人がいふ。ほんにおまへさんはつみな人〕気さへやすまることはなひ
どこに抜目のないぬしさんに〔(うはさにも)うはさにも。気障けが無てなりふり迄も。ゐきではすはでしやんとして。かつらをとこの主さんに〕そふたわたしは身のくわほう」(十二オ)
ちつとは私が気も推量して〔(やんれぶし)これさわがつまもんどさんヨ。わしが女房でやくのじやないが。十九や二十の身じやあるまいは。人にゐけんもいふ年頃で。けふもあすもと女郎かいばかり〕やめておくれようは気をば
どふでおまへの心にや染ぬ〔(おちうど)やぼな田舎のくらしには。はたもおります賃し事。常の女(おなご)とおもふてと。とり乱したるしんじつが。〕」(十二ウ)せめてとゞかばうれしかろ
浮気は男の手がらといふて〔(三つの朝)うき世はゆめのやる瀬なく。猪牙は矢を射る汐どきも。丁度よゐころ首尾の松。ふねじやさむかろ着てゆかさんせ。わしがきがへのこの小袖〕さつしておくれよすこしでも
あかしてうれしひ互ひのこゝろ〔(きのえ)ねんがとゞゐて首尾のよさ。大黒さんの乗さん」(十三オ)す俵のやうにいつ迄も〕はなりやせぬぞへすへかけて
世間おもへばのかねばならず〔(かん/\のかへうた)だん/\の。御ゐけんで。もふやめる。気は気じやがま一度見たいかけあん燈。めんこがしたさに思案さん〕いつそ捨たい義理の中
遂た中とて気もさつぱりと〔(はつねのいろ)あけてきのえに気はあらたまり。はれて子どしの」(十三ウ)しゆびのよさ。うれしひゑんじやないかいな〕かわるまいぞヱ二世さん世
やつれさせたも皆おんへゆへ〔(夕ぎり)ふゆあみ笠のあかはりて。紙の火うちひざの皿。かさふきしのぐ忍ぶぐさ。しのぶとすれどいにしへの。花はあらしのおとがいに。けふの寒さをくゐしばる。はみだしつばもかみさびて。こじりつまりし師走の日〕」(十四オ)こゝろせつなく日をおくる
今さらすてるはそりや胴欲よ〔(あさま)あさいこゝろとしらいとのそめて仇なる恋ごろも。むかしわすれぬとりなりは。風に柳のふくまゝに。まかせるはづのつとめじやとても〕どふでお前にやあるうらみ
寐ても起てもおまへのうはさ〔(けんだ)あすなぶらりよとまゝにして。心でやぼな床いそ」(十四ウ)ぎしごきもわきへなげ嶋田。まくらの下へやる手さへ。つとめぎはなれて馬からしひ〕ゆめもあはれぬことを見る
あへばにくらしアノ気やすめが〔(梅ゑ)それそのやうにいわんすけれどこの梅川が身のつらさ〕あとでわたしの癪となる
花もさかせば苦労も増よ〔(清もとはん七)はるのあめ。又ぬらす」(十五オ)のもはるの雨。そらはれやらぬ胸の戸を。明なば人の口はに。かゝるもまゝよまゝならぬ。今の思をもしほぐさ。かくてや濡し身のはては〕にくひあらしがやつれさす
せまるおもひにしあんを極て〔(清元)なむと覚悟はしながらも。またもやぐちをくる珠数の。玉もおさんの気にかゝる〕みれんらしひがいまいち度」(十五ウ)
おまへの実意が変ぬならば〔(高砂たん前)たとへ万里はへだつとも。したふこゝろはそりやいわんすな。朝ないふなにそらふく風も。おちばごろもの袖引くまとふ〕すへはうれしひ女夫(めうと)中
遠座かるほど思ひはまして〔(うらしま)かすむこづえのうつりがちりて。花や。恋しきおもかげを。さつと吹とく。はる風に。かすみがうめ」(十六オ)るはつざくら。花のいろ香にツイうつり気な〕そして案じることばかり
とけしないぞへわたしが胸は〔(御しよぐるま)ゆきにおもひはふか草の。百夜もかよふ恋の闇。君がなさけのかりねの床に〕つもるしんくがしやくのたね
実に二ツが尽せるものか〔(はるさめ)小鳥でさへも一すじに。ねぐらさだめず気は」(十六ウ)ひとつ。わたしやうぐひす主はうめ。やがて身侭気まゝになるならば〕そんなうたがゐはらさんせ
愚痴かわたしがくりことながら〔(忠のぶ)むかしを今になすよしもがな。谷のうぐひす初音のつゞみ。しらべあやなす音につれて。おくればせなる忠のぶが〕かたるもくやしひけふの首尾
たまさかあふたにアノ捨ことば」(十七オ)〔(清元さんかつ)アレまたやつぱりあれな事。いふてなかせて下さんすな。是がせけんにありふれた。色やうはきじやあるまいし。初手はしられずしらぬ同士。わやくなゑんを神さんが。ひよんなおせわのそのゝちに。尽ぬゑにしをまつの紋〕わたしや放れぬいのちまで
恋しおもひに空うちながめ〔(あだなゑがお)ことづてたのむつばめのたより。うそならほんにかほ」(十七ウ)鳥見ても。羽がいの肌にいだきしめ。そのまゝそこへとまりやま〕いつまアきさんすことじやゝら
心さへねばさけにも酔ぬ〔(いよぶし)土手の夜かぜが。三谷でかすかにかみ砧。たそやあんどの。かげふけて。たまひめあたりに狐が。ちらほらと。見へず見へずに引四ツすぎから間夫の昼。来やさんせ。〕よほ見りや是でも笑ふだろ」(十八オ)
うかと乗られ身はホイ駕に〔(十日ゑびす)十日ゑびすのうり物は。はぜぶくろに。とりばち。銭がます。小判に金箱立ゑぼし。ゆでばす才づちたばねのし。笹をかたげて千鳥あし〕うかれさせたもおまへゆえ
はづかしひやらうれしひやらで〔(こすのと)じつと手とてを。なんにもいわず。二人している蚊屋の紐〕むすびそめたがゑんのもと」(十八ウ)
(広告)
御書物類
浄瑠璃本
画草紙類
大阪心斎橋通塩町角
問屋綿屋喜兵衛」(裏表紙見返し)



47 (よしこの花ぞろへ?)(タイトル不明。幕末刊か。)
(絵)」(見返し)
(絵)」(口絵オ)
うかれ歌を題して
其なかにあだや浮気の花ぞろへ
一荷堂主人誌」(口絵ウ)
鬼のこぬ間に二人が身ならこふも恋(こ)がれぬ身ぢや物を
思ひよるべも渚の千どり夜ごと日ごとに袖ぬらす
うそと知りつゝ私しの迷ひかげで辻占ねづみなき
気侭そ立のわしやせりなのどどこでかもめと出合やら
いやな風にも程よくなびきうきはながれの川柳」(一オ)
包むほどなを浮名が立田顔にもみぢのちら/\と
ひよんな事から又気にかゝる思ひすごして一ことば
客を浮して引さみせんはほんにこゝろのみなれ棹
ふさぐ矢先へ嬉しいたよりきいて思はず笑ひがほ
下紐をとくと承知を仕たよはほんに深ひ縁にしての結び初」(一ウ)
身持かたそふなふりみせながら仇におちたる藪つばき
情しらずが笑ふは愚知よぐちと知たら迷やせぬ
けふといふ日を指おりかぞへ待にまつたるひな祭り
衣かへして寐るよの夢はさめて枕にはづかしい
義理に迫つて切とは浮気わたしや無理でも立通す」(二オ)
義理や世間をいとふていたらいつか思ひがはらさりよう
思ひだすまいとはおもへどもおもひ出す様な事ばかり
主はかたそふな磁石と思やわたしやなりたい鉄のこま
籠と草むらアノむしの音も声はかはせどまゝならぬ
もしも此願かのふたならばお礼参りに二人りづれ」(二ウ)
すへが分つているならほんにこんなくろうはせぬはゐナ
おしむ別れにアレちるさくらまたも未練の残るやら
手入すれども根が寄にくいよせる根じめは金銭花
ちゞに心を互ひにくだき深くなつたる滝の水
呑ぬ口にもツイ茶碗酒こない人をば待につけ」(三オ)
くしや付よふだがアノ麦のほもすへはみがけて侭になる
昨(きの)ふよりけふは互に思ひの渕も瀬とはかはるな飛鳥川
深ふなる程おもひが増てどこが実やら誠やら
薄い蒲団に身の上咄しあついなさけを引かぶる
退てお前の身が立ならばこがれ死ぬとも明らめる」(三ウ)
鳥おどしさへ寝転びだせば今は鳥にもあなどられ
灰吹の煙り一筋立たりいたりくれば隣りのうはぞうり
明て今迄待しておゐてほんにつれないほとゝぎす
土気放れぬ竹の子さへもほんに程よひ味をもつ
おもひざしから請たる酒はほれ薬かとおもふまで」(四オ)
垣を越たる卯の花さへもかぜが手引をするはいナ
是非にさす気のわしや東傘たとへ降るとも照すとも
じつとこらへているみはほんにあつひなさけの薬風呂
大事がられて囲ふた梨子もひよん(ママ)疵から退(のけ)られる
情どころかアノマアぬしのほんに暑(ママ)いは面のかは」(四ウ)
ぬれていながらアレにくらしいとかく浮気な水すまし
どふでふるのは覚ごの前と胸にくゝりの幟り猿
宿りかねたる梢の月を風がそはせる事もある
とかく流れがあらひとみへて添ふて居ながらふるふ月
鳥渡人目はかくすとすれどいろで知られた盗み酒」(五オ)
蟻も花ゆへうか/\通ふや今に身上りする雲雀
麦の若葉もモフ色がほに出たも時節がきたのやら
露ももらさず並んだ中を月がさし出た夏木立
色と定たなたねができて蝶もほかへは気がよらぬ
仇な桜に気をよせかけてうはの空まで通ふかぜ」(五ウ)
毎夜釣られりやツイ心まで廻り灯籠もくるひ出す
松を他よりと登りし蔓も嬉し色からしめからむ
花と思ひし気は深見草主のゑがほに増おもひ
わしをふり捨江戸長崎とそれじやつれない一人旅
袖についたるアノ口べにが今はうれしき色となる」(六オ)
鹿の時から恋ゆへ苦労筆になつてもくろうする
雲間隠れのアレ月さへも梅にやほどよく添遂る
薄き情のアノ夏ごろもわたしや一重に思へども
けふかあすかと見るつぼみさへにくや気ならぬ風が吹
角があるのかのたくり書の文のへんじも片つぶり」(六ウ)
主はあはぢと幾よも逃てかよふ千鳥は啼ばかり
夢は覚てもアレおもかげのさめぬ心ちがするはゐナ
逢ひに出るさへ侭ならぬみがいつか浮名が外へでる
かむりふるのを招(まねく)と思ひにくやすゝきのみだれがみ
三日月のまゆ毛落して嬉しき世帯今は身がるな豆ふかい」(七オ)
隔られたはそぶりで知れたふみの伝手さへ頼む雁
送る玉章いとしめやかにぬれの逢ふ瀬もはづかしい
泥水の中に住とも誠な花よいろもゆかりの花菖ぶ
恋の闇ゆへくらいといわれ明り立たひこの行燈
ひよんなつぎほといやいふものゝ咲てにくない花のゑん」(七ウ)
杓子見るよな私じやけれどひつのお客はおことはり
床の時計もあてにはならぬ主の心もくるいがち
知らす私が着物をたとみや袖のうつりがくろうさす
すいもぶすいも程よく招くほんに柳の風まかせ
千重咲すも一重に咲ももとはつぼみの心から」(八オ)
露の濡手につかみし粟の色にさいたるおみなへし
煎じ詰りて身の薬にもならぬ恋じのつのる癪
仇に染りてこふなるからは元の白地にやなりやせまい
なんとしやうのう思あんはないか虫が付たと人がいふ
かねてこがれし思ひが叶ひ今さらはづかし新枕」(八ウ)
先の心が浅沢ゆへにふかきおもひをかきつばた
目貫忍んで逢たる鍔をとゞの鐺(こじり)にや夢も鮫
たとへ住居(すまい)はせまかろふとも世間はれたりや嬉しかろ
梅の笑がほに積りし雪も今朝は口絶にとけかねる
色をもつ身はアレ朝顔の心ありたけからみつく」(九オ)
はだか参りの願ひが叶ひなぞといふては帯とかし
しかと誠を文句で聞し筆のいのち毛切るまで
心うす茶の主とはしらず立たみさをも水の泡
秋の空かよ身はうつ蝉のけふも日ぐらし鳴あかす
つとめする身は盃うけよがいやみさんすはうけにくゐ」(九ウ)
あへぬ短か夜夢さへろくにかはる/\のおもひごと
咲ばちるとは悟つてみても愚知に今さらおもひつめ
かねを湯水につかふた果はいつもはだかのくらしする
今は団扇に鏡をつける人のこゝろのうつり気な
鷹の夢よりこちやぬしの夢うかと人には咄しやせぬ」(十オ)
春の若草つみ捨られて土におもひの根を残す
すてゝ置たる根笹でさへも花をさかしたことがある
腹を売ても汲ではくれず果は口絶の背とせな
寐がほのぞひて又空ながめ月も動かぬものならば
冴へた月夜にうらみをいふてかげにたゝずむ恋の闇」(十ウ)
もらすまいぞと互の中もいつか流れて立浮名
袖に止たるそのうつりががぱつとせけんにかきつける
いつかせ見で柳とさくら恋の思案の垣の外
うつの山辺のうつゝとなりと主の心につたかづら
時節あるみの時さへしらずあだに散ゆく花ざくら」(十一オ)
いやな場席は程よくすかし誠あかさばふあしらひ
つゝみかねては誠の中を明てくやしき玉手箱
むだに鳴子の袖引人よたとへ秋田といわれても
ひよんな風でも引たとみへてはなであしらひつん/\と
すてた浮世も色には迷ふ庭の千草にむしの声」(十一ウ)
しんの骨からしつぽり露にぬれし涼みの捨てあふぎ
仇な三すじによる身はほんにむねの調子が定まらぬ
深山がくれの草木じやないがしげるこの身を主しらず
もしやそれかと耳そば立てしばし化粧の出がとまり
夢を覚して身はうつ/\と閨にさし込む月の陰」(十二オ)
そぶり見せねど身は蛍火の夕部/\に身をこがす
そつと隠れて若葉に残(まじ)りたれがさかした残り花
かよふ心は深くさなれどいつかすげない百夜草
あれよこれよと筆にはかけぬたらぬがちなるうき思ひ
月を招くかアノいと薄き何かおもひをいふ気色」(十二ウ)
露に添ふとははかない物にみれんらしくも残る月
恋は曲者月夜をきらいとかく闇路にしのびあふ
うつゝ笑がほをフト起されてかほに赤づくまくらがみ
なびく心かよい口あたり一寸気を見る柳かげ
ほれた誠の心にせかれいふもはづかし初の恋」(十三オ)
もしやそれかと様子を聞ば隣りざしきのさゝめごと
わがみ一人りは別ていても主のためならなんのその
浮名ながしてせかれもならずいつそやり水まゝのかわ
のちのあふ瀬に又延がみと一人りくやしき紅(もみ)の衿
義理にせかれて切ねばならぬなんの橋ひめ頼みやせぬ」(十三ウ)
別れかなしく見送る空に宵の月かげ恋しなる
しやれて居たかや身は抜がらの色にうつゝの桜がい
さきの心が浅間が嶽でひとりくよ/\こがす胸
恋の浮世のそのかけ橋が人になさけのかけはじめ
みねに別れて明行空もおなじ思ひとせまる胸」(十四オ)
吐息つく/\片手にかゞみ鼻をねじたり曲(ゆが)めたり
莟心に契りし菊も今ははれてのきく合せ
恋の大井川わたつたからはぬしに命をなげ嶋田
草につれそふひよくの蝶も風のりんきに別れする
ひよんなことからうらんでみたが思ひ直して笑がほ」(十四ウ)
廻りあふ迄心も空よはれぬおもひの胸の闇
秋が来たのでアノ灯籠も軒につられて風を待
ぬるゝ日もありや又干る時も定め渚の袖たもと
人にたき付られたとみへてふすべられたりもやしたり
深ふはまつているのじやけれどわざと其場ははね釣べ」(十五オ)
愚知な思案にふさがる胸よ義理のしがらみ忍び泣
鳴てくれなよ今宵の月にたのむおまへが又なくか
わけをいふのに腹竜田姫秋がきたかと気が廻り
戸をばたゝかれ起てははつとおもやすかなひ余所の門
かはく間もなき尾花が袖につゆも誠をおきそめる」(十五ウ)
明てそれとは岩橋なれどわたり付たる物あんじ
色も花香も尽せぬ縁と浮名たつ身の宇治の里
今朝の別れの心も知らず笑ひがほなる鉢のうめ
見たひ物じやがどころらこわいといふて思はず封を切
口絶しらけて心がせまり広ひはし子をおりかねる」(十六オ)
何の病ひか推量さんせにがひ薬りもきかぬのは
さはり手のない薊でさへも時節なりやこそ花がさく
うそも手管もソリヤしらぬ先なぞといふみの苦労人
あふて顔みりやかはゐさ増てうちのうらみもどこへやら
情しらずのアノながばなし立たほうきがむだになる」(十六ウ)



48 唐詩作加那(明治二年・三年。山々亭有人撰。金松堂辻岡屋文助板。)
※大阪府立中之島図書館・関西大学にも初編〜四編の揃いを蔵する。菊池蔵本は虫損が多いので、適宜中之島図書館本・関西大学本によって補う。四編『唐詩のさかな』は、明治三年刊『五色染詩入紋句四編』と同じもの。
(初編。題簽欠)」(表紙)
天井を逆さまに渡りて晦日に月を見せざれ人放(あへ)て不思議と賞さず盲人に角觝(すまひ)を取せて小婦に能を舞せざれば誰が垣覗(のぞき)も做(なす)者あるまじ開化日に進み好事月に増長し陶隠先生存生(いんそ)かりせば新柳町に閑居を設け茂叔先醒現存在(あら)ば池の端にや偶居なすべし尓れば唐韻を賦す遊女あれば朗詠を吟ずる唄女あり世に連時に従はねば稗史といへども利を得ざらんと此史いとも不思議を尽し目盲角觝の取所あらぬは書房は疾(はやき)を旨として彫摺(ほりすり)なんども女の能の急候程に誤正をなすべき隙もあらねば看官麁漏をとがめ給ふな
明治二巳年皐月稿成  山々亭有人記」(一オ)
(絵)」(一ウ)
(絵)」(二オ)
わたしが心は鉄張船よ〔黄沙百戦穿金甲不破楼蘭終不還〕どんな中でも押てゆく」(二ウ)
のろい奴だと笑はゞわらへ〔願作軽羅著細腰願為明鏡分嬌面〕惚りや誰しもおなじ事」(三オ)
鐘は七つの八つ山下を〔月落烏啼霜満天江楓漁火対愁眠〕駕で飛ぶる早帰り」(三ウ)
すがたかざらず眉作らずに〔却嫌脂粉汚顔色淡掃蛾眉朝至尊〕ぞつと素顔の薄化粧」(四オ)
思ふお人は軍の首途(かどで)〔故人行役向辺州匹馬今朝不少留〕ついちやゆかれず泣別れ」(四ウ)
すいた事ならするのがとくよ〔一年始有一年春百歳曽無百歳人〕ホンニ若い時や二度はない」(五オ)
死ぬほど惚れても四五日逢にや〔眼看春色如流水今日残花昨日開〕あとへ見かへる人が来る」(五ウ)
もしも道中で雨ふるならば〔誰知孤宦天涯意微雨瀟々古駅中〕わしが涙とおもわんせ」(六オ)
ぬしの来ぬ夜は白粉つけず〔一去姑蘇不復返岸傍桃李為誰春〕着ものきかへず泣寐入り」(六ウ)
よもやといふ間に女房も出来て〔秋葉風吹黄颯々晴雲日照白鱗々〕いつか十日の菊となる」(七オ)
惜む名残に見帰る柳〔柳色参差掩画楼暁鴬啼送満宮愁〕跡へ引るゝうしろ髪」(七ウ)
みどり/\といわれたあの子〔高歌一曲明鏡掩昨日少年今白頭〕松のくらゐの太夫職」(八オ)
おつな初会にしつぽりぬれて〔君問帰期未来有期巴山夜雨漲秋池〕丁度やらずの雨が降」(八ウ)
西も東も他人の中で〔莫愁前路無知己天下誰人不識君〕正実あかすはぬしひとり」(九オ)
そわれまいかと家出をしたが〔今夜不知何処宿平沙万里絶人烟〕さして行衛も泣なみだ」(九ウ)
秋が来たので愛想も月夜〔楓岸紛々落葉多洞庭秋水晩来波〕濃(こき)は紅葉の散やすし」(十オ)
とめちやいけないそのさかづきを〔笙歌日暮能留客酔殺長安軽薄児〕寐かしてそうしてほかへ行」(十ウ)
首尾の吉原品川とても〔唯有相思似春色江南江北送君帰〕もどる田町は朝時雨」(十一オ)
色気覚たる日かげの紅葉〔却恨含情掩秋扇空懸明月待君王〕捨る心か待ど来ず」(十一ウ)
酔を覚しに転寐すれば〔平陽歌舞新承寵簾外春寒賜錦袍〕裾に実情(まこと)をふわりきせ」(十二オ)
愚痴もみれんも言たいけれど〔送君還旧府明月満前川〕むかふ鏡に恥てゐる」(十二ウ)
うたれながらもその手にすがり〔白髪三千丈縁愁似個長〕邪見も時になるわいな」(十三オ)
たとへのんでも亦呑いでも〔莫謾愁沽酒嚢中自有銭〕つとむる所は勤めます」(十三ウ)
逢て別れて又あふまでは〔雲想衣裳花想容春風払檻露華濃〕ぬしの噂で日を暮す」(十四オ)
待にかいあるあの時鳥〔一枝濃艶露凝香雲雨巫山枉断腸〕啼てうれしい夜半の首尾」(十四ウ)
ほども器量もすぐれたわたし〔名花傾国両相歓常得君王帯笑看〕人のほれるも無利はない」(十五オ)
おまへと世帯を新柳町〔旧苑荒台楊柳新菱花清唱不勝春〕気まゝに芸者をしてみたい」(十五ウ)
鉄炮の音の屯宅けふ一日は〔鳴鞭過酒肆●服遊倡門〕惣隊すゝめる色と酒」(十六オ)
どうせ相手にやなるまいけれど〔孰知不向辺庭苦縦死猶聞侠骨香〕ぬしと組討して見たい」(十六ウ)
鐘もむつ言まだつきなくに〔漢王未息戦蕭相乃営宮〕茶屋の迎ひの四つ手駕」(十七オ)
かたい約束した中なれど〔一双玉手千人枕半点朱唇嘗万客〕替りやせぬかと案じられ」(十七ウ)
廻し枕がおしやべりならば〔年々歳々花相似歳々年々人不同〕日々に口舌は絶やせぬ」(十八オ)
這ば立たてばあゆめとそだてし親が〔閨中少婦不知愁春日凝粧上翠楼〕今更転べとはどうよくな」(十八ウ)
三はきれてもわしや二世の縁〔欲別牽郎衣郎今到何処〕かわらしやんすなあくまでも」(十九オ)
わきで見るさへにおほたゑにし〔冷艶全欺雪余香乍入衣〕すへの/\までそへとげる」(十九ウ)
うしろ姿をそれかとおもひ〔心傷江上客不是故郷人〕振向顔見りやよその人」(二十オ)
船ぢや寒かろ是きておいで〔映門准水緑留騎主人心〕わたしが部屋着のこのどてら」(二十ウ)

(二編。題簽欠)」(表紙)
山々亭有人撰
唐詩作加那 全
東京都  金松堂梓」(見返し)
唐詩作加那二編序
手操木綿の都々一へ。唐糸の唐詩(からうた)を。撮合でよと板元(といや)の誂へ。原来(もとより)流行の新作物は。筆に頭奇絶(おぼへ)の有人大人が。忽地(たちまち)筆を染糸に。初編一冊(いつたん)刊行(おりだし)て。四方看客(おとくいがた)の尊覧(ごらん)に呈(いれ)し。当世向で新奇趣向(いゝがら)じやと。御意に叶ひて二編の注文。折柄大人は機台の。机上繁多の故をもて。余(おのれ)を助筆(てま)に雇われたれど。未(まだ)初心(おりならい)のかなしきは。筬より筆のはたらかぬをいひ気で滅多やたら嶋。唯塞責(まにあはせ)の詩入都々一(しいれもの)ゆへ。只管愛顧を給りて。偏に板元(といや)の棚さらしと。ならざるやうに願ふになん
明治二稔己巳林鐘   琴亭主人識」(一オ)
(絵)」(一ウ)
(絵)」(二オ)
花の笑顔にさす月の眉〔娼家美女鬱金香飛去飛来公子傍〕雪のはだへを三つ蒲団」(二ウ)
床の番して寐られぬ耳へ〔空山不見人但聞人語響〕隣座敷のさゝめごと」(三オ)
いやに邪推を廻しの客は〔借間大将誰恐是霍嫖●〕間夫じやないかと気がもめる」(三ウ)
待に甲斐あるはつほとゝぎす〔冷然夜遂深白露沾人袂〕鳴てうれしい夜半の首尾」(四オ)
いだきしめつゝ片手をのばし〔与君相向転相親与君双棲共一身〕解て引出す帯のおと」(四ウ)
光源氏と夫婦になろが〔貴賤雖異等出門皆有営〕喰ずにや三日も居られない」(五オ)
ほつとひと息たがひに汗を〔宛転蛾眉能幾時須臾鶴髪乱如糸〕ぬぐふ額のみだれ髪」(五ウ)
鐘もからすも聞えちやいれど〔惜君只欲苦死留富貴何如草頭露〕ほかのお客はうはの空」(六オ)
こゝろ浮草ながれのならひ〔君不見今人交態薄黄金用尽還疎索〕けふは向ふの岸につく」(六ウ)
こゝろ石炭焚つけられて〔烽火照西京心中自不平〕顔も蒸気もわくおもひ」(七オ)
遠ざかる程逢ひたいものを〔仗剣行千里微躯敢一言〕去るものうとしと誰がいふた」(七ウ)
廊下ぱた/\障子をがらり〔百万一時尽含情無片言〕ヲヤとにつこり笑ひがほ」(八オ)
野暮なわたしに浮気なおまえ〔願作貞松千歳古誰論芳槿一朝新〕どうで口説はたえはせぬ」(八ウ)
ほれてくれるはうれしいけれど〔傾国傾城漢武帝為雲為雨楚襄王〕さうはからだがつゞかない」(九オ)
かくす事とはもとより承知〔但見涙痕湿不知心恨誰〕しれりやたがひの身のつまり」(九ウ)
そつとれんじをまだ明やらぬ〔万籟此倶寂唯聞鐘磬音〕そらにひとむれ帰る雁」(十オ)
紙を引さき眉毛をかくし〔洛陽女児惜顔色行逢落花長歎息〕ぬしの女房にやふけるだろ」(十ウ)
まはり気な事をいふのもおまへが大事〔憶君涙落東流水歳歳花開知為誰〕いやでとやかふいふじやない」(十一オ)
浮気は男の常とはしれど〔柳条弄色不忍見梅花満枝空断腸〕かくされるほどはらがたつ」(十一ウ)
通ひ曲輪のものいふ花に〔客心争日月来往預期程〕くるふ胡蝶の翅駕」(十二オ)
惚ちやゐれどもいひだしにくい〔即今相対不尽歓別後相思復何益〕さきの手だしを待ばかり」(十二ウ)
腹をたゝずとよう聞しやんせ〔総為浮雲能蔽日長安不見使人愁〕ほれりやうたぐる事もある」(十三オ)
三味線の引手あまたといふのも道理〔即今西望猶堪思况復当時歌舞人〕うまい文句にいゝ調子」(十三ウ)
盛りすぎたるあの姥ざくら〔始知人老不如花可惜落花君莫掃〕なれど一枝手折たい」(十四オ)
おほい一目の関をば越路〔莫愁前路無知己天下誰人不識君〕こゝが勧進帳しもの」(十四ウ)
いつの間にやらもう首尾の松〔酌酒与君君自寛人情翻覆似波瀾〕遠くてちかいは船のみち」(十五オ)
便りない身にたよりが出来て〔妾夢不離江上水人伝郎在鳳凰山〕苦労するのも二人り前」(十五ウ)
しやくるとしりつゝおまへのことを〔縦令然諾暫相許終是悠悠行路心〕わるくいはれりや腹がたつ」(十六オ)
雁の玉章とゞいて首尾の〔罷琴惆帳月照席幾歳寄我空中書〕松にうれしき月のかほ」(十六ウ)
せめて一夜とおもふた念が〔古来容光人所羨況復今日遥相見〕とゞいてうれしいけふの首尾」(十七オ)
はれて女房にやなられぬわたし〔閨中只是空相憶不見沙場愁殺人〕いろといはれて末ながく」(十七ウ)
軍上手と聞てはいたが〔此馬臨陣久無敵与人一心成大功〕口で殺すもほどがある」(十八オ)
おもひがけなく相合傘に〔花際徘徊双●蝶池辺顧歩両鴛鴦〕ぬれて嬉しい春の雨」(十八ウ)
いたらぬわたしと浮名がたちて〔看取蓮花浄方知不染心〕さぞやかた身がせまかろふ」(十九オ)
あきがきぬたの音信たへて〔長安一片月万戸擣衣声〕はれぬおもひの月の雲」(十九ウ)
人の囲いとしのびてこひ茶〔主人不相識偶坐為林泉〕そつとたのしむ四畳半(二十オ)
はなれまいぞへ二人が中は〔総向春園裏花間笑語声〕立し屏風の蝶つがひ」(二十ウ)
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東京横山町三丁目  辻岡屋文助梓」(裏見返し)


(三編。題簽欠。)
山々亭有人撰
唐詩作加那 全
東京都  金松堂梓」(見返し)
金銀は何を以て尊とす。其品の丈夫なる事鉄銅に及ばず其色の美なる事牡丹桜に増べからず其形ちの奇麗なること珠玉奇石に過たるはなししかはあれど是等の物は品類の多くして得るに安きが故に人尊むに赴(いたり)ては日を同じくすべからず今此稗史のごときは原来(もとより)鉄銅の益もなく亦桜花の美もなく玉石の奇とする所もなにいと/\果敢なきものながら世にあり経(ふれ)し都々一と聊(いさゝか)目先の異(かはる)が故に看宦挙(こぞつ)て愛顧を垂れ書房(ふみや)は意外に金銀の尊をさへ得るに赴れり
庚午春  山々亭有人記」(一オ)
(絵)」(一ウ)
(絵)」(二オ)
つもり/\し思ひがとゞき〔迎晴払尽牆陰雪解凍翻来岸曲波〕替りやせぬかと又苦労」(二ウ)
待ど来ぬ夜に萩吹風は〔枕冷唐妃専幸裏襟飄魯聖以思程〕秋といふのが気にかゝる」(三オ)
鳥は止るに樹を撰むと歟〔月知渓静尋常入雲愛山高且暮帰〕わたしや惚るに人を撰る」(三ウ)
秋の千草に置露よりも〔星翻空払槿花露月落啼聞蘆葉秋〕今朝の別れにしめる袖」(四オ)
暁(あけ)の燈火消入るばかり〔五声宮漏初明後一点窓燈欲滅時〕朝の帰りをかこち泣」(四ウ)
わづか女郎が三寸の舌に〔澗庭松揺千尺雨庭前竹撼一窓秋〕五天有余の身を果す」(五オ)
松の太夫も水もらさじと〔秦爵琴声調白雪呉人剣色掛秋霜〕雨となる夜のおもしろさ」(五ウ)
柳桜の色ある街〔西施顔色今何在応在春風百草頭〕梅の笑がほに桃の媚」(六オ)
念がとゞいて四海の波も〔秋雲帰洞千年駕白日昇天一挙情〕しづかに納る床のうち」(六ウ)
今の苦労を添ふての後の〔班扇長襟秋不尽楚台余味老弥深〕むかし語りにして見たい」(七オ)
忍ぶ垣根もつい声高に〔荊離客酔斜吹菊柴戸人稀緩酌蘭〕酒がいわせる小唄節」(七ウ)
口説上手の又気やすめと〔陳孔璋詞空愈病馬相如賦唯凌雲〕しりつゝうか/\斯なつた」(八オ)
すいた同士で世帯をすれば〔鹿啼猿叫孤雲惨葉落泉飛片月残〕どんな山家もいとやせぬ」(八ウ)
うきを払ふの玉箒でも〔茶能散悶為功浅萱道忘憂得力微〕過しや大事を尚わする」(九オ)
苦界のがれて人里遠い〔客帆有月風千里仙洞無人鶴一双〕深山住居がして見たい」(九ウ)
親を振すて古郷をはなれ〔向晩簾頭生白露終宵床底見青天〕手鍋さげるもおまへゆへ」(十オ)
酒も肴も手をうちや出る〔丹竈道成仙室静山中景色月花●〕どんな仙家もおよびやせぬ」(十ウ)
すねて根岸の見越の松は〔山底採薇雲不厭洞中栽樹鶴先知〕むかし太夫といふた果」(十一オ)
名残りや尽ねど帰らにやならぬ〔春煙●譲簾前色暁浪潜分枕上声〕隣座敷も起た声」(十一ウ)
花の道中を眼鏡で見たら〔老眼易迷残雨裏春情難繋夕陽前〕雪と見まがふかほかたち」(十二オ)
しらぬ旅路へ行人よりも〔勧君更尽一盃酒西出陽関無故人〕残るわたしのそのつらさ」(十二ウ)
泣ないわへよ軍の首途(かどで)〔征徒旆重胡関暁壮士衣単易水秋〕やがて高名して帰る」(十三オ)
願い庚と聞のはよいが〔年長毎労推甲子夜寒初共守庚申〕申といふのが気にかゝる」(十三ウ)
ぬしをかへしてふさいで居れば〔翠黛紅顔錦繍粧泣尋沙塞出家郷〕すかぬ初会に出るつらさ」(十四オ)
おまへに棄られ何おめ/\と〔数行暗涙孤雲外一点愁眉落月辺〕人にあわする顔はない」(十四ウ)
顔はたしかに見へねど床し〔和風先導薫煙出珍重紅房透翠簾〕匂ふ梅香も障子越」(十五オ)
あすは誰方(どなた)と濡よかしれぬ〔家交江河南北岸心通上下来往船〕流れ渡りのつとめの身」(十五ウ)
別れ程経てけふ又逢ふは〔花前昔会春夢短月下故情夜涙催〕出雲で解(ほどけ)ぬ縁であろ」(十六オ)
待ど来ぬ夜は唯まち/\と〔夕殿蛍飛思悄然秋燈挑尽未能眠〕鶏の啼まで寐もやらず」(十六ウ)
思ひ升まい最あきらめて〔観身岸額離根草論命江頭不繋船〕死ぬと覚悟をきめてゐる」(十七オ)
泣ななげくな原(もと)あわせもの〔昨日開来今落去因花多覚世無常〕どうではなるゝ事はある」(十七ウ)
思ひ/\に日比の念が〔今日不知誰計会春風春水一時来〕とゞいてうれしいこの逢瀬」(十八オ)
弐人巨燵で木母寺かけて〔雪似鵞毛飛散乱人被鶴●立徘徊〕登るうはての障子船」(十八ウ)
埋火の灰となるまでわしや情立て〔看無野馬聴無鴬臘裏風光被火迎〕待に出て来ぬ人でなし」(十九オ)
やがて十年夜を寐ぬ里に〔年光自向燈前尽客思唯従枕上生〕居るもおまへが皆たより」(十九ウ)
ひとり寐る夜に擣衣(きぬた)の音は〔年々別思驚秋雁夜々幽声卦暁鶏〕いとゞさびしさ添まさる」(二十オ)
仇な芸者と唯さし向ひ〔柳眼剪波春黛緑桃顔流汗宿粧紅〕雨にもやひし首尾の松」(二十ウ)


唐詩のさかな(四編)」(表紙)
五色の吹流しは太平記場の読物に聞へ五色の茶漬は米沢町の老舗にぞしらるゝ爰に五色染と題するものは講釈めきし唐詩選江口当りよき端唄を交え何の茶漬と思ひ棄しも稲葉山の露聊利を得しものから書房(ふみや)も手を打跡に次編(かはり)とせかるゝまゝに竟に五色の五集に満しむ
翻蝶閑人記」(一オ)
(絵)」(一ウ)
(絵)」(二オ)
狩衣の袖にすがつてむらさめしぐれ〔(七だん目)小しんものゝかなしさは人にすぐれたしんていを見せねばかづにはいれられぬ(冨本松風)まつかぜが身におよびなきこひに心もこりすまのないてさわたる浦千鳥〕みとせさすらふ須磨明石」(二ウ)
琴にあはせるアノふへたけは〔凉殿吹笙満天木犀花開月初円〕かつら男のひかる君」(三オ)
さうした黄菊とわしやしら菊の〔九月九日望郷台他席他郷送客杯〕罪をおまへは作り菊」(三ウ)
鬢のほつれをかきあげながら〔(一中かみすき)眼にはなかねど気につかへむねに泪の玉くしげむかふかゞみはくもらねどうつすかほさへ水ぐしや〕むねのもつれ毛とけかねる」(四オ)
あめはしん/\こゝろのそこを〔(なげぶし)どふぞとおもふは来もせずにまたぬこけめがまたもくる(ふかくかむりし)ふかくかむりし手拭にかほはみへねど羽をりの紋はたしかおぼへの〕おもひなやみて目になみだ」(四ウ)
いつか日暮し此下蔭を〔花下忘帰因美景樽前勧酔是春風〕宿に夜すがらあかし度」(五オ)
心がらとて田舎の住居(すまゐ)〔遅日園林悲昔遊今春花鳥作辺愁〕思ひ出さるゝ去年の春」(五ウ)
あたりもひつそり人目もなけりや〔(本てうし)たつた川辺に舟留ておまへといつたいこうなつたはなみたいていのことかいな(尾花)アレ寐たといふ寐ぬといふ(千両のぼり)むねのもやくやさつぱりと〕ほんにうれしいしゆびの松」(六オ)
恋はしあんの外とはいふが〔(はなし)二ひきだちのせついんのとなりどしのはなし(女)おとなりへおはいりのはいも介さんかへ(男)ヱイウヽおたこさんかへ(女)ハイこふしてはなしをしていたらさだめし人が(男)なんだへ〕くさい中じやといふであろ」(六ウ)
花は露をば含んで居れど〔銅街陌柳条々翠金谷園花片々燃〕見帰り柳のこゝろなや」(七オ)
世事も手管も皆言尽し〔年光自向燈前尽客思唯従枕上生〕枕ならべて白眼(にらめ)くら」(七ウ)
義理といふ字は何よりつらひ〔(くわんじんてう)ついになかぬ弁けいも(あこや)水ぜめ火ぜめはこらようがなさけとぎりにひしがれてはおやきやうだいにまで見はなされあかの他人のけいせいにかわいがらりやうはづがない〕きれねばならぬいたしばり」(八オ)
口じやいわねどほにあらはれて〔(ゑがほ)つまこふきじのほろゝにも(のぼりくだり)まごしゆのくせか高こへで〕あれもつぢうら気にかゝる」(八ウ)
寐れば夢起りやうつゝにおまへの事を〔一点燈消夢後涙数声砧冷月前襟〕どうしてこんなに惚れたやら」(九オ)
遠くはなれて居る身のつらさ〔可憐閨裡月偏照漢家営〕替らないのは空ばかり」(九ウ)
じつ意でいふのを依沽知のよふに〔(清元ごん八)すねて見せたるこぶ柳(くぜつして)おもわせぶりなそら寐いり(夕ぎり)中直りすりやあけの〕かねでかわれる中じやない」(十オ)
雪の川風さむかろけれど〔(いがごへおかざき)たがひにはだも氷山(わがもの)まつ身につらき置ごたつ〕ながれしだいのうきつとめ」(十ウ)
欲と色気をさらりとはなれ〔山中無暦日寒尽不知年〕二十日しらずの世すて人」(十一オ)
吹がらはたいて顔見るやうな〔蝸牛角上争何事石火光中寄此身〕つらいかなしい首尾が恋」(十一ウ)
世間しらずの小鳥もいつか〔(清元おそめ)おくれ道なる久松もまだ咲かゝる室の梅(川竹)浮名をながす鳥さへも〕はるを思へばかごでなく」(十二オ)
ぢらされるたびにおもひはなをますばかり〔(淀の車)わたしやりん気で気がまはる(本てうし)やはぎのはしはながけれど(ゑがほ)千ひろの文にかりがねの〕たより聞せて下さんせ」(十二ウ)
花も浮世もあしたはしれぬ〔花発多風雨人生足別離〕またの御げんがたのまりやうか」(十三オ)
遠慮さんすなこれ此さけは〔勧君金屈巵満酌不須辞〕心ばかりの心蕩(のろけ)賃」(十三ウ)
人がなんくせつけないうちよ〔(冨本あさま)染てくやしきなれごろも(ゆきはともへ)てうとちどりの三つ蒲団(うば玉)にかいせかれてしのびあふ〕逢へばあふたびふかくなる」(十四オ)
定まるゑにしはあらそはれない〔(忠しんぐら三だんめ)モウこふなつたがいんぐわじやと思ふて女房のいふ事聞てくだされかん平どのと(かれのゆかしき)はつとたつてはあれかりがねの〕あふと中よくくらさんせ」(十四ウ)
送る廊下で袂をとらへ〔欲別牽郎衣郎今到何処〕かならずおやどへ帰らんせ」(十五オ)
待もつらかろ待るゝおれも〔我心渺無際河上空徘徊〕旅に日を経るそのつらさ」(十五ウ)
じやけんなおまへがなぜいとしかろふ〔(山がへり)わがみながらもはね沢や(げいしやせうばい)今ではじみな女房気に(おまへと一しよ)深山のおくのわび住ひ(冨もと女鳴かみ)それにそはれぬいんぐわなわたしみのあくごふにうんじはて〕うるさがられりやなをつのる」(十六オ)
くろふするのは元よりせうち〔(清元落人)はたもをりそろちんし事(おまへと一しよ)しばかる手わざ糸ぐるま(常はづおはな)大師がはらかいけ上の宗旨ちがひのもちとさけ〕そわざやむまいこのくろふ」(十六ウ)
花はしぼむに便りもないは〔眼看春又去翠輦不曽過〕他にこゝろの散しやら」(十七オ)
むかし高尾が三つ股川へ〔●湘流不尽屈子怨何深〕しづむ操もおもひやる」(十七ウ)
なんにもいわずにたもとにすがり〔(本てうし)ぐちも出るはづ女じやものを(ひとこへ)かたときあはねばくよ/\と(もどりかご)なくがしよざいかほとゝぎす〕心直して下さんせ」(十八オ)
神や仏へごくろふかけて〔(わかのうら)一にごんげん二に玉つしま(清元おこま)あの川ばたの祖師さんへ日に千べんのおだいもく〕おもひ思ふたあらせたい」(十八ウ)
弐人りが為には命の親で〔燕趙悲歌士相逢劇孟家〕幡随長兵衛なんのその」(十九オ)
天津乙女の天くだりしか〔冷艶全欺雪余香乍入衣〕ぞつと素顔のうつくしさ」(十九ウ)
余所の小唄もけふ此ごろは〔誰為含愁独不見更教明月照流黄〕しみ/\わが身につまさるゝ」(二十オ)
しみ/\おまへの外には見せぬ〔誰謂此中難可到自憐深院得徊翔〕夜半の額の八文字」(二十ウ)



49 〔未味字解〕漢語都々逸 三編(明治三年刊。山々亭有人作。松林堂板。)
〔未味字解〕漢語都々逸 三編」(表紙)
山々亭有人作
〔未味字解〕漢語都々逸
松林堂梓」(見返し)
白雪香と言物は菓子に薬を和したる故児童も善(よみ)して喰すると歟今此史(ふみ)は毒にもならず亦薬にも奈良坂や子の手に触るを見込て裏表なる都々一え漢語を和して一袋先試みに初編を出せしに菓子より鈍きが御意に入り御跡好に次編の催促薬の格で九増倍(くそうばい)利を得意で書肆もまた尚其跡と自己(われ)への住文(ちうもん)いざとて机に押直り廻らぬ筆を匕となし竟一袋配剤なせしが薬の名めく漢語の字解見立違ひも沢ならんと白雪香の素人くさきよしなき事を述て序とす
弄月亭主人記」(一オ)
(絵)」(一ウ)
(絵)
漢語都々一
作者 有人
画工 歌重」(二オ)
何所へなりとも先導(せんだう/あんない)たのむけふの藪入(ごばん)で允裁(いんさい/おゆるし)日」(二ウ)
どうせ瓦解(ぐわかい/いちどにこわれる)は初手から承知新率(しんそつ/つくりかざらぬ)ばなしにしておくれ」(三オ)
地色まわりで此冗劇(じようげき/いそがし)さ夜発(やほつ/ゆうぢよ)までへはとゞかない」(三ウ)
隠れて逢たで内訌(だいこう/うちはがもめる)輿論(よろん/おほぜいのひようぎ)はやく止(やめ)たい此苦界」(四オ)
おまへと添ふなら野末の住居(すまゐ)どんな凍●(とうたい/こゞへひだるい)も苦にやならぬ」(四ウ)
胸の冰結(ひようけつ/こふりがはりつめる)さらりとお解(とき)此所(こゝ)にばかりは日が照らぬ」(五オ)
親の愛妾(あいせう/ひそうのめかけ)と斯(かう)して逢も些(すこし)兢懼(きようくわう/おそれおほい)なわけである」(五ウ)
演舌(ゑんぜつ/したでのぶる)したとてよいではないかのろけ典型(てんけい/ごはつと)出はせまい」(六オ)
仇な容貌(ようぼう/すがたかほ)見て凜然(りんぜん/ぞつとする)と天津乙女の天降り」(六ウ)
お前故には痩衰て凶年饑歳(きようねんきさい/ききんどし)の人のやう」(七オ)
人の中口(しやいり)に分裂(ぶんれつ/われる)されて切歯(せつし/はぎしり)足ずりするばかり」(七ウ)
達而(たつて)親達や肯(がへん/うけがふ)をせずは到底(とうてい/とゞのつまり)逃ると覚悟した」(八オ)
吾儕(わたし)や氷解(ひようかい/ざつくりとあともなし)刷清(さつせい/はらひきよめる)すれば愚痴に未練を出しはせぬ」(八ウ)
なさぬ中とてそりや刻薄(こくはく/ひどくなさけなし)わたしが悪けりやあやまろう」(九オ)
あまり剽軽(へうけい/かるはづみ)能(よく)つきとめて否(いや)なら割愛(かつあい/えんをきる)するがよい」(九ウ)
帯や羽織を剽劫(へうかふ)されて帰り度なら夫(それ)で往け」(十オ)
わたしや剽悍猾賊(へうかんかつぞく/わるこすいやつ)は嫌ひ意気で温厚な人がよい」(十ウ)
あなたの努力(ごりき/おほねをり)で夫婦となれば倶に力作(りくさく/かせぐ)せにやならぬ」(十一オ)
動静(どうせい/やうす)探つて合図のつぶていざと内応(ないわう/うちよりもあいづ)下女がはる」(十一ウ)
人の異見も馬耳東風(ばじとうふう/むまのみゝにかぜ)で今ぢや匱乏(きぼう/ことたらぬ)のこの世帯」(十二オ)
喪胆(さうたん/きもをつぶす)過るで物をも言ぬ女郎請出す年じやない」(十二ウ)
お前が酒買やわたしがさかなこれで公平の論(ひづみのないはなし)であろ」(十三オ)
骨がなければ兼并(けんへい/ひとつになる)したい体二つぢや侭ならぬ」(十三ウ)
今がおまへの危急之秋(ききうのあき/だいじなじせつ)でうか/\してゐる場所ぢやない」(十四オ)
ぬしと参酌(さんしやく/くみはかる)してゐるうちがつらい辛苦の憂晴し」(十四ウ)
遺憾(いかん/むねん)ながらもわたしは壱人り先方(さき)にや左袒(さたん/かたをもつ)の人がある」(十五オ)
こんな逢瀬は千歳一時(せんざいいちじ/めつたにないしゆび)今暁(けふ)は啼(なき)やるな鶏(とり)烏」(十五ウ)
待ば甘露の日和とやらでいつか有為之時(いうゐのとき/おほしごとのできるじせつ)が来る」(十六オ)
添ふて居ながらナゼ有隙(いうげき/ながらわるい)だ此方(こち)は居ぬ気に先や去る気」(十六ウ)
戻るよりならもどしてお遣り先非後悔(せんぴかうかい)叩謝(かうしや/あやまりいる)する」(十七オ)
四隣合壁(しりんがつぺき/きんじよかべとなり)聞へがわるい叱咤叱責(しつたしつせき/どなりつけるしかる)程にない」(十七ウ)
親に貰ふた五体のうちを切て真情吐露(しんじやうとろ/こゝろのんことをあらわにいふ)見する」(十八オ)
あまり内証の●疽の仁(いんそのじん/あしたを?あわれむ)に恥で浮気も出来ぬ義利」(十八ウ)
吹毛索疵(すいもうさくし/こまかいことをさがしだす)をしてまでりん気そんなに愚痴にもなるものか」(十九オ)
客を寐かして抜出りや寅刻(なゝつ)斯(かう)して逢のも咄嗟間(とつさかん/しばしのいとま)」(十九ウ)
頼随(らいだ/とりとまらぬどうらく)懲(こら)しに幽閉(いうへい/おしこめ)させて日の目見せぬも親の慈悲」(二十オ)
足下媒酌致た遊女拙者すこぶる寵眷(ちようけん/きにいる)す」(二十ウ)
今は圧倒(あつたう/おしたをす)されてはゐれどやがて起ます雪の竹」(廿一オ)
右に新造左に豊島(ママ)局外中立(きよくがいちうりつ/みぎひだりともてだしせぬ)独り寐る」(廿一ウ)
たとへ弾丸(だんぐわん/ちいさな)黒子之地(こくしのち/ぢめん)でも主人の庇●(ひいん/おかげ)で此住居(すまゐ)」(廿二オ)
親も得心わたしも添ふ気疾(はや)く彰着之談(しゆうちよのだん/おもてだつてのはなし)におし」(廿二ウ)
惚れた待遇(たいぐう/あしらひ)さるゝとしらで雨にも雪にもこの徒跣(とせん/かちはだし)」(廿三オ)
思慕(しぼ/なつかしい)に絶かね一筆示し怙恃(こじ/こゝろたより)に待るゝ返り事」(廿三ウ)
別れ手簡(でがみ)を急遽(きうきよ/にわか)によごしよむと忽焉(こつゑん/たちまち)哭泣(こくきう/なきさけぶ)し」(廿四オ)
惨酷(さんこく/てひどい)男にさらりと離別(きれ)て人にや愉快(ゆくわい/きみがよい)といふて泣」(廿四ウ)
既往(きわう/すぎさりし)の事まで拗執(わうしつ/ねちる)すればわたしも言へき事がある」(廿五オ)
亡命(にげ)て添ふとはそりや浅果敢(あさはか)な朽策馭六馬(きうさくりくばをぎよす/いたつてあぶなきことをいふ)たとへ」(廿五ウ)



50 五色染詩入紋句 三編・四編(明治三年刊。翻蝶閑人作。伊勢屋庄之助板。)
※三編は菊池蔵別本よりよいもの。四編は『唐詩のさかな 四編』と同内容。
五色染詩入紋句 三編」(表紙)
唐詩流行
五色染詩入紋句 三編
東京 松延堂
翻蝶閑人作」(見返し)
紺屋は所謂水物ながら日限をいとはず天日で乾ば自然と上りも宜とはいへど雨天つゞきに急仕事炭火であぶらば斑が出来形のはげさへ悪しとかや今この五色染てふは唯早染を旨として例の炭火で焙が如き急ぎ物故校合の下染さへも見ざるから注文書とはちがひもあらんが上仕事にて直すの間もなく唯●(そ)が侭に仕立へまはしぬ
翻蝶舎主人記」(一オ)
(絵)」(一ウ)
(絵)
いく丸画」(二オ)
なるもならぬもおまへのうでよ〔成陰結実君自取若問傍人那得知〕とりもちなんぞがいるものか」(二ウ)
なみだふき/\ねがほをのぞき〔(こはいろ)このまアやつれさんしたことはいのう 合方「きのふのふちはけふのせと(こはいろ)いかにかはるがならひぢやとておもひいだせばこぞのはる(義太夫)もゝのせつくやにはかのとき仲の町へ出てゐても(ひとよあくれば)花のさかりはうめやしき(せきの戸)今はそれにはひきかへて(女調)よふ/\かくしてよんだのにそんなにねられちやアわたしやうまらないよ(カネ)ゴン引(女)ヲヤあのかねは(小いな)やつか(先代はぎ)七ツ八ツからかなやまへ〕とむねつきだすあけのかね」(三オ)
ぐにつかぬことだけれどもふだんがふだん〔(くぜつして)くぜつしておもはせぶりなそらねいり(とみ本あさま)せなかそむけて物いはぬ(一中ぶし吉原八景)あらしははれてひとしぐれ(りんきらしいが)しからしやんすなわしぢやとて〕なんのいひたいことはない」(三ウ)
青葉がくれになくほとゝぎす〔風吹枯木晴天雨月照平砂夏夜霜〕月がないたかくもの中」(四オ)
きやくをねかしてざしきをぬけて〔冷然夜遂深白露沾人袂〕とりのなくまでなきあかす」(四ウ)
梅のはやしのかほりをたづね〔(わがもの)恋のおもにをかたにかけ(きよ元おかる)ほんのたびねのかり(うばたま)まくらことばぢや(冨本なるかみ)なかぬ日とては一日へんしもないはいな(めぐる日)さゝなきかけるうぐひすの〕こゑをたよりに四畳半」(五オ)
卯月なかばにはこねのゆばで〔(?)山ほとゝぎすてつぺんかけて(はなし)ヱヽかうはつねきける/\だぜあをばがくれにほとゝぎすとはコイツハうけやしたトキニめづらしいものがゆへきているぜ「だれだ「ナニ義太夫のさみせんよ「せい八かせんざへもんか「イヽヤひきてぢやアねへふとざほよ「ナニ三みせんかはてなだうぐのたうぢとはめうだ「さうよあんまりふしぎだからきゝやした「なんといつたへ〕さほがいたんでこまります」(五ウ)
ときはあはせの身がるのころに〔独騎善馬●鐙穏初着単衣支体軽〕わたしや身おもでうきくらう」(六オ)
ふたりくらさばみやまのすまい〔古木寒鳥啼空山啼夜猿〕しばかるてわざもいとやせぬ」(六ウ)
ぐちもじやすいもほれたがわるい〔(一中くらべぼたん)あめのよゆきやかぜのよもかよひくらべにまけまじと(とみ本長生)むすぶゑにしのいもとせもいのちながかけもろしらが(けさのあめ)アレねなんすかおきなんし(清元ごん八)なさけはうれど心までうらぬわたしがくがいのまこと(げん太)まくらの下へやる手さへ〕つとめにはなればからしい」(七オ)
ゑにもかゝれぬたそがれげしき〔(夕ぐれ)ながめ見あかぬすみだ川月にふぜいをまつち山ほかけたふねが見ゆるぞへ〕さくらまばゆきなかの町」(七ウ)
てがらがましくいふではないが〔人生感意気功名誰復論〕みんなおまへのためぢやもの」(八オ)
こゝにかうしてのがれてゐるも〔今我遊冥冥弋者何所慕〕ふぎりふせぎとおんなよけ」(八ウ)
たよりぐらいはできそなものと〔(はぎきゝやう)ふけゆくかねにかりのこゑ(清元落人)まだはださむきはるかぜに(ひとこゑ)つきがないたかほとゝぎす〕かこちなみだにぐちばかり」(九オ)
とりとめたこともないのにゑにゑをすげて〔(むつとして)かへればかどのあをやぎにくもりしむねをはるさめに(けさのあめ)またゐつゞけになが日をみぢかふくらすとこのうち〕これにやおほかたわけがあろ」(九ウ)
こまがたあたりとたか尾はいへど〔秋風吹不尽総是玉関情〕ぬしはいまごろもどツたか」(十オ)
くるわぬけでゝたま玉川に〔長安一片月万戸擣衣声〕やつときぬたのあきさびし」(十ウ)
ふつと名ざしでしよくわいのざしき〔(あさくとも)あさくともきよきながれのかきつばた(清元おはん)その江のしまへゆきの下アノいしべやでてうどマアかたいおまへにあいやどはべんてんさんのひきあはせ〕又のあふせをたゝみざん」(十一オ)
くるわぜんせいものいふ花を〔(芝翫けいせい)こひといふもじのすがたをはんじものとけておもひのたねとなる(一中くらべぼたん)かゝるこひぢもおぼつかなむねにうかべるあだことをおもふまもなくゆくみづのふかあみがさやからかさをひらくうの花ころもがへ(こはいろ)くらべぼたんのふうぞくは「したやうへのゝ山かつら「にしにふじがね「きたにつくば「おもひくらべ?「だてこそで(富本長せい)あだといろとをこひむらさきのつゞやはたちはいろざかり(めぐる日)かほはゆかしとまちわびかねて〕ねこしてうゑしなかの町」(十一ウ)
国へゆかずと一ト花さかせ〔君言不得意帰臥南山陸〕人を見かへす気になりな」(十二オ)
おがむてさきもせんじゆにみゆる〔一群嬌鳥共啼花啼花戯蝶千門側〕くわんおんさつたのおかいちやう」(十二ウ)
きをもむまいとはおもふてゐれど〔(かつら川)うはさにもきだてがよふてなりふりまでも(山がへり)すいたらしいと思ふたがいんぐわなゑんのいとぐるま(おきてみつ)かやのひろさにたゞひとり〕うはきがつのればきがかはる」(十三オ)
ふとんしきたへまくらのびやうぶ〔(とみ本すまふ)きみにおほぜきあふよをたより人目せきわきいとふてもふたりが中へ小むすびのやくそくかたきいはたおび〕もゝ手をつくしてこひずまふ」(十三ウ)
いちどあふたらいのちもいらぬ〔得成比目何辞死願作鴛鴦不羨仙〕たなばたさんでもわしにやまし」(十四オ)
ふるゆきをふむもおしいがふまずばひとが〔銀河沙漲三千界梅嶺花開一万株〕とふてくれまいこのけしき」(十四ウ)
人がほめればついきがまはり〔(はぎきゝやう)きみを松むしよごとにすだく(うそとまこと)だまされぬきでだまされて(清元)もしやとおもふこけみれん(わかのうら)もんじゆさんはよけれどもきれるといふじがきにかゝる〕見すてらりよかとあんじられ」(十五オ)
つとめする身でまことをあかし〔(とみ本???)水ももらさぬあまの川それもおよばぬねこ?ながら(かは竹)なかにたつとりすご/\とわかれのつらさにそでしぼる〕そはざやむまいこのくらう
やくやもしほもたのみにやならぬ〔(ひとこゑ)いつしかしらむみぢかよにまだねもやらぬたまくらに(清元おちうど)かはい/\のめうとづれ〕からすにざこねをおこされる」(十五ウ)
つきをともとてなくむしのねは〔沙頭雨染班々草面風駈瑟々波〕はぎの下つゆぬれたどし」(十六オ)
あかぬわかれのなきがほのぞき〔落花不語空辞樹流水無心自入池〕けしやうせよとはむごいおや」(十六ウ)
ふさぎやどこまでほうづがないと〔(本てうし)たなのだるまさんをちよいとおろし(せきの戸)しばをたづねてかいやりすてて(角へゑ)たびぢやなけれど道づれになるとはなしにあとやさき〕しあんするほどりにおちる」(十七オ)
おまへのいふことわしやまにうけて〔(ことば)そのやさしいことばにまよつて(ひとこと)ひとことがとことにむかふうれしさに(ことば)どうしてこれが「わすらりよものかわすられぬ(ことば)つみがねへ「うそにもほれたをじつにして〕すゑのくゝりをむねの内」(十七ウ)
となりざしきはちん/\かもで〔比目鴛鴦真可羨双去双来君不見〕こちの女郎はなぜこない」(十八オ)
ぬひのうちかけごくわうのかざし〔南陌北堂連北里五劇三条控三市〕かぶのぼさつもかくばかり」(十八ウ)
つもるこひぢにみづもらさじと〔(女ことば)さむいねへもつとこつちへおよりよ(本てうし)びやうぶがこひのなかだちと(女ことば)うれしいねへ「てふとちどりの三つぶとん〕いだきしめたるつかひ出し」(十九オ)
どこへいつてもおまへのことを〔(宇治は茶所)なかにうはさの大吉山と(ことば)どんなにみんながほめるだらう「人のきにあふ水にあふ(ことば)にくらしいねへ「いろもかもあるすいたどし〕人がほめればきがもめる」(十九ウ)
はるさめに手と手手と手がかさなりまして〔(とみ本長生)おいせぬかどのわか/\とわか水くみのあさわかきおやどのはじめにはかまど(ときはづあはしま)おきまどはせるうたがるた〕こひぞつもりてふちとなる」(二十オ)
おもひきりましよあきらめましよが〔(かれのゆかしき)こゝろもさゆるよはの月(女なる神)さとりすませしこの身にも〕じつにぼんのうにやひかされる」(二十ウ)
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明治三午年四月
東京 松島町 伊勢屋庄之助板」(裏見返し)

五色染詩入紋句 四編」(表紙)
唐詩流行
五色染詩入紋句 四編
東京 松延堂
翻蝶閑人作」(見返し)
五色の吹流しは太平記場の読物に聞へ五色の茶漬は米沢町の老舗にぞしらるゝ爰に五色染と題するものは講釈めきし唐詩選江口当りよき端唄を交え何の茶漬と思ひ棄しも稲葉山の露聊利を得しものから書房(ふみや)も手を打跡に次編(かはり)とせかるゝまゝに竟に五色の五集に満しむ
翻蝶閑人記」(一オ)
(絵)」(一ウ)
(絵)」(二オ)
狩衣の袖にすがつてむらさめしぐれ〔(七だん目)小しんものゝかなしさは人にすぐれたしんていを見せねばかづにはいれられぬ(冨本松風)まつかぜが身におよびなきこひに心もこりすまのないてさわたる浦千鳥〕みとせさすらふ須磨明石」(二ウ)
琴にあはせるアノふへたけは〔凉殿吹笙満天木犀花開月初円〕かつら男のひかる君」(三オ)
さうした黄菊とわしやしら菊の〔九月九日望郷台他席他郷送客杯〕罪をおまへは作り菊」(三ウ)
鬢のほつれをかきあげながら〔(一中かみすき)眼にはなかねど気につかへむねに泪の玉くしげむかふかゞみはくもらねどうつすかほさへ水ぐしや〕むねのもつれ毛とけかねる」(四オ)
あめはしん/\こゝろのそこを〔(なげぶし)どふぞとおもふは来もせずにまたぬこけめがまたもくる(ふかくかむりし)ふかくかむりし手拭にかほはみへねど羽をりの紋はたしかおぼへの〕おもひなやみて目になみだ」(四ウ)
いつか日暮し此下蔭を〔花下忘帰因美景樽前勧酔是春風〕宿に夜すがらあかし度」(五オ)
心がらとて田舎の住居(すまゐ)〔遅日園林悲昔遊今春花鳥作辺愁〕思ひ出さるゝ去年の春」(五ウ)
あたりもひつそり人目もなけりや〔(本てうし)たつた川辺に舟留ておまへといつたいこうなつたはなみたいていのことかいな(尾花)アレ寐たといふ寐ぬといふ(千両のぼり)むねのもやくやさつぱりと〕ほんにうれしいしゆびの松」(六オ)
恋はしあんの外とはいふが〔(はなし)二ひきだちのせついんのとなりどしのはなし(女)おとなりへおはいりのはいも介さんかへ(男)ヱイウヽおたこさんかへ(女)ハイこふしてはなしをしていたらさだめし人が(男)なんだへ〕くさい中じやといふであろ」(六ウ)
花は露をば含んで居れど〔銅街陌柳条々翠金谷園花片々燃〕見帰り柳のこゝろなや」(七オ)
世事も手管も皆言尽し〔年光自向燈前尽客思唯従枕上生〕枕ならべて白眼(にらめ)くら」(七ウ)
義理といふ字は何よりつらひ〔(くわんじんてう)ついになかぬ弁けいも(あこや)水ぜめ火ぜめはこらようがなさけとぎりにひしがれてはおやきやうだいにまで見はなされあかの他人のけいせいにかわいがらりやうはづがない〕きれねばならぬいたしばり」(八オ)
口じやいわねどほにあらはれて〔(ゑがほ)つまこふきじのほろゝにも(のぼりくだり)まごしゆのくせか高こへで〕あれもつぢうら気にかゝる」(八ウ)
寐れば夢起りやうつゝにおまへの事を〔一点燈消夢後涙数声砧冷月前襟〕どうしてこんなに惚れたやら」(九オ)
遠くはなれて居る身のつらさ〔可憐閨裡月偏照漢家営〕替らないのは空ばかり」(九ウ)
じつ意でいふのを依沽知のよふに〔(清元ごん八)すねて見せたるこぶ柳(くぜつして)おもわせぶりなそら寐いり(夕ぎり)中直りすりやあけの〕かねでかわれる中じやない」(十オ)
雪の川風さむかろけれど〔(いがごへおかざき)たがひにはだも氷山(わがもの)まつ身につらき置ごたつ〕ながれしだいのうきつとめ」(十ウ)
欲と色気をさらりとはなれ〔山中無暦日寒尽不知年〕二十日しらずの世すて人」(十一オ)
吹がらはたいて顔見るやうな〔蝸牛角上争何事石火光中寄此身〕つらいかなしい首尾が恋」(十一ウ)
世間しらずの小鳥もいつか〔(清元おそめ)おくれ道なる久松もまだ咲かゝる室の梅(川竹)浮名をながす鳥さへも〕はるを思へばかごでなく」(十二オ)
ぢらされるたびにおもひはなをますばかり〔(淀の車)わたしやりん気で気がまはる(本てうし)やはぎのはしはながけれど(ゑがほ)千ひろの文にかりがねの〕たより聞せて下さんせ」(十二ウ)
花も浮世もあしたはしれぬ〔花発多風雨人生足別離〕またの御げんがたのまりやうか」(十三オ)
遠慮さんすなこれ此さけは〔勧君金屈巵満酌不須辞〕心ばかりの心蕩(のろけ)賃」(十三ウ)
人がなんくせつけないうちよ〔(冨本あさま)染てくやしきなれごろも(ゆきはともへ)てうとちどりの三つ蒲団(うば玉)にかいせかれてしのびあふ〕逢へばあふたびふかくなる」(十四オ)
定まるゑにしはあらそはれない〔(忠しんぐら三だんめ)モウこふなつたがいんぐわじやと思ふて女房のいふ事聞てくだされかん平どのと(かれのゆかしき)はつとたつてはあれかりがねの〕あふと中よくくらさんせ」(十四ウ)
送る廊下で袂をとらへ〔欲別牽郎衣郎今到何処〕かならずおやどへ帰らんせ」(十五オ)
待もつらかろ待るゝおれも〔我心渺無際河上空徘徊〕旅に日を経るそのつらさ」(十五ウ)
じやけんなおまへがなぜいとしかろふ〔(山がへり)わがみながらもはね沢や(げいしやせうばい)今ではじみな女房気に(おまへと一しよ)深山のおくのわび住ひ(冨もと女鳴かみ)それにそはれぬいんぐわなわたしみのあくごふにうんじはて〕うるさがられりやなをつのる」(十六オ)
くろふするのは元よりせうち〔(清元落人)はたもをりそろちんし事(おまへと一しよ)しばかる手わざ糸ぐるま(常はづおはな)大師がはらかいけ上の宗旨ちがひのもちとさけ〕そわざやむまいこのくろふ」(十六ウ)
花はしぼむに便りもないは〔眼看春又去翠輦不曽過〕他にこゝろの散しやら」(十七オ)
むかし高尾が三つ股川へ〔●湘流不尽屈子怨何深〕しづむ操もおもひやる」(十七ウ)
なんにもいわずにたもとにすがり〔(本てうし)ぐちも出るはづ女じやものを(ひとこへ)かたときあはねばくよ/\と(もどりかご)なくがしよざいかほとゝぎす〕心直して下さんせ」(十八オ)
神や仏へごくろふかけて〔(わかのうら)一にごんげん二に玉つしま(清元おこま)あの川ばたの祖師さんへ日に千べんのおだいもく〕おもひ思ふたあらせたい」(十八ウ)
弐人りが為には命の親で〔燕趙悲歌士相逢劇孟家〕幡随長兵衛なんのその」(十九オ)
天津乙女の天くだりしか〔冷艶全欺雪余香乍入衣〕ぞつと素顔のうつくしさ」(十九ウ)
余所の小唄もけふ此ごろは〔誰為含愁独不見更教明月照流黄〕しみ/\わが身につまさるゝ」(二十オ)
しみ/\おまへの外には見せぬ〔誰謂此中難可到自憐深院得徊翔〕夜半の額の八文字」(二十ウ)
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明治三午年四月
東京 松島町 伊勢屋庄之助板



51 詩入百々逸(しいりよしこの)初編(明治五年刊か。一荷堂半水序。本屋為助板。)
※大阪大学忍頂寺文庫に同じものがある。
詩入百々逸(しいりよしこの)初編」(表紙)
(絵)」(見返し)
(絵)
浪花市街当世流行往来之賑
貞信写」(序オ)
浮連歌(よしこの)さかんに行れて。浄るり端唄は。いふに及ばず。今やこれに漢語をまじへ。或は英語を結びなど。さま/\新作多かる中に。又もやこゝに唐詩をはめ込み。其情を尽す戯唱歌(うかれうた)。よし此唄を程よくも。うたひ給はゞ髭唐人も。涎をたらして来ることしかり
申の初秋
一荷堂主人誌」(序ウ)
うれし盃きいたゞくからにや〔蘭陵美酒鬱金香。玉碗盛来琥珀光。但使主人能酔客。不知何所足他郷〕よしやいづくのはてまでも」(一オ)
梅のひらくもうぐひすきくも〔已見寒梅発。復聞啼鳥声。愁心視春草。畏向玉階生〕なんのひとりでたのしかろ」(一ウ)
わらはさんすなこの無理ざけに〔葡萄美酒夜光杯。欲飲琵琶馬上催。酔臥沙場君莫笑。古来征戦幾人回〕酔もこゝろのうさわすれ」(二オ)
こゝろさみしくまつともしらで〔衆鳥高飛尽。孤雲独去間。相看両不厭。只有敬亭山〕鳥もすげなく余所へとぶ」(二ウ)
きくもすきだよこのふえの音は〔羽容笙歌此地違。離筵数処白雲飛。蓬莱闕下長相憶。桐柏山頭去不帰〕ぬしかたれかとおもふまで」(三オ)
逢ずやつれてかゞみにむかや〔宿昔青雲志。蹉●白髪年。誰知明鏡裏。形影自相憐〕われとあいそのつくばかり」(三ウ)
ぬしを見すてゝまたこのつとめ〔銅台宮観委灰塵。魏主園陵●水浜。即今西望猶堪思。況復当時歌舞人〕するよはかなひ身のうさに」(四オ)
すきな身まゝになる日にかへて〔漢庭栄巧宦。雲閣薄辺功。可憐●馬使。白首為誰雄〕またあんじるよぬしの気を」(四ウ)
逢ひそめた夜のそのうれしさに〔遅日園林悲昔遊。今春花鳥作辺愁。独憐京国人南竄。不似湘江水北流〕かへてうらむよこのごろは」(五オ)
見をくるかげさへこゝろにしみて〔趙氏連城璧。由来天下伝。送君還旧府。明月満前川〕はれた空さへくもりがち」(五ウ)
苦界なりやこそこれこのやうに〔名花傾国両相歓。常得君王帯笑看。解釈春風無限恨。沈香亭北倚蘭干〕たまさか嬉しひさしむかゐ」(六オ)
こゝろさみしく身はしのぶれど〔相送臨高台。川原杳何極。日暮飛鳥還。行人去不息〕夢にや見るたびあひつゞけ」(六ウ)
のぼろが下ろがおまへのまゝに〔巴陵一望洞庭秋。日見孤峰水上浮。聞道神仙不可接。心随湘水共悠悠〕まかせましたよこのからだ」(七オ)
あの人よりしてこのやつれがほ〔白髪三千丈。縁愁似個長。不知明鏡裡。何処得秋霜〕わすれたいぞへどふかして」(七ウ)
よその唱歌も身につまされて〔北夘山上列墳塋。万古千秋対洛城。城中日夕歌鐘起。山上惟聞松柏声〕きくよ逢れぬそのうちは」(八オ)
はだ身ゆるせばもうこのごろは〔客心争日月。来往預期程。秋風不相待。先到洛陽城〕にくやわたしを秋のかぜ」(八ウ)
よしや義理づめわかれはすれど〔知君書記本翻翩。為許従戎赴朔辺。紅粉楼中応計日。燕支山下莫経年〕はやく他よりをきかさんせ」(九オ)
あれサまたんせそのみだれがみ〔此地別燕丹。壮士髪衝冠。昔時人已没。今日水猶寒〕せめてなでつけするあいだ」(九ウ)
ぬしの秋かぜ立かと見れば〔九月九日望郷台。他席他郷送客杯。人情已厭南中苦。鴻厂那従北地来〕鳫の来るたびあんじつめ」(十オ)
すきとおもへばなにいとふぞよ〔主人不相識。偶座為林泉。莫漫愁活酒。嚢中自有銭〕身あがりしてまでかよひつめ」(十ウ)
見すてられたがわたしのいんぐわ〔鳳輦不来。春欲尽。空留鴬語。到黄昏〕今さらどふともしようがなひ」(十一オ)
三日見ぬまにさくらといへど〔芳樹無人。花自落。春山一路。鳥空啼〕うつりかはるは世のならひ」(十一ウ)
はるゝ月かげ見りやみるにつけ〔蛾眉山月半輪秋。影入平羌江水流。夜発清渓向三峽。思君不見下渝州〕こゝろくもらすこのごろは」(十二オ)
せわしなひぞへあけゆくころは〔空山不見人。但聞人語響。返景入深林。復照青苔上〕ぬしはさておき余のひとも」(十二ウ)
(広告)
絵草紙仕入所
大阪心斎橋通八幡筋北へ入
本屋為助板」(裏見返し)



52 新聞都々逸(明治六年刊か。)
※筑波大学・関西大学・東大明治新聞雑誌文庫の『〔開歌〕新聞都々一』と同じものである。菊池蔵本は一丁めが欠けているが、この点、筑波大学と同じである。菊池蔵本の外題は手書きであるから、『〔開歌〕新聞都々一』が本来の外題であろう。菊池蔵本表紙右肩に「明治六年」と朱書。
新聞都々逸
明治六年(いずれも手書き)」(表紙)
新聞独々逸の叙
糸竹の節三の緒の調にも。珍説奇談を奏する時は。聊神智を開明(ひらか)ざらめや。茲に著す都々一のかの新聞の店借なれども片仮名混合(まじり)の」(見返し)癖習(やぼ)を省き壱朱(めつき)に進む人車(じんりき)の。歩みも練磨塞翁が其馬路も仏暁(さとり)ては。五楷の夢のサランパア。半可通を鼻に駈運(かけある)く。素見(ひやかし)連の恋情(こゝろいき)も。皆這(この)都々一の壱より発(おこ)りて万客通情(いき)の道にや容らむ。●(そ)の山口の栞には。京街の閑路次(ぬけろじ)に玉兎(つきよ)を●(いと)ひ。泥溝板のヲヽライに。以都(いつ)しか浮名の高く做(な)りしを。仮名書でする」(序オ)投書の詈罵(わるくち)。撰者(をのれ)は恁(かゝ)る報告(たぐひ)ならねば。水道尻の●橋(はねばし)に●(たゝず)み。三十一日(みそか)の月の影に陰(かく)れて。仲の街(ちやう)の東西(あやめ)は。区別(わかね)ど。引ぞ煩ふ看官(ごひゐき)の袂に倚頼(すがり)て。新聞の只管愛顧を希ふ者は。
梅雨連日北門金子の中二楷に宿酊の頭を叩きて
紅雪山人春輔戯述」(序ウ)
(一丁め欠)
郵便筥
やくそくだよりもたゞひとすじのおあしではこばすふみづかひ
思ひありたけちひろのふみももらしちやとゞかぬところがき」(二オ)
電信機(てれがらふ)
海山へだてゝくらしてゐても心はきれないてれがらふ
ゑんの糸目のはりがねだより切ずに末まで暮したい」(二ウ)
新聞紙
ぬしとわたしが浮名をあげてにくらしいぞへしんぶんし
ほれたきれたをめづらしそうに新聞かくひと恋しらず」(三オ)
日本橋
ひとすじどころかふたすじみすじわけてもおまへの気がしれぬ
つもるはなしにせけんはしんとにほんばしにもぬるのゆき(故人為永翁作)」(三ウ)
小学校
人を教ゆる学校でさへもさきへならはすいろの二字
遠ざかつてもまたあいうえおかはらぬちかひをたちつてと」(四オ)
於巌稲荷(おいはいなり)
ぬしのこゝろの動かぬやうにかけしちかひのますかゞみ
指環
ゆるくなつたるゆび輪をみせて痩たもおまへの所為じやぞへ」(四ウ)
指環交換(ゆびわのやくそく)
ほりものかみきりそりや野蛮(やぼ)らしい今じやゆびわのとりかわせ
取代(とりかへ)てはめたゆび輪も是みやしやんせちやうどあふたるむねと胸」(五オ)
覗鏡(めがね)
曇るめがねのなみだをはらひ又ものぞいてぬしのかほ
口まへばかりでわたしのめがね見ぬいたおまゑのうわきもの」(五ウ)
銕道汽車(をかじようき)
恋の重荷を車に乗せてむねで火をたくおかじやうき
どふせ此身はおまへのためにステーシヨンとはうそぢやない」(六オ)
瓦斯燈
恋のやみぢにがすとうたてゝ迷ふおかたの道しるべ
遅ひかへりもちやうちんなしで瓦斯にあかるいまふしわけ」(六ウ)
馬車
さきおひのこゑに見かへてゑよほにみとれ思はずふみこむぬかるみち
さいおうが馬にひかれてあるかんよりもみそこし手なべでぬしのそば」(七オ)
市病院
悪所ぐるひの身のおきどころすいなヨジンポツタース
手切ばかりは療治はならぬ四百四病の外じやもの」(七ウ)
招魂社
まねぐ尾花に近よる蛍それかとのろけてさとらるゝ
義理でわかれしその俤をまねく尾花の気がしれぬ」(八オ)
金杉開劇(かなすぎのしばゐ)
はねて見せたる心のうちをしばらくかひたひこゝろいき」(八ウ)
猿若街
ゑんもゆかりも難波のうめがひらく恵方のすへひろ?
首ばかりおつにながへて鶴助さんは芝翫つなぎにやむづかしい」(九オ)
金龍山内(あさくさおくやま)
かけしすだれのひとへをたのみだいじ大悲のちかひごと
四季のながめのおく山めぐりはりにまたくるかけあんど」(九ウ)
地内密売女(ちないのぢごく)
生馬どころかおまはりさんの目をぬくぢごくのあらかせぎ
のろけりや心も仏になりて地獄長屋をさいどする」(十オ)
山谷堀
ありやなしやの三味線よりもふたつまくらをみやこ鳥
もゆるおもひは浮名をともにたいや今戸の朝けむり」(十ウ)
官員録
むづかしい文字が多いと口ではいへど心でうなづく六枚目
皆さんのおかげでおまへの太平楽も寐酒にいひだすありがたさ」(十一オ)
洋帽(しやつぽ)
おまへを見初た去年の花見〔(まさかど)それおぼゑてか君さまのはかまもはるのおぼろぞめ〕たしかしやつぽにまるばをり」(十一ウ)
貸座敷
解放したのをまたそゝのかし〔(詞)モヲシ/\戸長さんわたしらのこまるわけをどふかおさつしなすつて(清元)アレまたあんな無理いふてそんなそのよふないひわけを〕どふして歎願なるものか」(十二オ)
柳橋春風(やなぎばし)
おつなざしきの扇の風になびくそぶりでふる柳
アレサおよしなそりやかんさつよ見られちや隠したとしがむだ」(十二ウ)
牛店(うしや)
たれをきかせてのろけて煮ても五分でもすかない人じやもの」(十三オ)
博覧会
たとへ黄金(こがね)で身をまかれても縁の名古屋のいきわかれ」(十三ウ)
吉原病院
深切ごかしにいはんすけれど人のいやがる穴さがし
病院のおゐしやさんほど人気がなけりやなにやら見たとて片果報」(十四オ)
写真
西に冨士がね北庭さんのしやしんはわたしのはだまもり
なまぜそのまゝかはらぬかほがおもひきる気のたねと成る」(十四ウ)
万代橋(ばんだいばし)
筋違(すじかひ)にかけし目鏡(めがね)で浮世を見ればがまんないきじも立らる?
かけし目がねのはしからははる道さへ三筋で気がしれぬ」(十五オ)
深川温泉
わた海つめつていたさを知れば当時の御さたはそしられぬ
えんの深川うき名の温泉場(いでゆ)汲とるおかたにのろけたい」(十五ウ)
待崎の夏祓(みそぎ)
嘘をたゞすのあの神さんにぬしの不実をきかせたい」(十六オ)
夕暮のかへうた
唱妓(けいせい)のけんなるは柳橋どての夜風にさそはれてうき世の夢をみつぶとんアレかねがなるかねの音はいづくもおもひのたねとなる」(十六ウ)



53 一口はなし川柳都々逸(明治十四年刊。小出留五郎編集・出版)
※外題は手書きで「一口はなし川柳都々逸」となっているが、柱によれば「川柳一口はなし都々逸」とすべきか。
一口はなし川柳都々逸(手書き題簽)」(表紙)
一ト口話之部
一寸其花のない桜を折て下さひ「是ははゞかり
コレ植木やこの桜はあんまり高価ではないか「ヘイ根がよくないと付ません」(中ノ一オ)
世を棄たお寺様でも色の道は「しり
此木は下駄にすると大層いゝがまだ有ますか「それ桐」(中ノ一ウ)
そろばんをしている人が可笑(おかしい)事を思ひ出して「九々
揚弓場の姉ちやん此矢は不用かへ「イヽヘ射ります」(中ノ二オ)
芸者の事を猫と云ひ娼妓(じやうろ)のことを狐といふが其訳は「何のニヤンのコンぢややら
あの女を木魚講にしたのは誰だ「ボク/\」(中ノ二ウ)
あのお医者さんは流行(はやる)といふが「本道(ほんとう)か
大層綺麗に咲て居るよ「草花(そうくは)」(中ノ三オ)
異人さん昼飯かイヤ「パン飯
あれご覧よ風船が上るから「ソラ/\」(中ノ三ウ)
呉服屋絞りのよひ浴衣地はなひか「ヘイ有松
今日買た干物は仲/\よひ「鰺」(中ノ四オ)
古昔(むかし)石になつた人は男か女か「佐用姫じや
コレ/\熊吉いま店へ着(き)た荷は幾こおりだの「ヘイ二子織」(中ノ四ウ)
此衣物は袷に縫ますか「単(ひとへ)にお願
今金の二階で鍋をつゝいて居る人の顔を見ると「シヤモ旨(う)まそふだ」(中ノ五オ)
此机は何の木で「紫檀だろう
ヲヤお月様が出たよ「空御覧」(中ノ五ウ)
奥様八百やが昨日誂を持て来ました「なんだツけのう「ソラ豆
隣の騒動は又密夫(まおとこ)一件サ「ハテ太妻(ふてへさひ)」(中ノ六オ)
此枝は先が曲つて居るから杖によひ「成程ステツキだ
火事は直(ぢき)鎮りましたねへ「ヘエ鳶出て消したから」(中ノ六ウ)
向ふの山に居るのは馬かね「鹿と見へぬ
汁粉のもりが大そふよひので「餅余した」(中ノ七オ)
底のない弁当箱では飯を入れても「つまらねへ
手前の面(つら)は馬に似ているぜ「草アくらへ」(中ノ七ウ)
薄縁(うすべり)を何処へ遣たこゝに「ござ有ます
馬を逃した奴は「馬夫(まご)/\」(中ノ八オ)
暗(やみ)の夜でも道が明るひね「そふで瓦斯
酒を呑と毎々「調子が変る」(中ノ八ウ)
先生は公債を御所持かね「ハイ証書計り
磯公鼬が座敷の障子を破るから逐(おつ)て下さひ「障子鼬ました」(中ノ九オ)
歯がない姑に嫁が何か細かに切て喰さしたとサ「夫は孝行
余り安ひ瀬戸ものだから買ました「われしらず」(中ノ九ウ)
舟でがた/\するのは何人(だれ)だ「ハイ渡し
大工さん座敷へ往処(ゆくところ)や椽側の角は出来ましたか「ヘイ廊下雪隠(ろうかこうか)」(中ノ十オ)
此植木鉢は軽かろう「イヽヘ百年青(おもと)ござります
もし貴君(あなた)雨が降て来たから其傘へ入て往(いつ)て下さひな「あひやひ」(中ノ十ウ)
川柳之部
薬鑵でも人が茶にせぬ支配人
お馬だと乗た亭主を蹴(はね)つける」(上ノ一オ)
向ふ見ずそふかといつて跡も見ず
神国(じんこく)の余慶ぼろまでかみになり」(上ノ一ウ)
吸う声を聞てとろゝろを下女流し
白もゝをわると中には赤ひ種」(上ノ二オ)
ぶまな猫取た鯰をまた逃し
尻と顔両方へ出るむすめの屁」(上ノ二ウ)
股ぐらのもめ胸ぐらを押取れ
出尻に鍋お釜いたなどゝ下女」(上ノ三オ)
男五人組なら女弐人ぐみ
狐拳勝て上戸は苦わらひ」(上ノ三ウ)
つまらぬを好むは煙管計なり
ゑらい蚤じやと謎かけて媽(おし)起し」(上ノ四オ)
己(おの)が屁を眼の前に見る風呂の中
抱寐して出来た子母はまた抱寐」(上ノ四ウ)
合言(あいことば)ブツと出る屁をホイとうけ
倹薬は家の疲労(つかれ)をよく治し」(上ノ五オ)
長い手は後の方へよくまわり
喰う蚊より釣る蚊屋をまづ打(ぶち)殺し」(上ノ五ウ)
下女の癇癪味噌がよく摺れる
つひ近所月夜を三銭(やみ)ではしる車夫」(上ノ六オ)
おんぶして来て帰りには馬をつれ
俄髯しやつぽ冠つて手鼻かみ」(上ノ六ウ)
後家に花咲(さき)仏壇の花が枯れ
大雨にたらひ家中かけまはり」(上ノ七オ)
能(よ)ひ姑(しうと)其時わざと高いびき
燈筒(ほや)をふく下女つら/\とおもん見る」(上ノ七ウ)
おかめでも鼾は高ひ鼻のやう
又しても屁元争ひ下女子僧」(上ノ八オ)
くやみの水鼻深切らしく見へ
出た穴へ子を蓋にするざくろ口」(上ノ八ウ)
蝿無礼人のあたまで強婬し
質おきの言(ことば)多きは品ふそく」(上ノ九オ)
下女転(ころ)び腹に大きな瘤が出来
腕まくりして傘(からかさ)の無心云ひ」(上ノ九ウ)
夫婦の喧嘩組合ふと中なほり
油だんした大敵よせる大晦日」(上ノ十オ)
碁の好な親で娘にゆうぎさせ
太棹を握た後家はうなり出し」(上ノ十ウ)
都々逸之部
精綺水でも癒らぬものはいろ目に負目にあき盲
折々亭主がお世話に成と遠火で焦さぬ焼上手」(下ノ一オ)
お前はでこ助私しはおかめ丁度一対よひ夫婦
わしが不実を見て取たらば早くお呉よ手切金」(下ノ一ウ)
誰ときつねを誑してやろと誑しに罹つて誑された
豆腐五丁喰て四帳釣て寐たら腹が九ちよくつて眠られぬ」(下ノ二オ)
遅ひ帰りを彼是いはぬ女房の笑顔の気味悪さ
同じヽ(ちよい)でも天地の違ひヽ(ちよい)とおいでとヽ(ちよい)と来(こい)」(下ノ二ウ)
惚た振り為(すり)や鼻揺(ひこ)つかせ自分免許で間夫気どり
生(なま)な開化をした人よりも律義で旧弊な人が増(まし)」(下ノ三オ)
主によく似たこの子を御覧瓜をふたつの南瓜面
心の底からさも実らしく嘘じやなひよと嘘を吐(つき)」(下ノ三ウ)
ほんに可愛あの口もとを憎や午睡(ひるね)に吸う薮蚊
浅い心の女がまへにふかひところがたゞ一ツ」(下ノ四オ)
持た其時や嬉しひけれど持りやもてるほど身がもてぬ
神楽に見た様な私の世帯始終てんてこ舞どうし」(下ノ四ウ)
苦労するのは其方(そなた)の勝手愚頭(ぐづ)を承知で添た中
人目/\と云紛らして体能(ていよく)恥をばかゝすやつ」(上ノ五オ)
己惚(うぬぼれ)鏡で見てさへ是じやふられる筈だと思ふ顔
お客は狸と思つて寐たらオヤマア馬鹿らし馬ざんす」(上ノ五ウ)
嬉しひ首尾した其明る日は仕事出しても手につかぬ
じつと見詰てにつこり笑ひ〔(新内千両幟)向ふ鏡のふた取て写せばうつる顔とかほ〕私の惚たも無理はない」(上ノ六オ)
ぬしの来ぬ夜は写真を眺め〔(妹背山)始めて三輪の過し夜に葉越の月の俤を〕見初たむかしをおもひ出す
私しの商売天秤棒よ〔豆腐イ/\「ヲヤ豆腐やさん/\/\ヱヽぢれつたひ耳が無のか〕耳は横町で売ました」(上ノ六ウ)
思ひに思ふた願が届き〔(上るり)月給取を旦那に持ば蝦夷長崎や国々へ行しやんした其跡の〕留守の手当で寄芝居
二人リ手をとり都をすてゝ〔(山姥)よしあし引の山巡り四季のながめもおもしろや梅が笑ば柳がまねく〕そして深山で暮したい」(七オ)
帰りやしやんすとそりやどふよくな〔(権八)情はうれど心まで売らぬわたしが苦界の誠〕機嫌直して寐やしやんせ
むすぶ初夢つひお宝で女房うつかりふくの神」(七ウ)
なられた証拠は朝ぼんやりと廓帰りの白痴(まぬけ)づら
夢になりとも心のたけを知らぬおまへにはなしたひ」(八オ)
猫にや誑され狐にやふられニヤンでコンなに下間(へま)だろふ
気障と思ふは日に/\通ふ好(いゝ)のと代つてもらひたい」(八ウ)
逢て話せば皆実らしく思案して見りや嘘らしひ
狸寐する気で真(ほんと)にね込や何時の間にやら夜が明た」(下ノ九オ)
好と嫌の差別はないよ私のゑにしは紙幣(ぺら)任せ
寐ればつん/\座れば無心立ば後で舌を出し」(下ノ九ウ)
辛いお客を甘(あまい)と見做し無心云たら苦ひ顔
ランプ天窓(あたま)と謗(そし)らばそしれ己(おれ)が居なけりや内は闇」(下ノ十オ)
内証とおもへどすかした匂ひ悪事千里のこの屁
口ぢや言れず仕打じや出来ず唖と盲目のいろばなし」(下ノ十ウ)
明治十四年十月十四日御届
仝    十一月  出版
編輯兼出版人 神奈川県平民
       小出留五郎
       横浜区弁天通四丁目
       八十四番地寄留
発売人    仝   平民
       池田孝吉
       仝所仝番地
(広告)」(裏見返し)



54 当世はやり諸げいの大よせ(明治十五年刊。長谷川忠兵衛板。)
※円太郎・円遊・談志・万橘の珍芸四天王の名が揃って出ている。これらの人々の寄席芸を写したものであろう。貴重な資料である。
当世はやり諸げいの大よせ
編集兼出板長谷川忠兵衛」(表紙)
あさくさしんばしゆきかふ馬しやは〔(コトバ)こぞうどかねへかどふしたくるまアツリヤおばあさんあぶないだんなのりませんかヘヱイ(ラツパ)パツパカパア……〕のりあいべんりのせんりけん」(おんぎよく円太郎)」(一オ)
ぼたもち
とのさアとのさアがさてとのさまよおらはとのさまよいとのさまよりかうではつめいでごきようものだひとがたのめばなんでもなアさるおしてたのめばどろぼうもなさるこのやとのさまぼたもちがすきだゆふべ二十一けさまた七つ一つのこしてたもとへいれたむまにのるとてぼたもちをおとすむまはかけだすぼたもちはとれずまゝになるなアらはねがはへてとんでヱこいぼたアもち(おんぎよく市馬)」(一ウ)
かどのきふだへぬしのなかいて〔(たねまき三ば)なかうどをいれてしうげんの四かいなみかぜおだやかに(おはん)おまへによふにたやゝうんで〕かぞくににんとしるしたい(おんぎよく金の助)」(二オ)
すてゝこ
かふのりができてはまのゆうすゞみいなさぬ/\いつまでもなにはのみづにうつすすがたヱ(すてゝこ燕寿)」(二ウ)
おなじく
ゆふべふろのあがりばでこのはらおびをかゝさんがみつけさんしてさつてもよいことしてくれたとゆうべのおはらだちあいたさにみたさにしたさにきたのでれそ/\うにやにやのパア(すてゝこ円遊)」(三オ)
あしやアらにもくれんてんれんかんれんてけれつツぱア
あいのりほろかけごんさいほつぺたてけれつツぱア(はなし談志)」(三ウ)
かつきよかまほりだんしのおはこでてけれツつぱア
まんきつへれ/\ゑんやうすてゝこてけれツつぱア(おなじく)」(四オ)
サア/\へれ/\のはじまり/\ムヽそこだアそこでヘヱヽヽヱたいこがなつたらにぎやかだアヨほんとうにさうならすまなよたいこがにへたらやはらかだアヨほんとうににへたらふろふきごんべヱへれヘヱのどつこいさてヘヱヽヽヽあかいきれしまだのうちはたれにさせよかもめるあかいてぬぐひあかぢのあふぎ」(四ウ)これをひらいておめでたいほんとうにそうならすまないヨさゝかごしんぱいほうねんじやほうねんじやいつちくたつちくたへもんさんおとひめさまがねへひんからほにおわれてねへわらふこゑきけばねへほうねんじや/\へれ/\ヘヱはら/\はアへれ/\ヘヱはら/\はアへれヘヱのへれ/\ヘヱへれ/\ヘヱたらへれ/\ヘヱへれ/\ヘヱたらへれ/\ヘヱ/\/\/\/\とうざいイこれでおしまひ(ヘラ/\万橘)」(五オ)
大つゑ
そではぎはかきのそとふかうのばちにてめがつぶれかげきよはたんりよにもわれとわがてゞりやうがんかきむしりあさがほはこひゆへになきつぶしたるめなしどりさみせんてにもちかどにたち〔(くどき)こんののれんにききやうのもんはおとにきこへしはしもとやとてあまたぢよろしゆのあるそのなかで」(五ウ)おしよくぢようろのしらいとこそはあいきようすぐれてとうせいそだちきりやうよければみなひとさんがわれも/\となざしであがる「ヲイそこはあきだなだぜ「なんだへあきだなだアヱちヱヽ(せつきやう)きこへませぬははうそがみいらぬほんじよに五つある八つめうなきのつらにくや〕そこでざぜめがしほものやへうるめはないかとかどにたつ」(六オ)
はをりかくしてのかへうた
はをりはいしてそできりつめてどふでもきうはよさんせといひつゝたれたれんぐわせきじようきほそみちひきはしるアレみやしやんせこのかいくわ(ておどり柳橋)」(六ウ)
かつぽれ
そらのヲヽはれまにちら/\見へるアレワはりイがアねヤレコノてりがらふてりがアらふてりがアらアウヽヽヤレコノコレワノサてりがらぶじやヱヽ」(七オ)
はこね八りはこそふとまゝよ〔(松王せりふ)このまつわうがひきかけたこのみくるまとめらるゝものならとめて見ろヱヽ〕とめととまらぬこいのいぢ(こわいろしら魚)」(七ウ)
おさけのむひとしんからかわい〔(一中ぶし)しんかはしんぼうかやばちやうじやうごのたてしくらつゞき〕げこのたてたるくらはない(おんぎよく芝楽)」(八オ)
あめりかのおざつき
あんなんこんなんきうらいほうれんりやうりやう/\もれ/\はり/\とかきますひようたんもくれんすぴよこ/\ほいぴよこ/\ほいなほ/\さわひできうらいすとゑいさいさほのきうれんものへもん/\よか/\とりヤう/\(ものまね鶴枝)」(八ウ)
たこおどり
たこのなア/\たこのゐんねんむくひきておあしがおほくておてゝがなくつてみやうでんす
いかのなア/\いかのゐんねんむくひきておあしがたんとでおてゝがなくつてみやうでんすヲツチヨコチヨイノチヨイ(おどり鶴枝)」(九オ)
本てうし
おまへと一ツしやうくらすならみやまのおくのわびずまゐしばかるてわざいとぐるまそそだにかいのぬのざらしぬひはりしごといとやせぬ(おどり円三郎)」(九ウ)
よねやまぢんく
うわきヨするなといふのじやアなアいが〔(くどき)これさわがつまもんどさまよわしがにようぼでやくのじやないが十九やはたちのみじやあるまいしやめてくだんせぢよろいばかり〕まる/\やめずとほどにしてヱヽほどにして(おんぎよく小満の助)」(十オ)
いやでもおふでもかうなるからは〔(きせん)わたしやおまへのまんどころいつかくわほふのいちもりとほめられたさの身のねがひ〕どこがどこまでそふかくご(清元しめ)
御届明治十五年二月六日
編集出板人
神田かぢ丁六ばんち
長谷川忠兵衛」(十ウ)



55 〔さわり文句〕浄瑠理どゝ逸 初編・二編(明治十五年刊。文江堂木村文三郎板。)
※初編は関西大学に同じものがある。
〔さわり文句〕浄瑠理どゝ逸 初編
芳春画図
東京馬喰町二丁目壱番地木村文三郎版」(表紙)
(広告)
東京書肆 日本橋区馬喰町弐丁目 文江堂敬白」(見返し)
〔さわり文句〕浄瑠理どゝ逸
編輯人 木村文三呂
お医者さんより草津の湯より〔(義太夫夕霧)夕霧涙諸共に恨みられたか詫のは色の習ひと云ながら。夫はうは気な水浅黄はでな浮名が嬉しうて人の譏も世の義理も(下略)〕主に逢のが合ぐすり」(一オ)
未れんのこしてまよふて居たが〔(義太夫三勝半七)今比は半七様どこにどふしてござらふぞ今更返らぬことながら。私と云者ないならば。半兵衛様もお通にめんじ」(一ウ)子迄なしたる三勝どのとくに呼入さしやんしたら。半七様の御身持も直り。〕死ぬると心が付なんだ」(二オ)
知らぬ事とて恨みはしたが〔(義太夫忠臣蔵七段目)おかるは始終せき上/\。便のない身の代を役に立ての旅立が。暇乞にも」(二ウ)見へそな物と恨んで計をりました勿体ないがとゝ様へ非業の死でもお年の上。勘平殿は三十になるやならずに死ぬるとは(下略)〕きいて苦をます苦のせかい」(三オ)
あつくなる筈お前とわたし〔(義太夫小はる治兵衛)憎ましやんが嘘かいなおとゝしの十月中の亥の子にこたつ明た」(三ウ)祝義とて。コレ爰で枕ならべ。此方は女房のふところには鬼が住か蛇が住か(下略)〕もとは巨燵で出来た恋」(四オ)
人目はゞかりうれしい中も〔(義太夫お半長右衛門おび屋)わたしも女のはしじやもの大事の男を人の花」(四ウ)腹も立つしりん気の仕様もまんざら知らぬでなけれどもかわい殿御に気をもまし(下略)〕いまは浮名でこの苦労」(五オ)
田舎そだちと笑はゞ笑へ〔(義太夫白石ばなし吉原)斯した事とは露しらず此妹はまめなか知らぬとゝ様かゝ様おわづらひでも有ふならよもやしらして」(五ウ)たもらふ物。便りのないを杖はしら首尾やう年を勤めたる。国へかへつてお二人に楽させましてどふしてと(下略)〕人にすかるゝゑぞ錦」(六オ)
年月ねがひし思ひも叶ひ〔(義太夫箱根いざり)ほんに武士ほど世の中にはかない者が有かいのふ蝶よ」(六ウ)花よと思ひ子の恋に病目(やむめ)がいぢらしさ添してやつたはばかりにててゝ御は刃に身を捨て(下略)〕はれて真如の月の影」(七オ)
つめる苦労もいつしか解て〔(義太夫彦山毛谷村)女房じや/\とうたぐる程今迄も逢たふ思ふた重荷がおり三衣袋も茶袋にして見た」(七ウ)がりの水仕わざけさもたすきとかけ徳利。酒もあげふし夕飯の拵へせふと釜の下薪のしめりもへ兼る火吹竹とは尺八を(下略)〕是から主を力ぐさ」(八オ)
しげ/\あへばお宿の首尾〔(義太夫阿漕平次すみ家)ふしぎの縁でこれまでは夫よ妻よと主従の道を忘れて妹背の」(八ウ)かたらひ。おもへば盧生が夢の楽しみ。覚て悔しき身の上と男泣にぞ泣ゐたる(下略)〕云て逢ずにや居られない」(九オ)
子をおもふ親の心は夜の鶴〔(義太夫五右衛門釜入)性根みだるゝ五右衛門が子を思ふ気のやるてなく片手につかんで五郎市を目分も高くさし上暫しなり共苦みを。させじとこそは身をもがく。油は次第ににへ上り五体もあからむかしやくの責(下略)〕わたしやお前と夜の鴛鴦」(十オ)
今宵の苦労を察しもせずに〔(義太夫妹背山杉さかや)是迄おまへと私が中。逢ことさへもたま/\に。千年も万年も。かはらぬちぎりとおつしやつた。其約束はいつはりか」(十ウ)浮世の訳も弁ぬ。在所そだちの私でも。云かはした事。忘れはせぬ。余りむごいと取ついてなみだ先立恨み言(下略)〕澄して三十日に丸い月」(十一オ)
お前の愉快と仄に聞て〔(義太夫蝶花形)聞ていそ/\姉葉末お馬の先の高名にも」(十一ウ)まさつた手がらと誉そやす。余所のよろこび子心に。聞も無ねんさ松太郎(下略)〕泪の雨にぬかす膝」(十二オ)
猫が気をもみや浮気な蝶は〔(義太夫橋弁けい)若君彼をなぶつて見んと右へよくれば右に立左りへ行ば左りに行ちがひさまに長刀の柄をはつしと」(十二ウ)蹴上れば。スハ曲者よ物見せんと長刀柄長く追取のべ切てかゝれば若君は薄衣取退うち寄る剣をあざむくからかさは六十間の橋の上〕高みで見物するはいな」(十三オ)
うは気なお前と田毎の月は〔(義太夫妹背山山の段)尊いと卑いも姫ごぜの夫と云はたつた一人穢はしい玉の輿何の母も」(十三ウ)嬉しかろ祝言こそせね心計は久我之助が宿の妻と思ふて死にやヱヽ是程思ふ中一日半時添しもせず賽の河原へ遣るかいの(下略)〕あまた影置水のうへ」(十四オ)
桃とさくらと争ふ色は〔(義太夫道春館)たとへいづれのたね成ともわらはが為に大事の姉御おまへは殺さぬ自をイヤのふそもじはながらへていや自をイヤわらはと死を争そひし」(十四ウ)姉妹の心根不便と母親はいづれをそれとわけ兼て胸は涙の三つ瀬川身も浮ばかり歎きしが(下略)〕どちらが先へ散そむる」(十五オ)
絵にも書ない互ひの胸を〔(義太夫吃又平)いつまで浮世又平でふぢの花かたげたお山」(十五ウ)絵やなまづおさへたひやうたんのぶか/\生て甲斐なしと身をもんだの無ねんがり〕うつして見たい写真鏡」(十六オ)
かた時わすれぬおまへの事を〔(義太夫合邦すみ家)俊徳様の御事は寐た間もわすれず恋こがれ。思ひ余つて打付に。云ても親子の道を立。つれ」(十六ウ)ない返事かたい程なほいやまさる恋の渕いつそしづまばどこ迄もと跡を慕ふて歩(かち)はだしあのうか/\難波がた身をつくしたる心根を(下略)〕夜るは寐て又夢に見る」(十七オ)
穂にあらはるゝ薄じやとても〔(清元傀儡師)蓬莱の嶋は目出度嶋での黄金升にて米はかる紗の/\袴紗の袴よの竹田の昔はやしごと唯今しらん傀儡師」(十七ウ)阿波の鳴門を小唄とは晋子が吟の風流や古き合点で其侭に小倉の野辺の一本薄きいつか穂に出て尾花とならば露がねたまん恋草や恋ぞつもりて渕となる(下略)〕空吹風にやなびきやせぬ」(十八オ)
ぬしに深川首たけはまり〔(清元喜撰)我庵は芝居の辰巳ときは町。しかも浮世をはなれ里。世事で」(十八ウ)丸めてうは気でこねて小町桜の詠めにあかぬきやつにうつかり眉毛をふまれ(下略)〕堅い石場でゐたものを」(十九オ)
逢たその夜の口ぜつの跡は〔(清元神田祭)一年を今日ぞ祭りに当り年。けいごてこまへ花やかに。飾るさじきの毛氈も」(十九ウ)色に出にけり酒きげん神田ばやしもきをいよくきてもみよかし花の江戸祭についのはで模様牡丹寒菊浦菊のゆかりも丁度花尽し(下略)〕きやりの声やばかばやし」(二十オ)
恋しさつもりて姿をやつし〔(清元安名)姿もいつか乱れ髪誰がとり上ていふ事も菜種の畑に」(二十ウ)狂ふ蝶。翅(つばさ)かはして浦山し野辺の陽炎春草をすほふ袴に踏しだき狂ひ/\て来りける(下略)〕うけた情が仇となる」(二十一オ)
よろこび烏で気をとり直し〔(常磐津子宝三番)手に手を取てかさゝぎの逢瀬をわたす天の川笹に一夜の散しがき」(二十一ウ)さら/\うつは太鼓の拍子よくみな撫し子の手を揃へやさしき声のはり強く(した略)〕明のからすで又ふさぐ」(二十二オ)
未来は一所とよく云やつよ〔(常ハヅ一の谷)宵のくわげんの笛の時後にとありしお詞が今生後生の筺かや」(二十二ウ)此世の縁こそ薄と共来世では末長う添上げてたべ我夫と顔にあて身にそひて思ひの限り声限りなく音は須磨の浦千鳥涙にひたす袖の海引汐時と引息のちしごと見へて息たへたり(下略)〕死んで花実がさくものか」(二十三オ)
主をまつ夜は屏風の絵まで〔(常ハヅ三社祭)軒もる月にお姿をふつと見上て賤の女は云寄るしほも」(二十三ウ)なま中に叶はぬ恋を思ひそめこがれ寄るとも片糸の風の車やわくらばに一夜保たぬ仇枕(下略)〕すねて見せるか気障な松」(二十四オ)
うは気うぐひす気の多いせうと〔(五人ばやし)お先そろへて花やかにふつこめふつこむ鳥毛やり奴嶋田に引かへておぼこ娘のふり袖にうかれてあはとのり物をせおふ重荷も恋の道おれこみじや」(二十四ウ)合点じや石ごき酒の色上戸酔にやなるまい女子の身そゝ茶びんの役とはヲヤばからしいとりあはせ(下略)〕梅があきたか桃になく」(二十五オ)
沖の石とて汐干にや乾く〔(長唄汐くみ)見渡せばおもしろや馴ても須磨の夕まぐれすなどる船」(二十五ウ)のやつしつし浪を蹴立て友呼かはすはんま千鳥のちりやちり/\やちり/\ぱつと汐屋のけぶりさへ(下略)〕せめて日曜にや忘れたい」(二十六オ)
操たゞしきみどりの色よ〔(長うた丹前)高砂や木の下陰の尉と姥松諸共にわれ見ても久しくなりぬ住吉の此浦船に打乗て月諸共に出汐や是は目出度代のためし〕松にあやかり友しらが
〔さわり文句入〕浄瑠理どと逸終」(二十六ウ)
明治十五年六月九日御届
編輯兼出版人 東京日本橋区馬喰町二丁目一番地
       木村文三郎
大売捌人 東京通油町 水野慶次郎
     同横山町  辻岡文助
     越後三条  浅間伝財門
     同長岡   松田周平
     同葛塚   弦巻七十郎
     甲府三日町 松本米兵衛
     箱館地蔵町 木下清次郎
     信州松本  高美甚左衛門」(裏見返し)


〔さわり文句〕浄瑠理どゝ逸 二編
幾英筆
東京日本橋区馬喰町二丁目一番地木村文三郎版」(表紙)
(広告)
東京書肆 日本橋区馬喰町弐丁目  文江堂敬白」(見返し)
〔さわり文句〕浄瑠理どゝ逸二編
編輯 木村文三呂
散髪(ざんぱつ)あたまと私の胸は〔(義太夫千両のぼり)傍に直れば女房も押ては云ぬもつれ髪。鬢のほつれを撫付る櫛の背(むね)より夫(つま)の胸うつして見たき鏡立。写せばうつる顔と顔(下略)〕いふに云れぬ事ばかり」(一オ)
つもる深雪もいつしか解て〔(義太夫朝がほ)語らふ間さへ夏の夜の短い契りのほいないわかれ。所尋る便りさへ思ふに任」(一ウ)せぬ国の迎ひ親々にいざなはれ難波の浦を船出して身を尽したる憂思ひ泣て明石の風待にたま/\逢ば逢ながらつれなき嵐に吹分られ〕須磨ぬ心をあかしたい」(二オ)
籠で育ちし鴬なれば〔(義太夫廿四孝)問はれて猶もあからむ顔つとめする身はいざしらず姫」(二ウ)ごぜのあられもない殿御にほれたといふ事が嘘偽はりにいはれふか(下略)〕はつ音に嘘が鳴れうぞ」(三オ)
わたしの意見も少しはおきゝ〔(義太夫尼が崎十段目)妻は涙にむせ返りコレ見給へ光秀殿軍の首途(かどで)にくれ/\もお諫め申た其時に思ひ留つて」(三ウ)給はらば斯した歎は有まいに知ぬことゝは云ながら現在母御を手にかけて殺すといふは何事ぞ(下略)〕たまにや文珠の智恵も出る」(四オ)
声なつかしきアノ時鳥〔(義太夫安達雪ふり)なふコレしばしもふ逢ふとは申ませぬお身の難義の言」(四ウ)訳をどうぞ聞してくださりませ申し/\と延上り見れど盲の垣のぞきはや暮過る風につれ折からしきりにふる雪に(下略)〕姿は見へぬ真の闇」(五オ)
雨をいとふて愛せし梅を〔(義太夫千代はぎ)とは云者の可愛やな君の御為兼てより覚悟は極て居ながらもせめて」(五ウ)人らしい者の手に懸ても死事か素性賤しい銀兵衛が女房づれの剱(やいば)にかゝりなぶり殺しを現在に傍に見てゐる母が気は(下略)〕憎やちらせし仇あらし」(六オ)
水でだまして咲せる花は〔(義太夫兜軍記責ぜめ)簾を上て引出す姿はだてのうちかけや戒の縄引かへて縫うくのもやうの」(六ウ)いと結び小づま取手も侭なれど胸はほどけぬ思ひの色形ははでに気はしほれ筒に生たる牡丹花の水上かぬる風情也(下略)〕どこやら色がさへかねる」(七オ)
わたしの心と皐月の空は〔(義太夫玉藻前三だん目)義理と恩愛二筋につたふ涙は雨やさめ身にふり」(七ウ)かゝる桂姫母の情の有がたさお慈悲といふも口ごもる振の袂にしらさめの晴間はさらに見へざりき(下略)〕曇りがちにて晴やらぬ」(八オ)
逢ぬむかしと諦らめ見ても〔(義太夫白石ばなし)歎きの中も姉へ猶妹が背を撫おろしヲヽ其様に思やるも尤併そな」(八ウ)たは父母に長ふそやつた身の果報コレ此姉を見やいのふ年貢にせまつてとゝ様へ水牢その苦を助けふばつかりにコレこの廓へ(下略)〕逢て猶ますこの苦労」(九オ)
こゞへ死ぬるもこがれて死ぬも〔(義太夫花上野)たとへつゞれはまとふて居ても心を錦になぜ持て爺御(てゝご)のかた」(九ウ)きを討負せ名を上ふとは思はずかと息もたへ/\だんじきに心ぐるしきその風情目もあてられずいぢらしし〕おなじぬしへの心中だて」(十オ)
松にまけない桜の意気地〔(義太夫桜丸はら切)兄弟が名にかたどり松王梅五桜丸憚ありや冥加なやゑ」(十ウ)ぼし子になしくだされ御恩は上なきついじの勤め三人のその中に桜丸が身の幸人間のたねならぬ竹の園の御所奉公(下略)〕はなはちつても実はのこす」(十一オ)
ふじとおまへと首尾よい中を〔(義太夫蝶花がた)歎けば姉はせき上/\孫子の為にお命を捨て恵の父の恩船車」(十一ウ)にも積れふかそればかりかはいとし子を義理のやいばに殺すのが悲しうのふて何とせふ(下略)〕一ツ所に見たのがさか夢か」(十二オ)
ぬしは教師でいろはをおしへ〔(義太夫日よし丸雅さくら)一ト間の内より声高くヤア/\斎藤明舜の家臣加藤忠左衛門清忠殿木」(十二ウ)下藤吉あらためて対面せんと名智の一ト声鶴の間の襖左右へおし開かせやう/\然と歩み出(下略)〕やがて首尾してアイウエオ」(十三オ)
旅の烏でさまよふ元は〔(義太夫累もの語土ばし)引廻し/\引廻されてうたかた姫多くの人にかしづかれ敬まはれぬる」(十三ウ)御身にも鄙の旅路を只一人さまよひ給ふ浮中におもはぬ難を哀れともいふべき人も遠近(をちこち)の谺より外泣ばかり(下略)〕かはい/\のぬしゆへに」(十四オ)
脛に疵もちや踵の音も〔(義太夫恨のさめざや)いたづら髪に留伽羅の浅き薫かや香具やの花となりしと聞よりもヱヽ」(十四ウ)時も時とアノ歌はいのてうど我身に引当て世にうたはるゝもアノ通り八郎兵衛様嘸腹が立ふけれど堪忍してくださんせ(下略)〕もしや夫人くかと胸に釘」(十五オ)
跡おし車で急いで来たに〔(義太夫一の谷)無官太夫敦盛は道にて敵を見失ひ御座船に馳付て父経盛に身の」(十五ウ)上を告知す事有と須磨の磯辺へ出られしが船一艘も有ざれば詮方波に駒を乗り入れ沖のかたへぞうたせ給ふ〕平気なぬしは馬車らしい」(十六オ)
梅干じやとてむかしは花よ〔(義太夫八百や半兵衛)わしが心のたけのこをさらりとわつな打明てけふ岩」(十六ウ)たけかあすいは付よめなにくむもたれゆゑぞみんなそなたにほふれんそ人のわらびもコレナ/\ドツコイシヨいとやせぬ〕すゐな心のあるわたし」(十七オ)
忍ぶ闇夜のうれしい首尾は〔(義太夫堀川の段)与次郎どふやらこりや娘ではない様なわいのヤアくらがり紛」(十七ウ)れに材木が紛りやせぬかやこなたつかまへてゐて下されやと探る手先に火うち箱がち/\ふるふ附木の光(下略)〕はれた月より胸のくも」(十八オ)
おまへの姿を牡丹に見たて〔(常磐津関の戸)かゝる山路の関の戸にさしもたへなる爪音を聞に付ても身の上を思ひ」(十八ウ)出せば錦の戸ばり玉のうてなに人となりひすゐのかんざしたをやかにある人は初花の雨にほころぶけはひとは女子をのぼすかけ詞〕わたしやてふ/\でとまりたい」(十九オ)
都はなれて恋路を断て〔(常ハヅ八犬伝)苔の筵に座をしめて唱ふる経も鴬の春去り来れば八重霞花は」(十九ウ)遠目に見ゆれども雲には近き山桜弥生は里の雛遊び女夫(めうと)ならびゐてけさぞつむ名も懐しき母子草たがつきそめし三が日(ひ)の餅に有ぬ菱形の腰かけ石も肌ふれて(下略)〕いまじや山家のわび住居」(二十オ)
ぬしに綾瀬でわたしもやつと〔(常ハヅのり合舟)海上はるかに見渡せば五色いろどる宝ぶねよい乗合とわせられて」(二十ウ)ものり後れたはいぶかしな色にやかしこい夫様なれどなじよさつしやれたは恋しらず〕こがれた胸がすみだ川」(二十一オ)
痴話がかうじてふつたる跡で〔(常ハヅおその六三)蝶花の外を吹雪の二人づれ狂ふともなくほら/\と風に押れて」(二十一ウ)踏所なき足弱ぐるまひきなやむおそのをいだきいたはりて背な撫さすり声曇り(下略)〕はれぬ胸をば察しやんせ」(二十二オ)
清き心はわたしの情よ〔(清元清心)おぼろ夜に星の影さへ二つ三つ四つ五つか鐘の音ももしや我身の」(二十二ウ)追手かと胸に時うつ思ひにて廓を抜し十六夜が落て行衛も白魚の船の篝に網よりも人目厭ふて跡先に心おく霜川端を風に追れて来りける(下略)〕にごる詞はおまへの赤心(まこと)」(二十三オ)
軟らかな風があやなすアノ川柳〔(清元北州)霞の衣衣紋坂ゑもんつくらふ初買の袂ゆたかに大門の花の江戸町京」(二十三ウ)町や背中合せの松飾り松の位を見帰りの柳桜の仲の町いつしか花もちりてつとんと見世すがゝきの風薫る簾掲げて時鳥なくやさ月の菖蒲草(下略)〕水におぼれて影うつす」(二十四オ)
闇の合図に礫(つぶて)を投て〔(清元康秀)とゞかぬながらねがひ来て行をゆかじとコレ待た仇悪(にくら)しい何じやいな」(二十四ウ)お清所のくら紛ればんにやいのと耳に口むべ山風のあらしほどどつと身にしむ嬉しさも(下略)〕小石/\を知らせたい」(二十五オ)
はれちや行れぬ故郷の空と〔(清元おかる勘平)色で逢しもきのふけふ堅いやしきの御奉公あの奥様のお使が二人が塩谷の御家来で」(二十五ウ)その悪縁か白猿によふ似た顔の錦絵のこんなゑにしがから紙のおしのつがひの楽しみに泊/\の旅籠やでほんの旅寝のかり枕うれしい中じやないかいな(下略)〕厂をうらやむ女夫(めうと)づれ」(二十六オ)
精進料理さし身じやないが〔(夕暮かへうた)言つぐに肴見わけて料理ばんこゝに雛妓(おしやく)も仕」(二十六ウ)度して見かけた人が来たといふアレお手がなる初手の客二階に芸者がゐるはいな〕こんにやくるとの辻うらか」(二十七オ)
涼み舟でもおまへの口で〔(同)両国へ花火見にゆく川開き橋にどよめく人の山鍵やの仕懸が上るぞへアレ星下り虎の尾や煙火は昼間も打はいな〕あをがれる程あつくなる
〔さわり文句〕浄瑠理どゝ逸二編終」(二十七ウ)
明治十五年六月九日御届
編輯兼出版人 東京日本橋区馬喰町二丁目一番地
       木村文三郎
大売捌人 東京通油町 水野慶次郎
     同横山町  辻岡文助
     越後三条  浅間伝財門
     同長岡   松田周平
     同葛塚   弦巻七十郎
     甲府三日町 松本米兵衛
     箱館地蔵町 木下清次郎
     信州松本  高美甚左衛門」(裏見返し)



56 別品辻占都々一 二(明治十六年刊。荒川藤兵衛板。)
※国会図書館に同じものを蔵する。今、卦図・判断文は省略する。
別品辻占都々一 二
竹葉筆」(表紙)
つじうら都々逸
山口板」(見返し)
古人曰く。易は益たり。其事に臨みて。先。吉凶を熟考し。而して。後に進退すと。然れども。常人の輩恐らくは。心意不定なり。依之易も変りやすし。朝に吉卦得て。夕に凶卦を得るも。怪しむべからず。然と雖も。即事は果して。適当す。由て今都々一の章句を。易の卦面に当。其の善悪を記す。事爾り。
明治辰の春  一発散人記」(一オ)
ひけすぎに客をかへして」(一ウ)あのまち合のつじでとるのはぬしの占
竹葉筆」(二オ)
(絵)」(二ウ)
雷水解
卦をやりたいにもざんぎりあたま印紙はりたや口のはた」(三オ)
火雷噬●
積るうらみも根岸の里にとけてうれしき笹のゆき」(三ウ)
山地剥
君が不服でそはねば僕はねがひ出てもそふしよぞん」(四オ)
雷天大壮
待に来ぬ夜はつい癇癪で毒としりつゝ茶わんざけ」(四ウ)
沢雷随
水も洩さぬめうとの中でぬれたすへには川となる」(五オ)
山風蠱
別れをしさに十時を九時と咳でまぎらす身のつらさ」(五ウ)
震為雷
うそと真事を舎密(せいみ)でしれりやわたしやおまへにやだまされぬ」(六オ)
水風井
やすゐ時計と浮気なむすこくるふたび/\さつがいる」(六ウ)
山雷頤
主をつへとも頼みし竹のどうもきになる本のすへ」(七オ)
地風升
かほりゆかしきつぼみの花を誰が手もとにいけるやら」(七ウ)
天地否
春の支度に猫たちやみんな袋かむりてすゝをはく」(八オ)
天雷無妄
曇りては人の心もアノ思案橋照降町ではしぐれふる」(八ウ)
天水訴
二円ころりで友達たのみ猫が木魚のほう加帳」(九オ)
沢山咸
ひとの渡世を家業にするはせけんしられし広告社」(九ウ)
天沢履
部やとやりての目がほをしのびあげてうれしきとこのうち」(十オ)
乾為天
のぼりつめたる五階のうへよひとのゐけんもうはのそら」(十ウ)
天風后
ひけすぎに客をかへしてあのまち合のつじでとるのはぬしの占」(十一オ)
水雷屯
しあんするほどきれてはならぬいまゝでくらうしたかひがない」(十一ウ)
坎為水
にようぼさらずにわたしもきれず被告されてもそうしよぞん」(十二オ)
風水渙
心矢走(やばせ)にきはあせれどもおやは建たに子はつぶし」(十二ウ)
風山漸
はるのけしきもヤヽとゝのへど主は風せんうはのそら」(十三オ)
風地観
せけん噺もわづかなことよこのとちばかりは日はてらぬ」(十三ウ)
水火既済
汐のみち干をアレみやしやんせくらうするのもよのならひ」(十四オ)
水沢節
ねんがとゞひてけふあら玉のはるの始のたからぶね」(十四ウ)
山水蒙
作りた菊をばお客にみせりや味(うま)い/\と団子ざか」(十五オ)
地水師
芝居の御客はみな鳥づくし目白押ありをゝむせき
明治十六年一月廿五日御届
東京日本橋区馬喰町二丁目九バンチ
編輯出版人 荒川藤兵衛



57 義太夫入佐和理どゝ逸(岡大次郎編。荒川藤兵衛出版。)
※表紙には「〔懐中義太夫〕佐和理集 附都々逸」とあるが、扉題を採る。
〔懐中義太夫〕佐和理集 附都々逸」(表紙)
義太夫入
佐和理どゝ逸
東京 錦耕堂発行」(見返し)
叙言
都々逸の節長しと雖ども、是を断ば可笑なん、甚九の節短しといへども、是を続(つが)ば笑ふになん、然ば治る聖代に、猶も世上に流行の、耳新らしき義太夫都々一、当時山口(はんもと)の依頼(げんめい)に随ひ(ヤデヽン)見台ならぬ机に向ひ、撥に等しき筆颯採(おつとり)、編(つゞれ)る節も長し短し、さわり文句の跡先なるを、●は看客の美音にて宜しく、唄(うなり)たまへと爾云、于時明治の十と六とせ十一月の暖麗(のどけき)日流行庵の南窓に筆を採(ねぶ)りて
隅田園古雄誌」(口ノ一オ)
(絵)
声さま/\人を催(うな)がす蛙かな
とゞ翁」(口ノ一ウ)
(絵)
月耕画」(口ノ二オ)
なよ竹の節も正しくこまやかに風にたえなる声や聞らむ
梅寿画」(口ノ二ウ)
たよりない身をまたそのやうに〔(妹背の門松)お染はかほをふり上てソリヤ曲がない胴欲な高いも低いも姫ごぜの肌ふれるのは只一人おや兄弟もふり捨てとの御につくが世のおしへそれにまだ/\かなしきは。夕部風呂のあがり場でこの腹帯をかゝ様が見付さんしてコリヤお染このはらおびは何事ぞとふからやうすしつたゆへたび/\のこは異見父御の耳へいれまいと辛抱したがもふかなはぬなさけない事」(一オ)してくれたと泣しみづいてのお腹立そなたに案じさせまいといままで斯と岩田帯かくして居たがこんな身で〕見すてられゝば死ぬかくご
結ぶゑにしは糸より長い〔(いもせ山杉酒屋)ちぎりも長きねがひの糸夫婦のやくそく星合にかさゝぎならぬおだまきを千代のなかだちとりかはし〕」(一ウ)いづもの神をちからぐさ
のぼる朝日を見上るのきに〔(しちみせ)うれしやめでたやはるのはじめにゆるりとあいませうといそ/\かへるつぢうらや〕さいてうれしき門のうめ
ねがひ叶ふてうれしと思や」(二オ)〔(本朝廿四孝十種香)こんな殿御と添臥の身は姫御前の果報ぞと月にも花にもたのしみは絵像の傍で十種香の煙りも香花となつたるか回向せふとておすがたを画にはかゝしはせぬものをたましいかへす反魂香名画のちからも有ならばかあいとたつた一ト言のお声が聞たい/\と絵像の傍に身を打臥泣涕こがれ見へ給ふ〕」(二ウ)ほんにはかない片おもひ
涙ながらにすみすりながし〔(加々見山長つぼね)書置筆の命毛も露と消ゆくはかなさを絶入るばかり忍び泣なみだとともに書とゞめ革の文箱も浦嶋があけてくやしき意恨の草履文もろともにふばこのひも引〆てかたへなる手箱の内を」(三オ)かたみわけ数もなみだの玉くしげ〕胸もはりさく忍びなき
いやなお客のきげんをとつて〔(朝がほ日記浜松)乳人浅香はあさからぬ歎も身にぞ笈摺の深雪の行衛尋んと思ひ立たる順礼も辛苦にうき身のやつれ笠露の舎りもとり兼て」(三ウ)杖をちからに歩み寄コレ/\女中即時(そつじ)ながらチトお尋ね申たいと音のふ声に泣顔かくし〕せじを言ふのも身のつとめ
思ひ切とはむかしの事よ〔(おしゆん伝兵衛堀川のだん)そりや聞へませぬ伝兵衛さんお言葉むりとは思はねどそも逢かゝる初めよりすへの末まで云かはし互ひの胸をあかしあいなんのゑんりよも内証のせい」(四オ)せられても恩に着ぬほんの女夫と思ふもの〕今さら別れてなるものか
角力とりをばおつとにもてば〔(関取千両のぼり)江戸ながさきへ行しやんしたその跡の留守は猶更女気のひとりくよ/\ものあんじ夫にけがのないやうに頼む神さん仏さん妙見さんへしやうじんも戻らしやんして」(四ウ)顔見るまで〕片時やすまるひまはない
たとゑはかない花実じやとても〔(朝がほやど屋)こがるゝ夫の有ぞともしらぬ目くらの探り手に恋ゆへ心つくし琴誰かは憂を斗為吟の糸より細き指先にさす爪さへも八つ橋のやつれ果たる身をかこち涙に曇る爪しらべ露のひぬ間の」(五オ)朝がほを照す日かげのつれなきに哀れ一トむら雨のはら/\とふれかし〕いつか結ばる時がある
何がさておきおまへにあはにや〔(夕ぎり扇屋の段)夜すがの連弾を思ひ出して伊左衛門腹立まぎれに調子さへあはゞどふして斯してと胸は二上り三下り今の憂身も心から思ひまはせば奥の間の歌の唱歌に」(五ウ)合の手やかはい男に逢坂の関よりつらい世のならひそれにあの歌で思ひ出す去年の月見は奥ざしきそこ意隈なき夜と倶に呑明したる大騒ぎ太夫とおれが連弾で弾た時のおもしろさひくその主はかはらねど替つたはおれが身のうへあいつが心底マあのやうにあらふとは思はぬ人にせき留られて今は野沢の一ト水アいかさまそふじや恋も誠も世に有時人の心は飛鳥川かはる」(六オ)は勤めのならひじやものいつそあはずにいんでくりよアイヤ/\/\喜左衛門夫婦が志し逢ずにいんではこの胸が済ぬ心の中にもしばし〕すまぬ私しのむねのうち
襤褸は下ても心は清し〔(大功記尼ケ崎)いとしい夫人くが討死の首出(かどで)の物の具付るのがどふいそがるゝものぞいのと泣々取出す緋色威の」(六ウ)鎧の袖にふりかゝる雨が涙の母親は白木のかはらけしら髪のばゞ長柄の銚子蝶花がた首出を祝ふ熨斗昆布むすぶは親と小手すねあて六具かたむる三々九度この世の縁やわり小ざね猪首に着なす鍬形のあたりまばゆき出立はさはやかなりしその骨柄〕さすがむかしは二本ざし」(七オ)
親にしられいや/\ながら〔(安達ケ原三ノ口)あいとはいへど袖萩が久しぶりの母の前琴の組とは引くかへて露命を繋ぐ古糸の波もやぶれし三味線の罰も慮外も顧ずおねがひ申し奉る今のうき身の恥しさ父上や母さまのお気に背きし報ひにて二世の夫人くにも引わかれ泣つぶしたるめなし鳥二人が中のコレ此お君とて明てやう/\」(七ウ)十一の子を持て知る親の恩しらぬ祖父さまばゞ様をしたふこの子がいぢらしさ不便とおぼしたまはれと跡うたひさし泣入むすめ〕さらふ稽古もうはのそら
君がくり出すするどい鎗は〔(先代萩御でんば)何思ひけん沖の井御前長押にかけたる長刀追とりぐつと突込天井の板こじはなせば怪しの曲者落るを透さず」(八オ)取て引伏用意の捕縄手ばしかく高手小手にくゝり上お脈の不審のその根元サアまつ直に白状せよ陳ずるにおいては水責火ぜめうき目を見するがサア/\なんとゝきめ付られ〕私しや受身でうけきれぬ
他所のさはぎもこちやうはの空〔(一の谷琴ぜめの段)簾を上て引出す姿はだての打かけやいましめ」(八ウ)の縄引かへて縫のもやうのいと結び小づまとる手も侭なれど胸もほどけぬ思ひの色形ははでに気はしほれ筒に生たる牡丹花の水あげかねし風情なり〕ぬしを思ふて気もそゞろ
わたしや女房でゆくのじやないが〔(おはん長右衛門帯屋のだん)わしやとふから知ては居れど悋気所か顔へも」(九オ)出さぬ気の毒がらすが笑止なと結構な舅御やいぢくね悪い姑御の耳へ入かとそれが悲しさ私も女のはしじやもの大事の男を人の花はらも立しりん気の仕やうもまんざらしらぬでなけれどもかはい殿御に気をもまし煩ひでも出やうかと案じすごしも何にもいはず六角堂へお百度もどふぞ夫にあかれぬやうお半女郎と二人の名さか立ぬやうにと願立もはかない女の心根を不便と」(九ウ)思ふていつまでも見すてず添ふて下さんせと夫の膝にうちふしてくどき立るぞいぢらしき〕主を大事におもふゆゑ
人にそしられあざけられても〔(のざき村のだん)切ても切ぬ恋衣や本の白地をなま中にお染は久松が跡をしたふて野崎村つゝみづたひ漸々と梅を目当にのきのつま〕いまさら別れてなるものか」(十オ)
綾も錦もつゞれとなれば〔(千本ざくらすしや)みやこでお別れ申てより須磨や八島の軍を案じ一門残らず討死と聞悲しさも嵯峨の奥泣てばつかりくらせしに高野とやらにおはするといふ者の有故に小金吾召連お行衛を心ざす道追手に出合可愛や金吾は深手のわかれ頼も力もない中にめぐりあふたはうれしいが三位中将惟盛様が此お姿は何事ぞそでのない此羽織このおつむりはと取付むせび」(十ウ)たへ入りたまふにぞ〕はれの衣装にやなりはせぬ
今のおまへの真身の咄し〔(玉ものまへ三段目)心を察し萩の方あゆも涙に正体なく一樹のかげの雨やどり一河の流れをくむ人も深いゑにしと聞ものをわらの上から育上手しほにかけた親じやものかはゆふなふて何とせふ十七年の春秋が一期の夢で有たらと返らぬ事を」(十一オ)くどきたてかこち給へば初花も倶に涙にむせかへりほんに夕辺もけさまでも斯うした事が有ふとは神ならぬ身の情ない何ぼすてても子じやないかなぜ自を切なんだ今から誰とついまつや琴のさらへや十種香も手向のたねと成たりと声もおしまず叫び泣采女もさすが愛着と義理の柵恩愛の血筋の別れわしづかが鬼をあざむく両眼にたばしる涙はら/\/\四人が涙一チ時に落て流るゝ袖の海ひざに」(十一ウ)渕なすごとくなり〕遠いむかしが思はるゝ
ぬしのかんしやくたぶさをとらへ〔(かさね土ばしのだん)引まはし/\引まはされてうたかた姫多くの人にかしづかれうやまはれぬる御身にも鄙の旅路を只一人さまよひ給ふ浮中におもはぬ難をあはれともいふべき人も遠近の谺よりほか」(十二オ)泣ばかり〕たゝいちや理も非もわからない
内へ悪いと知りつゝまたも〔大坂を立退ても私がすがた目に立ば借竹輿(かりかご)に日を送り奈良の旅籠や三輪の茶や五日三日夜を明し廿日余りに四十両つかひ果して二歩のこる金故大事の忠兵衛さん科人にしたもわたしから嘸憎からふおは」(十二ウ)らも立ふが因果づくとあきらめてお赦しなされて下さりませ親子は一世の縁とやらこの世のわかれにたつた一ト目あふて進ぜて下さんせと奥の障子を明るを引留〕留て見たさの深い中
思ひきつたがお前のためと〔(かるかや山のだん)つれなくいへど何処やらに残る詞のいやまさり何父上は行衛しれずこの山におはさぬとやノウ情なや浅ましや我はともあれ母さまがこがれ死を」(十三オ)なされふかとそれ計りが悲しうて跡へ戻るも戻られず似た人にても有ならばあはせてたべとかきくどく心ぞ思ひやられたり〕きつくも言れぬあじな中
恋の初瀬はたのみじやないが〔(妹背山御てん場)うたひまするとなく/\も涙にしぼる振袖は鞭よ手綱と立上り竹にサ雀はナア品よくとまるナとめてサとまらぬナ色の道かいなアヽヨ〕ふかくなる程いのちがけ」(十三ウ)
目先に紅葉の愛敬見せて〔(忠臣蔵二段目)小浪にはつと手をつかへじつと見かわすかほと顔たがひにむねに恋人とものをも言れずあかゞほはうめとさくらの花角力〕じつと返事ができかねる
頑固爺(おやぢ)の憎むくまれものよ」(十四オ)〔(忠臣講釈書置の場)様子しらがの気を汲で涙かた手に夫のそば水の出端へ茶のはな香そつとさしいだす追蹤も身をねぢ向て皺面(じうめん)顔取付島もないじやくり詮方なさにおさな子を抱て出ても見た計りあいそなければうらめしげにコレ太市とゝ様が戻つてじやはいのヲヽだかれだかろ/\なんぼだかれたうてもとゝ様はだきやさしやんせぬ侍の立ぬと云しやんすもなる程無理とは思は」(十四ウ)ねどふがいない女の手一つでお宿老のお二人りに御不自由なめがさしともなさいろ/\さま/\に身を砕くは〕かてゝくわへてケチヨンパア
影もあやしく年よる浪に〔(伊賀越六つ目の口)そんなら持して下さりますかチヱヽ忝いサお出なされませヤツト任せつ声ばかり一肩往ては立留りアノ今日はけつこうな天気じやなアヤツトまかせ二肩往ては息を継旦那申」(十五オ)向ふの立場にどぜうの名物がござりますヤツトまかせと杖する度に追従口ふけ田におりししら鷺の餌ばみをするにことならず〕種は荷舟もはしり得ぬ
私しやおまゑを末まつが枝と〔(蝶花形小坂部やかた)耳にもかけず音近は床に直せし鼓取上我壮年のころ武将足利利義はる公数度の軍功御賞美有猶も武名をならせよと」(十五ウ)谺と号しこの鼓を下し給はり年賀毎にうつが吉例今六十の賀を祝す謡ひ終らぬその中に用意よくばと打ならす鼓のしらべ白刃のやいば抜放して立向ふたがひのかけ声つゞみの矢声有がたや治まる御代のならひとて山河草木おだやかに五日の風や十日の雨が下照る日の光り剱の光りうちあふ刃音見る目ひやいさあぶなさにこらへ兼てかけ入をいつの間にかはもの影にしのび姿の宗貞加藤せいし留れば詮方も泣どさけべど白妙を」(十六オ)一足さらず切むすぶ武士の育の直焼刃付入刀請はづし弓手の肩先松太郎切込れてたぢ/\/\母は見るより悲しさの心あせれど詮方涙さもいさぎよき山の井の水く山の井の手疵も?せぬ松太郎するどき刃先笹市が高股四五寸切付ればアレ笹市が切れたわいのソレ/\/\油断しやんなアあぶないかならず負てまもんなとあせりながらも親々が詞の介太刀牛角の手練切つつきられつ」(十六ウ)ほどばしる血汐染なすあき草も色をあらそふしゆらのには勝負いづれと気をくばる父と父とは千万無量母は外面に血の涙〕たはみし甲斐さへなくばかり
人の好(すく)人おつとにもてば〔〔三かつ油屋のだん〕跡には園がうき思ひかゝれとてしもうば玉の世のあじきなさ身一つに結ぼれ解ぬ片糸のくりかへしたるひとりごと今頃は半七」(十七オ)様どこにどふしてござらふやら今さらかへらぬ事ながらわしといふものないならば半兵衛様もお通にめんじ子までなしたる三勝どのをとくにも呼入さしやんしたら半七様の身持も直り御勘当もあるまいに思へば/\このそのが去年の秋のわづらひにいつそ死で仕まふたら斯した難義は出来まいものお気に入ぬとしりながら未練なわたしがりんゑ故そひぶしはかなはずともおそばに居たいと辛抱して是まで居たのがお身の仇今の」(十七ウ)思ひにくらぶれば一年まへにこの園が死る心が付なんだこらへてたべ半七様わしやこのやうに思ふて居ると恨つらみは露程も夫を思ふ真実心猶いやまさるうき思ひ〕出さき/\のくらふする
思ひあつもり心は須磨の〔せめて別れに御顔が見て死たいと思へども深手に心が引入て目さへ見へぬが悲し」(十八オ)やと又御首を撫さすり宵の管弦の笛の時後にとありしお詞が今生後生のかたみかや此世の縁こそ薄くとも来世では末長ふ添とげてたべ我夫と顔にあて身にそへて思ひのかぎり声かぎりなくねは須磨の浦千鳥涙にひたす袖の海引汐時と引息の知死期と見へて絶果たり熊谷はぼうぜんとヱどちらを見ても莟の端みやこの春よりしらぬ身の今たましひはあまざかる鄙に下りて亡跡を」(十八ウ)とふ人もなき須磨の浦なみ/\ならぬ人々の成果る身のいたはしやとひたんの涙にくれけるがぜひも泣々玉おりの亡がらを取納め母衣をほどいて敦盛の御死骸をおしつゝみ総角取て引むすび手綱をたぐりゆひ付る鞍の塩手やしほ/\と弓手に御首たづさへて右にくつわのあはれげに檀特山のうき別れ悉陀太子をおくりたるしやのゝ童子がかなしみも同じ思ひの片たづな涙ながらに」(十九オ)引てゆく〕塩に血を吐くほとゝぎす
いやが応でも斯(かう)なるからは〔(鎌倉三だい記)親にそむいてこがれた殿御夫婦のかためないうちはどふやらつんと気が済ね短い夏の一夜さに忠義のかくる事も有まい是ほどまでに付したひわたしが心思ひやつてくれもせで心強やと緋おどしにうら紫の色深き〕わたしやおまへの山のかみ」(十九ウ)
達引づくなら住かへしても〔(八重桐しやべりの段)さらばおはなし申ませふ恥かしながらわたくしは昔はうき川竹のけいせい萩の屋の八重桐とて太夫仲間の立ものと言れしほどの全盛の末もとげぬ仇恋にのぼりつめてこのとほり夜なくかはる大尽の中に坂田の何某とて水揚の初日より逢初て丸三年の何がたがひの浮気ざかりのぼる」(二十オ)ほどに/\●利天(とうりてん)の中二階夜昼なしの床入に掛鯛さまと異名をうけ名も洩さぬ中なりしが又同じくるわにおだまきといふ太夫彼男に行付て毎日百通二百つう書も書たりちは文は大かた馬にて七駄半船につんだら千石ぶね車に乗たらゑいやらさ木やりでも音頭でもいのつてもまじなふてもみぢんけも二人が中いよ/\つのつてあふほどにおだ巻大きに腹を立アヽわすれも」(二十ウ)せぬ八月の十八日の雨上り月は山よりおぼろぞめのうちかけひらりと取てすて白無垢一トつに引しごき脛もあらはにかけ来り私がひざにふうはりとんと居かゝつてコレ八重桐あまり見られぬいやじやぞやサアおとこをたもるかたもらぬかいやかおふか応かいやか二つ一つの返答が聞たいとむなづくしを引つかみこつちも一期の大事ぞとよはみを見せずこりやおだまきとやらくだ巻とやら光りはくはぬ出直しや」(二十一オ)〕年のあくまで呼びとげる
住る小鮒の心とちがひ〔(志渡守のだん)今は老木の乳母おつぢおもへば思ひまはすほどおそろしや稚な気に盗心の付たるはいかなる天魔の見入るぞと顔うち守り/\しばしは涙にくれけるがコレ和子ヱヽこなたはのふ此うばはおしへはせぬにいつの間にそのやうなさもらい」(二十一ウ)気父御さまの非業の最期無念とも思はしやらぬ不孝の罰が身にむくひうまれもつかぬ●人もの●となつたに気がつかぬか母御は賤しいけいせいと素性あらはすけふの時宜コレ人間と生れては只一つ心の置所いやしふてもきたなふても腹は借ものこなたのてゝごは誰あらふ民谷源八さまといふ侍の子のする所作(しわざ)かそふいふこなたの心としらずこの乳母が明暮に旦那様の無念の」(二十二オ)御最期おのれ敵を詮義して討さんものと思ふうち●と成たるこなたの業病くすり祈祷の聞ばこそ詮方つきて当国の金毘羅様へ立願かけびやうきといひ立本心はこんびらさまへ火のものだち食事をたち菓(くだもの)に命をつなぐ此乳母が清きからだをいけすへにその病ひを治して給はれといのるおつじが誠の心おさな心にわかるならどふぞ心をためなほし」(二十二ウ)コレ紙一枚塵一つ本人様の盗むやうなさもしい心やめて下されコレ見やしやれこなたゆへにこの乳母が元のすがたはどこへやらたとへつゞれはまとふても心を錦になぜもつて父御の敵討おふせ名を上ふとは思はずかと恨つ泣つさま/\に五臓を絞る血の涙いきも絶/\断食に心くるしきその風情目もあてられずいぢらしゝ〕水もにごらぬうばが池」(二十三オ)
野暮なお人はわらはゞ笑へ〔(伊賀ごへ沼津の里)問れておよねは顔をあげはづかしながら聞て下さりませやうす有て云かはせし夫のなは申されぬがわたし故に騒動おこりその場へ立合手疵を負一つ旦本復あつたれどこのごろしきりに痛いろ/\介ほうつくせどもしるしなく立寄かたも旅のそらこの近所で御やうじやう長しい間に路銀もつたその貢に身の」(二十三ウ)まはり櫛笄まで売はらひ最前もお聞のとふり悲しい銀の才覚も男のやまひが治したさ先ほどのおはなしに金銀づくではないとの噂燈火の消しよりアノ妙薬をどふがなと思ひつきしが身の因果どふぞお慈悲に是申今宵の事はこの場ぎりお年よられしおまへにまで苦労をかけし不孝の罪けふや死ふかあすの夜は我身の瀬川に身をなげてと思ひし」(二十四オ)事は幾度か死だ跡でもおまへの歎きと一ち日ぐらしに日を送るどふぞおじひに御了簡と東そだちの張もぬけ恋の意気地に身をくだく心ぞ思ひやられたり〕恋にや命もなげ島田
手安く取れチヤこの身がたゝぬ〔(菅原寺子屋のだん)おもては夫ともしら髪のおやぢ門口より」(二十四ウ)声高に長松(ちよま)よ/\と呼出せばヲツトこたへて出てくるはわんぱく顔に墨べつたり似ても似つかぬ雪とすみ是ではないと赦しやる岩松は居ぬかと呼声に祖父(ぢい)様何じやとはしこくもでゝ来る子供のぐはんぜなきかほはまるがほ木しり茄子せんぎに及ばぬ連うせうとにらみ付られヲヽこはや嫁にもくはさぬこの孫を命の花おちのがれしと祖父がかゝへて走りゆく〕」(二十五オ)わしが手作(てさく)のはつ茄子
たまに逢瀬の口舌も深く〔(白石ばなしよし原の段)歎きのうちも姉は猶いもとが背をなでおろしヲヽそのやうに思やるも尤併そなたは父母に長ふそやつた身のくはほうコレこの姉を見やいのふ年貢にせまつてとゝ様は水牢その苦をたすけふばつかりにこのくるはへ身をうつたを思ひかへせば十二年そなたは五つ子」(二十五ウ)顔さへ見知らずとゝさまの御最期や母さまの死目にもあはぬといふかなしい不孝なはかない事が有ふかいの斯した事とは露しらずこの妹はまめなかしらぬとゝさまかゝ様おわづらひでも有ふならよもやしらしてたもらふもの便りのないを杖柱首尾よふ年を勤たら国へかへつてお二人に楽させましてどふしてと色やうはきをたしなんで勤め大事といひ号のとの御の事もそなたの事も恋し」(二十六オ)なつかし思ふのをたのしみ暮したかひもなふ名のりあふたはうれしいが悲しいはなし聞姉が心も推してたもいのと手をとりかはす兄弟が涙/\を立聞ももらひ泣して立わけの暖簾もぬるゝ計り也〕ぬれて二人がほつといき
義理にからみしわたしの胸を〔(廿四孝勘介内の場)明んとすれどかきがねのかはりの真結びは」(二十六ウ)むごやつれなとあせるほど雪にしめつて明ぬ戸にちゞたい/\もたへ/\の風にうたてや治郎吉がわつと泣声アヽ悲しやと又かけ戻りだき上て雪やころゝんあられやころゝんこはそも何たる因果ぞやこの子憎いじやなけれども〕どふぞ察して下さんせ
悋気らしいがよふ聞しやんせ」(二十七オ)〔(関取二代かゞみ秋津島内の段)何もかも表から立聞して居たはいのふよふも/\こちの男をこのやうなしやうわるにして下さつた秋津島殿ヱヽこなさんは/\のふ四百両といふ金の行はふしぎなことじやと思ふたら今といふ今がてん?たアノ傾城を女房にせふ為身うけに入た四百両じやのソリヤ早思ひ詰た事なら妾(てかけ)めかけもあるならひさのみ無理とは思はねどいかに男の」(二十七ウ)こうけじやとてわしといふ者傍において寐所までしいてやり是見よがしに寐やうとはあんまり気づよいどうよくととゞかぬ悋気しらばけに云るゝつらさ聞つらさ〕つらひつとめもおまへゆゑ
親の言葉としみ/\聞いて〔(おつまうなぎ谷のだん)いたづら髪に留きやらの浅きかほりや」(二十八オ)香具やの花となりしと聞よりもヱヽ時もときとてアノ歌わいのてうどわが身に引あてゝ世にうたはるゝもアノとふり八郎兵衛どのさぞ腹が立ふけれど堪忍してくださんせ/\なんにもしらぬこのお半一ケ年/\立に付けとゝさまに生うつしかならず/\出世してこのかゝがとひ吊ひ〕アイとばかりに目になみだ」(二十八ウ)
明治十六年十二月三日出板御届
編輯人 愛知県士族
    岡大次郎
    京橋区畳町十七番地寄留
出版人 東京府平民
    荒川藤兵衛
    日本橋区馬喰町二丁目九番地」(裏見返し)



58 銭占独判断(明治二十四年刊。いろは書房発売。)
銭占独判断」(表紙)
銭占よし此
このつぢうらのしかたはぜに六文を手に握り思ふ神仏をねんじその銭をなげ出し並びしとおりを引あわせ歌の心と判断をして吉凶を知るべし
○○○○○○白は浪の形なり
●●●●●●黒は文字の形なり」(見返し)
●●●●●●乾為天
まほに受よく乗出す船もふとした風からあと戻り
○○○○○○坤為地
もしや夫かと閨の戸明りや月はおぼろに啼水鶏」(一オ)
○●○○○●水雷屯
雁が帰ればつばめが通ふおまへいやでもまた出来る
●○○○●○山水蒙
つらい峠をやう/\越て是から二人が新世帯」(一ウ)
○●○●●●水天需
霜よけに俵かけたるあのきくの花蝶がこがれて逢に来る
●●●○●○天水訟
ふられたあげくにまたてらされる狐の嫁入じやあるまいし」(二オ)
○○○○●○地水師
ひよく連理とちぎりし中も仇なあらしで気がそれる
○●○○○○水地此
今の苦労もしばしの間昔がたりの種となる」(二ウ)
●●○●●●風天小畜
月の誠はうつらぬはづよ池にや浮気な草がある
●●●○●●天沢履
新聞に出された時には恨だものゝ斯(かく)成りや二人りの結ぶ神」(三オ)
○○○●●●地天泰
枕のぬれたは涙じやないよ風邪の残りの水のはな
●●●○○○天地否
アレサおよしと払つた手先いつか枕の下になる」(三ウ)
●●●●○●天火同人
はるのはつ日のゆたかにさして呑は目出たいとそのさけ
●○●●●●火天大有
風が戸たゝきやうつゝで明て月にはづかしわが姿た」(四オ)
○○○●○○地山謙
庭の雪間のあの梅さへもかんくをしのいだ花がさく
●○●○○○雷地予
行燈のうしろでくらひ文をばよめど今にあかるくなる夫婦」(四ウ)
○●●○○●沢雷随
きせる筒にてまゆげをかくしぬしの女房にふけたかへ
●○○●●○山風蠱
泣てだませばお客のこけが色のしおくり仕舞札」(五オ)
○○○○●●地沢臨
うしろから着せる羽織のその襟さへも返すがいやではないかいナ
●●○○○○風地観
月にむら雲わたしにおまへ邪魔としりつゝきれられぬ」(五ウ)
●○●○○●火雷噬●(口+盍)
曇る噂さも訳さへつけば晴てうれしい梅雨の空
●○○●○●山火賁
ぬしの此頃顔向せんわ胸にたく火のけむいのか」(六オ)
●○○○○○山地剥
わたしの恋路とあの朝顔はつゆのなさけでさいて居る
○○○○○●地雷復
思ふおかたは兵士にあたりわづか三とせが百千年」(六ウ)
●●●○○●天雷无妄
端書便りじや人目が多い中を知らせぬふうじ文
●○○●●●山天大畜
思ひきけとてさらしを五尺おもひ切らりよかごうさらし」(七オ)
●○○○○●山雷頤
とかくせきやるな浮世わくるまめぐる月日をまたしやんせ
○●●●●○沢風大過
すへの別れをおもへばほんにふかくなるのもよしわるし」(七ウ)
○●○○●○坎為水
すかぬお客に見受をされて楽も苦の種ぬしのたね
●○●●○●離為火
風のまに/\アノ浮草は岸を定めず花がさく」(八オ)
○●●●○○沢山咸
逢たその夜はちかいもかたくたてし屏風につるとかめ
○○●●●○雷風恒
鎧兜は昔しの武者よ今じやシヤポにつゝつぽう」(八ウ)
●●●●○○天山遯
米に●(しんにう)かけたは迷ひ麦に●(しんにう)おほ違ひ
○○●●●●雷天大壮
まだか/\と夢中に成て欲くに手を焼く米会社」(九オ)
●○●○○○火地晋
心うち解下紐までもとけてかたらふ好た同士
○○○●○●地火明夷
うそじやないよとことわる丈に猶もうたぐる胸のうち」(九ウ)
●●○●○●風火家人
はらをたゝせて座しきをしまい床へ入れたもほれた意地
●○○○●●火沢●(目+癸)
口の車へ野暮おば乗せてそして三すじのいとでひく」(十オ)
○●○●○○水山蹇
美しいとて心はしれんよけてお置よ鬼あざみ
○○●○●○雷水解
花ほどに愛敬はおけねどあれ見やしやんせ姿やさ敷葉出柳」(十ウ)
●○○○●●山沢損
たゝきながらもうたがはしやんす赤い西瓜の気もしれず
●●●○●●風雷益
塵積り山と成程借銭したも三味の調子に乗たばち」(十一オ)
○●●○○○○沢天夬
誉られる親にひかれてこの年までも私しや浮気の味しらず
○○○●○○天風●(女+后)
桃と桜を並て見ればいづれおとらん花の色」(十一ウ)
○●●○○○沢地萃
知らぬ顔してお酌にや出たがむねにや言たいことだらけ
○○○●●○地風升
時節まつとはしつては居れど気がそれよふかときがもめる」(十二オ)
○●●○●○沢水困
ちから自慢は役には立ぬ色の初わけは義りなさけ
○●○●●○水風井
私しや長靴おまへはとんび晴て逢れん身の因果」(十二ウ)
○●●●○●沢火革
新ためて親のゆるしのこの祝言はむかし咄しの床の中
●○●●●○火風鼎
白と黒とはわたしの胸に置ておまへにゆづる勝」(十三オ)
○○●○○●震為雷
色をしとうて小蝶の客が通ひくるわの夜の花
●○○●○○艮為山
しとふお人は深山のさくらたどる路さへないつらさ」(十三ウ)
●●○●○○風山漸
仕舞やくそくきめては来たが逢にや行たし銭はなし
○○●○●●雷沢帰妹
情人(いろ)は寐がへり女房は出るし泣面蜂とはこの事歟」(十四オ)
○○●●○●雷火豊
帳場格子と寐て居るかむろ用のあるたびまたがれる
●○●●○○火山旅
柳に見せてもこゝろの内はめつたになびかぬ金次第」(十四ウ)
●●○●●○巽為風
浦山しいぞへ茶の湯のふくさぬしのおこしにはさまれる
○●●○●●兌為沢
ゑゝもじれつたいまたぬけたのかしつかりはかせな坊のぞり」(十五オ)
●●○○●○風水渙
こはがりなさんなしれたら毒胸(どきよう)外にひのてる里もある
○●○○●●水沢節
時節まことはそりやあんまりなおそけりやこつちも年がよる」(十五ウ)
●●○○●●風沢中孚
そのさけをもつとかさねて呑せておくれ酔せてたのみのことがある
○○●●○○雷山小過
苦労気がねを積重ねたる二等煉瓦の楽住居」(十六オ)
○●○●○●水火既済
惚れたヱレキが感通なしてうれしいごげんが苦のはじめ
●○●○●○火水未済
お前いやでもほうばいのてまへわたしや意地でも呼とをす」(十六ウ)
明治廿四年七月十日譲受出版
発行者  浅草南元町二十四番地
     三輪逸次郎
発売所  浅草区蔵前通南元町
     いろは書房



59 〔新板〕はうたどゝいつ(明治初期刊か。)
〔新板〕はうたどゝいつ」(表紙)
新板はうたどゝゐつ」(見返し)
(本てうししんうた)はなにとてゆくはめあてのそのひとにもしもあわねばまつみよりまたるゝむねにあらしふく」(一オ)
ぬしをおもふてあさゆふにかみしん/\もいまはたゞゑんとじせつをまつみよりまたるゝむねにあきかぜをあんじてくらすはかなさはかはらぬそでのはぎのつゆ」(一ウ)
(市川?之助作)はつはるのねんれいに市川だんしうがふりをつけそれからはやりのきつねけんあらごとしつがもねへ??とひの三?たつみ/\ばかりかばかされてやつぱりごとふもばかされた/ありやとこせへよんやなああいこできなせへチヨン/\」(二オ)
市川?之助
(本てうし)おたがいにいれるかうはなのやよいのいちざあたりややぐらもたちばなのあくまでみにくるひとのやまほめたがむりかへ江戸のはなほめるがむりかへ」(二ウ)
(はるさめ)身はひとつこゝろはふたつみつまたのながれにしづむかわたけのつらいくがいのそのなかにかわひおとこはたゞひとりほかのきやくには????」(三オ)
おびとかずきみのおふせはこもけれどほんににせとちかひしかのひとにみさほはかへぬまつのいろあくまでたてとふす」(三ウ)
(二上りおふしうぶし)かわいおまへをかどにたゝせまたせもふしてのふ(はやし)もふたろ/\
(おなじ)ゑんのしたにはふるげたふるぞうりふるわらじ(はやし)もふたろ/\」(四オ)
(おなじく)とだなのうちにはふとんにふるぼろふるふんどし
(どゝ一)つゆのなさけにあさがをかくか
(義太夫)日かげのき?のはなさけばいわのはざまのくまりみづ」(四ウ)
常盤津語鶴作
(げいしや大つゑぶし)げいしやのつとめはまことにむつかしいものよびにきてはやくゆけばおちやひきげいしやというおそくゆけばもつたひぶるといふのまねば上戸の末にいらずのめばさましめがうるさがるひとりにはなしをすればいちざではらをたつる??」(五オ)ざしきをはやくしまへばおちやなでこゞとをいふなやみをひかねばしづかなげいしやまことにわるこちというまアどふしたらよからふねさや??でゝほめらりやうとおもふならかねもとらずにやたらにころんでたれにもかれにもむこうにほれたらよかろふね」(五ウ)
八代目三?作
(本てうし)かうもりと三すじにかざるぼたんにふくべたれもくすすとなりたやをあくまでむねきの八だいめほれたがむりかへ江戸の花かつぼれたむりかへ」(六オ)
(しんしうどゝいつ本てうし)山のなかでもしんしうはみやこじやつきにろくさいしゝがてる(はやしそふだよ/\)
(どゝいつ本てうし)ごまんごくのおかざきさまはめしろしたまでふねがつんく(はやし)あゝヤレそふだよ/\」(六ウ)
(どゝ一ツ)よるがひるよりあかるいくるはみそかに月でもだしてみしよ」(七オ)
(同)きやくにうそをばつくそのばちかまことあかせどうたぐられ」(七ウ)
(どゝ一ツ)をだの水口つまよぶかわづかわい/\となきわたる」(八オ)
(どゝ一ツ)あとにおくれしあしよわづれのくるましばしとゆぎやうでら」(八ウ)
(どゝ一)かへる/\もびやうぶのなかでやはりはなれぬてうつがひ」(九オ)
(どゝ一ツ)うきなたかなはふたりが中をとこのやつやまふれあるき」(九ウ)
(どゝ一)ふがひないぞへこふまでされて切れる心はなぜでない」(十オ)
(どゝ一)手のとゞく梅の小枝は折ずにおひてとらぬさくらでくらうする」(十ウ)
(どゝ一)だきしめてよねんないのにあの明がらすゑゝもわかれがちかくなる」(十一オ)
(どゝ一)ほれりやうたぐるうたぐりやけんくわけんくわかうじてふかくなる」(十一ウ)
(どゝ一)奥山にすゝきばかりがたゞぼうぜんとすへにやほたてゝすみだわら」(十二オ)
(どゝ一)親のゆるさぬしのびのこまはひくにひかれぬばちあたり」(十二ウ)



60 容思凝之三通乃男我芽(よしこのみつのながめ)(明治初期か。太平館主人編。堺屋仁兵衛板。)
容思凝之三通乃男我芽
太平館主人」(表紙)
文雅風流の腸を断月雪花三つの眺一刻千金にも替がたき??のしを付て遣る人情の誠をうがつ俚哥(よしこの)は孔老荘の大道を翻して一程万?粋の作略なりと戸さゝぬ御代におとがひをあくものは
開祖 太平館わか本是人」(見返し)
雲と疑ふはなより今は誠青葉の峯つゞき(楳園)
夢の世の中油断はならぬ枕ともなる田葉粉盆(三花亭清友)
嘘のうき代の誠の人にめぐり逢までする苦労(祇 玉や とみ松)」(一オ)
噺し分りて又逢もどり背中(せな)にかへたる腹とはら(初音舎梅遊)
夜毎かわりし身は売ものよかざりたてたる花衣裳(啼島舎花翠)」(一ウ)
余所へこゝろの其塵取にいれて捨たひうわ気もの(弦人)
立しかほりの苦労の甲斐がなくて谷間の遅ざくら(花雀)
浮名たてられこふ成うへはたがひに儀りづく命づく(嶋 かめや 若浦)」(二オ)
言ふておくれな皆胸にある思案なくてはせぬ苦労(若桜亭真花)
遠ざかるとも知らずにわかれけふか/\と待くろう(巴古家之角)」(二ウ)
逢ぬうらみを又あふときにかたをぬいでもいわれやせん(祇 近江や 小秀)
我に抱れて仏果を得よと口解おとした坊主客(つなき)
客にして逢間夫有事と知らで御客の間夫気どり(明貞)」(三オ)
勤めする身も誠はひとつ実にふたつは無わひな(ホン 大こくや 鶴勇)
すいた惚たと程よくいふてもんび過るとへちやもくれ」(梅遊)
こちの命はむかふへ取られ先のいのちは与所(よそ)のもの(杜鶴)」(三ウ)
明て待たる切戸のうちににくやさせとの虫の声(ギ 万や きぬ路)
花の色つやさめては店にのこるおやまの土人形(柳哥)
今のいま迄他人で有た人が今からこちの人(祇 みうらや 小今)」(四オ)
深ひあさひの渕瀬もしらずすいた流れを登る鮎(ヲハリ 芦雪)
人眼堤もいとはぬ思ひ蟻の穴から崩される(三友舎 我笑)」(四ウ)
可愛がられて死ぬよりましとうるさがられてきれぬ中(明貞)
積る思ひも悟れば水のあわとなり行雪達磨(真花)
流れにすんでもながれぬ物は真実(まこと)真如の月のかげ(伯州 露丸)」(五オ)
噂さあれども身にない覚へそれはもつての外の人(遊々)
粋な鼾に中立しられ背中同士の逢もどり(太玉)
思ひ出しては泪にむせび忘れかねては夢にみる(旭猴)」(五ウ)
未来の為じやと往生極て取は破戒の坊主客(松枝)
どふ思ふてもあきらめられぬ茗荷たべても忘られぬ(絹路)
余所のぬくみの有移りがをたゝむなみだの恋ごろも(二軒 千歳や 米雪)」(六オ)
すげない仕打と恨めば先が実ないものじやと言わいな(花月舎 清雅)
余所で鼬に吸れて居ると知らで待夜の鼠なき(巣籠軒 杜鶴)」(六ウ)
否(いや)といふにも訳ある事とそこは呑めかめ惚た人(芦江)
云ふた通りじや御客の通りすきとうき名の立た人(豊丸)
それといふ間もない郭公あれといふ間に明るそら(梅寿)」(七オ)
いきと張とにみな我為の〔(菊蝶)人のいけんはあしくきゝせかるればなをつのり〕味方さへまた敵になる(祇 近江や 藤松)
月はかたむく来る影もなし〔三更枕上両行泪半想君兮半恨君〕首尾のかはりし人ごゝろ(夢山)」(七ウ)
息の有うち惚たる人に命かぎりにする苦労(子登)
義理をおもふて退たる人かぎりを思ふて逢もどり(祇 万や 君鶴)
言はれぬ御方をこゝろの底に入てせけんの口に蓋(短丸)」(八オ)
しばし逢ねば其俤の〔画棟朝飛南浦雲〕かはるものかよ心まで(花翠)
宵の口舌も早あけ近し〔(きくのつゆ)鳥のこへかねの音さへ身にしみておもひだすほど泪がさきへおちてながるゝいもせの川に〕手洗(てうづ)つかふて帰る人(祇 万や つき路)」(八ウ)
長老(ちよろ)のスカ屁は首筋こへてトイと天窓へ引(ひく)くさみ(之角)
誠あれども欺される気でかよふ人には明されぬ(鶴勇)
恥かしいとは若葉のきのふしげり合たる夏木立(祇 三桝や 政鶴)」(九オ)
逢ふ日かぞへる十露盤よりも胸に両手を置てまつ(青柳舎 花雀)
義理にせまりて書退状は退ぬこゝろで書た恥(龍宝庵 太玉)」(九ウ)
聞たい事やら言たい事をいわず聞かずに遠ざかる(ヲハリ 芦生)
三日他人になる思案さへ四日ほどせにや出ぬわいな(祇 京や 勝吉)
花に未練の有明月のかげも痩たる別れ時(柳原)」(十オ)
おもひ出して来るその人と思ひながらも忘られぬ(祇 つるや 冨士吉)
咲て居れども問人もなしひとりしぐれの山桜(竹丸)
好たほれたが誤りかいな苦労するのが野暮かいな(月丸)」(十ウ)
人の知らざるわたしの真こと神にあかして有わいな(祇 京や きく松)
うきな高直(たかね)の米にも苦労九?(しやく)五才へのぼる恋(木?)
夢になど見てうさ晴さねば逢ぬ其夜が送られぬ(祇 万や 小菊)」(十一オ)
首尾もくろうの恋路の闇に月を尋ぬるほとゝぎす(月の家柳原)
月をながめてすむ心ならまつにくろうの陰は見ぬ(??庵 旭猴)」(十一ウ)
人や世間のうわさのやうにいつも逢たら嬉しかろ(我笑)
こゝろにもなひすげない事をいふて人眼の前さばき(二軒 福嶋や 市栄)
誠尽して居るヘチヤもくれト一は頗るうわ気もの(嵐之)」(十二オ)
かふ成からにはどふ成ものか粉になる所(とこ)まで身を砕く(清難)
否な御方がいやにもなれずすきもすかれぬもん日前(祇 近江や 小秀)
時鳥にも声かけられて忍ぶきり戸がはづされぬ(つるき)」(十二ウ)
誠いふたらお酒をのますむりをいふたら屁をかます(角丸)
否なおきやくは毎日くるしすきなお方はまてど来ぬ(此花)
文を開けば中からかほる花もいろよき画半切(弦人)」(十三オ)
一度逢やまた二度逢たさに三夜まちして居るわいな(嘘乃家 月丸)
見捨られたら我かげよりも外に身にそふものはなひ(松遊館 一鳳)」(十三ウ)
いわずかたらず互にふかひ中となつたる蝶と花(遊々)
知らぬ顔して行にくらしさお見限りなるほとゝぎす(祇 三升や 小初)
否なお客にはでん/\太鼓すきに身上りしやうの笛(おさ丸)」(十四オ)
好に逢たり叶の文字は可愛かいなに彫てある(松枝)
今宵更てもつま戸はさゝぬ月にねがひの人を待(子登)
今は腹さへ背中にかへていやな方むく釣案山子(川柳)」(十四ウ)
とけぬせりふの御もりが違ひ横に出かける雪の竹(竹丸)
聞た噂がこゝろにかゝる早う逢たひ見たい人(此花)
頗る別品ト一にほれて今は苦労のへちやもくれ(角花)」(十五オ)
奥の細道もち/\忍ぶ恋は思案の外が浜(伯州 秋草庵 露丸)
為を思へば死ぬよりつらひ義理にしばらく活別れ(花月庵 短丸)」(十五ウ)
思ひ/\に好々あつてこゝろ/\に苦労する(祇 若松や 哥鶴)
女郎菩薩の云草聞ば◎ない衆生は度しがたし(明貞)
夜明まへ迄さす手枕にしびれ切らしていふ無心(梅寿)」(十六オ)
嬉しさ強(こは)さに引よせられて〔紅顔解口看青眼雪膚凝情莫片言〕はいと言のが命がけ(三花亭清友)
当世流行調頗る佳作のよし此美本引続き追々出板いたし候間御求め之程希上候
版元 京??通柳馬場角
   堺屋仁兵衛
売弘 同四条通東洞院東へ入
   近江屋??」(裏見返し)



61 江戸のはな名所文句芸者よしこの 下(幕末刊か。)
江戸のはな名所文句芸者よしこの 下」(一オ)
▲にほんばしや。お江戸のまんなか。お顔じやおはなよ。おはかじやおへそよ「あだな。あねさんまん中。まん中がまん中だ
▲やがて二人が。ねがひもかなすぎ。しんじつほんしば。さほのさきへすゞがもり。うはきをやめて「ぬしもしんぼうを。しながはよ」(一ウ)
▲いつか青山と待こがれても「あへば顔さへ赤坂でめぐろにうるむ涙さへ。すこしは思ひしろがねといへ共きづよいおとこぎの「ぬしはあざぶで。きがしれぬ
▲四谷新宿で。つい日がくれて。花のきみたちの。かほをながめて。とぼしたいにも。てうちんがござらぬ「これがあやめもわかぬしんのやみ」(二オ)
▲早稲田/\と。よぶ名を付た。いつのまにやら。つい実がいりて。うまいあぢだと評ばんされる「ほんにあのこめは。わせなこめだ
▲はなのよし原を。青楼とはたがいひ初た「ふけてあつくなつて。かよふきやく「せけなんだか。なんだか」(二ウ)