翻刻・絵入都々逸本

                        

菊池眞一

A『頓作俳優都々一』
(百文舎外笑序。弘化三年。三町庵板)
  頓作俳優度々一序 はやりうたてふものは流行の極早き事駟も及ばざるに此度々一ばかりは馬士唄甚九にも対すべく長にはやりもて行大江戸は更なり何処の津々浦々までも一円に広がりて遊楽の酒席には必ず興を添て皆頓作せざる事なしされば此一冊も彼俳優輩が遊戯の余りに成れる物とて予に序せよと乞はる一校する暇もなければ速に筆を採て其せめをふさぐといふ   丙午の秋日     百文舎外笑

はなにもゝたびくるきやくよりもゆきのしよくわいがたのもしひ(市川新升)
ぐちなわたしにさばけたおまへ柳につたじやと人がいふ(尾上菊十郎)
ぎりをせけんのそりやいひのがれじつはいやだとことはりか(沢村宗十郎)
まはし屏風のおし鳥ヲながめひとりねるならうちへねる(中山現十郎)
ひよんな事からついしたわけに今はたにんとおもはれぬ(中村鶴五郎)
めだかもおよげばとんぼもとぶにあまだりほどでもながれのみ(坂東薪水)
ほどのよさそなきのよさそうなそれじやたしかにいろがある(坂東是好)
はながちるとはおまへのせじよじつはふたりでさしむかひ(尾上三朝)
かどのやなぎのなびくをみても心々できにかゝる(粂三事岩井紫若)
かなくぎのをれのやうでもゆかりのふみはまもりぶくろへいれておく(市村家橘)
せじとつとめになみだのえがほなかせるおまへはむりばかり(大谷広右衛門)
せじもいふまひきがねもせまひおまへもうわきをやめさんせ(姿見音右街門)
ひとにきがねもおまへのおかげあけくれくやしひことばかり(市川三猿)
ちればこそはなはよけいに猶おしまるゝくろうするのはいろのはな(三桝梅舎)
めぐりあふこともあろかと月日をすごしながひねんきをうかうかと(松本男升)
みじかよにともはうらまずながよのかねをうらむ心のきやくとまぶ(中村為助)
今さらにぐちもいふまいなげきもせまいそはざ命がありやせまい(岩井紫橋)
まつよひのかねはうしみつわかれのとりにまさるつらさようきおもひ(藤川花友)
あきらめましたよどうあきらめたあきらめられぬとあきらめた(中村芝楽)
ちる花をさだめなきよとうたにもよめどさかざなるまいはるのかぜ(岩井杜若)
しらつゆやむふんべつでもくさばがたよりこひのうきみのおきどころ(関歌助)
とふてはなれてくらすもときよまゝになるまでまたしやんせ(八代目三升)
たとへどのよなかぜふくとてもよそへなびくないとやなぎ(栄三郎改梅幸)
なかざなるまひのにすむかはずみづにあわずにいられうか(梅幸改梅寿)
よにつれてしんしんするのはいとひもせぬがそはれないのがわしやつらゐ(尾上菊枝)
たつた一ト夜がよみぢのさはりしらざたにんでくらすだろ(市川新車)
わたしの心にあまればとてもなんのたにんにはなされう(中村秀雀)
はやくやめたやかよふもよぶもまつもわかれもないやうに(瀬川路三郎)
かごの鳥をはしたゝかだましほかへ巣をかけしらぬかほ(尾上梅花)
かあいさうだよあの子もこりしようゐけんするのもやすだいし(小佐川常世)
ひとのしやくりできれるはよしなやつこだこではあるまいし(鶴屋南北)
あふてわかれのつらいをおもやあわぬつらさがましであろ(山科甚吉)
思ひだすとはわするゝからよわたしやよのめもわすられぬ(岩井盛紫)
たねまかぬいわにまつさへはへるじやないかおもふてそはれぬことはない(市川白猿)
わけもなひことわけあるやうにいはれりやぎりにもせにやならぬ(中村芝雀)
にたことがもしやあるかと人情本をよんでなほますものおもひ(坂東杉弟)
くさのはのつゆはわたしがなみだのしづくそれにおまへはあきのそら(桜田左更)
かどづけのしんないぶしもみにつまされてもしやとあんじるひよんなきを(大友)
ないたとてせかれたものがどうなるものかなかずとじせつをまつがよい(尾上金玉)
たいたとてこげたおまんまがどうなるものかくわずとほしひにするがよひ(市川箱猿)
つらゐかなしいとうげをこしてなんでたやすくきれられふ(中村翫雀)
女房ざかりをしらはのしまだにあふきがねのうきつとめ(関黄雀)
五月雨のある夜ひそかにかうしのさきでみればうれしひ月のかほ(坂東しうか)
けいせいにまことないとはむかしのたとへおきやくにまことがありもせず(市川広五郎)
さらべおけ人にきがねがなにいるものかたつたうきながきへはせぬ(嵐和幸)
こがれ松ばにうはきなこてふつがひはなれぬなかをみて(松本錦升)
さらべおけひとのうわさも七十五日このとちばかりが日はてらぬ(坂東岩獅)
いやなざしきでわらふのつらさないてうれしひぬしのそば(沢村訥子)
きれたなかとてたよりはさんせいやでわかれたゑんじやない(中村芝鶴)
はらが立てもまたわけきけばのろひやうだがそれもそれ(??為十郎)
いろとうわきをおもにににづけ馬も合口うわのそら(市川字之)
ぶたれるかくごのわしやむすびがみいろであふときやかうじやない(嵐眠子)
ぬしをおもへばてる日もくもるひくさみせんもてにつかず(菊之助改栄三郎)
月はかたむくよはしんしんとこゝろぼそさよあけのかね(並木五瓶)
まつがつらゐかまたるゝわしがうちのしゆびして出るつらさ(中村福助)



B『端うたとゝ逸もんく入大一座』
(光盛舎さく丸序。安政三年)

  小唱大一座の序
李伯は酒で詩を造り雲上人は月に寄花にめでゝは歌を詠ず僕も真似して今流行書肆の求に小唱を撰む麿も倭もおしなめて華の明日に月の昨夜雪の降日は一卜塩に辛き甘気もうち述て火燵を入れし家根船でしつぽり唱ふ一ト節は実に挌磬の?楽なるべし
  丙辰の仲夏
              光盛舎が南窓に さく丸述

人めありやこそわたしのこゝろめがほでしらせるそのつらさ
はれてあわれぬふたりがこのみ〔にかいせかれてしのびあふ〕つらいこいじもこゝろがら(江戸ばし てつ作)
《端唄省略》
《端唄省略》(上広光盛連 さし紋)
《端唄省略》(上広光盛連 さし吉)
〈端唄省略》(上広光盛連 さし菊)
ふつてくるとはいゝつじうらよどうぞぬれたいわがおもひ(本二 久作)
どてらかゝへてしちやのうちへ〔「コウばんとうさん一寸二朱かしてくんな「なにこれはそうはつきません「マアむりでもどうぞかしてくんねへ「マアおまちなさい「ばん頭はじつと品をみてアレまたあんなむりいふてこんなどてらは弐朱はつかぬ「どうあつてもか「そでよりわきがきれているひどいものをもつてきておまへの心はそうしたものか〕どこもやけあなこげている(江戸ばし てつ)
《端唄省略》(江戸ばし てつ)
《端唄省略》(上広光盛連 さし安)
あれきかしやんせわたしがむりか〔よつやではじめておうたときすいたらしいとおもうたがいんぐわなゑんのいとぐるま〕あくまでおまへにじようたてる(上広光盛連 なか女)
きりぎりすきうりきられてさてかごのなか〔ちぐさにすだくむさしのゝあぶみにあらぬくつはむしいなごすゞ虫こがねむし馬をひ虫のやるせなやわれはおよばぬみのむしなれどちゝよとなかでこひに身をやつれはてたるきりぎりす〕はゝはくさばのかげでなく(光盛舎 さく丸)
くわせものとはしりつゝほれて〔ぜゝでまるめてうわさでこねてこまちざくらの詠にあかぬ〕あきがきたらばてぎれ金(和泉ばし通り 房丸) ぬしあるおまへとしりつゝほれて〔とてもいろにはなられぬけれどせめてやさしいおことばを〕きいてたのしむ胸のうち(光盛連 房丸)
《端唄省略》(上広光盛連 よね丸)
いまはたがいに人めをしのび(やぼないなかのくらしでもはたもおりそろちんしごとつねのおなごといわれてもとりみだしたるしんじつが〕やがてはれたるみやうとなか(江戸ばし てつ)
あれみやしやんせあのかりがねもいとしかはいのみやうとづれ(光盛連 なか女)
つきもほのかにくもまをもれてはれてふたゝびぬしのかほ(光盛連 なか女)
もしもこのまゝあわれぬならば〔いやとよわれはこひごろもはやぬぎすてゝうばたまのすみのころものたらちねの後のよねこふぼだいしんがうきのみちでさむろふぞや〕ほかのおとこのかほもみづ(上広 ぬし平)
《端唄省略》
《端唄省略》
はつねなかせたおまへをすてゝ(みわたせばよものこずへもほころびてむめがへうとふうたひめのさとのおなごははるははねつくてまりうたひとごにふたごみはよをしのぶいつかむかしのさゝめごと〕なんでとまろふもゝのゑだ(光盛連 仲女)
《端唄省略》(かみ つね作)
ひとのめかほをようようしのび〔つりどうろうのあかりをてらしよむながぶみはみだいよりかたきのやふすこまごまと〕かいた手くだをゑんのした(すみだれん 年かげさく)
《端唄省略》(しほ 善作)
くるかくるかとまつみはほんに〔いつしかしらむみじかよにまだねもたらぬたまくらにおとこごゝろはむごらしいおなご心はそふじやないかたときあはねばくよくよとぐちなこゝろでないてゐるわいな〕さめりやひとこゑほとゝぎす(墨田人作)
《端唄省略》(京ばし 酒長)
じぶんのこゝろがじぶんでしれぬ〔あふたしよ手からかわいさが身にしみじみとほれぬいて〕もとめてくろうをするわいな(さくらもち 大黒や内 ひさ)
ふればふらんせおまゑのくせよわしがなみだのさつき雨(さくらもち 大黒や内 ひさ)


神楽催馬楽の往昔より曲節あるものは都て七言を発語ものと伝へしに彼琴後翁がいろはにほへとの歌を註せられし中にも七言をもていひ出るは今様の謡ものなるべしとかゝれたり然れば近き世の小歌も真土沈でと七字をもていひ出すべきを当世は春雨の五字に作られしは詠歌の様にしていとつたなきわざになん覚ゆそを三弦の手附にたはけ咽でやりくる上手振りされども作者の用心はまゝよ三度を手本として都々一ぶしをつくらばやと教る力もあらがねの土もて造る素焼の木偶の彩せねば艶もなく大きにお世話の仰も合点まだ革足袋の五十には踏込ねども老婆心章指にかゝツてやつてくりよ卜応需はしかきす
          梅素亭玄魚誌

   梅素亭玄魚撰  五十点歌
おもひ積りし高嶺の雪もとけてうれしき春の水(左慶)
蓮のひと筋かう骨折れどたえておかほもみづ葵(三ミセンボリ 餅好)
花の兄さん色香をすてゝ粋な実をもつ時もある(さくらダ 竹丸)
頓て夫婦となるみのゆかた思ひ染たもむりはない(柳バシ 菊竹女)
あつくなつたをうわべえ出さずじつとこらゆる定斎売(小ナキ川 津寝)
わかれわかれと人には見せて水に浮草根はひとつ(松のや 孝人)
こゝろせかずにさめないやうに松と竹との末ながく(ふか川 かつ金)
秋の夜風の身にしみじみと猪牙じや寒かろ天の川(本郷 雪幸)
雪にや枯木と見へても頓て花をさかせるはるもある(下谷 権政女)
あんまりつらさにうつかりひよんと門へ出てみりやあきの暮(ふか川 千之)
初子初子と野引にひかれくるわのかり寝をまつの雪(モリ下 青キ)
羽折着せわた背中をたゝききいた黄菊のもんどころ(カンダ 時成)
雁の文さへもう帰されていまは便りもなしの花(武 善ケ野 山幸)
ぬしに近江は美濃たのしみよ寝もの語りはかやの中(司馬 巴馬)
五月雨の閣に迷ふも恋路の習ひいつかはれ間をまつの月(水道ばし あさ寝)
桃や桜にや誰しもかよふわたしや野山で松ばかり(鐘連 音平)
酒を嫌ふて牡丹餅ちや喰へど恋とさくらにや下戸はない(ときわ丁 志名次)
蒲団抱しめ身をふるはしてなみだのみこむ二日灸(瓢箪しんみち 文女)
はりにいつてもわたしじやゆかぬ窓や障子の穴じやない(羽衣連 かつみ)
炭にたとへりやおまへは樫木おこりやわたしもあつくなる(寿扇斎)
文にやくわしく書てはあれどチリンコたのめばかただより(小ナキ川 出来内)
撫つさすりつ大事にされりや内に寝るときや柏もち(紫レン 梅春)
山家育ちの薮うぐひすも廓へかわれりや歌をよむ(仝 花船)
すへは女夫とわしやまつ虫よきうりきつての身の願ひ(カネ子 建立)
気がねくらうも逢ふ楽しみもおもへば寒さもいとやせぬ(東両国 岩吉)
ぬしに淡路の夜はむり酒にかよふ廊下を千鳥あし(芝将ゲンハン 巴藤)
さつしておくれよ花ならつぼみ万事いたらぬことばかり(カンダ 小藤)
もしやぬしかと月さすまどをあけりやかぼちやの影法師(ホン郷 都保斎)
内の女房はさぞやきなべよはしもへだてぬさし向ひ(青梅? 梅八)
待も恨むもおとゝひ来なもつらひつとめの中にある(楽成)
月と柳の影おくいけにあそぶおし鳥りや鞠の沓(青梅? 百川)
眉毛かくした雁がねびたいアレサかへ名をよびなんし(本郷 自然丸)
〆る障子におもかげのこすねやにうれしき月の梅(トキハ丁 花幽)
賤が伏家にさす月よりもしのぶ恋路はもれやすい(下谷 権政女) 今じやひかれぬ六日のあやめのぼりつめたる恋の意地(竹丁 勝女) 夕がほのはなの白きに七難かくすしづが伏家のやつれがき(水道バシ 一丸)
時せつまたりやうアノ梅さへも春を待たずに花をもつ(小ナキ川 茂みち)
さえりや猶更うはきの月をわたしや頼まぬ胸のやみ(立川 十次
木の実木のもともまれて落てぬしの情でひろわれる(品川 袖丸)
見てはわるいとかくせしふみはかほに紅葉のちらし書(神田 清花)
どふでおよばぬ深山のもみぢおもひそめたる木がしれぬ(ハマ丁 屋の)
ぬしの心になびかぬくさはなふてわたしを秋のかぜ(青梅? 小梅楼)
鏡蒲団にまことをうつしぬしをちからにうきづとめ(清元 寿摩太夫)
月につらるゝ身としら露ののぼりつめたる草の先(根津 起照)
軒に巣をくむ乙鳥でさえも辛苦しのゐでそへとげる(南サヘギ丁 松寿斎)
ぬしの心は井づゝのさくらうつりやすゐに気がもめる(岩井 小志津)
つらひかなしい年季のうちを辛抱する気にや花がさく(シバ 巴馬)
覚悟きめても邪見な軒えつられるよはみの葱ぐさ(柳ばし しん助)
すゐな枝葉にかり寝のまくらしどけないのが?の癖(横山三 菊亀)
うき名たつ浪恋路のやみにまよふつらさを啼千鳥(小ナキ川 不二の家

  ●珠格文略
   番分十客之歌 五十五点より八十五点迄
おもひわび介気計りもめどほんに逢瀬も玉つばき(?洲楼 好雅)
しのぶ約束誰が水さして氷る妻戸のうらめしや(羽衣連 栄扇)
ぬしの来るのをくよくよ待てばまたぬれんじに時鳥(本郷 しゞめ)
すねた梢を手管とやらでおつにからまる藤の花(小網丁 花見吉)
どうで届かぬわたしがこゝろ風の尾花のかたまねき(三味線ボリ 安?夫)
たがひの思ひがかさなる手先人眼ふせたる歌かるた(根津 角松)
つらいうきめにわしや近江?ぬしにつられて夜を明す(武谷ケ? 万事馬)
お気に障ろがかういふたらと案んじこほらす筆の先(二ツ目 つばめ)
余処へひかるゝ事ともしらでひとり子の日のぬしを待ツ(赤坂 かつら子)
○雲中雨
雲に頼んで暫しがあいだ月のひかりをかくしたい(平の丁 ちうちう)


  再考 三光の歌
○九十点
ふつと濃茶の口切そめて胸の帛紗がさばかれぬ(三味線堀 出たら女)
○九十五点
おもひ次たす巨燵の火さへ痩て来る程まつつらさ(花憐堂 弾鳴)
○百点
廓の桜も見あきてはやく見たいおまへの寮の菊(四ツ谷 菖蒲の屋 夢足)
聞も咄すも人眼をかねて背中あはせのすゞみ台(青梅? 梅の戸)
頓て夫婦となるみの浴衣おもひそめたもむりはない(柳ばし 菊女)
しのび足して閨の戸あけてそつとたちぎく虫の声(横山三 松兼)
主に近江は美濃たのしみよ寝もの語はかやのうち(司馬 ともへ)
露の情の色香にそみていつか逢瀬を菊の花(三味センボリ 餅々)
氷る硯にゐきふきかけてこぼす泪にしめる筆(二ツ目 あきら女)
五月雨の闇に迷ふも恋路のならいいつかはれ間を松の月(水道バシ 朝寝)
こたつ櫓で恋路の角力アレサ人目の関が邪魔(シバ 藤暮里)

   三光之歌
九十点
色気づゐたよこのほうづきも人目なければちぎられる(御舟蔵前 ゆたか)
九十五点
ぬれて色ますわか葉のもみぢすえにやうき名のたつた川(小アミ 梅中)
百点
露の葉ことに照りそふ月はどこへ誠をうつすやら(二ツ目 つばめ)

   紫連補助之歌 硝子の中におよぎし金魚でさえもぬしにつられて気がもめる(菊の屋 秋月)
山吹の色に迷ふてうき名はたてど当座の花には実がならぬ(香琳舎 春眠)
青いすだれのうちからのぞく?がめにつくさくら草(春道 楽成)
風の便りに任せて逢ふてうれし泪の落葉川(江左庵 花船)
泥にや咲ても江戸紫はいろに根づよひかきつばた(?泉舎 ?長)
ぬしに逢ふのはよい緋ざくらよつもるはなしも山ざくら(後見 蓬斎 東琳)
○玉章のあつまりたるを見て
余所の恋路と浮気な花をよせてながめて気をはらす(催主 梅の家 梅春)

   軸
はなし声さえかすかになりて更行閨にきりぎりす(柳亭 光彦)
二タツ来たよりひとつがゆかし花にゆらるゝ蝶の夢(鳩垣 桃叟)
はたからおまへの噂をきけば逢ふたはじめをおもひ出す(梅素亭 玄魚)



C『どゝいつ葉唄節用集』
(光盛舎さく丸自序。万延元年。山口屋板)

   自序
盛んなる哉都々逸節は。元深川にて専はら行わるところの。よしこのぶしにて〔よしこの〕「お手がなるから銚子の替りめとあがつてみたればお客が三人庄家こんこん狐拳」夫を扇歌といふ大僧正。常州より顕はれ出。一流都々逸と題号して。世上に流行らしむるは。彼僧正が大徳ならんか云々
  万延庚申夏の日  光盛舎さく丸誌

ほつとひといきうれしやゆめとさめてとゞろくむねのうち(上広 ます女)
ゆめでなりともこゝろのたけをつふじさせたやわがおもひ(本郷 琴二)
さきじやほごにとするのはかくごせめてまくらのかみになと(下谷 きんし)
ふでにやつくせずくちではいへぬおぼこごゝろのやるせなや(上広 たか女)
そらははれてもまだはれやらぬむねのくもりはきのまよひ(下谷 の山人)
つらいわかれをこゝろでないてわらふてかへすもぬしのため(上広 なか女)
いきなおかたにやほれまいものよほかでもこんなにほれるだろ(上広 はる女)
ゆくへもしれないわたしのこひはいとめのきれたるとんびだこ(仝)
おまへのてくだについのせられておとこぎらいをほごにする(上広 なか女)
ぬしをみめぐりきはすみだがはそばにいとざきまくらばし(仝)
三日なりともそはねばならぬこれもおんなのいぢじやもの(上広 なか女)
かたいかたいといまゝでいわれおまへゆへではこのしだら(上広 おまつ)
まただまされたかヱヽはらのたつつらのにくさよあのくひな(房○)
二せとちかひしおまへとわたしむねきなあくまがみづをさす(さく○)
すひのすひほどはまりがふかい〔しん内あけがらす〕(けいせいにまことないとはそりやわけしらぬやぼなくちからいきすぎた)ねんきよいれてもよびとげる(よし盛)
うちとそとでのいもせのちぎりあがるはしごのだんがない(上広 さし紋)
かみもほとけももうたのまないどうせそはれざむふんべつ(下谷 木ぐせい)
ひとにや奴といわれしわたしいまじやおまへゆへまるぼうづ(上広 指もん)
げいしやせうばい女ろうにやおとるしやみせんまくらでぬすみぐい(上広 藤茂キ)
ほれたふりよすりやあのしやツつらでかゞみとそうだんすればよい(大茂 きん女)
のろけたふりをすりやあのどたふくめきざなみぶりのざまをみろ(大茂 いく女)
いやなおかたとそはせるよふなどんないつものむねき神(上広 弥太郎)
たまのごてんでもひとりねはいやよぬしとそひねのしやくやがり(上広 はる女)
かねはわきものおとこにやかへぬびんぼうするほどなをかへぬ(上広 さしきく)
おまへ思ふもわたしのいんがおもわれさんすもまたいんぐわ(上広 越惣)
やるせないほどほれたがいんぐわ〔冨本なるかみ〕(こひしいわいなさりとてはしばしのうちもわすられぬこひすてうもはやふツつとおもひきりさりとてもなさけなや)とてもそはれざいのちがけ(池のはた さや亀)
いまねたばかりにてもにくらしいかねとからすにちや屋むかい(上広 すみとら)
やなぎにうければなをつけあがりこうもりくつがいゝたいか(仝)
うめにやうぐひすたけにはすゞめおもひあふたるなかじやもの(下谷 ふぐ清)
さめにやふぐきす鮭にはするめうごいぼうだらさばじやもの(仝)

  序文にかへて
みつまたにながれ寄る身や郭公(光斎画讃)

たがひにとびたつおもひをかくししらをきるほどあらわれる(上広 さしきく)
すいたおかたにやわしやいのちでもなんのいとをぞつゆほども(みはし 大茂 ゐく)
ふさぐふりをしてはしごのだんでばんにきつとゝしたをだす(仝内 きん)
ながいねんきをゆびおりかぞへまてばすぽんとふいとくじ(上広 住とら)
うはきなおまへとしりつゝほれていまじやこうかいするわいな(上広 なを女)
すへはどふでもとうじのところどふまアあわずにくらされう(上広 はる女)
まつがつらいとそなたにいふが〔清元おそめ〕(うちをしのんでよふよふとこゝでたがひのやくそくはこゝろもほんにすみたがはひとめづゝみのかはぎしをたどりたどりてきたりける)むりなしゆびしてでるつらさ(上広 みよ女)
たにまをばみればさかりのあのおそざくらやまがそだちとみさげられ(上広 おまつ)
馬く猪卯象へ虎川獺よ牛の狐にやばかされぬ(仝 おまつ)
うぐひすのうれしなみだかあのむらさめははなをちらさぬようにふれ(おまつ)
かごのとりとはようなをつけたないてもてなすとこのうち(すきや丁 小間きん)
ひざにもたれてかほうちながめ〔冨本小ひな〕(そりやなにいわんすはん兵さんそりやふたりがなれそめは思ひ大つのしばゐまちうきがなかにもたのしみはしよかいにほれてうらみわびほさぬそでだにあるものを)どうすりやうたがひはれるだろ(上広 なを女)
ひとめしのんではなしをしたもいまじやたがひにおもてむき(同唄女 きく)
ひとめおゝけりやはなしもできずどうすりやそはれることじややら(同唄女 伊のすけ)
ほようがてらといゝこしらへてあへばなをますしやくのたね(すきや丁 唄女 とら)
はるの日ながにつひうつとりとたからふねこぐひめはじめ(同唄女 やこの)
すへのすへまであかしておいてきれるおまへのぎりしらず(上広 たか女)
すだれおろせしあのやねぶねはこいにわたしのかぢまくら(上広 住とら)
しんではなみはよしさかずとも〔清元あけがらす〕(そなたもともにといゝたいがいとしそなたをてにかけてどうなるものぞながらへてわがなきあとでいつぺんのゑかうをたのむさらばやと)わるいしあんもほれりやでる(上広 住与三)
にかいせかれてあわれぬこのみまたのごげんはかみだのみ(うたさは うめ)
どてをみめぐりあれみやこどりふうふなかよくみやこどり(仝)
うはきせうばいたがひにすれば〔おしゆん〕(よのなかをなにゝたとへんあすかがはきのふのふちはけうのせとかはりやすさよひとごゝろ)かたときこゝろがゆるされぬ(上広 ます女)
おまへひとりとおみこしをすへて〔常はづ大江山〕(おかほをみねばきにかゝりひとのそしりもあだくちもぬしのうはさがうれしうて)ひとにやかつがれはやされる(すきや丁 小間きん)
あだなすがたについほれこんでのぼりつめたるだんばしご(うた沢 うめ)
にかいをばいまはせかれてアノうちぢややでちよつとしゆびしてあふられし(上広 ます女)
うはきらしいがまアきかしやんせ〔冨本うす雪ひめ〕(あひみしときはすぎしはるじしゆのさくらもはなざかりほんに思へばきよみづのくわんおんさまのおなかうどたがひにひとめつゝましく)おもひいだすもうさはらし(上広 なか女)
こひのしんくにあきかぜもれてこゑもほそるよきりぎりす(三遊亭円朝)
おやもとくしんあれならよいといへどねんきがまゝならぬ(三ますや かつ?)
おまへいやでもこちらじやすいたほかのとのごはもちはせぬ(泉通舎 房○)
ことばとがめはよしてもおくれそちのうはきをかくすため(上広 越惣)

  序文にかへて折句
どうづこえ
とんな野郎が
いつしんに
つまらぬことに
ふしづけをして

せくなせきやるなうきよはくるま〔五大力〕(たとへせかれてほどふるとてもゑんとじせつのすへをまつなんとしよう)めぐるつきひをまつがよい(上広 なを女)
そでをしぼりしあのあさがほもけさはひらいてわらいがほ(上広 まつ公)
こゑはすれどもすがたはみへぬほんににくいよほとゝぎす(仝)
ほどもおとこもこゝろもぐずで女ぼうにりえんができかねる(ぐず要)
こまにみすじのたづなをつけてこひのおもにをひかせたい(歌さわ きらく)
つきもくもりのせきじをこへて〔長うた老まつ〕(いろかにふけしはなもすぎつきにうそにうそぶきみはつながるゝ)はれてあふひをまつのかぜ(上広 越惣)
かはいゝおかたをみづがめへおとししひやくなければあげられぬ(上広 弥太郎)
うたゝねをおこせどおこせどたぬきでおきぬ〔同〕(はつくせう)かぜのとがではないかいな(上広 きんし)
みちならぬことゝしりつゝほれたがいんぐわどくくやさらまでしてとげる(上広 一庭)
こゝろせきやでしゆびまつよひはへだてられてもまつちやま(上広 越宗)
うきなたてじと思へどじやまな〔長うたまくらじゝ〕(ひとにうたわれゆいたてのくしのはにまでかけられしひらもとゆいのゆひわげも)みゝとくちとがなけりやよい(上広 越宗)
にはのまつがへあやかりものよいつもかはらずあをあをと(すきや丁 唄女 いと)
三ぜんせかいにおまへをのけてほかのおとこはめにつかぬ(仝 唄女 みつ)
さけものまんせうはきもさんせあとでおんりよのないように(光盛舎 さく○)
さぎをからすといふたがむりかゆきといふじもすみでかく(すきや丁 唄女 きみ)
くどきじやうずにつひのせられて〔はうた〕(だまされぬきてだまされてすへはのとなれやまとなれ)いまじやきれるにきれられぬ(上広 たか女)
つきのあかりにふねつけさせておもひあふたるしゆびのまつ(上広 はる女)
あめのふる日はまたひとしほになをも思ひがますかゞみ(上広 弥太郎)
よべばふためとしつてはゐれどあわづに〔詞〕(アレサゐられないんでありますからサかんにんしてくんなましよ)(仝 唄女 こと)
たまにあふのにもうあけのかねなさけしらずの〔詞〕(ヱヽモじれつたいむちやぼうづのじんすや引)(仝 唄女 こま)
おふたそのよはたがいにくぜつ〔冨本夕ぎり〕(わしがあんじはうつりぎのほかにもしやといゝがゝりしまいつかねばさよふけてせなかあはせてねてみてもつゐそれなりにはりよはく)わかれいとしやあけのかね(本石 ほりいは)
すへのとけないあくゑんならばむすぶいづもがうらめしい(中ばし しん)
わたしがいやならつんつんしやんせこちじやあくまでじやうたてる(仝)
かぜがもてくるあのつまおとはぬしとふたりのつぢうらか(常はづ みつ女)
ふじゆうがちでもくろうにやならぬことはたりてもどらはいや(清元 さと女)
りんきぶかひをよくつもらんせぐちになつたもおまへゆへ(上広 一庭)
とりかげにねづみなきしてわしやなぶらるゝこれもくがひのうさはらし(ゆしま おろか)
てなべさげよがつゞれをきよが〔義太夫しちみせ〕(たかいもひくいもひめごぜのはだふれるのはたゞ一人りおやけうだいをふりすてゝとのごにつくがよのおしへ)そひとげないでおくものか(上広 みよ女)
とうが九ツおまへの女ぼうひとつたらねばくろうする(橘や円太郎)
あがるはしごはくろうのさかにのぼりつめてはなんとしやう(橘や 円六)

   序
二上りに唄ふ唱歌は。都々逸の。仇な文句も世の中に。連て曳出す弦道の。あいたる口に〆りなく。うなり出したる声太(だみ)ごえは。調子や節にかまいなく延る日数に帖数の。ふゑる通人(すいしや)の新作は。義利人情の二タ筋三筋。引手数多の艶女が情の底を掻さがし。人丸(すひ)のすひたる一ト節は。身にしみじみと嬉しさの。さわり文句に乗が来て。欠来る山口(とひや)の催促に。醜男寄合(あつまりぜい)の速吟を小刀匠(ほりや)に任せて売出しを。求めて全盛をまよはせ給へと云々
  万延初めといふ皐月    泉通舎 房丸述

あへばたがひのとくとはしれど〔常わつ関の戸下〕(しゆびと思へどやりてがみるめまつたぞやヲヽよふきなんしたあいたかつたもめでしらせ)せかれりや思ひのますかゞみ(泉通舎 房○)
ひらくこよみのゑはうはうれしあきのかたとはきにかゝる(本郷 琴二)
かはりやせぬぞへわかばのみどりぬれるたびたびいろをます(中ばし まつ女)
たよりないみにたよりができてもとめましたよひとくろう(上広 弥太郎)
きれてしまへどいぜんのことを思ひだしてはなみたぐむ(下谷 可山人)
たまにあふよにわかれのからす〔たつみ八けい〕(きぬぎぬならぬやまがねもこんとつくだのつぢらに)まつばかんざしたゝみざん(上広 なを女)
おもひあまりしおなごのこゝろ〔京うた〕(こひがうきよかうきよがこひかちよときゝたいまつのかぜとへどこたへも山時鳥)こへになかねどめになみだ(上広 なを女)
ぬしをおもへばまたなをさらによるもねられぬかやのうち(すきや丁 唄女 わか)
かぜにもまれてわしやふはふはとめだしやなぎじやあるまいし(同 唄女 いと)
さきのこゝろもしれないうちに〔清元山かへり〕(よつやではじめてあふたときすいたらしいと思ふたがいんぐわなゑんのいとぐるま)ほれるわたしはふかくもの(光盛舎さく○)
きりといふどのふたすじなはでつなぎやとけまいこひのみち(上広 越宗)
わたしのきゞくをぬしやしらぎくとそばをのぎくはあきのきく(上広 指きく)
はおりぬがせるそのうれしさは〔一中ぶしあさま〕(むねのとけいのくるまのはめぐりめぐりてあけ六ツのわかれにたてしせいもんのせんも二千も三ぜんもせかいにひとりのおとこじやとたのしむなかのふかみどり)きせる思ひがなけりやよい(泉通舎 房○)
わたしやのにさくたんぽのはなよひとにふまれて〔詞〕(よこのほふへちよいとさいた)(すきや丁 唄女 わか)
むもれ木じやとてこばかにするなむかしははなよ〔そゝり〕(こりやなすびのたねじやない)(仝 唄女 きく)
うかれはなしについみがいつて思はずあかすあけがらす(中ばし ため女)
よひのさはぎがくぜつとなつてなにかたがひにてもちなさ(上広 さく○)
すへのとりぜんたのしむよりも〔はうた〕(二かいせかれてしのびあふよるはむねさへくろぬりの)とうざのだきねがしてみたい(上広 たか女)
とうざかるのもみなぎりづくよひとめのせきにへだてられ(田丁 さわ女)
あれみやしやんせこのふるゆきにどうしてぬしがかへされう
思ふおとこになぞかけられてへんじするのもくちごもる(下谷 木ぐ清)
わたしのこゝろをおまへはさとりヱヽもくやしいじらしよふ
むまがおやせばまごまでおやす〔はやりもん〕(ちよんきなちよんきなちよんちよんきなきなちよんがなんのそれちよちよんがよい)むまとまごとのきつねけん(てうじや丁 斎徳)
あきもあかれもせぬなかなれどぎりといふじはぜひもなや(上広 さし菊)
さだめかねたるおまへのこゝろあきのそらではあるまいし(大茂 いく)
みの茄子とがとて木瓜をきられそのうへおまへにや漬こまれ(上広 さく○)
うちじやまじめでそとではいきな素人苦労人のうらおもて(上広 すみ与三)

   序
夫詩は有声の画なり。画は亦無声の詩なりと。古語に曰。大津絵端唄の文作も。さとれぬところは絵にて詠と。ほこりなからに。諸君の案事大盃に引請て。酒盛主人が管(ふて)まかせヨンヤまかせと。序文もおなじく。傍若無人の呑仲間すましの文をすゝりにくみて
  書子庵酔人述

もとうた
けいはうはしごずりかみなりたいことつるべつかおわかしゆはたかをすへぬりがさおやまはふじむすめざとうのふんとしをいぬくわへてぎやうてんしつえをばふりまはすあらきのおにもほつきしてかねしゆもくひようたんなまつをおさへましよやつこのぎやうれつつかがねへんけいやのね五郎
四季
しきのながめのふうけいは人のこゝろもはるがすみはなのくもたなびきていづるつぼみのいろざかりひくてあまたのすゞみぶね猪牙の音はしるさゞなみにあつさのこしていりしほのあきはさらしなしたのつきくさにはあさがほはぎきゝやうかれのにゆきみはふぐとさけとでふゆごもり(泉通舎房○)
春はるかぜにさそわれてうめみもどりのすいづゝやきさらぎのはださむきはつねゆかしきうぐひすもまたむすめぎのあどけなくもゝとさくらのいろくらべ人のめにつくいとざくらとけてねまきのまくら紙引さいて眉げをかくしモシにますかへヲヤおまへの口には紅がついててるこれはのぼせのましないよ(泉通舎房○)

めにあをば初がつをうる一トこへはてつぺんにぱつといふほとゝぎすとんでゆくへやふじつくばうのはなくだしはなみどうあまちやに濡てさみだれのかはくまもなきのほりざほのきのしやうぶにかぜかほるざしきにはきやくのきげんにあいさゝも夕立まもなくはれてきかくのものがたり(仝)
あき
あさがほにつるべとられてとなりでもらふけしやうみづつくりあけしはなのつやしろいゑりあしぱつちりとさきしはうすべにみづあさぎかのこしぼりのべにざきもいまはてぞめのいろざきにからみついたるつるのてをときかねしいろもやさしき紫のてことにからみてきまゝにさかせしぬしのはな(仝)
ふゆ
厂わたるあさ寒に人のこゝろもわざずまゐきゞのははあめとふりきのふのふちはけふのせとかはるみやまのくらしにもしばかるわざもぬしゆへにやてなべさげてもいとやせぬ何のおしかろいのちをも人がみるアレはづかしいこのこたつふとんかければアアレくすぐつたいようれしいネ(仝)
流行もの
このごろのはやりものてうれんたいこやほらのかいふきやにはやうきかばしまだのしんなしぶどうねづみあめりかさんぶつ保字こばんにこはまけんぶついき人げうひゐさいたのすけ成駒やむすめあきんどてんぐれんりやうりやはいきなたかそで〔付〕やつてるねうたさはけいこじよこはいろものまね〔詞〕ぱいぱい
天神記
かいちうわきかれかたかれとあれはどなたのおとふりじやふじわらのしへいこう〔詞うめ〕なんときいたかさくらまるいまそんぶんいわふじやあるまいかあとからあにきがずつとでゝ〔詞?〕このまつわうがひきかけたみくるまをならばてがらにとめてみよしへいがにらんでうめまつさくらのチヨンチヨンひようしまく
曽我
さみだれのくらきよにたいまつてらしてそがけうだいかたきくどうをうかゞへはしるべのかたはこなたぞとすなまちゑたるうどんげの十八ねんのくもはれてたがひにみかはすかほとかほはじめてひらくゑこまゆいさめどもいまはわかれのにしのそらたけきこゝろもなみだにぬれたるとらがあめ(上広鎌太郎)
艶色
よのなかをいきにくらすかうしづくりのひとすまゐあらいかみいなせふうしやうじのうちはうたさはのしのびごまさへあたなぐさおんなごゝろはまはりぎなよそのおかたもこのよふにほれすきるほどぐちなきもおまへゆへアレにくらしい人じらしさゝはおよしよそれでもいつでもいけないよ(上広さしきく)
国石?
みちのくをなくなくもおやのかたきをうちたさに江戸へでゝなにたかきゆ井せうせつがなさけにてあねのみやぎのしのぶさへぢんがたなぎなたしゆれんしてこけうへかざる二人リづれかたきだん七うちとめてうれしやとゑがほまもなく黒かみのもとゞりはらつてもへきよたゝいてびくとなる(上広越宗)

かたきうちすけだちをなのりもならぬそう六がどふこふとむねのうちみやぎのけうだいあはれみてながいねんきをまいてやるこれぞおとこのかゞみかよけうだいふたりはてをあはせありがたなみだうれしさとそのまゝにくるわをいでゝよふよふとさがしあたりてほんもふとげるじやないかいな(上広なを女)
六歌仙
おくらやまそのなかによくもそろいし六かせんありわらのなりひらははなもいろよい小のゝ小まちわがみよにふる人だのみふみのぶんやもあきのそらむべやまかぜをあらすほどこれぎりおまへ喜せんかへわがいほはみやこのたつみひとりすむそうぜうへんぜうきかぬときはじつに一人リてくろう主(上広うた沢うめ)
侘住居
よをすねてむかふじまへんへ二人リこつそりわびずまひたれにきかねもあらばこそゆきはしきりとふりつもるしんにさむいとおきごたつすいたどうしのくせかして思ひすごしのぐちがでゝちはとくぜつを夕げしやうあかねさすしばししらけたざしきをはしやくがとりもちうけてうれしきゆきのはだ(上広たか女)
口舌
くるとくぜつでいゝがゝりわたしのこゝろはそうじやないせけばせくほどなをつのるあへばうきなをたてられておんなごゝろのやるせなやかみがみさんへぐわんかけてはやふめうとになるやうにほんによのめもろくろくにねむられぬそれにいつまでうかうかとうはきのやまいでほんにおまへはつみなひと(上広たか女)
夏げしき
ゆうだちのふりだしは人さまざまなかぶりものこめだはらやぶれがさははだしでかけだす人もありのきのしたでのあまやどりよふゐにかやをつるごろごろなりだすかみなりのあとからはれゆくなつのそらきすゞしなんの雲なくつき一ツひるまのあつさをわすれてしまふたすゞみぶね(下谷可山人)
盛衰記
さてもやしまのそのかつせんは思ひがけなきさかおとしべんけいかさきにたちかめ井かたおかいせするがなかにも大せうよしつねはござぶねめがけてはしりゆきもんいんさんをちよいとゝらへしなだれかゝるうしろよりのりつねがまおとこみつけたとこへをかけきいてひつくりきかうてん八艘飛でよふよふのこつて助かつた(下谷木具清)
あこや
はんざは六郎めしうどあこやのなはをときさまざまいたわりてふびんをくわへ思ひかくれどなにぶんかけきよゆくへはそんせぬとほかにもらすことはござりませんいわせもはてず岩永左衛門しぶとい女とたちかゝる重忠ちやツとおしとめてこれあこやそれなる三きかへしらべよや五言のはつしで四相をさとりち仁勇(上広はる女)




D『新選葉うた都々いつ』
(一筆庵英寿序。刊年不明。幕末刊か)
凡人情に応処は三十一文字の和歌にかぎれりされどむつかしきことの葉には婦女の心にとけざるものなり其心もまた得がたからん今世上に流行する所のとゝいつぶしといへるものたけき武士の心おもやはらげかたひ女の心さえうごかす是其真をうたふ故ならんされど唱歌のさま実にいたらざればうはのそらの風のごとく酒屋の門を走たるに似たりされば心いきをすひしてつたなき画をものしてたはれぶしをもふけ新案のうたひものもてこのめる人のなぐさみにそなふのみ
          二世 一筆庵英寿

おまへの事てはこれ此やうにてうしはづれのくろうする
てうしはづれのくろうをしてもすへはいかゝとものあんじ
筆のすみよりこゝろのいろはふみにまことをちらしがき
すまのうらなみまたたちかへりきではまとはれ友ちどり
わかひときは二どはなひよとうはきをしたが今もかはらずいろぐるひ
これほどほれたがめにみへないかつゆのなさけにおみなへし
一夜あはねばおもひのたねよあふにやくろうのたねながら
おやのいけんも世のそしりでも一夜あはずにいられうか
いけんしながら心のうちでわかいものならむりじやない
これほどおもふにあてづらはませちわのくぜつはとこのうち
むかしかたぎはさてやぼなことほれた心にやふたつは(ツメ)ない
ほれたまこともみなしりながらつとめする身とうたぐられ
四かく四めんはそりやおもてむき人にこゝろをおきこたつ
ふみのたよりじや心もすまぬむねのうちさへみたれがき
ふみにまことをかくとはいへどふでにたぬきのけがまじる
人目しのびすきなものさへくはずといのりすへはふうふとかみだのみ
つゆのなさけのゆきあふなかはもとはいづものかみむすび
ひとよふたよのなさけのつゆにうかとひもとくはなもある
恋のみちには心のこまもたづなゆるしてはなしがひ
はなしがひなる心のこまもすきないろにはとゞめられ
いろであいしはきのふやけふといつかはれてのとこかざり
うちじやにやうぼにこゞとをいわれきのふは壱分でとこのばん
しのびくるよのやくそくなればねるもねられぬとこのうち
つらひ事をしばしはさけにわしはわすれてもさめてちろりと思ひ出す
なけばなくほどたがひのあだをしつてわかれはなをつらひ
うそもまことも口ではしれぬかはらないのがじつとしつ
じつとじつとでよりあふなかはきれどきられぬえんのいと
かねてやくそくまつみのつらさじつのないのかあきたのか
いけんいふ身もいはれたものよむかしおもへばおなじこと
まゝようきよの男女の事よおやもいけんをせぬがよひ
ぎりでへだてはやけぼうぐひよとこでかくつくこともある
人はうはきとそしらばそしれなんのうはきでほれられう
うはきでむすんだえんではあれどいまじやしんじつ身のつまり
こゝろしづかにじせつをまちな野にもはなさくときはある
野にもはなさくときさへあれどまつにやまたれぬこひしさに
せいちやわるひとふみにはあれどふうふぐらしを見るにつけ
十日ばかりもあはずにいればとかく心もおちつかぬ
とかくこひぢはあとさき見ずにふれうけんほどふかひ中
うかうかとすぐる月日はたゞゆめのまよいろには(ツメ)心もまゝのかは
かねのいかうで手にいるよりもさきがほれたらいのちでも
かねのひかりも恋ぢのやみにまよやうきよはべつなもの
かねやふうきはまことにやならぬほどのよいのにきがまよふ
人のよひ中うらやむ君はいろのせかひをしらぬばか
はでなさくらのはなばなしよりじみなまつばのすへながく
松のちとせもかはらぬいろはみさをくらべのじつの中
あんじるさなかへとりかげさせばねづみなきしてたゝみざん
いろはしあんのほかなるものよまよふ心はわれしらず
まぶいつとめのうさはらさずにかへつておもひのますかゞみ
しらすめがほもつひしれやすく人にやうはさをたてらるゝ
おりがわるひとめがほでしらせかへすわたしがむねのうち
あきらめましたよどふあきらめたつれてにげるとあきらめた
ふみをかくとも心のうちをうすひすみかとあんじられ
たよりまつ身を人にはしれずほんにひとりでくろうする
おなじおとことむまれた此身ほんにいつまでひとりもの




E『新文くゑいりどゝいつ』『薫りどゝ一』
(吉田屋小吉板。刊年不明。幕末刊か)

『新文くゑいりどゝいつ』
なかのいゝはづこれ見てくんなさんどのはしさへふたりづれ
しかのつまこひつまどにもれてひとりねるよのうきまくら
こゝろのおにゆり人にはしれぬすがたやさしきかほよばな
こむすめとらへてむりおうぜうにあさひなさぶらうのもんやぶり
かぜふかばおきつしらなみたつたりゐたりもしやぬしさんがきたのかと
ふるいたとへのひなたのすいくわあつくなりたやひゐきれん
なさけなつのゝをしかのつのよそのつかのまもわすられぬ
さけのとがゝとりやうけんすればまをとこされてもすてられぬ
おやのゆるさぬえにしとまゝよ〔ふうふのやくそくほしあひにかさゝぎならぬおだまきをちよのなかだちとりかはし〕おもひおもふたなかじやもの
あるよひそかにさみだれすがたうれしいしゆびをまつのつき
にようぼたとへばとこのまはしらいろはいけばなたうざもの
ふけてあをたにこかるゝほたるれんじまできてかやのそと
おんぼはおあひだわらかしやがるよひろくてよかつたことはない

『薫りどゝ一 二へん』
かねをかり宅せつせつとかよひゑんよりもとでがきれはてた
待もせぬ客はくれどもまつあの人はこゑもまだせぬじれツたさ(浅クサ 唄女 ちよ)
しのびあふてもはかなきおふせたばこのんでも身にヤならぬ(おなじく)
おもひおもふておまへのかほを見ればたがひになみだぐみ(おなじく)
おもひやりにもまことはとゞくつゆにやつるゝ草の花
なさけなくなくこひしい今宵横をさかさにきてねやう(梅ボリ 喜作)
女房がいやでうはきをしたのじやないがされていやならよすがよい(梅ボリ 横利)
奴々とあだ名のわたしぬしにふられちヤ身がたゝぬ
こひのなさけやゆかりの色に丘のさわらびもえいづる
雪のはだえになびきし竹のとけて身がるなわがおもひ
女房にかくしてゐるそのいろをあらけだされちややけになる(梅ボリ 琴我)
しつてしらないかほされるほどこゝろぐるしいものはない(梅ボリ たき女)
かわいさうだよきわどい間にもひとめしのんであひに来る(梅ボリ とく女)
悪法かくのも男のためにすまぬせうちのわるだくみ(浅クサ 唄女 そめ)




F『しなり木』
(石川亭板等序。刊年不明。明治初期か。松延堂板)

それ吉原を俗に悪所場と唱へる然れば其悪所場の全盛を迷はするも我美声なり一ツには父母の眼をすかし通ふ茶歌の柴の木についなれ染てしつぽりとくぜつつもりでいつしかに夜も明安く春なれや直万歳の末までもちぎり染あふ種まきやそれぞ茶歌の名人と四方に名高くなるうへは声は猶さら音?は心のうちに入船のけしき見染る?川やしほがみちくる隅田川花の戻りも夜桜にうまみをふるふ舌の先深入するもよしあしぞ只々小?をもとめて御慰になさるべしと尓いふ
          石川亭板等述

《端唄省略》(二見連 石川亭はんとふ作)
ふけてあふ夜の数さへつもりふかくふみこむさとの雪(大しん王 美妙)
たぶらかすのはありや筆のとがきつねたぬきの毛じやものを(兼ケン 川山人)
さしてそれともいわれぬ心いつかおまへにつげのくし(代地 やま)
手くだとなぞらへうそ八百の相場ちがひのくちまかせ(梅泉)
けいせいの口のくるまにつひのせられてひかれくるわのかよひみち(四 今吉)
人の口には戸がたてられぬしりにしまりのないうはさ(花住)
雪に手あしも海老長楼にこしのをれたるむかひざけ(岡モト 長太夫)
きせうにもはなれがたなとかきいれざやのそりのあはないはづはない(市川 米舛)
辻うらもくるとしらせかふりつむ雪に下駄のはがたのなげさんぎ(角ツタ きよ花)
わたしのこゝろはひとすぢ琴のねじめかよはすすまちどり(池ノハタ うめ)
梅のすいどし身をなげいれの床にねじめのべにつばき(代地 むめ)
せけんかまはずぎりをもすてゝうき世はなれて四畳半(稲本 小ひな)
おきてみつねて見つかやのこのひろさかな身あがりじまひのけちなばん(山谷 とり)
きつとかへすと証文いれてかりておきたいぬしの身ぞ(長尾 きみ)
海裳のあめをおびたはそりや唐くさいぷんとさ???江戸のみづ(ハシ丸)
あまりあこぎがうらから夜ごとたびかさなつてはうちのしゆび(宿こま次)
どふでかへさにやならないぬしをせめてねんぷにかへしたい(谷 ツユ道)
はなせばながいよたかなわあたりのろけばなしのふたりづれ(和寿 きく)
いつか一度はいはねばならぬもつれしだいのみだれがみ(福しま しま)
かべにされてもわけみちはたてるどろをぬられた此顔の(佐代 きく)
たとへてんもんはかつてみてもどふでこんやはこんてんぎ(道よし)
それともとおもふこゝろにうらなひ八卦どふで離の卦としりながら(空寝)
たとへ天一天上日でもぬしのこぬ日はわしやくろ日(本丁 尾)
おもふおかたとわたしのなかを琴がへだてゝよしの川(辰尾なを)
なりひらさんでもおまよひなさるあだなむらさきかきつばた(御代住)
雨はしらづしらづ土手八丁をこれもたれゆゑたゞひとり(花よし)
そひたいこゝろは山々なれどぬしにうき名のたゝぬやう(和佐滝)
ことのしだひのしたひもといていつかおまへにそふふれん(沢村 小蝶)
そはしてくださる人へのぎりにきつとうはきもやめましよう(三平)
しんになつたるはなしのなかへぐわたりねづみがオヽコハだきつきわらひ顔(丁 きみ)
あさのかへりはすゞかぢやないか馬がものいふゑもんざか(立川焉馬)
雨はしよぼしよぼかうしのかげよとてもぬれたるそでながれ(尾上菊次郎)
色けないのがあくびのなみだちやうどつばきのちるやうに(沢村高賀)
それでもをしいようはきはさせぬ一文いらずにできたこひ(為永春水)
雨のぬれごとうはきな鳥よ月になじみのほとゝぎす(中村翫雀)
りんきせぬのが女のみちとうはきしたさのえてかつて(ばん東しうか)
おもはじなあふはわかれとあのあだぐちに〔いへどもぐちに庭の小菊のその名にめでてひるはなかめてくらししやつが夜る夜るごとに置露のつゆの命もつれなやにくや〕今はわたしに秋のかぜ(松坂丁 大泉作)
ぬしをおもひのわたしのむねをぬしはすまして茶わん酒(亀沢丁 川竹連 彫岩作)
うす茶たてたてつひ忍びしが〔おたがいにしれぬがはなよせけんの人にきれりやたがいに身のつまりあくまで私が情たてゝ〕いまじやこい茶のなかじやもの(歌沢芝連 津喜長作)
ほかのをんなをもつならおもちわしもいきぢじやきれはせぬ(かやば丁百亀内 大はし 勝?)
君もつもりを切んすならばわしもまゆげおはやしましよふ
ほろでかくれて車おはやめすどふりするよなじやうしらづ
まじめな梅見と内へは云てともにほころぶふねの中
うつくしいほどくらうが多いどんな男か気がしれぬ
くるわくるわとおまへのうはさうかうかねれて夜も明す(同〈美の近江〉小いく)
せなかそむけていゝたい事もがまんすりやこそしやくの種(同 うた)
炭をつきつきしあんの胸へまたもはねこむさくら炭(同 小かね)
あどけないのがかわゆいけれど初心過るも程がある(同〈伊勢利〉小ふじ)
十分の事といふてはわしやないけれどどふぞ百まで此すがた(同〈西村〉かま八)
ぬしを返してまた寝の夢におふたゆめ見て鼠なき(同〈中伊勢〉宮古)
忍び逢ふてもはかなき仰せわけを聞ぬよむかい口(同 房吉)
為を思ふていはんとするにはらをたつとはなさけない(同〈三河屋〉長吉)
つまらぬ事からうたぐりおこしみれば目につく事計り(同〈井松亭〉波吉)
冨士とつく波と何似るものかおもひおもひの山がある(全〈武蔵屋〉小菊)
こひのあや瀬をしんくにするな今に中よく角田川(つる松)
実とま事と私の三味をまた来てうそでさわがせる(全〈越川〉小浜)
もつれかゝりし此黒かみもといて結ぶも人頼み(仝〈柏屋〉小みつ)
春が来たとて外へは出さず内で咲せる室の梅(小吉)
どふせこふなりや手事にゆかぬもとを明石て人頼み(みね)
たとへ逢すと顔さへみればおふた心でしんぼする(小菊)
たつた一トこと落つくよふにいふて聞せて下さんせ(みつ)
心のこして跡見送ればきりが邪魔して見へ隠れ(のぶ人)
おつるなみだをそでにてかくし〔たれとねてきたうつりがとしらベのいとのむなつくし〕とりの鳴までもつれがみ(かつみ連 勝よし君作)
りひはともあれこひぢの道は〔ひくにひかれぬゑんのいと〕とかくしあんのほかしあん(西川岸 竹連 小竹女作)
ぐちじやなけれど私がむねへ〔思ふ人あればこそねぬほとゝぎすまくらにのこるうらみゆい〕くもりがちなる五月そら(本八? 相田連大穴虎作)
ほれてゐりやこそそりやあくまでも〔くもゐにちかきおんかたにすしやのむすめがほれてかよふになにこはかろうこよひもあおふと〕やみも雨夜もあひにゆく(大下仮宅 木村屋娘 玉女作)
《端唄省略》(葉歌柴連 花仙作)
《端唄省略》(文字多勢作)
ういて流れてなかれた末は主と二人かく角田川(赤さか かめ吉)
くぜつして又もちらちら桜花散れど浮名は消やせん(同 国助)
たつた二人のおまへが便り土地を放れてしんぼする(同 民吉)
そふて苦労は世上の習ひ早く二人りがあら世帯(同〈宇治里〉八百吉)
遠く放れて居たくはないが是にや段々わけのある(同 金太)
おまへにまかしたわしの体いふて手をつくはぎのうへ(同 福松)
せなかあはせにくぜつのはてをてんじやうのねづみのなかなおり
だんだんおまへのしんせつきけばやいたもいまさらはづかしい
としがちがをが女があろがほどのよいひとたれもすく
せつかくのごしんせつだがまづ尤とわりさんみやうさいしはやめにとし
むすめのいろだとまたきてつかうりこうなひと九とおやがいう
なさけなくなくこひしいこよいよぎをさかさにきてねよう




G『新板開化別品度々一 十』
(刊年不明。明治初期か)

文明開化に進まぬ者は横文字ヨ煎じて飲せたい
今か今かと主待夜半は憎や水鶏に起される
二人揃ふて取つたる写真離ても未練で捨られぬ
花になびくも世渡りゆゑに東風は三筋の糸やなぎ
智恵は附もの勉強次第鳥や毛ものが芸をする
文明進歩はまたゝく内よ日々に盛んの区学校
浮気な心は少しもないが恋しいお方が有ばかり
彼さお待よ硝子で透る只さへ人目の多い口
花は散るとも匂ひは残せたとへ此末如何なろと
解放でうれしい思ひ暫しの間又も苦界の龍の鳥
腹じや泣てもうはべじや笑ひほんに勤めのうらおもて
心がらとて他人の中で恥をかき染つちかつき
おまへと私しが二人の胸へ掛ケて置たやてりがらふ
末に車を曳うと侭よ引にひかれぬ恋の意地
屏風小楯に抜万隊が女隊へきり込やみ仕合
茅が軒にもおまへと二人り詫た住居の友?ぎ
究理究理と言んすけれど河童野郎の屁尾学者
我身で己が自由にならぬぢれて喰つく夜着の衿
意気な斬髪小意気な坊主一ツベつゝい二タごゝろ
惚た弱みを見込れぬいて根こそげお前にぢらされる




H『つじうらどゝ一 上』
(弦声堂主人序。明治五年。松延堂板)

古人の曰く易は益たり事に臨んで先其吉凶を考へ而して進退す故に悔なしと云々しかれども其意ふかくして学ばずしては解がたし依之今都々一の章句を易の卦面に当其善悪をしるす是然ながら易の益たるにあらずや
  明治五壬申春       弦声堂主人記

ひけすぎに客をかへしてあのまち合のつじでとるのはぬしの占
つるべとられたあさがほよりも露のひぬ聞にもらひなき

乾為天
のぼりつめたる五階のはしご人のゐけんもうはのそら
天風后
てきは大ぜいみかたはひとりわたしや女できがもめる
天山逐(ママ)
あきもあかれもせぬなかなれど義理といふ字でなきわかれ
天地否
しやうじひとへも人目のせきよものもいはれぬ身のつらさ
天沢履
部屋ややりての目がほを忍びあげてうれしいとこのうち
天雷元妄
むかふかゞみにやつれたかほをうつし心でくやみなき
天水訟
いへばどふやらぐちらしけれどいはにやうはきがなほつのる
天火同人
人をたのんでわたりをつけてせけんはれての女夫中
兌為沢
わけもないことわけあるやうにいはれりやぎりにもせにならぬ
沢水困
ぬしの心はいまひき汐でふちも瀬となるあすか川
沢地華
ほどもきりやうもよしのゝさくらこれはこれはといふばかり
沢山咸
ねんがとゞひてこよひのあふせこれでわかれがなけりやよい
沢火革
まつもかれ葉をみなかりこんでしんきしんめがよいはいな
沢風大過
ぬしはうはきな田毎の月よどこへまことをてらすやら
沢雷随
ふたりくらさば深山のすまゐしばかる手わざいとやせぬ
火水未済
月はかたむくよはほのぼのとまたぬひとこゑほとゝぎす
沢天夬
うたぐりぶかいといはんすけれどほれりや心がなほまよふ
離為火
かなくぎのをれのやうでもゆかりのふみはまもりぶくろへいれておく
火山旅
あふはわかれのはじめとしれどいまさらかなしいこのわかれ
火風鼎
おきやくつとめてかへしたあとでぬしとふたりでこなべだて
火地晋
ぬしを思へばてる日もくもるひくさみせんも手にやつかぬ
火天大有
一両がはな火まもなきかぎやのふねよほめるあいだにきへてゆく
火沢?
どふせまかせぬつとめのからだじつもふじつになるつらさ
火雷噬?
あだなさくらのちりゆくのちにまつのみさほはよくしれる
長為雷
まつがつらひかまたるゝわしがうちのしゆびしてでるつらさ
雷地予
そひとげる人もはじめはふとしたことよほれたがえんではあるまいか
雷水解
滝の水いはにせかれていちどはきれるすゑはながれてまたひとつ
雷風恒
たとへどのやうなかぜふくとてもよそへなびくないとやなぎ
雷天大壮
よわいからだでげいしやのつとめしんぼしてくれもうすこし
雷山小過
しらつゆやむふんべつでもくさばがたより恋のうき身のおきどころ
雷沢帰妹
ぶたれるかくごのわしやむすびがみいろであふときやかうぢやない
雷火豊
ちればこそ花はよけいになほをしまるゝくらうするのは色の花




I『新撰善悪辻うら都々一けいこ本 下の巻』
(多川里暁撰。明治十二年九月。太田屋板)

   辻うら都度逸序
何事によらず思ふこと有もの易によつて善悪を占ひ御鬮をとつて吉凶を定るは世の常のことになんされど仮初の事などには問ふべき事にはあらざるべし只其品と時により思ふ先の心いき首尾の吉凶待人には昔は歌占今は辻占煎餅最中蛤は合ふといふなる義に叶へど不来婦といふは禁句故是は気をかへとち文の本まこと嘘の虚々実々御鬮によそへて歌占と辻占かたをかたとりて其吉凶をつげの櫛あらひ髪のさらりとわかる都々一による文句の判断その身その身の望にとり何れ宜なに御すいもじと多川の里暁述るになん

此見ようは思ふ事を心に念じ右左りを定め信をとりて手に当る所をひらきみてさだめば本の右の方よき唄にあらば思ふ事すみやかに叶ふなりあしき唄ならば急には叶ひがたしと知るべし余は是をおして知り給へかし
○先の心いき   ○まち人
○ねがひ望み   ○身の上
○当時の事    ○行末の事
  已上

五十三吉   久困漸能安
くらひいひわけはれたときいてすこしあんどの明りさす
五十四凶   月触暗長空
しのぶ夜みちはくらきがたよりはれちやあはれぬ中ぢやもの
五十五吉   華発再重栄
花もにをいももうちりはてゝ今はみとなる夏の梅
五十六末小吉 生涯喜復憂
今はたがひにまことゝまことしよ手はうは気が小だのしみ
五十七吉   前津逢浪静
風にもまれてたゞよひながらきしへつくかよあま小ぶね
五十八凶   有径江海隔
とをくはなれてゐるかなしさに浮気されてもぜひがなひ
五十九凶   去住心無定
こゝろがらとて古きやうをはなれひよんな田舎のわびずまゐ
第六十末小吉 高危安可渉
およびないとはそりや気のよはいはりのねがひも棒とやら
六十一吉   雲中乗禄至
ゆきのだるまとおまへのこゝろとけるたびごとまるくなる
六十二吉   但存正公道
かほにやまよはぬすがたにやほれぬとかくさくらの花ははな
六十三凶   黄金未出渠
とかく浮世はせつたのうらでかねがなければなりはせぬ
六十四凶   情深主別離
さきは主もちたよりはしれずいつて見たいにやかごの鳥
六十五末吉  来危亦未蘇
あんなすなをなやなぎでさへも風にかたよる意地をだす
六十六凶   閑事惹風騒
かやとわたしが夜どふしつられじつがないのかあきたのか
六十七凶   枯木未生枝
はらをたつ田に気を紅葉ばのしかも恋しとなきあかす
六十八吉   異夢生英傑
たてたてい女はむだでもよいがせいしはほぐにはならぬぞへ
六十九凶   明月暗雲浮
わたしや野ずへにすむみの虫よ恋しなつかし月のかほ
第七十凶   一心来?禄
あいそづかしもせつないぎりと思ふてたんきを出しやんすな
七十一凶   道業未成時
いへばたがひのはぢとはしれどいはねばりもひもわからなひ
七十二吉   戸内防重厄
からだばかりはだいじにしやんせそばにゐらるゝ身ではなし
七十三吉   久暗漸分明
人もかうかとつひぐちらしくけんくわするのもほれたじやう
七十四凶   事歳方成慶
今のくろふをしとげたのちにむかしばなしにして見たい
七十五凶   望月意情濃
おまへの出やうでぎりある人をすてるくふうもないじやない
七十六吉   富貴天之祐
ふくのかみさへまもりであればなをもこがねがよつて来る
七十七凶   累滞未能蘇
ほどのよさそな人ではあるがどふも心がわからない
七十八大吉  前山禄馬重
ぬしがかせげばわたしもかせぐともにたのしむ心だて
七十九吉   残月未還光
もつたいないとはつひしりながらむりなねがひの神だのみ
第八十大吉  昇高過九天
ねんがとゞいてくわんおんさんやおれいまいりのなり田さん
八十一小吉  更変得中和
岩にせかれてながるゝみづもすへにやまとまる滝つ川
八十二凶   新愁惹旧??
あきがきたのをしうちでみせてきれる心かそりやひきやう
八十三凶   高枝未可攀 あぢさゐのかはり安いは男のならひとてもひらかぬわしがむね
八十四凶   華開値晩秋
あきもあかれもせぬ中なれどぎりといふ字がじやまをして
八十五大吉  望用何愁晩
まてばかんろの日よりがあるになぜか心がせきたがる
八十六大吉  華発応陽台
梅のむすめにやなぎのわかしゆ女びなを雛のさくらいろ
八十七大吉  鑿石方逢玉
かむろみどりも時さへくれば松のくらゐの八もんじ
八十八凶   作事不和同
かうもしたらとしあんはつけどはなすひまさへなくばかり
八十九大吉  方逢喜気多
思ひおもふたねがひもかなひじつにうれしい身のくはほう
第九十大吉  応得貴人推
岩にたつ矢もある世のならひ心ひとつをまよはずに
九十一吉   月桂文逢円
人のことばもやなぎにうけてくらすお人がねづよかろ
九十二吉   前程宜進歩
雪やこほりのさむさをしのぎ梅も花さく春にあふ
九十三吉   隔中須有望
おまへのこゝろにへだてたとこがあるゆへ何かにかどがたつ
九十四半吉  事忌樽前語
うれしがらせつまただまさせつわざはひまねぐも口がもと
九十五吉   志気勤修業
しゆじんだい事に身を大せつにしんぼしてくれ今しばし
九十六大吉  高林整羽儀
ぐちもいふまいりんきもせまい人のすく人もつくはほう
九十七凶   佳人水上行
人めしのんで木曽路のはしよあやふひところが恋の味
九十八凶   欲理新糸乱
しよ手はむすんでもつれてとけてこぐらかつたも恋のあや
九十九大吉  紅白当門照
秋の日よりとあんじたこともはれてうれしい月の顔
第一百凶   禄走白雲間
つれてのかんせみやまのおくへふたりくらすをたのしみに
地本錦絵問屋 太田屋
明治十二年九月 日
御届
東京神田区鍛冶町十九番地
編輯出板元 武井佐吉




J『撰み文句 端唄どゝ逸』
(木村文三郎編輯。明治十五年六月三十日届)

花に宿りて夜すがら濡て〔草も若やぐ春風に梅が香かほる雨の音しつぽりとアレ最合傘ぬれて嬉しき中かいな〕ないてわかなく朝の鳥
これ程尽したわたしの心〔うたぐるは恋のならひと云ながらはや明ちかき衣々は泪にしめる袖の露うそか誠かてくだか実か割て見せたいこのおもひ勤めする身ははかない物じや〕分らないのがじれつたい
ないて塒を離れたけれど〔明ぼのに可愛と泣た初烏常きく鳥も憎うなふてぬしの便りを春風かそよとれんじに通ふ神かほりにぱつと振むけばヱヽ憎らしい床の梅笑ふて居るぢやないかいな〕かあいと戻る夕烏
土手の雪風身にしみじみと〔はや告る浅草寺のきぬぎぬに東雲つゝむほふかむりいつ逢りやふか忍ぶ身のモシはなしのこりがあるわいな〕意見こたへる朝帰り
寝ない証拠よ蛍と虫は〔月影や草もつゆけき秋の夜にまだ寝もやらでくよくよと庭の松虫誰を待折戸にそつと音信て最う寝たかとは憎らしいどふ寝らりやうぞあかすとも〕夜すがら泣たりこがれたり
つまよ夫と添ふししたも〔たづね来て見よ和泉なるしのだの森の古郷を障子に残せし筆の跡なみだで消る狐火やヱヽうらみとは葛の葉よ童子は可愛か無かいな〕聞ばとわかれ狐とは
どふだか知れない約束よりも〔恋は曲者やるせなや迷ひとやらの心から今日が昨日に増思ひかはらぬ誓ひさきの世であふか逢ぬかしら露の蓮のうてなの新世帯ぐちになる程いとしうてヱヽ結ぶ出雲の人じらし〕判然極たい縁むすび
はじめなければをはりもないが〔こひこひて稀にあふ夜は一人寝て逢ぬ今宵のふたり寝につい女気の跡や先思ひのたけを解わくるうつゝぬかして更ゆくはとりがわらふてあけの鐘〕始終かはらず二世までも
こがれこがれてたゞよふ舟も〔首尾も能く松に繋ぎし恋のつなふねで渡りの歌ひめや川風さそふ緋縮めんアレ雪の肌ふじびたい乱れてつめたいそゝけ髪〕つなぎ留たる縁のはし
やつて見やうか吹矢のお菓子〔簾おろした船の内顔は見へねど羽織の紋はたしか覚への三つ柏ふんで違はゞどふせうと跡と先とに心がまよふヱヽヱヽヱヽもじれつたいふねのうち〕当り外れは運しだい
おまへの心と氷室の雪は〔月花の中にたつ名や時鳥ふけよ川風すだれごしさえた音じめの調子さへあふて嬉しきもやひづな解ぬもゑんのはし間ヱ〕いつか世に出てとけるだろ
おもひ思はれ積りしはては〔こゝろで誉て居たならば斯うした苦労はせぬものをおもはれ初て忘れねばいとしうてやつるゝすがたいとやせぬ〕もとめた苦労とあきらめる
暗をさいはひ忍んで見れば〔月明りあふてしゆびして猶恋しさの届いて嬉しい翌日の夜もはなしともない心の底はいつそ女房になる気になつて今はやるせがないわいな〕瓦斯やらんぷで気がもめる
そはつく柳に比べて見れば〔飛鳥川かはる淵瀬のなみまくら浮寝の夢は結べども寄るべ定めぬ水鳥のながれのまゝに任す身は実に苦界じやないかいな〕操正しき松の色
筆がとりもつえにし文に〔青柳の若むらさきの小夜衣しのぶの乱れ玉章に数々しるす言の葉もふかきゑにしと業平や小町のむかししらずして恋しゆかしも恥しや〕よしておくれよ半きれは
しつぽり濡るゝ嬉しい雨を〔待乳しづんで梢に乗込今戸ばし土手の合傘かた身がはりの夕時雨君を思へば逢ぬ昔が増ぞかしどふして今日はござんした左右いふはつ音を聞に来た〕ふるといふのは分らない
丸い世界に四角な凧は〔梅と松とや若竹の手に手引れて〆錺りならばヱ嘘じやないかやほんだわら海老の腰とや千代迄も友白髪よふいよふいの世の中よい所へ譲りはのテモマア明ましてお目出たい春じやヱ〕東風へなびくもかぜしだい
ふてゝ背中をあはして見たが〔任したからはどふ成と機嫌直してこちら向て寝やしやんせアレ窓から明てくるわいなじれつてい路からからすがないて来る〕ぬしにや叶はぬ根くらべ
すんで聞へる待夜の鐘は〔春の夜の更てしやうじの朧月かすみこめたる遠山の鐘はいづくか明しらむ起て庭はく軒のはにふいと目につく蜘の糸晩にくるとのしらせかへ〕こんとなるのか憎らしい
秋の七草見惚て月は〔はぎ桔梗中に玉づさ忍ばせて月は野ずゑに草のつゆ君を松むし夜ごとにすだく更ゆく鐘に雁のこゑ恋はかうした物かいな〕名残をしみて明のこる
つなをはなれてたゞよふ舟も〔恋しきに尋ねきしあはれ深雪がなれのはて泪にくれる夫しらべ露の乾ぬ間の朝顔に照す日かげのつれなさに憐れ一卜むら雨ぞかしばらばらはつと降ぞかし〕こがれた人に逢ばよい
風にはこびし磯辺の千鳥〔今日はくるかと柳の糸に風の便りを待わびて門をいく度ゆき戻りテモ長き日のつれづれと餌をやる鳥に能ふ似たるアヽまゝならぬ身や〕なく音浮たりしづんだり
なかの愉快をしらずに私しや〔梅にも春の色そへて若水くむか車井のおともせわしき鳥追やあさ日にしげき人影をもしやと思ふ恋のよく遠音かぐら数とりのまつ辻占や鼠なきあふて嬉しきさゝきげん〕ねづに待つたが口をしい
忍びがへしを蛍はこへて〔夕立やさつと吹来るねやの火にピカピカヲヽ強かみなりさんは強けれど私の為には出雲より結んだ縁の蚊帳のうちにくや晴ゆく夏の空〕かやの外にて身をこがす忍びごまにておまへを呼で〔秋の夜はいとゞ物憂き夜すがらやもしやそれかと庭下駄の音も忍びて枝折戸をあければ冴る月かげにヱヽモ憎らしい桐一ト葉〕胸は二上り三下り
春の風にはうかれて凧も〔雲にかけ橋霞に千鳥およびないとて惚まいものよほれりや命もないわいないつそとんまになつたそふなアヽアヽそうじやへ〕だまをやかれりや上りつめ
ふるかふるかと気にした空も〔雪をまちあられに凌ぎ逢ふ夜さに帰さにやならぬ首尾となりまたひとり寝の閨房の内あたりにのこる面影はたもと時計の音ばかり〕ぬしが来たのではれた胸
うめに宿りし小鳥も今朝は〔夏のゆふぐれ川風に夕立こぼす雨の音しつぽりとアレ最合船濡てうれしき中かいな〕なく音忍びて口ごもる
撰み文句端唄とゝ逸
(奥付)
明治十五年六月三十日御届
編輯兼出版人  東京日本橋区馬喰町二丁目一番地
           木村文三郎





K『文のはやし』
(佐々木広吉著作。明治二十一年十二月出版。大川錠吉発行)

  ○文句入都々一
見るかげもない程やつれた私の体〔煎薬とねりやくと針とあんまでやうやうと命つないでたまさかにあふてこんなにあまやうとおもふこゝろをさかさまに〕とはれていやみなあてこすり
(かしこ庵)
じれつたい程うたぐり深い〔つらきつとめのその内になさけはうれど心までうらぬ私しの苦ぐわいのまこと〕などゝ手管のそらなみだ(蒲田楼)
心底きらつたしうちはすれど〔かはる心のつれなさにさぞや恨みてふがひない女子心とおもはんしようが〕これもお前のためゆゑに(其文)
手管なぞとは疑りぶかい(今更いふも愚痴ながらさとる御身に迷ひしは蓮の浮気や一寸ぼれ浮たこゝろぢやござんせぬ)記証までしたこのわたし(浮連亭)
もやひつなぎし橋間のこぶね〔こひはくせもの世の人の迷ひのふち瀬きのどくな山より落るながれの身浮音の琴のそれならで〕ういた端唄の水調子(千年)
ぬしの来ぬ夜は写真をながめ〔始て三輪の過し夜にはごしの月のおもかげを〕見そめたむかしを思ひだす(藤の家)
夢かうつゝかその濡衣は〔つめらしやんしよがたゝかんしようが〕つゆも覚へのないわたし(紅風)
ぞつとする程思ひがまして〔あめの夜ゆきや風の夜もかよひくらべにまけまじと〕浮かれゆく身も恋のやみ(神田文通)
親の意見もかへるのつらへ〔どうしたゑんでかの人にあふた初手からかはゆさの身にしみじみとほれぬいて〕みずにやいられぬ主の顔(賛々亭)

  ○都々一 雑の部
他所でとくとは露白糸でくける博多の男帯(かしこ庵)
人もしら歯のうちから主とくろう重ねた比翼紋(塘江)
思ひ出しては写真をながめいとし姿と一人ごと(親釜散人)
積る思ひも主しや白雪のとけて苦労も水の淡(梅雅)
わさびおろしの目角を立てからみ文句で又なかせ(浮連)
吸付煙草につい浮されて人の意見がけぶくなる(をよう)
盛りの花菱手折らせまいと中をへだての四ツ目垣(賛々亭)
かくしおふせた夕べの首尾を人の恍惚に釣だされ(歌子)
聞けすぎては恋路の道もうすくなるかと案事られ(貞桐)
胸のほむらと石炭油ちよつとしてさへ燃やすい(石井俊彦)
私しや人には穴なし女それゆゑ化粧にや小町水(天地坊)
思ひ切気の涙を先へ立て思案の跡もどり(名は内)
楽なよふでも勤のからだ苦労する私させるぬし(北川遊雅)
邂に逢夜は口舌で明しそして逢ねば夢にまで(石井俊郎)
待し恨みも只一声で不足云さぬほとゝぎす(名○内)
主は傘わたしは足駄はれて逢れぬ身のつらさ(杉々亭)
思ふお方に盃さゝれ呑ぬうちから赤い顔(日本ばし 小さと)
やつと判じた心の謎を解て又とく帯と帯(中の町 小せん)
月夜鴉とすまして居れど嘘のつかれぬこの時計(八帖楼 愛之助)
梅の薫りを袂に移しはなれ難なや明の鐘(大文字楼 菅原)
行義繕ふ初会の床がふかい苦労をむすぶ縁(八王子 梅垣)
忍び忍んで逢ふ夜は月も粋を利して雲隠れ(西京 源浮樵人)
忍ぶ切戸に色香を留て露を眼にもつ花の雨(八王子 万作)
遠慮はなれて我侭きまゝ無理を云のも惚た同士(愚庵無宿)
主と私の二人の中へ打て置きたい蝶つがひ(春柳生)
胸に焚火でなみだをせんじ癪にのまして居るつらさ(名○内)
墨に思ひの恋路をこめて薫りもらさぬ状袋(西京 小文)
虚も誠もみな打明て話しや手管とうたぐられ(桂枝)
顔は見ゆれど互の胸をあけて言れぬガラス窓(一柳)
主は今頃起てか寝てか思ひ出してか忘れてか(丸根)
恋の闇路に月日を送り今ははれての夫婦中(角文字)
まゝになるなら野にすむ小蝶草に寝るとも女夫づれ(川瀬楼)
いろは思案の外から水をさせばさすほどあつくなる(梅雅)
角をはやして出先を咎めかくす時計も龍頭巻(賛々亭)
きみに粟津のつれない恋路わたしやかた田の片思ひ(亀島 千代吉)
きのふ逢そめけふ馴染て好いたらしいと思ひそめ(賛々亭)
招ぐ尾花にこゝろも乱れ風にもまるゝ男べし(同人)
秋の長夜を千代まで重ねそして二人で寝てみたい(万屋寿)
下紐をといて明した私の心なぜにとけない主の胸(笑亭都楽)
粋な夜風に身をのみ焦しゆきつ戻りつとぶ蛍(夜寝吉)
はれて苦労をもとめるよりも私しや日影の身が気楽(皆真)
袖になみだの露おき初て思ひ増穂の花すゝき(色男)
花美な紫キヤつひさめ安い私しやじみでも紺がよい(湾々堂)
主に今宵は心のうちをあけて恥かし窓の月(舟楽)
仇な花には心もとめぬ帰るかりがね見てもしれ(紫永幸二)
待夜ふけゆくアノ時鳥誰に初音をきかするか(同人)
逢たい見たいの苦労がやめば又も世帯のこのくろう(吉日堂)
名残をしいと微声でいへばしめる博多の帯が時(根津 白妙)
実がすぎれば嘘だと云れあまる思ひにたらぬ智恵(仲の仲 小撰)
   ○
編者茲に一言すらく当今世の人の唄へる端唄を聞に悉皆昔よりありきたりの古文句而己にて未曾て新調の耳を驚かすあらず又都々一の如きに至ては鄙語猥褻男女の痴情に蔓る淫猥のみにて殆ど听に堪ず今茲編に掲しは則然らず方今新聞雑誌の投書家にて高名なる諸君の綴り置れしのと又編者に投与し替唄都々一の中尤も佳なる東西而已を集しなれば彼の旧臭き端唄や淫猥なる都々一の類にあらず看官よろしく味ひたまへ
(奥付)
明治二十一年十二月 日印刷
全    年十二月 日出版
印刷兼著作者 浅草区福富町廿八番地
         佐々木広吉
発行者    仝区三好町七番地
         大川錠吉




L『新文句ふき寄東都一』
(刊年不明。明治期。丸屋板)
吹澄んで空にちゐさし冬の月凩暴る真夜中も厭わず怒鳴を寒声と唱へて昔しは流行れり方今は殊さら街道の放歌は棒えの恐あり夫ゆへ内々小声にて新文句吹よせ都々一と外題を号何くれとなく掃寄て飽きぬが山の言の葉をかき集めたる落葉龍屑と異名を呼たまわず拾らひて御目に触るやう千草の風の伏て希
                魁尊山人

目元に紅葉の愛敬見せて〔小浪ははつと手をつかへじつと見かわす顔とかほ〕鹿と返事が出来かねる
便りばかりで互ひにいれど〔あだなゑがほについほれこんで妻こふきじのほろゝにもちひろのふみを雁がねにことづて頼む乙鳥のたより〕縁は切れない伝信機
情夫と寝たとて恨むは無理よ〔びんのほつれはまくらのとがよ勤する身はぜひもなし苦界じや苦界じや放さんせ〕嫌な客にも鳴からす
広き世界をこのはるさめに〔実に世の中はあだ波のよるべは何国雲水の身の果いかで知らざりし〕せまくして行く模合傘
恋の重荷でこらした肩は〔玉をのべたるながもちにかずもてうどのいさぎよや)ぬしに揉まれりや直治る
憤るも解るも其日の手管〔うそならほんにかほとりみてと羽がいの肌にいだきしめ〕浮気な水から出来た雪
主しへ年賀のふみ書初に〔墨と硯りのこい中をたが水さして濡衣の〕色よい返事をまつかざり
恋のもつれを言解きかねて〔笑顔つくろふけわい坂いろ香争ふ梅が香のかしくのかなの蕾より開らける文の待人も〕いとゝ心がやるせなや
角を生やして出先を咎め〔まつはういものつらにくやよそのあねさアとねくさつて〕隠す時計も龍頭巻
思ふまいぞへもうおもわぬと〔さきやさほどにもおもやせぬのにこちやのぼりつめ〕思へばおもわずおもひ出す
恋の湊の花燈籠を〔水駅路穿児店月華船棹入女湖春〕見当に乗り込む浮気船
明はからすにせき立てられて〔いざやかへらんおのがすみ家へ〕宵には水鶏に欺される
是やこの行くもかへるも別れて後は〔唯さへ曇る雪空に心のやみの暮れちかく〕兎角気になる靴の音
髯の来る夜は時計をすゝめ〔梅花帯雪飛琴上柳色和烟入酒中〕情夫の来る夜は後れさせ
浮気で握つた手とての縺れ〔しらぬふりしてしら雪のアノしらじらしいかほわゐな〕解けりや絡る二世三世
いやな座敷の勤めがふけて〔一声山鳥曙雲外万点水蛍秋草中〕撥で欠びのふたをする
君の安否は片かなだより〔ひとこそしらね西国へ御下向の御海上波かぜあらく御船を住よしの浦へ吹上げられそれよりよしのへ落たまふ〕百里とゞくも一時間
親のためなら娘を二字に〔あわぬつらさをこがるゝよりも逢ふてわかるゝことこそつらや〕裂た勤めも是非がない
月に一とこゑふと目をさまし〔今やくるかとまつ身は知らで〕聞けば鍋やきうどん売
思ひ出しては思案にふさぐ〔すへは夫婦と言かわし今のおまへのうきなんぎかんにんしてと計りにて跡はなみだのむら時雨〕折しも聞ゆる暮の鐘
写真ながめてほろりと泪〔いつかはめぐりあふ坂の関路を跡に近江路やみのおわりさへ定めなく〕ぬしは航海浪の上
おんなでこそあれいざ其時きは〔砕身折骨妾何厭朝暮懐君忘苦辛〕車ひいても主へ義務
かわい男になぞではないが〔忍ぶ身の月とは不破の板びさしもれてうき名のたまたまに〕解かせて見せたい胸のうち
またの逢ふ瀬が大事サなどゝ〔気てんきかしてかごのたれ内は歎きに暮近く〕言てかへして舌を出す
年がかわれば気もまたかわる〔太々かぐら門礼者〕春の色ます梅さくら
郵便報知に気は休まれど〔繰りおろすふみ月かげにすかし見て〕逢わねば解からぬことがある
痴話がこうじてついそのまゝに〔すまぬ口舌のいゝがゝりせなか合せの床の山こちら向せて引よせて〕無言とむごんのこん競
(奥付)
東京日本橋通三丁目十三番地
丸屋 小林鉄次郎板





M『新作別品都々一』
(刊年不明。明治期。松延堂伊勢屋板)
のんぢやわるいととめたる口で一ツつげとはよくいふた
こはひものだよおぼえておきな地しんかけとりかゝおやぢ
去た女房が行燈のはりに穴のこひしい一人りもの
猫にやきらはれきつねにやふられこれからそろそろ円い鬼
ぬしの心を分せきすれば浮気七分によく三分
背中合て寝る夜は何かはらのあわないことがある
コレラ病より烈しいぬしの浮気予防がしてほしい
あいたい見たいは私きのくせさぬしのかほより札のかほ
大きな声だねしづかにおしなぬしにや知れぬか靴の音
東はしらめど女郎はこないそこでアホヲとなくからす
うぬぼれかゞみで顔みる度にほれぬ女の気しれぬ
鯰だましてごん妻になれどまたも地しんで元の猫
長いおひげにみじかいお知恵高い帽子にひくい鼻
猫や狐がうきよになけりやこんにやくらうをするものか
尻の早いはあゝしたものか末は烟りの蒸気船
火事と雷りや器械ですむが防ぐ手術のない地しん
仰せは一々尤もなれどむしが不服でほれられぬ
思あんなかばにふと出たお屁さきに実のないしるしだろ
歩と飛車縁から角なれ染てきのふ香車にますくろふ
まるいおかねと四角な札があれば三十一日にしちが出る
君を思へば雷よけよりもどうぞほしいよ地しん除
思ひがけなく見合す顔を烟にして往汽車の窓
苦界のがれし身は釣がねよ君につかれて権となる
私しや燕よつい秋がくりや雁をのこしてにげてゆく
猫にやだまされ狐にやふられかこち顔なる馬鹿なつつ
月夜からすとものいふ花はそらなきよするのでまよわせる
因循すぎると笑はばわらへわたしや頑固でかた思ひ
うは気なこゝろはすこしもないが恋しいおかたがあるばかり
あつぱれりつぱな鯰をおさへでかした猫だといわれたい
なびくやうでも根強い枝にすこし張もつ猫やなぎ
くどき上手につひ落されてうかうかかし込しちの種
きつとざいますだましちやいやだなぞとだましてかげで舌
好のざしきととびたつばかり二ツ返事で結ぶ帯
烟草はつきるし火のけはうせる来るがつかれの泣寝いり
あれさおよしよふざけちやわるいおちりやけがするつりらんぷ
まゝになるなら迷はぬように瓦斯をしきたや恋の闇
芸者する身と金がは時計いつかおひげのゑりにつく
芸者する身と画工の皿は人の知らない色がある
ゆめのうきはし渡りに船がとゞいた思ひに今日の首尾
よそに小松の引手ができて内へ子の日のないつらさ
(裏表紙)
          東京日本橋区松島町一番地
書物地本問屋 松延堂 大西 伊勢屋庄之助発兌





N『吹寄どゞ一』(刊年不明。明治期)
思ふことうつる鏡が世にあるならば主に見せたい胸の中
峯のさくらは美しけれどわたしや麓で見た計
峯の桜もつい下風でふもとのおかたのそでにちる
及ぬことゝは思ちやいれど矢ぱりみれんが神だのみ
人目ありやこそ飛たつ胸をじつとこらへてしらぬかほ
箱根八里は馬でも越が人目のせき路は越にくい
酒は米の水とはいふものゝむりな盃や毒になる
色の黒いはそりやもちまへよ烏は口ゆへ憎まるゝ
言て見やうと口まぢや出れどおよばぬことだと又無言
及びないとはそりやきが弱賤が伏屋も月はさす
去年の今頃お前とわたし空敷わかれたことも有
すかぬことなら思ひもせまゐ真に惚たが身の因果
初九は人目をしのんでいたが九二は晴てのみやづかい
恋は迷ひの中とはいへど主に任せた此からだ
私しやどろみづくらうを遂て末は盛の花せうぶ
わたしの心をうたぐるからはお前の心も定まらぬ
あれほど今夜と約そくしたがくるかづかれて格子先
いろがある承知で惚てよこれんぼたとへじやりを握るとも
星のかづほどとのごはあれど月と頼は主ひとり
おまへといつしにくらすなら譬へ野ゝ末水の中どんな心苦も厭せぬ
朝毎にとめて置たや私の心ねんがとぜいて今朝の雨
沢の丸木ばしやあぶないけれど主三にお手ゝ引れりや苦も無渡升
人目ばかりは五月の闇に晴てあふよを松のかぜ
花の色移りやせぬかと猶恋しさがまして流の浮思ひ
戯と思ひながらもつい手枕にぬしの心をみだれがみ
寝ても覚てもそのかげろうは思ひ桐壺尼となる
つもるうらみをいつ夕がほとあふて噺せば須磨の浦
小づま取手で糸はりもつてかんにん袋を縫へばいゝ
せじでまろめてくぜつでだましいまの流行の鉄砲玉
初夢にぬれて嬉しきアレ床の海宝舟かよ福の神
わたしやいたらぬ手のない女郎せじて書のをまに受る
朝のかへりにあじなることをいふてわたしに気をもませ
梅に手がありや啼くうぐひすもあだなはつねをだすわいな
すきな酒をば止ろじやないが茶わん酒をば止さんせ
今朝も今朝とてはしごにあたまあいたかつたとめに泪
恋風が来ては枕に只おとづれて勤めくがいじやゆるさんせ
床のほてりもまださめぬのにこふもあいたく成ものか
奥の座敷でふとしたことばあせに成身の染ゆかた
富士の裾ので西行法師うさの昼寝が田子の浦
忍ぶ其夜は心も深くさへた月夜がじやまになる
仇なことしたそのいゝわけに義理と名が付や済かいな
今更きれては人目がすまぬ是をさつしてくださんせ
知恵もないくせ仇なる主しにほれてなま中くらうする
実のないとはしらずに迷ひ今はくやしや胸の中
はいに書てはけす女のな火ばし手前もはづかしや
恋で落ぶれ暮そとまゝよ下りながらも藤は咲
情しらずに折られはせんと花も深山にかくれ咲
互い違ひに声はり上てさわぐ嶋路の百干どり
都育の悔の木なれど主へ此身をつくしがた
ぬしにあをふと冬から門どに出はなるゝ旭をまつの内
捨てあれども愛敬あれば人の眼につく春の草
花が花やら咲ぬが花かさかぬつぼみのうちが花
合ぬ思ひに案じた手事きれて気に成三味の糸
暑い情が外にも有といふて出て行かどすゞみ
来るか来るかと待せて置て余所へ逃たる夕立雲
恋に上下の隔がないと聞て嬉しきひとり言
親指と小指ばかりで願ひの紙をむすぶゑにしも末のため
月のころび寝してゐるとこへよばひぼしとはきにかゝる
隔てられても心の奥はすいて見ゑすくよし障子
とても今宵は逢ぬとしれば早ふ寝て待主の夢
鐘や烏に苦がないやうに成て今更身のくらう
かたい要の扇でさへも秋が来ので捨られた
朝がほの人目へだてゝ中垣越して筆をかよはし花開く
色で苦労をする身を見ればへたな紺屋がおかしかろ
枕二ツに並た夜さはおしのつがひも何のその
ほとゝぎす心しるなら待夜の便り主のやかたへ落しぶみ
短夜にくぜつ残して出て行足にからみついたる蚊帳のすそ
松に青梅根笹が出来て鶴よ亀よでくらしたい
覚悟きめても邪間なす軒へつられるよは身のしのぶぐさ
すゐな枝葉も仮寝のまくらしどけないのが蝶の癖
浮名たつ浪恋路の闇に迷ふつらさをなくちどり
思ひわびすけ気ばかりもめどほんに逢せも玉つばき
あやまりましたよそのわけきいて私もうたがひはれました
おかめ八目邪見なひとゝ思わず惚れたがあやまりか
三日月の今はほそくも身の行末は丸いやうにと手を合せ
あいそづかしもいふては見たがわけをいわれて夫もそふ
花と嵐のくぜつの末も落て重る中なをり
及ぬ恋だとしらずにほれてわたしや今迄水心




O『心いき辻うらどゞいつ』(刊年不明。明治期か)
此うらなひの見やうはぜに六文手のうちにてよくふり思ふことを心にねんじて右のぜにをなげべしぜにのかたをしろとしうらをくろとしほんもんの○●○●●○引合見給ふべしうたのもんくにより思ふお人の心の中かゞみにてらしみるがごとし

伏義さんと云おかた八卦を作しといへどもあんまりきまじでようきならず思ふお人の心のうちをしるには心いきのどゞいつにしかず世の中のあだぎみたち一寸やつておみなんしと云 ?作

○○○○○○うれしいなかだよ
あけてうれしやあのはつがらすぬしの日のでをまつかざり
●●●●●●ねがいがいつかなうだろう
すへのやくそくかくまきがみのつぎめはなれてものあんじ
●○●●●○のちのたのしみをまつ
しんぼしなんせゆきまのわかなやがてよめなとなるわいな
○●●●○●うはきらしいことばかり
みすてさんすなわしやつたもみぢからむたよりはぬしばかり
●○●○○○まゝにならぬよ
むかうかゞみにやつれたすがたたれゆへこんなにくろうする
○○○●○●一どはそうどうかもと
おやけうだいにもみかへたひとをとられて此みがたつものか
●●●●○●かんしんしてみな
じつとつくすもふじつになるもみんなおまへのむねひとつ
●○●●●●心はわかりきつているよ
のちにやこうさとびやうぶをみせておびとおびとのこもちすじ
○○●○○○なめてゞもしまいたい
しごとおぼへてぬいはりしやうとにやうぼきどりのしたごゝろ
○○○●○○とかくわごうがよし
したしいなかにもれいぎがだいじもとはたにんのことじやもの
●●●○○○せけんのぎりもなんの其
いろのこいのとみなくちぐちにいふはやくのかそねむのか
○○○●●●どうせつまらぬ
さきであきかぜふかせるきならすべよく此みもちるやなぎ
○○○○●○うちあけて云のがよし
たがいにひとりみなにはゞかろうはれてめうとになるがよい
○●○○○○あんしんあんしん
おもうとをりにねがいもかないじつにうれしいみのくはほう
●●●○●●どうしてこんなきになつたろう
とかくこいぢはあとさきみずのふりやうけんほどじつもある
●●○●●●ゆだんはならぬ
よにつれてかはる心はとうじのならいよもやと思へどぬしまでも
●○○●●○かんしんなこと
としよりすぎるとわらはゞわらいわたしやだいじなうちのひと
○●●○○●うはきなようでも
いきなすがたにきをもみぢばのいつかうきなもたつた川
●●●●○○きがもめますよ
なかゞよいとてゆだんはならぬどんなあくまがあることか
○○●●●●あきらめておしまい
したゑだのはなはおらずに扨ものずきなとゞかぬこずへでくろうする
○●○●●○すへがおもはれるよ
うそとしりつゝあのくちぐるまひくにひかれぬいろのみち
○●●○●○うつかりはできず
さけはのめどもつゝしみふかくどこまでつうだかわからない
○●●●●●ばかばかしい
ふられたそのうへまたてらされるきつねのよめりじやあるまいし
●●●●●○むかしばなしになるよ
いまゝでいろいろきがねもしたがこれからはれてのわしがつま
○○○●●○こうかい先にたゝず
いやなしんぼうするきにならばこんなくろうをしはせまい
○●●○○○おもしろい世のなか
金利のあがりでこいきなくらし日々にふたりでさいこのみ
○●●●●○おあいだおあいだ
いやと思へばかたときどころこへをきくさへしやくのたね
●○○○○●やくのはつねのこと
男づくじやのつき合じやのとうはきよさんじてすむかへな
●○●●○●にくゝもなし
じつがこうじてついでだぐちよきにかけしやんすないまのこと
○●○○●○どうなるものぞ
おまへもやぼならうきめもみまいすいがみをくうむふんべつ
●○○○●●のちがだいじ
すへをかんがい此みをおもひいやなわかれもせにやならぬ
●●○○○●おもしろしおもしろし
いろのせかいをさらりとすてゝこれから二人りでともかせぎ
○○○○●●いけないねい
ねとるたくみのむねわるおんな人のなげきもしらぬふり
●●○○○○ごやつかいだ うるさすぎるとあいそがつきるりんきぶかいもほどにしな ○●○●●●このうへなし 日ましにはんじやういへとみさかえ上下そろうてむつまじく
●●●○●○ぢれたいよ
そんなににくけりや口かづいわずいつそころすがよいわいな
○○●○●○ちがいなし
いへのはんじやうよしあしともにおまへひとりのむねにある
○●○●○○こツちの心しだい
かどのいぬにもようあるたとへあいそづかしをせぬがよい
●○●○●●云にいはれぬじやう有
さきはしうもちたよりもならずいつてみたいにやかごのとり
●●○●○●くろうをしたよ
なか口きかれてうたがはれたもとけてうれしきおびとおび
○●●●○○とうざばかり
たぬきねいりをきつねがおこしおきてばかそかばかさりよか
○○●●●○上しゆび上しゆび
ねがをにみとれてまくらにもたれどこへこんなにほれたろう
●○○○○○らくはくのたね
じやうになるとてわがまゝよしなみつればかけるがよのならい
○○○○○●いくじはなし
はなげのばしてつぎこむかねをまぶへとられるばかもある
●○○●●●くろうありすへよし
なんの其岩にたつ矢もあるよの中にいのりてとゞかぬことはない
●●●○●○先へいふてよし
おやはにしきをきるみといふがてなベさげたいこともある
●○○●○●人をたのむべし
ゆめになりともあはせておくれゆめじやうきなもたちやせまい
●○●○○●あつさりがよし
くめどつきせずくまねどまさず井戸の水しやううはきしやう
●○○○●○せけんがだいじ
なまじたがいにあらためだてをするゆへお?しくめにもたり
○●○○○●なんにもならず
すいたおかたとかきのめされてねずにひとりでとこのばん
●●○●●○すへはよし
かんしやくもちでもこちらのしやう馬のたづなにふねのかじ
○●●○●●くぜつあり
かたいきしやうがしやうこじやなどゝよいにいふたはきやすめか
○○●○●●こたいられず
ないしよはできてもせけんがあればなかだちよたのんでそうがよい
●●○●○○しんぼうがかんじん
おやはふせうちわしにはすいたいきなおまへはなまけもの
●●○○●○みにあまるくろうあり
いぢとはりならまけないわたしかねにせかるゝそのつらさ
○●○○●●ことをまかせてよし
しらぬたびぢにくろうをしてもせけんに人おにやないものよ
○○●●○●すへよし
ふみのたよりもはれてはならずうはさするのもむねのうち
●○●●○○大によし
くれたけのよくをはなれてみさをゝまもりほかのとのごのはだしらず
○○●○○●なにごともよし
ぬしをたいせつふたおやさんへこうをつくすはわしのやく
●○○●○○くろうありつゝしむべし
うれしがらせてまたおこらせてわざはいまねぐもくちがもと
○○●●○○はなるゝ
きりこどうろでうはべのかざりはらもみもないこゝろざし
●●○○●●人をたのみてよし
こみいつたあやがあつてはちよいとはとけぬさゝいなじやまならなんのその
●○●○●○万事あしゝ
ようたしやつつらつくづくみればはくそよだれにすじだらけ
○●○●○●すへほどよし
二人りがゑにしはいろふか川よ〔かいのはしらにかきのやねあだなあさりにそうよりも〕やつぱりおまへのばかゞよい




P『大しんはん流行たゝみざんよしこの』
(木俣浅吉著。明治二十三年一月七日出板)
このうらなひの見よふは男は扇又はきせる女はかんざし又はよふじばしるいをたゝみへなげへりより目のかづをとりその番のところをよみてうらなひて見るなり

第壱
嬉しい思ひを霞の袖につゝむ笑顔の山さくら
第二
しげり合ふたるたがひの中は色もかわらぬ松ばやし
第三
外に恋路が有松なぞとりんきしほりの仇ゆかた
第四
あげてかゝればお客がとうでじまん四階の高調子
第五
言いたさこらへてなでつけ髪にとけぬ恨の櫛だまり 第六 今はどちらもはりひぢつよく恋に意気ぢの枕びき 第七
おもひつめては夜の眼もほんにねづみ花火の苦労する
第八
とんだ所から恋路のそれ矢的ちがひのやつあたり
第九
迷ひくるわのもどりの雨に内の身上も破れがさ
第十
共にそわつく気も若草のぬれて色ます春の雨
第十一
しる人目を身内にあまり包み兼たる恋衣
第十二
吹けば舞うよな身のない人に添うてしん苦を?のから
第十三
どふで浮名をひゞかすからにや二世も三世と婦夫連
第十四
ふつと恋風ふきあげ浜の内ぞゆかしきすだれ貝
第十五
心くもらぬ誠を友にうつし近江の鏡やま
第十六
羽織きせかけゆきたけ詠めたゝいたむかしを思ひだす
第十七
おこすもわるいでかんざしぬひて主のせんばつわけた居る
第十八
襖おしあけまた立咄しおしむみれんの別れぎわ
第十九
とけて嬉しくねる夜の思ひ繻子にはかたのはら合せ
第二十
咲たが花やらさかぬがはなかさくをまつまがはなの華
第廿一
アレサおよしよがらすですけるたゞさへ人目のおゝひのに

明治廿二年一月六日刻成
仝   年一月七日出板
定価二銭
愛知県三河国額田郡能見町六十三番戸
著作兼印刷発行者 木俣浅吉


本稿は『日本文芸論叢』(2003年3月31日発行)に掲載されたものである。


2016年1月17日公開

et8jj5@bma.biglobe.ne.jp

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