風流俗謡集

湯朝竹山人

序文

 かかる冊子のはしかきに、長たらしい口上は野暮の沙汰だとは思ふけれど、私の性分としてあつさりとやつてのけることができず、こけと知りつつ敢てこの長口上を述べる。
 本文の唄の文句は、今の人にはとにかくめづらしい句振りである、これを選集したる事情やら、一冊に纏めた次第を記述しておくことは、選者としての義務であらうと思ふ。
       (一)
 私は今ここに「よしこの」「どどいつ」かういつた短詩型俗謡の文学的批判を試み、及び彼れらの発生推移について史的調査の結果を述べるいとまがない。かういつた専門的の研究は、他日ゆつくり発表したいつもりである。
 今の多忙な世に、私がかかる選集に没頭、といふほどでないけれど、骨を折つたのは、全く私の趣味道楽に外ならぬのである。趣味道楽からの仕事ゆゑ、骨折りなどといへた義理ではないのである。まして世態を知り人情を知るの方便説などは私にとつては第二義に属する。更に焦燥と殺風景との現代の生活を嫌ひ、のんきな気分に陶酔せんがために、いたづらにこんな仕事に耽けるものだとの評は、実のところ邪推である。なんとなれば、ひとへに私自身の道楽嗜好が、私をしてかかる選集に携はらしめたのに外ならぬからである。
 然り、趣味道楽の結果に外ならぬけれど、この選集も私に於ては聯絡があるのである。私は十年以前より俗謡──四句二十六文字体の小唄、民謡、俚謡──の選集を志し、先づ「諸国俚謡傑作集」(大正四年、辰文館発行)にて古来伝はる諸国諸地方の二十六文字唄を選集し。次に「小唄選」(大正五年、阿蘭陀書房発行)に於て文禄、慶長の隆達節より天保嘉永の流行唄に至る、凡そ二百五十年間に遺されたる書籍中の二十六文字唄を選集した。以上二種の選集を試みたる結果、さらに天保嘉永より慶応、明治に至る幕末の終期三十余年と、明治維新より同十年頃までの約四十余年間の「よしこの」と「どどいつ」とを選集せんと欲し、今日やうやく、この選集によりて多年志望の幾分が成就された次第なのである。
 その「よしこの」と「どどいつ」に限つたわけは、投節去り、潮来節去つて後ちの小唄、私の所謂二十六文字唄は「よしこの」「どどいつ」とがその命脈をつなぐ正統であり、本流であり、時間的に空間的に流行勢力の代表となつてゐるからである。
 なほ明治十年頃と制限をつけたのは、明治十年「団々珍聞」発行以後は、斯道の面目が一変し、私の嗜好とする軟派的特有の句調が幕を閉じて仕舞ひ、「団珍」以後の調査は「月並百々一」「親釜集」等を中心として、明治新時代の都々一流行期に属し、もはや我等には大分嗜好の遠ざかつたものと思惟したからである。
 今一つ、活字の物は一切顧みない方針を厳守したことである。彼の「親釜」も「月並」もいづれの活字の月刊物である。かういつた事情から、自然に明治十年頃といふ制限を立つることになつたのである。
 私の俗謡選集も、不完全ながら、この選集を以ておのづから一先づ終りを告げることとなつたわけである。
       (二)
 私はこの選集を試みるために、機会ある毎に、先づ材料の蒐集につとめた。
 曩の「小唄選」に比較すると、時間的には五分の一の短さではあるけれど、何をいふにも幕末流行唄全盛時代の所産であり。楽天の如く捨鉢の如く、殆んど頽敗気分の横溢が、我がヨシ此とドド一とを駆つて遠慮会釈なく盛んに鬱憤をはらしてゐるのと、かつは今日より年代を経ること未だ遠からざるゆゑ、比較的材料の遺れると、この二つの理由が、幕末以前に比較し、幕末以後の流行唄蒐集に、多くの歌詞を採収せしむるところとなつたのである。
 けれど、幕末以後の材料とても、現在はもはや容易にこれを得ること能はず、今の内にこれが精選を致さずんば、或はかへつて、幕末以前の唄を集むよりも、困難とならんやも計りがたき事態にあるを恐れるのである。何となれば、幕末以前の小唄は歌詞の乏しいままに、とにもかくにもその書籍は貴重品扱ひをされ、中には翻刻もされて、永久に遺存するところだが、幕末以後、明治初年頃の唄の本といふのが如何に贔負目に見ても貴重品扱ひを受くるの品格を備へず、今は殆んど散逸され、放棄され盡し、一部の数寄者が珍蔵するの外は人の顧みるものなきの有様だからである。私が多年これが選集を志し、今日やうやつとその幾分を纏め得たのも、その材料を得るに当つて、私はこれが蒐集に一定の方針を立ててゐたからである。
 幕末より明治に亙り、民間に盛んに流布されたのは「絵入り端唄」「絵入り都々一」「絵入大津絵」「絵入り流行うた」等の小冊子であつた。無論木版で和紙和装の半紙四つ折り型の五枚乃至十枚乃至二十枚三十枚位の所謂おもちや本、絵草紙本である。文字ばかりで絵画の無いのもあるけれど、大抵は絵がついてゐる。唄の文句を絵で解いてゐるが如く、絵の意を唄でうたつてゐるが如く、唄と絵とを対照してこれらの絵入り木の趣味が浮動するのである。多くは粗末な、きたならしい本、今日の人の眼には、紙屑籠に投げ棄つるに躊躇せぬほどの代物だが、これを趣味の眼で見ると、何んともいへぬをかしいおもしろい本であり。中には絵画といひ、用紙といひ、製本といひ、昔を懐はずにはゐられない趣味あるものもある。さういつた「絵入り都々一本」ばかりを蒐集し、それらの本の中の文句ばかりを選集しようと定めたのが先づ第一の方針であつた。
 絵入り都々一本から、絵を省き、唄の文句のみを採収することは、いはば趣味の半減である。けれど絵入り都々一本を原形のままで、本書にをさめたほどの分量を再現せしむることは容易ならぬ事業である。殊に、私の目的が、歌詞の選集にあるのだから、唄の文句のみを選抄して満足するの外はなかつたのである。
       (三)
 幕末維新の流行唄、それが「絵入り本」以外の他の何にものから採収することができようか。一般市井に流行し、民間に伝唱された文句を採収せんには、我が「絵入り本」以外に求むること能はぬ。ここを以て私は全力をこの種「木版の絵入り本」蒐集に傾倒するに至つたのである。
 これらの絵入り本が、図書館などに蔵せられべきものではなく、さりとて好事家の蒐集癖を満足せしむるほど珍重なものでもなく、或は一部江戸趣味者の間にこれを蔵する人があるかも知れないと思はれるほどのものである。それで私は東京市中の古本屋あたりを根気よく探すの外はなからうと思ひ、一時は随分あせつて探し廻つこともあつた。
 十年以前には、夜店の古本屋だの古道具屋だのに二冊三冊位ひは発見されることもあり、一冊三銭位ひで買へたのだが、和本の相場が上がり、江戸時代の軟派的古書が一部の人士に買占められる傾向を来たし、古書籍展覧会の即売が愛書家、好事家に期待されるやうになり、さういつた気運が、いつしか我が絵入り都々一本を夜店の古本屋だの古道具屋だのの店先きでは見つからぬことにならしめ、浅草の浅倉屋だの、京都の細川開益堂あたりから買ひ入れねばならぬことになり、往年は一冊三銭五銭で買へたるものが、一冊三十銭となり五十銭となり、少し奇麗な本になると一冊一円といふ直段がつき、殊に、京都、浪華、名古屋版の「よしこの本」は一冊が二円、三円といふ相場を見るに至つたのである。けれど最近ではもはや直段の問題ではなく、品物を手に入れることが困難である。
 私は漸く五十冊ばかり集めることができ、友人で矢張り絵入りうた本の蒐集家があり、それらの友人の蔵書も見ることができ、天保以後明治二十年頃までの絵入り都々一本を百冊余り見ることができた。その結果が終に茲に本選集を作る材料とはなつたのである。
 本書が選抄した書目は、幕末の分が十六、明治の分が十、併せて二十六目である。百余冊を通閲して採用するところ二十六、約四分の一である。殆んど無数といつてもよいほどの多数の絵入り本の中から代表的の書、代表的の文句を選抄したいものだと心がけたのだが、砂の中から金を選り出すやうな仕事であり、前人未開拓の事業にひとしいこととて、最初に予期したほどの結果が得られなかつたのを遺憾とはするのだが、通閲した原本については、私は先づ第一に選者の名を吟味し、次に年代の明かなるもののみを採用することに定めた。この種の小冊子は多く年代が不明である、或は序文により、或は選者の名により、或は巻末の他書の広告文の年号により、やうやくその上梓された時代を知るのであつた、とにかく本集にをさめられた二十余種の書が、殆んど大部分発行の年代が明かであり、年代順によりて輯録されてあるから、天保以後、明治二十年までの流行「ドド一」と「ヨシ此」との変遷推移の一面はこれを看取することができやうと信ずる。
 内容は幕末の分が多く、維新の分が乏しい、百冊あまり通読した唄の本の半分以上は維新の唄本であつた、けれど私は嚴密に内容を吟味し、選写するに足らずと思ふものは皆これを顧みなかつたがために、維新以後の分が乏しくなつてゐるのである。
       (四)
 本書は「幕末維新ヨシ此ドド一集」とでもいふのが一番適当な名なのである。けれど世間一般の人が、何に故か、かういつた名を嫌ひ、かういつた名がいかにも野卑な名の如くに思はれてゐる。その「ヨシ此」といひ「ドド一」といひ、いつれも三味線又太鼓の調子又は囃子言葉から出た名であるから、その名に豪も擯斥すべき道理はないのである。けれども今は私も飽までも自説を立て通さうとはせぬ。それゆゑ出版元の希望も容れ、思案の上で「風流俗謡集」と名けた。「都々一」も「好シ此」も風流の二字にて表現せしめ、風流の二字に印象せしめたつもりである。
 本文選集書目に添へて著書の名の分つたものはこれを示めし、年代の知られたものはこれを示めしたのは、その冊子の価値と位置とを知り易からしめんがためである。全部紹介とした分は中の文句の全部を写しとつたもの、部分紹介としたのはその冊子には他の唄ものせてある中から、都々一と情歌のみを写しとつたことを明にしたのである。唄の文句の頭に○を置いたこと。かゞみ、しりつゝ等をかがみ、しりつつ等になつてゐること。志の字がしの字となつてゐる等、いづれも私が勝手にしたことである。
 同一の文句が、他の幾冊にもあらはれ、甚だしいのは一つの文句が、一冊の中に二個所も出てゐるのもある、この種の冊子にはこんな例はめづらしくないのである。私はよくよく目触りの場合の時は、すべて原本のままにしておいた。一つの唄が、他の幾種かの冊子に載つてゐるのを知ることもまた一の研究であり、諸方に現はれてゐる文句が、どんな文句であるかを知ることもまた一つの研究であると思ふたからである。
 「よしこの」本の唄は、いづれも作者の名がつけてあり「どどいつ」の方にも、作者の名がつけてあるのもあつたけれども、それらの名は一切省くことにした。序文、はしがき等も多少見るに足るものはこれを添へんと欲したが、わざ/\写すに足らずと思ふものは省いた。而して「よしこの本」は全部上方版であり「どどいつ」は江戸又は東京版であることはいふまでもない。
 努めて原本のままに写すことに念を入れたけれど、ただ言葉が文字にうつされるだけで満足せしものかと見える仮名文字本位のこの種の冊子のことゆゑ、文字の誤りは甚だしく、歌沢能六斎の選集本さへも、仮名遣ひも天爾遠波も殆んど無視されてゐるほどだから、他の小冊子に於てはいふまでもない。古書の翻刻に際し、文字上の注意に二説あり、一は原本通りに忠実なるべしとの説、一はたとひ原本たりとも誤りと知られたるものはこれを訂正すべしとの説である。私は成るべく原本の文字を変へない方針ではあつたが、実際は仮名の訂正を余儀なくされずにはゐられなかつた。。
 例せば、こひ(恋)がこいとなつてをり、うはき(浮気)がうわき、みさを(操)がみさほ、きしやう(記請)がきせう、にようばう(女房)がにようぼとなつてゐるの類で、一々列記の煩にたへぬほどである。とにかくいとひ、えとゑ、しよう、しやうとせう、かういつた仮名文字は一首として完全なものはないほどである。私は余りに目触りに感じ、歌の意を破らざる限り手の届くだけは訂正をしておいたつもりだが、校了を見て随分見誤りやら見落しのところもあり。後ちには、一層のこと全部原本通りにしておけばよかつたと後悔したほどである。また三味線がさみせん、しゃみせん、世帯がしよたい、せたい等二様の仮名がつけられてゐるのもある、それらはいづれも原本通りにしておいた。蓋し、この一冊を選集するために、材料の蒐集、内容の吟味、随分苦心を払つたけれど、その苦心には苦心以上の報いがあつたことを公言するに憚らない、ただ仮名文字の訂正と校合には一方ならぬ難渋だつた。
 原本の字体及び彫刻の不鮮明も少なからず、また虫に食はれてゐるところもあり、また中には文字足らずの唄もあり、また意味の通じかねる唄もあり、できるだけ注意はしたけれど、結局疑はしいままで原本通りにしておくの外なかつたのもある、この点は読者の領会を得ておきたい。更に又、私の道徳心の咎めた文句はヽ印を以て、不鮮明又は欠字には□を用ゐることにしておいた。
       (五)
 歌沢能六斎の「新撰度独逸大成」前後両編は、恐らくは幕末都々一の代表的選集であらうと思はれる。簡略ながらとにかく唄の文句を類別し、目録を示し、唄の員数を記し、在来のこの種の唄の本にはいまだ試みられざる選集創意があらはれてをり、殊に、半紙四つ折りといふ一般の型を破り、半紙八つ折りの横本型で一流特色をあらはし、さらに多くの本が絵入りといふのに、彼の選集本には絵を入れず、努めて多数の文句を輯録しようと試みてゐるところにも他と異る点を認められる。
 極言すれば、幕末都々一調の特色は、或は能六斎の「度独逸大成」二冊によりて代表されやうかと思はれる。彼の名はノロクサイだが、あの道と唄の道とにはなか/\抜めなく、余りに多数の選集があつて、それが今日未だ完全に知られてゐないやうにも思へる。
 最後に附記しておきたいことは、世人若し、この選集より唄の文句を転載する場合には、必らず/\本書より転写せしことを明記されたいことである。従来、私の選集中より、しば/\無断転載されてをる事実を見る。而もたま/\私の筆写の誤りがあると、その誤りのまま転写されてゐるのである。今この冊子中にも筆写の上に誤り無きを保し難いのである。いはんや文筆に携はる学者の徳義でもあり、責任でもあらねばならぬからである。
       大正十年夏
                         湯朝竹山人


目次

滑稽東都一図会 初編
東都一図会 二編
辻うらどゞ逸
情歌花言輯 完
よしこの玉撰集 全
江戸の花あたり都々一
寿井の太頃 全
どゞいつ別な世界
浄瑠理入端唄の交張 初へん
新撰度独逸大成 前編
新撰度独逸大成 後編
都々一ぶし
よしこの恋のしをり 二編
古本の都々一
拾ひ集めの都々一
都々逸恋の美南本 全
唐詩作加那 初編
唐詩作加那 二編
流行新令どゞ一
酔興漫戯声くら辺 初編
声くらべ 二編
開化芸妓都々逸
開化さわりどゞ一
情歌恋のすがた見
四季情歌林 全
開化都々一



滑稽東都一図会 初編
                銀庵主人撰集 為永春水補章
                一筆庵英泉画 風雅堂蔵版
                              〔全部紹介〕
   百々一図絵の序
慶長年間の小唄の上手な泉州境の隆達が唄ひ初て隆達節と世にもてはやし這ぞ小唄の元祖なるべし、さて寛永の(数字磨滅)女郎衆は今も初心の糸道を伝へて習ふ(数字磨滅)せり、明暦の頃の流行唄はやり、小唄の惣まくりは小唄の八兵衛やあつめ置けん、寛文年中の菅笠節は破れて後も一節切に能合の手と聞伝ふ、亦元禄の松の葉は志の通もよく、松の落葉に拾ひ出して昔の容体を見るに等し、其風流に引かへて菖蒲咲とはしほらしやと唄ひし潮来の唱哥に基く是等もよしこの射然捨りぬ、夫より以来年久しく時花て盡せぬ這一節は、月待日待代夜待田町にござる法印さんも懴悔々々の間に唄ひ、古きに似たれど其土地の風俗調子が種々かはりて同じ文句も聞度に珍しければ、時鳥例も初音の心底、いふに云れぬ信実を、唯一口に黄楊の櫛、婀娜にも唄へば品よくも唄はるゝのが百々一なり、百度ふより一唄にて思ひを述る小唄ゆゑ百々一とこそ名号たり抔と申は戯作の癖か、図絵を添たるトツチリ頓作二上り三編追々に新文句を出し候
                          江戸 狂訓亭主人戯述

○つもるはなしは世間もしんと日本橋にも夜の雪
○東なまりといはんすけれど真似て見たがる江戸の癖
〇あはれぬからとて女のみさを立て見せませふあくまでも
〇ろんはないぞへほれたが負よどんな無理でもいはしやんせ
〇添ひとげる人もはじめはふとした事よ惚たが縁ではあるまいか
○すゑにそふのはそりや縁づくよ当座あはずに居られふか
○すてる神ありやたすける神がなまじあるゆゑ気がもめる
○人の噂も七十五日くやしかうはさをされて見や
○あひも見もせざこがれもせまひなまじあふみの水かがみ
○まかせぬこの身をかんにんさんせ実も不実になるつらさ
○親元へわたるまことも的にはならぬすゑにや手ぎれを取ふため
○つらい悲しいとふげを越てなんでたやすくきれられふ
〇女房ざかりを白歯の島田似合ふ気がねの板がしら
〇五月雨のある夜ひそかに格子の先で見れば嬉しい月の顔
○さらへ置け人に気がねが何入るものか立たうき名がきへはせぬ
○契情に実ないとはむかしのたとへお客に実がありもせず
○こぼれ松葉にうはきな胡蝶つがひはなれぬなかを見て
○そなたひとりに苦労はさせぬどんなはかない暮しでも
○雪の肌になびきし竹のとけて身がるなわがおもひ
○月はかたむく夜はほの/゛\と心ぼそさよ鳥の声
○しがみつくほどくやしいけれどわけをいはれりやぜひがない
○道ならぬ事としりつつはて気がもめる無理なねがひの朝参り
○遠くはなれてくらすも時代ままになるまでまたしやんせ
○たとへどのよな風ふくとてもよそへなびくないとやなぎ
〇泣ざなるまい野に住む蛙水にあはずに居られふか
〇世につれて辛苦するのはいとひもせぬがそはれないのがわしやつらい
〇たつた一夜がよみぢのさはり知らざ他人でくらすだろ
〇わたしの心にあまればとてもなんの他人にはなされふ
〇早くやめたかやかよふも呼もまつもわかれもないやうに
○先は浮気であらうとままよわたしや実意をどこまでも
○口舌した日は鏡の蓋をあけてふさいで又あけて
○達引づくなら住かへしても年の明まで呼とげる
○泣て咄せば勤となぶりこれが笑ふて咄さりよか
○金じやせかれぬそなたの気しやうといふて惚人は数多し
○向ふ鏡にやつれた顔をうつし心の悔みなき
○楽をふりすて苦労をもとめ人にわらはれぬしの側
○啌も吐んせ浮気もさんせ心がらから泣しやんせ
○否であらふがまあ聞しやんせつらい別れもぬしの為
○長ひ苦労で今日日の世帯気のまじかいのも事による
○気が合へばいはずかたらず眼顔で知れる口説やうでは(三字不明)せぬ
〇短夜の鶏は恨まず長夜の鐘を恨む心の客と間夫
〇待宵の鐘は丑満別れの鶏(「鶏」の右側が「隹」)にまさるつらさよ憂思ひ
〇今さらに愚痴もいふまいなげきもせまい添ざ命がありやせまい
○散花を定めなき世と歌にもよめど咲ざなるまい春の風
○あきらめましたよ何様あきらめたあきらめられぬとあきらめた
○白露や無分別でも草葉が便り恋のうき身の置どころ
○胸気な一座もお前の連とおもや言伝せじもいふ
〇秋の野の花の千種に置露見てもわしが涙と思はんせ
○すまぬ顔色見てとる実は他人に知れない惚た中
○数ならぬ身でも恋路の誠はまこと惚たに上下があるものか
○思案する程きれてはならぬ今まで苦労の甲斐がない
○月にむら雲花には風が邪魔をするのも千話のたね
○恋のやみぢは兼ての覚悟晴てあはれる身ではない
○鉄釘の折の様でもゆかりの文はまもり袋へいれておく
〇艶言もいふまいき気がねもせまいいおまへも浮気をやめさんせ
〇艶言と苦界は涙の笑顔泣かせるお前は無理ばかり
〇人に気がねもお前のおかげ明暮悔しい事ばかり
〇ちればこそ花はよけいに猶をしまるる苦労するのは色の花
○めぐり逢事もあらうと月日をすごし永い年季をうか/\と
○酒のどくだといはんすけれど酒が主をばのみやせまい
○それ見やしやんせ言ない事か先も血道を上て居る
○花に百度来る客よりも雪の初会がたのもしい
○愚痴なわたしにさばけたおまへ柳に蔦じやと人がいふ
〇義理を世間のそりや言退れ実は否だと断はりか
○わけもないことわけあるやうに言れりやぎりにもせにやならぬ
○似た事がもしやあるかと人情本をよんでなほますものおもひ
〇草の葉の露はわたしが涙の雫それにおまへは秋の空
○門付のしんないぶしも身につまされてもしやとあんじるひよんな気を
〇たいたとてこげたおまんまどうなるものか喰ずとほしひにするがよい
〇ないたとてせかれたものがどうなるものかなかずと時節をまつがよい
○たまのごげんにはや明わたるくがいしらずのむちや烏
○今は待身をわらはばはらへすゑは高砂そうてみしよ
〇帰らしやんせと口ではいへど立ばおどろくむねのうち
〇内の女房は栄螺のやうに尻もかしらも角ばかり
○ぬしは田毎の浮気な月よどこへまことをてらすやら
○あへばいつでもふんだり蹴たり島田のけまりはありやせまい
〇まつがつらいかまたるるわしがうちのしゆびして出るつらさ
○ぬしを思へばてる日も曇るひく三味線も手に付ぬ
○月はかたむく夜はしん/\と心ぼそさよ明のかね
○ぬす人をとらへて見れば我子のたとへとい詰だてすりや身のつまり
○むすび玉ほどいてみれば永くなるたとへこくらかつては手にあまり
○さらべおけ人の噂も七十五日此土地ばかりが日はてらぬ
〇いやなざしきで笑ふのつらさないてうれしいぬしのそば
○きれたなかとてたよりはさんせいやで別れたえんじやない
〇腹が立てもまたわけ聞ばのろひやうだが夫もそれ
〇ぶたれる覚悟のわしや結び髪色であふときやかうじやない
○色と浮気を重荷に小づけ馬も合口うわの空
○人はこり性とただ一ト口にこるもこらぬもさきしだい



東都一図会 二編
                              〔全部紹介〕
○百度参りを小舟ですればさしであはれぬ事ばかり
○あだも是限モウ惚仕舞他人の恍惚を聞も否
○油でかためた聖天さまをあらいかみとは誰がいふた
〇逢は別れのはじめといへど
 上るり「昨日の淵は今日の瀬とかはりやすさよ人心」
 くやしいながらもきれられぬ
〇花の笑顔で操の松の色もかはらずぬしの側
〇横しまながらも此所聞わけていたらぬ私も立様に
○あふが誠かあはぬが実か末を遂よと遠ざかる
○遠ざかるのはこらへもせうが他人のしやくりが気にかかる
○気にもかかろが互の実は絶ずたよりの文のつて
○案じ顔さへ花にもまさる婀娜が苦労をさせる種
○文も遣るまい返事もせまいあはれぬつらさをますかがみ
○かがみに向へばやつれたすがたあひそがつきよと案じ顔
○しんの夜中にふと目をさまし聞ばとなりの小鍋立
○お店者でも出番の衆でもやぼと油断がなるものか
○あきらめられうかこりしよなわたし
 上るり「あふは別れのはじめとはきくもうるさい世のたとへ」
 命かけてもそひとげる
〇恋の綾瀬を辛苦にするな今に中よくすみだ川
〇つらい峠やかなしい浮瀬越てけふ日の新世帯
○お店者だか店さらしだかすれて紋日もしらぬ顔
○人に異見も仕かねぬぬしが人に云れる此始末
○泣て待夜にふけ行鐘は明の鶏より猶つらさ
○わが惚りや他人も斯かと邪推をまはし愚痴な様だがはらがたつ
○遠ざかるのは末咲花よ日々に咲のはちりやすい
○酔ばつもりし恨もいへどさめて嬉しい梅の雪
○お前ゆゑには憂身をやつし
 上るり「アノ川端の祖師さんへ日に千遍のおだひもくとなへてむりなおながひを」
 かけて結んだ縁の糸
○愚痴もいふまいりんきもせまい他人の好人持果報
〇わけを云のにマア聞しやんせ否でわかれる気ではない
〇深い契りをかはらぬ願ひ他人は浮名をたつみ風
〇軽ひ世帯もお前と二人気がねせぬのを楽しみに
〇吹ばとぶよな玉やの身でもあはぬつらさのもの思ひ
○聴解がないとお前は云んすけれど離別覚悟で惚はせぬ
〇他人に心配もいらざる艶言も
 上るり「流れわたりの芸者の身ゆふべ過した拳酒の」
 ほれて勤たわけぢやない
○酒が云するお前の癖か
 上るり「まはらぬ舌で燭台や丼火箸でなむさんばう」
 そふに忽泣上戸
○この丼の割たのを見るに付ても娘が事
 上るり「今年十二で痲疹も軽くはやり風さへ引もせずつい十三で此やうにとしやくり上たる溜涙」
 笑ひ上戸にならしやんせ
〇内に待気もおまへの顔を
 上るり「三保のあたりであらうかと聞て後から御ひゐき請ておかげ参りは皆さまへお礼にちよつと旅がけの連になるみの染浴衣」
 きて見りや今更帰られぬ
〇好風な人でも不実があればすゑは愛相の尽るもと
〇切た当座はがまんもいへど日数たつほど思ひ出す
〇あげて心配はお客か凧か揚代もいとめを付てゐる
〇ないてたもるな途方に暮る月は雲間の時鳥
〇春の初日の豊にさして呑はめでたひとその酒
〇きげん直してマア寝やしやんせ
 上るり「小夜ウふウけヱて蕎麦イ引にうめん、そはイそばイ引」
 上るり「ヤ八アツウかア、ボヲン、按摩ア、ワン/\/\、そばやさん何時だネ」
 上るり「七アツウか(鳥の羽音きもののそでにて、バタ/\/\)こつけつかう」
 上るり「あけむウツウの」
 かねがかたきの世のならひ
○花も若葉も月日がたてばやがてわたしの秋に風
○庭の雪間のあの梅さへも寒苦をしのび花が咲
○花も紅葉もモウあきらめたぬしの便りを松ばかり
○せけばやむかとお部屋の叱言おちやをひくにはましであろ
〇親の気入私も惚る好風で律義な人はない
○泣ば誠とお客のこけがいろの仕送り仕舞札
〇たよりない身で尽したまことぬしは浮気できれ言葉
〇待ば海路の日和もあろが得手に帆どよく乗せて見な
〇二の足をふんで居るのに異見をされりやまたもみれんできれられぬ
〇医者さまが小首をかたげて二の匕を投げてやつれ姿を見るつらさ
○契情も元は素人秘蔵の娘うそも誠も人に依
○いへばどふやら催促らしく言ねば返さぬかりたもの
○変るまいとの互のまこと
 上るり「欲な事ぢやが極楽の蓮とやらの新世帯」
 うまれかはろがそひとげる
○待ば甘露とそりやあま口な待れる程なら気はもまぬ
○鶯にまけぬ音色がたまさかあれば谷の中へも花の兄
○きけば気になるお前の噂
 一中ぶし「所詮此世はかり髷の恋にうき身をなげしまだ」
 かみも乱れてもの思ひ
○お部やへ気がねもお前が大事艶言も勤もぬしの為
○松に並びしあの山桜
 上るり「ちればこそ身にふりつもる花ふぶき」
 峯の嵐や恋のじやま
○他の願ひと私はちがふ思ひ切度身のねがひ
○富士とつくばのながめをそへて土手の桜を都鳥
〇はへば立たてば歩めと育た親はお前ゆゑでも捨られぬ
○縁も時節も実が便りあだや浮気でそはれふか
○恋に上下の隔がないといふは不義理の勝手づく
○艶言も詞花もモウ言倦たお酌をするのも癪の種
○胸に手をあて思案をすれば婀娜な人ほど実はない
○子を思ふ親となる身のあすをもしらず今日は夜桜月見酒
○月に村雲私にやお前邪魔としりつつ切られぬ
○花にあらしは浮世のたとへ
 一中ぶし「せかれて逢れぬ様になりあはれあふせの首尾あば」
 つらい辛苦をしのがんせ
○実も不実となる身のつらさ送る客にも義理がある
○私はかはつた心もないにぬしは口舌の言がかり
○すなをに咄すをお前はじれて横に車の無理ばかり
〇送る茶屋でもむね気な仕方あの妓に呼れてなるものか
〇たつを引とめマア聞しやんせ市に餅つき松の内
○春の霞もみすじをひくは花にうかれる心いき
○しんの夜中にふと目を覚しとなり座しきの貰ひなき
〇名ごりおしげに見送る顔へ露か涙か朝ざくら
○土手の桜をまた夜ざくらと酒が乗気の山谷堀
○降雪をふむも惜いがふまずば人が問てくれまい此けしき
○花のけしきも降つむ雪も心々の目の詠め
○この頃は涙もろいとわらはれ癖がついてふさぐもぬしの事
○春の野に思ひすぎ菜はおまへのうわき案じ心のつく/\し
○ききわけがないと我身で知つては居れど思ひきられぬ恋のよく
○実に思へばわけない事を
 「ぐちな女子にみれんな男子よくあひぼれの実くらべ」
 思ひ過して苦労する
〇土地はもとより世間は猶も広くさせ度こちの人
〇みよしを突出しさらばの胸にぐつとさし込しやくのむし
〇梅も柳も皆夫々に恋の意無地のあだくらべ
○おそまきながらも辛防さんせト云て涙にむせかへり
○雪のはだへに桜の目もと月にいくらと噂する
○貴ひお方にほれまひものよ
 上るり「かはるまひぞやかはらじとおふせうれしく返答さへ」
 ごめんあそばせひぢまくら
○無理な願ひもやう/\叶ひ
 上るり「しのぶまがきがはし渡し」
 あふて嬉しい花の顔
○蔦かつらからみつく程思ふて居れどぬしの心にはぢもみぢ
○気づよふ帰した背後見送りて
 上るり「かはる心のつれなさをさぞやうらみてふがひない女子心と思はんしよが」
 みんなおまへのためじやぞへ
○今戸焼の様な姿で自惚らしいかはらなひとはよく云た
○かはらないとは田舎の住居野でも山でもいとやせぬ
○衿に顔入何にも云ず泣て男の胸に釘
○行が帰りか帰りが行か蟹と廓の仲の丁
〇引汐に声もかすかなアノ浜千鳥遠くなるみの海になく
〇何卒と思ふたはじめをわすれ悋気するのも恋のよく
○千代に八千代の寿こめて結ぶ妹背の門の松
〇お前を案じてふさがる胸が明の方とはよしわるし
○明て嬉しや初日のかげに花の笑顔や福寿草
○年の内に春のまふけのアノしめかざりめでた/\を松と竹
○市の縁起の破魔弓おかめはづむ手まりのみやげもの



辻うらどど逸
                     梅暮里谷峩著
                                〔全部紹介〕
○鶺鴒にとんだよいことをしへてもらひ数の子宝神の末
○うわ気するはずヽヽヽさまも天の岩戸の穴ばいり
〇辛抱しなんせ雪間のわか菘やがて嫁菘の花が咲く
〇見すてさんすなわしや蔦紅葉からむたよりはぬしばかり
〇露の干ぬ間の朝がほならで越すにこされぬ大井川
〇親兄弟にも見かへた人をあいつにとられてなるものか
○実をつくすもふじつをするもこころひとつの相手しだい
○程も可ければ男も美くてそれで金満家女房もち
○月も入さの山の端がくれ身につまさるる鹿のこゑ
○したしき中にも礼儀がだいじもとは他人のことだもの
○夫婦おや子の中よい家は奉公人までつとめよい
〇むかふも否なら此方もいやよ最初からむしが好なんだ
○たがひに独身何はばからふはれて女夫に成がよい
○おもふとをりに願ひもかない実にうれしい身の果報
○己が身をあとへ/\と田うゑもやうに卑下すりや憎むものはない
○ひよんな浮気をするのも楽な栄耀すぎての菜ごのみ
〇老人すぎるとわらはば笑へわたしにヤ大事なうちの人
〇若い男に気をもみぢ葉の後家に浮名がたつ田川
○中がよいとてゆだんをするととんだ悪魔が水さす
○花は咲ども梢の枝で手折られもせず見るばかり
○たのむといはれりや捨てもおけぬどうかしうちをつけてやる
○酒はのめどもつつしみ深く義理をかかねば身がもてる
○欺されて根こそげむしりとられたうへに突出されるとは口をしい
○今まで首をおされてゐたが是から世に出て楽をする
○いやな辛抱する気にならばこんな貧苦を仕はせまい
○金利の上りで小いきなくらし夫婦小をんな朝寝して
○咽へ出るほどとうなすおさつたべて見たいが身のねがひ
○役に立うがさてたつまいが武士に二言があるものか
○風にもまれてただよひながら岸へつくかよあま小舟
〇萩の下露つゆちりほどもきみに命はをしみやせぬ
○梅のむすめに柳のわかしゆ陽雛陰雛のさくら色
○色のせかいをさらりと捨て是から夫婦でともかせぎ
○ねとるたくみの胸わる女人のなげきもしらぬかほ
○うるさすぎると愛想がつきるりんきふかいもほどにしな
○日にまし繁昌家とみさかえ上下そろふてむつましや
○何かにつけて邪魔するやつは河豚にあたツて死ねばよい
○家のはんじやうよしあしともに女房ひとりの胸にある
○門の犬にも用あるたとへ愛想づかしをせぬがよし
○先は主持たよりもしれずいつて見たいにや籠の鳥
○中口きかれてうたがはれたも春の氷ととけてゆく
○ほれた性根を見透されてかやみとよわみへつけこまれ
○ほれたお方にまたほれられてこんな嬉しい事はない
○じいうになるとて我ままするな満ればかける世のならひ
○ふざけさせるは男のせいよ女に鼻毛のばすから
〇神や仏をしん/゛\しやんせねがひのかなはぬ事はない
○賢い子ならばその母おやもさぞやさぞ/\さぞ利口
〇不義理さへせにや世間は広いたとへまづしくくらしても
○汲どへらないくまねど増ぬ井戸の水性うわき性
○なまじ互にあらたまるからをかしく他のめにもつく
○鍋のいとこ煮ごた/\すれど妾ばらでも種は子
○かんしやくもちでもこツちの仕やう馬の手綱に舟の楫
○ひとめ忍んであひ引したも今じやはなしのたねになる
○ないしよはできても世間があれば媒をたてて御婚礼
○親はふしようちわたしにやすいた意気な人ならなまけもの
○ふところが豊ならねば万事につけてゆきとどくとは讃られぬ
〇しらぬ旅ぢにくらうをしても人にひと鬼はないものだ
○夫たいせつ親にも孝行するが女のあたりまへ
○うれしがらせつ又おこらせつわざはひまねくも口がもと
〇風に木の葉のちらされたのもかきあつめれば籠の中
〇呉竹の慾をはなれて操節をまもり他のとのごの肌しらず
○きりこ燈籠のうわべの飾腹も実もないこころよし
○こみ入た綾があつてはちよいとはとけぬささいな邪魔ならわけはない
○酔たしやツ面つく/゛\見れば歯くそよだれに筋だらけ
○妖し上手よ水性狐どうか末まで化とげる



情歌花言輯 完
                   一荷堂半水編輯〔嘉永四年〕
                              〔全部紹介〕
     〇綾衣社
○きらはるるともめつたに余処で好たりすかれて来ぬやうに
○わけは出来たに訳ないさきの片おもひをばいまにさす
○来るとのたよりをしらせてもろたひとまで恋しひあはぬ間は
○すんだ顔すりや済事にしていつも素気なうしやさんす
〇あかぬ他にんとおもへじやなぞと実の他人にいはれても
○啌がまことでまことがうそであらばぬしかて実じやけど
○あへぬも道理よ逆夢じややら否よまい夜さ逢ひつづけ
○主にや得いはず人にも言へずあてつけ言ふたは猫ばかり
○また啌かいなモウおかさんせ適に寝ゐらずまたんすりや
○泣ずこらへて笑顔がなろかすげなかろとはおもへども
○にくひよ此雨はん時まへに降ば無理でもとめるもの
○可愛さうなのそのこころ根があらば此苦もすけさんせ
     ○雪輪社
○ひとのこころのかがみとおもふ月さへ折にはくもるもの
○すきと思たが初会でなくばあのままいなせる人じやない
〇気をばまはせばみな気やすめとおもふうちにも実らしく
○襟あかはまだつかないさきにそではなみのしゆみにした
○しげ/\逢てりやアノ鶏鐘も耳にやつくまい是ほどに
○このみだれがみ此やつれがほ主ときくまで気もつかず
     ○大川社
○筆まで苦労の相伴さすよなんと書ふとおもふ間は
○ひとりのそしりにさされたゆびを喰へさせたいこの苦労
○いつとて気づやうされてはゐれど嬉しくかへせる人でない
○こころのうれしさツイ言ひかねて人にしん気な顔もした
○をなごに油断はならない物とおもうてゐさんせ余処でなら
○モウ女房じやとあきらめさんせよそから他人にしておかにや
○すこしの浮気は苦にせぬ迄に思ひなほしてまたのろけ
○余処の癪おすこのにくひ手をまくらにかる夜がうれしとは
○こがれ仲間のより合つけてなみだの直あげがしてほしい
○わかれぎたない恋こん性とて鐘のかづさへよみなほす
○あし音にさへなじみが出来てふたつときり戸はたたかさぬ
○わたしひとりに身をいれさしてぬしは鱶だよ高いびき
     ○松花社
○あかし合たらこころがゆるみツイうすくしたさきの気を
○なぶられてさへこれほどまでにわたしや実意におもひ詰
○いはずかたらず笑がほを見せて浮気しぶりのにくらしさ
○逢へるあしたがけふいち日とおもや恋しひこの夜とて
     ○花川社
○いはぬさきからあやまらさんすそのこころ根の気味わるさ
〇それがうわ気のしたごころかよ今いふた事すてさんす
○此つめがたののかないうちに首尾のへんじをきめさんせ
     〇南浮世社
○わたしも主ほど気がかはるなら楽なほれ様とかへるもの
○ぬしより他人に物かづ言ふたはたからそねみをうけぬよう
○さもつらさうなおまへの素ぶりわたしにおもいれほれられて
○他にんはともあれわたしの気ではのろけすぎたとおもはれぬ
○気がねだらけよ世けんもひともおまへたよりときめてから
○たまさか逢のにさうすねずとも実意おもうていふた愚ち
○無理どめする様な気の女子なら遠ざからしはせぬものに
○すきと言ふ人しらないさきはこんな愚ちでもなかつたに
〇気づよい口絶もまつはらいせにいうてはこころで手をあはせ
○あはずにゐれども気は知りながら逢ばいつもの愚ちばかり
○河豚にやいのちも打込むぬしがなぜにわたしにやすげなかろ
     ○竹龍社
○啌いうてなととめおく智恵がでたよ去せたそのあとで
○うれしいおまへの顔見てからは帰した実意にやなりにくい
○見すかされたよこころのそこを主のうわ気で他人にも
〇ひとつのはん台ふたりが中へ苦らうわむかしのはなし酒
〇逢てほしいの来てほしいのといひくたびれたよおまへには
     ○文久社
○すてられたかとおもふたひとの膝になみだもひさし振
○おまへにあかれて泣つつ余処で好れて笑がほが見せらりやうか
○やさしくさんすりや又啌らしく泣されたとて実はなし
○きめた此夜をなぜこのやうにしびれましたよひぢまくら
○今まできいたる啌ほど実がありやそうてゐよこのごろは
○なにか気ずみのせぬかほつきと猪口をさしては気取する
○せめて一度もうれしく逢はばそれからかなしくくらすとも
○気はづかしい気がまだのかぬ内モウ気苦労をささんすか
     〇江岸社
〇鐘はうれしいくれかたなれどヱヽこの雨にもかへすかと
○初手から添ないわけ承知して世帯づもりを口ぐせに
○嬉しはづかし其転び寝がかなしくくらすよこのごろは
○ぬしと女房にやいひかはさねどこころできめたも首尾の度
○添へぬえんならいらないいのちそへる縁ならいるいのち
〇髪に手を遣る気はなけれどもせめて夕べのまくら癖
     ○歌柳社
○とめず去す気推量せずにうたがひことばがはらがたつ
○作病おこしてまつうれしさがいまじや真から癪にした
○寝間へゆくさへ氣味わるいほどうらみ聞した言ひすぎた
     ○北陽社
○エヽ逢せたとて無ごんのわかれこのまちびとが義理の間を
○野暮なをとことしりつつ惚りや苦にもならぬよその無理も
○愚痴じやと堪忍さんすりやよいにとがないまくらを投てまで
○むごらし人じやが癪まで見すてそりやいぬる気もないやうに
     ○花楓社
○うらむ中にもやさしいひとよまだしも気がねをさんすだけ
○身にもしみ込ほどうれしさがいまじやこころのやつれとは
○素面で言うてか酒きげんでか日ごろこころにおふてか
○そのくせふつつり忘れもせずに来さんす気で居て泣すとは
○たれゆゑおこそかわたしが癪を意気なやまひとおまへまで
○とくしん仕ながらわかれてさへもつらひにふりきり去れては
○はれぬよおまへがなかせたとがか曇るかがみも愚痴にみりや
○主を寝かせてうれしく解ば帯もにくひよねづみ啼
○おちかひうちにと言ふまでもない遠座からずに来やさんせ
○不自由がちでもとくしんづくよ三味をまくらで出来た中
○合間にや此手もまくらにさんせとめるばかりにつかはずと
○さからはぬやうおまへの機げんとるばかりでは気がすまず
     ○社外之部
○こころはともあれ膝だけなりとわたしがなみだにぬれさんせ
○つくしぬいたるまことがすぎてをかしくおまへにうたがはれ
○切れるわけでもわしやきれられぬ義理がみれんに勝ものか
○うらみいはせて気にあたるやらをり/\笑がほをにくらしく
○逢夜だけなとやさしくされりやこんなに苦労もせぬものを
○他人はばかる他にんも他にんめうと中とはいつの間に
○むねのくもりもはてどこへやらはれて月夜にして見たい
○あてこといはぬもうらまぬふりようたぐりやなんだか気にかかる
     ○江鳥社
○機げんがほ見りや又見るにつけうれし人でも出来たかと
○あかし合たりうたがひ逢ふてたがひに気やつれさせるとは
○うれしさ離れて恥かしはじめ寝た夜がかなしさごはじめてとは
○知らずにうらんだかんにんさんせなぜ今までにこのじつを
○寝させておきたし鶏鐘ごろはいひたいうらみののこりかて
○だきしめ合たる此うれしさをあくまでおまへもすてぬよう
     〇花鳥社
〇やつれついでにおまへも痩て似たは女夫と言はれたら
〇顔は見ながらものさへいはず皮肉で知らせて迷はされ
○猪口もすすいだ宵にはかへてこのさめた茶の口うつし
〇あんまりやさしう聞やあんじるよまた遠座かるした地かと
〇かくしながらもこころのうちで此首尾見せたいひともある
○ぬしへつとめるこのつとめさへ浮気でする様な言ひはなし
○此方からこがれた人には実がしれぬよ他人のくちさきで
○すねてわかれて寝る気で居たにまたおもひ出し/\
○うらんで居さんせう此苦は知らず待せて居る身のつらさより
○ふくんでもらふたひとにも啌を言うて首尾した気もしらず
○何を見とめて此年季までますよ苦労を増ひとに
○針のさきほどきくしん実でわすれて仕舞たよ癪までも
○をとこの癖かとおもふたときがつれないまことであつたとは
〇とくしんならこそ素直にしばしわかれもしますとなみだぐむ
〇兎や角ふ言ふはず此夜明しにしやくもおこさせわすれさし
○やけでかよふて居やさんせうかとつづけて逢やまた気がもめる
○素気なうしてまで此くるしみは他にんがたにんとおもふやうに
     ○笹蔓社
○まかせて居る身をまかせぬひとがいつまでつとめとさぐらんす
○わたしや客じやと諦らめてると言ひつつやつぱり間夫気取
○啌もまこともかうふけたなら千にひとつはかなふはず
〇ちつとは気も折真実が出よと素根てる間のむやくしさ
〇待もたのしみまた苦しみよツイ思案からしあんすりや
〇無理もいはんせ無理ききますよそしてしん実あかさんせ
〇うれしなみだもとまらぬさきに一人寝せうなぞ素根さんす
〇夢かとおもふよおまへと今宵まくらならべて寝やうとは
〇いつもひとり寝する身でゐては憎ひわかれはゆめでより
〇ほれたと言うてもをなごの口にや神にあかしていふばかり
〇翌もいちにち居さんす実がありや素根さんせいつまでも
〇うれしく聞れぬその気休の中に女房とひとことが
○顔見りや寝られず寝りや猶の事これが他にんと言はりやうか
     ○三橋社
○恋しさ逢たさまはらぬ筆でおもはぬ愚痴さへかいて見た
○のろけさされたおまへにさへも蕩気た浮名がはづかしい
○どうでも一座はヱヽしん気だよツイいふことも気がねして
     ○雪花社
○わたしを出しぬき主やすずみ船このごろうわさのアノひとと
○浮気なぬしもち気をもみ抜てわたしがいんぐわとあきらめう
○かくし様もない啌でもむねにつつんでいはんす気がうれし
     ○浪速社
○さうでもあるまいありや悪口とうはさにあきらめつけるほど
○ゆめを見る様な今宵の首尾にどうぞしたいよあすの夜も
○うたがひ過して腹だたせたも主のこころがさぐりたさ
○気苦労しててもつとめの啌とうたがはさんすも無理でない
〇逢て見せたひやつれたままですこしややさしい気も出よと
     〇蔦松連
○今朝のわかれでさへこれじやものそれが夕べにかへさりやうか
〇浮気さんしたおまへのつみがこんなにわたしにむくうとは
〇うれしく逢夜は恨みもわすれうつかりあかすよ実と夜を
〇待つ夜うらみし寝よとの鐘をふたり聞様になつたらなら
○夢になりともおもふだけのはなしが仕たいよこがれては
○かまはぬ/\世間はせけんわたしやわたしでほれた人
○そのまア浮気で其まアうそがそのまアかほしてにくらしい
○それが実じやとどうおもはりやうわたしのいふことおまへから
〇ふけて見えるといはれりや嬉しモウ女房気でこのごろは
     〇恋蔓社
○やう/\この胸はらした夜からまたあたらしいもつれごと
○せめて寝る間をわすれたならばよもやこれほどやせぬもの
○そんなさきぐり苦労はよして今の苦界のおもひやり
○あふてわらふて腹たてさすもすきがさしますなかします
○をなごにのろひは男の常よちつとはぬしにもそんな気が
○うれし口絶がまこととなつて人にもはなせぬわけにした
○素気ないぬしだといふても見たがやさしいぬしだとこころでは
○どうした合性か三世相にもないよ悪性と苦らう性は
○いひのこしたとおもたが愚ちよわかれにや得しんさされたに
○知りつつうつつでツイより添ばしりつつうつつでにげさんす
○そんないひわけ聞やうたがひもはらすよ素人になつたうへ
     ○梅情社
○逢たその夜のふたりのゆめをあはぬ夜ふたりが案じつめ
○袖ぬらすはずアノ蓮でさへおもひきるときやアノやうに
○ぬしの寝がほをまたながめつめいつか此苦がたへるやら
     〇社外情子
○気やすめいふたらモウ去んすかなんぼいふさきふえたとて
○あくまですかせたをとことおもや無理さへ道理をつけてきく
○あかす実意も主や聞ぬふり夢見て居たとはむごらしい
○浮気の証拠にやそれ見やさんせしらぬあて名をまたしても
○恋のあはれをおぼえてからはにくひ可愛が身をせめる
○すげない人とはいふても見たさやさしひぬしだとこころでは
○気にもせなんだアノすてことばあふたびこのごろ気に当る
○とてもあぶらを取るるならばとつてほしいよかのひとに
○間夫があるなら添はしてやろといま由良さんはないかいな
○のぼりつめたるのろけの玉章はいつもくだらぬ事ばかり
○おもひおうて添はれぬときは実もたからのもちぐさり
     追加
○笑がほにかへしてためいきほつと是じや一人でそえぬはず



よしこの玉撰集 全
                   〔嘉永六年〕
                           〔全部紹介〕
○深い情の根引にすれど松はさほどに思ふまい
○あだなねびきになるともしらずまつはすなほに身を任す
〇たまの子の日に引残された松もそぶりが悪い故
〇なまぜ常磐の色さへなくばまつもねのひの苦はしらぬ
〇むかし子の日の苦労を思や今は気楽な古木松
○もゆる思ひの蛍も草の影で逢瀬を遂た露
○露に逢せをとげたる故かうれしほたるの羽つくろひ
○月の出ぬ間とおもひにこがれ人めいとはず飛ほたる
○すかむ蚯蚓のぬらくらものがだまし懸たる蛍狩
○泣になかれぬ身に引くらべもゆるほたるのおもひやり
○しばし盛の朝顔故とさはり次第にまとひつく
○抜て出たかよ気はあさかほの聞ば隣で咲うはさ
〇ぬけつ潜りつ咲朝顔は垣の外面に芽をくばる
〇みだれ咲なるあの朝顔は露の情も薄いやら
〇ほんに勤の身はあさかほでその日/\の花がさく
〇月に捨られ気も細/゛\とやつれ果たるかれを花
〇見かへられたかあの月影にうつす姿も枯尾花
〇ゑヽもすげない夜寒の月と招き果たるかれを花
〇もはや月には添れぬ色とうき世捨たる枯尾花
〇月もそふたる昔を思や捨て置れぬ枯尾花
○とかく邪見な風ゆゑ波も船に思はぬ苦労かけ
○事と品との流によらばついて沈まん碇綱
○いれぬうちこそ気をせくけれど入りや落つく港船
○きつとたよりになる木と見込つなぎとめたる舟の綱
○つらい鳴戸で苦労をしたるかひも渚の捨小船
○いやか応かのまだ返事せぬうちは花やら嵐やら
○あだな咄しについすべり込親にあかせぬ疵をつけ
○肩の縫上おろさぬうちにかくし所をふくろばし
○きへたあの灯が結ぶの神かただしやくらうのさせ初か
○くらい所へ引入ながら他言するなと五重さす
〇意ひとつが定かにならぬあだし心はもたねども
〇言てさへふさぐ思ひの重るものがいはでつつしむ身のつらさ
○親も時節もただもどかしくあだに忘れてたつ月日
○とこふ思案で柱にもたれ起てゐながら主の夢
○恋の屋の路の夜が明兼てうかと踏れぬ迷ひ道
○かわり易さのうき世は夢とうつつ定めて無分別
○色は思案の外道筋とそれて迷ひの路に出る
○恋の細道せかれてゐればふとい心が出るわいな
○死なばともにとおもふが無理か生てゐてさへ迷ふもの
○初手にや嬉しい情も今はほんに苦労の仇がたき
○何を悋気か木の根が廻りあかぬ野水のわかれさす
○ぬけつくぐりつ岩間の水も末はひとつに添遂る
〇とめて止らぬ出ばなのみづよ関を打越はしる川
〇水の出はなをせかるるからは末は泥とも真水とも
〇関にせかれて早瀬はほんに深い思案もみづの泡
〇こころ強いと尻ひねられてひんとはねたる扛秤の棹
〇おめにかかれば不足を言れ合ぬ秤に狂ふ身は
〇きめるあのめを忍びし恋のおも荷一はい掛たちぎ
○かはら無との心を鎮に恋の重荷をさげくらべ
○かるい身じや故釣合ませぬなぞとひん/\はねるやつ
○金がほしさに惚たと言ばいやな命もやろといふ
○ひかす/\は三味線ばかり調子合すも馬鹿らしい
○お茶挽た夜さは主がにへくりかへしほんに身もよもあられ釜
○はおり商売して居るけれど胸にくくりは付てある
〇尽す誠も三十日の月と気障なたとへがくもらせる
〇へんな風から別れた蝶がみれんらしくも元の艸
〇蝶の気儘に思ひが増とひとりくよ/\もゆる草
○あちらこちらで馴染が出来てとどき兼たる春の蝶
○咲た菜の花こがるる蝶も尻のすはらぬ浮気もの
〇夢になりともてふ/\の様に主と荘子てくらしたい
〇待し苦労もただ一声とおもやくやしい郭公
〇まつた程には思はぬ故かわかれつれない子規
○あだな声聞きや一座の前もうはの空なるほととぎす
○しらぬむかしを思へば愚痴に迷ひつめたる時鳥
○昼もおもはぬことなけねどもまして夜に啼杜鵑
○もはや秋かといふ間もなくて草のたもとに露を持
○艸葉たよりに身をおく露もわづか一夜の憂思ひ
○おもひ/\により添中を風がそはさぬ草の露
○うつり易さの一夜の露も草にや誠の身を任す
○思ひ置露草葉にやどり朝日さすまで濡つづけ
〇ひよむな嵐にゆりつめられて積り兼たる竹の雪
〇しをりそふだが又はねかえし知らぬ振する雪の竹
〇じつとこらへて受てはゐれどをりにやすねたるゆきの竹
〇横にこかされもう得心と雪の手づめに成た竹
〇雪の情を受たはよいが竹も苦労の見えた振
     追加
○へんなとこからもつれが出来て風も柳をいぢるやら



江戸の花あたり都々一
                   〔嘉永甲寅〕
                            〔全部紹介〕
○はらたたせぐちをいふのもみなじつぎから
 新内「おまへのそふしたかんしやくは、常のこととはいひながら、四つ谷ではじめてあふたとき」
 とうざの花ならいひはせぬ
〇なみだふき/\身をすりよせてひざに手をかけうらみがほ
〇おもふこころをめかほでしらせいつかほにでるはなすすき
〇神にかけたるきしやうをすててこころがらとてくらうする
○さいけんをとつてなげだす女房のりんき
 端唄「よどのくるまは水ゆゑまはる、わたしやりんきできがまはる、ほんにやるせがないわいな、じつ/\やるせがないぞへ」
 ふみならつのでもはへるだろ
○たよりずくないこのみのうへをしつてゐながらにくらしい
○うちの女房のつのをる夜半にやさきもつのかとあんじられ
○ぬしにいはれたあのひとことがおもひだすたびふさぐたね
○かむろだちにてはねつくむすめ
 常磐津「ひとごにふたご身はよめごいつかむかしのささめごと」
 どこのをとこにそふであろ
○久しくあはねばすがたもかほもかはるものかよこころまで
○広い世界にせまいはわたしうわきなおまへをひとすぢに
〇おもふほどおもふまいかとはなれてゐればぐちなやうだがはらがたつ
○ほどもきりやうもすぐれたおまへ
 常磐津「いつたいそさまのふうぞくは、はなにもまさるなりかたち、かつらのまゆずみあをうして、またとあるまいおすがたを、おくげさんがたおやしきさんの、おほくの中でみそめたが」
 人のほれぬがわからない
○おれもをとこだ口へはださぬむねにはだん/\すゑのこと
○はやく苦界をめでたくかしこかへす/゛\のなきように
○ままになるよでならないからはいづもにもめでもできたやら
○ゑはうまいりにはつ卯をかけて
 清元「春げしき、ういてかもめの、ひいふうみいよ」
 ゑふてたけやのふねをよぶ
○親のゆるさぬ三味せんまくらひくにやひかれぬばちあたり
○あめのふる日と日のくれがたはなほもおもひがますはいな
○一日あはねばぢびやうのしやくが夜ふけてさしこむまどの月
○これぢやならぬときをとりなほしなみだながらにうすげしやう
○月のまるさと恋路のみちは
 常磐津「ちいさいときからおまへにだかれ、手ならいせいといはしやんして、お手ほんかいてもろふたが、いろのいろはのおししやうさん」
 どこのいづくもおなし事
○きしやうせいしもむかしのことよくらうしとげたはなしぐさ
〇人のはなしにうはさをきいてむねのくらうがなほまさる
〇はでやうはきでよぶものならばしんぼしやんせといひはせぬ
○わたしにひとこといはせておいて
 新内「なんのいんぐわに、そのやうな、きづよいをとこが、わしやかはい」
 あとでぶつともたたくとも
○くらうしどほしきはもみどほしお茶はまいばんひきどほし
○なにをいふにもおまへがちからほかにたよりがないわたし
○すゑのすゑまでもつれてとけてむねの柳に恋のかぜ
○かれしばのもへたつやうにわしや思へども
 常磐津「いはぬはいふにますほのすすき、百夜かよふてまことを見せて」
 さきがなまきで火がつかぬ
○あだに吹よるいたづら風にうかとなびかぬ女郎花
○日かずかぞへてやれうれしやとおもふまもなくこのしだら
○結んだままなるかれののすすきにくい夜かぜがなかにたつ
○わたしばかりにぢやうたてさせて
 「千も二千もさんぜんも、世かいに一人のをとこじやと、たのしむなかのわかみどり」
 それにおまへはういてゐる
○口にやださねどわたしがこころぬしにしらせるしのびこま
○苦労するがのあのふじの雪とけぬおもひに身をこがす
〇三日月のくしをいただくやなぎのかみをすゐな夜かぜがうごかせる
○しんにつらさをしんばうするも
 常磐津「人目しのびて、おほざかの、せきよりつらい世のならひ」
 ぬしのためだとさつしやんせ
○月かげで顔をあはしてそのままわかれあとのこひしさやるせなや
○玉川のみづももらさぬおまへとわたし通ふ恋路にあひにくる
○ふたつならべし船ぞこまくらこがれ/\てふかいなか
○おまへいやならつん/\しやんせ
 清元「それよりわしがいやならば、ひとりみらいへいつて見や、男心はさうしたものか」
 わたしやわたしでぢやうたてる
○いろのとりもちやなぜこのやうに人の恋路にきがもめる
〇わたしやはかなきかこひの花よ風がわるけりやちりやすい
〇ぐちぢやなけれどこれまアきかしやんせたまにあふよのたのしみさ
〇十二ひとへのきうくつよりも
 新内「ごしんぞさんのおくさんのと、うへ見ぬわしでくらすとも」
 ねまきひとつでぬしのそば
○ふみのやりとりはれてはできぬうわきするのもむねのうち
○夢でみめぐりくるかとまつちあへばこころもすみだ川
○おまへひとりが男じやないとこいうてこころでないてゐる
○なまきをさくよなこんどのしまつ
 義太夫かぶと軍記「さらばといふまもないほどに、せわしないわかれゆゑ」
 これがなかずにゐらりやうか
○うきなたてられ一度もあはずこんなつまらぬことはない
○ぬしをおもへばてる日もくもるこころはるるもまたおまへ
○山吹の花のてる/\こがねのいろを里にうつせし井出のけい
〇夜なかすぎてのすゐつけたばこよひのくぜつのなかなほり
○しんにつらさをしんばうするも
 宮本あさま「いやなきやくにもひよくござ、おもふおとこのやまどりの、おろのかがみのかげをだに、見ぬめにくもるうすづきよ」
 ぬしのためだとしんぼする
○人もほめるしわたしもすいたほんにどうともしてみたい
○ほれたこころをさとられまいとすいたおかたにやあらたまる
○さきはせじものてとりのいろしつくす手くだもせんこされ
○わたしばかりにくらうをさせて
 清元「それそのやうにいはんすけれど、この梅川が身のつらさ」
 おまへのこころがしれかねる
○くどきじやうずについかけられてさいてくやしきむろのうめ
○朝がほの花はうわきですゑたのまれぬおもひ/\のいろにさく
○おくる玉づさ心のたけを筆のいのちげたえるまで
○たま/\ふたりで花見に出れば
 清元「てんにわかにかきくもり、たい雨しきりにふりしかば」
 そこでこつそりしゆびのまつ
〇おほいおきやくのあるそのなかにまことあかすは主ばかり
○まけぬきしやうでつよくはいへどほれたぢやうにはをれやすい
〇門づけのあだなもんくも身につまされてわたしやこころでないてゐる
〇はるかぜにうかれあるいてうか/\土手へ
 一中節「日本一の大門口、瀬田の夕せふいまここに、ゆふぐれてらすなかの町」
 のぼりつめたるうわきなおまへ
○つめびきのふとしたことからてうしがくるひいまじやたがひにしのびごま
○なみだではげしおしろいなほしいやなざしきでせじわらひ
○あふても/\まだあひたらぬそわじややむまいこのくらう
○用のありそな手がみをよこし
 清元「うちをしのんでやう/\と」
 きてみりやいつものぐちばなし
○みせでわかれてらうかでないてすかぬざしででにがわらひ



寿井の太頃 全
                   〔嘉永時代〕
                              〔部分紹介〕
(この書は浄瑠璃、端唄、大津絵その他いろ色の唄を集めをれり、中に「よしこの」もあり、ここにはそのよしこののみを抜記したり、この書の年代は明かならざれども、一荷堂は前掲「情歌花言輯」の編者にして、同書は嘉永四年の出版なれば、この書を嘉永時代のものと認め置くなり)
     初編
○まことつくせどまだ疑のかかる此身のやるせなや
○かなしくくらしてたまさかあへばつらさ忘れて嬉し泣
〇さした手枕抜さしならぬ実とふじつの右ひだり
○捨て見さんせ斯なるからはおまへに習ふたいきぢでも
○初手はてくだにさす手枕も今ぢや抜れぬ身のつらさ
○追れはらはれして飛蝿も放れかねたる主のそば
○かたい心はもう止さんせ心太さへいろでうる
○薄くなるからあの甘酒もそこを見せては水くさい
○添て居ながら身はあさ東風に便りないぞへ蓮の露
○おもはぬ口絶に凉が更てたがひに袖さへしめり勝
○おもひすごしの口絶がつのりあとは命の延ちぢみ
○つぼにのろけて寝るのがばちで出るにでられぬ手長蛸
〇早う三すじのつとめを止ておもふひとすぢ遂るよう
○古いやつじやがざこばのしけで鯛のないほどおもひつめ
○やがて儘にも鳴子の引手きれて稲とはどふよくな
O宵にや程よく合た鐘がうつてかはつて別れさす
○あはぬ癪より逢たる今朝の鐘で別るる身のつらさ
○今は重なるおもひが叶ひ丸ふそふたるかがみ餅
○枕当がひひざすりよせて吸つけたばこの口うつし
○浅瀬と知らずに乗上られて引にひかれぬ登りふね
○嬉し泪を悟れまいと人眼かざしの袖あふぎ
○羽おり着せかけ又さきの首尾胸で結で別れ際
〇いやな客には水つぼ抱せあとで大きな尻がくる
○おなじ船でもわしや引船よあとのお祭知りはせぬ
○昼も正月摺鉢まわししのび隠れて乗たがる
○主を松むし鳴音を止ばもしやそれかと気がもめる
〇すぎし一言まだ耳底にあつて夜ごとの夢にまで
〇おもひ切たとことばのはしにどうか未練の残り口
〇逢ぬ其夜のしんきに連てともに枕もいぢられる
○すがた見せずに憎いよ風はそつと通ふて花ちらす
     二編
○たとへ岩きる早瀬の水もあとへ引ない登り鮎
○恋の山路に分入ながら花も手折ずかへる野夫
〇鳥渡うわ気でむりから突てじきにとまつてこまる羽根
○かんにこたへて眼にもつなみだうらみ顔なるからしあへ
○今朝のわかれになごりををしみないてわかるるはつ烏
○ぬしの合酌こころにこめてちらぬほどつぐ花見酒
○思ひあふたる中とは見えぬ声にさうゐの猫の恋
○のぼりつめたる身は奴凧きれてくやしく木にかかる
○梅に眼鼻があるのかしらんにくいうつり香さすはいな
〇かたいつぼみも一夜の床に咲て色ます福寿草
〇つもり/\しはなしの数も合てとけたる春の雪
〇花を見捨ていぬ雁がねはなんぞつもりの有であろ
○恋で落ぶれ暮そとままよさがりながらも藤は咲
○なさけしらずに折れはせんと花も深山にかくれ咲
○たがひ違ひに声はり上てさわぐ島路の百千鳥
○都そだちの梅の木なれどぬしへ此身を筑紫潟
○ぬしにあをふと冬から門に出はなるる旭をまつの内
○捨てあれどもあいけうあれば人の眼につく春の草
○花が花やら咲ぬが花かさかぬつぼみの内が花
○むりにいとないはらさぐられて笑顔ながらになく市松
〇恋の苦労で海山こへてしらぬ他国で炭俵
〇三輪のおみわはわしやしらねどもぬしの帰りに糸を引
○それとさとられ言訳しても袖のうつりかのきはせぬ
〇佐用姫が石に成たもそりやまだ愚金に成身のわが物を
〇一と夜二た夜はそりやありうちよ九十九夜さも合ぬ恋
〇主の心と此三味線はとかくヒンシヤンなるわいな
〇早ふ咲そと気は席台の笑顔見せたる糸さくら
○千草結びのべつたり合て嬉しながらもはづかしい
○村雨にみののかわりに山吹出してやたけ心をやわらげた
○つらひ勤も身が可愛さにしんぼ仕とげる二日灸
○寝ても覚ても苦にやむ胸はあいた/\の癪のたね
○人の手前は薄茶じやけれど主の濃茶で目を覚す
○是此雪におまへをむりにいなす心に成て見な
○闇も月夜もいとはずかよひおもひはらした猫の恋
○はれた夕日が添よるゆゑにまよふ色なる花の峯
○だます泪を滝ほど流しそれにのろけて登る鯉
○今朝の追手に友綱とけば恋に別るる舟の猫
○うそとしりつつのせられましたうまく車の廻る口
○底の底まで沈んだうへはあまで此世を渡ります
○合ぬ不足をきく度々にほんにしんきな小遣ひ帳
○はだと/\重り合て色をあらそふ菱の餅
○いの字かくにもお師匠さんがいるにいらない恋のみち
○かね付る迄はだいじと人にもすかれひねて捨おくはじき豆
○親がさしづをする間もまたず先へちぎつた庭の柿
○たたむ小袖のしわ引延し火のし片手に当こすり
○露のなさけがツイ重りて深ふ紅葉に色がつく
○軒に青/\つられてまつもぬしに合たさ忍ぶ草
○夢かうつつか起ても寝ても君のおもかげ眼にのこる
○鐘やからすに苦がないやうになつて今さら身の苦労
○こころよさそな顔して穴を人にせせらすみみの垢
○かたい要の扇でさへもあきが来たので捨られた
〇みづにすなをな心を見せてかぜに浮気な川柳
〇花の散ころ鐘の音きけば秋のくれより哀れなり
○留守にした事かぎつけられて青い顔する木のめみそ
○すいたぐわへも泥みづ住居そこの風味が水くさい
○青すだれかけた小舟のなかにくらしや仇な根〆の羽織妻
○風もをり/\こころが変るわたしや一筋恋のかぜ
○陽気浮氣の心も今はさかり過たる姥ざくら
○ながめある野に分るる春と聞て雲雀も鳴くらす
○たれも見とれぬ浮気な風が前をまくりに来るわいな
○長い夜じやとは恋せぬ人か秋も逢ふ夜は明やすい
○じつとしてゐる木馬でさへもこしのひねりにいのき出す
○愚痴や恨の文引出してあてる枕の中直り
○坊主持とんと忘れて見とれ居れどほんにやさしい尼の顔
○勘当されたは一世の親子二世のおまへにや替られぬ
○縁をむすぶも切のも筆の心ひとつのむすび文
〇みだれ心になつたと見えてくさい身持をする玉子
〇手ふき紙からふともめ出して事のやぶれとなりし文
○手づまはやしの調子にのせて馬を呑だす床の内
○手鍋どころか地獄の釜もぬしとそふならなんのその
○つらや障子にうつりし影の小声咄しが気にかかる
○花にほめられ葉でにくまれて色でまよはす糸ざくら
○うたた寝にすきなお方の夢をば見たがさめて恋風引そへる
○竹婦人さへ勤のうさに通ふ嵐の間夫がある
○間夫にや下紐とかせて置て客に日がらを括りつけ
○色けついたかもうちぎり初めあだにや茄子の咲の花
○親の後とると思はぬ器量がじまん男ぐるひをする娘
○こひの薄いのしつくわいいはれ色で苦労をする染家
○ぬつと這入て出りや青くさふにほふ菖蒲の風呂の湯
〇ふたり添寝の枕もゆめでさめてかひなくぬらす袖
〇月は真事をうつしもせうがそこのしれないにごり水
〇こよひ逢ふとの約束きはめ永ふ覚えるくれのかね
〇色もない身を水あげしられ客へつき出すところてん
○ぬしと蟹とはようにた心にくやいじから横に出る
○いやなそひ寝のつとめの夜さはあけのからすを待かねる
○坊主にくけりや袈裟までにくいあけの鐘をばつくゆゑに
〇茄子田楽わたしのこころむねをやいたり味噌つける
〇しのび車としつてか牛もよだれながして曳わいな
○仇なうはさが世けんにたつて気がねして出る門すずみ
○すぐで居たものおまへにすられにくやいがんだわしの墨
○地場をえらんで種まいたゆゑひとつ咲てもとまるうり
○よい首尾を早ふ聞ふとかんざしぬいて耳のあかをば取て待
〇二世や三世はそりやさて置て当座そふさへままならぬ
〇鐘もうらまず浮名も立ずほんにきらくなひとり住
〇露にあこがれまつ虫さへもいつか籠をばぬけて出る
〇くるい出したる心のこまをつなぐ立場がないわいな
○にやいますかと眉毛をゆびでおさへながらもはづかしや
○逢ぬしんきにふさがる夜さは蝉の音めが耳に立
○光り有身をついうか/\とやみに迷うて飛ほたる
○糸へつば付あかりで穴へ入る日ぐれの針仕事
○たまに逢ても枕のちりはつもるはなしに山と成
○意知が有のか二人りが中をくらい身にする火取虫
○浅い/\と思ひし内にいつか深なる川遊び
○かいた物さへやくには立ぬ今宵来るとて今に来ぬ
○おだてかへせばアノ甘酒もなれてまことのあじが出る
○はりつめし胸の氷のいつしかとけてうれし涙と成わいな
○あふてうらみの数々よりもつらや無言の別れぎは
〇合ぬおもひに案じた手事きれて気に成三味の糸
〇暑い情が外にも有というて出て行門凉み
○初物と聞チヤどこやらこのもし成て味はさほどにない茄子
〇来るか/\と待せて置てよそへ逃たる夕立雲
〇恋に上下の隔てがないと聞てうれしき一人言
○親指と小指ばかりで願ひの紙を結ぶえにしも末の為
○月のころびねして居る処へよばひぼしとは気に懸る
○隔てられても心の奥がすけて見へすくよし障子
○とても今宵は逢ぬと知れば早ふ寝てまつぬしの夢
     三編
○おまへゆゑなら苦労はおろかたとへ身を粉に砕いても
○まかすからには此たましいをぬしのうはきに入かへて
〇命あつての二人が中にすてて添りやう筈はない
〇無理な願ひの縁さへとげて捨るいのちもをしくなる
〇ちぢまる程にも苦をした主にそへば長生したくなる
〇長い命を短ふもつもみんなおまへがさせるわざ
〇恋のいぢだよこうなりやせつぱ仇に命はかへぬもの
〇添れぬ中とて今さら外になんのしあんがある物で
〇余そで偽いふ程主にあふてまことが明したい
○さして寝たのか此かんざしの蝶もすすきも乱れだす
○偽いふたがまこととなつてまこといふたが仇となる
〇あふて気のぼせするかほ色を火鉢に酔たと紛かす
○そふた中とて脊中を腹にかへた火ばちの獅子がしら
○むりにいぬ気は外ではないがさきへこころが廻りみち
○色にめづらしまだその内は一重桜に気がひける
○笑がほ見せたる山さへ今朝は春に別れて気がふさぐ
○そふた中とてアノ万ざいがちよつと出るさへ二人づれ
○変ぬようにと年玉入てぎりをかけるもすゑだのみ
○うつつぬかしてけふ此ごろは花に胡蝶もいろぐるひ
○口の誠は筆にていはせ腹のまことはせなでする
〇風におもはずちりゆく梅も今は松葉につながれる
〇やがて見初る頃ともなればとかく噂がはなにたつ
○主といへどもまだよその人いつ迄かへさずおかりやうぞ
○人目つくりてはく白粉はほんに当座のはなのさき
○ちつた梅にはみれんはないがのこる実でする此くらう
〇心うかれぬこの捨小ぶねあかのたまるはむりでない
○酒で忘れて又たばこではおもひだしてはひとりごと
O聞程咄しが我身に迫りなほさらおもひが捨られぬ
○水をさすほど猶色まして心ちらさぬ床のはな
     四編
○いやよ音信はつがみなりが始めからして案じさす
○油とらるるアノ菜のはなも浮気してきた後の事
〇雨に濡てはなの花さへもすがた乱してへばりつく
〇仇な桜がちらずにあらば松がうらみをいふであろ
〇焼野の芒と身は痩ながら月に添日を待ばこそ
○あちらこちらと浮気をするか蝶ももつれてゐるわいな
○けふが日迄の恨みははれて又の首尾をば言のこす
○袖にとめたる移香迄もおしやちらせる朝あらし
○昼のうつつが夜は夢となりゆめがうつつの種となる
○吹て退様な其偽りがわたしや気になる癪に成
○つとめする身は皆偽りといつ迄いはれてゐらりやうか
○仁義五常によしはづれても立るみさをは外にある
○首尾に心をくだくも義理をやぶりとむなくおもふから
○あつき二人が恩ある人に礼もいはれぬ此しだら
○風を引たといふてはゐれどむねに覚えの声がはり
○親の落した初雷りにしばし逢夜の道がたへ
〇いやな人をば去せるようと立た箒木が主にまで
○主に智恵をばみな買込れとかくわたしは愚痴になる
○お前に尽した此しんせつは礼をうけたい気ではない
○よし偽りでも聞たい迄におもひこがれた此ごろは
     五編
○色と定めて合したからはひしの餅さへかたくなる
○おなじ添ても雛見た様に気むづかしよな主はいや
○切の焼のとアレ菱のもち見た様なお前の色重ね
O雨に叩かれちるやま吹はそれさへ人にはいはぬ色
○言兼さんした心にほれて明くれ心を砕くむね
〇笑うて山さへ別るる春とおもや今さら樹がふさぐ
○鳥渡裾から桜の陰でぬれて出にくひ別れ際
○浮気者だよアノ初虹はまるい中にも色分る
○胸にたづねて心で引てして迄一こゑ鼠啼
〇待身辛気な辻占迄もあはぬ今宵の拍子間
〇鐘を別れとしていぬ人に名残をしいか慕ふ花
〇罪な男が可愛くなつて人にもしらせぬ苦を造
○仇惚さす様なアノ桜にはつれない嵐が添わいな
○おしていはれず我胸いため心でいさむる気の苦労
○行衛定ぬ流れの水に浮て添たる花筏
○若い気性に任せて鮎も登りつめるは無理でない
O明しおくれて誠も啌となつて苦労が又ひとつ
○梅の若ばも実を持からは花を咲せた後の事
〇ぱつと世間へ浮名を立て花は当座に散安い
○やがて身持の気ざしとみえて花もやつれた顔見せる
〇当座かるのは別れのもとよ霜も日に/\薄くなる
〇主に飽れて私はたれに好れて嬉しい人があろ
〇花と蝶さひ迷ひがあるにまして定めぬ中じや物
〇偽り聞さへ嬉しい迄におもひこがれて逢ぬとは
〇添たき綱が切たるからはかたい火ばしも替る縁
〇宵に降ては流れの水もすまぬ気を持朝の色
〇おもひ積雪落して仕舞や傘も今では骨折ぬ
○よもや人眼に悟られまひというてさしたる紛へ櫛
○せつない思ひに啼時鳥それをきことは情無



上るりさはりどゞ一
〇すむのすまんのあんじをやめな
 菅原二「あなたになんぞ恨みがあるかただしは時平にたのまれしかよくにはなじみの女房もすて母さまのぎりも思はず」
 うをと水との中直り
○富士の山さへ十里にや足ぬ
 忠八道行「はづしいやら嬉しいやらあんじてむねも大井川水のながれと人ごころもしや心はかはらぬか日かげに花はさかぬかと」
 恋の登りはきりがない
○可愛男に誠をつくし
 いもせ山「なみだにしぼるふりそでにむちよ手綱よ立上り竹にサア雀は品よくとまるナ止てサとまらぬナいろの道かいな」
 アヽモしんきな事ばかり
○一寸も放れまいぞとおもふたなかは
 夏祭「そでなし襦袢一つになりぬいてわたせば針さしの糸のむすぼれえんのはし」
 主も五分なら私も五分



どどいつ別な世界
                   〔安政乙卯〕
                            〔全部紹介」
○じれつたいほどおもはせぶりな
 大工「いなかものじやと思うてからに、あんまりなぶつてくれめすな、じたいそ様のやうな美男をとこのくせとして、女子たらしのすてことば」
 こちも木竹じやあるまいし
○程も男もしうちもよいが金のないのが玉にきず
○しゆびをまつちのはなしもふけてあとはうれしのもりのかげ
〇雪はともゑに降しく朝も
 言葉「ヘイおはやうござい舛、こん日はごようはございませんか、御酒はいかがでございます」
 トマァあれも人の子樽ひろひ
〇夫婦げん嘩は三日の月よひとよ/\にまるくなる
○神かけておくる玉章こころをこめて筆の命毛きれるとも
○かはりやすきのただ人ごころ
 み津のあさ「うき世はゆめのやるせなく、ちよきは矢をいるしほどきも、ちやうどよいころしゆびの松、舟じやさむかろきてゆかさんせ、わしがきかへのこのこそで」
 こちの心もさつしやんせ
○親のゆるさぬ夫婦のえんも実がありやこそひとげる
○麦のわか葉もたび/\ゆきにおされなければ身はもてぬ
○はらたたせぐちをいふのもみなじつぎから
 白糸主水やんれ節「これさわがつまもんどさん、わしが女房でやくのじやないが、十九二十の身じやあるまいし、人にいけんをいふ年頃で、けふもあすもと女郎かいばかり」
 たうざの花ならいひはせぬ
○聞けばききばら腹たちまぎれ顔見りやまさかにほれたじやう
○鬼も十七ばん茶もにばなどつか色香のあるもんだ
○雪の初会についたのもしとおもひこんだがこのいんぐわ
○風のつよさに切ても見たがまたもむすんであげる凧
○さし引わからぬおまへのしうちながれの身ながら汲かねる
〇おとなになり田や今全盛をめにも三升は江戸の花
○ぐちをならべしひよくのまくら
 三かつ「アレまたやつぱりそんなこと、云てなかせて下さんすな、これがせけんに有ふれた、いろやうはきじやあるまいし、しよてはしられずしらぬどし、異なえんを神さんが、ひよんなおせわのそののちに、尽ぬえにしを松のもん」
 いろとこひとのかげもひなたも
○えんがきれてもこころがのこるくれて見にゆくはつのぼり
〇すいた同士に子をんなひとり小袖ぐるみで朝寝ばう
○ほれちやゐれどもいひ出しにくい
 小ひな「あきのほたるの身をこがす、はかないこひじやないかいな」
 さきの手だしをまつばかり
〇ちよいとなりとも顔さへ見れば雪の夜みちも苦にやならぬ
○花の木の間にあれ誰やらがたれをまつのか柳ごし
○はやくこのさととてつるてんと
 とてつりけん「そりやむごいぞへなんじやいな、おまへのせわでかりたくの、しかも初会はさわりの夜、初名代をがてんして、あがらしやんした心いき」
 いでてきままがわしや嬉し
○こころゆゑなら手なべはおろか冬もたのしき水しわざ
○山家そだちの芋ほり小僧も金をもたせりやだんなさま
○しづのおだまきくりことながら
 忠のぶ「むかしをいまになすよしもがな、たにのうぐひすはつねのつづみ、しらべあやなすねにつれて、おくればせなる忠信が」
 恋のしらべのもつれいと
○むりにたび/\あふたが罰かいまははかなや遠ざかる
〇ばかになるほどほれたとしつてじらしてくれることもない



浄瑠理入端唄の交張 初へん
                   〔万延庚申〕
                              〔全部紹介〕
○もしもきたかとあんどうけして
 女「はるさんかへ」
 男「なんかまつくらだぜ」
 女「しれたことさおまへがくるからあかりをけしたはね」
 男「そりやアまたどういふわけだ」
 ぬしのおかげじやくらうする
○ここでそへざばかしこへのいて
 清元おかる「やぼないなかのくらしには、はたもおりそろちんしごと」
 くちのさきなるうそばかり
○けふはおだやかいざまゐらんと
 二上リ大尽舞「しかいなみもおだやかに、をさまるみよこそめでたけれサアほほだいじんまひをみさいな、そのつぎのだいじんは、そも/\くるはのはじまりて、ゆげのだうきやうちよくをうけ」
 うかれくるわとなづけたり
○だいじんごかしにおだててやればだんなきどりで手めへづけ
○なにかささやぎやくそくかたく
 清元康ひで「おきよどころのくらまぎれ、ばんにやいのとみみにくち」
 むべやまかぜはいやじやぞへ
○さてはたよりとてがみをひらき
 詞「なんだふみにはかはつたこともないが、なかにまつばがはいつてゐるははてなはんじものか、たよりをまつとかきみをまつとかくるをまつといふことか」
 まつはういものつらいもの
〇あたりみまはしそばへとよつて
 詞「これさおまつさん、こんなにわたしがいふのに、そんなにかんがへてゐることはねへはサ、ことしはふじへもつれていきやす、あれさだまつてゐてはわからねへよ」
 とけぬおもひはみねのゆき
○いしやのなかだちこんれいすんで
 詞「モシあなた、あのなかうどをよびにおやんなさるからには、なにかわたくしにおあきなさつたのでありませう」
 男「なにさうではないが」
 せきがでるゆゑきにかかる
○きしやうかけとてしむひつにむかひ
 青柳すずり「これで/\となげつくるうばがことばにげにそれよ、かみまつくろにかきよごし」
 ほかにこころのないしようこ
○こひのみちではちからでゆかぬ
 声色伴左衛門「そこをすなほにとうさぬが、しらつかぐみのだてしゆのいぢづく」
 そのいなづまじやこげはせぬ
○つもりつもればはなしもつきて
 「なぜおめへはたなのだるまばかりみてゐるのだ」
 「わたしはうらやましい」
 「なぜ」
 「おまへとふたりでうちをもつてね」
 「それから」
 ねたりおきたりしてゐたい
○ながいつきひをまめにてくらし
 詞「このけつかうなまち/\を、こんなしやうばいをしてあるくゆゑ、さだめしばかなやつだと思ふだらうが、そのかはりきらくなものよ」
 うまいよのなかいつぱいに
○ひよんなことからふと座をたてば
 先代はぎ「あとみまはして、まさをかが、まさなきことのきにかかり」
 なみだぐむのもこひのよく
○ほそだにがはのこのみはほたる
 声色ごん八「みはこがせどもこころにまかせず、そりやこれぎりにはならぬとか」
 よしあしのはのくされえん
〇どううかくふうとさうだんすれば
 声色ふか七「そのわけかたらん、よつくきけ」
 つれてにげるがはやがてん
○えびす三郎つりをばたれて
 詞「たいをつらんと思ひしに、ふぐがかかつた、これはどうじや」
 みづがにごつてゐたせいか



新撰度独逸大成 前編
                   歌沢能六斎集〔万延二年〕
                               〔全部紹介〕
(歌沢能六斎の選集した新撰度独逸大成四冊の中から、二冊だけを紹介したいと思ふ、この二冊は前編後編となつてをり、他の二冊は文句入りだともいひ、前両冊の文句の訂正もされてゐるらしいが、未だ調査の機会がなかつた)
     叙
行水の流は絶ずして、しかももとの水にあらずと、鴨の長明がいはれしは、どゞ逸ぶしのことなりけり、五六十年以前より流行して今に至て廃ことなく、その文句はしかも旧のもんくにあらず、日々新作の詞花言葉、意は詩歌におとらずといへども詞賤しきをもて同席せられず、仮令おなじ流の身なれど、全盛三分の娼妓と、小莚一枚の辻君なるべし、されば都鄙老少男女どどいつうたはざる通客なければ、諸家の秀作多かりけるを、こたび新古のわいためなく撰集して大成と号け、且加ふるにわが連中の、新作をもて補ひしはしかも旧のもんくにはあらざらましと云れん為のみ
   万延二酉孟春
                   隆典堂主人
                   鰥寒翁谷峩述

目録 唄員通計七百三章
  〇正述体 唄員三百四十章
     おもふよしをうちつけにうたふなりたとへば
     たまにあひ嬉しいちよんの間わかれたあとはつねになほますもの思ひ
  ○寄物述思 唄員二百六十七章
     ものによそへて思ひをのぶるなりたとへば
     めぐる因果の車のわたしひくにひかれぬ此しだら
  ○名所地名 唄員九十六章
     ところの名によせてこころいきをあかすなりたとへば
     ぬしにわかれてそれ辛崎の夜ごとなみだの雨ばかり


新撰度独逸大成
                   歌澤能六齋輯
     正述体
○孝を立れば人情がすたるこころふたつに身はひとつ
○早く染たいわたしのねがひいつまでしら歯でおくのだへ
○そんなに己を疑るやうじやそなたのこころもきまるまい
○髮もゆふまいけしやうもせまいかたの付までむすびさげ
〇うたた寝のさめてためいき心のもつれ人にヤはなせぬ此しだら
○末もとげない気安めならばよしておくれよ今のうち
○是といふきずもあるならあきらめやうがあくまでぬけめの無いお人
○ぬしの冷酒ひやりとするよきつとこれからよしなんし
○たま/\逢ときヤめもとがうるむ泣にもなかれぬ人のまへ
○義理をかいても斯なるからはあくまで女房にもつこころ
○人にやいはれぬわたしの病灸もくすりも水の沫
○ひとり寝る夜も枕をならべひとつはぬしとだいて寝る
○ほどにひかされついうち解て人にヤいはれぬ此くらう
○つらい勤の辛抱とげてらくなそひ寝がして見たい
○そはれぬ縁じやとしりつつ惚て死んでもそはずにヤゐられない
○わたしゆゑにはおまへにまでもくらうさせるがいぢらしい
○わたしヤ年わかまだ親がかりおもふおまへは女房もち
○逢たい見たいは山/\なれどこころにまかせぬ親がかり
○友達にわからぬ男のつくり名かいて心でたのしむ縁むすび
○あふは別のはじめといへど死ぬまでわかれてなる物か
〇今のくらうに百倍まそがそふたうへならいとやせぬ
○きれたお方のお顔を見ればふさぐこころが恥かしい
○ふとした事からついのりがきて今はかた時わすられぬ
○切るかくごで斯なるものかたとへうは気で出来たとて
○しれちやならぬとかくして居れど思はずのろけが口へ出る
○見まいと思へどついお互いに顔見合してはしらぬかほ
○逢ていはふと思ふたこともいはでわかれてあとくやむ
○りんきらしいと言はんすけれどだれがこんなにぐちにした
〇もしやさうかと悪察まはし口からひくのもほどにしな
〇わるく言れりヤとも/゛\むりにけどられまいとて悪くいふ
〇ぬしをかへして又寝の夢にまくら抱しめためなみだ
〇内でしつけぬ此水しわざそれたおまへのこころから
〇たまにあふても人目があればつもるはなしもなくばかり
○しつてしらない顔さるる程こころくるしいものはない
○かはいさうだよきはどい間にもめかほしのんで逢にくる
○しのびあふてもはかなきあふせたばこのんでも身ニヤならぬ
○待もせぬ客はくれどもまつあの人は声もまたせぬじれつたさ
○為を思ふていけんをするに腹をたつとはなさけない
○もとを正せば他人と他人あらひだてすりヤぬしのはぢ
○つまらぬ事からうたぐる物のわけをよくききヤ恥かしい
○をかしらしいと心を付て見れば目につくことばかり
○あんじなさんなよおまへを置て外にうはきをするものか
〇たまにきてさへ咄もできす顔でわらつてむねで泣
〇末はどうかとあんじるやうでてんからいろになるものか
〇うつつ心で柱にもたれ起てゐながれぬしの夢
〇せつかんもなんのいとをふ命もやつた男のゆゑなら苦にはせぬ
○癪を押し其手を押へぬしのたんきで此やまひ
○ぬしのあるのに命をかけてまよひそめたが因果づく
○恨いふのもすねるも泣もみんなおまへがさせるわざ
○たよりすくない此身の上としつてゐながらにくらしい
〇茶だちしほだち火の物だちでやせたもみんなぬしのせへ
○思ひ切とはむかしのことよ今さらいけんはやぼらしい
○おもふわたしに思ぬおまへどうでうは気はやみヤせまい
○人のいけんも火水の責もなんのいとをふ恋のいぢ
○腹たたせぐちをいふのもみな実ぎからたうざの花ならいひはせぬ
〇おもふ心のとどいたこよひはれてうれしきひとつよぎ
○あふて嬉しきわらひの種が朝はなみだのたねとなる
○末はどうかとあんじるやうな浅いほれやうをするものか
〇はらが立ならどふなとさんせおまへにまかせた此からだ
〇むかふ鏡にやつれた姿誰ゆゑこんなにくらうする
○絵にもかかれぬ互のまこと一所にならいでおくものか
○人目多さにたま/\来ても顔見るばかりでじれつたい
○女子たらしのおまへに惚て今じやいへないくらうする
○梶の葉うらへ書名がしらも人に見られてはづかしい
○帯もとかいであふが身が嬉しそへばなんでもない女房
○こんな心にしたのもおまへ今さらあきてはかはいそう
○うはきしやうばい笑はれながらこころの錠まへあけはせぬ
○鶏にわかれたむかしのからだ今じやいつまで寝てもすむ
○あとの為だとかへして見ればはなしが残てままならぬ
○うはきなおまへにまじめな私むすびちがひのあだ縁し
○なみだもろいは女の常かわざとじらすとしりながら
○火ばし持てもおまへの名の字ふだんこころにたへぬから
〇遠くはなれて待みのつらさ鳥の影さへそらだのみ
〇今朝の夢見によろこび烏こころうれしきねずみ鳴
〇たよりない身にたよりができてもとめて苦労をするはいな
〇筆にいはせた心のたけをあへば何やらくちごもる
○あんじるなやがてくらうをさせたもしたも寝ものがたりの種にする
○文をやつてもか只かたたよりわたしや是ほどおもふのに
○雨はよいもの昼さへしばへよつて居れども邪魔がない
○今さら互にうは気もできヨウかたいかいなに入ぼくろ
○ちよいと逢ねば心もすまずあへばひかるるうしろ髪
○かくすほど猶人にもしられ浮名たつほど切はせぬ
○くらうするのはてんからかくごいきな亭主をもつからは
○人めしのんで逢びきしたも今じやはなしの種になる
○ほれたお方に又惚られてほれた性根を見すかされてかやみとよはみへつけこまれ
○としより過ると笑はばわらへわたしにヤ大事な内の人
○おもふとほりに願もかなひ実に嬉しい身の果報
〇親兄弟にも見かへた人をあいつにとられてなるものか
○格子の内からそれとはしれど人のみるめにしらぬふり
○さうした浮きがある程ならばなんでこんなにぶたれやう
○切もせずおふもならずの身でゐるならば神や仏をたのみヤせぬ
○手なべ提てもあの人ならば慾をはなれて恋のよく
○かはる枕になさけはうれど心をうらぬがぬしへぎり
○いたらぬわたしが心のくらううはべばかりをはでにして
○はなしもきかずに又癇癪のやけじや理道もわからない
○此ごろはなみだもろいとわらはれぐせがついてふさぐもぬしの事
○土地はもとより世間はなほもひろくさせたいこちの人
○おそまきながらも辛抱さんせトいうてなみだにむせかへり
〇蚊屋を出てから又みる寝顔かうもゆかしくなるものか
〇二日あはねばとりこしぐらう風のくさめも気にかかる
〇人のほめるを亭主にもてばうれしいながらも気がもめる
〇今のくらうも楽ましやんせねものがたりの種にする
○ききわけがないとわが身でしつてはゐれど思ひきられぬ恋のよく
○むかしの馴染からふたりしてのろけあふのもたのもしき
○義りといふじにわしや別るれどすゑであひましよ弓のつる
○かあい男をかへさにヤならぬにくい鴉とあけのかね
○実もまこともつくしたふたり今さらうは気をするものか
○惚たがむりかよ心も顔も男にヤやさしいつまはづれ
○ぬしはいい気なもう寝なんすかわちきのこころもしらないで
○いひ度ことは山/\あれど顔みりヤさうは口へ出ぬ
○物思へとやばんじの事にやさしいからして忘られぬ
○うは気しやうとはしりつつ惚てくらうするのも心から
○たらはぬくちでも女子は女子すゑのくらうははじめから
○いつそ死でと思ふちヤみれどいのちありヤこそ末もある
○ばかよ頑とそしられながらおもひきられぬ恋のやみ
○わたしは変た心もないにぬしはくぜつのいひがかり
○実もふじつとなる身のつらさおくる茶やにもぎりがある
○縁も時節も誠がたよりあだやうはきでそはれふか
○お部屋へ気がねもおまへが大事せじもつとめもぬしのため
○たよりない身でつくした実ぬしはうはきできれことば
○親の気にいりわたしもすいたいきで律義な人はない
○切た当座はがまんもいへど日数たつほどおもひ出す
○軽いしよたいもおまへ二人気がねせぬのを楽しみに
○わけをいふのにまア聞しやんせいやでわかれる気ではない
○人にいけんもしかねぬ主が人にいはれる此しまつ
○つらい峠やかなしいうき世こしてけふ日のあら世帯
○わが惚りや人もそうかと邪すゐをまはしぐちなやうだがはらが立
〇気にもかかろが互の実はたへずたよりの文のつて
〇鏡にむかへばやつれた姿あいそがつきよとあんじられ
〇聞わけがないとおまへはいはんすけれどきれるかくごで惚はせぬ
○遠ざかるのはこらへもせうが人のしやくりが気にかかる
○朝な夕なの神しん/゛\もぬしに災難ないやうに
○友だちヨたのめば時節を待とじせつまつなら頼みヤせぬ
○心やたけに身ははやれどもさきへとどかぬふしあはせ
○苦労させたりしもするからはいやだあきたといはしやせぬ
○私ばかりかほうばい衆がおまへの実意をほめてゐる
〇惚たしやうこはおまへの癖がいつかわたしのくせになる
○おまへいやならつん/\しやんせわたしやひとりで情たてる
○いやならよしやがれあきたら殺せいきのあるうちヤ切はせぬ
○どきよう定てあはさつしやんせ酒のうへだといはしやせぬ
○欝ぎヤめに立とぼけてゐれど胸にしんくはたへはせぬ
〇ほつとため息枕にもたれたがひに見合す顔と顔
○斯なりヤふたりが手ごとにヤいかぬまことあかして人だのみ
〇何をいふにもとし若なればはなすはなしもあとや先
○気づよいばかりが男の情かすこしはなさけをかけさんせ
○せくなせきヤるな時節を待なおもふてそはれぬ事はない
○死なばもろともかせげば共に門にたつならふうふづれ
○酒はもとより上戸じやないがあはぬつらさにやけでのむ
○義りと世間と人めがなけりやこんなくらうはすまいもの
○その酒をとめておくれよ飲せちやいけぬしらふでいはせる事がある
○よかれ悪かれいらざるおせわわたしがめがねで惚た人
○事とすべなら親子の縁も切ておまへもたつやうに
○かへりヤさんすかちと待なんしはなし残した事がある
○やめてくだんせつきあひ遊びかよふうちにはあつくなる
○床のほてりもまださめぬのにかうもあひたくなるものか
〇世帯かためてやれ嬉しやと思やおまへの又うわき
〇そんならさうよといひたいが二日あはずにゐられうか
○おくばきり/\がまんはしてもいつかおぼえし癪とやら
○のつきつた事をしたならなげきもせうとかばい立して此様しぎ
○かくし立していひ訳すればけつく目にた詞じり
○いくらこつても思案におちぬいれざなるまい人の耳
○日にち毎日あふたる罰か今ははかなや遠ざかる
○さういはしやんすな全体凝性人がいふほどやめられぬ
○はたじや何とも思ひもせぬにじぶんの邪すゐでさとられる
○涙もろいとおいひだけれどこれが笑ツてはなさりよか
○近所へ来ながら逢ずに行もじつは身の為すゑの為
○腹じや泣てもうはべじや笑ひほんにつとめのうらおもて
○わたしや全体いちづなせいか人もさうかとひかされる
○しあんしかへてみる気はないかそれじや苦らうしたかひがない
○へたな異見を聞気はないが唄の文句じや身にしみる
〇いけん言なといひ人もあれどわるく聞れりヤなほつのる
○くるしいわたしの心もくんでたまにヤやさしくておくれ
〇人にはなせばわたしの恥とおまへのうわ気をひしがくし
○仕うちで惚たはわたしが悪い口をきいたはおまへから
○めんと対てむねきな異見しらをきつてもかほへでる
○人のうはさも七十五日どうせいちどは言れぐさ
○ほうばいづき合いびつになればあれもしやくかと気のひがみ
○頼みがひないおまへの胸をどふぞたのみにして見たい
○口へ出さねどくらうがあればどうかおしかと人がいふ
○人にヤきかないおまへのそぶりじつにわたしの目にあまる
○かんがへりヤかんがへるほどくらうがまさう愚ちになるのもむりはない
○はたじやまだ気も付ずにゐるにすねにきずもちや気の弱さ
○しやうばい冥りで嬉しい晩はつねの苦がいをとりかへす
○わが身でわが身がじ由にならぬぢれてくひつく夜ぎの衿
○相談づくなら遠ざからうがとひおとづれはしておくれ
○合せものはなれりヤ他人とそりやヤ情がないうつくしづくならいつまでも
○たま/\あふのにもういろ/\とがはじやなん癖つけたがる
○としが違ふがつり合まいがそれはおまへの逃こう上
○ほかで見たならをかしかろふがいふにいはれぬ事がある
○おまへもわたしも主あるからだどうせすゑよくそはれまい
〇もとめた苦らうはわたしのすゐきようどんなむりでも請てゐる
○末のくらうはしてあるけれどおまへを思へばなきわかれ
○あはぬ身ならばあきらめよいがなまじ顔みりやます思ひ
○つとめ酒をばあんまりのむなそれがしじゆうは身にさはる
○遠くはなれてくらすも時代からだ大事にしておくれ
○むしをころして言れてゐるもみんなおまへをかばふゆゑ
○惚たよはみをみこまれぬいてねこそげおまえにぢらされる
○つとめの身ならばどふしてなりとあげてたのしむこともある
○おまへにあふたびわがまいふもつらいつとめのうめあはせ
〇いしゆもいこんもない客人へつらくあたるもおまへゆゑ
○文のたよりじやいなやがしれぬみれんなやうだが顔見たい
○あはぬ昔とこらへもせうがどうぞたよりはしておくれ
○かくれてあがれば心のひがみしようちしてゐてぐちがでる
〇口じやいはれずしうちじやできずぢれてふさいで癪のたね
○できぬしんぼもおまへの為とつらい苦がいのうき月日
○口でいはれぬくがいのつらさおしてごらんよ胸のはり
○たつたひとりのおまへを便り鬼の中でもしんぼする
○寝がほのやつれを見つめてゐればなみだでおまへの目をさます
○せまい二階で人目は多しぬしもつらかろわたしやなほ
○つねにやさしいほうばいまでがおまへをそねんでむかふづら
〇くらうさせたり気をもむ本は身から出たさびぜひがない
〇かげで嬉しい思ひがなけりや苦がいが片ときつとまろか
〇年季かぞへてふさいでゐればうれしいおまへの初会口
○邪けんな親だと思ふてゐたがおまへとかうなりや結ぶ神
○人にヤいはれずわが胸ひとつなくもぢれるもこころがら
○のろけばなしについのりがきてかくすおまへがくちへでる
○らちのあかぬが月日と年季はやくふたりがあらせたい
○つうなおまへにわからぬわたしなんでつじつまあふものか
○そふて苦らうは世上のならひそはぬさきから苦らうする
○やうすきかなきヤさぞ腹が立とこれにはだん/\わけがある
○ぬしのかん癪日ごろの気しつどうできくまいとめはせぬ
○遠くはなれてゐるかなしさはうわきよされてもぜひがない
○嬉しい中にもこはいが三分ほれたおまへに新まくら
○女房もちとはしつてのことよほれるにかげんができやうか
○深くなるほど人めをしのび目も口ほどににものをいふ
○眉を落してざしきをひいてきげんとるのもぬしひとり
○親のいけんを何きくものかいぢはたがひの胸にある
○友だちヲ力になに惚やうぞそはれにヤ尼になるかくご
○末のとげない縁ならよしなくらうする身のかひもない
○文は逢どもわが身はあへぬふみになりたや一夜でも
○末のくらうは元よりしようちどうぞ添寝がして見たい
○ぐちもいふまい悋気もせまい人のすく人もつ果はう
○かるい世帯もおまへと二人きがねせぬのをたのしみに
○手なべどころか喰ずにゐても切るこころになりはせぬ
○犬がほへてももうお前かと閨のとぼそを明て見る
○親は此手で切文かけといふて手ならひさせはせぬ
○おまへにまかしたわたし体煮よと焼うとすきしだい
○庭の松むしなき止たびにもしやそれかと気がもめる
○うしと見し夜もけふ日になつて見ればこひしい事ばかり
○見捨られればわしや墨染の袖とかくごをきめてゐる
○たつた一言人づてならでいふて置たいことがある
〇鳥のそら音ははかりもせうがぬしの空寝ははかられぬ
○恋に朽なん名はをしけれど今さらいぢでもきれられぬ
〇忘まいぞや行すゑまでもかたいちかひのいれぼくろ
〇一人寝るよの其あくる間はいかに久しきものおもひ
○露の命を長くもがなとおもふもおまへがあればこそ
○なまじあひ見てなほ物思ひしらぬむかしにしてほしい
○人しれずおもひ染しがもうとやかうと浮名がたつては猶やめぬ
○今くるといつてわたしをよもやにかけてもはや有あけとりが鳴く
○風に吹るるしら露よりも人のこころはちり安い
○しのぶ恋ぢもつい色に出てものや思ふと人がとふ
○身をなげ出してもそはねばならぬ人にいはれた事もある
〇君が為なりヤわしや野に出てわか菘つむともいとやせぬ
〇人目ありヤこそ飛立むねをじつとこらへてしらぬ顔
〇左様しからばしかつべらしく他人ぶりよすりヤ猶かあい
〇およばぬこととは思ツちヤゐれどやつぱりみれんで神だのみ
○賤のをだ巻又くりかへしどうぞむかしにしてほしい
○足曳の山鳥の尾のなが/\し夜をどうしてひとり寝つかりよう
○秋の扇と身は捨られて風のたよりもなくばかり
〇どうせ足ないわたしだものをすてるおまへにむりはない
○あるものをないといはんす心がにくいりんきするではなけれども
○待たつらさをせなかでみせてしばしがまんも恋のいぢ
○初はたがひにうはきで出きて今はひとりで情たてる
○こちら向なと引よせられてうらみつらみもどこへやら
○いつそ邪見をとほしもせずにほんにおまへは罪な人
○なんの玉のを絶なばたへろあはで苦らうをするにヤまし
〇客にうそをばつく其罰かまことあかせどうたぐられ
〇りんきせぬのが女の道とうはきしたさのえてがつて
○おためごかしももうききあきたいやならいやだといふがよい
○逢ばあふほど猶やるせなやたま/\あふてもすんだもの
○為になる客つとめるつらさぬしに枕のばんをさせ
○燈心をひとすぢへらしあちらを向てぬしはねたのかいやだねへ
○人のてまへはてくだと見せてじつにほれたで胸の癪
○親の邪見も今では嬉しつとめなりヤこそあひもすれ
○灰に書てはけす男の名火ばしのてまへも恥かしや
○うはきな男がなぜ此やうにてまへで手まへの気がしれぬ
○うけさせやうとていふでもないがのろけばなしもうさはらし
○かはる枕のねざめのとこにヱヽもじれつたい此からだ
○血をわけてもらふた親でもわしやすてる気じやあらぬ他人のぬしゆゑに
○是が惚たといふのかしらずいとしなつかし気がもめる
○わたしヤどど逸でまぎれもせうがぬしはお帳合おきづまり
○じつも誠も皆いひつくし枕ならべて顔とかほ
〇あふて間もなく早東雲をにくやからすが告わたる
○松もみどりを幾千代かけてすゑをいはふてゐるわいな
○いふて置のになぜ浅はかな口ゆゑうき名がたつわいな
○ぐちもみれんも沢山あれどむかふかがみに恥てゐる
○女房さらずにわたしも切ずほかにしあんはあるまいか
○筆はかはいやはなれてゐても恋しゆかしのたよりきく
○思ひ出すとは忘るるからよわたしや夜の目も忘られぬ
○あふてわかれのつらさを思やあはぬつらさがましであろ
○人はこり性と只一ト口にこるもこらぬもさきしだい
○ぶたれる覚悟のわしや結髪色であふときヤかうじやない
○腹が立ても又わけきけばのろいやうだが夫もそれ
○切た中とてたよりはさんせいやで別れた縁じやない
〇いやな座敷で笑ふのつらさないてうれしきぬしのそば
〇ぬしを思へばてる日もくもるひく三味せんも手につかぬ
〇待がつらいかまたるるわしが内のしゆびして出るつらさ
○かへらしやんせと口ではいへど立ばおどろくむねのうち
○今は待身をわらはば笑へすゑは高砂そふて見しよ
○門付のしん内ぶしも身につまされてもしやとあんじるひよんな気を
○わけもないことわけあるやうに言れりヤぎりにもせにヤならぬ
○似たことがもしやあるかと人情本をよんでなほますものおもひ
○ぐちなわたしにさばけたおまへ柳に蔦じやと人がいふ
○それみやしやんせいはないことかさきも血道を上てゐる
○人に気がねもおまへのおかげ明くれくやしいことばかり
○せじとつとめに涙のゑがほなかせるおまへはむりばかり
○せじもいふまい気がねもせまいおまへもうは気はやめさんせ
○恋のやみぢはかねてのかくごはれてあはれる身ではない
○しあんするほど切るてはならぬ今まで苦らうのかひがない
〇数ならぬ身でも恋ぢのまことはまことほれたに上下があるものか
〇すまぬ顔色見てとる実は他人にしれない惚た中
○あきらめましたよどうあきらめたあきらめられぬとあきらめた
○今さらにぐちもいふまいなげきもせまいそはざ命がありやせまい
○待宵のかねはうしみつわかれのとりにまさるつらさようきおもひ
○みじか夜のとりは恨まず長よのかねをうらむ心の客と間夫
○いやであらふがまアきかしやんせつらいわかれもぬしのため
○楽をふり捨くらうをもとめ人にわらはれぬしのそば
○ひよんなことからついしたわけに今は他人とおもはれぬ
○達引づくならすみがへしても年の明までよびとげる
○金じやせかれぬそなたの気性といふてほれては数多し
○ないてはなせばつとめとなぶりこれが笑てはなさりよか
〇うわきしやうばい玉やじやないがぬしにあはずばくらされぬ
〇くぜつした夜は鏡の蓋をあけてふさいでまたあけて
○心がらとてわが土地はなれしらぬ他国でくらうする
〇先はうはきであらふとままよわたしや実意をどこまでも
○わたしの心にあまればとてもなんの他人にはなされふ
○はやくやめたや通ふも呼も待もわかれもないやうに
○たつた一ト夜がよみぢのさはりしらざ他人でくらすだろ
○夏やせと人にはいへどぬしゆゑかうもくらうするのをたのしみに
○世につれて辛苦するのはいとひもせぬがそはれないのがわしやつらい
○そなたひとりに苦らうはさせぬどんなはかないくらしでも
○つらいかなしい峠をこしてなんでたやすく切られふ
○あへばさほどにはなしもないがかほ見にやくらうでねつかれぬ
○じれつたいほどなぜ此やうにほれたわたしの気がしれぬ
○末にふのはそりや縁づくよ当座あはずにゐられうか
○そひとげる人もはじめはふとしたことよほれたが縁ではあるまいか
○論はないぞへ惚たがまけよどんなむりでもいはしやんせ
○あはれぬからとて女の操たてて見せましよあくまでも
○しがみつくほどくやしいけれどわけをいはれりヤぜひがない
     寄物述思
○色になるみの襦袢もぬいで素肌じまんの夏の不二
〇ないてゐるのを面白さうにはたで見てゐる籠の虫
○鍋に耳あり徳りに口よちよくとはなしもできはせぬ
○寒い夜風に身をすりよせてうれしなきにかなく千鳥
○初鶯もうちきはいやよないてうれしい庭の梅
○さしひきわからぬおまへのしうちながれの身ながら汲かねる
○秋の風ゆゑ気をもみぢ葉のそめてくやしきちりごころ
○惚たき菊を露しら萩のつれないおまへは鬼あざみ
○ぬしのうは気はもみぢの時雨夜ごとぬれてもあとがない
〇三味せんの糸よりほそき芸者の身でもはりといきぢできれはせぬ
〇そろばんのたまにあふゆゑこころがしれぬ割て見たいはむねのうち
○更て青田にこがるる蛍れんじまで来てかやの外
○招ぐ尾花についさそはれてつゆのえにしの草まくら
○心つくして嫁菘とならば今にみもちか草の餅
○うまく根松で抱しめのうちかずの子だからおろし初
○みすぢ霞のひく三味せんやさかへさかふる門のまつ
○くぜつの種なし肌うち解ずかほはいつでもはじもみぢ
○雨の雁がね枕にひびきひとりなみだの露しぐれ
○風に蚊やりの燃たつままにむねのほむらが猶まさる
○どうした縁やらなま中染て今さら時雨にちるもみぢ
○開きかかりし寒紅梅を水あげすまして床の花
○鶯きどりであつかましくも梅に来てなく鷽の声
○恋のしよわけもしらはの娘おもひありげな手まり唄
○思ひやりにもまことはとどくつゆにやつるる草の花
○君をまつ葉のかんざし投てあふみおもての畳ざん
○青柳の水にうつりしあの三日月はやつるるはずだよ病あがり
○ちやんと備てはつ/\しくもぬしの影まつかがみもち
○うつかりと籠を出されてした切すずめもとのくがいがうらめしい
○ぎりにからまれ心の竹を八重にくんだる籠細工
○けふかあすかのかはいい中も淵が瀬となる世のならひ
○めぐる因果の車のわたしひくにひかれぬ此しだら
○雪かさくらか遠山鳥のおまへはあらしのした心
○のぼりつめさすほうづもなしに糸のありたけ奴凧
○羽子をつく/゛\あんじて見れば風にそれたも気にかかる
○恋の手ならひいつ書そめて筆にいはせるいろはもじ
○葭と芦との節ある中へ深くさしこむ秋のしほ
○心々のあの萍の岸にさくのも水による
○色の味をももうかみ分ておもひ切ます唐がらし
○親のゆるさぬしのびの駒はひくにひかれぬ罰あたり
〇雁にことづて乙鳥にたよりどれも聞たやはなしたや
○人が水さしてもいつかつい深草のつゆもいとはぬかよひみち
○弓をはる駒矢をはなの春的へあたりもいかめしや
○おもふお方の手をしめの内うれしいしゆびを松かざり
○火のし片てに羽織の皺へそれといはずにあてこすり
○梅がかのかをりゆかしきこころの竹にぬしのたよりを松ばかり
〇松にしのんで夜長の秋をあかしかねたる床のうち
○はかないやうだがあの朝顔はしぼみや又さく花がある
○梅の娘に柳のわかしゆ月はよごとの縁むすび
○としのはじめのあら玉娘だいてね松やしめかざり
〇雨の蛍とわたしの心ひとりこがれて夜もねぬ
○野べの若草嫁菜をつめば君がよながのさいになる
○葛の葉のうらみつらみはそりやあだ惚よ秋風たてぬまことどし
○揚りつめたるあの奴凧いろもつのればのめをつく
○夢に顔みて嬉い間なくさめてくやしき夜半の雁
○鰺な目元に蓼酢のうまみわるいとしりつつ過す酒
○あげる花火と浮きな恋ぢいくといふ間にあとがない
○堤あがれば柳の雫ちよいとぬれたる縁のはし
○宝舟して二日のまくら夢もうれしくみなめざめ
○あし曳の山鳥の尾のなが/\し夜をひとりかり寝の仇まくら
○いろの穂垣の朝がほさへも何をすねてかうしろむき
○ふたば葵のふたりが中は人がさかふと切はせぬ
○とけぬ恋でも月日をまてばいろになるもの谷もみぢ
○叩く水鶏もそれかとばかりまくらひとつがじれつたい
○嬬子の帯ほどとけあふ中もあきりやそろ/\切かかる
○梅の匂ひを桜にこめてしだれ柳に咲せたい
〇明ていふのに聞入なくば命ヤすてるぞ火とり虫
〇男心はあのあぢさゐよ日々にかはるがにくらしい
○鏡出してもそのことばかりなみだおぼろの薄ぐもり
○けむる蚊やりにまぎらしながらあはぬつらさになみだぐむ
○水にまかせた萍さへもすいたところで花がさく
○笛の中だち目がほも恥ずしたふ思ひを口うつし
○娘大事と人にも見せぬうちに色づく室の梅
○こんな容して恥かしらしい畳いつぱい松のかげ
○べにで書たる此はなし文雁のたよりをまつつらさ
○水を手まくら楽しいめうとすいな隅田のみやこ鳥
○鴛鴦のむつみとわらはば笑へ人が水さす透がない
○むすぶあやめも心の願ひつゆにぬれるの辻うらか
○心さとれとつく追羽子にいつか解たるしゆすの帯
○わらふ唇しら梅見せて声はうぐひすまよはせる
○ぬしをまつ虫こがるる蛍おもへば胸の火とりむし
〇門の鳴子の夜風にゆれてもしや来たかと胸さはぎ
○しのぶ恋ぢは遠くの蛍目には見えてもままならぬ
○つげの櫛はにかからぬ髪も人の口はにやうき名たつ
○けむは蚊やりの辛抱すればあとはすみよき夏ざしき
○恋の中がき真葛にゆはれうらみ/\て秋の風
○ござは青海蚊やりはもしほ船ぞこまくらのとまり船
○わたしや呉竹おまへは雀雨のねぐらが縁となる
○船のもやひもいつ解あふておまへしだいのながれの身
○いたら貝ない心をもつて君にあふとはあはび貝
○ちよいとお待な着ものをおくれ屏風の唐子が見てゐるよ
○風に木の葉のちらされたのもかきあつむれば籠の中
○中口きかれてうたがはれたもはるの氷と解てゆく
○さきは主持たよりはしれずいつて見たいにヤ籠の鳥
○梅の娘に柳のわかしゆ雛めびなのさくら花
○萩の下つゆ露ちりほども君にヤ命もをしみやせぬ
〇風にもまれてただよひながら岸へつくかよあまを船
○わかい男に気をもみぢばの後家にうき名が立田川
○おのが身をあとへ/\と田うゑのやうに卑下すりやにくむものはない
○見捨さんすなわしや蔦もみぢからむたよりは主ばかり
○辛抱しなんせ雪間の若なやがて嫁菜の花がさく
○うわきする筈ヽヽヽさまも天のいは戸のあなばいり
○鶺鴒にとんだよいことをしへてもらひ数の子だから神のすゑ
○あかつきのちわは隣かあのほととぎす鳴てこかれの今朝の雨
○しのび駒かけてくどいてできたるおまへばちでもあたらにや切はせぬ
○朝がほのからみつく竹ひきはなされて花がうつむきやつゆがちる
○まき紙のへるにつけてもわが身を思ふはやく年季を明くれよ
○あれ程いふたになぜまア遅いまつ葉かんざし畳ざん
○あはぬうらみにぬらした袖をとけて寝た夜に又ぬらす
○何かしあんで気をもみ裏のゑりにさしこむかほの雪
○かごの鳥をばほんねを出させどうすりや今さら切ことば
〇ふつつりと廊下で切たる此うはざうりたてるたてぬもさきしだい
○うかれくるはのあの里雀すぐな竹にはとまりがち
○待にかひなきあのほととぎす雲井へだたる声ばかり
○千々にくだけし白滝なればすゑにあふせはあるものを
〇玉のことばを錦にをりてつづれあげたる恋ごろも
○思ふ念力ぜひ今一度筆のいのち毛つづくだけ
〇はれてあはれぬ今宵のしまつにくい雲めが又しても
○くよ/\あんじて身はうつせみの心もぬけのからごろも
○もつれかかりし此黒髪をといてむすぶもをりがある
○さんさ桜に梅がかこめて芽ぶきやなぎに咲せたい
○五月雨のくされ縁じやとあきらめさんせ菖ぶかたなできれもせず
○三国一やの白酒娘雪のはだへにふじびたひ
○しんぼしなんせあの梅の木も雪の中からはながさく
○泣てうつむきヤかんざしよりもおつるなみだの玉あられ
○恋のまがきにしのぶは蔦よひとめかねては青々と
○雪のはだへに桜の目もと月にいくらとうはさする
○梅も柳もみなそれ/\に恋のいきぢのあだくらべ
○春の野に思ひすぎ菜はおまへのうわきあんじ心のつく/゛\し
○うぐひすに負ぬ音色がたまさかあれば谷の中へもはなの兄
○まてば甘露とそりや甘口なまたれるほどなら気はもまぬ
○医者さまが小首かたむけ二のさぢ投てやつれ姿をみるつらさ
○まてば海路の日和もあろがえてに帆どよくのせてみな
○泣てたもるな途方にくれる月は雲間のほととぎす
○たはむれと思ひながらもつい手まくらにぬしのこころをみだれがみ
○揚てきがねはお客が凧かつとめもいとめも付てある
○吹ばとぶよな玉やの身でもあはぬつらさのもの思ひ
○深いちぎりをかはらぬ願人はうき名を辰巳風
〇遠ざかるのは末さく花よ日々にさくのはちりやすい
○泣てまつ夜にふけゆく鐘は明のとりよりなほつらい
○文もやるまい返事もせまいあはれぬつらさをます鏡
○油でかためた聖天さまをあらいがみとは誰がいふた
○さきの折たるわしや三ツ目錐きばかりもんでもとふりやせぬ
○秋がきたかよ気はもみぢばのしかとれうけんせにやならぬ
○しら鷺が小くびかたむけ二のあしふんでやつれすがたの水かがみ
○紫ヤこうとおしではよいがぬしによく似てさめやすい
○わたしの心は萱ぶき屋ねよかはらないのとさつしやんせ
○石龍くらふかあのほととぎす人は見かけよらぬもの
〇三味せんの糸につながるげいしやの身でもひいちやくやしい此恋ぢ
○おまへ今来てもう帰るのかあさぎ染かよあいたらぬ
○とも綱はなせば身はうつろ舟誰とて揖とる人もない
○帯にヤみじかし襷にヤ長しながしみじかしままならぬ
○鬼を欺くしようきでさへもこひに見とれてゐるわいな
〇日のくれ方にはおまへの方を見てはなみだにくれの鐘
○門の柳のなびくを見てもこころ/゛\で気にかかる
○源氏の巻でも桐壺はいやよわたしや末つむ花がよい
○事をこはさざまとまるまいとならばやなぎにすましたい
〇三は切てもわしや二世のえんかはらしやんすなあくまでも
○わすれ草とて三味せんとればうたのもんくで又ふさぐ
○春のよめなのつみ残されて秋は野ぎくの花がさく
○とげの中にも花さく茨よしらずに手を出しやけがをする
○あやめかきつと似た中なれど今は目にたつ花しやうぶ
○定めなきとは時雨のことよまたも紅葉に気をもませ
○禿みどりも時さへくれば松のくらゐの八もんじ
○あんなすなほな柳でさへも風にかたよるいぢを出す
○おまへ木性わたしは金よきがねするとはしれたこと
○あぢきないぞへ草場の露の風にちるとはいぢらしい
〇ぬしの心と今戸のけむりかはり安さよ風しだい
○うかれ騒は千鳥のくせよをしはつがひの浪まくら
○春の草さへ秋にはかれるさがの庵の果をみな
○垣にまとへる朝がほさへもとかく出世はうしろ向
○秋のてふさへつがひて狂ふあれも旅ぢのめうとづれ
○文のたよりをまつ鴈よりもかへる乙鳥がいぢらしい
○八重の山吹はでには咲ど末は実のない事ばかり
○ぬしが舟ならわたしは水よ中のよいのも風しだい
〇宜こそき菊といはれふはずをしらぎくがほとは情ない
〇天の川竹ながれのうき身一夜妻とは誰がいふた
〇あはぬ恨も心のたけも明て氷室のとけ安い
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〇つもる恨をいつゆふ顔とあふてはなせばすまの浦
〇ねても覚ても其のかげらふはおもひきりつぼ厄となる
〇人めばかりは五月の闇にはれてあふ夜を松の風
〇じみなはなしについ夜がふけてなみだの雨かほととぎす
〇喧嘩じかけはかねてのしようちわたしや柳でとりあはず
〇五月雨に袖もかはかぬくぜつの中へ空でねをなくほととぎす
〇けさに別れし遠藤武者もすみのころもで世をしのぶ
○鬼のやうなる梶原さんもはだみはなさぬ梅の枝
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○朝がほの花のやうなるおまへの気まへ日ごと/\に気がかはる
○君をまつ虫夜はしん/\となさけしらずのかね叩
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○ままになるなら野にさく小てふ草にねるにもめうと連
○思ふ木立へからんかだからははなりヤせぬぞへ蔦かづら
○ぬしを松風身にしみ/゛\とふけてさみしいかねの声
○ぬしとくらさばわしや八重葎茂らん宿もいとやせぬ
○ぬしは磯べのあのみをづくしさそふめなみが数多い
○心あかしのけしきはよいがぽんとだしぬくはやて風
○神の榊とおまへのうはき先へたつので気がもめる
〇峯のもみぢのからくれなゐに秋がきたとは気にかかる
〇うすツ闇いとまがきのそばへよつてゆふがほ覗きこむ
〇ぬしに入あげ身はうつせみの今ではもぬけのからごろも
○風もすきやの帷子ごしに夏もすずしき雪の肌
○やくやもしほの身もこがれつつぬしをまつ尾のうらざ敷
○沖の石かやわたしの袖はかはくひまさへなくなみだ
○きり/゛\すなくや霜夜のさみしいとこをどうして今ごろかへされふ
○芦のかりねの一トよさなりとあふてはなしがして見たい
○竹のはしらを何いとをふぞ山のおくにも鹿はすむ
○岩にせかるるあの滝川のわれてもすゑに又ひとつ
〇雲井はるかに帆の影みえておきつしら波たつかもめ
○ちぎり捨てもなほあを/\とつゆをいのちの草の花
〇めぐりあひて見しや夫ともわからぬうちにぬしははづして雲がくれ
〇衛士のたく火とわたしの胸はひるはきへても夜はもゆる
〇ついした事にもことばの嵐顔にもみぢをちらすのか
〇ぬしの心と門田のいなばいつしか秋風ふいてゐる
○枕ひきよせかけしや袖のぬれてうれしい床のうみ
○下戸のお酒に外山の霞たたずとやつばりのむがよい
○かぢをたへたるわした捨小舟ゆくへもしらずにこがれゐる
○をのの篠原しのぶとすれどわれを忘ちヤ口ばしる
○忘らるる身はしかたもないがそれじや誓のかみよごし
○しのぶもぢ摺そりヤ誰ゆゑにみだれてすずしいあらひ髪
○雲のかよひぢ風ふきとぢよをとめのすがたがおがみたい
○いやな針なりヤ何しられふぞ蜂やあんまじやあるまいし
○つたふ涙に枕のもんのつたもいろづく秋のくれ
○前髪かき/\アレじれつたい空にしられぬふけのゆき
○せじでとまつた大根の花の小てふ二心とはたいそふな
○小田のかりほにふく苫よりもあらばおまへのすてことば
○かたい契は千万代もつるの口ばしかめの甲
〇鼠よくきけあのおとなしい庭の千草のきり/゛\す
○紅葉ふみわけあのなく鹿も秋といふ字がかかなしいか
○かささぎの渡すはしさへふつつりたへてこぬのはあきたかぢらすのか
○夏山につまにあこがれなく鹿よりも松のほぐしが身をこがす
○春のはじめと泣ずにわかれあとでほろりと梅のつゆ
○かへる/\も屏風の中でやはりはなれぬてふつがひ
○なみだふき/\其袖合せぐはんをかけぢの神だのみ
○顔みせさんせや日にいく度もやさしいこころにいりかはり
○小ぎく重てかくはなし文もてくるつがひもかむろ菊
○秋のあふぎと身はなるとてもついやちよつとで喜鈴扇
〇かねのなる木はあのおみなへし花も黄いろに咲みだれ
〇眉は三日月はだへは雪でたのみすくない花ごころ
〇たとへどのよな風ふくとてもよそへなびくな糸柳
〇なかざなるまい野にすむ蛙水にあはずにいかれふか
〇五月雨のある夜ひそかにかうしのさきでみればうれしい月のかほ
○白つゆや無分別でも草葉がたより恋のうき身のおきどころ
○草の葉のつゆはわたしがなみだの雫それにおまへは秋のそら
○庭の松ぬしも梢にあのあふぎ凧切てぶら/\気にかかる
○とも綱のきれた此身は棚なし小舟かぢのとり人もなみのうへ
     名所地名
○須磨ぬ心に夜を明し潟かよふ千どりの声ばかり
○つもる恨を庵崎とすれどあへばこころもすみだ川
○首尾を松ちのはなしも更てあとは嬉しの森のかげ
○心すみだに気もうく鴎花を見めぐり春げしき
○きり/゛\す千草はなれてわしやかごの内客にかはれて夜をあかす
○人にヤいはれぬ岩間の●(キヘン+「色」)すゑはうき名のたつた川
○撞てくりやるな浅草がねよまつちといふ名もあるわいな
○岩にせかれて樋にとめられておもひあづまのすみだ川
〇ぬしに別てそれ辛崎の夜ごとなみだの雨ばかり
○朝はひでりの田へ水かけて夜は潮来へ舟わたし
○人目せきやでままにはならぬぬしは秋葉のうすもみぢ
○末はめうとに業平ばしようれしの森やしゆびの松
○ぬしは秋葉とわしやしら髭よおもひまつ崎わたしぶね
○思ひ庵崎時せつを待乳首尾を松身のながし船
○露のひぬ間の朝がほならでこすにこされぬ大井川
○うき名たつたの●(キヘン+「色」)じやないが染てちるとはなさけない
○恋の綾瀬をしんくにするな今に中よくすみだ川
○伽羅をたかせた二人が昔今は嵯峨ので夕蚊やり
○女きんぜい高野の山に誰がうへたかをみなへし
○啌でかためた此よし原を又来てうそでさはがせる
○富士と筑波が何似るものかおもひ/\の山のなり
○花はよしのと風雅にいへどいきなさくらは仲の町
〇いかに秋風たつ田といへどかほにもみぢはにくらしい
〇思ひこがれし身はうぢはしの中をへだててとぶほたる
〇こよひみめぐり嬉しの森よどうぞあしたもしゆびの松
○霞ひき舟もう木ね川にとんだのろけを請ぢ道
○どんとはなした鉄砲ずよりあたるなかずの船のそこ
○抱て根ぎしや玉姫いなり深い中田と人がいふ
○人めしのぶの丘とは啌よ四季のけしきに名が高い
○水は二タすぢ三すぢをのせてすだと綾せのゆさん舟
○江のしま参りが弁天さまの貝でさいくのみやげもの
○秋の夜風の身にしみ/゛\と猪牙じや寒かろ隅だ川
○ふけよ川風気もうき舟のすだれあぐれば筑波山
○すまの浦なみ又たちかへり来てはまよはすはまちどり
○あまの小船のろかいを推てすまのあかしのわび住居
○宇治の川ぎり夜は明はなれぜぜのあじろがみえわたる
○天のはし立いくのの道の遠いたびぢをふみのつて
〇わたしやおまへに気がありま山今さらいなとは言しやせぬ
○末の松山なみこすとてもかはりやせぬぞへわがこころ
○峰のもみぢにあかるい道ををぐら山とは誰がいふた
○こよひ忍んであふ坂山を人にしられてなるものか
○難波潟みじかき芦のふしの間なりとどうしてあはずに過されふ
○岸による波小舟にゆられ夢のかよひぢさんや堀
○神代もきかないおまへのうはきわたしや小はらがたつ田川
○立別てはいなばの山のまつと聞てはまたかへる
○みなの川ではわしやなけれども恋ぞつもりてふちとなる
○堀をめあてに漕出しゆくと人にヤつげなよ此小船
○赤い前だれみごとな茶つみよいうぢ山だと人はいふ
〇箱根八里は馬でもこすが人の関ぢはこしにくい
〇うしろ見するは門松ばかり五万でもひきヤせぬ廓のいぢ
〇朝のかへりはすずかじやないが馬がものいふた衣もん坂
○商売のいとのみすぢはよしのの川かおかほ見ながらままならぬ
○あづま訛といはんすけれどまねて見たがる江戸の癖
   前篇了


新撰度独逸大成 後篇
                   歌沢能六斎集〔万延二年〕
                               〔全部紹介〕

どゞいつは何所のどいつが唄ひ初けんとある人がものに書しは諂なき詞といへども其みなもとを能もあさらぬ只これ当座の即興のみ余かねて愚考ありそはこの前編の巻末に標目を記したる節用集に書つけてんつまるところはどゞ千年万年はやりもてゆく小歌といふべし
   万延二年酉春日
                   隆興堂主人
                   鰥寒翁述

目録 唄員通計六百十三章
   ○雪月花 唄員百五十八章
     三景によそへておもひをのぶるなり但し月ゆき花と部をわかちのしたり
   ○雑体 唄員四百十章
     何にと片よらぬさま/゛\のもんくをまぜてのしたり俗にいふばれくてうのうたもこのうちに入る
   〇問答 唄員四十五章
     もんくにてとひ文句にてこたへるなり男女のしるしわけをなし且しりとりあり

新撰度独逸大成後篇
                   歌沢能六齋輯
   雪月花
     月の部
〇月はかたむく夜はしん/\とこころ細さよ明のかね
〇及びないとはそりや気がよわいしづがふせ屋も月はさす
〇朝のわかれがないものならばなんのきらはふ明の月
○まだ宵とおもふ間もなくもう明の空雲のいづこに月やどる
○待ど来ぬ夜はかたぶくまでの月のからすや明のかね
○わたしや芒の野にすむ兎こひしなつかし夜はの月
○雲のたへ間をもれ出る月にさへてきこゆる紙ぎぬた
○ぬしをかへしてれんじを見れば小田の有あけまだのこる
○ぬしは田ごとのうはきな月よどこへまことをてらすやら
○不破の関屋にさす月よりもかくすこひぢはもれやすい
○風のうす雲あの月かげを見せつかくしつ気をもます
○それと見る間にあのはつ蛍月のひかりでついなくす
○月のうさぎのはねてはゐれどどこかかあいいとこがある
〇水の月かげ手にとるやうにみえてなほさら気がもめる
〇げこも上戸も気にあふやうに丸くつきあふけふの月
〇邪魔な雲さへさつぱり晴てまるくふたりで床の月
〇月はさへても心の雲がはれぬおもひで上の空
○くもりがちなる最中の月よはれてあはれぬ辻うらか
〇一ト日あはねば持病の癪がふけてさしこむ窓の月
○月にむら雲わたしにヤおまへ邪魔としりつつ切られぬ
○月を友とてなく虫の音は萩の下つゆぬれたどし
○かやのすき間をもる月かげにみだれすがたのはづかしき
○月もいるさの山のはがくれ身につまさるる鹿のこゑ
〇心しらない月夜のからすだましに鳴とはどうよくな
○月がさすともしらないれんじにくや中よきひよく蓙
○月もはれ/゛\嬉しい世帯くらうしたのもかたり草
○果のはてまで見わたすすやうにはれてうれしき月の海
○三日月のくしをいただく柳のかみをすゐな夜風がうごかせる
○月夜がらすにヤ目は覚さねど闇のからすにものあんじ
○お月さまへ嫁いりなさる三五でだんごこがでけた
○月はすめども心はすまぬたよりながれのうきね鳥
〇夫婦げんくわは三日の月よひと夜/\に丸くなる
○月はかたむく夜はほの/゛\とゑゝもじれつたい鶏の声
     雪の部
○雪のはだへになびきし竹のとけて身がるなわがおもひ
○花に百度来る客よりも雪の初会がたのもしい
○つもるはなしは世けんもしんと日本ばしにも夜るの雪
○じみな恋中まこととまこと雪の白鷺目にやたたぬ
○雪はきへてもはなしはつもるひるになつてもかへされふか
○しらむれんじにあれちら/\とながさざなるめへさとの雪
○田子の浦舟こぎでてみなよふじのたかねの雪げしき
〇うきにたへぬか此雪風に初はななみだでひく車
〇有明の月とみるまでよしののさとにけさはしら雪ふりつもる
○庭のあらしにふる雪ならでつもるわたしのものおもひ
○雪のうちなるあの紅梅もかんくしのいで春をまつ
○山も田はたもみないちやうに雪の夜明のぎん世界
○雪のあしたのあの明がらすかわい/\とこがれなき
○雪の中でも梅さへひらく人もじせつをまつがよい
○白の節句の八朔よりも今のすまひが銀せかい
○降雪をふむもをしいがふまずば人がとふてくれまい此けしき
○花のけしきもふりつむ雪もこころ/゛\の目のながめ
○毒くはばさらにゑんりよもないしよもあけて雪のあしたのふくと汁
○ふりつもる雪の夜道をすた/\かよひとけて寝るのをたのしみに
○しんのはなしに夜もついふけてうれしい雪になりいした
○ことばとがめてせ中とせなか雪のさむさが中なほり
〇色の手かげんこたつでおぼえ雪もうれしき新まくら
〇女房かたぎで花こそ咲ねじみなみさをは雪の松
〇しらぬ旅寝もおまへとならば夜みち雪道苦にはせぬ
〇ちよいとなりとも顔さへみれば雪の夜道も苦にヤならぬ
○麦のわか葉もたび/\雪におされなければ身はもたぬ
     花の部
○花がちるとはおまへのせじよじつはふたりでさしむかひ
○ちる花をさだめなき世とうたにもよめど咲ざなるまいはるの風
○ちればこそ花はよけいになほをしまるれくらうするのは色の花
○末もとげなん当座の花にむすぶ出雲の人じらし
○酒くさいさゆで薬をうれしい手からしやくもさがりし花見ぶね
○恋といきぢとたとへていはば梅のにほひに花のつや
○花におくつゆをささの霰こぼれやすさはきらすつり
○花のいろかのうつるをみてもあんじらるるよひとごころ
〇ゆくも帰もさくらをかざししるもしらぬも酒きげん
○花の姿はふり捨たれどどこかむかしの香がのこる
○ならの桜はいろかもよいが八重といふ字がきにくはぬ
○ぬしに見せばやぬれにぞぬれし雨のよあけの花のつゆ
○とほざかる花すゑつむ花よ日々にさく花ちりやすい
○花のえんでもそはねばならぬどうせしじうはちるからだ
○傘のほねにからんでふる春雨はやがてはなちるさとがよひ
○冬は枯木といはれてゐても今に花さく春はある
○花のこずゑと見る間も夏のやがて春葉になるだらう
○ぬしある花でもかうなるからは一枝をらずにおくものか
○花の色うつりヤせぬかとなほこひしさがましてながれのうき思ひ
〇十二一重と咲たる花もちれば百夜を思ひ出す
○顔にヤまよはぬ姿にやほれぬとかくさくらの花は花
○花にくぜつのあらしのはてはおちてかさなる中なほり
○たま/\来たのにあはれぬときは花のしぐれてちるおもひ
○花もみもあるしんみのりん気そひ寝してからことばぜめ
○てふよ花よとそだてし子でもつきだしヤお客のせはになる
○花のゑがほでみさをの松の色もかはらぬぬしのそば
○あんじがほさへ花にもまさるあだがくろうをさせるたね
○花も紅葉もモウあきらめたぬしのたよりを松ばかり
○すなほに咄すをおまへはじれてよこにくるまのむりばかり
○春の霞もみすじをひくは花にうかれるこころいき
○なごりをしげに見送かほへつゆかなみだか朝ざくら
○土手のさくらをまた夜桜と酒がのり気のさんや堀
○末はとけぬといはれた事もあればひと花さかせたい
○さくら山ぶききりしまつつじしんぞとしまの花ぞろひ
○梅にさくらに柳はおろかぬしに見かへる花はない
○花は咲ども梢の枝で手折れもせず見るばかり
○降てくれるな桜に夜さめいろのさめるが気にかかる
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〇花はつぎ穂のてぎはもあればむりな縁でもそひとげる
〇どふせはなれぬおまへとわたし桜さめとは聞もいや
○花のつゆすふてふ/\さへもおまへに似たのかきが多い
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〇山吹の花にをされぬくるはのさくらふるもぬるるもはるの雨
〇かねは上野か淺草寺もひとめへだての花の雲
〇雨のさくらについぬれあふてこころおく山あかしあひ
〇しみ/゛\いのちも何をしかろふすいたゑがほのさくら色
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○軒の小雨に羽織のそでがぬれてほころぶ山ざくら
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○うかれがらすがあれまい/\と花の木かげに誰かまつ
○花の戸に巻て立たるそのさむしろをちよいとしき寝の仮まくら
〇すねつすねられ根もないくぜつかたみかはりに夕ざくら
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○ほんに立派でつい見とれるよ花はさくら木人は武士
○ぬれぬ先こそつゆをもいとへもうあくまでも花の雨
○かれ木にも花を咲せる餅ばなみればわしもじせつを待ませう
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○もうおかへりかと袖ひきとめておまへが立ては花がちる
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     雑体
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○利上/\にしがらみかけてながれもあへない質ばかり
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○枕はづして島田の髮をみだしたあげくは気がおもひ
○山の秋風夜はしん/\とふけて身にしむとほ砧
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○ちり取かた手に箒をもつてほれたやつらをはきよする
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○のぼる朝日になく鶯のはつねうれしい窓の梅
○のべる蒲団に枕もふたつたれと寝るのか気がもめる
○ふぢのうら葉は手も届かふがむすめしらはじやつままれぬ
○なまをいはずときざをばよしなどふせ女がほれはせぬ
○かしはぎの枝にがさつく枯ツぱよりもぬしのこごとがそうぞしい
○どふせうき世は夢まぼろしとさとりヨひらいてくさの庵
○雨にやどかる軒端の下もぬれる他生の縁むすび
○せどへ作つたお芋をぬいて星へたむけのひごずゐき
〇棚の鼠のいたづら男あたり近所を喰ちらす
○わたしや祭のうしではないが人のはやしにのせられる
○雲はまかふがおまへのやうにくだは龍でもまかれまい
○ぬらりくらりと日向の蛇じやからいうき世はわたられぬ
○酉のまちもつた熊手についひつかかりけふもぶらりと日をくらす
○田畑つくつて田舎のすまひほねはをれても気が安い
○竹田あふみをたのんで来ても恋のからくりやむづかしい
○恋の初荷を車でおくりいろのとんやといはれたい
○しんの夜中にふと目をさましきけばとなりの小なべ立
○ほかの草木のしをれて後に松のみさをのよくしれる
○雪の寒苦をしのいで今は花の兄きのわらひがほ
○ほどやどきようにや迷はぬけれど実をつくせば闇も月
○乗合の舟をまつ内ぬしやどちらへと詞かけたがえんとなり
○初夢にぬれて嬉しきアレ床の海たからふねかよふくの神
〇せじでまろめてくぜつでだましいまのはやりの鉄砲玉
〇小づまとる手で糸針もつてかんにん袋をぬへばいい
○まとまらぬはずさ出雲で氏神さまがひとりこせうをするやうす
○人の文みるにつけてもかうしたことのありしむかしを思ひだし
○似てもにつかぬはなしはいやよ鴨とあひるは直がちがふ
○ぬしがあるから世間がもめる七両二分出しや己がもの
○うそとしらずに百よもかよふあなのないのにきがつかず
○かつがれる事としりつつつい真にうけてあとじやなぶられわらはれる
○銭がなくなりやどぢにもなるよかけた日なしを切かへる
○おもひ定て切文かけばとかくなみだで字がにじむ
○玉のこしにものる気でゐれど今にむかひの手間がとれ
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○鐘のくやうに何つくものかかはい男の目をさます
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○若葉かくれになく時鳥月がないたか雲の中
○しらでいはずによそごとらしくつらいいけんのとほまはし
〇世間さわがせ手がらににやならぬなみかぜ立ずにはなしあひ
○さアおかへりよと羽おりをきせてかへしやかへるか義りしらず
○ことばで迷はせしうちでまるめ手だまにとられてはじかれる
○たのもしい人をたづねてはなして見たらひろいひろいせかいへ出るであろ
○さすがやり手もなみだを流しかむろが寝言に親の事
○たつは蝋そくたたぬは年きおなじ流れのすゑながら
〇あへばいつでも気安めばかりしんのはなしをしやしやんせ
○よせばよいのにもう今ごろは人のしらないくらうする
〇ままになるよでならずにゐるはこいつはいづもにもめがある
○斯してこうすりやこうなる事としりつつこうしてこうなつた
○ほれたほれぬはまだ初手のうちこうなりやなんだかわからない
○家業だいじに身を大切にしんぼしてくれ今しばし
○かせぎ女房とせけんでいふになにがふそくでぶたしやんす
○どうせやけだよかうなるからは親も主人もむかふづら
○日にましおかずのまづいにつけてもとの主人を思ひだす
○連はいそぐしはなしはのこるおくるらうかのせわしない
○西も東も南も北もいつもごぶじでおめでたい
○うらや初会はつれしゆがたより今じやつれ衆が邪魔になる
○金と紫ヤお江戸で出きるむらさきヤいらない金ほしや
○さいはい手にもち纏のまねをしてはお部やでしかられる
○はうは誰が子だ名はささねどもちやんに其ままいきうつし
〇秋の唐なすうまいといふがさつま芋にはかなやせぬ
○ぬしの心は焚そこないのめしよしんがあるとて水くさい
〇おりるはしごのまん中ごろでしんぼさんせと目になみだ
○親のいけんもきかないわたしなんで他人のそらいけん
○おもふ拙者におもはぬきでんおもはせうとは拙者りふじん
○あやまりましたよもう是からはをとこねこでもだきはせぬ
○やいたお芋にふかしたお芋どちらのおならがくさいやら
○おまへそのよヽヽヽヽヽヽヽ中でをれたらどふなさる
○火鉢ひきよせ灰かきならしかたいもちでもあればよい
○さきは大ぜいみかたはひとりたのむおまへはふたごころ
○おまへを麁末にする気はないがやりてがわたしにこはいけん
○あゝもじれつたい何をしてみてもかかアとかせぐよなことはない
○あちらたてればこちらがたたぬ両方たてれば身がたたぬ
○内はかんだう二階はせかれなんでいふめがでるものか
○百度まゐりを小舟ですればさしであはれぬ事ばかり
○あだも是ぎりもう惚じまひひとののろけを聞もいや
○お店ものでも出番の衆でもやぼとゆだんがなるものか
○いきな人でもふじつがあればすゑはあいそのつきるもの
○春のはつ日のゆたかにさして呑ばめでたいとそのさけ
○せけばやむかとおへやの小ごとおちやをひくにはましであろ
〇弓のつるほどせいはらもんではりに来てから此しだら
○はづれた縁とて神さまたちがいづもで麁さうをしのんだろ
○人形くひとてわらふはをかしたれしも男のいいがいい
○にやけた男はいやみだなどといふはをよばぬまけをしみ
○惜みやせねどもわたしの亭主どふも人にはかしにくい
○しよたいじみてもどこやら知れる親のゆるさぬふうふとは
○雨あられ雪や氷とへだててあれどおつればおなじ谷の水
○達磨だいしじやわしやなけれどもおあしのないので埒あかぬ
〇あかぬわかれも銭金づくさにくいかあいもさどのつち
○おや寝なんすかくすぐりいすとたぬきを狐がゆりおこす
〇こすにこされぬもん日とものびばかもなければ身がたたぬ
○おしのつよいが当時は徳かねとりヲしてからいろになる
○なるはいやなり思ふはならず目でもねむつてさせやうか
○こがれ死だら此くるしみはしらぬほとけとなるであろ
○夜具もしかけもみな入上てぬしゆゑ年きとつみがます
○泣ばまこととお客のこけがいろのしをくりしまい札
○けいせいも元は素人ひぞうのむすめうそもま事も人による
○いへばどうやら催促らしくいはねばかへさぬかりた物
○ひとのねがひとわたしはちがふ思ひ切たい身のねがひ
○はへば立たてばあゆめとそだてた親はおまへゆゑでもすてられぬ
○恋に上下のヘだてがないといふは不義りのかつてづく
○せじもじやうずもモウいひあきたお酌するのもしやくの種
○胸に手をあてしあんをすればあだな人ほどじつはない
○子を思ふ親となる身のあすをもしらずけふは夜ざくら月見酒
〇たつを引とめマアきかしやんせ市にもちつき松のうち
○送る茶やでもむねきなしかたあのこによばれてなるものか
○しんの夜中にふと目をさましとなりざしきのもらひなき
○ほつとため息びんかきあげてかねがほしさの此つとめ
○あなたこなたのお他力さまでこよひもまはしがみツつある
○おへやのいけんもてづめの仕置切ねばほどけぬしばり縄
〇実をつくすもふじつをするもこころひとつのさきしだい
〇ほどもよければ男もよくてそれでかねもち女房もち
〇したしき中にも礼義がだいじもとは他人のことだもの
〇夫婦親子の中よい家は奉公人までつとめよい
〇むかふがいやならこつちもいやよてんからむしがすかなんだ
〇たがひにひとり身何はばからうはれてめうとになるがよい
〇ひよんなうはきをするのも楽なえようすぎてのさいごのみ
〇中がよいとてゆだんをするととんだ悪魔が水をさす
〇たのむと言れりヤ捨てもおけぬどうかじみちをつけてやる
○酒はのめどもつつしみ深く義りをかかねば身がもてる
○だまされてねこそげむしりとられたうへにつき出されるとはくちをしい
○今まであたまを押れてゐたがこれから世に出て楽をする
○いやな辛防する気にならばこんな貧苦をしはせまい
○金利の上りで小いきなくらしふうふ小をんな朝寝して
○のどへ出るほど唐なすおさつたべて見たいが身のねがひ
○色のせかいをさらりとやめて是からふうふでともかせぎ
○ねとるたくみの胸わる女人のなげきもしらぬかほ
○うるさ過るとあいそがつきるりんきぶかいもほどにしな
○何かにつけて邪魔すりやつは河豚にあたつて死ねばよい
○女房がいやでうはきをしたのじやないがきれていやならよすがよい
○家のはん昌よしあしともに女房ひとりのむねにある
○門の犬にも用あるたとへあいそづかしをせぬがよし
○自由になるとてわがままするなみつればかける世のならひ
〇神やほとけをしん/゛\しやんせねがひのかなはぬ事はない
○不義りさへせにヤせけんは広いたとへまづしくくらしてる
〇なまじ互いにあらたまるからおかしく人の目にもつく
〇かん癪もちでもこつち仕やう馬のたづなに舟のかぢ
〇親はふしようちわたしにヤすいたいきな人ならなまけもの
○ふところがゆたかならねば万事につけてゆきとどくとはほめられぬ
○しらぬ旅ぢにくらうをしても人にひと鬼はないものだ
○酔たしやツつらつく/゛\みれば歯くそよだれに筋だらけ
○角をはやし女房の手にはいつか文がらもつてゐる
○朝の蚤とるねまきの姿粂の仙人死ぬだろふ
○友だちのていしゆに惚れてはすまないけれどしあんのほかならぎりもかく
○蜑の色事鮑のまくら帯もとかいでせわがない
○すずみヤ付たりおまへの顔が見たいばかりのほたるがり
○ちよいとお待なきものをお呉屏風のからこが見てゐるよ
〇鼻毛よまれてあげくのはてにところてんほどつきだされ
○蟻の思ひは天とはいへどふたりがねがひの遅い事
○人とおもうてふと飛のけばにくやしやうじに猫のかげ
○ちわが過たかあからむまぶちあとで嬉しい汗をふく
○あはぬ此夜はアレほととぎすないて冷つくまくらがみ
〇先のうはきに二のあしふめばむねにこたへる事ばかり
〇つるのふうふの嶋台すへてせけんはれてのながまくら
○色は男のはたらきじやとはあんまり気ままな申ぶん
○女房にげいしやの勤をさせてやきもちやくのも程にしな
○やきもちいふのが気にさはるならうはきをちつとおたしなみ
○じつとこらへてへだてた枕灯とりむしからはだと肌
〇御祓まゐりに手を引あふてふたりが邪魔をばはらひたい
〇貧にくらすは覚悟のうへよいまはたがひにじつくらべ
〇涕ツたらしとわらはばわらへだれより女房はじつがある
〇人のめはしにかかつた中をしらばつくれるもほどがある
〇今となりてはお墓へかいた赤い信女がはづかしい
〇梅にからまる源太の凧もえんがありやこそひつかかる
〇実がありヤこそ角をもはやせやくは女房のあたりまへ
〇梅のさかりにすかしのおならてうどかをりがいいかげん
○足がものいふ互のこころこたつに柱がなけりヤよい
○枕ならべて寝たときよりもかげののろけがきかせたい
○ばかにのばすな女房に鼻毛凧のいとめじやあるまいし
○ひとりものならどうでもなろが義りある女房がかせになる
○もとからいやならふざけちやゐない何とか言てくれてもよさそふな
○女房もちとて惚まいものかさらしてのりこむ下ごころ
○惚たをしようちで気やすめらしくおつにあやなす人じらし
○どうでかれ是いはるるならば義りを立るにヤ及ばない
〇背中あはせにくぜつの果をてんじやうの鼠で中なほり
○思ひきらふといふではないがおまへのこころが水くさい
○女房の実意もみな水の沫それほどあのこがかはいいか
○いはずばしらぬが仏でゐるをなまじはなして此うらみ
○だん/\おまへのしんじつ聞ばやいたもいまさら恥かしい
○としがちがをが女房があろがほどのよい人たれもすく
○しらぬわたしをなぜ惚させに来たのがおまへのあやまりさ
○花の兄イといはれた梅が人にけぢめをとるものか
○女房に質屋くどかせむり借させてなまけてゐるのもほどにしな
○身には□□□をまとつてゐてもこころに着てゐる綾にしき
〇いろのあるのを初手からしればかうしたわけにはならぬもの
〇うはきと言れりヤ一言もないがおまへに見かへる初手のいろ
〇屏風ひとへのわり床なればしんのはなしはのこりがち
〇折角のごしんせつだがまづおことはりさんみやうさかしたやめにをし
〇娘のいろだとまだ気がつかずりこうな人だと親がいふ
〇男だいじにするほど親をだいじにしたなら誉られふ
〇ひよわいからだで●(テヘン+「上」+「下」)がたらず貧苦させるがいぢらしい
〇およばねついてもわけあるどしはわたす羽子までしほらしい
○胸のむらくもさらりとはれて二人しつぽりぬれたどし
○なさけなく/\恋しい今宵夜着をさかさにきて寝やう
○奴々とあだなのわたしぬしにふられちヤ身がたたぬ
○女房にかくしてゐるその色をあらけ出されちややけになる
○悪法かくのも男のためにすまぬしようちのわるだくみ
○といきつく/゛\あんじてみればどうですゑにはわかれもの
○気安め真うけに鼻毛をのばしかはりのでけたもしらないで
○ほれた女房のある其人になんでこんなにほれたろう
○迚もあへねば転寝宵寝ゆめであふのをたのしみに
〇なんぼ惚たを見透されてもばかにされても腹がたつ
〇惚れてゐるのをしつてはゐれどお気のどくだがおことはり
〇松にたち鶴さくらに幕ようめにさへづる匂ひ鳥
○ほどもよければ男もよいがしみつたれにはこまります
○呑ぬしようちでいつぱいついだ酒はすけたい下ごころ
○しんの涙でぬらした袖をぢん助だますに又ぬらす
○すへ膳のはしをとらぬはお腹がよいかただしや女房がこはいのか
○やつかいものだよ狆猫婆々口を出すのがこうるさい
○朝がほやあした咲のをひねつておいてぬしの寝起の花にする
○松にさへづるあの鶯は茶人なかまか風ちがひ
〇買気で女郎がかはれるものかかはれるこころでかふがよい
○恋はくせものしあんの外といふは浮気のえてがつて
○わり床のぢがねばなしをふと聞つけてわが身にひきべつもらひなき
○世の中をなんのへちまちおもふてゐれどぶらりとしてはくらされぬ
○愛想もつかさず手切もとらず兄やいもとでわかれたい
○おてんば娘と人には見せてないしんじみな人がある
〇たよりない身で此河竹のすゑの流れをくむわいな
○義りづめいけんであい切ませうとくちとこころのうらおもて
○炭なつぎ/\火ばしを筆にあつい男のかしらもじ
○枕はづして涎をたらし寝ごといひ/\屁をたれた
○しのびあふにも此道ばかりやとしに似あはぬちゑがでる
○流れの身じやとて蝋そく気どりそんなにとぼす事もない
○ほども男もしうちもよいが金のないのが玉に庇
○今の娘は佐用姫ならで石よりかたい金になる
○風のつよさに切ても見たが又もむすんであげる凧
○こしてあげよと手を引よせて酒もたばこも口うつし
○酒がこうじてふとした座興命やるほどほれはせぬ
○明の鐘つく坊さまの憎さ茗荷しこたまくはせたい
○鬼も十七ばん茶も煮花どつかいろかのあるものだ
〇義りと情のふたすぢ道はゆけばゆくほどしんの闇
○よこに車を押とほしても女房にもらはで置ものか
○縁が切ても心がのこり暮て見に行はつのぼり
○親のゆるさぬ夫婦の縁も実がありやこそ添とげる
○金でかはれる苦がいの身でもほれりや素人も同じこと
○山家そだちの芋堀こぞも金をもたせりや旦那さま
○人の惚るも何にくかろふ初手はわたしも惚た人
○いつもの癖じやとしようちはしても腹がたつゆゑ茶わん酒
○せけんはれての夫婦となりてお礼まいりにふたり連
〇ほれたほの字は仏のほの字死んでもぬしはわすれない
○いやになるぜわらかしやがるといはれた義りかおまへじやめんぴもかいてある
○是はおあいだわらかしやがるよとうによかつたのがあるそふだ
「いやになるぜ」「おあいだ」「よかつた」のたぐひはたうじのつう言なり
○あどけないのはかあいけれど初心すぎるもじれつたい
〇ほんになまなかいづもの神がむすびばなしがなさけない
○ふとしたことからつい気が迷ひ人のしらない此くらう
○義りとせけんがしみ/゛\つらいあへばあはれる中ながら
○いふも古いがあれじれつたい憎いからすがなくわいな
○不実する気はみじんもないが先のこころが水くさい
○ぎりで切てもかはせたきしやうすゑはたがひのむねにある
○つとめする身とさげすむ人にいろとなさけがあるものか
○男ばかりに気ままをさせてほんに女子をかたおとし
○ぐつと抱しめ顔さしよせて千代といふ口すいたどし
○ぬしのかんしやく日比のくせよそふてわたしがなほします
○ぬしの遅いにわしや待かねてとがなき楊枝をかみ砕く
     問答
〇おまへゆゑこんな苦らうをするとはいへどほれたおいらのこころがら
○ほんにわたしも惚ずにゐたらぬしにくらうはさせぬもの
○くるたび/\只めそ/\となくはおどすかあまへるか
○たま/\くるくせ邪けんのことばすゑをあんじてなくわいな
○せじや気安めいはねへおれだほかにうはきもせぬおれだ
○よくもいはれたうはきはせぬとことしばかりも五六人
○あれは一座のつきあひあそびうらもかへさぬかひばなし
○ついちやゐはせずなんだかかだかわからないのでおちつかぬ
○わからないとて捨おくきならよほどてめへもごしやうらく
○もうあやまつたこちらをむきなうしろあはせでうそ寒い
○いとしかあいの思ひをこめてぬしへあげます此ちよこを
○いとしかあいの思ひはおなじいただきますぞへ此猪口を
〇ままになるなら鏡になつてぬしのおかほがうつしたい
〇おもふ事うつる鏡が世にあるならばぬしに見せたいむねのうち
○峯のさくらは美しけれどわたしや麓で見たばかり
○峯のさくらもついした風でふもとのおかたの袖にちる
○塩の小豆の大ふくもちをくさしながらもむしがすく
○かぼちや冶郎とおもツちやゐれどおつにうまみのあるをとこ
○鰒のやうだとわるくはいへどだいて寝て見りやあつたかい
○なんのかがしと安くはしてもなくちヤかなはぬ田の守り
     おなじく尻とり
○さらべおけけふとつまりてその気やすめを聞ておちつくどぢじやない
○いたらぬわたしが心のくがいうはべばかりをはでにして
○手ふりあみがさ是此ざまにしたがてがらかきれことば
○はなしもきかずに又かんしやくのやけじや理道がわかりやせぬ
○ぬけつくぐりつ其いひわけで今までばかした口のさき
○ききいれのないはいちづなおまへのきしやうそれほどくやしきヤどうなりと
○とくとしあんをして見たあげくやぶれかぶれはたれゆゑぞ
○そうしたうはきが有ほどならばなんでこんなにぶたれやう
○うしろゆびさされるしまつもおのれがふじつなんぼつとめのならひでも
○もつれかかりし此くろかみをといてむすぶもをりがある
○るゐは友とてほうばいまでもぐるでつきだすしたごころ
○らうかで切たる此うはざうりたててみせるが女郎のいぢ
○ちりにまじはる泥水とせいすむもすまぬもあるものか
○かはる枕になさけはうれどはらまじやうらぬがぬしへぎり
○りくつばるのもやぼとはしれどこけにされたとおもやこそ
○そくらかはれて又ぐちらしくいぢめちらすも□□にしな
○ながれの身じやゆゑ又よそほかへなびきヤせぬかとあんじられ
○れき/\のゑりにつくならきをもむものかつづれなりともぬしのつま
○ままにしやがれ其気やすめもこれまでたび/\ききあきた
○たにんがましい何きやすめをおまへにたいしていふものか
○かかアきどりかその口上をすゑのすゑまでわすれるな
○なんぼわちきが流の身でもいつたことばを水にヤせぬ
○万事わたしにまかせて置な亀の甲よりとしの功
○おまかせ申すがおまへの気しつ鶴の脛ではじれつたい
○やぼな己でも木竹じやなしさ松葉のめうとにさせてやる
○それで嬉しい世間へはれて子をう実梅のいく千代も
     以上

  本編楮員余に嵩みたれば看るに煩はしき故に文句入の部は別冊にして又前後に分てり都鄙の通士前後を合せ需て懐にするときは争何なる席にのぞむといへども心いき自在なりかならず他に見すごすべき普通の集にはあらざらまじ
                    隆興堂主人
                    歌沢能六斎誌



都々一ぶし〔書名不明ゆゑ選者がかりにこの名をつけたり〕
                   〔文久戌年〕
                              〔部分紹介〕
○いつか/\とひとめをかねておもふばかりもこはんとし
○らうつかづたひに人めのせきをあげてあふよはほつといき
○はやくくがいをめでたくかしこかへす/゛\のないやうに
○にくいしまとぶつ/\すれどあへばかはゆくなるいんぐわ
○ほどもきりやうもすぐれたおまへほかにあなでもなけりやよい
〇へいぜいわたしがいけんもしたがわかれのつらさにいまのしぎ
○とふにやおちいでかたるにおちるなんでこんなにのろかろう
○ちよいとおまちよきものをおくれびやうぶのかか子が見るわいな
○りひはともかくをんなのじやうでしじゆうそはずにおくものか
○ぬるまゆをぐいとひと口くちからくちへあついばんだとほつといき
○るゐはともとて身につまされてのろけばなしにきき上手
○おもひからさきじせつをまつちしゆびをまつみのながしぶね
○わたしが思ひの十ぶんいちも思ふてくれたらうれしかろ
○かごのとりとはまがきのおしよくわたしやこみせのきり/゛\す
○よく/\こころでりやうけんしてきれるこころはでぬわいな
○たにんのせじにはのられぬものよしんせつごかしでしたをだす
○れんじがしらめばおへやへきがねすそにかくるるながらうか
○それよりしてよあけがらすにつひおこされてあかぬわかれのほととぎす
○つきぬえんかよ恋しきひとにめぐりあふたる高やさん
〇ねぐらいづこぞのずゑの雁よ月もてらすにふたりづれ
○ないてうれしいゆふべのかはりわらつてせつないこのざしき
○らちもないことさもぎやうさんにないてじれたりわらつたり
○むすんだままなるかれののすすきにくいよかぜがみにしみる
○うたぐりぶかいとさげすまるるもみんなおまへのためばかり
○ゐつづけもたまのことだとひとよがふたよつもる思ひがみのつまり
○のちはたがひに心とこころしよてはうはきが小だのしみ
○おつなはりからついかうなつて今じやひとにもきがねする
○くらいいひわけはれたときいてすこしあんどの明りさす
○やくやもしほにみをこがれつつぬしをまつをのうらの茶や
○ままになるよでならぬがうきよかさきてくらしなひとごころ
○けんばんのふだをけづられどきやうのねじめどうかいとみちつくだろう
○ふられながらもまだうぬぼれてたまにやひとりでねるもいい
○こころにかはりはゆめさらないがすねてみたいが恋のよく
〇えどのよたかはなにはのそうかそはぬながらもひとよづま
○てづるもとめおくりしふみがいまはうきなのひやうばんき
○あげる花火とうはきな恋ぢによりましたよあとがない
○さとのいきぢでいままでよんでなんでうはきをだすものか
○きくたびにもしやぬしかとかうしにすがりきけばすけんのそそりぶし
○ゆきつもどりつこころでしあんうちのふしゆびもあんじられ
○めはしきかしてそのばをはづしたれしも恋路はおなじこと
○みれんらしいがきれたはほんのたうざのがれのくちふさぎ
○しあんするほどしあんはでずにたまにでるのはぐちばかり
○ゑひざめの水にすましたくぜつのもつれはらのさうじのかんびやうする
○ひろいせかいに三つのめいしよふじにまつしますみだがは
○もつれかかつた恋路のいきぢうでやちからでいくものか
○せめてひとよはふじのゆきつもるおもひをうちとける
〇すゑのすゑまでもつれてとけてむねのやなぎに恋のかぜ
○けふといふけふはれてのめうとありの思ひもてんしやにち
○をだはらぢやうちんぢぢいがさげてよつめのもんとはぢんばりか
○そのさけをとめちやいけないのましておくれよはしておかねをみんなとる
○うめにうぐひすたけにはすずめなぜにわたしはまつばかり
○人がそしればわたしもそしるかげであふたびなくばかり
○ゆめのうきはしわたらばふねと思ふにかいなきこのはや瀬
○こころかよへどひとめのせきにめかほばかりのぢれつたさ
○ひとめありやこそみすぢのいとでひいてきかせるわしがむね
○びいどろのきれいないれものぱつちりわられしろざけながしたひなのまへ
○エヽもぢれつたいとなりのしやみよひとはふさぐにあのさわぎ
○はやくなりたいわたしのねがひいつまでしらはでおくのだへ
○思ひあまれどいひだしかねてかほにもみぢのあいらしさ
○かやとわたしがよどうしつられじつがないのかあきたのか
〇ういもつらいもみなしりぬいてむねにせまりしこはいけん
○たけならばわつて見せたいわたしがこころぐちをいはずに□□しやんせ
〇わたしのたのみをまあききねへな
 おそめ「うらみつらみもなにかくとそでにすがりてなみだぐむ女ぼごころぞだうりなり」
 ぶつのばかりはやめにしな
〇てぬぐひのぬげぬほどわがうちをばかぶりこもつかぶりもしやれたもの
○おたがひにしれぬがはなよせけんのひとにしれりやたがひにみをかくす
○鳥いちわぬれていでたるくるわのさくらつゆをふくみしそのふぜひ
○をんなにはまぐり□□なまがいでこころあさりでばかにされ
○いさましくこゑをそろへてのりこむひけしありやりやんんりうどすいもついてゆく
○ねるにさけおきりやまた酒なんだのかだのくやしきやこのみになつて見や
○恋しゆかしはおまへのすがたねてもさめてもゆめうつつ
○おつなところへかんしやくおこしそれをてにしてきれるのか
〇すいもあまいもしようちのうへでそんなわからぬりんきごと
○春のけしきももうととのふてうめにうぐひすおぼろづき
○たへぬ思ひにこちからしのびそらを見たらばよがあけた
○まけぬきしやうだかつうをうりやかつてやろとはまたきしやう
○あきもあかれもせぬなかなれどぎりといふ字でないてゐる
○えんやはんぐわん大だんびらをぬいてしたひけわりつける
○めしもり女郎のおかほはしやくしおまけにやしよくをかたまらせ
○ばれんいちまいうすがみぜたいすいてくらしてゐるすりし
○ひともかかあもあきれるはずよさけとをんなとわるばくち
○うはきうへのです□すみだがはけふかあすかと日をくらす
○さけと女が世にないならばわしもこんなになりやせまい
〇さみせんのばちのあたりでふつつりきれてきれてくらうひきだすさんのいと
〇ほれてかよへばせんりもなんのくらいよみちもいとやせぬ
〇ほほづきをふくんでのれんをのぞきものもいはいでめになみだ
〇とりがなく/\あづまのかたときいてながれし大ゐがわ
○ぬしのおかほをいまみやこどりこれでこころがすみだがは
〇ねればもうすぐはじめるねずみこそ/\ちう/\ばた/\と
〇おいしやさんかよげいしやをかつてみやくのさしひきさじかげん
○はなはよしのかすみだのはなかふがのおはなかてんぐばな
○やよひなかばによそほひかざりすだやうへのへはなくらべ
○かつらをとこのこゑかと思やつきがないたかほととぎす
○ひとはしらいとまだしらぎぬのふかくそまりしこむらさき
○へど見たよなつらしてくそどきやうなをんなけさもおへやでへをたれた
○ぐちもいふはず女ぼじやものをりんきするのもうちのため
○どんなきやくにもいやとはいはずなびくしるしのいとやなぎ
○いまもいまとておへやのこごとねごとと寝おならきをつけろ
○こころがらとてあみがさかぶり
 夕ぎり「あはずにいんではこのむねが」
 かうしのまへをばゆきもどり
○ぎりのしがらみせきとめかねてきれてながるるなみだがは
○みづがみにぞつとすがほのあくぬけすがたゆかたかかへてゆやがへり
○まつにくろべいころいきすがためぐりあふたるげんじだな
○ぎやうれつそろへてゆくとのさまのおやりにからまるやつこだこ
○ふじをむかふににつぽんいちのはしにゆきかふはつがつを



よしこの恋のしをり 二編
                    〔慶応元年〕
                              〔全部紹介〕
               太平館若本撰
〇(天)高いも低いも登りて見れば峰はひとつの恋の山
〇(人)うつり安さのその月にまたかはり安さの影法師
〇(大尾)先のわからぬ苦労をしては跡へもどらぬ日を送る
○薄ひ情の氷を踏で深くはまりし恋の淵
○思案する手がまた胸先で苦労させたるぬしの夢
○好たよく目かはてどちらから見ても美し雪の松
○逢はにや直らぬわたしの病癪の薬にほしい人
○月とまつ身にすか屁をかましそれたへかこのほととぎす
○今は人眼も世間も義理も捨てかかりしわが命
○逢へば迷ひの薄雲はれてこころ涼しい夏の月
○教外別伝手管の外に勤はなれて惚た人
○ほたろ集めてよむよな文に今は机も闇と成る
○はな毛のばしてうか/\行ば穴ツ毛抜れて眼が覚た
○適に首尾して逢ふ夜の空に
 夕霧廓文章歌「花はゆかりの月の影」
 詞「アイツノ心底あの様に有ふとは」
 歌「おもわぬ人にせきとめられて」
 けふも出てこぬほととぎす
○筆のまはらぬ文から逢へば廻り過たる口車
○忍ぶ恋路のそのぬけ道は義理と人目の関破り
○誠云ても啌じやといへばさきの誠も啌であろ
○世帯持たら朝寐が宵寐胸のかはりに飯こがす
○浮気者じやと互にいふてきれぬ互のうは気もの
○啌をついたりうは気をしたり恋の旅路のごまの灰
○畳ざんして待夜の閨は月と癪とのさし向ひ
○言はば悋気とかんにん袋ぬふも心の針仕事
○異見するその世間の人に
 「傾国傾城漢武帝、為雲為雨楚襄王」
 是が一一聞せたい
○てれん手管にてんてらてんと成てよだれの綱わたり
〇ゑひもせずけふ相改てもとのいの字に逢もどり
〇身上り上手に遣りくり上手とうど命がただに成
〇うはの空なる月見てさとりやたのまれぬ世の人こころろ
〇好た人ならかならず末の為にならぬと聞意見
○心盡しの文見るさへも人眼ゆるさぬ文字が関
○好た惚たのうは気の花は遠ざかる間に余所へ散る
○好に添ふたらもふそのうへは寐てておししがして見たい
○医者の手にさへ合ざる病ひ
 小簾戸「癪に嬉しき男のちからじつと手に手をなんにもいはず」
 直す御方が起す人
○おなじからざるあまたの人に咲は勤の里の花
○かはいさ余りて百倍まさるにくい男にやる命
○一夜ながれのうは気な水は渕となりても瀬とかはる
○好な御方に逢ふ夜はなぜか宵のこころでふけるやら
○きれぬあく縁因果と/\死なにややむまい此苦労
○どどのつまりはお金のさたとなりて節季は地獄行
○苦界はなれて世間も晴て
 新内「手づから私しが飯焚てコリヤ内のものこちの人翌はどうしてこうしてと」
 はよふいひたいいはれたい
○花は桜と世上のうはさ人はぬしより外にない
○大事の/\命も今は捨にやとどかぬ我が誠
○ゆびを折のし命につけて逢日添日をまつ長さ
○首尾は上々嬉しく逢て日本一ツによせる閨
○愚痴なせりふに風波かはり
 浅妻「背中合せの鳥籠の□□ちら向ひて引寄て爪て見てもこく船の」
 揖のとり様がないわいな
○明ていはれぬ心のうちは愚痴にかたまるぬれ扇
○鼬親父に道きりしられすか屁たれ/\あと戻り
○たより聞ふとまつ身のつらさ待す身にしれほととぎす
○爪づく石から火の出るやうな苦労して居る恋の闇
○一度見て好二度見て迷ひ三度見てから癪をしる
○折べからずと花ものいへば散べからずといふて行
○ひいた霞の眉根にほれて糸の有たけ登る凧
○互にこころのしれたる別れとめぬ我身のその苦労
○思案の外かよ両手をくんで見て あきらめられぬ恋
○起請誓紙にからだを任しや人の異見はみな反古
       北梅舎文呉撰
○(秀逸)好に逢ふてはなぜ長き夜が宵のこころで明るだろ
〇(人)約束した日もまたのべ紙で泪ふくよなつらいわけ
〇(軸)思ひきる気の出ぬ思案からおもひ切たる我命
○身にもしみ/゛\聞淋しさは先に秋たつ風の音
○けふは待たんせかなしい時にいく度かへした朝もある
○おなじからざる数多の客に咲は勤の花かいな
○そでない人じやと振ても見たが尽されてしる先の実
○夢も結ばずむすんだ帯もとかでほどけぬ胸の中
○夢の浮世にゆめ見て居ても好は夢にも儘ならぬ
○人の噂にかた腹いたきもしやそれなら癪の種
○腹のたつよな文遣たならおこつてなりとも来るであろ
〇てきとざこ寐の計略はづれ泪落武者朝もどり
〇なんにもしらはの身は先任せせいろは染人のはらにある
○こはひ浮名が高入道と化た夢見て汗をかく
○うつり安さの月影見ればひづみ安さのくせがある
○否にすかるるよりましかいなきらわれた身に好な人
○やるかたなけねば(ママ)只眼のさきへへばり付たるぬしの顔
○恋にや雲井の位もすべり艸の露にもやどる月
○たしなんで居ても/\好は我からたつ浮名
○うつむくもありあをむくもありなくか笑か百合の花
○うしき窓とふ月より外に舎るものなき我袂
○訳の分つたわけよりふつと訳のわからぬ訳となり
○桂男と聞や留守の夜半閨へもらさぬ月の影
〇いやな客にもまた義理があり好をすかれぬ勤の身
〇来なんすお前の親切あらは約束して待事はない
〇医者もさすりも玉ける計り
 「癪にうれしき男のちからじつと手に手をなんにもいはず」
 なほす人
○かはる浮世につれてやかはる人のこころのきのふけふ
○勤の中にも通ふて見れば実もまんざらないでなし
○道は一すぢとは思へども恋は思案の横田川
○逢へばうらみを数とり丈のたつた一ツがいひにくい
○むりと申さぬ其うたがひは儘ならぬもの勤の身
○今は愛相も月去りながら雲を掴んだほととぎす
○便りなき身は夜を更してもねむけうしなふ時鳥
○なれて程よくなる眉刷毛はやつれ過ても捨にくい
○いやといふたはこちや好のうら口にや世間の義理もあり
○思ふ程なほつれなくするは男ごころの常かいな
○忍ぶ垣根によき辻占は男結びのわらびなは
〇我をうらみてあきらめたなら先に不足はとんとない
〇啌も真事も今はがための花の匂ひのよしの椀
〇あれも浮気かおのれの陰に退ふそぶりの水の蝶
○ちよんと二人が合ふ相図とはしらず拍子木余所に打
○けふやきのふとたつ日はあれど添ふといふ日はいつであろ
○私しの命は天にも地にも一人よりない人のもの
○祈る神にもつれなき人の罪は如何と案じられ
○迷ふ胡蝶の行先見れば花に仇なる色はなし
○かんにん仕なんしいふたはほんの立し浮名の口ふさぎ
○待が花じやとおもふてゐても早ふ添たふなるわいな
○後のこころにくらべ見れば合見んむかしがましかいな
     花評  一樹園楠若
○(天)真の情のこころの花に含む泪の露を置く
○(地)けふを楽しみ苦しむあすの苦げんしらでや月よ花
〇(人)千辛万苦をする其中にのぞむ願ひは只ひとつ
〇縁を結ぶ神なし月は日毎泪の時雨空
〇好じやわいなといふたる跡の詞残りをつつむ袖
○花は二八に色香をまして月は三五にみち渡る
○雲井はるかに聞雁がねの文もうれしき初便り
○逢へば気が張り涙もむねにかくす苦労に余る愚痴
花評 竹露軒尾白
〇(天)恋は曲者いやおふなしにやぶるたがひのこらへじ諚
〇(地)おのがこころにうたがひはれにや先の真事も啌に聞
○(人)いふはいはぬに弥増るとこは誠ごころのとどきあひ
○一から十まで弁へさんす人にある啌ある真事
○初手に二の足踏さへすればこんな苦労はせまいもの
○閨の障子に影うつり香の東風と答へてかをる梅
○閏月こそ浮世にいらぬ勤する身の年の外
     追加
○誠ごころが天までとどき月をなかせる郭公
○済ぬこころをまた取なほし我をたらしてする勤
     花評追加
○憂に堪ざるなみだの雨に晴れぬ皐月の胸の闇
○待日の長さにしほれし花も露の便りに色をます
     追加 会主竹林社
○濃いも薄いもみな其人のこころ/\に染る色
○人の迷ひの雲皆はれて嬉し月見の小盃盛
○ほんのお客で勤る気なら笑ふてゐても済わいな
     書林追加
○翌日と首尾して涼しい便り待も流れの御祓川
○さめて心に思ひが残り夜着に未練の夢ごころ



古本の都々一
(馬喰町三丁目吉田屋小吉板、八丁堀松坂屋等のどどいつ本は、時代不明だが幕末物たることはいふまでもない、その製本の体裁、木板の書体から見ても、古いものと認められる、今私の手元にあるその数冊の小冊子の文句を一纏めとして紹介して見よう)

恋の誠どゞいつぶし
〇よかれあしかれじやうた□おくにほかへ手をだすぎりしらず
○つきよばかりかやみ夜もあるようはきよするならかくごしな
○おたがへにさぐるこころの恋ぢのやみはせめておぼろの夜がほしい
○いつかふたりの身をままにしてはれてそひねがしてみたい
○たとへしうとがおにでもじやでもほれたおまへのおやじやもの
○ゆめになりとも見さうなものよあけくれおまへのことばかり
○いのちさしだすこひぢじやものをほかにはなにがこはからう
○見せでさわぐなないしよでせくなださぬしよくわいにやほれはせぬ
○すずりずみこほりてふみのかけないときはさも/\こひぢのじやまをする
○はをりぬがせてたたむはよいがきせてかへすがおもはるる
○あふても/\まだあいたらぬそはずばやむまいこのくらう
○おつこちをかへしてふさいでゐればまもなくしよくはいでまたふさぐ

しん内恋の誠どゞいつぶし
○こよひくるとのあのことづけに
 新内「もはや見へそなものじやがとのびあがりたちあがりそのうちおもてでこゑがする」
 そこでざしきはうはのそら
○まこといふてもうたぐりぶかい
 新内「つとめする身もしらうともなじみかさねた女ぎはじつにかはりはないわいな」
 そんなうはきなわしじやない
○見せやないしよへしのんであげて
 新内「たま/\あへばあくる日はあね女郎やほふばいにあてこといはれみじまいもおそい/\とせがまれて」
 なぶられるのがわしやつらい
○ぶたれたたかれする手にすがり
 新内「おまへのこころがいるならばころしてなりとくださんせ」
 わたしやじやけんなきにほれた
○ゆふべあふたがまたあひたさよ
 新内「しげ/\あへばおやごのしゆびあしきはむねにしりながら」
 こよひもあはずにいらりやうか
○ぬしのうはさをわしやきくたびに
 新内「あひたい見たいはいもせ山いつかめうととまつち山こがるるむねはあさま山」
 はやくあはせてたむけやま

おつこちどゞいつ
○いさむなかにもひとりでふさぐなぜといはれてにがわらひ
○ひとのはなとてながめてゐたらいまのくらうはせまいもの
○いまはかれきでつないでおいていまにさきたやふぢのはな
○身はひとつこころはふたつあのみつまたでこれがなかずにゐらりやうか
○ほれてゐるのをさとられまいとそばにゐながらむかふづら
○しかのなくねに身をほだされてたれしもこひぢはかうかいな
○しのびがへしにりやうてをかけてゆめであつたかからすなき
○おまへひとりがをんなじやないといふてこころでないてゐる
○こひのじやうかいうすずみなれどなかにこいじがかいてある
○うはきするひとなににくからうひとのすくひともつくわはう
○なくがじやうかへなかぬがじやうかなかぬほたるが身をこがす
○あへばたがへにただばうぜんとはなしのこしてあとくやむ
○いふにやいはれずこころでぢれてかみもみだれてものおもひ
○ぎりづめいけんではいきれますとくちとこころはうらおもて
○ぐちぢやなけれどいはねばならぬしからしやんすなはなすぞへ
○すゑのすゑまであんじるやうなぐちなこころにだれがした
○やつれましたよけふこのごろはしみ/゛\くらうがみにさはる
○はなはせんさくなるみはひとつ九十九がいをあだにさく
○よへばつもりしうらみもいへどさめてうれしいうめのゆき
○このごろはなみだもろいとわらはれくさもついてふさぐもぬしのため
○きがあればいはずかたらずめくちでしれるくどくやうではできはせぬ
○いんぐわどうしかかたきのすゑかきてはないたりなかせたり
○きげんなほしてまあねやしやんせ
 上るり「さよふけて」
 「そばイにうめんそばイ引」
 「八ツかあア」
 「あんまはりそばやさんなんどきだね」
 「七ツかあア」
 「こつけつかうあけ六ツの」
 「ぼん引」
 かねがかたきのよのならひ
〇ひとめぢやわるくちこころでほめてかげでのろけてしらぬかほ

伊呂波しり取文句都々いつぶし
○いつかふたりがめうとにならば手なべさげてもうれしかろ
○ろうかづたいのしのびのこひぢもはやしれたらままのかは
○はだかにんぎやうとなるわしがみもみんなおまへがかはいさに
○にくやからすでもうきぬ/゛\とじつとひきよせかほとかほ
○ほんにおまへもやきもちぶかいおぼえもないこといひならべ
○へんなうはさをわしやきくたびにおもひすぐしてぬしのこと
○とをざかるのはすゑさくはなよしんぼさんせやちとのうち
○ちはがこうじてせなかとせなかあけのからすがなかなほり
○りんきせまいとたしなみながらなぜかこころがやすまらぬ
〇ぬしのこゑかとまただまされて出てはみんなにわらはれる
〇るすをめがけてくるまをとこもすこしはきがねをするものを
○をもひおもはれかうなるからはぎりもせけんもままのかわ
○わたしやこれほどおもふてゐるにかうもじやけんになるものか
○かみやほとけにねがひがとどきけふのごげんのうれしさよ
○よひにしのばせやう/\のことであふてかへしてほつとした
○たとへ野のすゑ山おくまでも手にてをひかれてふたりづれ
○れいのやぼめがまたしげ/\にうるさいことだよどうしようぞ
○そふたゆめみてついおこされてあとをみたさにはらがたつ
○つきにむらくもはなには風よぬしにあふよのあけのかね
○ねてもさめてもおまへのことをおもはぬ日とてはないわいな
○ないてわかれてついそれなりにひとりぬるよのあだまくら
○らくなせかいにくがいのつとめしばしわすりよと酒ものむ
○むねにしあんはさだめてあれどぐちがかうじてものおもう
○うはきなおまへにしみ/゛\ほれてわたしやあはびのかたおもゐ
○ゐかにつとめのわたしじやとてもかうもうたがふものかいの
○のやまこへてもおまへとふたりくらそとおもふてゐるものお
〇おもひつめたがふたりのいんぐわままにならねばつれてのく
○くるか/\とまつ身のつらさあへばわかれのまたつらや
○やがてふうふといふてはゐれどむねのけむりがあさまやま
○ままにならぬがうきよとこいへどあまりしんきとちやわんざけ
○けさもけさとておまへのうはさあんじすごしてものおもふ
○ふかくなるほどおもひがますよはやくゆきたやぬしのとこ
○こひし/\とおもふてゐたにゆめじやないかやぬしのこえ
○えんのつなかやたよりがありてぬしの所へふみのつて
○ていしうきどりのぬしよりほかにうはきどころかなんのまあ
○あいのおさへとのむさけよりもふたりねざけのおもしろさ
○さいたさくらもみだれりやちるよしんぼさんせやちらぬさき
○きづよいおかたとうらみつなきつおつるなみだのそでのつゆ
○ゆふべあふたにまたかほみたくふみにおもひをふうじこめ
○めかほしのんでうきなをたててまよふ二人りがこひのやみ
〇みえもかざりもなくほれぬいてぬしのことばかりをいひくらし
○しのびあふ夜はなごりがおしいにくやよあけのかねのこゑ
○ゑきもないことさきくりをしてぬしをあんじてものおもひ
○ひとめしのぶははじめのうちよ今じやひとめもよのぎりも
○もとはたがひのこころやすだてよすねずとこちらむかしやんせ
○せなかあはせてけんくわもすれどこちらむいたらあけがらす
○すゑのやくそくなが/\しいもまつにかひあるきのふ京
○京はめて度いいもせもまなびかはらしやんすなかはるまい

上るりいりいきなどどいつ
○はるかぜにそよとあがりしあのとんびだこ
 とみ元むしうり「どうでにようぼにやもちやさんすまいわたしばかりがほれてゐてうそのへんじをまこととおもひ」
 ひとのしやくりにやのりはせぬ
○きいてよいのがやまほととぎすふみのへんじやことのねも
〇二せとちかいしだいじなおまへ
 ときはづおはん「ながらへゐよとはそりやどうよくなわたしやしんでもおまへよりいとしいものがあらうかいな」
 わかれりやこのよにようはな

○ほれたわたしがうるさいならば
 清元おそめ「そんなそのよないひわけをそれよりわしがいやならば」
 ほどよくうまれてこぬがよい

吉原こゝろいきどゞいつ
〇とにかくこひぢはあとさきみずよふれうけんほどじつがある
〇わがほれりやひともかうかとじやすゐをまはしぐちなやうだがはらがたつ
〇きれたたうざはがまんもいへどひかずたつほどおもひだす
〇わたしをすくひとはわたしがすかぬわしがすく人はわたしをすかぬ
〇ひろいせかいにわたしとおまへせまくたのしむまどのつき
○ふじのやまほどのぼらせおいていまはつるべのさかおとし
○ひとのはなとてをるまいものかあだにさくはなぜひがない
○れうけんのほかでしよてにはきたこの二かいせけんのふぎりもそなたゆゑ
○あふよみじかしあはぬよながしこぬよこうじてしやくとなる
○しらさぎがこくびかたげてあのあぜごしに二のあしふみ/\ふかくなる

葉哥入どどいつ
○松の二葉にゆくすゑかけて
 はうた「人の気にあふ水にあふいろもかもあるすいたどし」
 二人めでたくともしらが
○すずりひきよせまこととかけど筆に狸の毛がまじる
○人はこりしやうとわらはばわらへ
 はうた「ほれてかよふに何こはかろふこよひもあふとやみのよみちをただ一人」
 こるもこらぬも人による
○つらいつとめのしんぼうとげてらくなそひ寝がして見たい
○むりにたび/\あふたがばちよ今ははかなやとふざかる
〇ふとしたことからまをとこはしてもていしややつぱりすてられぬ
○たとへ正宗めいさくじやとてほれたさんじはきれはせぬ
○うはべでけなしてわるくちいへどじつはいのちもいとやせん
○筆はかはいやとふどのみちを
 はうた「ことづてかへすつばめの」
 たよりきいたりきかせたり
○まつにこぬ夜はついかんしやくがつみなき初会にやつあたり
○つらい浮世にみじかいいのちそはれずはからだもいりません
○どてらかかえて質屋の店へ
 「ばんとうさんちよいと二朱かしておくれ」
 「申これは二朱はつきません」
 「これさばんに直うけるからかしておくれ」
 清元「ばん頭はじつと顔を見てあれ又あんなむりいふてそんなどてらぢや二朱はつかぬ」
 六百たしやきままとひとがいふ

朝直し恋路どどいつ
○ぬしのこころとたごとのつきはどこにまことがうつるかな
○ひとのはなわが身の花とさだめるからはここがどきようのすへどころ
○すゑはなみだとしりつつほんにくわざなるまいこのわさび
○きをもみきをもみさかせたはなをひとにとらせてなるものか
○せけんさわがしめんぴをかいてひとにそはせてなるものか
○いはぬことかへなぜあさはかなくちゆゑうきなはたつわいな
○はなもちらずばふまれはすまへのろけざほれたがわかるまへ
○ひとのはなをりしわたしがはたらきものといはれてわたしがまたをられ
○からくりのはつたとかはりしおまへのこころかげでいとひくひとがある
○とりならばちかくのさとへすをかけおいてこがれてなくのをきかせたや
○しいたふとんをまたおしだしてのちにやきがつきひきよせる
○もしもそれかとみみひきたててよそのかしかやうらめしや
○ひとをたのめばよせとのことよたのまにやあはれぬことばかり
○かごのとりにはてにてをかざしうちのにようぼははなしどり
○ぢやけんばかりがをとこのじやうかたまにやなさけもかけなさい
〇あさのかへりにそでとりすがりおしてくんなよむなさきを
〇三ケ月のかどとか/\しくもあらうかたふざの内よすゑにやしぜんとまるくなる
○さきでまるくでりやなにわしじやとてかくにではせぬ十五夜の月

吉原どどいつ
○のべのあをくさかりすてられてつちにおもひのねをのこす
○くるとかへるがわしやいやになりどうすりやいいのかさしづしな
○かみすりかた手にひざたてなほしあはせておくれとめになみだ
○ねよとまくらにもたれて見てもなにかねられぬものおもひ
○あいたい見たいはかんしよのせいよさけでしのがんせくのせかい
○もしもこの子が男の子ならにほんささせてちやんのあと
○こひはこころのまことといふがそれにおまへはじやうがない
〇あらとでおろせしこのかみすりをあはせておくれとめになみだ
○おつこちよかへしてじんすけをとめてこんなつまらぬことはない
○やなぎのやうなるもときをすててたでのはをすくむしもある
○おつこちよかへしてただばうぜんとひとのこのはなしもうはのそら
○しらかみでやればこひしのまことがしれぬどうすりやほれたがしれるだろ
○たらはぬわたしがこひぢじやものををしへてなさけをかけさんせ
○とつてなげたるまくらのとがはかはいいあまりのぐちがする
○ひとにやつめたきまくらのしもよぬしにやひになるむねのやみ
○こころがらとてわにわをかけてどんななんぎもぬしのため
○ぬしにあふ日はきちじやうにちよあはぬその日はふじやうにち
○とふざからせてしんぼうさせてためていちどにたんととる

葉唄よせ本
○これはせけんの女房のなよせきさきさまにはまんどころきたのかたにはみだいさまやらおくがたごしんぞごないほうおかみさんにはおうちかたかかアさへもんうちのやつ小ゆびにふうふげんかをするときしきずりおたふく山の神
○わたしやおまへにおつこちしぼりゆうさいがほにしぢりめんうきなのたてじまそふをまつざかみぢんになるもいとはぬがぬしのこころがかはりしまほんにうはきな水あさぎよこじまばおりいはんすくちもゆうきになるわいナ丈がない
○うはきもののくちぐるまにツイのせられて引にひかれぬこひのみち
○おやのいけんできをとりなほしまたもかほみりやあつくなる
○ままよ三どがさよこちよにかぶり 新内「江戸ながさきやくに/\へゆきやさんしたるそのあとはるすはなほされをんなぎのひとりくよ/\ものあんじ」いなかあるきはやめにしな

しんぱん絵入いきなどゞいつ 初編
〇はるをまつとてこころの竹をいもせむすびししめかざり
○鴈がかへればつばめがかよふおまへばかりがきやくじやない
○ねぐらにとめれば一夜のえんと朝は鳥さへなみだあめ
○さとられまいとてきがねをすればぬしをあんじてしやくのたね
○呑でくらすが其日のとくよ下戸のたてたるくらはなし
○きのふまで氷ついたるあの青柳も解てなびけりはるのかぜ
○すてるかみありやたすける神がなまじあるゆゑくらうする
○あさい川なりやひざまでまくるふかくなるほどおびをとく
○立はらふそくたたぬがねんきおなじながれのすゑながら
○せたいかためてやれうれしやとおもやおまへはまたうはき
○ふみのうはがきうす墨なれど中にこひぢがかいてある
○おつにからんだあのあしばかりへちまのちるではあるまへし
○ひと夜あはねばなほ深くさの少将なりとも顔見たい
○ひとの心とわたしはちがふこらずあきずにすゑながく

新板絵入いきなどゞいつ 二へん
○たとへ此世はあきらめもしようが二世のしやうこをわしや見たい
○さくらばかりにわしやかたよらぬいとしとのごがあるからは
○あきもあかれもせぬ中なれど義理ほどつらいものはない
○わたしの恋路は田毎の月よどこへまことがうつるやら
○馬鹿よたわけとそしられながらかよひかかりてやめられぬ
○うきな立られ世にうたはれてそふにそはれぬなかとなり
○ふかくなりやふかくなるほどままにはならぬむりなおふせがなほたのし
○もしもうはさがありもやするとこころのこりでぐちをいふ
〇玉ごとしのび/\て安宅のせきをたれがゆるして生田流
〇年があいたらおくそこなしに身まま気ままに寐て見たい
〇かしくとはたれかきそめしつくしの筆に茶屋へ日ごとのむかひぶみ
○雨のふる夜にひく三味せんはぬれにくるみのかさづくし
○香をるらんじやをたきこみおいてぬしに見せたきうちかぶと
○つもるうらみは山々なれどぬしに逢ふ夜はふじのゆき

新ぱんゑいりいきなどゞいつ 四へん
○しんにつらさをしんぼうするもぬしのためだとさつさんせ
○からかさのほねになるほどかよはにやならぬどうせやぶれたこのからだ
○顔でしらせて目もとでさとりばんに逢ふとはむねとむね
○細見をとてなげだす女房のりんきふみならつのでもはへるだろ
○はらたたせ愚痴をいふのはみなじつぎからたふざの花ならいひはせぬ
○おまへがやぼならくらうはしまいすゐが身をくふしあはせ
○しやうちしながらついまちわびて一夜あはねば気をまはす
○あきらめましたよもふあきらめたあきらめられぬとあきらめた
○おまへいやならつん/\しやんせわたしやわたしでじやうたてる
○おまへばかりが男じやないといふてこころでないてゐる
〇かれしばのもへたつやうにわしや思へども先が生木で火がつかぬ
○わたしにひと言いはせておいてあとでぶつともたたくとも
○ままに逢ふ身はかた田のうらよあはずにつもりしひらの雪
○あきの夜風に身はしみ。/゛\とすゑの松むし音もほそく

新作絵入いきなどゞいつ 五へん
○ちわがつのりてくぜつのはてのまつた甲斐なき明がらす
○逢ぬさきとはあきらめられぬ意けんが耳に入ものか
○すねてかたよる蒲団のはづれほれたかたからきげんとる
○十二ひとへのきうくつよりもねまきひとつでぬしのそば
〇みえもかざらでたがひにはだかとけて正体も夏げしき
〇はだしまゐりの身はやつるれど神のちからをたよりにて
〇しばしあはねばつばさのたより筆をもつ手もうはのそら
○いろじや/\とわけし糸のひざにもたれてぐちばかり
○先でおもはぬ恋路にまよひうれしがらせてつみつくり
○いろも味をももうかみわけておもひきります唐がらし
○みれんらしいが寒くてならぬ見かへり柳も小手まねぎ
○わすれ草をば種ないやうに吹てからせる秋の風
○一日なりともめうととなりておまへによう似た児がほしい
○たとへ貧しき暮をしても川といふ字にねて見たい
(以上「いきなどゞいつ」の内、第三編が欠けてゐるのは残念である、私の文庫に無いのだから是非がない。選者)



拾ひ集めの都々一
(年代は明らかでないけれど、やつぱり幕末ころの出版冊子と認め、ここには「辻うら都々いつ」「相撲ぢんく」「辻うら相撲ぢん句」「ひとつぶえりどゞいつ」「新選うがち都々逸」「新選別品葉うた都々一」その他種の小冊子より選り抜きたり、よつてこの一章を選者が、かりに拾ひ集めの都々一と名づけたのである)
〇たよりするよりまつ身になるなまつはういものつらいもの
〇くらうするのはからだのどくよ夫ゆゑぢ薬のくすりざけ
〇見えてゐながらままにはならぬとるにとられぬみづの月
○きりやうよすぎてうす気味わるいはなのなかにもむしがつく
○はるのよめなのつみのこされてあきは野ぎくのはなざかり
○弁天さまだとくどいておいて今はわたしを山の神
○なかのいいのもさて見にくい物よすこしは口舌もいきなもの
○ほんにお前はぎしやくの性よ北へ/\と向きたがる
○せくなせきやるなうきよはくるまいのちながけりやめぐりあふ
○わるくいふならいはしておきなあんなものにはようはない
○さんぜんせかいにひとりの男うは気されてもすてられぬ
○うは気うぐひす梅をばすててとなりあるきのももの花
○梅のにほひをさくらにこめてしだれやなぎにさかせたい
○梅とさくらのいろかの中へずつとすましたいとやなぎ
○やなぎ/\でよをおもしろくうけてくらすがみのくすり
○おなじながれにさてすみながらさぎはゐねむるうはあさる
〇じみな恋なかまこととまことゆきのしらさぎめにやたたぬ
○かうしてかうすりやかうなることとこしりつつかうしてかうなつた
○いいと思へばためにはならずためになる人きがすまぬ
○かげはさしてもただみるばかり手にもとられぬ水のつき
○月にむらくもはなにはあらしとかくうきよはさはりがち
○その日/\の朝がほでさへ思ひ/\のいろにさく
○いきでびなんでりこうな人もかねがなければ世ははれぬ
○「しんじつだとサ」
 手ばなかむてでかくふみさへも恋しといふ字はべつにない
 はやし
 「ヲヤ/\ほんとだよたよりがあつたらまたやんな」
○「いいかげんだからいやサ」
 眼へもはなへもしみこむやうなでかいのろけが聞せたい
 はやし
 「ヲヤ/\おたのしみみそかにうけんちんとりにいく」
○このゆきにようきなましたとたがひにつもるおもひのふかさをさして見る
○まゆげおとしたわたしのかほはあをばがくれのおそざくら
○つきよがらすとわたしのこころぬしにうかれてよをあかす
○ぬしがあるからせけんがもめる七両二分だしやおれがもの
○じみなこひなかまこととまことゆきのしらさぎやめにたたぬ
○はなにあらしはうきよのならひどうでちらずにすみはせぬ
○ゆきはちら/\まつよはながしエヽモぢれつたいとちやわんざけ
○やきもちをやくよりぱんでもやきなくわねじやうはきもいでやせん
○あめりかだましててうれんさしてやぶでたぬきがはらづつみ
○これといふきずもあるならあきらめやうがあくまでぬけめのないおかた
○おもひそめものあさぎはよしなどうぞこひちやにしてほしや
○ふられながらもまだうぬぼれてたまにはひとりでねるもいい
○こころさとれとつくおいばねのいつかとけたるしゆすのおび
○さみせんのいとよりほそきげいしやのみでもはりといきぢできれはせぬ
〇そろばんのたまにあふゆゑこころがしれぬわつて見たいはむねのうち
〇きやくがきぎくとこぎくとかいてやればむかいのかむろぎく
〇わすれくさとてさみせんひけばうたのもんくでまたふさぐ
○ちはがかうじてけんくわでかへしあとであんじるけさのゆき
○はつゆめのはなしなかばにおまへのふみはゆめもゆめとはおもはれぬ
○ゆめの見そめにだきしめかざりふたりねまつのゑはうだな
○内ぢや女房が着ものの皺をオツに火のしで当こする
○唄でのろけりやお客はしらず側でうかれて手をたたく
○花も開けば又散る習ひ逢ば別れのあるだうり
○邪けんなおまへにしみ/゛\惚れてわたしでわたしの気がしれぬ
○わる留せまいと思ふちやゐれど逢ば覚悟も何所へやら
○寒苦凌で花咲からは末にや実をもつ野辺の梅
○わたしのやうなるたで喰虫がなけりやおまへはひとりもの
○惚て呼気のお客じやないが人に取れりや腹がたつ
〇人のいけんで切れやうなぞと浅い惚やうせぬがよい
○年の明のをかぞゆる指もおまへに送つて四本半
〇つとめすりやこそおまへの女房して見りやぜげんに恩もある
○いふにおちずにかたるにおちていつかとらるることばじち
○かねとむらさきやお江どでできるむらさきやいらないかねほしや
○さけはこめのみづとはいふもののむりなさかづきやどくになる
○からのちゑしやといはれたみさへまたをくぐつたこともある
〇さけのさかなはまづとりあへずあきのもみぢのにしきうめ
○とてもあへねばうたたねよひねゆめであふのをたのしみに
○のまぬしようちでいつぱいついださけはすけたいしたごころ
○ほどもよければをとこもよいがしみつたれにはこまります
○まてばかんろとそりやあま口なまてるほどなら頼みやせぬ
○たつた川にはもみぢをながすわたしやおまへになをながす
○げいしやしやうばいないとはいへどかいにくる人あるわいな
○すゐもあまいもしつたるわたしにがいかほするいやなきやく
○おもひなほしてまたかくふみはくどいやうだがあともどり
○ほれてほれられてほれられてほれてほれてほれられたためしやない
〇おもひつめてもいひだしかねるせつくぢかくにかねのこと
○おもひおほつはそりやうばがもちぜぜのないのがたまにきず
○すまふじやぢんまくをとこじやしらぬひほどのよいのがきめんざん
○ふねとみづとははなれぬなかようくもしづむもぬししだい
○ういてくらすと人にはみゆるふねもながれのみじやものを
○けんにやまけてもさけさへのめばばんにやわたしがまけてやる
○さけはやめてもうはきはやまぬこれがやんだらいのちがけ
○さけはいつしやうたつたといふて二しよう三じようたちはせぬ
〇三日なりとも女房にしてとないてうつむきしたをだす
○はとは三しよからすははんぽすずめちゆうぎのものがたり
○ながれわたりのげいしやのみゆゑとりとめるのはぬしばかり
○ふたつならべしあのまくらばしかやつりぐさのなかにある
○かよひなれたるどて八ちやうといへど四てうのゆきもどり
〇ぬれるつもりであめにもでかけふられましたはなんのこと
○うめがわらへばやなぎがまねくわたしやおまへをまつばかり
○だいじがられるむすめとうめはたをるひとなくほころびる
○たとへののすゑそりややまのおくぬしといつしよはおことはり
○ままにならぬがうきよのならひみつりやかくるとたがいふた
○つきにかかりしアノむらくもはいづれどこぞをかくすだろ
〇ぬしをかへしてきやくひきとめるこれもやつぱりぬしのため
○やぐらだいこにふとめをさましあすはどのてでなげるだろ
○きやくをねかしてそれからさきはまぶとふたりでよをあかす
○いろもこひぢもするなじやないが人のめかどにたたぬやう
○はいにかいたる参らせ候はいづれもと様あるゆゑに
○さきでいやがるをんなにほれてしかしはんぶんできたいろ
○たれにたのまんたよりもないとねこをあひてにぐちばかり
○かくしあふせたふたりがなかはかみもたのまぬやりばなし
○うそとまこととまこととうそとかさね/\て二せさんぜ



都々逸恋の美南本 全
(年時不明なれど幕末ころのものかと思はる)
                              〔全部紹介〕
去年の伊予ぶしは今年古び今年の大津絵来年は廃るその流行の徙るが中に都々一のどゞ何所までも壁にされぬを附こんで近来はやる贅沢菓子五分の団子三分の大福餅も売るを羨み此方も一番当気に成ずつと上媚て百人一首紫女が源氏の真似こともお公家さん方お屋敷さんどんな高貴のお口にも協ふ積りで品張ど根が踏張ぬものなれば是ではいかぬとお看捨なく一口やつて御覧じろそれは女の惚ること妙であり升請合升と梓元諸共伏てまうす
                             吾妻雄兎子誌
ずつと往昔の来湖ぶし
○いたこ出島の真菰の中であやめ咲とはしほらしい
中往昔のよしこの
○私しやどうでもかうでもあきらめられられられないによつて讃岐の金ぴらさんへちよいとまたぐわんかきよか
今の都々一
○ままよ三度笠よこたにかぶり旅は道づれ世はななさけ
都々一うたひ方并に三味線の心得
唄ひやすくして亦うたひ難きものはとゞ一なりそのふしさま/゛\にして極らず芸者のどゞいつはいかにもうはてうしにかるく浮たるさまをうたひはなし家はとめどもなく引のばし折々声を鼻へぬかすやうにしてそのうちに勿体なるところあり湯屋のどゞ一往来のどゞ一はたゞいかつきのみにて三筋の糸にかゞはらず大部屋はつひ着のどゞ一はなげぶしと混さつなすかんにて高く唄ひ出すありりよにて低くうたひだすあり亦は平かに「ままよさんど笠横たにかぶり」トまで唄ひ「たびは」ト此所を一てうしはり上「道づれ世は情け」ト亦平らかに唄ふふしありしりを細く長くひき或ひは打きつたるやうにとめるなど時々の流行と土地ところの風ありて一やうには言難けれど都て重くやうだにうたふよりも軽くあつさりと言まはす方をよしとす三味せんは大一座などには撥かず多く賑やかに弾を常とすれど引過の床の上にさしむかひの爪弾や雨の夕べのつれ/゛\に忍びごまの水でうしなどしんねこの楽しみは撥かず少なく「まゝよチンさんど笠チントン」など相間々々へ程よくうちこみ手のこまぬ方いきに聞ゆ一声二ふしといへど惣じて唄ひまはしが肝心なりふしおもしろければ声悪きもあだめきて聞ゆよく/\たんれんすべし
(選者曰く、右の外、なほ記載するところもあるけれど、それらは省くことといたし、直ちに本文の紹介にうつるべし)

百人一首小倉都々一
〇小田のかり庵にふくとまよりも荒いお前のすて言葉(天智天皇)
〇夏は来にけりみな白妙の浴衣きて出る茶屋女(持統天皇)
〇足びきの山鳥の尾のなが/\しよをどうして一人りで寐付りやう(柿本人麿)
〇田子の浦ふね漕でて見なよふじのたかねの雪げしき(山部赤人)
〇紅葉ふみわけあの鳴鹿もあきといふ字がかなしいか(猿丸大夫)
○かささぎの渡す橋さへふつつり絶てこぬのはあきたかぢらすのか(中納言家持)
○ぬしの天窓をふりさけ見ればみかさの月よりなほ光る(安倍仲麿)
○赤い前だれ見事な茶摘よい宇治山だと人はいふ(喜撰法師)
〇花の色香のうつるを見てもあんじらるるよ人ごころ(小野小町)
〇往もかへるも桜をかざし知るもしらぬも酒きげん(蝉丸)
〇堀をめあてに漕出しゆくと人にや告なよこの小船(参議篁)
○雲のかよひぢ風吹とぢよ乙女のすがたがをがみたい(僧正遍昭)
○みなの川でわしやないけれど恋ぞつもりてふちとなる(陽成院)
○しのぶもちずり夫りや誰ゆゑにみだれて涼しいあらひ髪(河原左大臣)
○君がためならわしや野に出て若菜つむともいとやせぬ(光孝天皇)
○たちわかれていなばの山のまつと聞てはまたかへる(中納言行平)
〇神代も聞ないお前のうはきわたしや小ばらが龍田川(在原業平朝巨)
○岸による波小船にゆられ夢のかよひぢ三谷堀(藤原敏行朝臣)
○なにはがた短かき芦のふしの間なりとどうして逢ずに過さりやう(伊勢)
〇身をつくしても逢ねばならぬ人にいはれた事もある(元良親王)
〇今こんと言て私しをよもやにかけてもはや有明鶏がなく(素性法師)
〇秋の草木のしぼむを見ても涙こぼすか泣上戸(文屋康秀)
〇銭はなくなる女郎にやふられ我身一ツにあきれがほ(大江千里)
〇酒のさかなはまづとりあへずあきのもみぢのにしきうめ(菅家)
○今宵しのんで逢坂山を人に知られてなるものか(三條右大臣)
○みねのもみぢにあかるい路を小ぐら山とはたがいふた(貞信公)
○飲どもつきないこの泉川こひし鴨なべやきざかな(中納言兼輔)
○冬の薄衣のさむいにつけて人のくさめもみみにつく(源宗于朝臣)
○どれにしやうか格子の先で霜のしら菊めがうつる(凡河内躬恒)
○朝のわかれがないものならばなんのきらはふ明の月(壬生忠岑)
○有明の月と見るまでよしののさとにけさはしら雪ふり積る(坂上是則)
○利上々々にしがらみかけてながれもあへない質ばかり(春道列樹)
○光りのどけききんくわん天窓風もひかぬに鼻が出る(紀友則)
○うたへ/\の声たかさごに枝もさかえる松づくし(藤原興風)
○花の姿はふり捨たれどどこかむかしの香がのこる(紀貫之)
○まだ宵と思ふ間まもなくまう明のそら雲のいづこに月やどる(清原深養父)
○風に吹るる白露よりも人の心はちりやすい(文屋朝康)
○忘らるる身はしかたもないがそれじや誓ひの神よごし(右近)
○小のの篠原しのぶとすれどわれを忘れちやくちばしる(参議等)
○忍ぶこひぢもつい色にでてものや思ふと人がとふ(平兼盛)
○人知れず思ひ染しがまうとやかうとうき名がたつてはなほやめぬ(壬生忠見)
○末の松山波こすとてもかはりやせぬぞへ我が心(清原元輔)
○よたか切みせむかしは物を思はぬ報ひのこのよこね(中納言敦忠)
〇なまじあひ見て猶もの思ひ知らぬむかしにしてほしい(中納言朝忠)
〇色よ酒よの身のいたづらにあはれなすがたも心がら(謙徳公)
○かぢを絶たる私しや捨小舟ゆくへもしらずにこがれゐる(曾根好忠)
○すけんぞめきの人さへ見えず秋はさみしい格子さき(恵慶法師)
○酔たまぎれに投つた茶わんくだけて今さらもの思ひ(源重之).
○衛士のたく火と私しのむねはひるはきえてもよはもゆる(大中臣能宣朝臣)
○露の命をながくもがなと思ふもお前があればこそ(藤原義孝)
○えやはいふきの三年もぐささしも名物よくもゆる(藤原実方朝臣)
〇あけりや暮るとさて知りながらかねやからすがうらめしい(藤原道信朝臣)
〇一人寐る夜のそのあくる間はいかに久しいもの思ひ(右大将道綱母)
〇忘れまひぞや行すゑまでもかたいちかひのいれぼくろ(儀同三司母)
〇夜着やどてらも久しくなればいまにながれが来るだらう(大納言公任)
〇とても此世の思ひでならばじんきよとしよくしやうがして見たい(和泉式部)
〇めぐり逢て見しや夫ともわからぬうちにぬしははづして雲がくれ(紫式部)
〇わたしやお前に気がありま山今さらいなとは言しやせぬ(大弐三位)
〇まてど来ぬ夜はかたぶくまでの月のからすや明のかね(赤染衛門)
〇あまのはしだていくのの道の遠い旅路をふみのつて(小式部内侍)
〇ならの桜は色香もよいが八重といふ字が気にくはぬ(伊勢大輔)
○とりのそら音ははかりもせうがぬしの空寐ははかられね(清少納言)
○たつた一言人伝ならでいふて置たい事がある(左京大夫道雅)
○宇治の川ぎり夜はあけはなれぜぜの網代が見えわたる(権中納言定頼)
〇恋にくちなん名は惜けれど今さら意地でもきれられぬ(相模)
○夜着やふとんも哀れと思へわたしや一人で床のばん(大僧正行尊)
○夢でなりともあはしておくれゆめじやうき名は立はせぬ(周防内侍)
〇私しやすすきの野にすむうさぎ恋しなつかし夜半の月(三条院)
〇ついした事にも言葉のあらし顔にもみぢをちらすのか(能因法師)
〇銭のないときや何時でもおなしわたしや毎日あきのゆふ(良暹法師)
〇ぬしの心と門田の稲葉いつしか秋風ふいてゐる(大納言経信)
○枕ひきよせかけしや袖のぬれて嬉しい床のうみ(祐子内親王家紀伊)
○下戸のお酒と外山のかすみたたずとやつぱりのむがよい(権中納言匡房)
○なんの天窓とはつせのあらしはげひかれとは祈りやせぬ(源俊頼朝臣)
○ちぎり捨ても猶あを/\と露をいのちの艸の色(藤原基俊)
○雲井はるかに帆の影見えておきつしらなみたつかもめ(法性寺入道前関白太政大臣)
○岩にせかるるあの滝河のわれても末にはまた一ツ(崇徳院)
○いくよ/\になく声聞ばちどりと思へど気が悪い(源兼昌)
〇雲のたえ間をもれ出る月にさえて聞ゆるかみぎぬた(左京大夫顯輔)
○まくら外してしまだの髪をみだしたあげくは気がおもひ(待賢門院堀川)
○ぬしを帰してれんじを見れば小田の有明なほのこる(後徳大寺左大臣)
○憂きにたえぬかこのゆき風にはつ花なみだてひくくるま(道因法師)
○竹のはしらを何厭ふぞ山のおくにもしかはすむ(皇太后宮大夫俊成)
○うしと見し夜も今日びに成てみれば恋しいことばかり(藤原清輔朝臣)
○つれなかりける女郎をかへば閨のしごとはひまなもの(俊恵法師)
○かぼちや顔してなみだをこぼし月やはものをも能できた(西行法師)
○つゆものこさず皆くひ尽し秋の夕めしよくすすむ(寂蓮法師)
○芦のかりねの一とよさなりとあふてはなしがして見たい(皇嘉門院別当)
○なんの玉の緒たえなば絶ねあはで苦労をするにやまし(式子内親王)
○ぬしに見せばや濡にぞぬれし雨のよあけの花のつや(殷富門院大輔)
○きり/゛\す啼や霜夜の淋しいどてをどうして今ごろかへさりやう(後京極摂政前太政大臣)
○沖のいしかや私しの袖はかはくひまさへなくなみだ(二条院讃岐)
○あまの小船のろかいを推てすまや明石のわび住ひ(鎌倉右大臣)
〇山の秋風夜はしん/\とふけて身にしむ遠ぎぬた(参議雅経)
〇見すてられれば私しや墨ぞめの袖とかくごはきめて居る(前大僧正慈円)
○庭のあらしにふる雪ならでつもる私しのもの思ひ(入道前太政大臣)
○やくやもしほの身もこがれつつぬしをまつ尾のうらざしき(権中納言定家)
〇ならの小川の夕吹風に夏もすずしくとぶほたる(従二位家隆)
○あぢきなき世とあきらめながらたれしもお金はほしいもの(後鳥羽院)
○ももしきや古き布子をかさねぎしても冬の夜風は身に余る(順徳院)

源氏都々一 桐壺五十四でう
○塵とりよ片手にははきぎよもつて惚たやつらを掃よせる(ははきぎ)
○ぬしにいりあげ身は空蝉の今ではもぬけのからころも(空蝉)
○薄つくらいとまがきのそばへよつて夕顔のぞきこむ(夕顔)
○年はとつてもわかむらさきのいろになりてがまだ多い(若紫)
○とほざかる花すゑつむはなよ日々にさくはなちりやすい(末摘花)
○峰のもみぢのからくれなゐに秋がきたとは気にかかる(紅葉賀)
○花のえんでもそはねばならぬどうせしじゆうはちるからだ(花のえん)
〇あふひまつりの噂を湯屋ではなししながらくらべ馬(葵)
○神のさかきとお前のうはきさきへたつので気がもめる(榊)
○からかさの骨にからんでふる春雨はやがてはなちるさとがよひ(花ちる里)
〇すまのうら波またたちかへり来てはまよはすうらちどり(須磨)
○心あかしのけしきはよいがぽんとだしぬくはやて風(明石)
○ぬしは磯辺のあのみをづくしさそふ女なみがかずおほい(澪標)
○主とくらさばわしや蓬生のわびたすまゐもして見たい(よもぎふ)
○不破のせきやにさす月よりもかくす恋ぢはもれやすい(関屋)
○とてもするならゑあはせよりもぬしとふたりで貝あはせ(絵あはせ)
○ぬしを松風身にしみ/゛\とふけてさみしい鐘のこゑ(まつ風)
○かぜの薄雲あの月かげを見せつかくしつ気をもます(薄雲)
○翌日はまたあす朝顔見なよその日/\をかけながし(朝顔)
〇うゆる玉苗早乙女がさは田毎の月よりなほおほい(乙女)
〇思ふこだちへからんだからははなりやせぬぞへ玉かつら(玉葛)
○のぼる朝日になくうぐひすの初音嬉しいまどのうめ(初音)
○ままになるなら野にすむ胡てふくさに寐るにもめをとづれ(胡蝶)
○それと見るまにあの初ほたる月の光りでついなくす(蛍)
○のべるとこなつ枕もふたつたれと寐るのか気がもめる(常夏)
〇船のかがり火とわたしのむねは水にこがれてもえてゐる(篝火)
〇となり座敷のあのはないきは野分風よりなほあらい(野分)
〇ぐつと湯まきの御簾をまくりみゆきのあるのをまちかねる(行幸)
〇女郎花さくこの野のなかへだれがぬいたかふじばかま(蘭)
〇むかふはち巻かたはだぬいで酒がくだをばまきばしら(巻ばしら)
〇むろの梅がえわしやだまされてさいたと思へばくちをしい(梅が枝)
〇ふぢのうら葉は手もとどかうがむすめ白歯じやつままれぬ(藤のうら葉)
〇野べのわか菜とつみすてられてつちに思ひの根をのこす(若菜上)
〇わたしや春のに芽ざしのわか菜あをい/\と人がいふ(若菜下)
〇かしはぎの枝にがさつく枯ツ葉よりもぬしのこごとがそうぞしい(柏木)
〇直なわたしに横笛ふいてどこおしやそのよな音をいだす(横笛)
〇庭のまつむし鳴やむたびにもしやそれかと気がもめる(松蟲)
〇なまを夕霧気障をばよしなどうせ女がほれやせぬ(夕霧)
〇お前にまかした私しのみのり烹よと焼うとすきしだい(御法)
〇どうせ浮世は夢まぼろしとさとりよひらいてくさのいほ(幻)
〇遠道よして来てぬれたはよいが匂ふ宮でははなつまみ(匂ふ宮)
〇雪のうちなるあの紅梅もかんくをしのいではるをまつ(紅梅)
〇こころの竹川あかしていへど水にながしてぬしはきく(竹川)
〇えんのはしひめとはいふもののぬしが綱なら手がきれる(橋姫)
〇苔のしみづやそよ吹風に夏もすずしいしひが本(椎が本)
〇みそをあげまきはばかりながら色のことならききに来な(総角)
〇早蕨の握りこぶしにつみとがもない山の笑がほをはるの風(早蕨)
〇雨にやどり木一河の水をくむも他生のえんむすび(寄木)
〇ふたりが恋路はあのあづま屋のあたりかまはぬかけはらひ(東屋)
〇吹よ川風気もうき船のすだれまくれば筑波山(うき船)
〇ありと見て手にもとられぬあのかげらうはぬしのこころとおなじこと(蜻蛉)
〇親はこの手できれぶみよかけといふて手ならひさせはせぬ(手習)
〇夢のうきはし渡りをつけりやあぶない恋でも気がつよい(夢の浮はし)

七夕の都々いつ
〇年に一度はそりや表むきかげであふ夜もあるだらう
〇ないしよのしきせも厭はぬならばぬいで今宵のかしこそで
〇かささぎのはしたない身も渡りをつけてどうぞ今宵は首尾したい
〇脊戸へ作つたお芋をぬいて星にたむけのひごずゐき
〇秋の夜風の身にしみ/゛\と猪牙じや寒かろ天の川
〇星へねがひの糸みちよあけてどうぞむすんでもらひたい

十二支の都々いつ
〇棚子ねずみのいたづら男あたりきんじよをくひちらす(子)
〇わたしや祭りのうしではないが人のはやしにのせられる(丑)
〇たとへ寅伏野のすゑなりとわけ道よつけずに置ものか(寅)
〇月のうさぎのはねてはゐれど何所かかあいいとこがある(卯)
〇雲はまかうがお前のやうにくだは辰でもまかれまい(辰)
〇ぬらりくらりとひなたのへびじや辛い浮世はわたられぬ(巳)
〇霞むのがひの春駒よりもぬしにあふ夜はなほいさむ(午)
〇屠所のひつじとゐのこりきやくはしよばくないほど猶あはれ(未)
〇水の月かげ手にとるやうに見えて猿猴の気がもめる(申)
〇酉のまちもつた熊手についひつかかり今日もぶらりと日をおくる(酉)
〇いぬが吼てももしお前かと閨のとぼそを明て見る(戌)
〇ししにだかれて寐る萩よりもぬしと寐るのはなほつらい(亥)

〇顔はにこ/\笑つてゐても腹はふくれてゐる布袋
〇明店のゑびすさまだとわらへばいふがはらを立にはましだらう
〇きのへ子の日のとうしんよりもかるいお前のそらへんじ
〇寿老人ではわしやないけれどしかとはなしがして見たい
○えの島まゐりがべんてんさまの貝でさいくのみやげもの
○しやくを起したびしやもんよりもないしよの目顔がなほこはい
○天窓ながいはたうとまれうが尻がながくつちやあきられる

○やたけごころに気もはり弓のひいちやくやしいこの恋路(士)
○田はたつくつてゐなかのすまゐほねはをれても気がやすい(農)
○竹田近江をたのんで来ても恋のからくりやむづかしい(工)
○恋のはつ荷を車で送りいろのとひやといはれたい(商)

〇げこもじやうごも気にあふやうに丸くつきあふ今日の月(月)
〇山も田はたもみないちやうに雪の夜明のぎん世界(雪)
○雨の夕べもかすみの朝もはなの笑顔はうつくしい(花)

○いまは朽樹にかくれてゐてもやがて花さく春はある(右大将頼朝)
○縁きり榎を根こぎにもつてほれるやつらを打ぱらふ(巴御前)
○七ツ道具の数かずよりも恋の重荷が背に余る(武蔵坊弁慶)
○親のいけんと霜夜の酒は五臓六ぷへしみわたる(楠正行)

どど一しりとり
これは文句のしりとめ字をつぎのもんくのかしらにおくなりかくのごとくして惣ざちうじゆんにうたひまはしてゆくべし
○花のこずゑに見るまも夏のやがて青葉になるだらう
○うけさしやうとていふではないがのろけばなしもうさはらし
○しんの夜なかにふとめをさましきけばとなりは小なべだて
〇てなべどころかくはずに居てもきれるこころに成はせぬ
〇ぬしある花でもかうなるからは一枝をらずにおくものか
〇かるいしよたいもお前と二人りきがねせぬのを楽みに
〇にはの雪間のあの梅さへも寒苦をしのいで花がさく
〇ぐちもいふまいりんきもせまい人のすくものもつくわはう

江戸名所
○水は二すぢみすぢを乗てすだとあやせのゆさんぶね
○人目しのぶが岡とはうそよ四季のけしきに名がたかい
○だいて根ぎしや玉姫いなり深いなか田と人はいふ
○どんとはなした鉄砲ずよりあたるなかずの船のそこ
○霞ひき船まう木下川よとんだのろけを請ぢ道
○今日もひぐらしあすかの山の花にうかれて舞ひばり
〇今よひみめぐりうれしの森よどうぞあしたもしゆびの松
○他の艸木がしをれてのちに松のみさをはよく知れる
○庭の呉竹万代までもすぐなこころはかはりやせぬ
○雪の寒苦をしのいでいまは花の兄きのわらひ顔
(右の内「百人一首小倉都々一」は二三個所順序があとさきになつてをり、また人名にも書き誤りあつた、それらの誤りは有朋堂文庫「百人一首一夕話」と対照して訂正しておいた)



唐詩作加那 初編
                   山々亭有人撰〔明治二年〕
                                〔全部紹介〕
天井を逆さまに渡りて晦日に月を見せざれ人敢て不思議と賞さず盲人に角觝を取せて小婦に能を舞せされば誰が垣睨も做者あるまじ開化日に進み好事月に増長し陶隠先生存生かりせば新柳町に閑居を設け茂叔先醒現存在ば池の端にや偶居なすべしされば唐韻を賦す遊女あれば朗詠を吟ずる唄女あり世に連時に従はねば稗史といへども利を得ざらんと此史いとも不思議を尽し目盲角觝の取所あらぬに書房は疾を旨として彫摺なんども女の能の急候程に誤正をなすべき隙もあらねば看官廉漏をとがめ給ふな
     明治二巳年皐月稿成 山々亭有人記
○わたしが心は鉄張船よ
 「黄沙百戦穿金甲、不破楼蘭終不還」
 どんな中でも押てゆく
○のろい奴だと笑はばわらへ
 「願作軽羅著細腰、願為明鏡分嬌面」
 惚りや誰しもおなじ事
○鐘は七ツか八ツ山下を
 「月落烏啼霜満天、江楓漁火対愁眠」
 駕て飛せる早帰り
○すがたかざらず眉作らずに
 「却嫌脂紛汚顔色、淡掃峨眉朝至尊」
 ぞつと素顔の薄化粧
○思ふお人は軍の首途
 「故人行役向辺州、匹馬今朝不少留」
 ついちやゆかれず泣別れ
○すいた事ならするのがとくよ
 「一年始有一年春、百歳曾無百歳人」
 ホンニ若い時や二度はない
○死ぬほど惚れても四五日逢にや
 「眼看春色如流水、今日残花昨日開」
 あとへ見かへる人が来る
○もしも道中で雨ふるならば
 「誰知孤官天涯意、微雨瀟瀟古駅中」
 わしが涙とおもわんせ
○ぬしの来ぬ夜は白粉つけず
 「一去姑蘇不復返、岸傍桃李為誰春」
 着ものきかへず泣寝入り
○よもやといふ間に女房も出来て
 「秋葉風吹黄颯颯、晴雲日照白鱗鱗」
 いつか十日の菊となる
○惜しむ名残に見帰る柳
 「柳色参差掩画楼、暁鶯啼送満宮愁」
 後へ引るるうしろ髮
〇みどり/\いわれたあの子
 「高歌一曲明鏡掩、昨日少年今白頭」
 松のくらゐの太夫職
○おつな初会にしつぽりぬれて
 「君問帰期未有期、巴山夜雨漲秋池」
 丁度やらずの雨が降
○西も東も他人の中で
 「莫愁前路無知己、天下誰人不識君」
 正実あかすはぬしひとり
○そわれまいかと家出をしたが
 「今夜不知何処宿、平沙万里絶人烟」
 さして行衛も泣なみだ
○秋が来たので愛想も月夜
 「楓岸紛紛落葉多、洞庭秋水晩来波」
 濃は紅葉の散やすし
○とめちやいけないそのさかづきを
 「笙歌日暮能留客、酔殺長安軽薄児」
 寝かしてそうしてほかへ行
○首尾の吉原品川とても
 「唯有相思似春色、江南江北送君帰」
 もどる田町は朝時雨
○色気覚たる日かげの紅葉
 「却恨含情掩秋扇、空懸明月待君王」
 捨る心か待ど来ず
○酔を覚しに転寝すれば
 「平陽歌舞新承寵、簾外春寒賜錦袍」
 裾に実情をふわりきせ
○愚痴もみれんも言たいけれど
 「送君還旧府、明月満前川」
 むかふ鏡に恥てゐる
○うたれながらもその手にすがり
 「白髪三千丈、縁愁似個長」
 邪見も時によるわいな
○たとへのんでも亦呑いでも
 「莫漫愁沽酒、嚢中自有銭」
 つとむる所は勤めます
〇逢て別れて又あふまでは
 「雲想衣裳花想容、春風払檻露華濃」
 ぬしの噂で日を暮す
〇待にかひあるあの時鳥
 「一枝濃艶露凝香、雲雨巫山枉断腸」
 啼てうれしいい夜半の首尾
○ほども器量もすぐれたわたし
 「名花傾国両相歓、常得君王帯笑看」
 人のほれるも無利はない
○おまへと世帯を新柳町
 「旧苑荒台楊柳新、菱歌清唱不勝春」
 気ままに芸者をしてみたい
○鉄砲の音の屯宅けふ一日は
 「鳴鞭過酒肆●(コロモヘン+「玄」)服遊倡門」
 惣隊すすめる色と酒
○どうせ相手にやなるまいけれど
 「孰知不向辺庭苦、縱死猶聞侠骨香」
 ぬしと組討して見たい
○鐘もむつ言まだつきなくに
 「漢王未息戦、蕭相乃営宮」
 茶屋が迎ひの四ツ手駕
○かたい約束した中なれど
 「一双玉手千人枕、半点朱唇嘗万客」
 替りやせぬかと案じられ
○廻し枕がおしやべりならば
 「年年歳歳花相似、歳歳年年人不同」
 日々に口舌は絶やせぬ
○這ば立たてばあゆめとそだてし親が
 「閨中少婦不知愁、春日凝粧上翆楼」
 今更転べとはどうよくな
○三はきれてもわしや二世の縁
 「欲別牽郎衣、郎今到何処」
 かはらしやんすなあくまでも
○わきで見るさへによふたえにし
 「冷艶全欺雪、余香乍入衣」
 すゑのすゑまでそひとげる
○うしろ姿をそれかとおもひ
 「傷心江上客、不是故郷人」
 振向顔見りやよその人
○船ぢや寒かろ是きておいで
 「映門淮水緑、留騎主人心」
 わたしが部屋着のこのどてら



唐詩作加那 二編
                   琴亭主人撰〔明治二年〕
                                〔全部紹介〕
唐詩作加那二編序
手繰木綿の都々一へ、唐糸の唐詩を、撮合でよと板元の誂へ、原来流行の新作物は、筆に頭奇絶の有人大人が、忽地筆を染糸に、初編一冊刊行て、四方看客の尊覧に呈し、当世向で新奇趣向じやと、御意に叶ひて二編の注文、折柄大人は機台の、机上繁多の故をもて、余を助筆に雇はれたれど、未初心のかなしさは、筬より筆のはたらかぬをいひ気で滅多やたら縞、唯塞責の詩入都々一ゆゑ、只管愛顧を賜りて、偏に板元の棚さらしと、ならざるやうに願ふになん
            明治二稔己巳林鐘 琴亭主人識
○花の笑顔にさす月の眉
 「娼家美女鬱金香、飛去飛来公子傍」
 雪のはだへを三ツ蒲団
〇床の番して寐られぬ耳へ
 「空山不見人、但聞人語響」
 隣座敷のささめごと
○いやに邪推を廻しの客は
 「借問大将誰、恐是霍嫖姚」
 間夫じやないかと気がもめる
○待つに甲斐あるはつほととぎす
 「冷然夜遂深、白露沾人袂」
 鳴てうれしい夜半の首尾
○いだきしめつつ片手をのばし
 「与君会相向転相親、与君双棲共一身」
 解て引出す帯のおと
○光源氏と夫婦になろが
 「貴賤雖異等、出門皆有営」
 喰ずにや三日も居られない
○ほつとひと息たがひに汗を
 「宛転蛾眉能幾時、須臾鶴髪乱如糸」
 ぬぐふ額のみだれ髪
○鐘もからすも聞えちやゐれど
 「惜君只欲苦死留、富貴何如草頭露」
 ほかのお客はうはの空
○こころ浮草ながれのならひ
 「君不見今人交態薄、黄金用尽還疎索」
 けふは向ふの岸にさく
○こころ石炭焚つけられて
 「烽火照西京、心中自不平」
 顔も蒸気もわくおもひ
○遠ざかる程逢ひたいものを
 「仗剣行千里、微躯敢一言」
 去るものうとしと誰がいふた
○廊下ぱた/\障子をがらり
 「百万一時尽、含情無片言」
 ヲヤとにつこり笑ひがほ
○野暮なわたしに浮気なおまへ
 「願作貞松千才古、誰論芳槿一朝新」
 どうで口説はたえはせぬ
○ほれてくれるはうれしいけれど
 「傾国傾城漢武帝、為雲為雨楚襄王」
 さうはからだがつづかない
○かくす事とはもとより承知
 「但見涙痕湿、不知心恨誰」
 しれりやたがひの身のつまり
○そつとれんじをまだ明やらぬ
 「万籟此倶寂、唯聞鐘磬音」
 そらにひとむれ帰る雁
○紙を引さき眉毛をかくし
 「洛陽女児惜顔色、行逢落花長歎息」
 ぬしの女房にやふけるだろ
○まはり気な事をいふのもおまへが大事
 「憶君涙落東流水、歳歳花開知為誰」
 いやでとやかふいふじやない
○浮気は男の常とはしれど
 「柳条弄色不忍見、梅花満枝空断腸」
 かくされるほどはらがたつ
〇通ひ曲輪のものいふ花に
 「客心争日月、来往予期程」
 くるふ胡蝶の翅駕
○惚ちやゐれどもいひだしにくい
 「即今相対不尽歓、別後相思復何益」
 さきの手だしを待ばかり
○腹をたたずとよう聞しやんせ
 「総為浮雲能蔽日、長安不見使人愁」
 ほれりやうたぐる事もある
○三味線の引手あまたといふのも道理
 「即今西望猶堪思、況復当時歌舞人」
 うまい文句にいい調子
○盛りすぎたるあの姥ざくら
 「始知人老不如花、可惜落花君莫掃」
 なれど一枝手折たい
○おほい一目の関をば越路
 「莫愁前路無知己、天下誰人不識君」
 ここが勧進帳しもの
○いつの間にやらもう首尾の松
 「酌酒与君君自寛、人情翻覆似波瀾」
 遠くてちかいは船のみち
○便りない身にたよりが出来て
 「妾夢不離江上水、人伝郎在鳳凰山」
 苦労するのも二人り前
○しやくるとりつつおまへのことを
 「縦令然諾暫相許、終是悠悠行路心」
 わるくいはれりや腹がたつ
○雁の玉章とどいて首尾の
 「罷琴惆帳月照席、幾歳寄我空中書」
 松にうれしき月のかほ
○せめて一夜とおもふた念が
 「古来容光人所羨、況復今日遥相見」
 とどいてうれしいけふの首尾
○はれて女房にやなられぬわたし
 「閨中只是空相憶、不見沙場愁殺人」
 いろといはれて末ながく
○軍上手と聞てはゐたが
 「此馬臨陣久無敵、与人一心成大功」
 口で殺すもほどがある
○おもひがけなく相合傘に
 「花際徘徊双●(ムシヘン+「夾」)蝶、池辺顧歩両鴛鴦」
 ぬれて嬉しい春の雨
〇いたらぬわたしと浮名がたちて
 「看取蓮花浄、方知不染心」
 さぞやかた身がせまかろふ
〇あきがきぬたの音信たへて
 「長安一片月、万戸擣衣声」
 はれぬおもひの月の雲
○人の囲ひとしのびてこい茶
 「主人不相識、偶坐為林泉」
 そつとたのしむ四畳半
○はなれまいぞへ二人が中は
 「総向春園裏、花間笑語声」
 立し屏風の蝶つがひ
(各冊いづれも校訂に骨は折れたのだが、中にも「唐詩作加那」には一層骨が折れた、詩句の誤字も、ふりがなも手の及ぶだけ訂正はしておいたけれどなほ見落しがあらうも知れぬ)



流行新令どど一
                    〔明治初年頃〕
                                〔全部紹介〕
(時代は記されてはないけれど、明治初年時分の流行どど一調と認められる)
○縦令笑をが誹謗をせうがわたしがめがねでほれた人
 はやし「ほうきに内和な他人口おへそがでべそでお茶わかす
○ふわと乗ますアノ人車てれん手くだのくち車
 はやし「お先ツぱしりかひぎずりか傲倨で浮薄の尻ツぱや
○背叩いて何曰くしこうして来な格子まで
 はやし「陳ぷん漢語の廓ことば女学はとくにいらぬ門
○ぶたや牛肉切売せうと色のきりうりやわたしやいや
 はやし「賢気で職業励精し主夫と将来そひとげな
○かわした確証そりや儻偶か今更切ろたなんのこと
 はやし「きつた小ゆびがつけたならままにしやさんせ此きしやう
○片時も逢はねば愁心おこり思遇するのもほれた情
 はやし「どうしてゐなましよ今頃はよもや外移気や出しやせまひ
○何のばちでか弦妓のつとめ三糸はぢいて客をひく
 はやし「ちよんのまげいしややちびげいしやころんでびつこかぢんく弾
○睥睨さんすな是でも時節が来れば登庸するこころ
 はやし「うんとくわはうはてんにありぼたもちやおまへの□□にある
○三十六策走不若どうでそはれざそのかくご
 はやし「ゑぞ柯太まぢや遠すぎるそれでもきんじよじやあぶなかろ
〇もものおぼこにさくらの娘そげたやなぎのあらひがみ
 はやし「冷艶全欺雪の肌嬋妍別品上ものだ
○遠離してゐるたがひのつらさかはらないのは空ばかり
 はやし「はかないが恋うきが恋ふたりのためならしんぼしな
○うそか誠かまことかうそか初手の浮気は今のじつ
 はやし「豆羮麁食に日をおくり家職に鞠躬今ぢやする
○わちきを廃してあの古狐家内へいれたい下心
 はやし「こん/\にはなげのひよつとこめんにようぼはぴいつくはんにやのめん
○辛い世態あまいはおまへ世帯の車法はまわるまい
 はやし「どふらくやめてはたらいて見かへられないやうにしな
○啼てうれしい笑ひもいつかあさはなみだのたねとなる
 はやし「鶏鳴暁鐘衣衣の別またのあふせはいつであろ
○浮薄訛言な磊落者としらずにほれたがくちをしい
 はやし「それでもはなれちやゐられないにくらしいほどますおもひ
○もつと奮発鞠窮しやんせぐづといはれちや身がたたぬ
 はやし「かせぎな薄荷を眼につけてそふしてまいばん長命ぐわん
〇一点燈消夢後の涙どうして今宵は来ぬだらう
 はやし「かぜでもひいたかきうようかただしやほれてができたのか
〇従容しやんせよそう倉卒にしては悔期があるわいな
 はやし「しづかにしなましそこはへそあはてさんすなそこはしり
〇おまへとわたしはただ平凡の中ぢやないのにその疑惑
 はやし「からかひことばやぐちみれんやめてこつちをちよいとおむき
〇きわどい忍逢あぶない恋路ここが命の色のあぢ
 はやし「ほんにわけときやにどとはねそのきでなまものたんとたべな
〇月落烏啼て霜天満エヽもぢれツたい茶屋むかひ
 はやし「からすに鶏鳴明のかねおちや屋がわかれのかたきやく
〇なんぼ惚たを見透さりよと侮慢されてははらがたつ
 はやし「わちきがすゐきよでできたえんもとめてくやしい此おもひ
〇すまぬこころを笑ひにかくし諛侫で座敷をもつつらさ
 はやし「つとめをひいてぬしのそばわがままきままにくらしたい
〇形粧もりつぱで他見はよいがしみつたれのが玉にきず
 はやし「見かけだふしなはくじやうものしようばいきいたらいかものや
〇爰で不図会合するも宿世あやしき縁であろ
 はやし「将来おまへがつゑはしら女房にしないととつつくよ
〇広い宇宙に幾希なるおまへひとのほれるもむりはない
 はやし「いろしのとんやのわかだんななりひらさんでもおよぶまい
○あまり磊落出頭すぎるすこしは恭順しておくれ
 はやし「おほたば大づらですぎものとりえなところはしみつたれ
○往て帰らぬ千悔万悟将来浮気はやめにした
 はやし「こころにはちまきせいだしなみつかばうずじや〆りがね
○美酒や嘉肴はたれしもこのむとふなすおさつがわたしやすき
 はやし「どてのだんごにいなりさますいとんぎうにくまたうまい
○ぬしに傲倨をするのもほんにつらひざしきのうさはらし
 はやし「おまへをたよりのこのつとめしようわるしやんすとくいつくよ
〇はでにさく花うつろひやすいじみな松竹たのもしい
 はやし「誠実不変の恋じようじやあきずにさめずにかはらずに
〇死ぬほどほれ咄嗟間逢はにやあとへ見かへる人がくる
 はやし「きしようせいしは引札でたいさん板木ですつてある
○はかない此身はあの朝顔よからむたよりはぬしばかり
 はやし「わたしが依頼はぬしひとり秋厘外意はさらにない
〇門の犬にも用あるならひすこしは愍察しやしやんせ
 はやし「しがないはかないをなごの身むごいはをとこのしやうかいな
〇ちよい見で眷恋わたしはしたがそんな惰怠な人はいや
 はやし「をとこもよくつてはたらきでおまへに見かへた人がある
○手練手くだは三略智計閨房の戦争命がけ
 はやし「ろくてうがらみにあしがらみもとごめちやうじゆう二ツ玉



酔興漫戯声くら辺 初編
                   若葉家三楽批評〔明治七年〕
                                〔全部紹介〕
〇恋の語学の教師があらば主のきげんもそらすまい
 「行とどかナインだからかんにんして下さいな
〇意地のはり合ひこれ見よがしに登るこひぢの軽気球
 「はたからくちをだしたツてだめだよ
〇ぬしの写真にかげ膳すへて世帯かためる下稽古
 「七ツ屋のほうはくらうとだとサ
〇三ツの教則はづれたねがひ百度参りもきくものか
 「いろごとのとりもちは此せつはおことはりだとサ
○人目兼てはおもはぬふりもゆるむ指環に見とめられ
 「わけをおいひな及ばずながらちからになるはな
○気休めいふたりはら立せたり舌に税則ないとても
 「なんぼ人がイヽとてもたいていにしておヽきな
○たらはぬわたしにや読ない所作はやう翻訳してほしい
 「とりこしくらうをおしでないいまにわからアナ
○きれて間もなふ嬉しいたよりつなぎなほしたTELEGRAPH
 「おれいにやア新富町へおともがしたいネ
○じつと腰すへ安着るしやんせここが辛抱の達磨椅子
 「いつてしまやアみもふたもないわな
○見たてて結んだこのかざり紐襟に付とは人の口
 「はたらきのないいろをとこは当世ふむきのほうサ
○惚たと見るのは尖頭ちがひしんはかむりをふる時鳴鐘
 「やぶにらめときてゐらア
○一人りそわ/\立たり居たり報知まつ間の提きせる
 「なにをしてゐるんだらう人ぢらしな
○どふ考へても合はないはずか実と浮気の不権衡
 「しかしたんきはおよしヨたのもしひところもあるから
〇義務とおもふてする仕送りを恩にきるとは他人向き
 「わたしのねんばかりでも今にもとの御身にしますのサ
〇好た同士ははら立ち声もいつか鎮まる避雷針
 「おもひやりが第一サ
〇初手は浮気の仮条約も結びかへたる二世の縁
 「もふねがへりはうたせませぬよ
○胸の火むらはPUMPじや消えぬ主は防火の神であろ
 「かほみりやツイいはれなくなるよ
○絶しえにしをまたくり返すなみだ片手の糸機械
 「あんまりわからんじやアありませんか
○不自由な中でも自由の権でみつぐ自前の貸座敷
 「ありがたい事がわかるのサ
○苦イ口上出さねばならぬふられあげくのビール壺
 「果報者にやなりともないものだ
○熱い中をば水さされては沸騰散ほどさはぐ胸
 「ケツクふかふなるたねさ
○赤いこころを奥底なしに見せてやさしい釣LAMP
 「むきになるからじやうだんもいはれない
○恋の手はじめこころの謎をかけてかへたいこの指輪
 「西洋のいろごとはきまりがいいねへ
〇ヲツト失敬さしなら御免蛸の検査は僕がした
 「検毒院へ出張でもするか
○返した跡ではおまへの語学なぶらるるのもたのしみに
 「とき/゛\洋語とやらがまじるにはこまるよ
○真に勉強する気になるも末のたのしみ出来たから
 「ゐつづけなんざアむかしのことさ
○いひ過したはこちらの錯誤うたがひはれたにもふ泣な
 「いはれて見りやアあんまりどつともしないから
○恋の劬労を身代かぎりままになる日はいつであろ
 「はやう見かへしたいものだ
○目当てにしてゐりやヱヽにくらしい風にFLAGの吹かへし
 「じつにとりとめないきだよ
○我輩なんダア身の攝養に色気さつての安楽鍋
 「うけられぬはなしさ
○かうときまらにや指輪でさへもどちら付ずに中にさす
 「西洋じやアむすめのうちは中ゆびにさすとサ
〇しかと章程定めておくれ末の見とめのたつやうに
 「あゝだからこまるよ
〇云ひかけられては入費を出すも惚た弱みの負訴訟
 「此ごろじやア見せへ出るしかけもないよ
〇二十六文字一目をふせぐこひの知識のひらけくち
 「後世おそるべし
     報条 板元敬白
本集之儀は四方の風流才子月次集の玉章を若葉家先生批評之上編次し給ふ所也這回先づ初編を上梓す爾後引続き三ケ月毎に一篇づゝ発兌仕候間同好之諸君へは月次題面差上可申弊店へ御来車可被降 以上



声くらベ 二編
                    〔明治八年〕
                              〔全部紹介〕
○切れる取除しておくのならぬし売ます身の権利
 「うはきじやいやだよ
○訳まで明した交際すててにくい所作の横恋慕
 「どふしたらあんなまねが出来るだらふ
○意地にも添はねば世間の手まへたちし浮名の新聞紙
 「しつかりしておくれよ
○勝る道理の公法上も弱い方から所作負け
 「みくびられてゐるからいくぢやないのさ
○今は浮名の負債も返し気ままぐらしの新世帯
 「世話になつたともだち衆をちよつとどこぞへよびたいネ
○余処でかりたる眼の償かはなす間もなふこの鼾
 「ずるいネへ
〇問ぬ先から其自解はかくす事情のある証拠
 「なんともいやしないわな
○客気から出る実意の保護忍び逢ふ夜の置炬燵
 「くらうするうちがたのしみさ
○帰りまつ間は日に幾度かひらく地球の折図面
 「このすぢがじようきしやのとをるみちだよ
○うちなと蹴りなと適宜にさんせ苦楽まかせた此からだ
 「かうなるまでがたいていじやないわな
○晴れてはれない税金出してつらい辛抱も今しばし
 「ちつとでもおまへのためにならうとおもふのさ
〇好に添せる法律がたたば無理な会議も起るまい
 「西洋の婚姻法はすゐなたてかただよ
○捨て拾ツた命が資本履歴ばなしも馬車の上
 「今からかんがへて見るとこはいやうさ
○忍ぶよすがにたのみし事をおもひ出さする此MATCH
 「あのときやあとでどんなにしんぱいしたらう
○主のこころを燈明台とあてに苦海の浮しづみ
 「今の気でみてくれりやまづあんしんだが
○惚た心の弱みをかくし依頼せぬよにする依頼
 「さとつてくれればいいが
○来ると契約さだめた宵はわけて清潔な身だしなみ
 「しんざうふうがすきなのにはこまるよ
○ぬしと権限さだめたからは客気させぬはわしの義務
 「やきすぎてもわるしてうしものさ
〇火水いとはぬ覚悟の上でつなぎ合せし煉化石
 「ちよつとぼれはしないよ
○かうと意中に投票きめて送る眥に秋の波
 「いひ出すまではおちつきがないのさ
○耳に口よせ代書をさせてそつと呼出しかけ硯
 「いつものところだよ
○年期さだめず百歳までも主に専売するまこと
 「ほかにあてはないわな
○悔てかへらぬ交際上の深うなるほど言おくれ
 「だいじをとりすぎたのさ
○聞ばきくほど心裏恥かしい深い情の処分がら
 「わからないからそのたうざはうらんだのサ
○胸の約束漏らしちやならぬ護謨で消されぬ蔭の口
 「おかやきもちがおほいから
○涙ながらに膝すりよせてモシヘ盟約おわすれか
 「しよてからやさしくいつておくれでなけりやいいのに
○帰す後からあんじる寒さ今朝は声ある煙突
 「はやういつしよになりたいものだ
○ぬしの噂ははたから告る部屋は恋路の新聞社
 「うつかりしちやゐられない
○中のよいから起た事を誰が裁判するものか
 「人の気もしらないかなんぞのやうに
○人はしらねど夜昼となくまはる悋気と大地球
 「はしたないとおいひだらうからしんばうしてゐるのさ
○訳のありたけ言解く文に離れまいとの封じ蝋
 「きつとたれぞにしやくられたのだよ
○先のこころを分析すれば啌と実との七ト三
 「こちらさへまもつてゐたらちつたアかはいさうだとおもふだらう
○原を告たらわかるであろとたのむたよりの代言者
 「此ごろの一けんをわるくおもつておゐでかしらん
〇一年三百六十五日逢ふ日殖した新イこよみ
 「いつまでもかはらぬところがたのもしいのサ
○酒に過した時間であろか襟に残りしこのしるし
 「おしろいがよひざましにきくかネへ
○欲徳づくなら何アノ人に初手から投票するものか
 「すきでするのだからいらぬおせわさ
○遅い帰りをそれとはいはずともすMATCHの当こすり
 「せいだしておくれだからよろこんでおります
○男嫌ひの報条するも余処の戯言きかぬため
 「しやうばいがらだからひとりや半分はなんとかいつて見る人もあるわな
〇二人仲よう分頭税で貢ぐまことの尽し合
 「うはきをおしだとりやうはうからいじめますよ
〇ずんと居て履歴をならべ是でも客気をまだおしか
 「□□くわぬかほしてむしのいい
〇三個三種に教導されりや結句まよひの増す小ぐち
 「あとさきみずにやつて見るがいいよ
○初手から口数さだめたBANK外へわけ株さすものか
 「惚やうがおそいわな
〇末はどふしてかうしましやうとたつる世帯の仮規則
 「わたしもきよもとの札でももらふつもりさ
○はれて逢れぬ身の束縛もとけし笑顔に眉のあと
 「ツイ名をよんでならないよ
○しかとからんでおく襟巻もしのびどけする客気もの
 「すこしゆだんをしてゐるとアヽだわな
○人にしらさぬ胸算用は加減乗除の気はたらき
 「□□の口からツイまちがひができるものさ
○わざと隠さぬ郵便状も何処かアヤある開き封
 「みちよりをおしだとわるいからおくらせますよ
○あだな襟巻一場のお気で熱くなるほど五月蝿かろ
 「□□□とふまでがまちどをいのさ
〇はたの教導度重りて義理の返事もとつおいつ
 「ただはことわられないからわけをあかしてしまはうか
〇離れまい気を張詰ながら続につがれぬ破レ瓦剌斯
 「またやきなほすのさ
○末の目当にする証券は金にかからぬ美濃界紙
 「ねがへりをさせぬ用心さ
○真に安着保証立て程の八重売せぬやうに
 「きやすめもききあいたわな
○月も隈なく教導なさる恋の闇路のみそかごと
 「おもてむきいひこもふか
○逢ば笑はせ別れて泣かすにくい地球のうらおもて
 「じつがありさうでないやうでさつぱりわからないのサ
○恋の訳しり陪審にたてて粋な裁判してほしい
 「つまらないうたぐりをうけちやだまつてゐられないわな



開化芸妓都々逸
                   〔明治十二年〕
                             〔部分紹介〕
○おいた手紙を開いて見れば
 常はづ朝がほ宿や
 「いつかは廻り逢坂の関路を後に近江路や美濃尾張さへ定めなき」
 ぬしは航海なみのうへ
〇見たい/\は大裏の内よ
 義太夫いもせ山御殿ば
 「ちよつと拝ましてもらふたら恭ふござりますると顔も恨色なるむらさきの」
 御代も栄へる菊もやう
〇かいた郵便袖からそでへ
 義太夫白木やおこま
 「そつと私が心では天神さまへ願かけて梅を一生たつたぞへ其おかげやら嬉しい返事」
ひとに見られてはづかしや
○添れぬ縁なら死ぬのが増しと
 常はづ五人囃子「ぐちなくり事あどなさに」
 清元おさん「南無とかくごはしながらも」
思ひ返しちやまたなみだ
○深いのぞみはわしやないけれど
 義太夫大功記十段目
 「こんな殿御を持ながら是が別れの盃かとかなしさかくすわらひがほ随分お手柄高名して」
 一日夫婦と言れたい
○またも今宵はまちぼけやくか
 たなのだるま替うた
 「あまりしん気くささに棚の小猫さんチヨイトおろし辻占出したりチヨイト拝んでも見たり」
どふぞ来るよにしてほしい
〇朝のわかれに引く袂さへかはる浮世の西洋服
〇耳と尻尾を為替にしたらこんな税金出はせまい
〇世かい一般直針金で便り聞たり聞せたり
〇主も徳利とかん替さんせ猪口と出来たる中じやない
○恋の闇路に瓦斯燈あらば
 俊寛嶋物語、詞
 「女のきつすい天下一其心を見るからは物がたらんと」
 上るり「引たくり鏡にうつる我顔をためつすかめつ打詠」
 ほんとにくもりがないわいな
〇鼻をかむなと言ではないが
 本調子はうた歌沢ぶし
 「つれないと思ふ程猶身にしみ/゛\と寝ぬ目に書たはなしぶみ」
 たまには出さぬと化て出る
〇くらうするうち夫の病気
 義太夫あはのなると
 「女夫の誠を天道も憐有て国次の刀のせんぎ済迄は夫の命たすけてたべと」
 ねがふは警視の御役にん
〇お顔見たさに日に幾度も行つ戻りつ花に蝶
〇臭気止さへある今の世になぜか出来ないうはきどめ
○洋服見たよなおまへの心いつも袖ない事ばかり
○お待なんしと袖から時計一時早いと引留る
○胸に有つたけ言たい事もせまい端書に書のこす
○主の手管にヅボンとはまり人にや靴/\笑われる
○ほれた男に誠をあかし
 常はづおみわ御殿ば
 「泪にしぼるふり袖にむちよ手綱と立上り竹に雀はナア品よくとまるナとめてサとまらぬナ色の道」
 ゑゝもふしんきな事ばかり
○差配へ頼んでわたしの藉を
 清元さんば「えんを定だんの日を撰み」
 早く編せきせにやならぬ
○いかに士族がつよいと言て
 長うた勧進帳「つひに泣ぬ弁慶も一期の涙ぞしゆしようなる判官御手を取たもふ
 団十郎こわいろにて「これを思へばもののふの」
 義理と戦さうにや恐れます
〇後の苦労の種まき紙に思ひ参らせ候かしこ
〇渋いやつだと言れた柿も世話の仕様で味が出る
○赤い心をただ一筋に明て嬉しき日曜日
○丸い中とは何苦もなくて首尾も宵見の月曜日



開化さわりどど一
                    〔明治十三年〕
                              〔部分紹介〕
○にくい記者だがあの新聞は
 常はづふたおもて「色ある露のみなれ棹さす手も遠き唐土の五湖のけしきはいざ知らず知るべを松の名にめでて」
ほれた二人が起請文
〇すすき尾花じやわしやなけれども
 常はづ大江山「名にをかなもてなしぶりの煙草盆心は深き埋火の木の葉につつむ真実はおくそこもなき賤が家に」
 恋に忍ぶの冬ごもり
○ぬしの尽した真情とどき
 義太夫おこま才三「きこえませぬとと様母様わしが心にどのやうなといだんがふもあることか事を好しなされかた」
 ほめて出される新聞紙
○ぬしは鶯わしや梅きどり
 長唄七くさ「はるは梢もいちやうに梅が花さくとのつくりめざすかたきは」
 枝にひと夜をぬくめ鳥
○記者にたのんで二人が中を
 長唄紅葉ば「ういぞつらいぞつとめのならひ煙草のんでもきせるよりのどがとふらぬ薄けぶり」
 広告させたい七日間
〇浦のとま賤家の軒もる月も
 常はづ奉納鯛「よしあし貝も忘れ貝振り袖貝の一トすぢにたとへ深山のわびす貝賤が手業のきぬた貝」
 流石すみよき閨のうち



情哥のすがた見
〔明治十五年〕
〔全部紹介〕
東の都々一西京の俚うた浪花のよし此名ご屋の情哥所かはれば名こそかはれど変らぬは恋かはらぬはこの作意にして恋情真肉の深きを穿粋者にして必用の恋器なるを衆静堂主人の需に依りいろのいろはの新弟子が四十八手合点のゆかぬ拙き文も四方通人の幸に三筋に掛玉はん事只一ト筋に願ふもの仮名

いろは四十八文字しり取都々一
〇い気地と張とでたて切る障子ここがしあんの立どころ
○ろんより証拠と写真をだして是でも啌かと詰言ば
○はなを合せて口をば合せへそをあはせてはてはなに
○にくらしいほどやさしい好とひとり蕩気て見る寝顔
○ほれた惚ぬのその元ただしやすゐな鶺鴒が来てをしへ
○へんな様子と立ぎきしてもわからぬ硝子の内とそと
○とうからわたしは秋風なれどきれるはお金を取てのち
○ちはや口舌で夜があけるほどあるぞへ言たい事ばかり
○りんき言すぎ背寝されてをしやこの首尾ままならぬ
○ぬしをまつ夜は他の足おともあだにやきかぬよ耳たてる
〇るすと見こんできた此首尾と手拭とつたる好の顔
○をもはぬ首尾したそのうれしさにまけて恨もきゆるちわ
○わが身ながらも我身のままにならぬ我が身のこの因果
○かどの人目の途ぎれぬうちはしのんで這入れぬ宵月よ
○能似た声じやと思案のむねのさはぐ二かいへ気がういた
○たれでもおいでのいか物ぐいで時なし馳走のはらふくれ
○れい酒かわらけこよひぞふたり添へるも親御のじひゆゑぞ
○そへにやもらふたこのかんざしの玉をお数珠の粒にもつ
○つくしあふたる苦労を添た当座の二人がはなしだね
○ねずみとらずの若旦ときき猫がねらいをかけそふな
○ならべ立たる朱ぬりに照れて嫁のあからむ新まくら
○らくを末でと今このくらういつはりあるまい神たのむ
○むねに手をあて心をくだきおもひ廻せば夢のやう
○うその涙にぬれ手で粟の金の冥加がおそろしゐ
○ゐひわけくらしと女房が傘の借処根問ひにいだすつの
○のせて世わたるわたしの舟へさしてあまたにかはら棹
○おちかい内にと着せかけながら出す舌羽おりに唾がつく
〇くらうしたかひ今日はれ/゛\と添るはなしも粋な親
○やいてつのだす蝸牛女房いきなりぶちわるなべやかま
○まゆ毛につばとは知りつつかよひ知りつつはな毛とツイのろけ
○けふもけふとてゆふべの首尾のうれしかつたとのろけいふ
○ふたりこうして喰ツてるとこを女房が見たらし胸団子
○こふも夜ふけてまだこぬぬしにむねのおどろく犬のこえ
○えんと月日をまてよとのばしいやといふまでするてだて
○てくだの車にツイのせられてくやむためいきまたもああ
○あへばうらみをいふ気でいたがあへばうらみも出ぬものさ
○さけの上でのツイでき心おもはず乗ツたるくちのさき
○きれるきれぬのはなしもいつかかはつてうれしいおとすまゆ
○ゆめではないかとゆめみながらも夢に夢見るめうなゆめ
○めだつくらうのこのやせ顔をそつと鏡へしまいこみ
○み巾のふとんにまくらを二ツならべて寝もせずまちあかし
〇じつと寄そひなんにもいはずふたりして見る写真のゑ
○ゑがほ作ツて寄添見てもかねをくれねばつらにくひ
○ひとにいふなとかむろの口へ一寸ふたするさつまいも
○もとは相応に金有松も絞りとられて不仕あはせ
○せなか合せの素根寝もいつかとけてうれしいはら合す
○すゑは夫婦と願ひしことも叶ふて嬉しいそへる京
追加
○いろと始にならひしものをせすと心のとめどころ
  是より末四十余句廓通客と娼妓の真情ををかしく穿ちたる句を集む聊放蕩者のいましめともならん歟

題客
○張ツて待とる廓の網にかかるお客の目なし鳥
○何からなにまでお気付られて間夫へ遣る金くれる客
○文を参らせ候かしこの針で紙の蛭子を釣かける
〇月が三十日に出る今の世は啌いふ女郎に無理はない
○客の線香のしツぽを切ツて好の線香に下駄はかせ
○書出しみたよな無心状書て客の名前に「(てん)かける
○あまへそだてた親五がわるい息子は夜毎のさと通ひ
〇とめてほしさに逃出す客がとらわれるよにはしつてく
○朝の払の出来ない客が貧すりやどんまでとめられた
○たとへからすにつつかすとても権兵衛見たよな客はいや
○只事ならんといそいで行けば文の文句の十分一
○しぼりや油のとれそな客と手あしからんで引しめる
○船の破損でお客の棹がいたんでをれたる鼻柱
○ゆびを切ツても血の足らぬ客いつそましかよ手をきるが
○舌でぬらした封じの中は金を吸とる手管文
〇ころすあくびの涙を客は実にうけ出す質の札
〇孫見たやうなるおゝ(ちよぼ)にまけて二階へあがつた茶●(カネヘン+「丸」)客
〇最はや無心の下つくろひと見てとるお客の逃支度
〇娼妓が舟ならのりてはお客そこで仲居がかぢをとる
〇とめる振りして後ろへ廻り舌でおし出す客の脊な
○むかひと聞より未練が先へたてどたたれぬ鼻毛客
○酒と色とでくらした果は身代か限りで二本杖
○しぼりとられたそのあかつきの鐘に廓をつき出され
○三味も芸者も引かした客が今は人力引て居る
○客をあしらふ商売がらに泣くも笑ふも身の元手
○地蔵顔して焚たる線香えんま顔して出す払
○をしがるお客に数/\とつた金の冥加がおそろしい
○あの客ならばと入尺つもりはな毛の長さの無心状
○のめやうたへの廓の栄華夢の間に/\五十円
○辛気くささも蒲団へこかす棚の達磨のやうな客
○人言いふたら影さすたとへそしる程来るいやな客
○はやる座敷のよい赤貝は湯がいで二度めの客へ出し
○仕入手紙のお近い内をたがはず出て来る馬鹿な客
○世事や口舌で流るる淀の舟底枕で無心いふ
○おもやはかない人間わづか五寸ばかりを入れたがる
○間夫にけられた手追ひの猫が客の座しきをあれ廻る
○金気のありそなお客はみんな鉄瓶みたよな顔ばかり
○廓戻りの戸たたく音のひとつ/\にさむる酔
○客は啌でも誠にするが間夫は誠を啌にする
○間夫もお客も来ぬ夜は一人り罪の無い帯といて寝る
○猫といふのももうけふ限り松魚もらふて引祝ひ
○おつれがわるいのおだてるなどとわが子にひいきも親の慈悲



四季情歌林 全
                   志賀廼家編輯〔明治十八年〕
                               〔全部紹介〕
(この書は随分贅沢な製本ではあるけれど、文句に振仮名が無く、木版の文字の読みにくい所が少くない、従つて選者の誤記も少くないかも知れぬ)


花園の下臥より石山の火垂にうかれ粟津の青嵐に矢橋の帆影をながめ堅田の雁の玉章に三井の月の顔をまちむかふ鏡の山のはに比良の雪の肌をうつす其折ふしのさま/゛\を月毎に集て瀬田の長はし長く流れ大川の水絶ず世間をみづうみの人にもくまさんとさざ浪の志賀の屋のぬしが唐崎の松の一粒撰にせしはなにはの梅のすきものか詞の花より結とめし実もあるこれの四季情歌林なり

花鳥情史露香
正月之部
〇山も笑うふて居るお天気にあした来るとの啌はじめ
〇茶の間で初夢見る言号座しきは年酒の不礼講
○双ツまくらが昼出てゐても常程目だたぬまつの内
○匂ひ莨の年玉悟りそら吹く煙りの角はし女
○好な似顔に菊石が出来て娘が羽子板買かへる
○雑煮の焚様を隣で赤いたすき輪にして尋ねてる
○礼者もさし足して門へ出る雨は若世の寐正月
○鳥追ひぐらゐでごまかして置く野夫な客には鴉まつ
〇三ツ続けて姫初めしたその朝の眼にはつかすみ
○咲戻る気で取る客の福引祝まで派手にする
○一寸お障りぬれ初めの傘かつた先問ふくちに骨
○年酒つづゐて戻りの遅さ癪も一しほいそがしい
○世帯□らし今朝若水の桶へ汲こむはつからす
〇年立かへるも母ゆゑ二度のくろふ眉毛の油煙墨
〇表家根から啼初からす今朝は日頃のうらにきく
〇子の日遊びの最上なぞと松をあげての大愉快
○床に居続けする福寿草丈けが家方へ餝り花
○まよひ種蒔く夢見て猫の恋も寐ざめの耳さはり
○好と居籠る夜のうれしさは戎さんにも増す笑顔
○惚た互ひが去ぬ去なさぬと難波の綱引帯でする
二月之部
○主しの嫌ひな初雷がわたしの為にはお仕合せ
○人が見かへる娘のそだち苗代時から水かげん
○ずつと初花から揚詰は見習ひ茶屋での言号
○森の椿で赤いと計り手折り人はない二ツ市
○出代りさす下女相談かける角は旦那の腹えぐり
○小松封じに早蕨書てそつとまがきに握らせる
○自前線香も逢ふ嬉しさにあつい辛抱の二日灸
○こぼれ懸つて情のない姿添寐もはづかし蟇
○居続け日和を見て居る庭へとんで出て来た蝶双ツ
○垣を身軽にこす蝶詠め娘はしんきな顔してる
○彼岸かこ付け来る仏客奥もにかいも花降らす
○雲も天王寺参りをすると晴れて彼岸の女夫連れ
○雑魚寐にふられて客涅槃像猫の顔さへ見えぬ寐間
三月之部
○雛に似顔の愛敬むすめ眉は今宵の月かたち
○市松かと見りや浮名の人に似た子抱てるませ娘
○今朝は別れの霜見ぬ暖さ好は夕べの草臥寐
○長ひ客の座洩れ出て吐息ほつと弥生の山へ吹く
○衣裳の立かへ手元に家も撰で居られぬ夏隣
○憧れ文書く硯の海も汐干とたつたる長文句
○遂て嬉しい今宵となつてけふといふ日が暮かねる
○やつれ姿も田舎に目立ツ預り娘に茶摘さす
○そやし色しは互につめる指先の利く茶つみ連れ
○素振り察して庭掃に行花のあるじは粋の果
○鷹の巣に入る果報とともに羽を延ばしてる番ひ鳶
○行燈ひく頃馴染の茶屋へ往てはこつそり呼子鳥
○姉の意気地に的外さじと舞ふも小腕に小弓引
三月渡り之部
〇髪もいとはず冠ツた夜着で鐘を霞ます夜明かた
〇後ロ髪引く別れを乗せてにくや車屋雲かすみ
○好の去ぬ処コ見かけて粋な庭へ春雨足おろす
○風に品よき女房の柳花にあらしの苦は知らぬ
○梅に根〆に椿の双たり柳/\で日を送る
○何分ン私し等薮鶯としたから囀る手どり者
四月之部
○翌日添はれる今夜と成ツて明安き夜の明をまつ
○早夏拵らへ建具も新らでうれしい世帯が見え透る
○門に生け垣卯の花の雪積るおもひの出養生
○閑静でよろしと葉桜狩りに花は持参の客が来る
○娘一ト木で世に名取り艸片店怪しい牡丹餅や
○浮気男に吹く恋風は芥子の花より便りない
○好とも言ひ兼只筍で損んを仕た様な眼付する
○松前渡りの商売してる妾けの旦那はおも船頭
○口で得言はず悋気も鹿の筆におぼこひ袋角
○針の折れやら蚯蚓が出る嬶に紙入れ見せられぬ
○不如帰と嫌ひをせつくからすは勤めの時鳥
○ぱつと浮名がたつ鳥の後わるい処へ落し文
○籠に放れた老鶯が花にとぼしい勤めする
五月之部
○素根て聾になる名のり前へ耳をほぜくる五月雨
○留メ種尽たる今朝五日目の雨は此身の御神水
○鎧かぶとも錺ツた座しき仲人が其日の大将客
○恥かし眼元にちる紅の花顔の置場もない初会
○藻の花冠ツて居る間を青楼の二階で待てる狐付き
○丘目八目実に金銀花余所の見る眼に情が添ひ
○宵に情けの露もらし過ぎ菖蒲で八巻してる今朝
○店にしなべた六日の菖蒲青ひ顔して売れ残る
○預けられてる身の憂晴らし辻うらに聞く田植歌
○狙狩りするお客を迯す我に的ある雑魚寐の夜
○叩く戸口に飛び立ツ胸を押へて水鶏と親欺す
○情事で先黒火串に遣ふて客のふところ狩り尽くす
○寐顔照らさぬ行燈の火除け蚊屋にかけたる薄羽織
六月之部
○暑さわすれて枕にかした腕にくひ入る簟
○双ツまくらに力ラが入りてけふも日盛り夢で越す
○酒の泉に肴の山と積上ゲられてる万太郎
○色もくつきり実に冷しさの骨を見せたるあらひ髪
○便り聞たさ夕立凌ぎ寄ツた籬の庭で逢ふ
○今は浮気も実意にまけて麻に蓬の友稼ぎ
○よりと計りで届いた文は長い袂で綿の花
○干瓢むく様に男の帯を巻てもどいた拗強しらけ
〇添へる思案に智恵練雲雀苦労に一ト際立ツ抜ケ毛
○金子を餌にして鯖釣るやふな客に任す身生くさり
○好へ馳走に出す葛水に色眼とろりと仕た笑顔
○祇園会見たいとお客の鼻毛よみ/\宵山かけて居る
○客も程のふお渡り前とさし込み舞妓の貰ひ汐
三月渡り之部
○娘の血を吸ふ邪見な親が顔へすかしの●(ムシヘン+「厨」)釣らす
○昼寐の邪魔する横槌取ツて叩き付ケたる出来心
○咄しの宿借る此夏木立互ひに真昼の暑中
○おなじ泥水呑ム孑子の肥に成そな糠の汁
○此気味あるゆゑチト愼ミと腮で蠅追ふ真似をする
○くらひ処へ気付カぬ妹蛍ばかりを追ふて行く
七月之部
〇二百十日の風程いとふ親の眼を洩る早稲娘
○久しぶり逢や敷居の溝も天の川越す気の勇み
○押へられたる眼の手をとれば好で身に染ム程嬉し
○願ひの糸程細ツた腕によりをかけてる恋の意地
○捨る団扇に糸屑のせて帰り待ツ間の放解もの
○牛追ふて来る好待て居る織姫気取りの在娘メ
〇木槿折る人咎めも出来ず晴ぬたがひの仮り住居
○初会愛想も未だ若たばこ吸付ケて出す手が震ふ
○夜通ふし冷たい尻抱イて居る客は在所で西瓜番
○更て未だ来ぬ人待虫がおもふ心の底に啼く
○むしの声よりやさしい声で露持ツ下艸分ケさせる
○疳の薬と螽を買ふた親は娘の痩知らぬ
○廻り燈籠で妹を釣ツてはしり読ミするくらひ文
八月之部
○寄り添ふ手蔓に肌寒ムかれとすねた思ひは同じ寐間
○晴れぬ双人りが為には雨の月に一トしほ情がまさる
○寐よとはあんまり雅も粋もない今宵は月じやと客外す
○月にうかれた鴉のぞめき適の添寐をおびやかす
○遊ぶ枕に寐ぐるし長夜粋の果ほど愚痴が出る
〇はぎのあたりを吹まくられて娘野分に上気がほ
○姉が手入レをする白粉の花はつぼみの愛盛り
〇二九の妹に姉三七の花が二重に咲分ケる
○男珍らし椎茸たぼはひぼしに成つても否らしい
○添ふて嬉しいこころを植る花も実でさく梅もどき
○否応言ふ間も無イ午房引金子の力ラのつよい客
○茶瓶親仁を取巻く芸妓宇治の花園じやと洒落る
○吸付ケ莨の花買ふて居る野夫なお客のふられ前ヘ
〇息キがこもつて漆の花の露が浮きな新まくら
○親も異見の舌切り替へてすてる娘の放し鳥
○異見の籠ぬけ懐ロに入る色鳥助ケる伯母の慈悲
○癪を治メて蛇穴に入るやふにぬる/\まむし指
○出刃の切れ味じ太刀魚で見て始末光らす新世帯
○晴れて添ふたら私しの役と真身に聞てる遠碪
○宵の新酒が残ツてあると言ひツヽ別れに頭痛叩く
九月之部
○月の名残と又石山を居続け手形に二度遣ふ
○露霜ふみ分け心の願ひぬり下駄脱でる堂の裏手
○添ふに近づく夜毎の寐覚メ月は算へる指で欠く
○小杉で額の山粧ふてるはいり連れた寐間の傍
○愚痴な思ひに最ふかへさぬ気雨と詠メた露時雨
○縁ンはゆりても契りは後の雛に情の似た云号
○暑なし寒なし此九月尽抔と言ツヽ引寄る
○世帯苦労は白歯で襷キ鬼灯鳴らして米洗ふ
○道に嗜み色には晩稲ふかい思案が奥にある
○此方は晩稻と鎌入れかへて娘の養子が母口説
○鏡み詠メて身甲斐性恥じる刺ツた眉毛のひつじ生へ
○恩は布団に仕て着る世帯伯母に貰ふた今年綿
○花より似顔に娘は現ツ人形にも罪つくり菊
○情夫へ一途に実が入り過てうら枯仕て居る金子の蔓
○剥いた蜜柑の筋迄とつて実さへ半分割ツて出す
○権兵衛こんにやく花売た丈内証の男にちらされる
○抓きむしられてもまだ口説てるつらの厚さは九年母
○色増しや紅葉も散るとかいふて否なお客を遠ざける
○お渡りする迄手附に一寸北山祭りと宵祝ひ
○肌と肌とをあたため酒の燗ンを待間に癪酔す
三月渡り之部
○相撲気取りでかわずを掛ケりや鴉が寐耳へ水入れる
〇門トを通りに来た夕暮は笑顔にたなびく鰯雲
○すねる男の足からむ足布団取ツたら松に蔦
○庇持ツ夜道に立ツてる案山子どきよふすへてる籠の鳥
○客の遣ひ人見込ンでお茶亭荒鷹無理から抱寐さす
○通ひ車も深艸の轍ト踏んでるお客の片鶉
十月之部
○昼の契りは短き小春まくら元から日がくれる
○鳥渡火なしに暖もつて居る明がた炬燵の出来ごころ
○時雨宿りの場所よふ過て傘も借られぬ気のとがめ
○番船気取りで我レおとらじとざこ寐に互の首尾競ふ
○寡もまけん気亥の子の餅を余所へ一ト臼搗にゆく
○同じ思ひは此雪の下タ鮑に苦労の根をおろす
〇二度の勤は元木に咲かす腹が一ツの復り花
〇裏屋の娘に衣裳が過る柊の花見る心地
〇花から戻つて苦をわすれ咲好と口舌の七重八重
〇青楼の払は達磨忌過と断るおあしのない坊主
〇金毘羅風程あれてる嚊をなだめるお祭りや十日振
〇添へる嬉しさ極りが付イて五夜を十夜に逢延す
〇親のゆるさぬ間にお取越し言号ある惚た同士
十一月之部
○冬至に南瓜喰てゐる親仁嚊は娘のやふな年
○年の廻りで縁ン延びし身は暦売りさへなつかしい
○顔見世してから病付ク娘乳母が芝居を仕て逢す
○からい中にも又粋の味ぢ伯父の異見は新生姜
○錦まとふて故郷の人に出逢ふ二階の小忌衣
〇三味は一座で手に採物の歌に剣ある色かたき
○余る栄花も気にくもり勝チ日蔭鬘と人の口
〇流石廓の童女御覧男馴れたるませおだて
○ポチの儲蓄も仕て鏡台の上にちいさい蔵祭り
○甲子祭りの夜は移り気に白い太股見せる嫁
〇角にも情事ある粋山の神遊び歌問ふ時代三絃
○妹後さし三人ン転ろ寐吹革祭りの式をする
○余所でお祭りばかりと胸にお火焚して居る山の神
十二月之部
○咄し途切て湯豆腐氷る浮気で酔たるむかひ酒
○神へ寒垢離費す水の恩ンは添ふたら湯で返す
○現世の地獄を買ふてる伴僧和尚の手前は寒念仏
○まくら並べて一たん帯も解な除夜でも気が濟ぬ
○廓で習ふた嗜み曠と柳活てる除夜のひま
○三とせ添ふてもまだ何処やらに垢のぬけたる煤払
○憎い一ト間となる日も極り姿をおだてる煤はらひ
〇煤はく半ばも折には鏡のぞく娘は虫のわざ
○男勝りと煤掃の日に片髭はやしてぞめかれた
○憎い女子はまつこの通り抔となよしの頭さす
○妾と合腹ラ嫁勝の餅小豆も大粒撰つて遣る
○ついでにからすのとまらぬやふと庭の松にも豆を打
○爰にすむ鬼迯よと洒落て乳豆打する母の胸
○暖ひふところ手を入れ合ふてぞめき半分年の市
○なさけ売る身も年取り物をつめる添寝の情ケなき
○古ひ暦に巻込む浮名青み新らし眉のあと
〇引くと極ツて役場へ手数是まで稼イだ札納
〇親は行年開ケて入レる惚た同士の不釣り合い
〇弟にしてある子が口走り年の尾ヲ出す二度の褄
〇宝船売る娘のかげで上荷の船頭やめる親
〇好と詫敷き山家の住居添へる添へぬの岡見する
○年越す手当テは鼻毛の人にさして春着は余所の紋
○門から手招きする掛取りに親のゆび見せてる若旦那
○散財納メと野施行こころ狐に捨揚ケ蒔くお客
○頤括ツて喰ふ塩鰤が好にかまれた舌にしむ
○嫁の眉毛も最ふ三日月で置けぬ師走の盈れもの
○情事で丸めた勤がよふて目立つ廓の衣裳着せ
三月渡り之部
○家根におく霜花とも思ふころは莟のひらく閨
○見越しの松ある雪の戸そつと明ケて二ツの咳ばらひ
○雪の寸ン見て手形はよしと去ナぬ思案につい転ぶ
○思ひつめたる気の妹がりにゆくや吹雪も無頓着
○吹雪いとはず信心すると誉る親とは苦が違ふ
〇義理へふり向く脊を腹に替へ金子のつめた身肌に染む
〇男寐取ツて鎌研だ様な冬の月夜を去ぬ怖さ
〇別れとむない気が行合ふて未練ンに寐直る寒き朝
○あせる籬に猶気おくれて袖で巾てる塗炉縁
○足は曖昧爪弾き肴こたつは寐酒の女夫膳
○生木裂れて在処の住居榾で泪だの顔あぶる
○送ツて戻りの嵐が皸となつて笑顔へ糠が染ム
○好に曠する大事の髪と迎ゲてあけさす炭俵
○庭の景に添ふ鴛鴦はまだ眼には毒らし今年尼
○姉貴どふじやと戻た粋に嚊もあきれる千鳥足
○河豚になつてる下女白眼付ケて毒に当ツた嚊の顔
○足は網代で一座も水も寐る迄無言の魚心
○角も頭巾へ世話しふ包み悪性の後追ふ見へ隠れ
○是も黄金の欠ケじやと足袋を真綿で巾てる蝋の屑
○金子の重みで客乗せた腹海鼠腸喰べてる心持チ
○あたりさはりも人目の火鉢灰がものいふ怪し中
〇待草臥てもまだ埋火にせにや鉄瓶も泣て居る
〇添へにや斯ふよと身を溜池へ我レにも小凄ひ氷面鏡
○花を咲かした木も冬木立女房は詠めてふさいでる
○髭の頬ずりに尻むけ種は牛の匂ひと葱の香ざ
○憂を着錺る身は籠の鳥親は在処で網代守り
○大きなからだに鯨の目付き見ても否らし黒井イ嚊
追加
○義理に抱かれて寐た暁は癪は鴉が押し勝手

自跋
日月互に出入して四季を感ずる天地間黄色白皙鳥獣草木あらゆる姿はかはれども変らぬものは色の道是ぞ和親の極意にて其愛情を有のまゝうたふ俗語に雅もこもる我情歌の文字の数エビシも丁度二十六翻訳自在の世の中なれば此一節も輸出して夜会の宴曲踏舞の唱歌にも□にはなさんと各自が思想を発せし册子に古曾
志賀廼家主人誌



開化都々一
                    〔明治二十年〕
                              〔全部紹介〕
○ぜひも内務とかくしてゐれどしれりや外務のわるいこと
○ぬしは宮内のおつとめなれどちじんときいてはきがもめる
○わかれたおひとのしやしんをみてはふさぐこころがはづかしい
○ふかくかくしてしらさぬなかをさぐりだされてしんぶんし
○しろいめねこがなまづにじやれてひげにひかれてごんのかみ
〇しのびあいしもむかしとなつて二とうれんぐわのらくずまゐ
○ヲヤとたがひにかほ見たばかりたがひにじようきのすれちがひ
○うつくしづくならよしてもおくれ五しきがらすはわれやすい
○へんせきせぬうちやかたみがせまいはやくきまりがつけばよい
○かほ見るばかりじやこころがすまぬうぬぼれかがみじやあるまいし
○しやふはなんじふあいのりぐるまほれたどうしのちはぐるひ
○わかれたおひととのりあいばしやでヲヤとこあからむかほとかほ
○こひのおもにをやまほどつんでみづにこがるるかはじようき
○こころせきたんじようきをたくも□□□おまへがあるゆゑに
○もらつたしうぎはぎんかう紙へいうらにやゑびすのふくのかみ
○あかいてがらでやさしく見せてたうときおかたのごんのかみ
○うつすしやしんはすゑ/\までもはなれぬちかひのをさめがく
○しんでみらいとそりヤひらけないいきてじせつをまつがよい
○ちからそろへばふみいしさへもあげてゆるがすしもばしら
○こひのこんたんそつげふなしたぬしはうはきのなうてもの
○わたしやせいとでまだうひまなびぬしはやがくのくんだうし
○くるか/\とまんてるものをづぼんとこないはひどいひと
〇ぬしはかうもりわたしはとんびはなれがたないなかのよさ
○からかいづらかよアラにくらしいかんごまじりでよめぬふみ





大正十年六月十五日印刷
大正十年六月二十日発行
                      定価壱円九拾銭
不許複製
                  編 者 湯 朝 観 明
                  発行者 東京市牛込区横寺町四十三番地
                      後 藤 誠 雄
                  印刷者 東京市京橋区南鍛冶町五番地
                      牧 口 駒三郎
                  製本者 東京市京橋区西紺屋町十番地
                      福 神 和 三

発行所  東京市牛込区横寺町四十三
                  聚英閣
                    振替東京四七八六九番
                    電話番町四六二番
             牧口印刷所印行